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幼児理解と教師の援助に関する一考察 − エピソード分析から −

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幼児理解と教師の援助に関する一考察 − エピソード分析から −
平成16年度広島市立学校教育研究グループ活動研究成果報告書
幼児理解と教師の援助に関する一考察
−
エピソード分析から
こ や ぎ 研 究 会
代表
広島市立八木幼稚園
宮脇
いち子
−
目
次
1
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2
研究の目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
3
研究の方法及び計画
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
4
研究の内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
(1) 基 礎 的 研 究
ア
教師の役割
イ
幼児理解と援助
(ア) 幼 児 理 解
(イ) 援 助
ウ
エピソードとエピソード分析
事例研究
(ア) エ ピ ソ ー ド
(イ) 事 例 研 究
(2) 事 例 研 究
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ア
A児の事例から
イ
A児の変容から教師の援助に係る考察
3
・・・・・
10
5
研究の成果と課題
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
6
おわりに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
1
はじめに
現在,幼児教育をめぐる状況が変容してきている。幼児期の教育は「人間性の
基礎を培う教育」として大切であり,その「教育」を担う教師の役割は重要であ
る 。 ま た , 幼 稚 園 教 育 要 領 で は , 教 師 の 役 割 に つ い て ,「 幼 児 の 主 体 的 な 生 活 を
促すためには教師が多様なかかわりをもつことが重要であることを踏まえ,教師
は理解者,共同作業者等,様々な役割を果たし,幼児の発達に必要な豊かな体験
が得られるよう活動の場面に応じて適切な指導を行うようにすること」とある。
そのためには,幼児理解が十分になされていることが大前提であり , 状 況 に 応
じた適切な援助が必要である。
そこで,本研究では,日常の保育場面で,教師や幼児同士のかかわりの場面を
エピソードとして記録したものを基に,幼児の内面の理解や教師の援助について
事例研究を行い,育ちの過程を見い出し,その過程での教師の援助について探る
こととした。
2
研究の目的
エピソード分析に基づいた事例研究を行うことにより,幼児の内面の理解と援
助について考察することで,育ちの過程と教師の援助の在り方を探る。
3
研究の方法及び計画
基礎的研究:
主なキーワードについて文献や先行研究,講師の指導により共
通理解を図る
○教師の役割
事例研究:
○幼児理解と援助
○エピソードとエピソード分析について
エピソード記録の収集をする
( 各 自 で , 幼 児 の 生 活 す る 姿 を エ ピ ソ ー ド 形 式 で 記 録 す る 。)
事例研究を行う
(個人又は全教職員で,幼児の内面の理解と援助について分析・
考 察 す る 。)
研究のまとめ:
事例研究を基に,育ちと援助についてまとめる
(抽出児について,育ちの過程と教師の援助を考察する)
研究成果と課題をまとめる
- 1 -
4
研究の内容
(1)
基礎的研究
研究を進める上での主なキーワードについて,文献や先行研究を調べたり,講師か
らの指導を受けたりして,教職員の共通理解を図る。
ア
教師の役割
