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弱いコミュニケーションによる強いブランド構築

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弱いコミュニケーションによる強いブランド構築
51
弱いコミュニケーションによる強いブランド構築
―テレビCMのブランデッドコンテンツに見る「弱いコミュニケーション」効果―
Advertising Brand Image Building by Using Weak Communication
新 井 恭 子・笹 本 涼 子
1. はじめに
テレビや YouTube などで視聴される映像 CM には、最後まで視聴しなければ何を
宣伝しているのか分からないものが多くある。中には、最後まで見ても何を宣伝して
いるか、はっきりしないものもある。例えば、アイルランドの大企業であるギネスビ
ールは毎年何本ものテレビ CM を放送しているが、今年のセントパトリックデーのた
めに作られた CM は非常に面白く話題になった。視聴者は、最初は、イギリスやアイ
ルランドで人気の牧羊犬の競技の様子だと思って見ているが、羊の代わりに人間がボ
ーダーコリーに追い掛け回され思わず吹き出す。賢いボーダーコリーは草原にあるイ
ンドレストランやナイトクラブに行こうとする人間を追い立て、最後に見事に人間た
ちを柵の中に入れる。柵の中にはパブがあり、そこで人間たちがギネスをうれしそう
に飲むシーンが映り、最後に「Round up your mates for a Guinness on St. Patrick’s
(セントパトリックデーの 1 杯のギネスのために、あなたの友人を囲い込もう)
Day」
の文字が画面に表われる。ギネスビールのこのような CM は何度も世界的な広告コン
ペティションで受賞し、テレビの視聴者は毎年新しいギネスビール CM を楽しみにし
ている。
このように鑑賞に値するような、物語やドラマの面白さを持つテレビ CM は、他に
も多く作られているが、佐藤(2010)は、これらのテレビ CM は、ブランデッド・コ
ンテンツの役割を果たすものであると説明している。ブランデッドコンテンツとは、
「その表現自体が、コンテンツとしての魅力を持ち、なおかつブランドのメッセージ
をドライブする役目を果たしているもの」と規定している。
本稿の目的は、
そのようなブランデッドコンテンツの役割を持つテレビ CM(以下、
ブランドコンテンツ的 CM と呼ぶ)の広告コミュニケーション効果はどのようなもの
なのか、言語学のコミュニケーション理論である関連性理論の枠組みを用いて説明す
ることにある。まず、最初に、過去の関連性理論による広告研究の事例と、社会心理
学の「広告説得モデル」をレビューし、ブランデッドコンテンツ的 CM のコミュニケ
ーション受信者の認知的処理や広告コミュニケーション効果の説明が可能であるかを
検証する。次に、関連性理論の「弱いコミュニケーション(Weak Communication)
」
の概念を紹介し、この概念を使って、ブランデッドコンテンツ的 CM の広告コミュニ
ケーション効果がどのように受け手に伝わるのかの説明を試みる。最後に、
「弱いコミ
ュニケーション」が、ブランド構築のための広告コミュニケーション効果にどのよう
に貢献するかを考察する。
52
2. 過去の広告コミュニケーション効果の研究
2.1. 関連性理論による過去の広告分析例
過去に関連性理論の視点から、
広告を分析した研究は1990年代にいくつかあった。
代表的な研究は Tanaka(1995)と Forcevile(1996)である。
Tanaka(1995)は、ロラン・バルトを中心とした記号論による広告の分析をレビ
ューし、記号論では説明が不可能である、コンテクストによって変化する受信者が受
け取る意味を考慮した広告表現分析の重要性を主張した。Tanaka は言葉とイメージ
(写真、イラスト等)を含むプリンテッド・ポスターとビルボードを対象に、広告表
現の効果を関連性理論の枠組みの中で説明している。Tanaka の分析は、広告に表現
されている修辞学的表現をひとつひとつ分析したものであり、関連性理論の提唱当初
