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X線CT装置の機器工学(2)

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X線CT装置の機器工学(2)
X線CT装置の機器工学
(2)
−画像再構成と画像表示−
355
基礎連続講座
X線CT装置の機器工学(2)
CT 講座
CT講座
−画像再構成と画像表示−
藤田保健衛生大学衛生学部 辻 岡 勝 美
一般のX線撮影とCTで決定的な違いは画像再構成で
これはv
(x)
を横軸上でtだけずらしたものv
(x−t)
に倍率
ある.X線撮影では被写体を透過したX線は,感光材
w
(t)
を掛けるというもので,tをいろいろ変化させ,
料上にそのまま透過像として結像する.CTでは被写
すべてを加えるというものである.v
(x)
を元データ,
体を透過したX線は検出器により信号に変換され,コ
w
(x)
は倍率表と考えればわかりやすい.Fig. 2は矩形
ンピュータにより画像再構成
(image reconstruction)
さ
のv
(x)
と三角形のw
(x)
をコンボリューションした様子
れ画像表示が行われる.画像再構成でCT特有の技術
を示している
(注:この方法はヘリカルスキャンにお
が展開され,画像表示でCT特有の画像特性が現れ
けるスライス感度プロフィールのシミュレーションで
る.今回,CT装置における画像再構成から画像表示
再度登場する)
.第二段階は逆投影である.
までを解説する.
1.画像再構成
(image reconstruction)
マルチスライスCTが開発されて三次元CTといわれ
fθ ( x, y) = q( x cos θ + y sin θ ,θ )
………………
(2)
1 π
f ( x, y) =
2π
∫−π fθ ( x, y)dθ
ているが,画像再構成からみればいまだに二次元の画
CTの画像再構成では投影データと再構成関数がコ
像再構成である.ラドンの画像再構成則によれば,三
ンボリューションされる.CTにおける投影データと
次元再構成には三次元的なあらゆる方向からの投影デ
してはFig. 1で示したような形状であり,これをその
ータが必要で,いくらコーンビームCTとはいえ人体は
まま逆投影したのでは元画像は再現できない.それこ
縦長であり三次元的なデータ収集は不可能である.つ
そボケボケの画像である.そこで,元の投影データに
まり,CTでは今も昔も二次元的な画像再構成が行われ
Fig. 3のようなδ関数である画像再構成関数をコンボ
ている.ヘリカルスキャンやマルチスライスCTでは,
リューションし,その結果を逆投影する
(Fig. 4,5)
.
補間等により二次元の画像再構成に必要な正しい投影
これにより元画像に近い画像,つまり,臨床診断に役
データを作り出して考えればよいのである.
立つ画像が再現できる.画像再構成関数
(フィルタ)
は
今回は二次元のノンヘリカルスキャンにおける画像
臨床目的により各種用意され,臨床では診断目的や対
再構成について解説する.Fig. 1はCT装置における物
象部位により選択される.
体の投影を示したものである.CTではコンピュータ
に取り込まれた投影データから画像再構成により電気
信号としての画像が再現される.投影データをどう料
理するかが画像再構成である.現在,ほとんどのCT
装置の画像再構成には畳込み逆投影法
(convolution
スキャン
backprojection: CBP法)
が用いられている.CBP法で
はその名のとおり,コンボリューション
(畳込み)
とバ
ックプロジェクション
(逆投影)
が行われる.CBP法の
特徴として,計算量が少ない,透過データに含まれる
ノイズに対して安定,等の利点が挙げられる.
第一段階はコンボリューションである.コンボリュ
ーションの一般形は以下の式で表される.
u( x ) = ∫−∞ v( x − t )w(t )dt
………………………
(1)
∞
2002 年 3 月
Fig. 1 CT装置における物体の投影.
日本放射線技術学会雑誌
356
v(t )
元データ
v(x-t)
w(t)
t だけずらした元データ
t
そのときの倍率はw(t)
w(t)
t
v(x-t)w(t)
これをすべての t について行い
加算する
コンボリューションされた結果
Fig. 2 コンボリューション.