幼稚園生活は,幼児が家庭から離れて同年代の幼児と一緒に過ごす初めての集団
生活の場である。幼児にとって安心して過ごせる生活の場となるために,一人一人
の幼児を理解し援助することが,教師の役割として求められている。
イ
幼児理解と援助
(ア) 幼 児 理 解
幼児が発達に必要な経験を得るために,教師は,幼児が今何に興味や関心を示
し何を願っているか等,幼児の内面をとらえること,すなわち,幼児理解が必要
で あ る 。 幼 児 理 解 は , 幼 児 の 表 す 言 動 や 表 情 , そ の 場 の 状 況 か ら 内 面 を 察 し ,と
らえることができる。
(イ) 援 助
援助は,幼児理解に基づいて行われなくてはならない。また,幼児が幼児期に
ふさわしい生活を営み,発達に必要な体験を促すための教師等による指導が援助
であると考える。その援助を,次のように分類した。
環境の構成
…場や空間,遊具や道具,教材や素材,友達や自然物等
援助
間接的なかかわり(行動)
言動による
見守る,様子を見る,モデルを示す等
かかわり
直接的なかかわり(言葉)
認 め る ,励 ま す ,提 案 す る ,指 示 を す る ,気 付 か せ る ,
考えさせる,代弁する,教える等
ウ
エピソードとエピソード分析,事例研究
(ア) エ ピ ソ − ド
保育生活の中には,幼児の様々な生活場面や姿がある。日々教師は,その場の
状況や姿から幼児の内面を理解し,教師自身がかかわる援助をしている。この営
みは,瞬間的で連続的に発生する。さらに,その場の状況や一人一人の状態に応
じた対応を迫られている。そのため,これらの営みは,時間と共に薄れ,意識化
や意味付けができにくい。そこで,保育場面の一部の事実を記録に残しておくこ
とが,後の幼児の内面や教師の援助について考察することに有効である。
この事実を記録したものがエピソードである。
(イ) 事 例 研 究
エピソードを基に,幼児の内面や教師の援助について,幼児の内面(願いや思
い)や教師のかかわり方等を通して考察する。この考察が,教師自身の幼児理解
- 2 -
につながる。その際,個々の教師による偏った見方にならないために,全教職員
で様々な角度から考察することで,より確かな理解につながるものと考える。
(2) 事 例 研 究
ア
A児の事例から
<A児について>
○
4歳児
○
家族構成…保護者,兄,本人
○
園生活の様子
・
登園後,鞄を放り投げ,裸足でテラスや遊戯室等を走り回る。教師と一緒で
ないと登園後の生活ができにくい。保護者が一緒に入室して片付け等を促すが
自分でしようとせず,結局はすべて保護者がしてしまう。
・
教師の言葉に対して,周りをきょろきょろして目を合わさなかったり,笑い
顔を見せたりして,理解しているかどうかがわかりにくい。
・
待つことができにくく,じっとしていない。
・
小学校に一人で行っていることがあった。
○
生活習慣
・
水を使うことが好きで,手洗いや歯磨き,うがい等をしていると次第に水遊
びになってしまう。周りが水びたしになっても,繰り返し遊ぶ。
・
自分の持ち物の整理は,2学期頃から少しずつできるようになっているが,
言葉かけは必要である。
・
話を聞く際,寝転がったり,他を見ていたりして聞いていない。
・
食欲があり,よく食べるが,椅子の上にあぐらをかいて座る。
・
昼食の最中や食後に,大便をもよおすことが多い。
○
遊びの様子
・
自転車に乗って遊ぶことを好み,転んでも繰り返し挑戦し,独りで乗ること
ができるようになってきた。
・
かかわりたいと思っている友達が3∼4名いるが,望ましいかかわりができ
にくく,ブロックや手で叩く等の行動をして友達の気をひこうとする。そのた
め ,「 A 児 が 叩 い た 」 と 訴 え ら れ , 一 緒 に 遊 ぶ こ と に 発 展 し な い 。 叩 い た こ と
に対して教師が指導の言葉をかけても,笑っているだけである。たまたまその
場に居合わせた友達に対しても,わざとぶつかったり,手で叩いたりすること
もある。
・
○