から行われていた文学の分析方法と同じであり、分析の対象を文学から広告に変えた
に過ぎないが、関連性理論によるコミュニケーション分析の新しい可能性を提案した
ものとしてその後の関連性理論を含む、語用論よる広告研究に大きく貢献している。
次に、Forcevill(1996)は、イメージによるメタファ(Visual metaphor)の概念
も用い、文字と同じように、広告に使用されるイメージは、言葉によるメタファの役
割を果たす場合があると考えた。例えば、洗剤の宣伝ポスターに青い空に白い洗濯物
は、良く落ちる洗濯洗剤のメタファとして作用している、というような分析を行なっ
ている。この考え方は、現在、Multimodality(言葉とイメージや音などの複数の媒
体を使ってメッセージを伝える効果など)の研究の基礎となっている。
しかし、両研究は、プリンテッド・ポスターとビルボードのような、単純なメディ
アを通しての広告発信のみを対象としているため、
テレビ・ラジオ、
2000 年代に入り、
新聞、
雑誌などのマルチメディアによる広告に加え、
インターネットを使った広告や、
複数の広告媒体を同時利用するクロスメディア広告戦略などの包括的な広告コミュニ
ケーション効果を説明できない。
現代の複合型の広告メディアを包括して、その広告コミュニケーション効果を考え
る場合、広告による情報伝達は、商品やブランドを「認識してもらう」
、
「好きになっ
てもらう」
、
「覚えてもらう」
、
「買ってもらう」というような、
「説得」の伝達目的を持
っていると言うことができるだろう。
「説得コミュニケーション」の一種と捉える必要
がある。関連性理論は認知語用論のひとつに数えられ、主に発話(文などの、会話の
一かたまり=命題)を受信者はどう解釈するかと言うことを中心に研究してきた。し
かし、関連性理論の中心概念である、関連性の原理は、人間のコミュニケーションに
かかわるすべての刺激(すべての知覚からの入力)に働く原理である。ゆえに、関連
性理論の枠組みでコミュニケーションを分析する場合、刺激を伝える媒体が何であっ
ても良い。この点で、複雑化した現代のマルチメディア、クロスメディアを使っての
コミュニケーション分析に適していると言うことができる。
2.2. 説得コミュニケーションのモデル
広告によるメッセージの伝達を「説得コミュニケーション」と捉えて、社会心理学
の理論を応用した広告研究の代表的なものに、
二重情報処理モデルがある。
その中で、
特にブランドに対する受け手の態度形成という視点から考案され、説得コミュニケー
53
3
ションを説
説明する「精緻化
化見込みモデル
ル(Elaboration Likelihood Model)に注目し
し
M
てみたい。
モデルの情報精査
査のための処理
理ルートである中
中枢ルートは、関
関連性理論によ
よ
図 1 のモ
る発話解釈
釈過程と似たルー
ートであると言
言うことができる
る。中枢ルートで
では、まず、
「情
情
報を処理す
する動機づけがあ
あるかが問われ
れ、
あれば、
次の情
情報を処理する能
能力があるか、
へ進む。能
能力があれば、そ
そこで認知的処
処理が行われ、支
支持か反論が強ければ、認知構
構
造が変化し
し、正または負の
の態度変化が起
起こるとしている
る。
図 1 仁科
科 2007 P94
図 1 精緻化
化見込みモデル:
:説得の中枢ルー
ートと周辺ルート
関連性理
理論では、解釈の
の動機づけは、受信者にとって
て処理労力に見合
合った認知効果
果
があるかど
どうか(=関連性
性)で判断され
れる。認知効果が
があるというのは
は、受信者の認
認
知環境が変
変化することであ
あり、これは精
精緻化見込みモデ
デルの認知構造の
の変化に値する
る
だろう。精
精緻化見込みモデ
デルでは、その情報処理のみで
で、受信者の態度
度変容が起こる
る
とされてい
いるが、受信者は
は既に保持していた態度は示さ
されていない。
関連性理
理論による態度変
変容は、態度を心
心的表示と考え
えると、1 つの想定
定と捉えれば、
次の図 2 のように説明され
の
れる。
54
図 2 筆者作成
筆
図2 認
認知環境における想定の改変の
のイメージ図
図 2 にあ
あるようにまず、受信者の認知環
