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ドイツの道徳教育の研究動向 ーザクセン州の道徳の時間を例

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ドイツの道徳教育の研究動向 ーザクセン州の道徳の時間を例
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ドイツの道徳教育の研究動向
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ーザクセン州の道徳の時間を例としてー
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達也
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概 要 : 本 研 究 情 報 は 2008年 3月 1
5日(土)から 17日(月)にかけて訪問したドイ
ツ ・ドレスデ ンの視察報告である。当地で開催された第 21回ドイツ教育学会の公開シ
3月 16日)を中心に述べる 。メインテーマは「教育文化 J(
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ンポジ ウム (
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)で、
あった。ザクセン州の学術文化大臣、 ドレスデン市長、ベルリン・フンボ
ノ
レト大学学長、 ジーメ ンス社東ドイツ地域代表の 4人がゲストとして招かれ議論が行
われた 。ザクセ ン州の教育政策、特に道徳教育に相当する芸術教育の是非が主な論点
で、
あった。
済協力開発機構)による P
ISA試験におい
はじめに
ドイ ツ・ドレスデ、
ン(
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)はザクセン
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て旧東ドイツ(ドイツ民主共和国、 D
州 (
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)の州都で、ある 。第
に属するにもかかわらず好成績を収めたか
21 回ドイ ツ教育学会はドレスデン工科大
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)で、3
らである。 2008年 1
1 月に公表された
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006の P
ISA-E
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ωでは、ザクセン州は
月1
6日から 1
9日までの 日程で開催された。
読解力・数学的リテラシー・科学的リテラ
2008年 3月の ドイ ツ渡航では、 1
6日の公
7 日のワーク ショップ
開シンポジウムと 1
シー全ての分野においてドイツで最も高い
成績を取った。具体的に述べると、読解カ
に参加 したが、公開 シンポジウムの議論は
はドイツ平均が 49d点なのに対し、ザクセ
多いに刺激を受けた。
ン州は 512 点で、あった(日本は 4H~8 点)ω。
数学的リテラシーはドイツ平均が 5
'
04点な
1.ザクセン州について
23'点であった(日
のに対しザクセン州は '
5
'
現在のザクセン州の領域は 1
815年以降
本も 5
23点) (3)。科学的リテラシーは、ド
のザクセ ン王国 (K
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)の領
イツ平均が 516点なのに対し、ザクセン州
域とほぼ同じである。ザクセン州は独立性
は 541点で、あった〈日本は 531点)ω。
andとしづ名称
が強 く、他の州のように L
ISAではド
以上のようにザクセン州は P
は使わず、 F
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tという名称を使用し
ている 。
イツで最も好成績を収めていると同時に、
日本よりも成績の良い州である。ザクセン
ザクセ ン州が注目されたのは、 O
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経
州で、特にカを入れているのは芸術教育であ
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ドイツの道徳、教育の研究動向
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て設立されたのがその始まりである 。1
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年にドレスデ ン工科大学(
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2.第 21回ドイツ教育学会
ドイツ教育学会 (
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8年 に
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)は 1
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tに名称変更を行 っ
ゲッテインゲン大学で第 1回大会が開催さ
た。 ドレスデン工科大学は
れて以来、 2年 に 1回のベースで大会が開
革命の時代に技術者養成機関として設立さ
2
1回目の大会であ
れた伝統ある大学である。受付会場のホー
る。写真 1はドレスデン工科大学受付会場
ノレは新設で、あったものの、それ以外はレン
を撮影したものである。
ガ造りの古い建物が多いという印象を受け
かれてきた。今大会は
ドレスデン工科大学は
1
8
2
8年に技術教
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)となり、高等教育機関の地位
を獲得した。そして、
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9
