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先進視覚サポート技術 「VAT:View Assist Technology」

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先進視覚サポート技術 「VAT:View Assist Technology」
先進視覚サポート技術
「VAT:View Assist Technology」の紹介
島 高志(いすゞ自動車株式会社)
1.はじめに
ドライバによる運転状態と VAT による運転支援の関係を
交通事故の大多数は運転者のヒューマンエラーにより起こ
VAT の持つ機能との関係で示す (Fig.1)。
ると言われている。いすゞ自動車はトラックによる事故ゼロ
を目指してエレクトロニクス技術等を駆使し、ドライバの運
VAT 運転支援レベル
転行動を車両の状態に応じてシームレスに支援する VAT を開
発し大型トラックに搭載した。
ドライバの運転状態は、通常状態・危険状態・事故不回避
ミリ波車間
クルーズ
状態・事故発生の4つに大別できる。VAT はこの通常状態から
事故不回避状態迄のドライバの運転行動をミリ波式レーダに
ミリ波車間
ウォーニング
運転集中度
モニター
プリクラッシュ
ブレーキ
衝突
よる前方障害物検知技術と車両運転状態情報を基に支援する
通常状態
技術である。VAT はドライバの運転状態において次の機能によ
事故不回避状態
事故発生
ドライバによる運転状態
り運転支援を行なう。
①ミリ波車間クルーズ
危険状態
:車間距離維持クルーズ機能
Fig.1 VAT の運転支援レベルと機能の関係
②ミリ波車間ウォーニング:車間距離警報機能
③プリクラッシュブレーキ:衝突被害軽減機能
④運転集中度モニター
3.ミリ波式レーダの検知性能
:ふらつき警報機能
VAT に搭載したミリ波式レーダは、直線路で 120m程度先
本稿はこの VAT について紹介する。
の対象物を検知する能力があり、検知が難しいカーブ路でも
ある一定以上の曲率半径の道路であれば安定して先行車両を
2.VAT の運転支援機能と運転状態の関係
検知することが出来る (Fig.2)。
VAT による運転支援は、ドライバの運転行動である、認知、
判断、操作を支援するものである。
認知支援は、運転に必要となる情報をドライバの運転操作、
車両の物理状態、先行車両との相対的関係等により求めドラ
イバに提供したり、後に示す判断支援と制御支援の基本情報
とする機能である。
判断支援は、ドライバの状況判断が曖昧になりやすいオー
トクルーズによる自動運転中の先行車両への異常接近や、長
時間連続運転による覚醒低下状態を認知支援機能により検知
した時に、ドライバに対し音・表示・冷風による警報を与え
注意喚起する機能である。
操作支援は、高速道路で先行車両との車間距離を自動的に
Fig.2 カーブ路での先行車検知状況
維持しドライバの運転負荷を軽減する(車間距離維持クルー
ズ)機能と、警報を与えてもドライバによる危険回避行動が
取られず、不幸にも衝突事故を避けられなくなってしまった
雨や霧などの前方視界不良時でも先行車両を検知し、危険
時に、自動ブレーキを作動させて衝突速度を下げて事故被害
状態と判断した場合はドライバに適切なタイミングで警報を
を軽減する(衝突被害軽減)機能を備えている。
行うことができる。次の画像は、雨の中で渋滞最後尾に接近
1
した時の警報作動中の検知状況(Fig.3)である。
ージードライブ性能)と車間距離維持による安全性(予防安
全性能)向上が期待できる機能である。定速クルーズに対す
るミリ波車間クルーズの運転疲労軽減効果を検証するために、
東名高速道路を同一条件で 100km 程度走行した結果を比較す
ると、進路変更回数とリジューム操作(クルーズ走行への復
帰操作)が半分、さらに補助ブレーキの操作回数は十分の一
以下に減少しており、運転負荷がかなり減っていることが確
認出来た。また、この時の前走車との車間距離と相対速度の
関係を比較(Fig.4)すると、ミリ波車間クルーズ走行の場合、
車間距離 40~65m、相対速度±5km/h に分布が集中し安定して
いる。特に定速クルーズと比較して大きな相対速度を持って
Fig.3 悪天候下での先行車検知状況
先行車両に接近しないので予防安全効果が期待出来る。
3.2.
ミリ波式レーダは、レーザー式レーダと比べて悪天候時や、
ミリ波車間ウォーニング
ミリ波車間ウォーニングは、自車速度と前方車両との相対
太陽光の直射を受ける状況でも、性能が低下しない優れたセ
速度から警報距離(Fig.5)を求め、実際の車間距離がその警報
ンシング装置であり、今後主流になると考える。
距離よりも短くなった場合に音と表示によりドライバに警報
をするものである。VAT の車間距離警報装置は、高速道路や幹
3.VAT の機能紹介
3.1.