{
h(t)=
2
앟ε
−1
앟t
2
t <ε のとき
投影データ
その他のとき
h(x)
フィルタ
X
0
投影データとフィルタの
コンボリューション
Fig. 3 再構成関数
(δ関数)
.
Fig. 4 CBF法におけるコンボリューション.
画像再構成
投影データと
フィルタのコン
ボリューション
フィルタ 投影データ
2.生データと画像データ
CTでは画像再構成される前の投影データの状
態のものを生データ,画像再構成された状態のも
のを画像データと呼ぶ.生データがあれば,コン
ボリューションする画像再構成関数を変化させる
ことにより,いろいろな空間分解能,コントラス
ト分解能を有する画像を作成することができる.
また,ヘリカルスキャンで生データがあれば画像
再構成間隔を変化させて作り直すこともできる.
それに対し,画像データは再構成された画像であ
って,画像再構成関数を変化させることができな
い.生データはエックス線管の回転数によりデー
Fig. 5 コンボリューション逆投影法
(CBP法)
による画像再構成.
タ量が決まるが,通常は 1 回転で画像データの約
第 58 卷 第 3 号
X線CT装置の機器工学
(2)
−画像再構成と画像表示−
357
3 倍である.CT装置では生データの領域と画像データ
かしこれは間違いである.CT値が+1,000とは吸収係
の領域が別々に確保されており,生データ領域は新し
数が水の 2 倍の物質であり,骨と限定するものではな
い生データが取り込まれることにより順次更新され
い.式
(3)
で애tに2애t を代入すれば理解できる.
る.つまり,少し前のCT検査であれば生データはコ
CT値は絶対的に信頼できるものであろうか? じつ
ンピュータ内に保管されており,任意の画像再構成関
は被写体の大きさや吸収係数,そして被写体の組成で
数で再構成をやり直すことができる.また,画像再構
正しく表示されない場合がある.CT値が 0 とはキャ
成関数だけでなく,有効視野についても画像再構成を
リブレーションしたときの水のファントムの大きさの
やり直すことができる.生データがあれば,スキャン
水でのCT値を 0 と決めているものであり,X線の線質
を繰り返さなくてもスキャンパラメータを変化させる
硬化
(ビームハードニング)
により変化する.実際に
ことが可能なのである.ただし,スキャン時に設定し
は,被写体がFOV
(field of view)
に対して小さくなる
たスライス厚,スキャン条件等は生データでは変更で
とCT値は高く表示される.
きないので注意が必要である.
5.ディジタル画像
3.生データ再構成と画像フィルタ,生データズーム
一般のX線撮影ではフィルムとして表示,保管され
と画像ズーム
る.CT装置では画像はディジタルデータとして電気
生データがあれば画像再構成が可能である.それと
的に記録される.診断を行うときは,それをCRT上に
は別に,画像データにイメージフィルタをかけること
映像として表示したり,フィルムに焼き付けたりす
により視覚的な画質が変化できる.一見,同じように
る.つまり,CT画像はディジタルデータである.そ
感じられるが,基本的には生データによる再構成
(ロ
のため,PACS
(picture archiving and communication
ウデータリコン)
を選択すべきである.同様に,生デ
system)
で管理するには都合がよい.最近ではHIS
ータズームと画像ズームがある.仮に,縦横 2 倍でズ
(hospital information system)
,RIS
(radiology informa-
ームを行った場合,生データズームでは512×512ピク
tion system)
と呼ばれるネットワークの構築もさかん
セルによる画像が再構成される.しかし,画像ズーム
になってきた.ヘリカルスキャン,マルチスライス
の場合,拡大部分は256×256ピクセルで表示される.
CTの登場によりCT画像のデータ量は膨大になってき
やはりこの場合も生データを用いたズーム
(ロウデー
た.それをどう保管,運用するかが最近の課題であ
タズーム)
が選択されるべきである.
る.