「 こ い つ ・・・・ 」「 お ま え ! 」「 死 ね 」「 ば か 」 等 の 言 葉 を よ く 使 う 。
集団行動,その他
・
集会では,じっと座っておくことができにくく,話を聞いていないことがあ
る。また,時折,性器をいじっていることがある。
・
指先を使っての作業や,はさみや糊を使う活動は苦手である。
・
保 護 者 の 体 調 不 良 の た め ,園 を 休 む こ と が 多 く ,継 続 し た 指 導 が で き に く い 。
・
数や文字を教える塾に通っているため,早退することがある。
- 3 -
<エピソード>
(凡例)
A…A児,T…教師,他児…その他の幼児,B・C・D・E…気の合う友達
(
) … 援 助 の 分 類 ⇒ (環 )… 環 境 の 構 成 , (間 )… 間 接 的 な か か わ り
(直 )… 直 接 的 な か か わ り
A児の様子
Tのかかわり(援助)
他児の姿
分 析 ・考 察
友達の存在に気付き,かかわりたいと思っているA児。かかわり方を模索している時期
6/17
<オープニングの出番>
○Aは自分のしたいことに
・同じ学級の他児に向
・「砂が目に入るとど
は積極的に行動するが,集
けて砂を蹴ったり,
うなる?」
団で行うことは苦手であり
手ではらったりする
(直:気づかせる)
待つということができにく
・悪気のある様子も見
・服の砂をはた
い。そのためか,砂いじり
せず,笑顔を向けて,
いたりA児を
から友達に砂をかける行動
また砂をまく
見たりしてい
に変わり始めた。周りの幼
る
児が困っていることや全体
・「砂をさわりませ
・友達の服の砂をはた
ん。周りの友達が嫌
での行動の仕方を知ってほ
がっているよ。止め
しいと願い,状況に気付く
よう」
言葉をかけたり,行動の仕
(直:教える,知らせ
方を教える言葉をかけたり
る)
した。この援助が望ましい
く
行動(服の砂をはたく,手
・手をつなぐ
・手をつなぐ
をつなぐ)につながった。
<広告用紙で剣づくり>
6/24
・じっと見ている
・広告用紙を丸めて
○A児が関心を示すと思う
剣を作ってA児に見
剣を一緒に作りながらA児
せる。「A児,剣を作
との会話を試みた。関心は
ったよ。」
示したが,A児は作ること
(環:材料の提示)
より,作ったもので遊ぶこ
とに関心を向けた。 早速,
他児に見せようと思ったの
か遊戯室に持って行った。
そこにはA児とよくトラ
・「作ってみる?」
ブルを起こす相手であり,
用紙を差し出す
A児の気になる友達でもあ
- 4 -
・用紙を受け取りしば
(直:提案)
る3人の男児がいた。一緒
らくひらひらとさせ
・「一緒に作ろうね。
に遊びたい気持ちはあるも
ている
こうやって・・・」
のの,かかわり方が望まし
(直:知らせる)
い言動でないため,今日も
・丸めようとするがで
・手を添える
トラブルとなった。
きない
(直:情動)
・できた剣を持って遊
・同じ学級の男
○危 険 な 行 為は 注 意 した
戯室に行く
児3名が遊戯
り,はっきり知らせたりし
室で遊んでい
ながら,望ましいかかわり
る。
方ができるように援助した
・男児を蹴る。剣で叩
・「A児だめ」
くふりをする
「危ないよ」
・一時止める
(直:教える)
が,友達と一緒には遊べな
・「先生A児が」
・独りで遊ぶ
かった。
・ 「A 児 , 叩 く
なよ」
気 の 合 う 友達と遊ぶことを喜ぶA児。友達とかかわる楽しさを実感する時期
<作った剣で友達と遊ぶ>
7/1
・気の合う友達と広
・「走ったらいけませ
・A児と剣を振
○これまでに作っていた剣
告用紙の剣を振 り 回
ん。ぶつかるよ」
り走る。Tの
を自分の道具入れに入れて
しながら保育 室 を走
(直:教える,知らせ
注意は無視し
いた。 それを出してきては
っている 。
る)
ている
気の合う友達と戦いのよう
・しばらくする
な遊びをしている。遊びの
と遊戯室へ向
内容は,友達が倒れるとA
かう
児も倒れる,A児が笑うと
・他児の後を追って
・遊戯室に行く
友達も笑うというように,
