...

山口県における小水力発電の取り組み(萩市)

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

山口県における小水力発電の取り組み(萩市)
Focus
萩市
地域ニュース
山口県における小水力発電の取り組み
∼モデル事業としての相原発電所∼
東日本大震災に伴う原発事故を契機に、再生
●平成26年5月、相原発電所が稼働
可能エネルギーへの関心が高まっています。平
相原発電所は、阿武川の中下流域に位置する
成24年7月の「再生可能エネルギーの固定価格
相原ダムに造られました。阿武川ダム直下の新
買取制度」開始以降、とりわけ太陽光発電の普
阿武川発電所の逆調整池として昭和50年に築造
及が急速に進んでいますが、最近では地域の特
された相原ダムで、これまで活用されていなか
性を活かし、水力や風力、地熱などのエネルギ
った未利用の落差と放流される水の一部を活用
ー源を活用した取り組みも活発化しています。
し、年間32万8,000kWh(一般家庭90戸相当)
いずれも環境に優しいクリーンエネルギーであ
を発電します。
るため、地球温暖化対策としても有効です。
山口県では、公営企業として工業用水道事業
逆調整池:不連続で発電した流水をいったん貯
蔵し、下流へ一定量を放流する調整池
と電気事業を手掛ける山口県企業局が、既存の
事業化に際しては、山口県における小水力発
ダムを活用した小水力発電の取り組みを始めて
電の導入促進を目的にしていることもあって、
います。今年5月に完成した萩市の相原発電所
採算性が重視されました。建設コストを抑える
は、その第一弾です。企業局が約20年ぶりに建
ために既設のダムを活用していることに加え、
設した水力発電所で、今後普及が見込まれる小
取水にもコストを意識した珍しい方法を採り入
水力発電のモデル事業として注目されています。
れています。この度採用された「サイフォン式」
【小水力発電とは】
水力発電は、一般的に以下のように区分されていますが、再生可能エネルギーを規定する「新エネ
ルギー利用等の促進に関する特別措置法」(平成20年4月施行)が、1,000kW以下を小水力発電と位置
付けていることから、最近では1,000kW以下を総じて「小水力発電」とすることが多くなっています。
水力発電の規模の分類例
区分
大水力
中水力
小水力
ミニ水力
マイクロ水力
発電出力
100,000kW以上
10,000kW ∼ 100,000kW
1,000kW ∼ 10,000kW
100kW ∼ 1,000kW
100kW以下
平成26年度の調達価格と調達期間
電源
水力
区分
調達価格1kWh当たり
1,000kW以上30,000kW未満 24円(+税)
200kW以上1,000kW未満
29円(+税)
200kW未満
34円(+税)
期間
20年
(平成26年4月1日∼平成27年3月31日)
出典:資源エネルギー庁「再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック」
出典:NEDO「マイクロ水力発電導入ガイドブック」
河川、農業用水、上水道などの用水を用いることから、持続性があり発電事業として安定している
ことが特徴です。山間地の谷地形を利用したダムなどの大規模水力とは違い、一定の落差や流量があ
れば身近な施設・場所でできることから、全国でも様々な事業者が取り組みを始めています。
小水力発電のメリット・デメリット
メリット
・天候に関わらず24時間発電できる。
・一定の水量を確保することで発電力の変動を減らせる。
・成熟した技術があり設備の耐用年数も長い。
・自然の形状を有効活用できる。
18
やまぐち経済月報2014.10
デメリット
・発電設備以外に土木工事などの費用がかかる。
・投資に対する回収期間が比較的長い。
・山間部等では生態系など環境への配慮が必要。
・宅地の近くでは騒音・振動などに注意が必要。
と呼ばれる取水方式は、手動の灯油ポンプが一
●小水力発電の普及に向けた技術支援
旦流れ始めると自動的に給油するのと同じ原理
山口県企業局は現在、平成27年度の完成を目
で、上流側から水を吸い上げ、下流側に放流し
指し小水力発電所の第二弾となる宇部丸山発電
ます。これにより、ダムの本体に穴を開け、取
所の建設を進めています。宇部丸山ダムから取
水口を設置して取水する一般的な「堤体穴開け
水する都市用水(工業用水・上水)施設の落差
方式」よりも工事費用を大幅に抑えることがで
を活用し、年間約60万kWh(一般家庭170戸相
きました。
当)を発電する計画です。
発電した電力は、中国電力に1kWh当たり
今後も小水力発電所の建設は、大規模なダム
34円で売電しています。年間売電額は1,100万
を管理している県などが中心になって進められ
円を見込み、維持管理費を支払いながら、17年
ていくことが予想されますが、企業局では、こ
間で総事業費の1億3,500万円を回収する予定
れまでに培ってきた水力発電の知識や経験を市
です。山口県が運営する初めての再生可能エネ
町村や農業関係の人たちに役立ててもらおうと、
ルギー固定価格買取制度による発電所であり、
技術的な観点から助言や情報提供を行う「小水
事業が軌道に乗れば、同制度を活用した水力発
力発電開発技術支援事業」にも力を入れていま
電所の普及にも弾みがつきそうです。
す。一口に小水力発電と言っても、落差や水量、
地形などによって仕様は様々であり、こうした
支援事業が今後の普及には欠かせません。
このほど、農業用水路に設置した小型の水車
で発電し、農機具の動力や照明灯などに活用す
る簡易型の小水力発電も実証実験を終え実用化
が始まりました。小水力発電の取り組みは、相
原発電所の稼働を皮切りに広がりを見せつつあ
り、地域の活性化にもつながる地産地消エネル
ギーとして、その普及に期待がかかります。
▲相原ダム(相原発電所は左側)
▲相原発電所(上流側から)
※サイフォン管を通して発電所に水を送る
(岩本 賢治)
▲「小水力発電導入ガイドブック」
※県のホームページで閲覧できる
やまぐち経済月報2014.10
19
Fly UP