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介
護
施
設
・
事
業
所
の
た
め
の
戦
略
的
な
採
用
介護施設・事業所のための
戦略的な採用と
初期の定着促進の手引き
と
初
期
の
定
着
促
進
の
手
引
き
社
会
福
祉
法
人
全
国
社
会
福
祉
協
議
会
中
央
福
祉
人
材
セ
ン
タ
ー
社会福祉法人 全国社会福祉協議会 中央福祉人材センター
は じ め に
ここ数年、新卒学生を中心に一般労働市場の有効求人倍率は上昇を続けています。また、同じ
ように福祉・介護業界においても、福祉人材の確保難が顕著になっています。
介護施設・事業所から人材確保難の声は高まってきていますが、各経営主体における採用活動、
雇用管理、人材育成における自己改革の努力への取り組みは、そのバラツキが大きいといった状
況です。
介護施設・事業所は、採用活動に関して工夫や努力をしなくても、募集すれば人材を確保する
ことができた時期がありました。しかし、現在、採用マーケットの縮小、他産業や同業との競争
激化、学生やその保護者等が福祉・介護業界を敬遠するといった環境の変化が起こっています。
そのため、介護施設・事業所は、従来のいわゆる買い手市場における雇用管理(大量採用・短
期雇用型)から、現在の売り手市場における雇用管理(少数採用、長期雇用型)への転換が必要
になっています。
特に、介護人材の確保は一般労働市場に大きく依存しているため、単なる職員採用ではなく、
研修や資格取得等の職員養成と一体化し、初期の教育訓練を含めた人材確保の仕組みを構築する
必要があります。
本書は、このような問題意識から、中央福祉人材センターが「介護施設・事業所の採用活動と
初期の教育訓練のあり方にかかわる調査研究委員会(委員長:田島誠一氏・日本社会事業大学大
学院 教授)
」を設置し、企画・編纂したものです。
本書の特徴として、現在の採用環境に対応した採用活動や初期の職員定着策の考え方・進め方
例を提示し、そのプロセスに応じて検討すべき視点をまとめ、関連する実践事例を紹介すること
で、各介護施設・事業所がそれぞれの状況に適した採用活動・職員定着策を計画・実施・評価で
きるよう支援するための手引きとして作成いたしました。
また、社会福祉法人 全国社会福祉協議会 中央福祉人材センターが発行している『福祉の職場
職員採用マニュアル』は、福祉職場の採用実務を扱った内容となっていますので、本書とあわせ
てご活用いただくことをお勧めいたします。
採用活動や職員への教育訓練は、採用・人事担当者のみで行えるものではなく、全組織・全職
員をあげて取り組むことが重要になります。そのため、採用・人事担当者だけではなく多くの関
係者の方々にお読みいただければ幸いです。
最後に、ご多忙にもかかわらず本書の企画編纂にあたり貴重なご意見をいただきました委員の
方々、ヒアリング調査等にご協力いただいた社会福祉施設等の方々に深く感謝申し上げます。
平成20年12月
社会福祉法人 全国社会福祉協議会
中央福祉人材センター 所長 塩出 博司
目 次
はじめに
第
1
章 「採用力」を高める
1.今後ますます厳しくなる福祉・介護業界の採用 ……………………………………
(1)進む生産年齢人口の減少 ……………………………………………………
4
(2)福祉・介護業界における有効求人倍率の上昇 ……………………………
5
(3)事業所数の増加に伴う競合の激化 …………………………………………
6
(4)介護職の入職率、離職率 ……………………………………………………
8
(5)介護職の勤続年数 ……………………………………………………………
9
(6)学卒者採用の激戦化、早期化 ………………………………………………
10
2.なぜ、採用・人材確保がうまくいかないのか………………………………………
(1)人材難は環境変化のせいだけなのか ………………………………………
11
(2)変化への対応が求められている ……………………………………………
12
3.「採用力」は組織の総合力 ……………………………………………………………
第
第
2
2
3
(1)この組織で働きたいという“人材を惹きつける力”を高める …………
13
(2)地域社会などとの連携で、信頼に裏打ちされたブランド力の構築 ……
14
4
11
13
章 自組織の立ち位置を知る
1.自組織の立ち位置を知るためのフレームワーク……………………………………
15
2.採用マーケットを知る…………………………………………………………………
16
3.競合を知る………………………………………………………………………………
17
4.自組織を知る……………………………………………………………………………
18
章 自組織に合った採用計画を検討する
1.要員計画を立てる………………………………………………………………………
21
2.定期採用をするか………………………………………………………………………
23
3.法人単位で採用するか、施設・事業所単位で採用するか…………………………
25
4.採用ターゲットをどう設定するか……………………………………………………
27
(1)採用する人材像を明確にする ………………………………………………
27
(2)雇用管理区分ごとに求めるターゲット層の条件を設定する ……………
28
5.どのような募集ルートを活用するのか………………………………………………
(1)複数の募集ルートの活用により、求職者との接点拡大を図る …………
32
(2)「待ち」から「攻め」の採用活動へ ………………………………………
33
(3)実習やインターンシップの受入について …………………………………
35
6.求職者への効果的な情報提供とは……………………………………………………
(1)どの段階で、どのような情報提供をするか ………………………………
36
(2)期待のミスマッチを防ぐために ……………………………………………
39
7.適切な選考のために……………………………………………………………………
第
4
(1)できるだけ現場のメンバーにも同席してもらう …………………………
42
(2)面接で相手のバックボーンを理解する材料を引き出す …………………
43
(3)面接者も面接されている ……………………………………………………
44
32
36
42
8.内定者をいかに引き留めるか…………………………………………………………
44
9.採用実務について………………………………………………………………………
46
10.採用推進体制、採用コストについて ………………………………………………
48
(1)採用活動は組織をあげて ……………………………………………………
48
(2)適切な採用コストとは ………………………………………………………
49
章 採用した人材を定着させる(初期の定着策)
1.なぜ辞めてしまうのか…………………………………………………………………
(1)働きがいを求めて入職 ………………………………………………………
50
(2)仕事の不安、悩み ……………………………………………………………
51
(3)勤続1年未満の離職が多い …………………………………………………
52
(4)自組織の人材の定着状況を確認する ………………………………………
53
50
2.人材が定着し育つ職場とは……………………………………………………………
53
3.初期の定着策の具体例…………………………………………………………………
55
(1)成長が実感できる教育の仕組み ……………………………………………
55
(2)初期の不安・不満を解消するコミュニケーションの仕組み ……………
59
(3)目標、キャリアパスを描きやすい仕組みを作る …………………………
61
(4)女性が働き続けやすい職場環境を整備する ………………………………
62
(5)認め、認められる組織文化を醸成する ……………………………………
63
(6)トップの理念や方針を現場に浸透させる …………………………………
64
(7)マネジャーのマネジメント力、部下指導・支援力を養う ………………
66
《巻末資料》
自組織の立ち位置を知るためのワークシート …………………………………………
70
関係資料 ……………………………………………………………………………………
77
3
第
1 「採用力」を高める
章
1
今後ますます厳しくなる福祉・介護業界の採用
(1)進む生産年齢人口の減少
急速に進む少子高齢化を背景として、生産年齢人口が減少を続けています。生産年齢人口とは、
一般的に、労働に適する年齢すなわち満15歳以上65歳未満の人口をいいます。
わが国の生産年齢人口は、第二次世界大戦後一貫して伸び続け、高度経済成長に大いに貢献した
と言われていますが、1996年からは減少傾向に転じています。
国立社会保障・人口問題研究所によると、今後はさらに生産年齢人口の減少が進むことが推計さ
れています。図表1は、全国および主な都道府県別にみた生産年齢人口の減少率の推計です。生産
年齢人口の減少は、社会の活力の維持や労働力確保の面において障害になる恐れがあります。
図表1
4
全国および主な都道府県別生産年齢人口減少率(推計)
(2)福祉・介護業界における有効求人倍率の上昇
近年の景気回復に伴い、産業全体の採用意欲が高まっています。1993年度から2005年度まで、1.0
倍を割り込んでいた全職業 常用(含パート)の有効求人倍率は、2006年度に1.0倍を超えました。大
企業を中心に採用意欲が高くなり、人材不足や競争激化に伴って事業存続すら困難になった中小企業
も少なくありません。
そうした産業全体の動きに先んじて、社会福祉専門職種 常用(含パート)の有効求人倍率は2000
年より徐々に上昇し、2005年に1.0倍を超えています。さらに、介護関連職種 常用(含パート)の有
効求人倍率は、データのある2004年から急激に上昇しています。2000年の介護保険制度導入を契機に
介護サービスに対するニーズは拡大し、事業所数も急激に増加する中、今後、介護職員の伸びを上回
る要介護者の増加によりその需要が増え、人材の不足感がさらに深刻化することが予想されます。
福祉・介護系の専門学校や大学への入学希望者も減少の傾向にあり、介護職への求職者数も激減し
ています。今後は、業界や職業の魅力を高めるとともに、他産業・他分野からの中途採用など、労働
市場から広く人材確保と養成を行うことが求められています。
図表2
有効求人倍率の推移(全産業・社会福祉専門職種・介護関連職種)
5
(3)事業所数の増加に伴う競合の激化
先にも触れたように、介護保険制度導入を契機に介護サービスに対するニーズは拡大し、事業所数
も急激に増加しています。総務省の事業所・企業統計調査によると、産業大分類別にみた事業所数を
平成13年と18年を比較した場合、「医療、福祉」が17.9%増と大幅に増加していることがわかります
(図表3)。
また産業小分類でみても、「その他の社会保険・社会福祉・介護事業」(更生保護施設、訪問介護事
業、社会福祉協議会、心身障害者福祉協会など)が第一位で151.5%、「老人福祉・介護事業(訪問介
護事業を除く)」が第三位で87.9%の増加率と、介護施設・事業所数の増加の傾向が見てとれます
(図表4)。
このように、介護ニーズの高まりに応じてマーケットが急速に拡大し、事業所数が急速に増加した
結果、人材確保の面においても、競争が厳しくなっています。
6
図表3
主な産業大分類別事業所数の増減率(平成13年∼18年)
図表4
事業所数の増加率が高い産業(小分類上位20分類)(平成13年∼18年)
事業所数
順
位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
産業小分類
759
90A
754
755
75B
57B
735
532
80L
391
919
694
80J
811
732
733
90B
851
51B
084
その他の社会保険・社会福祉・介護事業 *1
労働者派遣業
老人福祉・介護事業(訪問介護事業を除く)
障害者福祉事業
その他の児童福祉事業 *2
他に分類されない飲食料品小売業 *3
療術業
自動車卸売業
他に分類されない専門サービス業 *4
ソフトウェア業
他に分類されない非営利団体 *5
不動産管理業
機械設計業
自然科学研究所
一般診療所
歯科診療所
他に分類されないその他の事業サービス業 *6
一般廃棄物処理業
野菜・果実卸売業
機械器具設置工事業
平成13∼18年
実数
20,759
10,222
35,426
10,784
14,490
124,985
72,198
15,693
44,963
21,042
18,860
28,177
7,626
4,458
77,613
63,854
32,811
12,343
10,372
6,861
増減数
増減率
(%)
12,504
6,040
16,569
3,767
4,546
16,508
9,478
1,374
3,888
1,813
1,489
1,888
506
279
3,430
2,741
1,369
465
385
237
151.5
144.4
87.9
53.7
45.7
15.2
15.1
9.6
9.5
9.4
8.6
7.2
7.1
6.7
4.6
4.5
4.4
3.9
3.9
3.6
従業者数
平成13年
∼18年
実数
増減率
(%)
423,623
140.7
983,701
133.6
919,554
79.0
173,948
36.3
103,210
38.9
1,041,446
31.9
191,833
24.2
169,640
2.0
300,465
2.5
698,367
20.5
103,001
3.8
172,120
6.6
119,604
9.1
259,201
-2.3
801,895
10.8
376,853
6.2
587,963
21.4
201,564
0.2
132,215
-2.6
106,626
-1.6
(注)平成13年調査以後に細分化された分類については、細分化前の分類により比較を行った。
これらの産業小分類(462産業)のうち、従業者10万人以上の産業小分類(145産業)
*1更生保護施設、訪問介護事業、社会福祉協議会、心身障害者福祉協会など
*2乳児、幼児、少年に対する福祉事業(児童相談所、児童養護施設、学童クラブなど)
*3コンビニエンスストア、牛乳小売業、茶類小売業、豆腐、かまぼこ等加工食品小売業など
*4社会保険労務士事務所、経営コンサルタント業、翻訳業、通訳業など
*5趣味・社交・親睦のための団体、地域活動・教育施設への援助などを行う事業所など
*6ディスプレイ業(施工監理などを一貫して行うもの)を行う事業所、産業用配管洗浄業、レッカー車業など
資料出所:総務省「事業所・企業統計調査」
(平成18年)
7
(4)介護職の入職率、離職率
産業分類別にみた入職率・離職率は、図表5の通りです。全労働者(常用労働者)、ならびに他産
業「卸売・小売業」や「飲食店・宿泊業」と比べると、「医療、福祉」の分野の入職率・離職率は、
必ずしも高くないことがわかります。
図表5
医療、福祉業界における入職率・離職率(全労働者、他産業との比較)
一方で、データの出所は異なりますが、介護労働安定センターの調査で、介護職についての入職
率・離職率の状況を見ると、図表5にある全労働者や医療、福祉のそれよりも高くなっていることが
わかります(図表6)。図表5は常用労働者のみの値であり、単純比較はできませんが、平均値を見
る限りでは、介護職員の離職率が高い状況を指摘することができそうです。
図表6
介護職員の入職率・離職率
(参考)
ただし、これを離職率階級別に事業所割合を見ると(図表7)、離職率10%未満というグループが、
実は一番ウェイトが高いことがわかります。その一方で、離職率30%以上という大変高い事業所が多
いことが、全体の離職率の平均を押し上げているということが考えられます。
こうした二極化の状況を踏まえると、全体の離職率平均よりも、自組織の離職率が低いからといっ
て安心してよいわけではないことがわかります。
8
図表7
離職率階級別にみた事業所割合(介護職員+訪問介護員)
(5)介護職の勤続年数
介護職の勤続年数は全産業や他のサービス業(「卸売・小売業」
「飲食店・宿泊業」)、さらに「医療、
福祉」全体と比べても短くなっています(図表8)。介護保険事業の歴史が浅いことを考え合わせる
と、他産業と比べてその期間が短くても、悲観的に捉える必要はないとも言えます。
しかしながら、離職率の現状と合わせ見て、「採用しては辞める」という悪循環に陥っていないか
ということを改めて認識する必要があります。せっかく採用した人材をいかに定着させ、活躍の場を
与えるかは法人経営の視点において大きなテーマになっています。
図表8
介護職の勤続年数(全産業、他産業との比較)
9
(6)学卒者採用の激戦化、早期化
いわゆる「バブル経済」が終焉を迎え、景気低迷が長引く1990年代∼2000年初頭は、人件費抑制の
必要から新卒の定期採用を控える企業も多くありました。新卒定期採用を中断していたことによって、
年齢構成のゆがみや、人材基盤の先細り、技術伝承が途絶える懸念等、様々な問題をもたらしていま
す。このようなこともあり近年の景気回復を背景に、新卒定期採用を再開した企業も多く、新卒採用
は激戦化しています。
そうした採用意欲を背景に、企業の採用活動は年々早まる傾向にあります。採用活動の早期化に対
する抑制としては、1997年に「就職協定」が廃止されてから、社団法人日本経済団体連合会が毎年公
表している「新規学卒者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」があり、就職活動は大学3年生の秋
に始まるというのが一般的な動きです(図表9)。一方で、大学3年生の秋以前もインターンシップ
の受入、就職サイトへの登録受付など、広く求職者へのPR活動や工夫が繰り広げられており、「良い
人材を、いち早く確保したい」という人材獲得競争は熾烈化しています。
また、最近の景気後退によって、2009年度採用内定者の内定取り消しや、2010年の新卒採用市場に
おいても、金融・不動産等の業界をはじめ、大手企業を中心に採用予定者数を減らしたり、新卒採用
を控えたりする動きがでています。しかし、これによって、新卒採用の激戦化が単純に和らぐとは限
らず、逆に優秀な人材を確保するために、さらに採用活動を早期化する企業もあるようです。福祉の
仕事は不況待望産業ではありません。景気動向に左右されることなく、福祉の仕事の魅力をアピール
するとともに、自組織の労働環境を向上させるための努力を続けることが、良い人材を確保するため
に必要になります。
図表9
採用活動・就職活動等の年間の動き(例)
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
介
採護
用施
活設
動・
の事
動務
き所
の
就
職
活
動
の
動
き
そ
の
他
の
動
き
新卒者
非正規・
転職者
採
用
計
画
求人・
学校訪問
フェア参加・ 内
定
説明会開催
第一波
採用ピーク
インターンシンプ
4年生 第二波 その他企業等
求人検索・フェア
実習
卒業年次
進路相談・決定
オープンキャ
ンパス参加
学校出願・試験
就職試験・内定
就職フェア
ボランティア体験
実習
インターンシンプ
10
3年生 第一波 大企業中心
エントリー・
試験・内定
専門学校・大学等
からの高校訪問
その他の
連動向
エントリー・訪問・フェア・試験・内々定
内
定
式
エントリー・訪問・フェア・試験・内々定
高校生の
進路選択
就
職
臨時募集 臨時採用
大学生
福祉系専
門学校生
第三波
第二波
就職フェア
就職フェア
2
なぜ、採用・人材確保がうまくいかないのか
(1)人材難は環境変化のせいだけなのか
第1節で見たように、昨今、福祉・介護業界を取り巻く採用環境は大変厳しくなってきています。
「介護業界は、低賃金で仕事がキツイという悪いイメージが広がってしまって、人が集まらなくなっ
てしまった」という考えもあります。介護業界の人材確保と質の向上のためには、処遇水準や労働環
境の改善、キャリアアップの仕組みの構築、業界や職種のイメージ向上など、行政、関係団体、事業
者等が一体となった取り組みが急務となっています。
一方で、事業者の側も、激変する採用マーケットの変化に対応した採用活動に転換することが求め
られています。介護保険制度導入を契機に介護業界が新たなビジネスマーケットとして華やかに喧伝
されていた一時期は、とくに工夫や努力をしなくても、「募集すれば人が採れる」という状況が続い
ていたことがありました。
しかしながら、今やそのような“良い時”ではなくなっています。採用マーケットの縮小、他産業
や同業との競合激化、学生の福祉・介護業界離れ等の変化が進んでいます。それに対応した手だてを
講じることなく、「買い手市場」の頃と何ら変わらない考え方、やり方で採用に臨んでいても、良い
人材は集まりません。貴組織の採用活動、人材確保の取り組み状況はいかがでしょうか。
下記にチェックリストを作成しましたのでご覧ください。
□ 採用活動に計画性がない
・退職者が出たら補充採用をするという方式で、計画的な採用活動を行っていない
□ ターゲットとする人材層が限定的である
・新卒なら福祉・介護系の大学・専門学校卒の介護福祉士有資格者、中途なら有資格・他事
業所経験1年以上など、採用ターゲットを限定的・固定的に考えている
□ 求職者との接点拡大を積極的に図ろうとしていない
・学校やハローワークに求人票を送る、新聞・オリコミなどに求人広告を掲載するなど、以
前と変わらない少数の採用ルートしか活用していない
□ 求職者に直接的に働きかけていく採用活動が少ない
・求人票送付、広告掲載など、求職者からのアプローチを“待つ”という採用活動が主体で、
採用説明会の実施、就職フェア、合同採用説明会、学内イベントへの参加など、求職者に
直接的に働きかけていく採用活動が少ない
□ 採用活動スケジュールが出遅れている
・学生の就職活動のスケジュールを意識した採用活動になっていない
・学生の就職活動の波に乗らず、出遅れている
□ 採用担当者を置いていない、または担当者の属人的な力量に頼った採用活動になっている
・専任か兼任かにかかわらず、明確に「採用担当」という役割を担う人材の配置をしていな
い
・一人か二人の採用担当者の力量や経験則に頼った採用活動になっていて、採用活動に関す
る智恵やノウハウが組織の中に蓄積されていない
□ 採用した人材の定着・育成が二の次になっている
・採用した人材の定着・育成に対する仕組みが追いついておらず、“採用しては辞める”の繰
り返しになっていて、常に求人募集に追われている
11
前記のうちで当該する項目はありましたか。
「募集しても人が集まらない」「いつも求人募集に追われている」という状況を打開するためにも、
これまでの「買い手市場」の時代の採用活動のあり方を見直す必要があります。そのことに、経営者
自身が気づき、意識や考え方を切り替えていくことが大切になります。「売り手市場」となった今日
に採用を成功させることができる、よりダイナミックで戦略的な採用活動へと転換していくことを検
討していきます。
(2)変化への対応が求められている
それでは、どうすれば採用マーケットの変化に対応した手だてを講じることができるのでしょうか。
一般に、採用プロセスのフローは図表10のようになります。この採用プロセスを、「AIDAS」と
いう、マーケティングにおける顧客獲得のための思考・行動特性のモデルに照らして考えてみます。
「AIDAS」とは、以下のキーワードの頭文字をとったものです。
A=Attention(注意)…知ってもらう
I=Interest(関心)…興味を持ってもらう
D=Desire(欲求)…行きたいと思わせる
A=Action(行動)…応募してもらう
S=Satisfaction(満足)…フォローし、定着してもらう
図表10
求職、採用活動のフローとAIDAS