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1年 に 現 在 の
1
9世紀の産業
た
。
育機関(
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)とし
写真
1第2
1回 ド イ ツ 教 育 学 会 の 立 看 板 ( 平 成 2
0年 3月 1
6日撮影)
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3. 公開シンポジウム(教育専門家に
よる討論)
リージャーナリスト、 ミカエノレ・パルシユ
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)氏で、ある。教育の専門家
公開シンポジウムはドレスデン工科大学
ではなく、ドレスデン市の公会堂で行われ、
テーマは「何が時代に合った教育なのか。
教 育 の 4 人 組J(
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)で
あった。 l人の司会者が 4人の教育の専門
家に質問をする形で、討論が行われた後、質
はそれぞれ左から順にドレスデン市長
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)のノレ
ッツ ・フォーゲ、ノレ(
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.LutzVogel)氏、ザク
疑応答を行うとしづ形式で進められた。写
真 2はその時の様子である。写真 2の中央
にいるのが司会者で、 ドレスデン出身のフ
-41-
セン州学術文化大臣 (
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)のエグァ ・マリア・スタンゲ女史 (
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)、ベルリン・フンボノレ
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)氏
、 ドイツ・ジーメ
教育学論集第 3
5号 (
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9年)
ンス社(
SiemensAG)の東ドイツ地域総責
任者のフランク・ビ、ューヒナー (
D
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.Frank
Buchner)氏で、ある。スタンゲ大臣とフォー
ゲル市長は教育行政の立場を、テノルス氏
は高等教育の立場を、ビューヒナー氏は経
済界の立場を代表していた。
写真 2 公開シンポジウムの様子(平成 2
0年 3月 1
6日撮影)
最初に司会者のバルシュ氏から「最も
時代に合うと思う教育を教えて下さい J
という提案があり、各シンポジストがそ
れぞれの立場から意見を述べた。まず、
スタンゲ大臣は「芸術教育を軸にした教
育こそが時代に合った教育である J と述
べ、ザクセン州の芸術教育を強調してい
た。フォーゲノレ市長もスタンゲ大臣と同
様の意見を述べた上で、 r
(自らが市長を
務める) ドレスデンにもっと企業が工場
進出をしてくれれば、もっと時代に合っ
た教育を行うことができる J と発言し、
経済界が芸術教育の良さを評価していな
いと嘆いていた。ザクセン州、│の芸術教育
とは、単なる美術の教育ではなく、技術
教育とも訳される広い意味での生き方の
教育のことを指している。つまり、ザク
セン州における芸術は日本の道徳のよう
に全ての教科の核に位置づ、けられている
のである。 ドイツでは一般的に、西村が
「宗教教授は道徳教育の中核的な役割を
果たしてきた J (
5
)と述べるように、宗教
が日本の道徳に相当するのでザクセン州
はドイツの中でも個性的である言える。
最初の 2人が芸術教育に特化した話を
していたので、司会のパルシュ氏は(フ
ンボルト大学学長の)テノルス氏に対し
「フンボルト型のエリート教育がドイツ
には必要なのでしょうか j と問題提起を
行った。それに対してテノルス氏は「エ
リート教育を導入して優秀な学生を増加
させることは必要と思いますが、大学は
独自の判断で入学する学生の選抜を行う
ことができないと法律で定められていま
す。根本的な問題は法制度にあるのでは
ないでしょうか J という返答を行った。
最後にジーメンス社のビ、ューヒナー氏
は、「芸術教育はあまり企業の現場で役に
立たないので役に立つ教育を導入するべ
きJ 主張し、芸術教育を否定的に捉え経
済教育の必要性を説いた。あたかもザク
セン州は経済界の要望に応えていないと
言っているようであった。その上でビュ
ーヒナー氏は「子どもに職業意識を持た
せる教育が必要である J と主張しキャリ
ア教育の必要性を述べたものの、具体的
-42-
ドイツの道徳教育の研究動向
な 内容については言及しなかった。
フォ ー ゲ、
ル市長はビューヒナー 氏の発
代を理想とする立場からのものであり教
usbildung
)
は芸
言に反論し、「職業訓練 (A
育 専 門 家 と は 立 場 が 異 な っていると 感 じ
術教育の延長線上にある。働くことを意
た
。
った。しかし、この発言は旧東ドイツ時
識づけるき っかけとして 芸術教育は必
要J と発言し、職業教育 の基 礎 に 芸 術 教
おわりに
育 を 位 置 づけることができるとした。 こ
以上のように公開 シンポジウムのテー
のやり 取 り を 聞 くと、学校 現 場 で 行 わ れ
マ で あ る 「 時 代 に 合 った 教 育 j について
ている芸術教育と、企業の担当者が求め
の対する 考 え 方 は さ ま ざ ま あ る こ と が わ
かった 。具 体 的 には、州政府は芸術教育
、
る能力との間にギャップがあるのではな
し¥かと 感 じ た。
大学当局はエリート教育を、企業はキャ
リア教育 、 若 者 は 日 本 流 の教 育 改 革 、 高
4. 公開シンポジウムの質疑応答
齢 者 は 旧 東 ド イ ツ時 代 の教 青 であった。
司会者と 4人 の 教 育 専 門 家 に よ る 討 論
司会者が意見の調整に戸惑っていたのだ
が 終 わ っ た 後 に 参加者と の質 疑 応 答 が 行
われた。
が 、 こ の こ と は ド イ ツ の 教 育 改 革 の 難し
まず、