環境の中に、ある
る刺激を処理す
する(発話解釈)
ために、受
受信者の知覚、記
記憶、推論からコ
コンテクスト的
的想定(assump
ら
ption)が集めら
れ、発話解
解釈の前提として
て働く。そのコンテクスト的想
想定の 1 つが受信
信者の態度に関
関
する想定で
であれば、入って
てきた想定によって、改変され
れるか、想定が前
前提となって、
推論から結
結論(含意)が生
生まれる。出力された想定が、精緻化見込みモ
モデルで示され
れ
ている「指
指示」
、
「反論」
、
態度の想定と変化
化するのである。
。例えば、消費
費
「中立」への態
者のブラン
ンドに対する態度
度に関して、
「私は○○社の製品
私
品が好きである」
」
という想定と、
、
「私は□□
□というタレント
トは嫌いである」と言う想定が
があったとしよう。そこに、
「○
○
○社の製品
品は□□というタ
タレントが愛用している」とい
いう情報の入力が
があれば、受信
信
者は認知環
環境の中でその情
情報を処理し、
「私は□□と言う
うタレントが嫌
嫌いだから、○○
○
社の製品も
もきらいになった
た」または、
「私
私と同じ〇〇社の
の製品が好きな□□というタレ
レ
ントも好き
きになった」と態
態度を変化させ
せる可能性がある
るわけである。
説明によると情報
報を処理するかどうかは、受信
信
y(2011)の説
Rucker, Brinol & Petty
的関連性、必要性
性、認知(知識
識)のあるなしで
で決定され、それ
れらがない場合
合
者の個人的
は周辺的処
処理へ送られ、弱
弱い態度変化か
か全く態度の変化
化が起きないとされている。こ
こ
の処理によ
よると、
「何を宣
宣伝しているのか
か分からいブランドコンテンツ
ツ型 CM には、
個人的関連
連性、必要性、認
認知などの動機
機づけがないため
め、周辺ルート処
処理に送られ、
弱い態度変
変化か変化なしの
の結果となる。また、精緻化見
見込みモデルのように、人間の
の
態度は、常に、
「指示」
、
「反
反論」
、
「中立」と分類すること
と
はできなのでは
はないだろうか。
。
あ好き」や、
「どち
ちらかというと
とはいやだ」のよ
ような態度もあるだろう。その
の
「まあまあ
ような曖昧
昧性は矢印で有無
無を表すようなモデルでは説明
明できないとも言
言うことができ
き
るであろう。
55
また、先の例ように、その製品を「広告している」や、
「使っている」タレントの情
報などは、
精緻化見込みモデルでは、
その商品の個人的関連性に含まれるのかどうか、
含まれないとすれば、周辺的ルートで処理されるのか、判断が難しい。もし、あるの
は、そのタレントに関する知識だけで、商品そのものの知識がないとすれば、中枢ル
ートへ行く「能力」なしとされ、その処理は周辺ルートへ送られてしまう。しかし、
現実的に考えてみれば、いくらその製品の性能が良く、機能性抜群だと認識していて
も(つまり中枢ルートで処理しても)好きなタレントが広告しているという理由で態
度を変えることもある。
関連性理論は言語学の理論であるため、心理学の理論のように、周辺ルートを想定
できないが、もし、受信者の感情が作用する周辺ルートがあるとしたら、それらのル
ートでの処理は同時に行われ、複雑に相互作用して態度の変化に至ると考えた方が、
実際の態度変容を捉えることができるのではないだろうか。
2.3. 説得コミュニケーションモデル
Taillard(2000)は、前節で述べたような問題、態度を変化させる要素としての感
情(emotion)を考慮し、社会心理学と関連性理論を融合させて「説得コミュニケー
ションモデル」を考案した。つまり、認知的処理は関連性理論的解釈過程で説明し、
感情的処理を精緻化見込みモデルで説明しようとしたのである。その結果、非常に複
雑なモデルを考案するに至った。
(Taillard 2000 参照)
Taillard のモデルの注目すべき点は、広告を説得コミュニケーションの一種と捉え、
発信者の「説得意図」がどのよう受信者に伝わるかについて考察したことにあるだろ
う。関連性理論の「伝達の原理」は、コミュニケーションの前提を定義しており、発
話解釈は送信者に情報意図を持っていることと、そのことを知らせる伝達意図の両方