線道路での高速域走行での作動のみならず一般道路走行時や
ミリ波車間クルーズ
渋滞路における低速域走行でも警報する全車速域の車間距離
ミリ波車間クルーズは、速度のみを一定速度に保つ定速ク
警報装置である。
ルーズとは異なり、自車の進路上に遅い前走車が現れた場合、
自動的に減速し、前走車と同じ速度に合わせた後に追従走行
車間警報距離(車間設定「中」)
を行なうもので、自動運転によるドライバの運転疲労軽減(イ
相対速度 [km/h]
定速クルーズ
定速クルーズ
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
0
20
40
60
80
車間距離 [m]
100
Fig.5 車間警報作動タイミング
120
3.3.
相対速度 [km/h]
車間距離クルーズ
ミリ波車間ルーズ
プリクラッシュブレーキ
プリクラッシュブレーキは、ミリ波式レーダにより衝突を
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
回避することが困難な物体を進路上に検知した場合に機能す
る自動ブレーキシステムである。前方にある物体を検知する
ミリ波式レーダとその物体が自車に衝突するか判断する衝突
対象物検知装置と、その危険をドライバに知らせる警報装置、
衝突する際の被害を軽減させるブレーキ装置で構成している。
ミリ波式レーダは、車線すれすれに存在する物体や、下を
0
20
40
60
80
車間距離 [m]
100
120
通過出来る案内標識等の静止物体を検知してしまうため、自
動ブレーキが誤作動しないように、前述のミリ波車間ウォー
Fig.4 定速クルーズ/車間距離クルーズ走行時の
ニングの物体検知ロジックに改良を加え、誤検知による自動
車間距離-相対速度の関係
ブレーキの作動を極力排除している。
2
プリクラッシュブレーキの作動は、先ず音と表示による警
この装置は高速域でのドライバの操舵操作を常時モニター
報により注意喚起を行ない、それでも回避行動が行なわれな
し集中力低下による急激な操舵や、ある周期での操舵操作を
い場合には弱い自動ブレーキ作動(0.1~0.25G)による体感
検知した際に警報をおこなうものである。しかし、操舵操作
警報を行なう。それでも回避操作が行なわれない場合は、最
にはドライバ固有の癖や走行環境による違いがあり、単純に
終的に衝突時の被害を軽減する目的で強い自動ブレーキを作
操舵量だけをモニターし警報を出すことができないため、運
動するものである。この自動ブレーキにより、衝突速度が概
転中のドライバの操舵操作の変化や特徴をモニター(操舵操
ね 20km/h 程度低減し被害を軽減する。Fig.6 にプリクラッシ
作の学習)し、警報を発するタイミングを決定している。こ
ュブレーキの作動イメージを示す。
の運転集中度モニターには二つの警報レベルと三つの警報手
段があり、警報レベルに応じた警報手段により注意喚起を行
なう。
Fig.7 に運転集中度モニターの警報内容を示す。第二警報は、
第一警報よりも警報強度が強くドライバにより強い注意喚起
を行なうものである。但し、覚醒低下状態のドライバに強い
警報を与えると動揺を招く恐れがあるため、ブザーの断続音
に加え、ドライバの顔に冷風をあてることで自然に覚醒低下
状態から回復出来るよう警報の与え方にも配慮している。
警報レベル
表示
第一警報
15秒
第二警報
25秒
ブザー
冷風
断続音
3回
断続音
16回
25秒
作動
Fig.7 運転集中度モニターの警報レベル
4.あとがき
今後もより安全性能の高い車作りを目指し、ドライバの認
知・判断による運転操作に対し制御支援の領域を拡大し、ヒ
ューマンエラーによる事故低減を狙ったシステム開発を進め
て行く。ドライバが危険を認知する前の制御支援は、その結
果がドライバの感覚と一致することが重要であり、「ドライ
バに受容される自然な制御支援」に主眼を置き研究開発に取
り組んでいる。
参 考 文 献
(1) いすゞ技報:いすゞ05 型 GIGA の電子、電装につい
Fig.6 プリクラッシュブレーキ作動イメージ
て,Vol.115, p22-26
(2) いすゞ技報:いすゞ07 型 GIGA ミリ波車間距離警報とミ
3.4. 運転集中度モニター
リ波車間クルーズについて,Vol.118, p15-20
運転集中度モニターは、運転中のオーディオ操作・喫煙等
(3) い す ゞ 技 報 : 衝 突 被 害 軽 減 ブ レ ー キ の 開 発 に つ い
て,Vol.119, p60-64
による注意力低下や、長時間運転による集中力低下、轍が大
きい路面でハンドルが取られやすい状況でのふらつき運転等
を検知し、ドライバに注意喚起を行なう装置である。
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