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コンピュータを活用した数学教育 - www2.matsue

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コンピュータを活用した数学教育 - www2.matsue
コンピュータを活用した数学教育
-視覚的方法による講義とその情意的特性-
研究者
原本 博史
指導教官 越田 高志
1.はじめに
科学・工学を学ぶ中で,基礎科目としての数学の
役割は重要である.高専ではそのうち最も基本的な
部分が教授されているが,
5年間で学ぶべき内容は,
一般の高校で学習する内容から応用数学までと幅広
い.一方では,近年いわゆる理科離れ・数学離れに
より,高専入学者の中でも数学に興味を持てない学
生や数学に苦手意識を持つ学生が増加している.こ
のような学生は座学中心の講義には興味を持たない
場合が多い.そのため学生のやる気を喚起し,数学
への関心を持たせる講義方法を考えることが望まし
い.
本研究では,通常の講義を行うクラスと,コンピ
ュータを使った視覚的方法を併用した講義を行うク
ラスを比較し,学生の情意的特性の変化を調べる.
これにより数学学習に対する興味付けの教材として
のコンピュータの可能性を検討する.
2.授業で
授業で使用する
使用する教材
する教材
使用するソフトウェアは2種類である.
指数関数,
対数関数および三角関数の単元の内容では,199
9年度に藤井研究室で研究・開発されたWebを用
いた数学学習支援システム 1)を利用する.
図形と式の単元の内容では,関数グラフソフト
Grapes(GRAph Presentation & Experiment
System)2)を利用する.
Web を用いた数学学習支援システムは次のよう
な特徴を持つ.
・ Web ブラウザを用い,インターネットを介し
て利用できる.
・ 表示させたい関数を選択し,その式中に必要
な数値を入力するとグラフを表示できる.
Grapes は次のような特徴を持つ.
・ 数式自体を入力することにより関数のグラフ
を表示できる.
・ 各種パラメータを設定することにより点の軌
跡や領域を表示できる.
3.調査方法と
調査方法と調査内容
(1)調査対象者
1学年の39名のクラス(以下クラス A と記す)
と41名のクラス(以下クラス B と記す)計2クラ
スの学生全員を対象とする.
(2)題材とする単元
指数関数,対数関数,三角関数および図形と式の
単元の内容について調査する.
(3)授業の進め方
調査する単元の内容ごとに同一の学習課題を用意
する.クラス A では通常の講義によりこの学習課題
を行なってもらう.クラス B では通常の講義時間の
中から2時間を使い,この学習課題をコンピュータ
を使って行ってもらう.
(4)評価
数学に対しての興味・関心をアンケートによって
調査する.これをもとにしてコンピュータが情意面
でどのような特性を持っているかを調査する.学力
面での調査は単元ごとに基本的な問題によるテスト
を行い,その結果をもとに考察する.
3.調査結果
(1)情意面に関する調査結果
情意面の調査については①中学時(4 月に実施)
,
②三角関数途中(10 月)③図形と式終了時(2 月)
の3つの時点について数学に興味を持っているか,
いないかをアンケートによって調査している.この
調査結果を表1に示す.
表1 情意面調査の結果
クラスA(人)
とても興味がある
少し興味がある
どちらでもない
あまり興味がない
全く興味がない
合計
①
8
12
11
4
2
37
② ③
18 4
- 13
- 9
- 8
15 1
33 35
クラスB(人)
とても興味がある
少し興味がある
どちらでもない
あまり興味がない
全く興味がない
合計
①
12
15
5
3
5
40
②
31
5
36
③
5
19
11
4
1
40
③の結果について比率の検定を行うと,クラス A
とクラスBで数学に興味を持たない学生の比率の差
については,有意水準を20%に設定すると認めら
れる.学習効果に関する検定は,どの程度の有意さ
があるかを考察すべきであると思われる.今回
コンピュータを活用した数学教育
―視覚的方法による講義とその情意的特性―
0%
①-A
20%
40%
22%
③-A
11%
③-B
13%
80%
13% 8% 13%
38%
37%
48%
とても興味がある
どちらでもない
全く興味がない
100%
11% 5%
30%
32%
30%
①-B
60%
23%
26%
28%
3%
10% 3%
少し興味がある
あまり興味がない
た講義は,学力的効果については即効性がないこと
がわかる.長期にわたり記憶に残るかどうかについ
ては,コンピュータを使用してから3ヶ月後にテス
トを行なった(Ⅰ)で考える.このとき,表3に示す
とおり計算問題の正答率に大きな差は無い.