がある場合に成功するとしたものである。情報意図は、何かの情報を受信者に伝えよ
うとする意図であり、伝達意図は、送信者がその情報意図を持っていることを受信者
と相互確認をしようとする意図である。例えばある選挙の候補者が街頭演説を大声で
行っているとしよう。通行人の中には、まったくそれを無視して通り過ぎる人がいる
だろう。その候補者は自分が持つ政治に対する理想などの情報を伝えたいという情報
意図を持っているが、通行人でその演説を無視している人たちには、その候補者が情
報意図を持っていることを相互確認するに至っていない。1 対 1 の会話では、この両
方の意図を確認することが容易であるが、1 対多数の場合、その演説で認知効果が得
られると考える通行人は寄って来て、聞こうとし、そういう受信者に限り、候補者は
情報意図を持っていることを相互確認が可能になる。
広告のコミュニケーションも、ほとんどが、この街頭演説のように、発信者 1 名、
受信者多数である。そのため、Taillard のモデルは、まず、最初にその情報意図に気
づくかどうかで 2 つの道に分かれている。つまりそれに気づくことが伝達意図の確認
となる。次の分岐点は、
「説得意図(persuasive intention)
」に気づくか、気づかない
である。説得意図に気づけば、精緻化見込みモデルの中心的ルートと周辺的ルートに
当たる、組織的処理ルートと発見的処理ルートへ向かう。しかし問題なのは、人は広
告を最初に見たとき、この広告主の「説得意図」に必ず気づくであろうか。最初に説
56
得意図の有
有無についての判
判断をするだろうか。特に、こ
この研究で問題としている「何
何
を宣伝して
ている最後までわ
わからないテレ
レビ CM」をこの
のモデルで説明す
すれば、確実な
な
説得意図に
に気づくか、気づ
づかないかの分
分かれ道で、例え
えばブランドを認
認知して欲しい
い
などという、
説得意図に気
気づかれることな
なく普通の解釈過
過程を通って行
行くことになる。
。
説得意図は最初に
に気づくことがあれば、途中で
で気づくこともあ
あり、最後に分
分
広告主の説
かる場合も
もある。このモデ
デルでは、実際
際の広告受信者の
の解釈過程を表していないこと
と
になる。
2.4. 説得
得意図とは何か
英語で peersuade(説得す
得する)という動
動詞は、目的語で
である「誰々に、何かをしても
も
らう」とい
いう意味で使われ
れる。したがって、その場合の
の説得意図というのは、ブラン
ン
ドに関して
ては、
「注目してもらいたい」
「認
認識してもらい
いたい」
「興味を持
持ってもらいた
た
い」
「好きに
になってもらい
いたい」
「記憶し
してもらいたい」などという説得
得意図を持って
て
いると考え
えられる。
図 3 筆者作成
図 3 説得コミュニケ
ケーションにおけるブランド広
広告メッセージの
の解釈過程
これらの
の説得意図は、実
実際には、解釈
釈前に気づくこと
ともあれば、途中で気づくこと
と
もある。ま
また、最後まで気
気がつかないこともあるだろう
う。情報を発信す
する時点で受信
信
者に気づか
かれる情報意図と
と伝達意図と説
説得意図は異なる
る認知レベルにあ
あると考えられ
れ
ないであろ
ろうか。これまで
で紹介したモデ
デルのように、受
受信者の各時点で
での判断を解釈
釈
の分岐点に
にするのではなく
く、関連性理論
論の枠組みを使っ
って、図 3 のような説得コミュ
ュ
57
ニケーションにおける広告メッセージの解釈過程の図を描くことができる。
説得コミュニケーションは、普通の発話解釈と同じ情報処理がされるが、ブランド
構築の場合は、広告主のブランドに「注意を向けてもらいたい」
、
「興味を持ってもら
いたい」
、
「記憶してもらいたい」というような説得意図が解釈過程のどこかで伝われ
ば、説得意図の達成となる。説得コミュニケーションは、複雑なモデルで説明しなく
ても、図 1 のように、受信者の認知環境の改変としての態度を表すコンテクスト的想
定の変化と、
図 3 のような広告メッセージの解釈過程を描くことで説明が可能である。
3. ブランドイメージ構築への弱いコミュニケーション効果
3.1. コミュニケーションの強弱