求職活動
求める
業界・職種
を探索する
採用活動
採用計画、
ターゲット
の明確化
情報を収集
し、比較・
選択する
個別法人を
探索する
広報・募集に
より広く採用
ターゲットに
働きかける
応募する
情報を提供し、
勧誘・説得する
【A】 【I】【D】 【A】
対象とする
求職者の量
の変化
12
知
っ
て
も
ら
う
興
味
を
持
っ
て
も
ら
う
行
き
た
い
と
思
わ
せ
る
応
募
し
て
も
ら
う
登録する
他法人と
比較し、
迷う
就職する
定着する
選考す
る・内定
をだす
フォロー
し引き
止める
採用する
育成する、
満足させる
【S】
フ
ォ
ロ
ー
し
、
定
着
し
て
も
ら
う
「AIDAS」のプロセスに沿って、求職者の志向や行動は変化していきます。そして同時に、そ
のプロセスに沿って、求職者の量も絞り込まれていきます。
求人票や求人広告を出せば採用できていた時代には、「求人票や求人広告を出す」→「応募者を待
つ」→「選考する」というプロセスで良かったかもしれません。しかし、「募集しても人が集まらな
い」時代にあっては、その前段の「A(知ってもらう)
」「I(興味を持ってもらう)」「D(行きたい
と思わせる)
」に力点を置いた活動をしなければ、人は集まってきません。さらに、
「S(フォローし、
定着してもらう)」つまり人材の定着・育成を含めた採用活動の展開が課題になっています。この
「AIDAS」に沿って、採用活動のあり方を再構築することが求められていると言えます。
3
「採用力」は組織の総合力
(1)この組織で働きたいという“人材を惹きつける力”を高める
採用がうまくいくかどうかは、採用活動をいかに有効に行うかという視点だけではなく、組織の魅
力そのものをいかに高めるかという視点が必要になります。つまり「採用力」は、「採用活動の有効
性」と「組織の魅力」のかけ算であり、組織の総合力とも言えます。
図表11
採用力とは
人材確保のための対応策とは、この双方を高めていくということに他なりません。ここでいう「組
織の魅力」とは、一言で言うと、求職者に「この組織で働きたい」、あるいは今いる職員に「この組
織で働き続けたい」という思いを抱かせるような、“人材を惹きつける力”です。
それは、単に賃金が良いとか、職場の人間関係が良いといった一面的なことではなく、組織がこれ
まで醸成してきた文化や風土、歩んできた歴史、そしてそれらを土台に形成されている組織の現状
(ソフト面、ハード面あらゆる要素)から作り出されるものです。
例えば、施設・事業所概要(業種、規模、立地、法人形態等)、トップの理念・ビジョン、商品・
サービス(商品・サービスそのもの、技術力、開発力等)、人材(人材の質・レベル、量)、財務体質
(収益力、安定性、成長性等)、認知度・イメージ・信頼(業種・業界のイメージ、ブランド力、地域
からの信頼等)
、労働条件(賃金、諸手当、休日・休暇、労働時間等)、職場環境(仕事内容、職場の
チームワーク・活力、業務遂行システム、ハード面等)、人事教育システム(賃金・評価制度、キャ
リアパス、教育システム等)、マネジメント力…等々からなる組織の現状です。
もちろん、これらは一朝一夕に改善や変革をすることは困難で、組織における長年の試行錯誤、努
力、地道な工夫や改善などの蓄積によってつくられることになります。
どんなに巧みな採用活動を展開したとしても、最終的には、「この組織で働きたい」という“人を
惹きつける魅力”が問われます。組織の魅力を高めるために地道な努力をしていくことは、「採用力」
を高めるとともに人材の定着性を高めていくことにつながっていきます。
13
(2)地域社会などとの連携で、信頼に裏打ちされたブランド力の構築
組織は単独では成り立ちません。お客様(利用者)とその家族、職員とその家族、地域社会、ボラ
ンティア、取引先、銀行などの金融機関、出資者等々、関係者・関係機関と良好な関係を築いていく
ことによってはじめて成り立ちます。
福祉・介護サービス事業者としてサービスの質の向上を図り、利用者に満足してもらうことが第一
義です。利用者の満足向上を図るためには、第一線で利用者にサービスを提供する職員のES
(Employee Satisfaction=職員満足)を向上させることが前提となります。
さらに、中長期的な観点から重要なのは、「地域社会との連携」です。地域社会は、現在および将
来にわたるお客様(利用者)やその家族がいる場所であり、また現在および将来の職員とその家族が
いる場所と多分に重なります。また地域社会の中でこそ、新たな福祉ニーズ、サービスニーズが開拓
できるのです。
つまり「地域社会」は、介護サービス事業者の将来性と成長力の源泉とも言えます。そのことを十
分に認識し、地域社会に貢献することを事業運営の柱にすることを忘れないようにすることが重要で
す。職員が生き生きと仕事をし、質の高いサービスを提供することによって、地域で「ここの施設の
サービスは良い」「ここの事業所は働きやすい」という良い評判が口コミで広がり、自ずと“人を惹
きつける魅力”のある組織となるでしょう。
介護教室、幼稚園・保育園・小・中学校等と合同のイベント、学生の見学ツアーやボランティア体
験の受け入れ、地域の自治会や商店会等との合同のイベント、講師の派遣等々、様々な地域とのつな
がりをもっている施設・事業所は多いと思います。そうした一つひとつが、地域において信頼に裏打
ちされたブランド力を構築しうる組織活動とも言えるのです。
14
第
2
章
自組織の立ち位置を知る
自組織に合った採用活動の前提として、採用活動に必要な外部・内部環境に関する情報を収集・分
析し、自組織の立ち位置を知る必要があります。そのためには、必要な情報は何で、それをどうやっ
て集め、分析し、活用していくのかを、適切に管理・運営していく必要があります。「彼を知りて己
を知れば、百戦してあやうからず」と言うように、情報収集・分析が十分でないと、自組織の立ち位
置を見誤り、打つ手の妥当性も損なわれることにもなりかねません。
自組織の立ち位置を知った上で、自組織に合った採用計画を策定し、実施します。さらに、実施し
た採用活動について、何が良くて何が良くなかったか、どうすればもっと効果を高めることができる
かということを検証して改善につなげていくというプロセスが重要です。
図表12
採用活動のプロセス
本章(第2章)では、自組織の立ち位置を知るための着眼点や方法論について述べ、次章(第3章)
では、自組織に合った採用計画策定の着眼点について検討していきます。
1
自組織の立ち位置を知るためのフレームワーク
自組織を取り巻く環境分析の視点として、3C(Customer=顧客、Competitor=競合、
Company=自組織)というフレームワークがあります。これは、まさに「彼(顧客と競合)を知り、
己(自組織)を知る」ためのフレームワークということができます。
このフレームワークは採用計画策定の場合にも活用できます。「Customer=顧客」は採用マーケッ
ト、求職者と読み替えることができます。このフレームワークに沿って、自組織を取り巻く内部・外
部の環境分析を行い、組織の立ち位置を知り、戦略的な採用活動を検討していきます。
15
図表13
環境分析の3C
17
70
18
71
20
72 74
2
採用マーケットを知る
自組織を取り巻く採用マーケットの動向について、多面的に情報収集し、整理する必要があります。
第1章で取り上げたような労働市場全体、業界全体の動きを十分に踏まえた上で、さらに次に示すよ
うな採用エリアにおけるマーケットの状況を把握します。採用エリアのマーケットについての状況を
把握するためには、学校、福祉人材センター、ハローワーク等と連携を持ち、情報収集を心がけるこ
とが最も効果的です。
図表14
16
採用マーケットを知るための情報収集項目と情報源
チェックリスト① 採用エリアにおける人材マーケットを知る
※採用エリア…都道府県単位、または○○県○○地区など、自組織が採用を想定している地域
□ 採用エリアにおける有効求人倍率の推移を把握している(全産業、社会福祉専門職種、介護
関連職種)
□ 採用エリアにおける施設・事業所数の推移を把握している
□ 採用エリアにおける施設・事業所の職員数の推移を把握している
□ 採用エリアにおける非福祉系も含めた大学、短大・専門学校、高校の学校数を把握している
□ 採用エリアにおける福祉系大学、福祉養成校、高校福祉科の所在地や学校数の推移を把握し
ている
□ 採用エリアにおける福祉系大学、福祉養成校、高校福祉科の学生数、卒業生数、資格取得状
況、進路、就職先、就職活動の動向などを把握している
□ 採用実績校の学生数、卒業生数、資格取得状況、進路、就職先、就職活動の動向などを把握
している
□ 介護職員基礎研修、ホームヘルパー養成機関の所在地、定員、受講者数、修了者数などを把
握している
□ 上記の内容を把握するために、福祉人材センター、ハローワーク、採用実績校などとつなが
りを持ち、情報収集を行っている
※巻末にワークシートも掲載されています。ワークシートを活用して現状の捉え直しに役立ててください。
3
競合を知る
自組織の競合相手についての情報を収集し、整理しておく必要があります。競合といっても、単に
近隣の施設・事業所だけとは限りません。他産業への人材流出が多い現状を考えれば、他産業まで含
めて、「競合」になります。
図表15
競合を知るための情報収集項目と情報源
17
チェックリスト② 競合を知る
※採用エリア…都道府県単位、または○○県○○地区など、自組織が採用を想定している地域
□ 採用エリアにおける他産業の動向(ex.商業施設や工場等の進出または撤退など)を把握し
ている
□ 事業エリアにおける高齢化率、高齢者数、要介護者数の推移を把握している
□ 採用エリアにおける施設・事業所数の推移を把握している
□ 採用エリアにおける施設・事業所の採用活動の状況について把握している
□ 採用エリアにおける他産業の募集段階の賃金水準を把握している
□ 採用エリアにおける他施設・事業所の募集段階の賃金水準を把握している
□ 採用エリアにおける他施設・事業所の求人票や求人広告の内容を把握している
□ 採用エリアにおける他施設・事業所の特徴や評判などについて把握している
□ 採用活動を効果的に実施している施設・事業所の事例を把握している
□ 上記の内容を把握するために、新聞、メディア、経済団体、福祉人材センター、労働局、ハ
ローワーク、同業者、自組織の職員などから広く情報収集を行っている
※巻末にワークシートも掲載されています。ワークシートを活用して現状の捉え直しに役立ててください。
4
自組織を知る
自組織の現状を知ること、つまり「己を知る」ことが重要です。実は、「己を知る」ということが
意外とできていない組織が多いのです。自組織の現状を客観的に振り返り、改めて自組織を見つめ直
す機会を持つことは重要です。
現状を知るという場合、「今現在」という断面だけではなく、「これまでの変遷を追う」という視点
が重要になります。現在に至るまでの足取りを追うことによって、組織の成長過程と現状の立ち位置
を改めて確認することができるからです。
18
また人は、他人に指摘されないと気がつかないことが多いように、組織も、第三者や関係者(利用
者、職員など)からの評価や指摘を受けることにより、初めて気がつくこともあります。そうした意
味でも、第三者評価や、ご利用者満足度調査、内部のオピニオンサーベイなど、複数のサーベイを定
期的に実践し、自組織を知る機会を継続的に確保することが大切になります。
◆職員に聞いてみましょう
自組織の採用活動について捉え直しをする場合、「職員に聞いてみる」ことは最も重要なポイント
になります。なぜ当施設・事業所に入職しようと決めたのか、採用プロセスにおいてどのような印象
や感想を持ったかなど、実体験に基づいた情報は、何よりも貴重です。思いがけないことが入職の決
め手になっていた、などということがあるかも知れません。また、退職者の真の離職理由を把握する
ことも、働きやすい職場環境を整備し、組織の魅力を高め、定着を促進していく上で重要です。
「職員に聞いてみる」という姿勢は、採用活動についてだけではなく、自組織の現状を見直してい
く際に、着眼点を与えてくれる有効な一つの手段になります。現場の職員は、自組織がもっと良くな
るための問題意識を少なからず持っているものです。アンケートによる調査方式もありますが、まず
は直接一人ひとりの生の声を聞くという方法により、職員の状況を皮膚感覚で感じとるということが、
「己を知る」近道になるのです。
図表16
自組織を知るための情報収集項目
19
チェックリスト③ 自組織を知る
□ 自組織における職員数(職種別、雇用形態別、男女別)の推移を把握している
□ 自組織における採用者数(職種別、雇用形態別、男女別)の推移を把握している
□ 自組織における退職者数(職種別、雇用形態別、男女別)の推移を把握している
□ 自組織における初任給の推移を把握している
□ 自組織における入職率・離職率(職種別、雇用形態別、男女別)の推移を把握している
*入職率=1年間の入職者数÷前年末日の在籍者数×100(%)
*離職率=1年間の離職者数÷前年末日の在籍者数×100(%)
□ 自組織における非正規比率の推移を把握している
□ 採用計画を作成し、計画に沿った採用活動を行っている
□ 採用におけるエントリー者数、応募者数、内定者数、入職者数の推移を把握している
□ 採用ターゲットを明確に決めている
□ これまで活用した募集ルートの有効性を検証している
□ 採用コストの推移を把握している(定期採用、随時採用)
□ 職員の入職の動機について把握している
□ 職員の真の離職理由について把握している
□ 上記の内容について、自組織の中にデータの蓄積がある
□ 職員の入職の動機や離職理由について、自組織の職員に話を聞いている
※巻末にワークシートが掲載されています。ワークシートを活用して現状の捉え直しに役立ててください。
20
第
3
章
自組織に合った採用計画を検討する
自組織を取り巻く内部・外部の環境について、情報収集・分析を行い、自組織の立ち位置を確認で
きたら、自組織に合った採用計画を策定します。
採用計画を検討する際の着眼点は以下の通りです。本章では、これらの着眼点について、事例を紹
介しながら検討していきます。
採用計画策定の着眼点
1 .要員計画を立てる
2 .定期採用をするか
3 .法人単位で採用するか、施設・事業所単位で採用するか
4 .採用ターゲットをどう設定するか
5 .どのような募集ルートを活用するのか
6 .求職者への効果的な情報提供とは
7 .適切な選考のために
8 .内定者をいかに引き留めるか
9 .採用実務について
10.採用推進体制、採用コストについて
1
要員計画を立てる
要員計画とは、事業計画の遂行に必要な人員数を、組織全体および組織階層別、組織機能別、職務
別、雇用形態別等に算出し、どのような人材がどの程度不足しているのか(または余剰なのか)を見
極め、それにどう対応するかを定める計画のことです。
年度の要員計画の前提として、組織の理念・ビジョンの実現に向けた中長期経営計画があり、それ
に基づいた中長期の要員計画の設定が必要になります。
年度の要員計画を立てるためには、各々の現場における要員ニーズ、そして組織としての要員ニー
ズの2つの視点から、必要人員を検討していきます。
21
盧
現場における要員ニーズ
・欠員補充としての要員ニーズ(退職者や休業者、短時間勤務者の穴埋めなど)
・負荷の高い業務や専門業務に対応するための要員ニーズ
盪
組織としての要員ニーズ
・配置基準に基づく要員ニーズ
・事業計画・展開による要員ニーズ(新規事業への進出、多角化戦略の推進など)
・労務構成の「歪み」を是正するための要員ニーズ(年齢別人員構成の歪みの是正など)
・売上高、付加価値額を基準にした支払い可能人件費に基づく要員ニーズ
それぞれの要員ニーズを調整し、最終的に組織全体および組織階層別、組織機能別、職務別、雇用
形態別に、要員ニーズに対してどのような対応を用いていくか、計画に落とし込みます。例えば、新
規採用での対応、外部人材の活用、人事異動による対応、効率化や現任職員のレベルアップによる不
補充などが考えられます。最終的には経営トップや人事部などが中心となって、経営判断により、要
員ニーズに対する最適な対応策を決めていくことになります。
図表17
事業計画、要員計画、採用計画
要員計画が決まったところで、「新規採用」について、「いつ行うのか」「どのような人材をターゲ
ットとするのか」「どのような方法で行うのか」などを計画するのが「採用計画」です。こうした要
員計画なしに採用を行っていくと、要員の過不足の調整がうまくいかないばかりか、場合によっては、
事業計画の変更を余儀なくされることもあります。
要員の過不足の調整は、上記のように様々な手段が考えられますが、継続的な新規採用は、組織の
新陳代謝を促進するとともに、理念やビジョン、技術・技能の伝承においても非常に重要になります。
22
2
定期採用をするか
採用方式には、「定期採用」と「通年採用」の二つがあります。
「定期採用」とは、施設・事業所が定期的に募集・採用をすることです。毎年、高校や大学などの
新規学卒者を卒業と同時に採用する「新卒採用」の他に、定期的に行う「中途採用」が含まれます。
「通年採用」とは、施設・事業所が一年間を通して随時、人材の採用活動を行うことを指します。
定期採用、通年採用は、図表18に示すように、それぞれメリットとデメリット(リスク)があります。
ある程度以上の規模の施設・事業所は、ほとんど定期採用を行っています。一方、小規模の施設・
事業所では、「必要な時に、必要な人数を確保し、要員管理を柔軟に行える」ということを理由に、
定期採用を行わず、通年採用のみというケースが多いようです。
しかしながら、
“必要に応じて”という採用方式なので、きちんと計画化されていることが少なく、
悪く言えば「行き当たりばったり」で、採用コストや教育コストがかさんでいるというのが実態の施
設・事業所も少なくありません。
一方、定期採用は、自組織に合った採用パターンを作り、システム化することが比較的やりやすい
という側面もあります。採用活動がパターン化・システム化されていない組織では、まずは自組織に
合った採用活動の「型」をつくることが必要になります。そして、毎年の採用活動の積み重ねにより、
智恵やノウハウを組織の中に蓄積し、環境変化に対応して応用可能な能力を身につけていくことが必
要です。
そうした意味では、少人数でも定期採用を行い、確実な人材確保と育成に力を注ぐことは重要なテ
ーマであると言えます。
図表18
定期採用と通年採用のメリット、デメリット(リスク)
から
にかかわる
実施するため
から
かさ
にかかわる
23
併せて、新卒採用と中途採用のメリット、デメリット(リスク)も踏まえておく必要があります。
それぞれのメリット、デメリット(リスク)を勘案して、自組織の採用活動を展開していくことが重
要です。
図表19
新卒採用と中途採用のメリット、デメリット(リスク)
ため
施設・
設・
施
事例1:定期採用を導入し、人材確保がうまくいった例
A特別養護老人ホームでは、かつては定期採用を行わず、中途採用のみで人材確保を行って
きた。定期採用を行ってこなかったのは、小規模事業所なので、必要な時に、必要なだけの数
の人材を補充することにより、余計な人件費負担が生じないようにするためであった。
しかしながら、現実には退職者の補充採用に年中追われているという状況で、結果的に採
用・教育コストが嵩んでいたため、3年ほど前から、定員3名の枠で新卒の定期採用を実施す
ることにした。
定期採用を行うことにより、一連の採用手続きを計画的に行うことができるようになるとと
もに、確実に人材確保ができるようになった。また、新卒者は他施設・事業所の色に染まって
いないので、自事業所の考え方ややり方を教えやすいというメリットも感じている。彼らをコ
ア人材としてどう育成していくかが、今後のテーマである。
§見直しの視点§
○定期採用を行っていなかった組織は、定期採用と通年採用のメリット・デメリットを比較
検討した上で、定期採用の導入を検討できないか?
24
3
法人単位で採用するか、施設・事業所単位で採用するか
一法人が複数の施設・事業所を有する場合、法人単位で採用するのか、施設・事業所単位で採用す
るのか、ということを検討する必要があります。それぞれの場合において、図表20のようなメリッ
ト・デメリット(リスク)が考えられます。
募集・採用の単位が大きくなれば、それだけ規模のメリットを生かしやすくなり、採用活動もやり
やすくなります。小規模施設・事業所では、なかなか独自の採用活動がうまくいかないというケース
も多いのではないでしょうか。そうした中、「合同採用」という新たな試みが行われつつあります。
「合同採用」は、深刻な採用難に対応するための手段として注目されています。
図表20
法人採用と施設・事業所採用のメリット、デメリット ※一法人、複数施設・事業所の場合
を
する
事例2:法人採用により、効率的・効果的な採用活動を行っている例
複数の施設・事業所を運営するB法人では、法人単位で職員の募集・採用活動を行っている。
法人の統括事務局が、各施設・事業管理者からの情報・要請をとりまとめ、採用活動の諸手続
を行っている(面接は現場管理者が入る)。
法人がとりまとめて行うことによって、採用活動の効率化や採用コストの削減等のスケール
メリットにつながっている。また求職者によっては、第一希望の施設・事業所に固執せず、他
の施設・事業所に振り分けができる場合もあり、柔軟な人員配置に役立っている。
同様に、複数の施設・事業所を運営するC法人も、正規職員については、法人の本部事務局
が一括して職員の募集・採用活動を行っている。同法人では、採用段階で求職者に希望は聞く
が、必ずしも希望を優先する配置を行っているわけではない。事業所間の人事異動についても、
「ある」ことを前提に採用しており、実際に定期的に人事異動を行っている。
同一の市内ではあるが、通勤の便という点では必ずしも近接しているとは言えない場所に所
在している。採用段階で、事業所間の異動を通じて、より見聞を広げキャリアアップにつなげ
て欲しいという趣旨を説明し、理解を得ていることもあって、職員は「人事異動は当たり前」
25
と受け止めている。事業所間で柔軟に異動ができるので、職員のキャリアアップと、柔軟な人
員配置に役立っている。
事例3:東京都社会福祉協議会による合同採用
東京都社会福祉協議会では、平成19年度より、都内の社会福祉法人等がネットワークを組ん
で、職員採用と人事交流を合同で行う全国初の取り組みを推進している。
合同採用では、小論文と適性試験で一次選考を行い、合格者にはネットワークに参加してい
る複数の施設・事業所と面接ができる“ネットワークパスポート”を発行する。パスポートの
有効期間は2年間(翌年度末まで)で、有効期間中に行われる合同採用試験ではネットワーク
に参加している施設・事業所の面接を受けることができ、合格した施設・事業所の中から就職
先を選ぶことができる。
合同採用試験から内定に至るまで、例えば「どの施設・事業所を受けよう」「複数の内定をも
らったけれどどうしよう」等々、東京都福祉人材センターが相談窓口となり求職者をサポート
する。また、採用後は、採用時合同研修を受講することになる。採用時合同研修は、職場以外
の仲間作りの場ともなる。
就職して3年経つと、ネットワークに参加している施設・事業所に出向や転籍の希望を出す
こともでき、福祉業界内でのコア人材の育成と定着を狙ったシステムとなっている。
図表15
合同採用試験のしくみ
1次選考のような
もの…
合同で
小論文
適性試験
パネ
スッ
ポト
ーワ
トー
取ク
得
2次選考のような
もの…
施設ごとで
面接
実習選考
就
職
し
た
ら
⋮
⋮
合同で
採用時研修
3年後
人事交流
資料出所:社会福祉法人東京都社会福祉協議会 東京都福祉人材センターより提供
§見直しの視点§
○法人採用や他法人との連携による合同採用など、採用実施単位を拡大できないか?