4.CT値
(Hounsfield unit: HU)
6.画像表示
(ウィンド機能)
CT特有の単位としてCT値がある.CT値は下式で表
一般のX線撮影では透過X線はフィルム上に結像す
わされ,物体のX線吸収の程度を示す.CT装置として
る.通常,透過X線の量が多ければ高濃度となるし,
は水をスキャンした場合の吸収係数を 0 と決める.
透過X線量が少なければ低濃度となってしまう.つま
µ −µ
µw
w
= t
× 1000
CT値 ………………………
(3)
り,フィルムの濃度は透過X線の量で決まる.このた
めに,自動露出機構
(ホトタイマ)
の開発があった.ま
た,フィルムのノイズは増感紙に依存する.
ここで애 tは水のX線吸収係数,애wは水のX線吸収係数
では,CT装置はどうであろうか? CT装置ではX線
である.CT値を正確に表示するためにはキャリブレ
量
(管電圧,管電流,スキャン時間)
を変化させたとこ
ーションは重要であり,日常的に繰り返す必要があ
ろでCT値が変化するということはない.X線量を変化
る.ただし,最近の装置では,水によるキャリブレー
させることによりCT値のノイズが変化する.CTでは
ションは装置の定期点検時のみに行い,日常的には空
ウィンド機能が画像表示のうえで重要な役割を果た
気をスキャンするエアーキャリブレーションが行われ
す.ウィンド機能により画像の濃度,コントラストが
ている.キャリブレーションは検出器の感度のばらつ
調節される.Fig. 6にウィンド機能を示す.ウィンド
きを補正するデータとしても重要であり,リング状ア
機能とはその名のとおり窓を表すものであり,CT画
ーチファクトの低減にも有効である.
像の持つCT値の情報を部分的に輝度表示するための
水のCT値は 0 である.これは上式の애tに애wを代入
機能である.−1,000から+3,000以上もあるCT値の情
してみれば,分子が 0 となることから理解できる.ま
報を256階調で表示しようとすれば小さなCT値の差が
た,空気のCT値は−1,000である.これは上式の애tに空
十分なコントラストで表示されない.そこで,目的の
気の吸収係数
(ほとんどゼロ)
を代入すれば理解でき
CT値の範囲のみを選択し,その幅を256階調で表示し
る.骨のCT値が+1,000といわれる方がよくいる.し
ようとするものである.ウィンド幅
(window width:
2002 年 3 月
日本放射線技術学会雑誌
358
Fig. 6 ウィンド機能.
ウィンド幅
(WW)
とウィンド値
(WL)
により濃淡表示されるCT値範囲が決定される.
WW)
は選択されるCT値の範囲,ウィンド値
(window
level: WL)
は選択されるCT値範囲の中央値を示す.
Fig. 6aの場合,ウィンド幅は200,ウィンド値は50で
あるからCRT上に濃淡表示されるCT値範囲は−50から
150である.Fig. 6bの場合,ウィンド幅は100,ウィン
ド値は100であるから濃淡表示されるCT値範囲は50か
ら150である.Fig. 6aはFig. 6bより広いCT値範囲を表
現できるが,被写体のコントラストは低下し,わずか
なCT値の差が区別できなくなる.
CTではウィンド幅,ウィンド値を変化させること
により表示されるCT画像は変化する.一般的に,ウ
ィンド値を操作することによりCT画像の濃淡が変化
Fig. 7 頭部CT検査におけるウィンド設
定の例
(WL30,WW80)
.
する.ウィンド値を上げることにより画像濃度は黒く
なり,ウィンド値を下げることにより画像濃度は白く
なる.ウィンド幅を広くすることにより画像の視覚的
なノイズは低下する.しかし,微小なCT値差を十分
高域強調の画像再構成関数で空間分解能重視となる.