Wilson & Sperber(1995)には、コミュニケーションの強弱について次のように書い
ている。
「命題は発話によって強くも弱くも含意される。発話自体によって生まれた関連性
の期待を満足させる解釈にたどり着くために、その回復が不可欠であれば、それは強
い含意(または強い推意)である。もしその回復が期待された方法で関連性がある一
つの解釈の構築を使って助けるだけで、それ自体は不可欠でなければ、
(なぜなら発話
は同じようないくらかの可能な推意がありそうであるため)そのうちのどれでも良い
ならば、それは弱く含意されている。
」
(著者訳 Wilson & Sperber 2002: P269)
関連性理論では、人は 1 つの発話を解釈する際、関連性(=解釈労力に見合った認
知効果)への期待が満足するまで解釈を続ける、と考えられている。言い換えると、
受信者にとって認知効果が十分得られたと感じた時点で解釈をやめるということであ
る。その際、その発話意味が一つで関連性への期待が満足されれば、その意味は強く
伝えられているが、候補が複数ある場合は、弱く伝えられているのである。
「推意」は、
文字通りの意味(表意と呼ぶ、以下「表意」
)以外に聞き手に伝わる意味のことを言う。
例えば、
「映画を見に行こうよ」と言われて「明日、テストなんだ」と返事をすること
がある。
「明日、テストなんだ」という返事は「映画を見に行けない」を意味している。
このような間接的に伝えられる意味を「推意」と呼んでいる。この意味は発話解釈を
研究する際に非常に重要である。人は言いたいことをわざと遠回しに言うことが多い
からである。
次の 2 つの広告のキャッチコピーの例で考えてみよう。
(1)
http://souda-kyoto.jp/campaign/index.html
」
(2) 「紅葉は、旅の入り口にすぎませんでした。
http://mb.softbank.jp/mb/campaign/
58
「強い命
命題が含意される
る」というのは
は、その発話の表
表意も推意も1つ
つであり、はっ
っ
きりと受信
信者に命題内容が
が伝わる場合のことを言う。(1
っ
1)のキャッチフレーズは、はっ
きりと伝え
えたい命題「使い
い放題で通話料
料が 1980 円」が
が 1 つである。そ
それに比べ、美
美
しい京都の
の紅葉の写真に書
書かれている(2))のキャッチコピ
ピーはどうだろ
ろうか。
「紅葉は、
、
旅の入り口
口にすぎませんで
でした」という文
文には、
「京都に
には、紅葉をはじめとして美し
し
い景色が待
待っている」や「紅葉より、も
もっと素晴らしい
い景色が待って
ている」または、
、
「京都を旅
旅行すると、まず
ず紅葉を鑑賞で
でき、他の景色、料理、まだまだ
だ楽しめること
と
がたくさん
んある。
」など、多
多くの弱い推意
意を読み取ること
とができる。これらは、はっき
き
りはしない
いが、広告主が伝
伝えたいことを「弱く」
、しかし
し「多く」伝えている。このよ
よ
うなコミュ
ュニケーション全
全般を関連性理
理論では弱いコミ
ミュニケーションと呼んでいる
る。
3.2. ブランドイメージ構
構築における態度
度変容
広告メッ
ッセージによるブ
ブランドイメー
ージに関する態度
度変容は、第 2 節の図
節
し
2 で示し
たように、認知効果つまり
り、最初にあったブランドにつ
ついての想定に変
変化があった場
場
受信者の想定の変化を付け加え
え、より明確にした図が図 4 で
合である。態度に関する受
ある。
図 4 筆者作成
図 4 ブランドイメー
ージ構築のための広告メッセー
ージの解釈過程と
と態度変容
ブランド
ドイメージ構築の
のための CM に、
に テレビという
う媒体を使う場
場合、前述したよ
よ
うにひと塊
塊の情報、コンテ
テンツとして見
見る必要があり、また、そのコンテンツは何度
度
59
9
も繰り返し
し受信者に視聴さ
されるという特
特徴を持っている
る。図 4 で示した
た解釈過程が何
何
度も繰り返
返されると考えな
なければならない。認知環境の
の変化を表した図
図2の現象が何
何
度も繰り返
返されることにな
なる。しかし、何度も同じ
何
を受信者は見
ようとするだろ
ろ
M