26
4
採用ターゲットをどう設定するか
(1)採用する人材像を明確にする
採用ターゲット設定にあたって、サービスを提供するのに必要な労働力が、必要とするときに、必
要なだけ、支払い可能なコスト(賃金)で確保できるように、採用する人材の働き方、業務範囲、労
働条件等を検討して、雇用管理区分を明確にすることが重要です。
介護施設・事業所では職種や勤務時間に応じて正職員だけでなくパートタイム(週の労働時間が通
常労働者より短い労働者)も採用しますが、正職員とパートタイムの賃金や福利厚生などの労働条件
は以下の3要件の比較により格差が制限されます。これは正職員と同じ仕事に就いていながら賃金な
どの待遇が正職員に比べ劣るパートタイムは、不満が大きくなり意欲や能力の向上に支障が出て職場
が不安定になるため、パートタイムの貢献度に応じた公正で均衡のとれた待遇を実現し意欲や能力を
向上させるためです。また、雇用保険や社会保険は労働時間に応じて適用条件が異なり、税制は一定
年収で適用されます。正職員だけでなくパートタイムを採用する場合に、パートタイムの採用と定着
を成功させ、かつ意欲と能力を向上させるには、これらの制限や雇用コスト、本人希望を把握して職
種や勤務時間に応じた最適な採用ターゲットを明確にする必要があります。
図表21 「正職員とパートタイムを比較する3要件」
①中核的な業務内容が正職員と実質的に同じかどうか。責任程度が正職員と著しく異ならないか
②転勤や職務内容の変更などの人材活用の仕組や幅と運用方法は正職員と実質的に同じかどうか
③契約期間の有無。契約期間があっても実質的に無期契約かどうか
労働条件 4種別
3要件を正職員と比較したパートタイムの4つの種別ごとの待遇制限
法令 ①②③が同じ
①②が同じ
①のみ同じ
すべて異なる
基本給/役付手当/賞与
◎
□
△
△
家族手当/通勤手当など
◎
−
−
−
退職手当
◎
−
−
−
職務能力上の教育訓練
◎
○
○
△
その他の教育訓練
◎
△
△
△
給食・休憩・更衣施設
◎
○
○
○
慶弔休暇/社宅など
◎
−
−
−
労働基準法/労働契約法
すべての労働者に適用
就業規則
パートの労働条件が正職員(通常労働者)と異なる場合は専用規定を作成
労災保険法
すべての労働者に適用
雇用保険法
労働時間1週20時間以上で6か月以上雇用予定者に適用
社会保険
健康保険の被扶養者
1日と1ヶ月の所定労働時間・労働日数が正職員の3/4以上の者に適用
年収130(180)万円未満の場合は健康保険被保険者の被扶養者になれる※
所得税控除対象配偶者
年収103万円以下の場合は所得税の控除(38万円)対象配偶者となれる
住民税控除対象配偶者
年収100万円以下の場合は住民税の控除(33万円)対象配偶者となれる
◎=パートタイムを理由とする差別的取扱い禁止、 ○=実施義務・配慮義務、 □=同一方法で決定の
努力義務、 △=全員一律ではなく個々の職務内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案する努力義務、
−=制限なし ※(180)は60歳以上の人の場合
27
(2)雇用管理区分ごとに求めるターゲット層の条件を設定する
採用する人材の雇用管理区分を明確にした上で、それぞれの雇用管理区分ごとに、求めるターゲッ
ト層の条件を設定します。ターゲット層の条件は、仕事をするために必要な資格要件、属性(性別、
年齢、学歴)、勤務条件、タイプ(性格、志向性、行動特性)等の角度から整理します。
その際、これまで設定していた条件を改めて見直し、「対象となるターゲット層の枠を広げる」と
いう視点が重要になります。これまでの理想の条件に固執していたのでは、人材供給が追いつかない
ことが懸念されます。量の不足を解消していくためには、今まで想定していなかったけれど、教育投
資をすることによって将来的に活躍が期待できる人材マーケットや、ポテンシャルのある人材マーケ
ット等に切り込んでいくというスタンスが重要になります。
ターゲット層の条件見直しの視点の例は、次の通りです。
ターゲット層の条件見直しの視点(例)
○必要な資格要件を緩和する
・介護福祉士有資格者だけではなく、ヘルパー2級や無資格者も可とする
・経験者だけではなく、未経験者も可とする
○属性
・福祉系の学校・学部だけではなく、非福祉系の学校・学部まで広げる
・専門学校や大学だけではなく、高卒者も対象にする
・年齢層の幅を広げる
・性別にこだわらない
・ターゲット層が属するエリアを広げる
○タイプ
・必ずしも、福祉・介護業界に興味を持たない人まで対象を広げる
上記の視点は、あくまでも「組織の期待」としてのターゲット層の条件です。実際の募集・採用活
動においては、次のような性別・年齢などの採用基準がありますので、注意してください。
注:性別・年齢などの採用基準について
募集・採用の基準をどうするかは、基本的には雇い主が自由に決められますが、性別や年齢
などにより基準を設定することは、原則として違法な差別として法律で禁止されています。
〈性差別の禁止〉
募集・採用の際、次のような差別的取り扱いは、男女雇用機会均等法(平成19年改正)違反
となり、国から報告を求められたり助言や指導、勧告を受けることがあります。勧告に従わな
かった場合はその旨を公表することができます。
① 募集・採用にあたって、その対象から男女のいずれかを排除すること
② 募集・採用にあたっての条件を男女で異なるものにすること
③ 採用選考時の能力や資質の判断の方法や、基準を男女で異なる取り扱いをすること
④ 募集・採用にあたって男女のいずれかを優先すること
⑤ 募集・採用にあたっての情報提供について、男女で異なる取り扱いをすること
〈年齢差別の禁止〉
募集・採用にあたっては、ハローワーク利用の場合だけでなく求人広告や事業主の直接募集
28
の場合でも、例外事由に該当する場合を除いて原則として年齢を不問としなければなりません。
年齢制限は雇用対策法(平成19年改正)により原則禁止され、違反する場合などはハローワー
クの助言や指導、勧告を受けることがあります。
図表22 「組織の期待」としてのターゲット層の条件変更:正規職員の新卒採用の例
〈条件変更の視点〉
「福祉介護系高校・専門学校・短大・大学卒」「介護福祉士」「福祉・介護業界で働きたい」
という条件に対して、「非福祉介護系高校・専門学校・短大・大学卒」まで枠を広げる。福祉・
介護業界や自施設・事業所について知って、理解してもらう機会を持つことによって、この業
界で働きたいという気持ちを持ってもらう。初めから福祉・介護業界を目指しているわけでは
ない人、働きたい業界ややりたい仕事がまだ決まっていない人を、ターゲットとして取り込む
ことができる。
29
図表23 「組織の期待」としてのターゲット層の条件変更:正規職員の中途採用の例
〈条件変更の視点①〉
「介護実務経験1年以上」という条件をはずす。即戦力にはならないかもしれないが、3か
月のOJT教育で、3か月後に夜勤ができるレベルまで引き上げる。ヘルパー2級の潜在的有資格
者をターゲットとして取り込むことができる。
〈条件変更の視点②〉
「ヘルパー2級以上」という条件をはずし、「介護実務経験1年以上」を「社会人経験3年以
上」に変える。無資格・未経験なので、公的資格の取得や介護スキルの習得は、採用後の教育
において行う。社会人経験を通じて、目標達成意欲やバランス感覚、対人コミュニケーション
力が備わっているという人材をターゲットとして取り込むことができる。
〈条件変更の視点③〉
「20∼30代前半の若手」という条件に対して、「30代後半∼50代の中高年主婦層」まで枠を広
げる。ヘルパー2級を取得し、介護業界で働いていたが、結婚・出産・育児・夫の転勤等の事
情により退職。子育てが一段落したので、もう一度介護業界で仕事をしたいという人材を取り
込むことができる。条件変更例②③合わせて変更可能であれば、一定の社会人経験や職業能力
を有し、再就職への意欲が高い中高年の主婦層をターゲットとして取り込むことができる。
〈条件変更の視点④〉
「通勤圏内に在住」という条件に対して、エリアを広げる。寮の提供、家賃補助などが可能
かどうかによる。広いエリアから、現在の居住地にこだわらない人材をターゲットとして取り
込むことができる。
30
事例4:新規オープンにあたり有資格者をターゲットにした大規模採用
新設のD特別養護老人ホーム(定員120名)は、特養の他に、老健、ケアハウス、通所事業等
を総合的に運営する大規模施設である。オープンにあたり特養および他事業も含む全体で168名
(内定は219名)の介護職の大量採用を成功させた。
同特養の採用メインターゲットは、新卒・中途の介護福祉士有資格者であった。近隣∼関東
一円を中心に採用活動を行う一方で、マスコミ等を通じた広報活動にも熱心に取り組んだ結果、
全国各地から応募があった。住宅斡旋制度もあり、広域から採用できる体制ができている。
とはいえ、やはりこれだけの大量採用となると、全員介護福祉士で充足させるのは難しく、
途中から、ヘルパー2級も可として、採用ターゲット層を広げ、何とか目標人数を充足させる
ことができた。
開設1年目は、マネジメント体制やシステム等が整わず、退職者も多く出た。今後、人材が
定着し、採用人数が絞られるまでは、ある程度ターゲット層の枠を広げて採用活動を行う予定
である。
事例5:資格・経験を問わない内部養成型
C法人(前出)では、以前から無資格者でも人物本位での採用を行っていたが、昨年初めて、
無資格者をターゲットとすることを大きくうたって募集・採用を行った。その際、全額法人の
費用負担で仕事をしながらヘルパー2級の資格を取得してもらうということを打ち出した。
必ずしも反響は大きくなかったが、他業界からの転職者や専業主婦など、数名の応募者があ
り、その中で2名を採用した。募集の際のアピールの仕方などは今後、さらに検討の余地があ
ると感じているが、他業界や専業主婦といった層から良い人材を発掘できるという実感を持つ
に至っている。
同法人ではもともと、資格や経験がなくても、内部養成が可能な教育システムを整備してい
る。新任職員の集合研修、定期的な現任職員研修の他に、職員個々の力量に合わせて行う「個
別研修」を実施している。この個別研修は、年に1回個々人のスキル評価を所属長が行い、評
価結果に基づいて、どのような教育が必要か洗い出しを行い、実際に個人別の指導計画に落と
し込みを行う。こうした個人別の指導を行う他、外部研修に派遣をしたり、法人の教育研修部
会が主催する集合研修に参加させるなど、個々人に応じたカリキュラムで弱い点、不足の点を
補強するという仕組みになっている。
今後は、この内部養成の教育システムによる人材育成と、ヘルパー2級取得の支援という組
み合わせで、より広く人材確保と養成を行うことを検討していきたいと考えている。
§見直しの視点§
○ターゲット層を広げるために、ターゲット層の条件を変更できないか?
31
注:非正規職員の正規職員への登用について
改正パートタイム労働法(平成20年4月施行)では、事業主はパートタイム労働者をいわゆ
る「正規型」の労働者への転換を推進するための措置を講じることが義務づけられています。
例えば、正規職員を募集する場合、その募集内容を既に雇っている非正規職員に周知したり、
非正規職員が正規職員に転換するための試験制度を設けるなどの仕組みが必要になります。
5
どのような募集ルートを活用するのか
(1)複数の募集ルートの活用により、求職者との接点拡大を図る
どのような募集ルートを活用するのかを検討するためには、自組織がターゲットとする人材が「ど
こにいるのか」、そして「どのようなルートで求職活動を行っているのか」を知らなければなりませ
ん。
例えば、求職者を大きく、新卒と中途採用に分けて、求職者の主な就職活動のルート、およびそれ
に対応した施設・事業所の募集ルート・活動内容を照らし合わせてみると、図表24のようになります。
採用活動では、「これが正解」というやり方はありません。どのようなやり方でも、一長一短があ
ります。募集ルートについても、核となるルートを築くとともに、複数のルートを活用することによ
り、いかに求職者との接点拡大を図るかが重要です。
昨今の傾向としては、ITの活用は欠かせません。新卒・中途を問わず多くの求職者は、インター
ネットで求人情報を探索するという行動をとります。自組織のホームページや、就職サイト等による
情報発信は、広く求職者に働きかける上で、重要な役目を果たします。ITを活用した情報戦略は、
今後ますます重要なテーマになると思われます。
32
図表24
求職者の主な就職活動のルートと、施設・事業所の募集ルート・活動内容
説明
(2)
「待ち」から「攻め」の採用活動へ
募集ルートの効果的な組み合わせの検討も重要です。図表25にあるように、働きかけの方法も、い
わゆる「プル型(引き)」と「プッシュ型(押し)」があります。
「プル型(引き)」は、募集広告を出すとか、求人票を送付するとか、ホームページで求人情報を
発信するなどの方法により、求職者側からのアプローチを促すような方法です。一方、「プッシュ型
(押し)」は、採用説明会、OB・OG、リクルーターによる学生との接触、実習や施設・事業所訪問、
現場見学の受け入れ等により、採用担当等が積極的に求職者に対して売り込みを図る方法です。
学校やハローワーク、福祉人材センター等に求人票を出すだけであれば「プル型(引き)」と言え
ますが、何度も足を運んで自施設・事業所の方針や良い所を理解してもらったり、担当者との信頼関
係を作るなどの働きかけを行うことは、仲介者を通じた「プッシュ型(押し)」と言えます。
33
「プル型(引き)」は「待ち」、「プッシュ型(押し)」は「攻め」の戦略とも言われています。双方
の特徴を考慮した上で、その最適な組み合わせとウェイトを検討することが必要になります。同じタ
イプのルートだけを活用するよりも、違うタイプのルートの組み合わせを考えた方が、より間口を広
げることができます。「口コミで応募する人が増えた」など思いがけない相乗効果が得られることも
あります。募集活動においては、「1+1=2」ではないのです。
また介護業界においては、今までのやり方が「求人票や求人広告を出す」といった「待ち」の採用
活動に偏っていなかったか、「攻め」の採用活動をもっと強化できないか、改めて検討する余地があ
るでしょう。実習受入体制の強化、学校訪問やOB・OGによる接触などの人海戦術の強化、採用説明
会のやり方の工夫、施設・事業所訪問や現場見学の受入の工夫など、新たに取り入れたり、やり方を
改善するなど着眼点はいろいろありそうです。
図表25
34
募集ルートの組み合わせ
事例6:募集ルートの多様化で表面積を増やす
D特別養護老人ホーム(前出)は、オープンに向けて200名に近い介護職員を必要としていた
(実際の内定者数219名、採用者数168名)。オープンの日が決まっていたので、採用活動に使え
る期間は11ヶ月。
他県からの進出なので、地元では知名度がない。募集ルートのパイプもないという状況であ
った。そこで、募集ルートはなるべく限定しないで、多様な試みを行い、働きかけの間口を広
げるということに徹した。一般的な募集ルートはもちろん、マスコミの取材にも積極的に応じ
た。職員・友人・知人などのネットワーク活用も積極的に行った。
合わせて、PR、採用活動の「量」にもこだわった。例えば学校訪問なども、訪問対象をで
きるだけ多くするとともに、「これは」という所に対しては、同じ学校でも何度も足を運んだ。
このように、パイプをできるだけ多く、そして太く築くことによって、見知らぬ土地での採用
活動を成功させたのである。
(3)実習やインターンシップの受入について
実習生の受入は、自組織への関心を高め、就職希望者を増やす上で、重要な役割を果たします。う
まくいけば確実な募集ルートの確保につながりますが、下手をすれば、採用前に組織の「現実」を見
せることによって、かえって就職を避けるようになってしまう恐れもあります。現実に、実習を経験
したことで、介護の現場から去っていったという事例も少なくありません。
ただ単に実習やインターンシップの受入をすれば、それが採用につながるというものではありませ
ん。受入体制、指導の仕方が問われますし、併せて施設・事業所や職場の魅力自体が問われます。日
頃からの事業所の魅力づくり、生き生きと働ける職場づくりが改めて大切だといえます。
事例7:実習からうまく採用に結びつけている例
E特別養護老人ホームの年間採用目標数は40名(新卒30名、非正規職員から正規職員への内
部登用10名)である。
同法人(利用者定員1,500名)では、年間2,000名の実習生を受け入れており、新卒採用者30名
のうち約8割が同特養での実習経験者で、実習からうまく採用に結びつけている事例と言える。
実習中は、実習担当者をつけて、生活面の指導・支援やステップを踏んだ実地教育を行うよ
うにしている。実習状況が良い学生については、実習担当者から採用担当者へ連絡を行い、実
習終了後、採用担当者からコンタクトをとるようにしており、継続的なアフターフォローを行
っている。
35
§見直しの視点§
○核となる募集ルートを持っているか?
○募集ルートをもっと多様化・複数化できないか?
○プッシュ型の働きかけを強化できないか?
○実習受入体制を強化できないか?
6
求職者への効果的な情報提供とは
(1)どの段階で、どのような情報提供をするか
第1章で触れたように、「募集」→「選考」→「内定」→「入職」という一連の採用プロセスを、
「AIDAS」という、マーケティングにおける顧客獲得のための思考・行動特性のモデルに照らし
て見ると、プロセスごとに必要な組織行動が見えてきます。
A=Attention(注意)…知ってもらう
I=Interest(関心)…興味を持ってもらう
D=Desire(欲求)…行きたいと思わせる
A=Action(行動)…応募してもらう
S=Satisfaction(満足)…フォローし、定着してもらう
(再掲)
ここでは、「AIDAS」に照らして、どの段階で、どのような情報提供が効果的かを検討してみ
ましょう。
① アピールポイントを明確にする
まず「A=Attention(注意)」の段階では、福祉・介護の業界に興味・関心を持ってもらうこと、
さらに自施設・事業所に対する注意を引き付けることが重要になります。採用ターゲットに向けたイ
ンパクトのある訴求が必要です。広く求職者に向けて情報発信をする段階ですから、「より広く」「よ
り目立つ」がポイントです。
ここで「より目立つ」ためには、自組織のアピールポイントを明確に持っていることが重要です。
自組織の何が強みか、何がアピールポイントになっているのか、明確に認識しているでしょうか。本
書の第2章でもとりあげたように、自組織を知るということが重要になります。職員に入職の決め手
となったのはどんなことか、改めて聞いてみることはアピールポイントを探す重要な手だてとなりま
す。また、人材が定着する職場のポイントは、募集・採用段階でのアピールポイントになるはずです
(第4章 第2節参照)。
36
② 関心を高めて行動につなげる
自施設・事業所に目を向けてもらうことができたら、次はもっと関心を高めてもらう、理解を深め
てもらうという段階「I=Interest(関心)」に持っていき、さらに興味・関心を「応募しよう」と
いう「D=Desire(欲求)」に結び付けていかなければなりません。この「I=Interest(関心)」
「D=Desire(欲求)」の段階では、目を向けてくれた求職者に対して、フォローや情報提供を行い、
自施設・事業所に「応募したい」という動機を強化することが重要です。ここでは「より深く」「よ
り心に響かせる」がポイントです。
求職者は、応募をしたからといって、「この施設・事業所に絶対入りたい」と考えている訳ではあ
りません。面接や選考の過程で、「働きやすい職場か」「言っていることと現実は違わないか」「ご利
用者は満足しているか、職員は生き生きしているか」など最終確認し、取捨選択します。こうした逡
巡や迷いを払拭し、最終的な「Action(行動)」、つまり「入職の覚悟を決める」というところに持っ
ていかなければなりません。そのためには、求職者の心に食い込み、確信させるようなやりとりが必
要です。この段階になると、
「より心に食い込む」と同時に、お互い「より現実的に」
「より客観的に」
ということもポイントになってきます。
③ 求職者が受け取る情報は言語情報だけではない
求職者が受け取る情報は、施設・事業所側が発信する言語情報だけではありません。電話をかけた
時の職員の対応や、訪問したときの施設・事業所の雰囲気、採用説明会での幹部や人事担当者の態
度・応対等も重要な情報だということを忘れないでください。
マナーや身だしなみ、接遇の態度など、基本的な応対が悪ければ、それだけで施設・事業所に対す
る興味・関心、ましてや「応募してみよう」という気持ちもかき消されてしまうことになりかねませ
ん。逆に、「電話をかけた時の応対が良かった」「就職フェアでの担当者の感じが良かった」という印
象情報は、「もっとこの施設・事業所を知りたい」という興味・関心につながり、さらには「応募し
てみよう」という動機に変わったりすることもあるのです。
求職者は「お客様」です。お客様に対する「おもてなし」や「感謝の気持ち」を持って接する姿勢
が大切です。
37
図表26
求職者の思考・行動特性に応じた施設・事業所の採用活動と情報提供の留意点
法人
ホームページ
・OG
ホームページ
・OG
職
職
職
事例8:Attention(注意)の段階で、先輩職員の生の声をホームページや施設・事業所案内に掲載
し、働きがいを訴求
B法人(前出)では、採用プロセスの「Attention(注意)」の段階においては、仕事、職場、
仲間を表現することを重視している。ホームページや施設・事業所案内に、自組織独自の研修
制度やキャリアアップの仕組みをアピールするとともに、先輩職員の生の声を掲載し、事業所
の風土や働きがいなどを訴求している。
F特別養護老人ホームでも、ホームページや施設・事業所案内に、前年度採用者の体験談、
先輩からのメッセージ、仕事内容についてのレポート等を掲載し、働きがいや働きやすさ等を
訴求している。先輩職員の体験談やメッセージは、入職後の生活の様子を垣間見ることができ
る情報として、求職者に有効に働きかけているようである。
38
事例9:採用説明会の実施により施設の理解促進
D特別養護老人ホーム(前出)は、新規オープンにあたり、11か月間にトータル39回の採用
説明会を実施した。他県からの進出で、地元では知名度がなかったため、法人や施設のことを
知ってもらうことが先決だったからだ。
この段階では、まず信頼できるバックボーンがあることを理解してもらう必要があると考え、
法人の歴史や規模を大きくうたい、法人や施設への信頼性を訴求した。さらに、建設途上の施
設について、「新しい」「広い」「きれい」「自然環境が良い」といったハード面を、CGを使っ
てビジュアルで訴求した。ハード面の訴求は、「Attention(注意)」を「Interest(関心)」に高
める上で、効果が高かったと担当者は実感している。
採用説明会では、来ていただいた方に対して感謝の気持ちを示すということを重視した。説
明会では、心から「本日はお越しいただき、ありがとうございます」「当施設に興味を持ってく
ださってありがとうございます」という感謝の気持ちを述べるようにした。また、職員のマナ
ーや対応などでも悪印象を持たれないよう気を配った。
一度接触した求職者に対しては、こまめな情報提供やフォローを行うことによって、自組織
に対する興味関心を維持・向上できるように心がけた。さらに、できるだけ多くの人と一対一
で合う“面談”の機会が持てるように、採用試験を「面接会」という名称にして、“試験”に対
する抵抗感を払拭するなど、量を確保するための様々な工夫を行った。
(2)期待のミスマッチを防ぐために
採用に関わる情報提供で、施設・事業所や仕事内容に関する説明不足や誤解があったりすると、入
職後「こんなはずではなかった」というミスマッチが起こります。
採用活動においては、施設・事業所や職務の“良いこと”を中心に情報提供し、魅力を高めて応募
者、就職者の質、量を高めることを狙うのが一般的です。しかしそれは就職後、現実とのギャップを
拡大し、ミスマッチを招くことにもなりかねません。福祉・介護業界でも、ミスマッチによる離職は
非常に多いのが実情です。このようなミスマッチを防ぐためには、どうしたらよいでしょう。
① 現実的・客観的な情報提供により、職場や仕事の納得感を高める
職場や仕事について、良いことも悪いことも含む現実的な情報提供によって、入職前の納得性を高
めるという考え方も必要です。例えば、「仕事の面白さ」や「働きやすさ」をアピールするだけでは
なく、「仕事の大変さ」もきちんと伝えておくなどです。入職前の過剰な期待や、職場や仕事に対す
る誤ったイメージは、できるだけ払拭しておきたいものです。
これは、施設・事業所や仕事の「愚痴」や「悪口」を言うということとは違いますので、注意して
ください。採用側の人間が、愚痴をこぼしたりしたら、求職者はすぐさまその施設・事業所から離れ
ていくでしょう。
労働条件に対する認識の違いが、入職後のミスマッチを招くこともあります。賃金、労働時間等の
労働条件は、制度と実態に乖離があるケースも多々あります。採用時に、求職者は労働条件について
の踏み込んだ質問をしにくいものです。施設・事業所側が、誠意をもった説明を十分に行うというス
タンスが重要です。
39
注:労働条件の明示について
労働基準法では、すべての労働者と労働契約を結ぶ使用者に労働条件の明示を義務づけてい
ます。特に①契約期間、②就業場所と業務内容、③始業終業時刻や残業、休日労働の有無など、
④賃金の額や締切支払日など、⑤退職に関する事項については書面を交付して明示しなければ
なりません。違反すると30万円以下の罰金に処せられることもあります。
さらにパートタイム労働法(平成20年4月施行)では、パート労働者(週所定労働時間が通常
労働者に比べ短い労働者)を雇用した時は昇給・退職手当・賞与の有無について文書の交付に
よる明示が義務付けられています。違反すると10万円以下の過料に処せられることもあります。
② 体験就業の機会を用意する
より双方の納得感を高めるためには、職場や仕事を「経験してもらう」機会をできるだけ作ること
も重要です。先にも触れたように、実習やインターンシップ、ボランティアの受け入れは、自組織を
知ってもらう絶好の機会になります。また日常的に「1日就業体験」などの窓口を持っておくと良い
でしょう。
さらに、採用・選考の段階で、応募者にできるだけ職場や仕事の現実を肌で知ってもらうために、
「本採用前の就業体験」の機会を用意しておきたいものです。
とくに他施設・事業所での経験者を中途採用する場合など、ケアの理念や方法に対する納得感も大
きな要素になります。
「前の職場でのやり方と違う」「前はこうだったのに」と、新しい施設・事業所
のやり方に馴染めないというミスマッチも少なくありません。入職前に、自施設・事業所のやり方を
理解し、納得してもらうことは、このようなミスマッチ解消に役立ちます。
事例10:採用段階で就業体験ができる施設の例
G法人は、職場説明会・見学会を経て応募のあった求職者に対する選考方法として、一次選
考で面接を行い、二次選考として2∼3日の現場実習を実施している。現場実習を選考に取り
入れているのは、本人が抱く福祉現場のイメージと実際との乖離を回避し、また先輩スタッフ
が当該求職者を仲間として受け入れられるか、双方が確認を行う場とすることをねらいとして
いる。
これは、正規・非正規に関わらず、面接合格者全員に実施している。現場実習に参加後は、
本人に実習感想文を提出してもらうとともに、実習現場スタッフからも評価をしてもらう。最
終的な採用の可否の判断は、①面接 ②現場実習への参加 ③実習感想文提出 ④実習現場ス
タッフからの評価 ⑤管理者会議にて採否決定というプロセスを経ることになる。
こうしたプロセスを経ることにより、本人と法人側双方の納得度を高めることに役立ってい
る。
40
③ 双方向のコミュニケーションで求職者についての情報を得る
求職者が情報を受け取る機会は、ウェブ、就職フェア、現場見学、採用説明会、面接、体験就業な
ど、多々あります。その際、施設・事業所側が一方的に情報提供するだけではなく、双方向のコミュ
ニケーションが機能するような仕組みが大切です。
求職者が情報を受け取る機会は、施設・事業所側が求職者についての情報を受け取る機会でもあり
ます。求職者の人物、意欲・能力、考え方、質問・意見など、相手の情報をより引き出すことにより、
相手を“見極める”材料をより幅広く得ることが必要です。施設・事業所側の「こんなはずではなか
った」というミスマッチを防ぐためです。
§見直しの視点§
○AIDASのプロセスに照らして、情報提供の仕方で見直すべき点はないか?