なコントラストで表現できなくなる.逆に,ウィンド
特に,ウィンド設定では解剖学的,病理学的な理解が
幅を狭くすることにより画像の視覚的なノイズは増加
必要とされ,
「診断に必要な画像の提供」
を心掛けてい
する.しかし,微小なCT値差を十分なコントラスト
ないと,せっかくのCTの情報が活かせないことにな
で表現できるようになる.ここで,視覚的なノイズと
る.ときどき,検査部位によりウィンド設定を固定し
呼んだのは,CT値自身はウィンド機能によっては変
て表示している施設もあるが,ある患者の経時的変化
化しないで,視覚的なCRT輝度を変化させるのがウィ
を観察するのならば問題はないが,前述したように,
ンド機能であるからである.
患者の大きさなどで線質硬化によりCT値が変化する
という現象もある.Fig. 7∼10に各部位におけるウィ
7.画像表示の実際
ンド設定の例を示す.CT値のノイズ特性は透過X線量
実際の臨床では目的の部位,疾患により画像再構成
や装置の性能に依存するので,これは固定されるべき
関数,ウィンド設定が選択される.肝臓や膵臓などの
ものではないと考える.できればおのおのの患者につ
診断のためには標準的な画像再構成関数でコントラス
いては最適な画像となるようにウィンド幅
(WW)
,ウ
ト重視のウィンド設定が行われ,肺野や骨の診断では
ィンド値
(WL)
を調節していただきたい.
第 58 卷 第 3 号
X線CT装置の機器工学
(2)
−画像再構成と画像表示−
Fig. 8 肺野CT検査におけるウィンド設
定の例
(WL−700,WW1800)
.
Fig. 9 腹部CT検査におけるウィンド設
定の例
(WL30,WW180)
.
8.ウィンド機能を有するCT装置の危険
359
Fig. 10
骨盤
(骨)
CT検査におけるウィ
ンド設定の例(WL500,WW
1600)
.
とであろう.
CTでは目的の画像を得るためにはスキャンテクニ
ックも重要ではあるが,画像表示のためのウィンド設
おわりに
定が診断上重要である.従来のX線撮影における管電
今回,X線CTにおける画像再構成と画像表示につい
圧,管電流,曝射時間の調節のような写真濃度の調整
て解説しました.ここで画像再構成関数の選択やウィ
はスキャン後のウィンド調節で行われる.
ンド幅,ウィンド値の設定が診断のための大切な要素
どんな曝射条件でもスキャンしても,ウィンド設定
であることを理解していただきたいと思います.CT
で画像濃度はどうにでもなるのがCTである.スキャ
装置では,X線管やコリメータ,検出器などが素材で
ン時に与えられるX線量はCT値のノイズに関係するの
あるとしたら,画像再構成関数,ウィンド設定は調味
であるから,よい画像を求めるならばどんどんX線量
料のようなものです.いくら素材がよくても,味付け
を増加すればよいことになる.これでは当然,患者に
が下手ではおいしい食事は作ることができません.
与える被曝も増大する.とくに,小児などの小さな患
CT装置はボタンを押すだけの装置ではないことを理
者の場合,それほどの大線量を与えなくても十分に画
解してください.装置の性能を最大限に発揮するため
像ノイズは小さくできるはずである.このようなこと
には,素材であるCT装置についてだけでなく,医師
は同様のウィンド機能を有するDR装置にもいえるこ
が何を求めているか知ることも重要と考えます.
とである.装置を取り扱う放射線技師が気をつけてい
ないと,無神経に患者の被曝を増加させてしまう危険
次回は
「X線CT装置の機器工学
(3)
−ヘリカルスキャ
がある.ディジタルX線機器で最も気をつけるべきこ
ンの登場−」
参考文献
1)
岩井喜典,斎藤雄督,今里悠一:医用画像診断装置−CT,
MRIを中心として−.コロナ社,東京,
(1991)
.
2)
瓜谷富三,岡部哲夫:医用放射線科学講座13−放射線機器
2002 年 3 月
工学−.医歯薬出版,東京,
(1998)
.
3)
辻岡勝美:CT自由自在.メジカルビュー,東京,
(2001)
.
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