CM
うか。関連
連性理論の説明に
によると、人は
は「認知効果があ
ある」と思う情報
報のみに注目を
を
する。認知
知効果は認知環境
境の変化がなけ
ければならないの
ので、同じ情報を繰り返し受信
信
すれば、受
受信者がすでに持
持っている想定
定に変化がなくな
なり注意を向けな
なくなる。最初
初
の数回は初
初回に聞き漏らし
した(見損なった)情報がある
るかもしれないが
が、4 度、5 度
となると、
認
認知効果がない
い情報を無理やり
り与えられ、
不快
快に思い始めるか
かもしれない。
これでは、ブランドイメー
ージに不快感を与えてしまう。しかし、先に述
述べた「ブラン
ン
役割を果たす CM
見たくなり、視聴
聴することによ
よ
デッド・コンテンツ」の役
M は、何度も見
いと感じることも
もある。これは、
、ブランデッド
ド・コンテンツ的
的 CM が弱いコ
コ
って楽しい
ミュニケー
ーションによって
て、
ブランドイメ
メージを構築しているからでは
はないだろうか。
。
3.3. ブランド・コンテン
ンツの役割を果た
たす CM の、ブラ
ランドイメージへ
への貢献
図 2 を基
基に、繰り返し起
起きる解釈過程
程を表現する図 5 のようになるだろう。
図 5 筆者
者作成
図 5 弱い
いコミュニケーションによる認
認知環境の変化
弱いコミュニケーション
ンは、1 つの強
強いメッセージを
を伝えるのではな
なく、多くの弱
弱
ージを伝えるため
め、受信者は繰
繰り返し視聴して
てもその都度新しいメッセージ
ジ
いメッセー
を受け取る
る(推論する)こと
とができる。欧米
米で放送されて
て話題になり広告
告賞もとったト
ト
ヨタの「Human Touch」の TVCM を例
例にとってみよう。
(http://ww
参照)
ww.advertolog.ccom/brands/参
男性が駐車して
てあった車に乗る
るところから始ま
まる。乗り込む
む
CM は、東京の街角で男
ーが全てスーツを
を着た日本人男性であり、シー
ートベルトは彼らの腕である。
とソファー
床ではエア
アバックを用意す
する男性たちが座
座っている。ス
スピーカーは人の
の顔であり、音
音
60
楽はその顔を出している人が口笛を吹く。雨が降れば、ゴーグルをした男性がワイパ
ーを手で動かす。トランクの中にはライトを持った人が中を照らしてくれる。自動車
の様々な機能が人間によって果たされているという、非常に面白い CM である。初め
て CM を見る人は、最後に「TOYOTA, Human Touch」の文字が画面に表われて、
「ああ、そういう意味か」と分かるようになっている。
つまり自動車という機械にも、トヨタは人の感触、温かみ、心使いなどを感じるこ
とができると言う意味での「Human Touch」なのだなとわかる。この CM は日本で
は YOU TUBE で何度も再生され、
「海外の面白い CM」に選ばれている。
この CM は口笛の音楽だけが使用され、ナレーションもなく、最後の文字以外は、
文字も一切使われていない。特に強い 1 つのメッセージを伝えているのではなく、多
くの弱いメッセージが伝わってくる。
「トヨタの車は、人にやさしい」
「トヨタの車の
機能は人がやっているように細やか」
「トヨタの車は人の手によって作られている」な
ど、弱いメッセージをたくさん伝えている。これらのメッセージが徐々に受信者の認
知環境にある態度に関する想定を少しずつ変革させていく。
「トヨタ印象は良くない」
という想定がある受信者でも、この CM を何度も見て行くうちに、
「トヨタの車は人
間的で温かい」というイメージに徐々に変化する可能性が高い。
さらに、非常に意表を突く映像であるので、SF 映画を見ているようで非常に面白
いため何度も見たくなる。見るたびに弱いメッセージを受け取り、認知環境が変化し
続ける。このような効果があるCMがブランデッドコンテンツ型 CM であるのではな
いかと考える。弱いコミュニケーションにより伝えられたメッセージは、Aaker(1991)
の言う、ブランド資産の中で、特に「ブランドロイヤリティ」
、
「ブランド認知」
、
「ブ
ランド連想」に特に、よく働きかけると考える。
3.4. 弱いコミュニケーションの広告コミュニケーション効果