○求職者の期待と現実のギャップを埋めるための対策を講じているか?
41
7
適切な選考のために
(1)できるだけ現場のメンバーにも同席してもらう
一般に、採用の際の判断基準には、次のようなものがあります。
○能力的側面…基本的学力、知識、スキル、経験、センス、ポテンシャルなど
○意欲的側面…志望動機、積極性、達成動機、バイタリティ、持続力など
○人物的側面…社会性、規律性、協調性、コミュニケーション力、明るさ、個性など
採用の際に何を重視して判断するかによって、選考方法も異なってきます。例えば、筆記試験、適
性試験、性格検査、集団面接、個人面接等、さまざまな方法があります。一つの方法だけに頼らず、
いくつかの選考方法を活用した方が、採用の適切性は高まります。例えば、一対一の面接を主軸にお
いて、適性試験や性格検査などの結果を補助材料とするなどです。
面接の回数も、様々です。一例を示すと以下の通りです。できれば、人事担当者だけではなく、現
場の部課長クラスや、一緒に仕事をするリーダークラスも面接に同席する機会を持つようにできると
良いでしょう。お互い「これから一緒に仕事をしていく仲間になる」というイメージがわくかどうか
は、重要な判断材料になります。
事例11:二次面接で現場の部課長クラスに入ってもらう
H特別養護老人ホームにおける選考の流れは、次のようになっている。一次面接では、人事
担当者による基本的な施設・事業所情報の説明や、応募動機の確認などを行い、二次面接で現
場の部課長クラスに入ってもらう。
これは、現場の視点で応募者の適性や人物を見るということ、そして仲間として受け入れら
れるかということを確認するためである。
面接
一次面接
二次面接
三次面接
42
担当
内容
人事担当者
・基本的な施設・事業所情報や求人情報、労働条件についての確認
・応募者の志望動機、経歴、仕事への意欲などの確認
・応募者の経験、能力、資質、人物を判断する材料をできるだけ引
き出す
・応募者の志望動機、経歴、仕事への意欲などについて、現場の視
点から再確認
現場の部課長クラス
・現場における仕事の実際などについての確認
・良い点だけではなく、大変さも強調する
役員、トップ
・最終的な意思確認
(2)面接で相手のバックボーンを理解する材料を引き出す
選考の要は、「面接」です。採用経験の長い担当者になると、一度会って話をすれば、相手の人と
なりや能力、意欲などだいたいわかってしまうといいます。
そうはいっても、面接のノウハウは組織で共有化しておきたいものです。相手の経験、能力、資質、
人物を判断する材料をできるだけ引き出すことが重要です。そのためには、いくつかの留意点があり
ます。
いくら思いや考え方を聞いても、弁が立つ人や、口当たりの良いことを言う人が有利になってしま
います。そうではなく、「これまで何をやってきたのか」という質問を多く用意し、経験や行動の事
実を話してもらい、バックボーンを理解することが重要です。経験や行動の事実は、作り話ではなか
なかできるものではありません。いつ、どこで、何をして、どのような成果があったか、その時周り
の反応はどうだったかなど、具体的な質問を重ねていけば、相手の経験、能力、資質、人物を判断す
るための真の情報が得られるはずです。
また、施設・事業所側からの一方的な質問だけで終わらないように留意したいものです。求職者の
側も、施設・事業所に対する理解を深めるための情報を得たいと考えています。面接は、双方向のコ
ミュニケーションが最も有効に機能する場となります。お互いをより理解し、信頼を寄せることがで
きるような機会にしたいものです。
相手のバックボーンを理解する面接の留意点
① 一方的な情報提供や売り込みに終始しない
施設・事業所側の情報提供や売り込みの時間が多く、求職者に聞くことが少ないのはNG。
求職者の話を聞くことにウェイトを置くこと。
② はい、いいえで答えられる質問は避ける
悪い例:「あなたはリーダーシップがありますか?」→「はい、ある方だと思います」
良い例:「あなたのセールスポイントを教えてください」→自由に話してもらう
③ 考え方ではなく、具体的な経験や行動の事実を聞く(いつ、どこで、何をして、どのような
成果があったか、その時周りの反応はどうだったか…など)
悪い例:考え方ばかり聞く
ex.「…についてどう思うか」
「…をどう考えるか」
良い例:具体的な経験や行動の事実を聞く
ex.「あなたが介護の仕事を志すきっかけとなった出来事を教えてください」
「あなたは、前の職場でリーダーシップを発揮したと言える経験について教え
てください」
④ 最後に求職者からの質問の機会を用意する
施設・事業所側からの一方的な質問で終わらず、最後に求職者からの質問の機会を用意す
る。
43
(3)面接者も面接されている
面接においても、施設・事業所と求職者は、相互に「選び・選ばれる」関係にあることを忘れては
いけません。求職者も、面接者をよく観察しています。面接者の些細な言動が、求職者の心を引きつ
けることもあれば、離反させていく原因にもなります。
面接者は面接に臨む際、服装・身だしなみ、挨拶・接遇マナー、そして面接の態度には気を付けた
いものです。威圧的な態度、慇懃無礼な振る舞い、相手が不快に感じるような質問など、いずれも避
けなければなりません。逆に相手に媚びへつらうような態度も、決して好ましいものではありません。
自分たちも「選ばれる立場にある」ということを常に念頭におき、身だしなみやマナー、態度など
で、くれぐれも求職者から「NO」と言われる要因を作らないように留意してください。
§見直しの視点§
○応募者と現場の職員、双方の納得性を高めるために、現場の職員が選考に参加している
か?
○応募者の人となりや意欲・能力を十分に把握できるような面接をしているか?
○面接者が不適切な態度、発言などをするようなことはないか?
8
内定者をいかに引き留めるか
採用者を決定し、合格通知(内定)を出しても、採用担当者の心労はなくなりません。内定を辞退
して、入職まで至らない人が少なからずいるからです。そのため、辞退者防止のための様々な工夫が
必要になります。
新卒者の場合は、内定から入職まで空白の時間が長いので、とくに注意が必要です。また、現職を
持っている人の場合も、現職を円滑に退職して転職するには、引き継ぎ等に数か月も要することがあ
ります。時間が経つうちに“心変わり”ということも、ままあります。
内定者の引き留め策として、一般的なのは次のような方法です。様々な方策の中でとくに効果的な
方法は、人的コミュニケーションです。先輩職員が定期的にフォローをする仕組み、経営トップ層や
現場職員と接点を持つような機会、内定者同士が仲間意識を持つような機会を設定することにより、
新入職員としての自覚と意識を高める効果を発揮します。
44
内定者の引き留め策の例
・施設だよりの送付やメール配信など定期的な情報提供
・講演会、イベント、法人所有施設などへの案内
・OB・OG、リクルーターによるフォロー
・経営トップ層や現場職員との懇談会
・内定者同士の懇親会や食事会
・内定者集合研修の実施
・通信教育・eラーニングの実施、課題図書の送付
事例12:内定式でロイヤリティーを高める
D特別養護老人ホーム(前出)では、内定者の引き留め策としては、定期的な広報誌の送付、
公開セミナーの案内などの情報提供を行うなど、内定者との接点を保ち続けることに留意して
いる。また、内定式は大々的に、華々しく行うようにしている。ホテルの宴会場で、法人の理
事長から直接内定書を授与することや、食事会を実施。法人の経営層や施設・事業所のスタッ
フとの親睦の機会を持つことによって、内定者の気持ちを高めることを狙いとしている。
事例13:内定者の事前研修、勉強会で意識付け
B法人(前出)では、新卒の内定者については、内定後数回の内定者研修、および入職前の
3月に、採用前事前研修(約10日間)を実施している。内定者に対して、入職前に集中的な集
合研修・教育を行うことにより、新入職員としての自覚を早期に高める、早期に同期意識を形
成することを通じて、内定者の辞退を防ぐことがねらいである。また、4月の入職後、直ちに
現場に配属しOJTに入ることができ、早期育成を可能にするという狙いも併せ持っている。
同法人では、採用コストの中で、この内定者研修の費用が最も高いウェイトを占めているが、
それだけの効果があると判断している。
§見直しの視点§
○適切な内定者の引き留め策を講じているか?
45
9
採用実務について
採用活動のプロセスは、個々の採用実務に落とし込みを行い、実施をしていくことになります。一
連の採用プロセスにおける採用実務については、図表27の通りです。採用担当者は、次のような点に
留意したいものです。
○採用担当者の独断にならないように
・採用担当者が、自組織の現状や、現場の意見を気にせずに、採用活動を進めていくことがないよ
うに。現場の意見吸い上げ・調整を行い、意思決定をしていくプロセスが重要。
○過剰分析に陥らない
・過剰なまでに緻密な情報収集・分析を行う必要はない。分析的アプローチは重要であるが、それ
に時間をかけ過ぎていては、スピーディな対応が難しくなる。
○絵に描いた餅で終わらない
・計画を立てても、行動が伴わず、絵に描いた餅で終わってしまわないように。机上では人は採れ
ない。足で稼ぐことを原点に。
○現状維持型発想から抜け出す
・現状維持型発想から抜けだそう。一つでも、二つでも、今までとは違うアプローチ、方法を考え
てみる。
○横並び意識を捨てる
・横並び意識は不要。他もこうだからという発想では、差別化できない。
○問われる調整力、統合力
・採用活動は、多くの内部・外部の関係者・関係機関と調整、連携をとりながら、一つの方向性に
まとめ上げ、目標を達成しなければならない。調整力、統合力が問われる。
46
図表27
採用実務の例
47
10
採用推進体制、採用コストについて
(1)採用活動は組織をあげて
採用活動は、営業活動に例えることができます。施設・事業所という商品を、求職者という顧客に
買ってもらうための活動なのです。
中小の施設・事業所では、一人か二人の採用担当者が、情熱と根性で採用活動を行っているという
例が少なくありません。しかし、一人か二人の採用担当者の行動にも、限界があります。せっかく
「多様な募集ルートにあたってみる」「脈のありそうな学校に、足繁く通う」「合同説明会に参加して
みる」など、攻めの採用活動に転換しようと思っても、少数の採用担当者の力量だけでは対応しきれ
ず終わってしまう懸念もあります。
採用推進体制としては、人事課の採用担当だけではなく、現場の部課長クラスやリーダークラスも
巻き込んで展開していくことをおすすめします。
例えば、現場のメンバーには、OB・OG、リクルーターとして学校とのパイプ役、学生との接触や
フォロー、実習生の受入からフォローまでの役割を担ってもらいます。どのような求人広告が効果的
か、現場の意見を取り入れながら進めることも有効です。
就職フェアや、合同説明会、採用説明会、面接等の場にも、現場のメンバーに入ってもらうことも
効果的です。実際に現場で働いている人からの情報提供は、求職者にとってより現実味があり、興味
を引く内容です。また、実際にどのような人が働いているのかということもわかります。就職フェア
や採用説明会などでは、採用ターゲットに応じて、身近で話しやすい職員を配置することによって、
気安さが生まれ「ちょっと話を聞きに行ってみよう」といった行動を促すことにもつながります。
「採用は、人事担当者だけの仕事ではなく、組織をあげてやるもの」という認識を職員に持っても
らうことができれば、採用パワーは飛躍的に向上するでしょう。
なお、OB・OG、リクルーターは、単に活用すれば良いのではなく、採用のためのスポークスマン
として人選に気をつかうとともに、トレーニングを行う必要があります。これを怠ると、先にも触れ
たように、「感じが悪かった」「失礼な対応をされた」「愚痴を聞かされた」など、マイナスになる恐
れもあるので注意が必要です。
事例14:OB・OGを活用した採用活動
I法人では、新卒採用のための学校訪問や学内説明会の開催において、同校卒業のOB・OG、
そして彼らが勤務する施設・事業所の事務担当者に同行してもらうようにしている。卒業生が
生き生きと仕事をしているということをアピールすることが狙いである。学校とのパイプを強
くするとともに、学生に対して安心感や信頼を与えることにつながっている。
48
(2)適切な採用コストとは
採用にかかるコストを計算したことがあるでしょうか。採用担当者の直接人件費をはじめとして、
募集広告費、就職セミナーや採用説明会の開催費、採用案内や施設・事業所案内の制作費、DVDや
ビデオなどのツール制作費、採用活動にかかる旅費・交通費、ホームページ作成・更新費用、適性検
査・筆記試験等の費用、健康診断の費用…など、さまざまなコストがかかります。
予算が少なければ少ないほど、採用活動も苦しい状況になります。一方で、相当の投資をしても、
成果が上がらないという事例も実際にあります。いったい適切な採用コストはどのくらいなのでしょ
うか。中長期および年度の経営計画に基づき、必要な要員(採用者数)を計算するとともに、採用コ
ストをシミュレーションすることが必要です。
毎年の積み重ねにより、費用対効果を検証しながら、自組織にあった採用活動の「型」を作ってい
きたいものです。
図表28
新規学卒者の一人当たり採用コスト(参考データ)
図表29
新規学卒者の費目別採用コストと構成費(参考データ)
内定者フォロー
22,645
(6.1%)
インターネット関連
157,595
(42.4%)
学校訪問
5,390
(1.4%)
企業セ
DM、情報 面接(会 ミナー 入社案
誌掲載
場費等) (会社説 内作成
47,551
40,406
明会) 34,217
(12.8%) (10.9%) 36,108 (9.2%)
(9.7%)
OBとの懇談会
3,283
(0.9%)
その他
24,625
(6.6%)
49
第
4
1
章
採用した人材を定着させる
(初期の定着策)
なぜ辞めてしまうのか
せっかく苦労して採用した人材も、すぐに辞めてしまったら、施設・事業所が被る損失は計り知
れません。採用にかけたコストがムダになってしまうばかりか、新たな人材確保のためにさらにコ
ストを費やさねばなりません。そして何より、人が定着せず育たないということは、組織を支える
人的基盤が先細りとなり、いつ倒れてもおかしくないという所まで行き着くのに、時間はかかりま
せん。
なぜ辞めてしまうのかという離職の原因を踏まえて、離職防止の対策を講じることが必要です。
介護業界では、「仕事の割に賃金が低く、生計に不安がある」という理由が離職の原因としてよくあ
げられますが、本当にそれが一番の原因なのでしょうか。介護職員の不安やモチベーションの構造
を理解することが重要です。
(1)働きがいを求めて入職
介護職員が現在の仕事を選んだ理由としては、「働きがいのある仕事だと思ったから」「資格・技
能が生かせるから」「人や社会の役に立ちたいから」などが上位に来ています。職業選択の段階で、
賃金などの労働条件より、仕事のやりがいや能力を生かしたい、人や社会の役に立ちたいといった
指向性が強いことがうかがわれます。
図表30
50
介護職員が現在の仕事を選んだ理由
介護職員の現在の仕事に対する満足度は、図表31のようになっています。仕事の内容そのものに対
する満足度が高く、職業意識が高いことがわかります。
図表31
介護職員の現在の仕事の満足度(プラス項目)
(2)仕事への不安、悩み
一方で、現在の仕事への満足度が低い要因は、図表32のようになっています。「賃金」に対する満
足度が最も低く、次いで「教育訓練・能力開発のあり方」「人事評価・処遇のあり方」となっていま
す。賃金については、その水準の問題と、少しずつでも上がっていくという実感、適切な評価が行わ
れ処遇に反映されているかということも重要な視点になります。
図表32
介護職員の現在の仕事の満足度(マイナス項目)
仕事の悩み、不安、不満等の解消方法について質問した結果は、図表33の通りです。「介護能力の
向上に向けた研修」が最も比率が高く、次いで「介助しやすい施設づくりや福祉機器の導入」となっ
ています。介護能力の向上や、介助しやすいハード面の整備を通じて、適切なケアをすることが、職
員自身の大きなテーマになっていることがうかがわれます。
さらに、人事評価の仕組み、勤務体制、キャリアパス、OJTの仕組み、配置など、職員の満足度を
大きく引き上げる余地はまだまだありそうなことがわかります。
51
図表33
介護職員の悩み、不安、不満等の解消方法
(3)勤続1年未満の離職が多い
離職者の勤続年数は、次のようになっています。勤続1年未満で辞める割合が4割強、1∼3年未
満で辞める割合が3割強となっています。1年未満の離職は、入職前のイメージと現実のギャップに
起因するところも大きいようです。まずは1年未満の初期の離職を防ぐこと、さらに節目といわれる
“3年”を超えて、次のキャリアを描けるような対策が必要です。
昨今では、業界を問わず、若年層が入社1∼3年で辞めてしまう早期離職問題が深刻となっていま
す。3年以内に離職する新規学卒者の割合は、中学卒で7割、高校卒で5割、大学卒で3割にのぼる
ことから、「七五三問題」とも呼ばれています。早期離職に伴って組織にかかる負担や悪影響は多岐
にわたります。今後は、年齢や年次に配慮した定着策を考えていくことも一つの着眼点と言えるでし
ょう。
図表34
52
介護職員の離職者の勤続年数
(4)自組織の人材の定着状況を確認する
それでは、貴組織の人材の定着状況はどうでしょうか。毎年何人辞めているのか、何年目の職員が
辞めているのか、いつ頃辞めているのか、そして何より、なぜ辞めているのか、きちんと把握してい
るでしょうか。退職届けに、退職の理由を書いてもらう施設・事業所は多いと思いますが、退職届け
に書いてある退職理由だけでとらえるのは、実に危険です。たとえ、表向きは「結婚による自己都合
退職」と書いてあっても、「結婚」は退職を後押しする一つの要因になっただけで、本当はそこに至
るまでの過程において「仕事を継続したくない理由」が蓄積されていることも多いのです。
また、今いる職員はどのようなことに不安・不満や悩み、ストレスを感じているか把握しているで
しょうか。一般に組織の中で、表立って不満の声が上がってきたり、トラブルが表面化することは、
決して多くはありません。不満やストレスは組織の中でくすぶっていて、皆自分の中で何らかの折り
合いをつけて日々の職業生活を送っています。そして折り合いのつかなくなった人が、退職を決意し
たり、体力的・精神的に参ってしまったりするのです。
くすぶっている段階の不安や不満は、非常につかみにくいものです。しかし逆に言えば、それらを
的確に把握することにより、離職につながるような問題の芽を事前に摘み取ることができます。職員
の声に改めて耳を傾け、適切な定着策を講じるというスタンスが重要です。
チェックリスト④ 自組織の離職の状況、職員の悩みや不安を知る
□ 退職者数の推移を把握している
□ 退職者の勤続年数、年齢を把握している
□ 退職者の真の退職理由を把握している(勤続年数別、男女別など)
□ 職員が現場で困っていること、悩みや不安を把握している
□ 職員のストレスの状況を把握している
□ 職員が求める魅力ある職場づくりのための着眼点を理解している
□ 上記の内容を把握するために、職員の声に耳を傾けている
※巻末にワークシートも掲載されています。ワークシートを活用して現状の捉え直しに役立ててください。
2
人材が定着し育つ職場とは
人材が定着し育つ職場とは、どのような要件を備えているのでしょう。人材が定着し育つ職場とは、
職員一人ひとりの仕事に対する意欲が高く、その持てる能力を発揮するとともに、それが組織やチー
ム全体の目標達成につながっているそんな職場です。ベースは、一人ひとりの「やる気」です。
人間の「やる気」について、モチベーションの研究で古典的なハーズバーグ(米)の「動機付け・
衛生理論」になぞらえて考えてみましょう。「動機付け要因=やる気を引き出す要因」と「衛生要
因=不満足を感じやすい要因」を整理すると、図表35のようになります。「動機付け要因=やる気を
引き出す要因」をいかに職場で実現していけるか、そして「衛生要因=不満足を感じやすい要因」の
状況を改善していけるかが、重要であると言えます。
人材が定着し育つ職場は、採用の段階で、求職者から見ても魅力ある職場です。日頃から、そうし
た魅力ある職場づくりを心がけていきたいものです。
53
図表35
54
やる気を引き出す要因、不満足を感じやすい要因
3
初期の定着策の具体例
ここでは、福祉・介護業界における初期の定着策の具体例について紹介していきます。
盧
成長が実感できる教育の仕組み
① 先輩職員のマンツーマン指導で、実践的な実務習得とメンタルケア
② 体系的教育システムでステップバイステップのレベルアップ
盪
初期の不安・不満を解消するコミュニケーションの仕組み
① 同期など、横の連携をサポートする仕組み
② ラインマネジャーによる定期的な面接
③ 相談窓口など、悩みや不安を相談できる窓口の設置
④ オピニオンサーベイなど、職員の意見やニーズを吸い上げる仕組み
蘯
目標、キャリアパスを描きやすい仕組みを作る
盻
女性が働き続けやすい職場環境を整備する
眈
認め、認められる組織文化を醸成する
① 存在を認める
② 意見やアイデアを認める
③ 仕事ぶりや実績を認める
眇
トップの理念や方針を現場に浸透させる
眄
マネジャーのマネジメント力、部下指導・支援力を養う
(1)成長が実感できる教育の仕組み
仕事のやりがいや能力や技能を生かすことを重視する介護職にとって、仕事を通じた自己成長は、
重要な意味を持ちます。とくに新卒の場合は、仕事の基本を一つひとつ身につけ、「できた」「わかっ
た」という成長実感を得られるような仕組みが求められます。
① 先輩職員のマンツーマン指導で、実践的な実務習得とメンタルケア
初期の教育の仕組みとして、先輩職員と新入職員のマンツーマンの教育方法が改めて注目されてい
ます。「エルダー制度」
「プリセプター制度」
「チューター制度」
「ブラザー制度」
「シスター制度」
「ス
ポンサー制度」など呼称は様々ですが、先輩職員がマンツーマンのOJTにより、業務スキルの習得を
現場でより実践的に行うことと、身近な先輩職員が職場生活上の不安や悩み等のメンタルケアを行う
ということを趣旨にしています。
その際の留意点は、まず一つ目に、OJTという名のもとに、現場に任せきりにしてしまうのではな
く、「何を」「どのレベルまで」
「いつまでに」
「どのように」教えるのかということを、組織として明
確にしておくことです。そうしなければ、教える人によって教える内容・レベルも、教え方もバラバ
ラということになってしまいます。組織的な質の向上につながらないばかりか、下手をすれば、新入
職員の不安や不満をあおることにもなりかねません。
そうならないためにも、OJTに活用する指導項目のチェックリスト、スケジュール表、指導マニュ
アルなどを整備しておくことが重要になります。先輩職員に対して「教え方」の教育をすることも必
要です。さらに、先輩職員の指導状況、進捗状況をマネジメントする上位者の役割も重要になってき
ます。
55
二つ目に、先輩職員の担当する新入職員の人数の問題があります。一般には、一人の先輩職員が、
一人の新入職員を受け持って指導をするというスタイルと、一人の先輩職員が複数の新入職員を受け
持って指導するというスタイルが見受けられます。後者の場合、一人の先輩職員に負荷がかかり過ぎ
てしまう、先輩職員と新入職員の密度が薄くなるなど、当初の制度のねらいがうまく機能しないこと
が懸念されます。そうならないためにも、担当する新入職員の人数、配置、組み合わせなどにも、十
分気を配る必要があります。
こうした先輩職員によるOJT教育は、教える側にとっても「学び」の機会となります。後輩の指導
経験を通じて、自分自身の業務スキルを再確認することにもなりますし、後輩を教えることそのもの
が、人材マネジメントを学ぶ第一歩とも言えます。どうしたら相手を理解することができるか、どう
したらもっとやる気にさせられるか、どうしたら相手に気付いてもらえるか…ということを考えなが
ら日々実践するというプロセスこそが最良の教育機会になるのです。
事例15:伝統のチューター制度による新人教育
B法人(前出)では、独自の「チューター制度」により、正規職員を対象とし、先輩職員が