遊戯室へいく
(間:その場にいる)
単純に相手のしぐさを真似
二人の様子を見る
て喜ぶものである。遊びに
・他児のまねをする 。
(間:見守る)
・倒れる,跳ぶ
危険がない限り,教師が見
倒れる,跳ぶ , 大笑
等の行動。
守っておくことで,A児た
いする
・大笑いする。
ちは,かかわる楽しさを
・保育室に戻ってきた
満喫 す る こ とに つ な がっ
・他児と顔を見合せ
ので 「楽しい遊びを
・A児の笑顔に
てにっこり す る
していたね」
笑顔で応える
た。
(直:認める)
<プール遊び>
7/7
・学級の友達とプール
・笛をふき「皆プール
○気の合う友達3人とかか
に入水
の周りに寄って座ろ
わる姿が見られるようにな
・気の合う友達3人と
う」
った。A児もその3人の友
- 5 -
水の掛け合いをして
(直:指示)
・他児3人はま
達も,自分中心の言動をと
いたが,教師の言葉
だ水を掛け合
り,誘い合うでもないが,
で座った
って遊んでい
なぜかいつも一緒にいる。
る。
A児とは入園してからかか
・「B児,C児,D児,
・「B児,C児,D児,
もう遊んじゃ,いけ
A児が教えてれてる
んのよ」 と大声で叫
よ」
・まだ遊んでい
かわるとトラブルを起こし
ぶ
(直:認める)
る
ていた。トラブルを起こす
わりが多く見られたが,か
・「先生の笛を守らん
度に互いがそれぞれの気性
といけんよ。溺れた
を体得していったように思
らどうするんね」
われる。
・再び大声で叫ぶ
・笑顔
・「そうよね。笛の合
・指示通りの行
○友達の望ましくない行為
図は大切なんよね。
動をとる
を知らせることができたA
A児よくわかってい
児を,学級の皆に知らせる
るね。すごい」
ことで,A児のよさを他児
(直:認める)
に伝えることができた。さ
・帰りの会でA児の言
らに,これまで注意するこ
動を話す。
とはあっても誉めることが
・「よいと思ったこと
なかったA児を認めること
は注意し合うといい
ができた。次へステップに
ね。A児ありがとう」
つながることを願う。
(直:認める,賞賛)
自 分 の 心 の 中 を 伝 え よ う と す る A 児 。自分の思いを話すようになる時期
<一番強いのは…>
9/24
・A児の隣でお弁当を
広げる
・「先生ここで食べる
ん?」
○弁当を食べながら,A児
と語り合うことができた。
・「そうよ,よろしく」
(直:知らせる)
日頃の保育活動では,いろ
いろなことは話せないが,
・「A児食べるの早い
ゆったりとした雰囲気の中
ね」
でA児と接することができ
・「俺,兄ちゃんより
た。
早いよ」
・「うん二人。兄ちゃ
・「ふーん,A児お兄
○A児は家庭では兄弟の末
ちゃんいるんだね」
っ子であり年齢も離れてい
ん強いよ」
る。兄の行為や両親の言動
・「兄ちゃんが一番強
をよく見ている。その中で,
いんだ」
強い立場の者と弱い立場の
・「でも,父さんがま
者を見分けることや,喧嘩
だ強い。喧嘩したら
をして叱られたら謝ること
- 6 -
怒るけえ」
で許してもらえること等を
・「A児だけ怒るん?」
学んだりしている。しかし,
・「うん」
・「怒られたらどうす
なぜその行為が悪いのかを
・泣く
るん?」
考えたり,どのようにした
・「どんな時,怒る
らよいかを教えてもらった
ん?」
りする経験はないように思
・わからんんけど喧嘩
するけえじゃないか
える。
ね
<スクーターに空気がない>
10/4
○教師のしていることをよ
・倉庫前でスクーター
く見ているA児。空気をつ
に空気を入れてい
ぐことに関心を示したよう
・「先生,この自転車
た。
で,自転車が動かないよう
にも空気がないよ」
・「そう,入れようね。
に持っていたり,他に空気
ありがとう」
のない乗り物がないかを探
(直:認める)
しに行ったりする等,積極
・「うん,まだ空気の
ないのがあるかもし
れんけえ」
・園庭に走っていく。
的に行動した。
・「そうだね,他のス
クーターや自転車も
○教師の側で手伝いをする
見た方がいいね」
ことを喜んでいる。A児の