しかし,
グラフについての正答率がクラスBのほうが大幅に
良い.これより長期に渡って記憶に残り,学力面で
有効であることが予想できる.
表3 テスト(Ⅰ)の正答率
図1 ①,③に関する比率のグラフ
の検定の結果より,コンピュータを導入したとき学
生が興味を持つ可能性は,コンピュータを導入しな
いクラスよりも大きいと予想できる.このためコン
ピュータを活用した数学の授業が,数学学習の動機
付けとして有効であること思われる.
また,各単元ごとに「自分が積極的に数学に取り
組んだと思うときはどんなときか」というアンケー
トを取ると,クラス B では40名中8名が「コンピ
ュータを使った授業のとき一生懸命取り組んだ」と
回答している.このうち7名は③のアンケートにお
いて数学に対して「少し興味を持っている」と回答
しており,興味とコンピュータ学習の相関関係が強
いことを予想させる.
(2)学力面に関する調査
学力面に関しては(Ⅰ)指数対数・対数関数・三角
比のテスト(10 月に実施)
,(Ⅱ)三角関数のテスト
(式よりグラフをかくテスト,12 月)
,(Ⅲ)三角関数
のテスト(グラフから式を求めるテスト,1月)の
3つのテストの結果をもとにして調査した.表2に
これらのテストの結果を示す.
表2 学力面調査の結果
クラスA
平均点(点)
標準偏差(点)
変動係数
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
48.9 64.8 80.5
22.8 19.1 12.4
0.466 0.295 0.154
クラスB
平均点(点)
標準偏差(点)
変動係数
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
63.2 63.0 85.3
19.5 23.4 13.2
0.309 0.371 0.155
(Ⅰ)に関しては大きな差がある.しかし(Ⅱ),(Ⅲ)
に関しては平均点の差の検定(有意水準5%)を行
うと有意な差は認められない.(Ⅱ)と(Ⅲ)は単元終了
直後にテストを行っている.コンピュータを活用し
計算問題(7問)
グラフの問題(3問)
クラスA クラスB
54%
65%
37%
59%
4.考察
数学に興味を持てない学生が,コンピュータを使
ったクラスで減っている.数学の学習の動機付けと
いう点で,講義への参加意識が強くなれば学力向上
につながる可能性がある.コンピュータを活用した
講義は,学習動機付けとして積極的に取り上げる価
値があると思われる.
今回は,前述の調査に加えて,数名の学生から聞
き取り調査を行った.その中には,教材や教授方法
に関する要望も多かった.これらの要望は今後の講
義を行なう上で非常に参考になる.
5.おわりに
おわりに
高専で取り扱う数学の内容には高学年になれば
より視覚的説明が期待できる分野がある.2年次の
一次変換や4年次の Fourier 級数などについては,
視覚的説明が有用に利用されている.また,数学研
究室の村上享先生の研究により,統計学の学習にお
いて,コンピュータを用いたデータ処理を講義内容
に導入した場合,
情意的に良い結果を得られている.
数学の他の分野についてもコンピュータの活用が可
能であると思われる.
謝辞
本研究に関して数学研究室の岡本信之先生,村上
享先生に多くのご指導とご協力を賜りました.ここ
に深く感謝いたします.
参考文献
1)藤原久美子:WWW を利用した数学の学習支援
方法の研究,情報工学科平成 11 年度卒業研究(1999)
2)友田勝久:GRAph Presentation & Experiment
System(Grapes),(2000)
3)辻功:教育調査法,誠文堂新光社(1970)
コンピュータを活用した数学教育
―視覚的方法による講義とその情意的特性―
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