1年間かけて、1対1で指導を行っている。これは、20年間継続して実施しているシステムで、
同法人の伝統ともなっている。
チューター指導は、業務の中でのOJTと、業務外での面談による目標確認・振り返り・指導等
の組み合わせである。年3回、達成度チェックがあり、年度末には「誓いの式」を行いひとり
立ちするというプロセスを踏む。
中途採用者についても、新卒者と同様にチューター指導を行う。採用時期により期間の長短
はあるが、基本的に同じテキストを使い、経験者であっても指導を行っていく。
チューターは、2∼3年目の職員が担当することになっており、教える側にとっても、良い
教育の機会になっている。同期や上司とは違う“少し上の先輩”によるチューター指導により、
新入職員は実践的にスキル習得ができるとともに、その関係性が気持ちの支えにもなっている
という。
56
事例16:エルダー制度による新人指導
J法人では、
「エルダー制度」を新人職員教育の柱として、平成11年に導入した。それ以前は、
個々の職員の裁量で業務が行われており、新人の育成に関する指針になるものがなかった。ケ
アの一つひとつについて一定の基準を作り、共通した業務の指針を立てた上で、人材育成を行
うことが必要だとの問題意識に端を発している。
「エルダー制度」のメリットは大きい。先輩職員の指導により、実践を通じて新人が日々の
業務を覚え、技術を高めていくことができる。メンタルな面での支えにもなっている。さらに、
教える立場であるエルダーにとっても、新人を指導することによって、自分の技術や作業の基
本を振り返ることになるため、エルダー自身の技術を向上させることができる。また、職員同
士の密接なコミュニケーションに基づくグループケアへの基盤ともなる。
新人がエルダーについて業務を行う期間は1年間。1年間の達成目標を定めた「新人職員用
チェックリスト」をもとに、エルダーの指導を受けながら業務を進めていく。総仕上げとして、
1年間を振り返り、業務の到達度や感想についての報告を行う発表会を経て、教育期間を終え
る。
同法人では、エルダー制度運用のためのサポートにも力を入れている。定期的に「エルダー
会」を開催し、チェックリストの進捗状況や評価の目線合わせのための討議を行っている。エ
ルダーの意識付けや励み、エルダー同士の情報の共有化にもなっている。
新人とエルダーの信頼関係は強く、担当の新人が病気の時は家に見舞いに行ったりするほど
である。新人の職員間に「エルダーのおかげで、自分がここまでこれた」という思いは強く、
自分がエルダーになった時には、「自分がしてもらったように、新人にもしてあげる」という好
循環が形成されている。このエルダー制度のもとでは、1年以内に退職する人はほとんどいな
い。
② 体系的教育システムでステップバイステップのレベルアップ
計画的・体系的に学んでいくことができる教育の仕組みも重要です。人が育っている施設・事業所
の特徴の一つには、この教育体系がしっかりとできているということがあげられます。
例えば、自動車免許の取得を思い出してください。免許取得という目標に向かって、学ぶべきこと、
できなければいけないことが明らかになっていて、それを一つひとつクリアしていくことによって、
「免許取得」という目標にたどり着くように設計されています。「免許取得」のためには、必死になっ
て勉強しますし、一つひとつクリアして目標に近づいていくのは励みになります。
福祉・介護業界においても、将来のキャリア形成をイメージし、夢や目標が持てるような教育研修
体系を整備し、モチベーションの維持・向上と業務スキルの向上を図りたいものです。目指すべき目
標は何か、その目標に対して自分は今どこにいるのかを明確にすることがポイントです。全体の地図
の中で、目標地点と現在地が分かることにより、不安を払拭し、自信を持たせることができます。
体系的な教育システム整備がなかなか難しいという小規模事業所においては、近隣エリアの他法人
と共同の教育システムを構築するなど、法人間の連携を視野に入れた取り組みも必要でしょう。採
用・教育など法人間の共同事業は、新たな可能性を呼び覚ますものと言えます。
57
事例17:体系的な職員研修プログラム
B法人(前出)では、職員研修を体系的に実施している。採用前の内定者研修・事前研修
(事例13参照)に始まり、入職後は「チューター制度」(事例15参照)により1年間の新人教育
を行う。その後は、階層別研修、自主研修会、海外交換研修、通信教育、外部研修などを取り
入れた教育体系を整備している。
階層別研修では、副主任クラス、主任クラス、管理職クラス等の役職ごとに、リーダーシッ
プ、マネジメント、コーチングなど組織力向上に向けての教育研修を実施。
自主研修会は年間30回程度実施されている。外部講師だけではなく、職員が講師となり、介
護・看護に関する研修会や、外部研修・海外研修の報告会、業務改善などについての勉強会や
討議が活発に行われている。自主研修会は、文字通り職員の自主的な意識・意欲によって継続
されている。
海外交換研修は、在籍2年以上の職員が対象で、毎年2名程度が1か月間、北欧フィンラン
ド等の福祉先進国で介護・福祉サービスを学ぶ制度である。
事例18:法人内、法人間での交換研修の取り組み
K法人では、職員のスキルアップやキャリアの広がりのために、法人内や他法人といった
様々な環境で研修を行うという方法を取り入れている。まず、新人教育の一環として、入職前
1週間∼10日間ほど、法人内の全施設・事業所をローテーションで実習に入る。ねらいは、①
法人内の全職員を知る、②法人内の各施設・事業所の役割を知る、③法人内の各施設・事業所
の利用者を知るというもの。
さらに、5年目程度の職員を対象に法人内での交換研修を実施する。主に特養とデイサービ
スの間で、約1か月程度実施する。これは、自分が所属する領域だけしか知らないと閉鎖的に
なる可能性があるので、「入所」と「在宅」がお互いにつながっていることを実感することがね
らいである。
他法人・他施設との交換研修も、もうすでに10年以上行っている。これは、3年目∼主任ク
ラスを対象にしており、1週間∼1か月程度の期間実施する。提携している法人は、遠方から
近隣エリアまで含めて5∼6箇所。年間で2∼3人程度を交換し、お互い良い刺激や新たな学
びや気付きを受ける機会になっている。近隣の施設と交換研修を行う際には、紳士協定を結ん
で職員の引き抜き等のトラブルが生じないように配慮している。
58
事例19:エリアの法人間連携による教育研修の取り組み
K法人(前出)では、平成20年度から介護職員を対象にした県独自の認定研修をエリアの他
法人と連携して取り組んでいる。この研修は、全国社会福祉協議会が普及に努めている「ファ
ーストステップ研修 試行事業」を活用したもの。
企画・運営を担当するのは、K法人も含めて4法人である。K法人の総合施設長が、近隣エ
リアの他法人・他施設に声をかけて実現に至っている。スタートさせるにあたっては、何度も
議論を重ねながら、「ファーストステップ研修」のガイドラインに沿って、200時間(月1回の
集合研修と通信学習)のプログラムとして形にしていった。企画・運営まで大変労力がかかる
が、お互いに力になると信じて実施している。
平成20年度の参加者は20施設・事業所より26名(各施設・事業所から1∼2名の参加)。お互
いが切磋琢磨でスキルアップを図る重要な機会となっている。
(2)初期の不安・不満を解消するコミュニケーションの仕組み
初期の不安や不満は、その内容もさることながら、それを溜め込んでしまいがちなことが、しばし
ば問題にされます。不安や悩みがあっても、そのはけ口があるかどうか、共有できる人がいるかどう
かで、精神的負荷はだいぶ違ってきます。
そうした意味からも、先に紹介した先輩職員のマンツーマンの指導システムは、有効であると言え
ます。その他、次のような仕組みの整備があげられます。
① 同期など、横の連携をサポートする仕組み
横の連携や連帯感は、定着率に大きく影響する要素です。同期などの横のつながりは、悩みや不安
を共有したり、励まし合ったりできる頼もしい存在です。インフォーマルなグループで、横のつなが
りが保たれていることは多いと思います。
中途採用の場合、年齢もバックグラウンドも違うことから、同じ年度の入職でも、「同期」の意識
が希薄なのが一般的です。こうした中途採用者が孤立してしまうことがないよう、組織として、他部
署のメンバーとの交流、同じ年度入職の同期意識の醸成など、横の連携をサポートすることも重要で
す。
また、採用者が1∼2名など、そもそも同期自体が少ない、またはいないという施設・事業所にお
いては、外部機関の新人研修に送り出して、そこで仲間作りをするといったことを積極的に取り入れ
たいものです。
59
事例20:他部署との交流で横の連携の強化
F特別養護老人ホーム(前出)では、入職後のOJT教育の他に、1か月体験学習として、他部
門の経験をさせる。正式配属後は、他部門のことを理解したり、交流を持ったりする機会がな
くなってしまうので、その前に他部門との連携や協調を図ることがねらいである。
職場内の関係だけではなく、他施設・事業所・他部門等も含めた横の連携や協調を図ること
は、職員にとって心強いばかりでなく、組織にとっても横串を刺して風通しを良くするという
重要な効果がある。
② ラインマネジャーによる定期的な面談
ラインのマネジャーによる定期的な面談の機会を持つことも重要です。人事評価制度の一環として、
今期の評価と来期の目標設定など、面接制度を導入している施設・事業所は多いと思います。この面
接制度は、業務の進捗管理や、スキルアップの状況を確認する上で重要ですが、一人ひとりのモチベ
ーションの状態や、現在困っていることや悩み等を把握する絶好の機会にもなります。
上位者と部下の信頼関係構築にも役立ちます。是非、定期的な面談を継続的に行い、職員の能力、
意欲の向上に役立ててください。
③ 相談窓口など、悩みや不安を相談できる窓口の設置
不安や悩みを周りの上司や先輩、同僚にも口にできない場合もあります。昨今は、メンタルヘルス
が施設・事業所の重要な取り組み課題としてとりあげられ、第三者的な立場で相談に乗ってくれる相
談窓口を設置する施設・事業所も増えてきました。
施設・事業所内に専門の部署や担当者を設置するケースと、外部機関を活用するケースがあります。
いざというときの駆け込み寺は、それが「ある」ということだけでも安心感を与えることになります。
④ オピニオンサーベイなど、職員の意見やニーズを吸い上げる仕組み
意見やニーズを言える機会やルートは、複数設けておきたいものです。職員の不安や不満、悩みを
定期的に吸い上げる仕組みとして、アンケート方式によるオピニオンサーベイを実施している施設・
事業所もあります。
ただし、これは「聞きっぱなし」にならないように注意が必要です。いくら意見を言っても、それ
に対する反応がなければ、職員は「言ってもムダ」と、だんだん意見を言わなくなってしまいます。
60
オピニオンサーベイを行う場合は、アンケートの結果の公表、それに対して法人(または施設・事
業所)としてどのような改善を行うのか、改善に取り組んだ結果どうなったのかなど、適宜情報をオ
ープンにしていく必要があります。
事例21:オピニオンサーベイの実施
4つのグループホームを運営するL社では、年に2回、アンケート形式で、オピニオンサー
ベイを実施している。職員の意見や要望に耳を傾けるとともに、不平・不満をリサーチし、組
織や業務の改善に役立てることを狙いとしている。
アンケート結果は集計・分析後、会議等を通じて施設・事業所内にフィードバックしている。
アンケート結果だけではなく、それをもとに、すぐに改善できること、改善に時間を要するこ
と、すでに手を打っていることなど、職員にわかりやすく伝えるように努めている。同社では
ルールやマニュアルなど大変細かく整備しているが、それも固定的なものとは考えておらず、
職員の意見や要望を聞きながら、随時変更・改善を重ねている。
(3)目標、キャリアパスを描きやすい仕組みを作る
「目標にしたい先輩がいない」「キャリアが見えにくい」ということも、定着率に影響する要因で
す。とくに新卒者や若手職員の場合、
「あの先輩のようになりたい」
「こんなキャリアアップができる」
という見通しが得られるかどうかは、モチベーションを大きく左右します。
どのようなキャリアアップが可能なのか明示することが重要です。キャリアの志向性は、人によっ
て様々です。同一のサービス、同一の施設・事業所で馴染みの利用者との関係を大切にしながら専門
性を深めていきたいという人もいれば、複数のサービスに携わって総合力をつけていきたいという人
もいます。こうしたニーズに柔軟に対応できるよう、多様な選択肢を用意できることが望ましいとい
えます。
しかしながら、とくに小規模事業所などでは、キャリアの行き詰まりで人事が硬直している組織も
見受けられます。そうしたケースにおいては、近隣エリアにおける他法人との連携による人材交流や
配置転換などの取り組みも視野に入れておく必要があります。
61
注:パート労働者(週所定労働時間が正社員に比べ短い労働者)への差別的取り扱いの禁止
パートタイム労働法(平成20年4月施行)では、パート労働者のうち①職務内容や責任の程
度、②人事異動の運用や範囲が正社員と同じで、かつ③有期契約であっても実質的に無期契約
となっているパート労働者については、パートであることを理由として賃金や教育訓練、福利
厚生などすべての待遇について正社員と差別的に取り扱ってはなりません。
また、パート労働者の基本給や役職手当、賞与などの賃金については、パートを理由に全員
一律に定めるのではなく、個々人の職務内容、成果、意欲、能力などに応じて決定するように
努めなければなりません。
(4)女性が働き続けやすい職場環境を整備する
女性の比率が7割以上占める介護業界においては、女性が働き続けやすいような両立支援の取り組
みも重要になります。先述の「キャリアパスを描きやすい」ということにも関連しますが、女性が結
婚・出産・育児等のライフステージの変化があった時に、それに対応しうるような制度や仕組みを整
備することが必要です。産前・産後休暇、育児休業制度をはじめとして、育児中も仕事を続けられる
よう育児短時間勤務、所定外労働の免除、始業・終業時間の繰上・繰下などの制度整備も求められて
います。
さらに制度整備だけではなく、実際に制度を運用できるような職場環境整備が必要です。両立支援
についての組織の方針を明確にし、職員全体の理解を得ることや、職員がお互いに助け合うような応
援体制を整備すること、効率的な業務運営など、両立支援を受け止める土壌づくりが大切です。一人
二人と、仕事と育児や家庭を両立させている先輩職員が出てくれば、彼らが「ロールモデル(=目標
になるような先輩)」となり、次に続く職員も出てきます。
優秀な人材が、出産や育児という理由で辞めてしまうのを、是非食い止めたいものです。
事例22:両立支援の取り組みが進んでいる事例
M介護老人保健施設では、育児と仕事の両立が図れるよう、施設内に託児所の整備をしてい
る。もともとは併設の病院の看護師の人材確保のために託児所を整備していた(看護師の場合
は、補助金が出る)。介護保険事業の開始に伴って、法人内の複数の介護施設・事業所の職員も
利用できるよう老人保健施設内に新たに整備したのである。
保育は外部業者に委託している。保育料は一人1日500円、あとは法人が負担している。利用
定員は20名で、利用者は日によって異なり、5∼6名の時もあれば、定員一杯の時もある。夜
勤の時は、子どもと一緒に託児所に泊まれるようになっている。
託児所の維持は、法人にとって負担は小さくない。しかしながら、託児所が施設内にあるこ
とにより、職員が継続して働くことへの支援となっている側面を考えると、維持していくこと
の必要性を感じる。また、それを魅力に感じて応募する人もいるという。
同法人では育児休業を取得する職員も毎年数名おり、全体に結婚・出産・育児等のライフス
タイルの変化があっても、仕事を続けるという雰囲気が強い。複数名の育児休業者が重なった
り、リーダー・管理者クラスが育休をとる場合など、残ったメンバーに負荷がかかったり、人
員配置の調整など、大変な側面があることは否めない。しかしながら、そうした状況において
も職員同士がお互いに助け合い、何とか乗り切ろうと工夫を積み重ねる。そうした風土が長年
にわたって形成されてきたという。
62
注:育児休業について
育児休業法(平成17年4月改正)では、1歳未満(保育所に入所できない場合などは1歳6
か月未満)の子を養育する男女労働者は、申し出により育児休業をすることができます。有期
契約のパート労働者でも①引き続き1年以上雇用され、かつ②子が1歳以降も引き続き雇用さ
れることが見込まれる場合は対象となります。事業主は育児休業の申し出を原則として拒否で
きません。また、3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合は、勤務時間の短縮などを認
めなければならず、さらに小学校就学前の子を養育する労働者が請求した場合は、時間外労働
や深夜業の制限、年間5日の子の看護休暇も認めなければなりません。
「平成17年度女性雇用管理基本調査」によると、育児休業制度の整備状況は、500人以上規模
の企業で99.9%、100∼499人規模で95.5%、30∼99人規模で83.7%、5∼29人規模で56.5%となっ
ています。
(5)認め、認められる組織文化を醸成する
「認められる」ということは、基本的なモチベーション要因の一つです。「認める」ということに
もいくつかの段階があります。
① 存在を認める
組織内での挨拶、声かけは、お互いの「存在を認める」ことの基本になります。もし朝、職場に来
て、挨拶もない、声かけもないという状況だったら、自分の存在自体が認められているという実感を
持てないのではないでしょうか。
挨拶なんて当たり前と思うかもしれませんが、この当たり前ができていない組織も多いのです。新
入職員も、周りの先輩職員や同僚の挨拶や声かけによって、存在を認められている、気にかけてもら
っていると感じ、やる気を高めることにつながるのです。
② 意見やアイデアを認める
誰でも、自分の意見やアイデアを取り上げられると嬉しいものです。意見やアイデアを言う機会が
あっても、それに対する反応がなかったり、否定されたりすることが続くと、「言ってもムダ」とい
う雰囲気になってしまうのは、先に触れた通りです。
新入職員でも、いろいろな意見やアイデアを提案する機会があって、良い意見やアイデアはどんど
ん取り入れられるという仕組みがあれば、やる気も大きく変わってくるはずです。例え自分の意見や
アイデアが認められなくても、それに対するフィードバックがあるというだけでも、受け止め方は違
ってきます。一方通行ではなく、双方向であるということが重要になります。
63
③ 仕事ぶりや実績を認める
先にみた介護職員の現在の仕事の満足度(図表31)において、マイナスとなっている項目の二番目
が「人事評価・処遇」でした。仕事ぶりや実績を適切な判断基準によって認めてほしいという欲求は
誰にもあります。そのためにも、適切な人事評価・処遇の仕組みの整備が求められています。
一方で、日常的に職場で「ほめる」「認める」ということができているかどうかも、大切な着眼点
です。できなかったことができるようになった、前よりもうまくできるようになった、利用者に喜ん
でもらえた…といったことを、日常の中でほめ合い、認め合い、共有しあえるという組織文化を醸成
していきたいものです。
認め、認められる組織文化を醸成することにより、一人ひとりが組織、職場、仕事に誇りを持つこ
とができるようになるのです。
(6)トップの理念や方針を現場に浸透させる
トップの理念や方針を明確に打ち出し、現場に浸透させることが重要です。そのためには、経営層
と現場との距離感が遠いようではうまくいきません。現場から遠い所で何を言っても、職員一人ひと
りの心には響きません。
また、経営層に対する信頼は、仕事をしていく上で、大きな下支えとなるものです。いくら高邁な
理念やビジョンを掲げていても、「言っていることと、やっていることが違う」「現場のことを何もわ
かっていない」という経営者だったら、信頼は得られません。トップの理念や方針を現場に浸透させ、
現場の力を高めていくためには、経営層が現場を知る、現場に聞く、現場に食い込むという姿勢が必
要です。
64
事例23:トップの理念や方針が現場に浸透している事例
G法人(前出)は、法人の理念・ビジョンの徹底に相当のエネルギーをかけて取り組んでい
る。昭和51年に特養を開設した当時、世界各地を視察し、ケアのあり方について検討を重ねた。
とくにオーストラリアの視察で見た施設介護を目標に特養をスタートさせたという経緯がある。
そのため、開設後、職員が同じものを見て、経験して、目標となる姿を共有化すること、共通
言語をつくることが必要との判断で、毎年3∼5名くらいをオーストラリアに派遣している。
同法人の幹部クラスは、全員オーストラリア視察を経験している。後から入職した職員も順次、
希望を募って派遣している。こうした取り組みは、共通言語化、理念の共有化に役立っている。
さらに同法人では、グループウェア(企業内LANを活用して情報共有やコミュニケーション
の効率化を図るためのソフトウェア)の活用による情報の共有化、面接制度や会議等によるフ
ォーマルな形での現場への目標の落とし込みや情報共有を徹底して図っている他、「ピーチクパ
ーチク会議」や「○○塾(○○は理事長名)」「Hの会」など特徴のある活動をしている。
「ピーチクパーチク会議」とは、法人の理事長主催で、月に1回食事会をしながら職員が直
接、理事長と話をすることができる会議である。希望者は誰でも参加できるが、どちらかとい
うと幹部や管理者ではなく、一般の職員が参加するという運営になっている。この会議では、
職員が理事長に現場の声やニーズを伝えることができるとともに、理事長も自らの理念やビジ
ョンを直接伝える機会となっている。多い時は20名程度、少ない時は5∼6名と時によって異
なる。話の中で、理事長が問題だと感じるようなことがあれば、管理者に問題提起もする。
また「○○塾」は、管理者が企画・主催して、理事長が自ら法人内の各部門・部署に出向き、
食事をしながら事業所の課題について議論、あるいは問題提起をするものである。現場におけ
る課題解決の局面で、方向性を見失わないように、理念に沿った判断ができるように、お互い
に確認するという意味合いがある。
「Hの会」は、法人の常務理事が主催するもので、非常勤職員を対象にした研修会である。
「H」は「Human」の略であること、さらにHの形が二人の人がお互いに手をとっている形に見
てとれることから、会にこの名を付している。この会議は、現場のリーダークラスが、年配の
非常勤職員を指導することが難しいという問題が出てきたことから、5年ほど前より実施して
いるものである。非常勤職員を対象に、法人の理念やビジョンを共有化するため、月1回のペ
ースで、理事長の著書などを材料に、フリートーキングを行うという内容である。理念の共有
化ができるようになったことで、現場に戻っても、若いリーダーとの軋轢がなくなったという。
このように手間も時間もかかるが、フェイス・トゥ・フェイスを基本において、トップが地
道に現場に足を運ぶ、現場の声に耳を傾ける、法人の理念やビジョンを直接職員に語りかける
ということを積み重ねている。
65
(7)マネジャーのマネジメント力、部下指導・支援力を養う
様々な教育の仕組み、キャリアアップの仕組み、コミュニケーションの仕組みを作ったとしても、
最後に問われるのは、それらを現場で運用するマネジャーのマネジメント力です。ここでいうマネジ
ャーとは、新入職員の直属の上司であり、またその上司も含みます。そして、マネジメント力とは、
組織全体の目標を達成するために、任された部門・部署・チームの目標設定、進捗管理、成果の検証
を適切にできる力のことです。マネジャーのマネジメント力向上は、組織の最大の課題であると言え
ます。
それでは、マネジャーのマネジメント力向上のためにはどうしたら良いでしょう。一般に、管理者
養成のための集合研修の実施などがあげられます。とくに部下指導のノウハウ、コミュニケーション
技術、問題解決技術、業績管理の実務など、マネジャーとして体系立てて学ぶことはとても大切です。
しかしそれ以上にマネジメント力を底上げするのは、日常の中で「仮説(目標設定)→実施→検証」