さを象徴していると感じた 。
ザ ク セ ン 州が
ドレスデン工科大学の学生から
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A2006で、
ドイツで
i
PISAの 結 果 、 点 数 の 下 が っ た 日 本 は
最 も 高 い 成 績 を と ったのは驚 くべきこと
政府が中心になって積極的な対策をして
いる 。 ド イ ツ も も っ と 積 極 的 に 対 策 を す
である 。 なぜならば、それまでバイエノレ
ン州 (
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)
やノくーデ、
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る べ き で は な い か J と質問 し た 。 学 生 か
ノ レ テ ン ベ ル ク 州
ら日本の対策についての具体的な言及は
Baden
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)といった 南ドイ ツ
2
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0年 以 降
の州が上位を占めてきたからである 。 そ
のような結果であるにも関わらず、ザク
なかったのだが、いわゆる
の学力低下論争に伴って導入された全国
統一学力テストや教員免許更新制の実施
を指していると思われる。
これに対しいずれの参加者も積極的な
教育への介入には消極的な姿勢を示して
いた。ビュ ー ヒ ナ ー 氏 は 「 日 本 は ア ジ ア
の国であってドイツのようなヨーロッパ
(
Land
セン州 の失 業 率 は 12.4%とドイ ツ平均の
8.2%よりも高い (
6
)。 そ のため、多くの 若
者 が 仕 事 を 求 め て 旧 西 ド イ ツ へ移住して
いると言われている 。公開シンポジウム
におけるドレスデン市長の発言はその事
の国ではないため、日本の詰め込み型の
実を裏づけるものである 。
今回のドイツ教育学会への参加を通し
教育はドイツには合わなしリと発言し、
て、ザクセ ン州 は ド イ ツ 統 一後 の 東 西 格
スタンゲ大臣も「日本の教育は政治的な
差 (7)に 苦 し んでいるという印象をもった。
要 素 の 方 が 強 い J と述べていた 。 も し 日
本であれば逆の反応が起こるのであるが、
日本とドイツとの文化の違いが表れてい
る場面であった。
他の年配の参加者も教育専門家の考え
に同意して、「 昔 (旧東ドイツ時代)は毎
日ドイツ語ばかりをしていた。そのよう
な環境で育ってきたのだから、知識の詰
め込みは必要なしリと発言した。同様の
発言が会場で相次いだことは印象的で、あ
個人的な要望と しては、 事 前 に 配 布 さ れ
たレジュメや進行表もなかったことは残
念 で あ っ た。 質 疑 応 答 を 聞 く 限 り は 、 参
加 者 が 州 政 府 の進 め る 芸 術 教 育 を 評 価 し
ていないような印象を持った。しかしそ
うは言ってもザクセン州では芸術教育が
日本の道徳のような役割を果たし、学力
の向上すなわち
P
ISA試 験 の好成績 に つ
ながったと言える 。
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5号 (
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教育学論集
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晶
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注)
(
5
)西村正登「現代道徳教育の構想 j 風 間
(
1
)PISA-Eはドイツ各州の学カを図るた
書房、 2008年、 1
0頁。
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めに行われる試験である 。 PISA と同じ
時期に 、同じ問題を使って行われるのだ
が
、 PISAよりも大規模に行われる。
(
2
) Manfred Prenzel,Cordula Ar
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Jurgen
Baumert
, Werner
Blum,
Marcus Hammann, Eckhard K
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ieme
und Reinhard Pekrun (Hrsg.) PISA
(
6
)この失業率の数値は 2009年 4月段階
のドイツ連邦労働局の統計による 。
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(2009年 5月 31日確認)
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(
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)ドイツ統一後、旧東ドイツでは国営企
業の廃止が行われ、それが失業率の増大
につながっ.
た。 また、旧西ドイツ企業は
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統一後に旧東ドイツへの進出を積極的に
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現在も続いている。 2008年 4月の旧東ド
A2006 nationa
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イツ地域の失業率が 1
3.3%であるのに対
月3
1日確認)
(
3
)Ebenda
,8.12.
して、旧西ドイツ地域の失業率は 6.9%と
2倍近い差がある。注 (
6
)の連邦統計局の
(
4
)Ebenda,
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.
データを参照。
1
業率が旧西ドイツ地域よりも高い状態が
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