最後に、弱いコミュニケーションがどのように広告コミュニケーション効果を生み
出すか考えてみたい。広告コミュニケーション効果は、広告後の売上高などで計られ
る効果とは異なり、広告の心的効果とも考えることができる。広告階層モデルなどで
表現される広告コミュニケーション効果は、
「注意をひく」
「興味を持つ」
「感情が喚起
される」
「記憶される」などの効果として表すことができる。商品の広告であれば、こ
の心的効果が行動(購入)につながると考えられる。
「コミュニケーションの伝達が弱
Wilson (2012)には、文学作品と読者について、
くなればなるほど、読者側の意味の読み取りに対する責任は大きくなる」と述べてい
る。つまり、文学作品の読者は作家が弱く伝達した意味(間接的表現)の意味を自分
の責任で読み取る。本当は作家はそれを意図していなかったかもしれないが、読者は
好んで多くの意味を読みとろうとする。読者の想像力が強ければ強いほど、意味は作
家が意図したものから離れて行く。そのような現象を説明している。
ブランドコンテンツ型 CM を「面白い」と思う受信者には、このような文学作品の
読者的受信者が多いと考えられる。その受信者の態度と行為と広告コミュニケーショ
ン効果をまとめると次の図 6 のようになるだろう。
ブランドコンテンツ型 CM は、
「何を言いたいのか分からない」ことで、解釈をす
61
1
れば、認知効
効果があるはず
ずだと、受信者の
の注意を引く。人間は動物的本
人
本能によって(自
自
分の身を守
守るために)
、分か
からない事を知
知ろうとする傾向
向にあるため、何を言いたいの
何
の
か知ろうとすると言うこと
ともできる。それで興味を掻き
き立てられる。そ
それが動機とな
な
論能力と想像力を
を発揮し意味を推論する。多く
くの意味を見つけるとそれは感
感
って、推論
情に作用す
する。
「面白い」
しい」などと感じる。
「楽しい」
「悲し
図 6 筆者作成
筆
図 6 弱いコミュニケーションの広告コミュニケーション効
効果
認知心理
理学の実験で証明
明されているように、感情が伴
伴う記憶は長期記
記憶に残りやす
す
い。さらに、
、そのような受信
信者は労力を惜
惜しまず、時間が
がかかっても知りたいと思う。
これも、認
認知心理学で説明
明されている「
「精査」の作用で
で記憶に残り易くなる。何度も
も
見ることが
ができるならば、何度も見ようとする。この「解釈ループ」に
に入れば、記憶
憶
に残すため
めに有効な「繰り
り返し」が起こり、さらに広告
告コミュニケーシ
ション効果が高
高
まることとなる。
4. おわり
りに
広告のメッセージを説得
得コミュニケー
ーションとして捉
捉え、ブランデッドコンテンツ
ツ
特徴とそれらのC
ドイメージ構築に
にどのように貢献
献しているかを
を
型CMの特
CMがブランド
弱いコミュ
ュニケーションの
の概念で説明を試みた。本稿で
では、広告メッセ
セージの受信者
者
の態度変容
容を認知環境の想
想定の変化とし
して捉えた。しか
かし、受信者の態
態度変容には、
想定(命題
題)として表示さ
されない感情も考慮する必要も
もあるであろう。
。また、説得意
意
図は、情報
報意図と伝達意図
図とは別のレベ
ベルにあるのでは
はないかと提案したが、このこ
こ
とは人間の
のメタ表示の問題
題にかかわっていると考えられ
れるため、さらな
なる研究が必要
要
である。今
今後はこの 2 つの
の問題を詳しく研究して行きた
たいと考えている。
62
【参考文献】
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仁科貞文他著、
「広告心理」電通(2007 年)
嶋村和恵監修、
「新しい広告」電通(2006 年)
Website:
American Marketing Association Online Dictionary
http://www.marketingpower.com/_layouts/Dictionary.aspx?dLetter=A
(2013 年 9 月 5 日受理)
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