というマネジメントサイクルを積み重ね、次に結びつけていくという経験がどれだけあるかというこ
となのです。それは、どうしたらもっとうまくできるか、どうしたら目標を達成できるかということ
を、どれだけ本気で考え抜き、どれだけ実践した経験があるかということです。
そうした経験は、マネジャーになって初めてするというものではなく、仕事をしていく上で誰にで
も求められることです。組織の上へ行けば行くほど、描くべき仮説、設定すべき目標が大きくなると
いうことです。こうしたマネジメントサイクルを意識的に実践する仕組みを作り、組織風土に変える
ことができれば、足腰の強い組織を作ることができるはずです。
現状の介護業界を見ると、「人が足りない」
「余力がない」といった状況の中で、マネジャー自身が
現場に入り込んでしまい、マネジメント業務ができないということも多々あります。つまり、マネジ
ャーがマネジメント業務をできるような組織体制になっていないということです。「ギリギリの人数
でやっているのだから仕方がない」「介護報酬を上げてもらわないと、どうにもならない」といった
声からもわかるように、介護保険事業の組織運営が大変厳しいものになっているのが現状です。
一方で、事業者の側が現状の仕事の進め方、方法、役割分担などを見直すといった“改善マインド”
を持つことも重要です。限られた「人材」や「時間」というリソースをいかに配分し、高いパフォー
マンスを実現していくということは、介護業界に限らず、どのような業界においても組織に与えられ
た命題です。それができるかできないかが、今後の事業展開の成否を決めるといっても過言ではあり
ません。
66
◆法人間の連携を検討する
人材の採用・定着の問題は、施設・事業所や法人の単独の取り組みだけでは、なかなか解決が難し
い課題もあります。特に小規模施設・事業所においては、余力がない、費用対効果が見合わないなど、
悩みはいろいろあると思います。そうした中、地域の中での横のつながりに改めて着目して、協力関
係を築くことを是非検討してみてください。日頃の情報交換、連絡会の設置、採用や教育などにおけ
る共同事業の構築など、方法はいろいろありそうです。地域の連携から生まれるパワーは、福祉・介
護業界における新たな基盤作りのための方策として注目されます。
67
巻末資料1
自組織の立ち位置を
知るためのワークシート
巻末資料2
○ 職員募集・採用を成功させるためのチェックリスト
○ 雇入れ時、労働契約締結時のチェックリスト
○ 人材の定着率向上のためのチェックリスト
※巻末資料2の作成にあたっては五十嵐芳樹氏(特定社会保険労務士)
の監修を受けました。
69
70
71
28
72
32
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74
75
法人(または施設・事業所)
76
[職員募集・採用を成功させるためのチェックリスト]
Check
Point
1
募集広告に施設・事業所の特徴や仕事の内容は詳しく分かりやすく記載していま
すか。
求人している施設・事業所側と仕事を探している求職者の最初の接点の一つは、募集・求人の案内
や広告、ハローワークの求人票などになります。そして、ほしい人材を採用するには、まず多くの人
から応募してもらう必要があります。多くの人といっても明らかに経験や適性などが合わないミスマ
ッチな人では募集、応募、選考に至るまでの双方の時間と労力が無駄になります。求職者は介護・福
祉業界に絞って就職先を探している人だけではなく、他の業種も視野に入れている人も多くいます。
介護施設・事業所にとって「ほしい人材」が興味を持ち、かつ応募につなげてもらうには、求職者に
効果的にアピールできるポイントが募集・求人の内容に記載されている必要があります。
求職者は労働時間や賃金額を重視していますが、それだけで就職先を選ぶわけでもありません。仕
事のできる人ほど就職先の特徴、自分にあった環境、将来性なども重視しています。そのため募集内
容を記載する際は次のポイントを確認してください。
①法人・会社の経営方針や特徴、今後の展望を説明し応募者に信頼感を得てもらうとともに、将来
性も理解してもらう
②仕事の内容、重要性を詳しく分かりやすく記載し、興味を持ってもらう
③経験者や有資格者の処遇および育成制度などを説明し、就業継続支援やキャリアアップの取り組
みを理解してもらう
Check
Point
2
労働条件は他の施設・事業所を下回ってはいませんか。
求職者は、介護事業の種類、規模、施設・事業所所在地、労働時間、賃金額など、多くの施設・事
業所の特徴や労働条件を比較して応募先を選択します。まして就職先を介護・福祉業界以外の業種の
施設・事業所も対象としている人にとっては、選択肢がとても多くなります。その中で賃金額や労働
時間などの労働条件が他より明らかに下回っている場合は、求職者が応募してくれる可能性は低下し
ます。少子化がこれからも続く状況下で、特に若年者の採用を考えた場合、最低でも他と比較して労
働条件が下回らないように注意する必要があります。応募者があってはじめて選考、採用につながる
のです。
募集、求人の内容については次のポイントを確認してください。
①労働時間と休日は法定基準を守っていますか。また他より下回っていませんか
②職種、年齢、経験、勤務時間を考慮した場合の賃金額は他より下回っていませんか
③賞与や退職金、育成制度、福利厚生制度は他より下回っていませんか
④残業の頻度や1か月の平均残業時間は他より多くなっていませんか
⑤パート職員の場合は勤務時間や休日が家庭生活と両立しやすくなっていますか
⑥社会保険、雇用保険の加入条件は他より下回っていませんか
⑦年次有給休暇は法定どおり与えると明記されていますか
⑧育児休業や介護休業などの取得実績や取得しやすい環境をアピールしていますか
77
Check
Point
1
3
募集・採用対象者の年齢による基準は認められません。
募集・採用時の年齢制限の禁止
中高齢の求職者は増加傾向にありますが、少子化が定着している現状では若年層の求職者の増加は
見込めないため、安定的に人材を確保するためには、門戸を広げて年齢にかかわらず意欲と能力のあ
る人材を募集・採用の対象とする必要があります。
募集・採用時の基準は事業者が自由に決められますが、年齢による制限は雇用対策法により原則と
して禁止されています。この制限は、ハローワークに対する求人だけでなく、民間の職業紹介事業者
や求人広告で募集・採用する場合も同じです。年齢を不問とする募集・採用をうまく機能させるため
には、事業者や募集・採用の担当者が職務内容を詳しく把握するとともに、募集・採用する職務の内
容、職務遂行に必要な職員の適性、能力、経験、資格などの事項について、なるべく詳しく・分かり
やすい表現で明示することが重要です。詳しい職務内容や必要な能力などが事前に分かれば応募しよ
うとする人の判断も的確になりますので、求める人材と応募者の適性が合致しないなどといったミス
マッチの場合が少なくなり時間と労力の無駄が省けます。
例えば、同じ訪問介護員の募集でも次のような記載が考えられます。
認められない募集内容
「施設や訪問先での訪問介護員として40歳未満の職員を募集」
認められる募集内容
「施設や訪問先での訪問介護員を募集。要介護者を抱え上げたりしてベッドと車椅子への移乗や、
食事、着替えなどの介護業務のため継続するには持久力と筋力が必要です。」
2 年齢制限が認められる例外事由
募集・採用時の年齢制限は原則として禁止されていますが、次の場合は例外的に年齢制限が認めら
れます。ただし、年齢制限を設ける場合はその理由を書面などにより提示してください。
①定年年齢を上限として、その年齢未満の職員を期間の定めのない労働契約の対象とする場合
②危険有害業務など法令により年齢制限が設けられている場合
③長期勤続によるキャリア形成のため若年者等を期間の定めのない労働契約の対象とする場合
ただし、職業経験は不問とし新卒以外は新卒者と同等の訓練、育成、配置、処遇とすること
④技能やノウハウ継承のため特定職種の特定年齢層(30∼49歳の間の5∼10歳幅)の職員数が、上下
の同じ幅の年齢層と比べ1/2以下の場合に、募集をその年齢層に限定して期間の定めのない労働
契約の対象とする場合
⑤芸術作品のモデルや演劇の子役など特定年齢層に限定する場合(コンパニオン等は除く)
⑥60歳以上の高齢者や国の施策による特定年齢層の雇用促進の助成金などを活用する場合
78
Check
Point
4
募集・採用時の性差別は禁止されています。
1 募集・採用時の性差別の禁止
少子化が定着している現状では若年層の求職者の増加は見込めないため、人材を安定的に確保する
ためには、性別にかかわらず意欲と能力のある人材を募集・採用の対象とする必要があります。
男女雇用機会均等法により、雇用機会は男女の性別にかかわらず均等に与えなければならないため、
募集・採用時には年齢による制限とともに性別による制限も禁止されています。例えば、次のように
男女間で異なる取り扱いをすることは認められません。
①募集・採用にあたって、その対象から男女のいずれかを排除すること
例:介護職員・訪問介護員に女性、事務職員に男性のみ募集、女性向の職種、応募受付や採用を男
女のいずれかとすること
②募集・採用にあたってその条件を男女で異なるものとすること
例:女性のみ、未婚者あるいは自宅通勤者とすることなど
③採用・選考において、能力および資質の有無等を判断する場合、その方法や基準について男女で異
なる取り扱いをすること
例:男女で異なる採用試験、結婚予定の有無や出産後の勤続予定を女性のみに聞くなど
④募集・採用にあたって男女のいずれかを優先すること
例:男女別の採用人数設定、一方の性を優先して採用後に他方の性を採用など
⑤求人内容の説明等募集、採用に関する情報の提供を男女で異なる取り扱いとすること
例:資料の送付対象、資料の内容や送付時期、説明会の日時を性別で変えるなど
2 募集・採用時の性別による間接差別の禁止
性別による直接的な差別だけでなく、性別以外の要件でも他の性の構成員と比較して一方の性の構
成員に相当程度の不利益を与える要件は、募集する業務の遂行上特に必要となる合理的な理由がない
限り間接差別となります。
例えば、ケアマネジャーや事務職員の募集・採用時に一定の身長、体重、体力を要件とすることや、
コース別雇用管理上の総合職、管理職などの募集・採用時に、広域に展開する施設・事業所等がない
にもかかわらず転居を伴う転勤に応じることを要件とすることなどは合理的な理由がないものとして
認められません。
3 男女別の募集・採用ができる場合
介護に従事する職員は、介護サービスの内容によっては利用者の裸体に直接触れることもあるため、
女性の利用者が多い施設・事業所では女性に限定して募集したい場合もありますが、原則として一方
の性に限定した募集・採用は認められません。そのため求人票や募集広告には、職務内容を具体的に
記載することで応募者が自ら適格性を判断できるようにする必要があります。ただし、募集する介護
79
職員の職務のうち入浴介助や排泄介助など利用者の裸体へ接触する業務が大きなウエートを占め、か
つ現に雇用している介護職員は一方の性の職員が多く、他方の性の介護職員が不足し業務の遂行に支
障がでる場合などに限り、限定した性別の募集・採用が認められることがあります。このような場合
に、ハローワーク等で求人を申し込む際は、労働者名簿、顧客名簿、勤務シフトなどにより男女別の
入浴排泄介助業務の困難度を説明する必要があります。
4 必ず男女同数を採用しなければならないわけではありません。
性差別の禁止は、雇用機会を男女の性別にかかわらず求職者に均等に与えることが目的のため、募
集・採用の条件、求人情報の提供、選考採用などすべての段階において男女で異なる取り扱いを禁止
しています。しかし、応募者個々人の意欲、能力、経験、適性などを公平に判断した結果、男性また
は女性だけを採用したとしても違反にはなりません。
5 採用後の雇用管理においても男女差別は禁止されています。
男女差別は、募集・採用時だけでなく、配置、昇進、降格、職種変更、契約更新、退職勧奨、定年、
解雇などだけでなく、教育訓練、福利厚生などでも禁止されています。また、女性職員に対する婚姻、
妊娠、出産などを理由とした解雇その他の不利益取り扱いも禁止されています。
80
[雇入れ時、労働契約締結時のチェックリスト]
Check
Point
5
勤務時間や就業場所、賃金などの労働条件を書面で明示していますか。
1 労働条件の明示義務
応募者を面接選考した後に採用が決定しますが、その間は事業者だけでなく求職者も多くの時間と
労力を費やしています。採用決定後に労働契約を締結するときの重要なポイントは、勤務時間や職務
内容、賃金額などの労働条件を明示することです。働き始めた後で、勤務時間や賃金額などの重要な
労働条件が説明された内容や理解していた内容と異なる場合は、その職員に「約束が違う」などと事
業者に対する不信感が芽生え、最悪の場合はトラブルの末に短期間で離職に至ることもあります。そ
うなると事業者および新規採用者のそれまでの時間と労力が無駄になるだけでなく、残った職員に余
計な不安や仕事上のしわ寄せが生じます。このようなトラブルを防ぐため、労働基準法では新たに職
員を雇入れる際に明示しなければならない労働条件を下記のとおり定めています。
(1)書面の交付により明示しなければならない労働条件
①労働契約の期間、②就業の場所および従事すべき業務、③始業・終業の時刻、所定時間を超える
労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換(労働者を二組以上に分けて就業させる交替制、シ
フト制など)、④賃金(退職手当、賞与など除く)の決定・計算・支払方法、賃金締切支払の時期、
⑤退職に関する事項(解雇の事由含む)
(2)定めた場合は明示(口頭でも可)しなければならない労働条件
⑥昇給に関する事項、⑦退職手当の有無と決定、計算、支払方法、支払時期、⑧賞与に関する事項、
⑨職員に負担させる食費、作業用品等、⑩安全衛生に関する事項、⑪職業訓練に関する事項、⑫災害
補償、業務外の傷病扶助、⑬表彰、制裁に関する事項、⑭休職に関する事項
以上の明示すべき労働条件の多くは就業規則で定める内容と同じですので、各人に就業規則を交付
することで大部分の労働条件は明示できますが、個人ごとの賃金額や就業場所、従事すべき業務内容
を明示するためには、やはり「労働条件明示書」などを交付する必要があります。
2 パート職員への労働条件の明示義務
パートタイム労働法ではパートタイム労働者(1週間の所定労働時間が通常の労働者に比べて短い
労働者、以下パート職員という)を雇入れる場合は、上記の労働条件の明示に加えて、さらに次の労
働条件を文書の交付などにより明示する必要があります。
(3)文書交付(ファックス、Eメール等)によりパート職員に明示しなければならない労働条件
⑮昇給の有無、⑯退職手当の有無、⑰賞与の有無
81
Check
Point
6
有期労働契約の締結の際は、契約更新の有無を明示してください。
1 有期労働契約期間
いつまで雇用するという期限の定めのある労働契約を有期労働契約といいますが、臨時的な業務や
一定期間だけ繁忙になる業務では、期限を定めた有期労働契約が締結されるケースがあります。有期
労働契約を締結する際は、契約期間の長さに次のような上限が設けられていますので注意してくださ
い。なお、1年を超える期間の有期労働契約を締結した職員は、1年を経過した後は事業者に申出る
ことによりいつでも退職することができます。
①有期労働契約期間の上限は3年とする(土木工事など一定期間で終了する事業は除く)
②60歳以上の職員を雇入れる場合、有期労働契約期間の上限は5年とする
③医師など一定の高度専門知識者を雇入れる場合、契約期間の上限は5年とする
2 契約更新の有無
有期労働契約を締結した職員にとって契約の更新の有無は生活に大きな影響を及ぼすため、職員と
有期労働契約を締結した事業者は、契約締結時に契約更新の有無を明示しなければなりません。明示
方法としては次のものがあり、できるだけ書面により明示してください。
有期労働契約 → 更新の有無の → ・特に申し出がない限り自動的に更新する
明示が必要 ・更新する場合がある
・契約の更新はしない
もし更新する場合があると明示したときは、職員に対して更新する場合または更新しない場合の判
断基準を明示しなければなりません。契約更新の判断基準には主に次のものがあります。
有期労働契約を → ・契約期間満了時の業務量により判断する。
更新する・しない ・職員の勤務成績、態度などにより判断する。
の主な判断基準 ・職員の能力、実績成果、協調性などにより判断する。
・施設・事業所の経営状況により判断する
・担当している業務の進捗状況や業務量により判断する
3 有期労働契約の配慮
有期労働契約を締結する際は、事業者は次のような配慮をしなければなりません。
盧 有期労働契約は、職員を使用する目的に照らして必要以上に短い期間を定め、その有期労働契
約を反復して更新することのないように配慮しなければなりません。
盪
1回以上更新し1年を超えた有期労働契約を更新しようとする場合は、契約の実態や職員の希
望に応じて契約期間をできる限り長くするように努めなければなりません。
蘯
82
有期労働契約が満了するまでの間は、やむを得ない事由がなければ解雇できません。
4 雇い止めの予告手続き
有期労働契約の期間満了をもって契約を終了することを雇い止めといいますが、次の有期労働契約
を更新せずに期間満了とともに雇い止めするときは、事業者は少なくとも契約期間満了日の30日前ま
でに雇い止めの予告をしなければなりません。ただし、あらかじめ更新しないことが明示されている
場合は除きます。
有期労働契約 ・1年を超えて継続雇用している場合 → 雇い止め → 30日前までの予告が必要
・3回以上契約更新した場合 するとき
5 雇い止めの理由の明示
有期労働契約を締結した職員に、契約期間満了とともに雇い止めすることを予告した際に、その職
員から雇い止めの理由についての証明書を請求された場合は、遅滞なく交付しなければなりません。
雇い止めの主な理由としては次のものがあります。
・契約更新時にこれが最後の契約であり、次の更新はしないことが合意されていた
・最初の契約時から更新回数に上限を設けており、その上限の契約期間が満了した
・担当していた業務が終了・中止したため
・職務の遂行能力が低下したと認められるため
・無断欠勤や遅刻が多く勤務成績が不良のため
・業務命令に従わなかったため
Check
Point
7
規律と信頼のある職場のため就業規則を定めて労働基準監督署に届け出ています
か。
1 就業規則の重要性
施設・事業所には役職や業務内容だけでなく、性格や考え方が異なるさまざまな人が働いています。
施設・事業所がスムーズに運営されるためには、多くの人が共通したルールの下で安心しかつ協調し
て働く環境が必要です。雇用する側の施設・事業所と雇用される職員にはそれぞれに権利と義務があ
りますが、お互いが権利と義務を守り職場のルールを尊重しながら働くことが職場に規律と信頼を構
築することになります。そのため労働時間や休日、賃金、服務規律、解雇、制裁などの基準を明確に
定める就業規則がとても重要になります。
労働基準法では常時10人以上の職員を雇用する事業者に、就業規則の作成と所轄労働基準監督署へ
の届出を義務付けています。この10人にはパートタイマーやアルバイトなど短時間職員も含みます。
また、就業規則は事業場ごとに届け出る必要がありますので、同一事業であっても事業場が異なる場
合はそれぞれの事業場ごとに作成し届け出てください。たとえ常時雇用する職員が10人未満であって
も、就業規則の重要性を考えると作成することが望ましいといえます。
2 就業規則の内容
就業規則を作成する場合の規定内容は、労働基準法で次のように定められています。
83
(1)必ず定めなければならない内容
①始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換制度(交替制)、②賃金の決定、計算、支
払方法、締切り支払日、昇給に関する事項、③退職に関する事項(解雇の事由含む)
(2)定めがある場合は必ず記載しなければならない事項
③-2退職手当の適用者の範囲、退職手当の決定、計算、支払方法、支払時期に関する事項、④臨
時の賃金、賞与等(退職手当除く)、⑤労働者の食費、作業用品の負担、⑥安全衛生に関する事項、
⑦職業訓練に関する事項、⑧災害補償、業務外傷病扶助、⑨表彰および制裁、⑩その他労働者のすべ
てに適用される事項
(3)任意的記載事項
法令、公序良俗、労働協約に反しない任意の事項
3 就業規則の作成手続きと周知義務
就業規則を作成し施設・事業所管轄の労働基準監督署に届け出る場合は、労働組合または職員を代
表する者の意見を聴かなければなりません。この場合、たとえ規定内容に反対意見であっても、その
聴いた意見の内容を記載し記名押印した意見書を添えて届け出ます。就業規則を変更する場合も同様
です。事業者は就業規則を次の方法により全職員に周知しなければなりません。
①全職員に配布する
②職場の見やすい場所に掲示する
③パソコンなどで常時確認できるようにする
4 就業規則と労働契約
労働契約を締結する場合は労働条件を明示しなければなりませんが、事業者が合理的な労働条件が
定められている就業規則を周知させていた場合は、その就業規則の定める条件を労働契約の内容とす
ることができます。なお、職員と事業者の合意により、就業規則と異なる内容を労働条件とすること
ができますが、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分については無
効となり、就業規則で定める基準によります。
また、事業者が一方的に就業規則を変更しても、労働条件を職員の不利益に変更することはできま
せん。就業規則を変更することにより労働契約の労働条件を変更する場合は、次のすべての条件を満
たす場合に限り変更後の就業規則に定める内容を労働条件とします。
①変更後の就業規則を全職員に周知させている
②職員の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更内容の相当性からみて変更内容が合理的である
③労働組合や職員代表者などとの交渉状況その他の変更に関する事情が合理的である
5 パート職員と就業規則
就業規則は正規職員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなどの非正規職員も含めたその事業
場の全職員に適用されます。そのため事業場に非正規職員がおり、その非正規職員の勤務時間や休日、
休暇、賃金、休職などの労働条件が正規職員と異なる場合は、それらの非正規職員に適用される別の
就業規則を作成する必要があります。パート職員用の就業規則を作成しない場合は、全職員に同じ就
業規則が適用されます。
84
[人材の定着率向上のためのチェックリスト]
Check
Point
8
労働時間であるのに労働時間と認めていない時間はないですか。
1 労働時間の基準
労働時間には、職員が実際に労働に従事している時間だけでなく、事業者の指揮命令のもとにある
待機時間も該当します。ただし、休憩時間は労働時間から除かれます。特に訪問介護員の場合は、実
際に介護に従事している時間以外にも、移動時間や報告書作成時間などがありますが、賃金を支払わ
なければならない労働時間を適切に管理・把握しないと、賃金の不払となりせっかく採用した人材に
不満が生じて離職に至ることもあります。人材の定着率を高めるには他業種や他の施設・事業所と比
べた労働条件が下回ることのないよう、次のように適切な労働時間の管理と把握が重要となります。
①介護従事時間−直接利用者の介護に従事する時間は、労働時間となります。
②通勤時間−自宅から事業場(事務所)や介護利用者宅へ直接出勤する通勤時間、事業場や利用者宅
から自宅へ直接帰宅する通勤時間、自宅から直接利用者宅へ出勤し、その後利用者宅か
ら直接自宅へ帰宅する通勤時間は労働時間となりません。
③移動時間−事業場から介護利用者宅・集合場所への移動時間や、介護利用者宅から他の介護利用者
宅・集合場所への移動時間、介護利用者宅から事業場への移動時間は、事業者が業務命
令で移動を命じ、職員が自由利用できない時間の場合は労働時間となります。
④待機時間−急な介護サービスの提供に備えて事業者が事業場などで職員に待機を命じ、その待機時
間中に職員が自由に行動できない場合は、その待機時間は労働時間になります。
⑤空き時間−利用者宅での介護サービス終了後に、次の利用者宅で介護に従事する開始時間までの空
き時間(移動時間以外)は、職員に自由利用が保障されている場合に限り労働時間とは
なりません。
⑥報告書等作成時間−業務報告書などの作成時間は、介護保険制度や業務規定などで業務上作成が義
務付けられており、事業者の指揮監督に基づいて事業場や利用者宅などで作成している
場合は労働時間となります。
⑦研修時間−研修時間は事業者から命じられている場合は労働時間となります。事業者から指示が明
示されていないときでも受講しないと制裁など不利益に取り扱われる場合や、参加しな
いと業務上に具体的に支障をきたす場合など、事業者から出席の強制が認められる場合
は労働時間となります。
職員の住居
通勤時間 通勤時間 通勤時間
施設・事業所 移動時間 A利用者宅 移動時間 B利用者宅
移動時間
移動時間
85
2 みなし労働時間制
(1)所定労働時間
労働時間の全部または一部を事業場外で勤務した場合で、事業者の具体的な指揮監督が及ばないた
め労働時間の算定が困難な場合は、原則として所定労働時間を労働したものとみなします。ただし、
次の場合は事業者の指揮監督が及んでいる状態にあるものとして実際の労働時間を算定します。
①従事者の中に労働時間を管理する職員がいる場合
②携帯電話などでいつでも連絡が取れる状態にあり、随時事業者などの指示を受けながら労働して
いる場合
③具体的な指示を受けて業務を遂行し、業務の終了後に施設・事業所に戻る場合
(2)所定労働時間を超える時間
所定労働時間を超えて労働することが必要な業務を命じた場合は、その業務の遂行に通常必要とさ
れる時間を労働したものとみなします。
Check
Point
9
労働時間を適正に把握、確認のうえ記録し保存していますか。
1 労働時間の把握と確認
賃金を支払わなければならない労働時間を適正に管理・把握することは、事業者の義務であるとと
もに職員が安心・信頼して働けるための必要最低限の条件です。労働時間が適正に管理把握できない
ために賃金の不払いになると違法な施設・事業所となり良い人材の定着どころではありません。適正
な労働時間の把握には、労働日ごとに始業時刻と終業時刻を確認し記録することが必要ですが、始業
時刻と終業時刻の把握には次の客観的な確認と記録方法が重要です。
なお、時間外労働や休日労働の規定の適用が除外される管理職などについても、健康管理確保の面
から労働時間を管理把握する必要があります。
労働時間の管理と把握 → 労働日ごとの始業・終業時刻を確認記録する。
↓
始業終業時刻の確認と記録は次の客観的な方法による。
・事業者自ら現認し記録する
・タイムカードやICカードなどにより記録する
・職員の自己申告の記録=業務報告書、残業報告書などで記録する
2 労働時間の適正な把握のための責任体制
労働時間は客観的な確認と把握の方法をもとに記録しなければなりませんが、客観的な方法であっ
ても日頃から適切に運用できなければ適正な把握や確認もできません。適正な運用には事業者の管理
が欠かせませんが、複数の事業場がある場合は事業者の管理が及ばないこともあります。そのような
場合は、各事業場ごとに全職員の労働時間を管理する責任者を定め、労動時間の適正な確認と把握の
体制を整える必要があります。
時間管理の責任者を複数定めれば、ダブルチェックができるためより適正になります。
86
3 労働時間記録の保存
適正に記録された労働日数や労働時間などをもとに賃金支給額を計算しますが、労働時間に関する
記録および下記の事項を記載した労働者名簿や賃金台帳などは、労働基準法により最低3年間保存し
なければなりません。
○労働時間の記録に関する書類=完結の日から3年間保存
タイムカード、残業命令書、残業報告書、職員が自ら記録した報告書など
○労働者名簿=退職・解雇または死亡日から3年間保存
記載事項→①氏名、②生年月日、③履歴、④性別、⑤住所、⑥従事する職務内容、⑦雇入年月日、
⑧退職年月日およびその事由、⑨死亡年月日およびその事由
○賃金台帳=最後の記入日から3年間保存
記載事項→①賃金計算の基礎となる事項、②賃金の額、③氏名、④性別、⑤賃金計算期間、⑥労
働日数、⑦労働時間数、⑧時間外労働・休日労働・深夜労働の労働時間数、⑨基本給、
手当その他の賃金の種類ごとのその金額、⑩労使協定により賃金の一部を控除した場
合はその金額、⑪各種社会保険料控除額など
Check
Point
10
労働時間に対して適正な賃金を支払っていますか。
1 正確な労働時間と適正な賃金
適正に把握された労働時間に応じて賃金も適正に支払わなければなりません。賃金が時間を単位と
して決まるパート職員の場合は、介護に直接従事する時間だけでなく「施設・事業所⇔利用者宅⇔利
用者宅」などの移動時間や待機時間、報告書作成時間などの労働時間についても正確に把握したうえ
で、労働契約に定めた適切な賃金を支払わなければなりません。
なお、訪問介護職員の場合、介護に従事している時間に支払う賃金額と、移動時間など介護に従事
している時間以外の労働時間に支払う賃金額が異なることは、事業者と職員とが同意していれば認め
られます。ただし、最低賃金額を下回る額とすることは認められませんので、都道府県ごとの最低賃
金額を確認してください。
2 休業手当の支払が必要な場合
職員が勤務を予定している所定労働日に、事業者の都合により労働日の全部または一部を休業させ
た場合は、休業手当として平均賃金の60%以上の額を支払わなければなりません。
例えば訪問介護サービスを提供する日に突然利用者からのキャンセルがあった場合、事業者が他の
利用者宅での勤務など他の代替勤務を十分に検討しないままその日に勤務予定の職員を休業させた場
合は、休業手当の支払いが必要となります。ただし、次の場合は休業手当の支払いは必要ありません。
①利用者からの申込撤回や時間の変更があった場合、他の利用者へのサービス提供など代替勤務を
させた場合
②就業規則で始業時刻・終業時刻の繰り下げや繰り上げを定めていた場合で、勤務時間を他の時間
に変更させて勤務させた場合
③就業規則で振替休日を定めている場合で、勤務日を変更し他の日に勤務させた場合
なお、一日中の勤務を予定していた職員を事業者の都合により一部の時間しか勤務させなかった場
合は、勤務した時間に対して支払う賃金額が予定していた一日分の平均賃金額の60%に達しないとき
87
は、その差額を休業手当として支払わなければなりません。
3 交通費などの必要経費
自宅から施設・事業所や直接利用者宅へ通勤する際の通勤手当は賃金ですが、「施設・事業所⇔利
用者宅⇔利用者宅」を業務命令による移動に要する交通費は必要経費ですので、賃金ではありません。
そのためこのような交通費などの必要経費は賃金台帳の賃金支給額には記載せず、同時に最低賃金額
を判断する際の賃金にも参入しません。なお、最低賃金額を判断する賃金からは精皆勤手当、通勤手
当、家族手当は除外されます。
Check
Point
11
時間外労働や休日労働がある場合は、時間外労働・休日労働に関する労使協定を
届け出ていますか。
労働時間は直接賃金額に影響するため職員にとってとても重要ですが、労働時間には労働基準法で
限度時間が定められており、その限度時間である法定労働時間、法定休日、法定休憩時間は次のとお
りです。なお、1日5時間、1週30時間など法定労働時間に満たない労働時間を定めている場合の労
働時間は所定労働時間といいます。
法定労働時間 = 1日8時間および1週40時間(1日8時間および1週44時間 特例措置 )
法 定 休 日 = 1週1日または4週4日
法定休憩時間 = 労働時間6時間を超える場合は労働時間の途中に45分
労働時間8時間を超える場合は労働時間の途中に60分
※特例措置は労働者数9人以下の商業、映画・演劇、病者等の治療・看護その他の保健衛
生業、接客娯楽業
この法定労働時間を超えた時間外労働あるいは法定休日に労働させる場合は、労働契約の締結時に
時間外・休日労働の業務命令に同意を得たうえで、事業者と労働組合または職員を代表する職員とが
時間外労働・休日労働に関する労使協定を締結した上で、施設・事業所管轄の労働基準監督署に届け
出なければなりません。この労使協定で定める時間外労働時間には次の上限がありますので、時間外
労働を命じる場合はこの限度内に納めなければなりません。
盧 1か月45時間 3か月120時間 1年間360時間
盪 小学校入学前の子の養育または家族を介護する職員が請求した場合
1か月24時間 1年間150時間
ただし、次の職員はこの請求ができません。
①日雇職員 ②採用後1年未満の職員
③1週間の所定労働日数が2日以下の職員
④配偶者が次のいずれにも該当する職員
・職業に就いていないこと
・心身の状況が請求にかかる子の養育ができること
・6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定でないことまたは産後8週間以内でないこと
・請求にかかる子と同居していること
88
Check
Point
12
時間外労働、休日労働の労働時間は適切に算定していますか。
1 時間外労働時間
1日8時間および1週40(特例措置44)時間の法定労働時間を超えた労働時間が時間外労働時間と
なります。1日の時間外労働にカウントした時間は、1週の時間外労働には重ねてカウントしません。
例えば事例1のように1日の所定労働時間が6時間の職員を2時間多く働かせた場合は、その日の
労働時間は合計で8時間(法内残業)となるため、通常の賃金を支払えばよく割増賃金を支払う必要
はありません。同じく1日の所定労働時間が6時間の職員を週6日勤務させた場合も、1週36時間の
ため割増賃金の支払いは必要ありません。ただし、労働契約や就業規則などで所定労働時間を超えた
場合に割増賃金を支払うことを定めている場合は、支払わなければなりません。
事例1:時間外労働時間=1.25倍 月
8h
火
9h
1h
水
8h
木
8h
金
9h
1h
土
4h
4h
日
休
時間外労働時間=1+1+4=6h
2 休日労働時間
1週1日または、4週4日の法定休日に労働させた時間が法定休日労働時間となります。
例えば事例2のように所定労働時間が1日6時間で、所定休日が土・日曜日の職員を月曜日・火曜日
に7時間、水曜日・木曜日に8時間、土曜日に6時間、日曜日に4時間労働させた場合は、月曜日か
ら土曜日までの労働時間は1週42時間となるため、40時間を超えた2時間に対しては通常賃金を1.25
倍した割増賃金を支払わなければなりません。また、日曜日の4時間は法定休日労働時間となるため
通常賃金を1.35倍した割増賃金を支払わなければなりません。
事例2:時間外労働時間=1.25倍 法定休日労働時間=1.35倍 月
7h
火
7h
水
8h
木
8h
金
6h
土
6h
2h
日
4h
4h
時間外労働時間=2h
法定休日労働時間=4h
3 深夜労働時間
午後10時から午前5時までの労働時間は深夜労働時間となるため、通常の賃金を1.25倍した割増賃
金を支払わなければなりません。この深夜労働時間が時間外労働や休日労働の時間と重複した場合は、
それぞれ次の割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定休日に1日8時間を超えて労働させ
た場合は、その日の労働時間はあくまでも法定休日労働なので1.35倍の休日労働時間の割増賃金を支
払えば足ります。
深夜労働時間 = 1.25倍の割増賃金
深夜労働時間と時間外労働時間が重複した労働時間 = 1.25+0.25=1.5倍
深夜労働時間と法定休日労働時間が重複した労働時間 = 1.25+0.35=1.6倍
※平成22年4月以降、中小事業主以外の事業所では、1か月60時間を超えた時間外労働時間の割
増率は1.5倍となります。
89
事例3:深夜(午後10時から午前5時)労働=1.25倍
午後6時 午後10時 午後11時
← 通常単価 → ← 1.25倍単価 → 深夜割増単価
事例4:時間外労働+深夜労働=1.5倍
午後12時 午後5時−6時 午後9時 午後10時 午後11時
通常単価
休憩
1.25倍単価
1.5倍単価
時間外割増単価
時間外+深夜割増単価
事例5:法定休日労働+深夜労働=1.6倍
休日 午後12時
午後5時−6時
1.35倍単価
午後9時
休憩
法定休日単価
午後10時
午後11時
1.35倍単価
1.6倍単価
法定休日単価
法定休日+深夜割増単価
4 変形労働時間制
変形労働時間制とは、業務の繁忙の差が大きい事業所が事前に定めた各日や各週の労働時間を短く
し、逆に別の日や別の週の労働時間を法定労働時間より長くすることで、1年単位や1か月単位など
一定期間を平均した1週の労働時間を40時間以内とする制度です。事前に定めた1日や1週の法定労
働時間を超えた労働時間については、時間外労働手当の割増賃金の支払いは必要ありません。ただし、
18歳未満の年少者や妊産婦については制限があります。
介護・福祉業界で活用できる変形労働時間制には次の制度がありますが、どの変形労働時間制を採
用するか、または週休2日制や週休1日制のいずれかを採用するかは業務の状況に応じて決めてくだ
さい。
労働日や時間の変更できるか 業務に曜日や一定期間・時期の繁忙はあるか
1日8時間を短縮 曜日ごとの 月の初旬下旬等の 季節・一定期間
繁忙あり 繁忙あり ごとの繁忙あり
できない できる 週休2日制 週6日労働 1か月単位の 1年単位の変形
週休1日制 変形労働時間制 労働時間制
(1)1か月単位の変形労働時間制
①1か月単位の変形労働時間制の採用
1か月単位の変形労働時間制とは、1か月のなかで業務の繁忙の時期や週がはっきりしている施
設・事業所が活用しやすい制度で、1か月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時
間を超えない範囲内で、各日各週の所定労働時間を事前に特定する制度です。特定された各日各週の
労働時間は事業者の都合で任意に変更できません。
採用するには、1か月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない旨、
90
および各日各週の労働時間などを定めた労使協定を締結(常時10人以上使用の事業所は就業規則に定
める)するか、または就業規則等で定めたうえで、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
なお、業務上の都合により職員ごとの労働日や労働時間を交代制にしなければならない場合は、労
使協定などで各直勤務ごとの始業終業時刻、交代制の組合せ方法、勤務表や勤務シフトの作成周知方
法などを定めておき、具体的な労働日や労働日ごとの労働時間は変形期間の開始前までに勤務表やシ
フト表などにより特定してください。
②1か月単位の変形労働時間制の効果
この制度では、事例1のように事前に特定した日に8時間を、特定した1週に40時間を超えて労働
させることができ、その法定労働時間を超えた労働時間には通常の賃金を支払えばよく、割増賃金を
支払う必要はありません。ただし、1か月単位の変形労働時間制では、1か月の総労働時間を歴日数
に応じた月ごとに次の上限時間以内にする必要があります。
歴日数ごとの1か月
1か月の上限時間
31日の月
177.1時間
30日の月
171.4時間
29日の月
165.7時間
28日の月
160時間
1か月平均の1週あたりの労働時間=1か月の総労働時間/歴日数×7
事例1
1カ月30日の月 上限労働時間171.4時間の場合
週40時間
週36時間
週35時間
周43時間
16時間
1日の所定労働時間→ 9 6 6 6 9 4 休 9 6 6 6 9 休 休 9 6 6 6 8 休 休 9 7 7 7 9 4 休 9 7
月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
初
日
末
日
1か月の総労働時間=40時間+36時間+35時間+43時間+16時間=170時間
1か月平均の1週あたりの労働時間=170時間/30日×7=39.66時間
③1か月単位の変形労働時間制の時間外労働時間
1か月単位の変形労働時間制を採用した場合の時間外労働時間は次の時間です。
1日=事前に8時間を超える労働時間を定めた日については、その定めた労働時間を超えた労働時
間。それ以外の日については8時間を超えた労働時間。
1週=事前に40時間を超える労働時間を定めた週については、その定めた労働時間を超えた労働時
間。それ以外の週については40時間を超えた労働時間。ただし、1日で時間外労働時間に算
入された時間は除きます。
1か月=1か月ごとの上限の労働時間を超えた労働時間。ただし、1日および1週で時間外労働時
間に算入された時間を除きます。
(2)1年単位の変形労働時間制
①1年単位の変形労働時間制の採用
1年単位の変形労働時間制とは、1年以内の変形期間のなかで季節など一定期間ごとの業務の繁忙
の時期がはっきりしている事業所が活用しやすい制度で、1か月を超え1年以内の一定期間を平均し
て1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、各日各週の所定労働時間を事前に特定する
制度です。特定された各日各週の労働時間は事業者の都合で任意に変更できません。
採用するには、1年以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない旨など
次の事項を定めた労使協定を締結し所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
91
・対象となる職員を明確に定める。対象者に特に制限はない。
・対象期間(1か月超え1年以内)及びその起算日。対象期間を期日でなく期間として定める
場合はその期間の起算日。
・1日の所定労働時間、始業・終業時間、休憩時間。
・特定期間。対象期間の中の特に業務の繁忙な期間を特定期間として定めることができる。
・労働日及び労働日ごとの労働時間。対象期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えな
い範囲内で、かつ労働日や労働時間の限度に適合するように各日各週の所定労働時間を事前に特定
する方法と、対象期間を区切って定める方法がある。
・労使協定の有効期間。
②1年単位の変形労働時間制の効果
この制度では、対象期間内の特定した1日に8時間、特定した1週に40時間を超えて労働させるこ
とができ、その法定労働時間を超えた労働時間には通常の賃金を支払えばよく、割増賃金を支払う必
要はありません。ただし、変形期間の総労働時間は、変形期間ごとの総枠以内とかつ、1日または1
週間の労働時間は限度時間以内としなければなりません。なお、対象期間を1か月以上の期間ごとに
区分して労働日および労働時間を定めることができますが、この場合は対象期間が始まる前までに次
の事項を定めておいてください。
ア−最初の期間における労働日および労働日ごとの労働時間。
イ−ア以外の各期間の労働日数および総労働時間。
ウ−イの各期間の初日の30日以上前に各期間ごとの労働日と労働日ごとの労働時間を書面で定め
る。
③1年単位の変形労働時間の労働日と労働時間の限度
1年以内の変形労働時間を採用するには、労働日と労働時間に次の限度があります。
・労働日数−対象期間が3か月を超える場合は、その対象期間1年あたりの労働日は280日を上限
とします。対象期間が1年未満の場合は次の計算式で算出した日数を限度とします。
280日×対象期間の歴日数/365
・労働時間−1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間とします。ただし、
対象期間が3か月を超える場合は次のいずれにも該当しなければなりません。
ア:1週48時間を超える週は連続3週以下
イ:対象期間を3か月ごとに区分した各期間の労働時間が48時間を超える週は、週の
初日が3回以下
・連続労働日−対象期間に連続して労働させる日数の限度は6日です。特定期間に連続して労働さ
せる日数は、1週に1日の休日が確保できる日数で最長12日です。
④1年単位の変形労働時間制の時間外労働時間
1年単位の変形労働時間制を採用した場合の時間外労働時間は次の時間です。
1日=事前に8時間を超える労働時間を定めた日については、その定めた労働時間を超えた労働時
間。それ以外の日については8時間を超えた労働時間
1週=事前に40時間を超える労働時間を定めた週については、その定めた労働時間を超えた労働時
間。それ以外の週については40時間を超えた労働時間。ただし、1日で時間外労働時間に算
入された時間を除きます。
1年=1年(変形期間)の次の計算式で算出された労働時間の総枠を超えた労働時間。ただし、1
日および1週で時間外労働時間に算入された時間を除きます。
変形期間の労働時間の総枠=40時間×変形期間の総歴日数/7
92
○1か月単位と1年単位の変形労働時間制の限度
労使協定の締結と届出
1日の労働時間の限度
1週の労働時間の限度
1週48時間超の週の限度
休日の限度
連続労働日の限度
Check
Point
13
1か月単位
必要
(就業規則等の定めも可)
なし
なし
なし
1週1日または4週4日
なし
1年単位
必要
10時間
52時間
連続3週まで
1週1日
6日(特定期間は12日)
割増賃金の単価は適正に計算されていますか。
1 割増賃金算定の通常の賃金
法定時間外労働や法定休日労働をさせた時間に対しては、通常の労働に対する賃金に割増率を乗じ
た割増賃金を支払わなければなりません。時間外労働を命じた労働時間に対して必要な割増賃金を支
払わなければ、不払い残業あるいはサービス残業として労働基準法に違反する事業所となり著しく労
働条件が悪化します。これではせっかく採用した人材も不満が高まり定着率向上どころか離職に至り
ます。通常の労働に対する賃金額には、基本給だけでなく資格手当や皆勤手当など毎月定額で支払わ
れる諸手当もすべて算入されますが、時間外手当や夜勤手当、宿・日直手当など通常の労働以外の労
働に対して支払われる手当は除きます。算入しなければならない手当を含めないと通常の労働に対す
る賃金の時間単価が少なくなり、その結果、時間外手当など割増賃金の額が少なくなります。なお、
毎月定額で支払わる手当であっても労働に関係なく個人的な手当や臨時的な手当てとなる次の手当
は、通常の労働に対する賃金額から除きます。ただし、これらの名称であっても家族数、通勤距離、
住宅費用などに関係なく全員一律の金額を支払うような場合の手当は通常の賃金に算入されます。
①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時の賃金、
⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
2 通常の賃金の時間当たり単価の算定方法
割増賃金は時間外労働や休日労働など時間単位で算定し支払うことになるため、割増賃金の単価は、
通常の労働に対する賃金の時間当たりの単価に時間外労働や休日労働などの該当する割増率を乗じて
計算します。賃金が日や月を単位として決まっている場合、通常の労働に対する賃金の時間当たりの
単価は次の方法で計算します。
①賃金が時間で決まっている場合はその金額。
②賃金が日で決まっている場合は、その金額を1日の所定労働時間で除した金額。ただし、変形労
働時間制のように日ごとに所定労働時間が異なる場合は、1週間あたりの1日の平均所定労働時
間数で除します。
③賃金が週で決まっている場合は、その金額を1週の所定労働時間で除した金額。ただし、週によ
り所定労働時間が異なる場合は、4週間あたりの1週平均所定労働時間数で除します。
④賃金が月で決まっている場合は、その金額を1か月の所定労働時間で除した金額。ただし、月に
より所定労働時間が異なる場合は、1年間あたりの1か月の平均所定労働時間数で除します。
⑤賃金が月または週以外の一定の期間で決まっている場合は、①∼④に準じた方法により計算しま
す。
⑥賃金が①∼⑤の二つ以上の方法により決まる場合は、それぞれの部分について該当する方法によ
93
り計算した金額を合計した金額となります。
3 割増賃金の割増単価
割増賃金の時間あたりの単価は、通常の労働に対する時間当たりの賃金額に、次の割増賃金ごとの
割増率を乗じて算出します。
・法定時間外労働=1日8時間および1週40(特例措置44)時間を超えた労働時間=1.25倍
・法定休日労働=1週1日または4週4日の法定休日の労働時間=1.35倍
・深夜労働時間=午後10時から午前5時までの深夜の労働時間=1.25倍
・時間外労働時間と深夜労働時間が重複した労働時間=1.25+0.25=1.5倍
・時間外労働時間と法定休日労働時間が重複した労働時間=1.25+0.35=1.6倍
※平成22年4月以降、中小事業主以外の事業所では、1か月60時間を超えた時間外労働時間の割
増率は、1.5倍となります。
4 端数処理
時間外労働手当てなど割増賃金の計算をする際、端数処理は次のように行います。
①通常の賃金の時間当たりの単価の端数は、50銭未満は切捨てし50銭以上1円未満は1円に切り上
げることは認められます。
②1時間当たりの割増賃金の単価の端数は、50銭未満は切捨てし50銭以上1円未満は1円に切り上
げることは認められます。
③月の時間外労働、休日労働または深夜労働の総労働時間の端数は、30分未満は切捨てし、30分以
上は1時間に切り上げることは認められます(毎日30分単位で切り捨てはできません)。
5 適用除外者 次の職務に就く職員は、労働時間、休憩時間、休日の規定を適用しないため、時間外労働や休日労
働に対する割増賃金の支払は必要ありません。ただし、深夜労働に対する割増賃金の支払いや年次有
給休暇の付与は適用されますので注意してください。
(1)監督・管理の地位にある職員
施設長や事業所長、部長など職務内容、責任と権限、勤務態様などが一般職員に比べ明らかに異な
り、かつその地位にふさわしい優遇措置を受けている職員で、労働条件の決定その他の労務管理につ
いて経営者と一体的な立場にある職員をいいます。該当するか否かはその名称にかかわらず実態と次
の基準をもとに判断します。
①労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にあり、実態上、労働時間や休
日などの規制を超えた活動を求められる重要な職務内容であるか、責任と権限はふさわしいか ②遅刻などの取り扱いがないなど出退勤に厳格な制限を受けない勤務態様か
③職務の重要性からみて定期給与である基本給や役付手当、ボーナスなどが一般職員に比べてその
地位にふさわしい待遇か
④スタッフ職員の場合は経営上の重要事項に関する企画立案等の部門に配属され、ラインの管理監
督職員と同格以上に位置づけられているか
(2)機密の事務を取り扱う職員
事務長、秘書などその職務が経営者や監督・管理の地位にある職員の活動と一体不可分の職員。該
当するか否かはその名称にかかわらず実態をもとに判断します。
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(3)監視・断続的労働に従事する職員
宿直、日直など一定部署で監視業務に就き、身体や精神の緊張の少ない職員や、断続的業務に就き
待機時間の多い職員であり、事業者が労働基準監督署長の許可を受ける必要があります。
具体的には常態としてほとんど労働をする必要のない勤務で、定時的巡視、緊急の文書または電話
の収受、非常事態に備えての待機などを目的とするものに限り、かつ原則として日直勤務は月一回、
宿直勤務は週一回を限度とする場合に許可されます。ただし、始業・終業時刻に密着した通常の労働
に継続する場合は許可されません。なお、宿日直勤務一回の手当の最低額は、宿日直勤務が予定され
ている同種の職員に支払われる一日の平均賃金の3分の1を下回らない額とします。
もしこの許可を受けずに宿直日直勤務をさせた場合は、その労働時間に対して通常の賃金または時
間外労働手当や休日労働手当などの割増賃金を支払わなければなりません。
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Point
14
年次有給休暇は法定どおりに与えていますか。
1 年次有給休暇
新たに雇入れた職員のうち1週間の出勤日数が5日以上で、かつ1週間の所定労働時間数が30時間
以上の職員が6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合は、10日間の年次有給休暇を与
えなければなりません。その後、1年経過ごとに全労働日の8割以上出勤した場合は、勤続年数に応
じて次の年次有給休暇を与えなければなりません。なお、下記の期間は出勤したものとして取り扱う
必要があります。年次有給休暇は職員が重視する労働条件ですので、定着率の向上のため最低でも法
令どおりの日数を与える必要があります。
勤続年数
付与日数
6か月
10日
1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月
11日
12日
14日
16日
18日
20日
① 業務上の傷病休業期間 ③ 育児・介護休業期間
② 産前産後の休業期間
④ 年次有給休暇取得期間
2 短時間労働者・有期契約労働者の年次有給休暇
1週間の出勤日数が4日以下で、かつ1週間の所定労働時間数が30時間未満のパート職員など短時
間労働職員に対しても所定労働日の8割以上出勤した場合は、年次有給休暇を与えなければなりませ
ん。ただし、付与日数は1週間または1年間の所定労働日数と勤続年数に比例した下記の日数となり
ます。なお、勤続年数とは在籍期間を意味しますので、短期間の雇用契約期間を更新して6か月以上
におよびその間の所定労働日の8割以上出勤した場合は、年次有給休暇を与えなければなりません。
また、付与日数は付与日に予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数ですが、予定の
所定労働日数が算定できない場合は、付与日の実績をもとに所定労働日数を算出できます。
週所定
年間所定
労働日数 労働日数
付 4日 169∼216日
与 3日 121∼168日
日 2日 73∼120日
数 1日 48∼ 72日
6か月
7日
5日
3日
1日
勤 続 年 数
1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月
8日
9日
10日
12日
13日
15日
6日
6日
8日
9日
10日
11日
4日
4日
5日
6日
6日
7日
2日
2日
2日
3日
3日
3日
※年の途中で所定労働日数が変更されても、その1年間の年次有給休暇日数は変更されません。
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3 年次有給休暇の賃金
職員が年次有給休暇を取得した日に支払わなければならない賃金は次のいずれかです。
①平均賃金 ②通常の賃金 ③労使協定がある場合は、健康保険の標準報酬日額
賃金が月を単位として決められている場合、有給休暇を取得した月の賃金を減額せずに全額を支払
うならば通常の賃金を支払うことになります。ところで時間給制のパートタイマー職員は日によって
勤務時間が変われば、その時間に応じて賃金額も変わりますが、この場合の通常の賃金とは有給休暇
を取得した各日の所定労働時間に応じて算定した額をいいます。
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Point
15
パート職員の待遇は正規職員と均衡がとれていますか。
1 正規職員と同視すべきパート職員の定義と均衡処遇
介護施設・事業所では、パート職員など短時間労働の職員の比率が高く、日々の業務でも重要な役
割を担っているため、パート職員が意欲的に能力を発揮して働けるかどうかが施設・事業所の経営上
とても重要となっています。
同一施設・事業所で雇用される職員のうち、所定労働時間が通常の職員の1週間の所定労働時間に
比べて短い職員をパート職員といい、パートタイマー、アルバイト、契約職員、臨時職員などその名
称にかかわらず、この条件に該当するパート職員にはパートタイム労働法により労働条件の明示義務
(チェックポイント5参照)や賃金などの待遇に基準が設けられています。
2 正規職員と同視すべきパート職員の3つの基準
パート職員であっても実際の仕事の内容や責任の度合いが、正規職員と同視すべき職員が増えてい
ます。このようなパート職員の賃金などの処遇が、パートというだけで正規職員に比べ格差がある場
合は、パート職員に不満が生じ意欲が低下することにもつながります。パートタイム労働法では、パ
ート職員の意欲向上や協調性のある職場環境の実現のため、パート職員というだけで差別的に取り扱
うことを禁止するとともに、待遇を正規職員との働き方の違いに応じた均衡をとるように求めていま
す。この法律では正規職員と同視すべき職員か否かを次の3つの基準で判断します。
①職務内容−業務の種類、中核的業務内容、必要な知識や技術、責任の程度などで判断
②人材活用の仕組み−転勤の有無と範囲、職務内容や配置の変更の有無と変更範囲で判断
③契約期間−契約期間があっても形式的更新を重ね、実質的な無期契約であるかどうかで判断
3 正規職員と均衡のとれた待遇
3つの基準を判断した結果、正規職員とパート職員の働き方の違いの程度に応じて賃金などの待遇
は次のように取り扱わなければなりません。
①正規職員と同視すべきパート職員
雇用されている全期間を通じて、3つの基準が正規職員と同視できるパート職員は、賃金、教育訓
練、福利厚生のすべての待遇をパート職員であることを理由に差別的に取り扱ってはならず、正規職
員と均衡のとれた待遇をしなければなりません。
②職務と人材活用の仕組みが同じパート職員
契約期間はありますが、職務と人材活用の仕組みが同じ職員については、基本給や役職手当、賞与
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など職務に関連した賃金の決定方法を正規職員と同一とすること、および職務遂行に必要な能力のた
めの教育訓練や給食施設、休憩更衣室の利用の配慮なども義務付けられています。
③職務が正規職員と同じパート職員
3つ基準のうち職務の内容だけが同じパート職員については、基本給や役職手当、賞与など職務に
関連した賃金は、パート職員であることを理由に全員一律の金額に決めずにパート職員ごとの職務内
容、成果、意欲、能力、経験などを反映させて決めること、および職務遂行に必要な能力のための教
育訓練や給食施設、休憩更衣室の利用の配慮なども義務付けられています。
④正規職員とは3つの基準が異なるパート職員
基本給や役職手当、賞与など職務に関連した賃金、および職務遂行に必要な能力のための教育訓練
は、パート職員であることを理由に全員一律の金額に決めたり同じ取り扱いをせずに、パート職員ご
との職務内容、成果、意欲、能力、経験など反映させるようにしなければならず、給食施設、休憩更
衣室の利用の配慮なども義務付けられています。
パートタイム労働者の態様
【パートタイム労働者の態様】
通常の労働者と比較して、
職務の内容
(実 務 の 内
容及び責
任)
人材活用の仕組
みや運用など
(人事異動の有
無及び範囲)
賃 金
契約期間
教育訓練
福利厚生
左以外のも
職務遂行に
の(キャリ ・給食施設
必要な能力
アアップの ・休憩室
を付与する
ための訓練 ・更衣室
もの
など)
職務関連賃金
・基本給
・賞与
・役付手当等
左以外の賃金
・退職手当
・家族手当
・通勤手当等
左以外のも
の(慶弔休
暇、社宅の
貸与等)
◎
◎
◎
◎
◎
◎
□
−
○
△
○
−
△
−
○
△
○
−
△
−
△
△
○
−
①通常の労働者と同視すべきパートタイム
労働者
同じ
全雇用期間を
通じて同じ
無期or反復
更新により
無期と同じ
②通常の労働者と職務の内容と人材活用の
仕組みや運用などが同じパートタイム労
働者
同じ
一定期間は同じ
−
③通常の労働者と職務の内容が同じパート
タイム労働者
同じ
異なる
−
④通常の労働者と職務の内容も異なるパー
トタイム労働者
異なる
−
−
(講じる措置)
◎…パートタイム労働者であることによる差別的取扱いの禁止 ○…実施義務・配慮義務
□…同一の方法で決定する努力義務 △…職務の内容、成果、意欲、能力、経験等を勘案する努力義務
4 パート職員の労働時間
短時間労働で勤務するパート職員の多くは、仕事と、家事や子育てなど家庭とを両立させて勤務し
ているため、勤務表などで定められた所定労働時間や所定労働日が急に変更されたり、あるいは所定
労働時間を超えた労働や休日労働を突然命じられたりすることが増えると、家庭の予定を変更しなけ
ればならなくなり両立が困難となることもあります。そのためパート職員の労働時間や労働日の変更
97
は、パート職員の事情を十分考慮して行わなければなりません。また、できるだけ所定労働時間を超
えた労働や所定労働日以外の労働はさせないように努めなければなりません。
5 パート職員の正規職員への転換措置
パート職員の中には、仕事に対する意欲や能力が高く正規職員として働きたいと考えている人もい
ます。意欲と能力が高いパート職員を希望に応じて正規職員にできれば、そのパート職員だけでなく
その他のパート職員の意欲と定着率も高められます。そのため事業者にはパート職員を正規職員に転
換するための次の施策が義務付けられています。
①募集条件の周知=正規職員を募集するときは、募集条件を雇用しているパート職員に周知する
②応募機会の付与=正規職員ポストの内部公募の際は、雇用しているパート職員に機会付与する
③転換制度の整備=パート職員の正規職員への転換のための試験制度などを導入する
6 労働条件の理解の促進
事業者は、新たに雇入れたパート職員に対して労働条件を書面で明示するだけでは十分ではありま
せん。双方が後々の雇用上のトラブルを防ぎ、権利と義務を尊重してお互いが信頼し協調しあって働
くためには、労働条件の内容をパート職員に十分理解してもらう必要があります。そのため事業者は
次の労働条件の内容について職員に詳しく説明したうえで理解を深めるようにすることが求められま
す。ただし、パート職員が納得するまでの説明を求めるものではありません。
労働条件の文書交付、就業規則の作成手続、待遇の差別的取扱い禁止、賃金の決定、
教育訓練、福利厚生施設、通常の労働者への転換推進措置
Check
Point
16
育児・介護休業は適切に与えていますか。
1 育児、介護休業の重要性
新たに採用した人材を長期間教育訓練し、ようやく戦力になったと思ったら育児や介護を理由に退
職に至ることは本人のキャリアを考えるととても残念なことです。また、施設や事業者にとってもそ
れまで費やした育成のための時間と労力が無駄になるだけでなく、職員全体の定着率と能力の向上に
大きな支障を来します。特に若い女性職員は仕事と家庭(子育て)を両立させたいと考えていても、
現実には多くの困難があるためやむを得ず退職せざるを得ない場合もあります。
そこで「育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下育児介
護休業法)」により、1歳未満の子の育児や家族の介護が必要となった職員が申し出したときは、育
児休業または介護休業を取得できるようになりました。育児や介護休業の取得実績のある施設・事業
所は、特に女性職員にとって信頼できる魅力的な職場となり、応募数や定着率の向上に寄与しますの
で、積極的に推進しかつ求職者にアピールしたいところです。
2 育児休業の対象者と休業期間
(1)育児休業の対象者
育児休業の対象となる職員は、1歳未満の子と同居し養育する職員です。ただし、日々雇用される
職員を除きます。また、労働契約期間のある期間雇用の職員は、次のいずれにも該当する場合は育児
休業をとることができます。
98
①同一事業者に引続き雇用された期間が1年以上であること
②子が1歳に達する日(誕生日の前日)を超えて引続き雇用されることが見込まれること。ただし、
1歳に達した日から1年を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らか
な職員は除きます。
なお、雇用1年未満や1週の労働日が2日以下など、労使協定で定めた一定の職員からの休業の申
し出は拒むことができます。
(2)育児休業の期間
育児休業期間は、1人の子につき1回、誕生日から1歳に達する日までの間で職員が申し出た期間
です。ただし、女性職員の産後56日までは産後休暇になります。また、次のいずれかに該当する場合
は、子が1歳6か月に達するまで育児休業ができます。
①保育所に入所を希望しているが入所できない場合
②子を養育している配偶者で、1歳以降も子を養育する予定であったものが、死亡、負傷、疾病な
どの事情により子の養育が困難になった場合。この場合1歳まで育児休業していた配偶者に替わ
り1歳の誕生日から休業することもできます。
3 介護休業の対象者と休業期間
(1)介護休業の対象者
介護休業の対象となる職員は、要介護状態にある対象家族を介護する職員です。ただし、日々雇用
される職員を除きます。また、労働契約期間のある期間雇用の職員は、次のいずれにも該当する場合
は介護休業をとることができます。
①同一事業者に引続き雇用された期間が1年以上であること
②介護休業開始予定日から93日を経過する日を超えて、引続き雇用されることが見込まれること。
ただし、93日経過日から1年を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明
らかである場合を除きます。なお、雇用1年未満や1週の労働日が2日以下など労使協定で定め
た一定の職員からの休業の申し出は拒むことができます。
(2)介護休業の期間
介護休業期間は、対象家族1人につき要介護状態に至るごとに1回、通算93日までの間で職員が申
し出た期間です。ただし、2回目以降の介護休業ができるのは、要介護状態から回復した対象家族が
再び要介護状態に至った場合で、介護休業日の上限は通算93日です。
4 その他の制限
(1)時間外労働・深夜労働の制限
小学校就学前の子を養育する職員、または要介護状態にある家族を介護する職員(日々雇用される
職員除く)が請求した場合は次の制限があります。
①時間外労働の制限=1月24時間、1年間150時間を超える時間外労働はさせられない
②深夜労働の制限=午後10時から午前5時までの深夜労働はさせられない
(2)養育、介護のための勤務時間などの短縮
事業者は3歳未満の子を養育する職員、または要介護状態にある対象家族を介護する職員には通算
93日間まで次のいずれかの措置を講じなければなりません。
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①短時間勤務制度
・1日の所定労働時間の短縮
・週または月の所定労働時間の短縮
・週または月の所定労働日数の短縮(隔日勤務、特定曜日の勤務)
・職員が勤務しない日や時間を請求することを認める制度
②フレックスタイム制度
③始業終業時刻の繰上げ、繰下げ制度
④所定時間外労働をさせない制度(養育のみ)
⑤子を養育する職員には託児施設の設置運営など、介護サービス利用費の助成など
5 子の看護休暇
小学校就学前の子を養育する職員が申し出た場合(取得日当日の申し出も可)は、事業者は職員1
人につき1年度に5日間まで、病気や負傷した子の看護や世話のための休暇を与えなければなりませ
ん。ただし、日々雇用される職員を除きます。この場合の1年度とは4月1日から翌年3月31日まで
をいいますが、施設・事業所ごとの実情に応じて1月1日から12月1日までのように定めることもで
きます。なお、勤続6か月未満の職員や、週の所定労働日が2日以下の職員など労使協定で定めた職
員は対象外とすることができます。
6 育児休業期間、介護休業期間などの賃金
育児や介護のための休業期間や短時間勤務制度、および子の看護休暇制度により勤務していない期
間や日、時間に対しては事業者に賃金の支払義務はありません。これらの不就労期間や日、時間の賃
金を支払うか支払わないかの取り扱いは、事前に労働条件または就業規則などで定めておいてくださ
い。なお、職員が雇用保険の被保険者でかつ一定の条件を満たす場合、育児や介護休業の期間に賃金
が支払われないときは、雇用保険から給付金が支給されることがあります。
Check
Point
17
職員の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きを行っていますか。
1 社会保険に加入する被保険者
社会保険は健康保険と厚生年金保険からなりますが、法人では1人以上、個人事業では5人以上の
常勤職員を雇用する事業所は法令で社会保険への加入が義務付けられています。応募者にとっては社
会保険に加入している施設や事業所は信頼度が増しますし、採用した職員は被保険者として社会保険
に加入できれば、もしもの傷病欠勤時や将来の年金のことを考えると安心して勤務できます。特に配
偶者や子など扶養家族をもつ職員にとっては社会保険がとても重要ですので、定着率の向上のために
も採用後に社会保険の加入手続を適切に行う必要があります。なお、この場合の社会保険に加入する
資格取得年月日は、試用期間などにかかわらず実際の採用日となります。
2 短時間職員と社会保険
常勤職員以外のパート職員など短時間職員は、日または週の労働時間、および1か月の勤務日数が
次の基準に該当する場合は社会保険に加入させる義務があります。
100
パート職員など短時間労働職員の社会保険加入基準
↓
日または週の労働時間および1か月の労働日数が一般職員の4分の3以上の場合
↓
一般職員=1日あたりの所定労働時間8時間、休日が週休2日制+祝祭日の場合 ↓
8時間×3/4 = 6時間以上 1か月20.6日×3/4 = 15.4日以上
(※4分の3の基準は、将来2分の1などに変更される可能性があります)
Check
Point
18
労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きを適正に行っていますか。
労働保険は、業務災害や通勤災害時に保険給付を行う労働者災害補償保険(以下、労災保険)と離
職した職員に対する失業給付だけでなく、高齢者や育児・介護休業者に対する雇用継続給付などを行
う雇用保険からなります。
1 労災保険の手続きはきちんと行なっていますか
労災保険は、常勤職員だけでなくパート・アルバイトなど短時間職員にも保険給付を行う制度です
が、雇用保険のように特に職員を登録することはしなくとも保険給付を受けられます。安心できる職
場と定着率の向上のためパート職員やアルバイト職員であっても業務災害や通勤災害が発生した場合
は、労災保険の給付手続きをきちんと行ってください。
2 雇用保険の手続きはきちんと行なっていますか
雇用保険は、常勤職員および1年以上雇用する予定のある短時間職員で週の労働時間が20時間以上
の職員が被保険者となりますが、被保険者ごとに採用日を資格取得日として資格取得手続きを行うこ
とで雇用保険への加入が確認されます。
雇用保険は、高齢者や育児・介護により休業せざるを得ない職員を支援する制度であるとともに、
もしもの離職に至った場合の最後のセーフティ―ネットとなる制度であるため、被保険者に該当する
職員は必ず適正な加入手続きを行ってください。
101
本手引きは「介護施設・事業所の採用活動と初期の教育訓練のあり方にかかわる調査研究委員会」
において編纂したものです。
【委員名簿(所属等は平成20年12月現在/50音順)
】
浦野 正男
社会福祉法人 中心会 理事長
尾崎 百合香
東京都福祉人材センター人材情報室 統括主任
加藤 實
経営コンサルタント
委員長 田島 誠一
堀田 聰子
日本社会事業大学大学院 教授
東京大学 社会科学研究所 特任准教授
『介護施設・事業所のための戦略的な採用と初期の定着促進の手引き』
発 行:社会福祉法人 全国社会福祉協議会 中央福祉人材センター
企画・構成:「介護施設・事業所の採用活動と初期の教育訓練のあり方にかかわる調査研究委員会」、
マネジメント・デザインズ株式会社
〒100-8980
東京都千代田区霞が関3−3−2 新霞が関ビル
電話:03-3581-7801
fax:03-3581-7804
平成20年12月
平成21年5月 一部改訂
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