(直:提案する)
・A児と一緒
行動から,役に立つ喜びを
しばらくして「先生!」
に自転車を 持
実感 し て い るこ と が 伺え
と言いながら,友達
ってくる
る。素直で優しい言動から
と一緒に自転車を持
・「はい,空気入った
A児の内面を知ることがで
ってくる
よ」
きた。また,A児を認め誉
・「C児,君乗りんさ
い」
めることで,素直な言動を
・「A児,優しいね。
・「ありがとう」 引き出すことにつながった
また手伝ってね」
ことも分かった。
(直:賞賛)
自分から教師や友達に挨拶するようになったA児。笑顔と素直さが表れ始める時期
<先生,おはよう>
10/15
・この頃は休むことが
・「先生おはよう」と
少なくなり,園での
○母親の協力を得 て,毎
生活がスムーズにな
日登園時刻内に来るように
ってきている
・ 「先 生 , A 児
なった 。(これまでは,保
が来たよ」
護者の体調不良のため30分
・「おはようA児。元
・「A児,おは
程度は遅れて登園して来て
気いいね,早く来た
よう」
いた。朝が遅くなることで
元気よく登園して来
る。
- 7 -
・「うん,早起きした
よ」
ね」
A児の一日の生活のリズム
(直:認める)
が乱れ,不安定な気持ちに
・「おはよう,C児,
なったり,友達関係にも影
D児」
響を及ぼしたりすることを
保護者に伝え,協力を得た
いことを頼んだ。
○登園して来た時,友達と
笑顔であいさつを交わすこ
とで,気持ちが安定し,ゆ
とりがもてるようだ。
<一緒に遊ぼう>
10/27
・「先生,B児が嫌な
○この頃は,衝動的な行為
ことを言った」
が少なくなり,生活が安定
・「何て言ったの」
してきている。しかし,こ
・「『一緒に遊ばん』
って言った」
れまでのA児の行為から,
・「A児は一緒に遊び
A児は「叩く人」と思われ
たいの」
ているようで「一緒に遊ぼ
・「うん」
う」と誘っても「だめ」と
・「そりゃあ,悲しか
言われることがある。今日
ったね。 B児がなん
もそのようだった。これま
でそう言ったのかね。
では ,「だめ」と言われて
聞いてみようか?」
も強引に遊びの中に入るた
(直:認める,代弁す
め,トラブルになっていた
る,提案する)
が,自分から教師に助けを
・「B児,A児が遊び
求めたり,叩かないことを
たいって」
・「だってA児
・「え,もう叩かんよ
宣言したりした。友達と遊
すぐ叩くもん」 びたいA児の気持ちを大切
一緒に遊ぼう」
に援助したい。
・「わかった」
12/2
<友達と一緒は楽しいが…>
・「遊戯室で,F組さ
○八木ふれあい祭りの舞台
んと歌の練習をする
で歌う練習をしている。今
よ。並んでテラスに
日は登園が遅くなった。自
行こうね」
・ 「先 生 , A 児
分の並ぶ位置は分かってい
・「A児を呼んであげ
が来ん」
るが,わざとゆっくり行動
・「A児ここよ」
している。
て」
・呼ばれて自分の場所
○友達に呼ばれたことがき
に行く。しかし,前
っかけとなって,自分の場
- 8 -
後の友達をつつく。
・うれしそうに一緒に
騒ぐ。
・「はーい」とE児と
・つつかれた他
所に行った。しかし,素直
児が相手をす
にすぐ行動できず,照れ隠
る
しのように他者をつつく。
・「A児,E児止めな
○本当は友達と一緒に行動
さいよ。今は何をす
することがうれしいはずな
る時か考えて」
のに素直にすぐ行動できず
(直:気づかせる,教
A児が乗り越えなくてはな
える,考えさせる)
顔を見合わせて笑顔
・A児と笑顔を
らない事が何なのか,援助
交わす
の方向が明らかになった。
<楽しいお楽しみ会>
12/21
・クイズ○×をする
○大勢で遊ぶと愉快になり
・「答えは○よ,×よ」
調子にのったり,自分勝手
と言いながら動く
な行動をとったりすること
・「問題をよく聞いて
・「A児が行っ
がよくある。そのため,衝
動いてよA児」
たり来たりし
動的に叩いたり,ぶつかっ
(直:指示する)
よる」
たりするためにトラブルが
・「A児,間違
起きる。
・外に出ると楽しくな
っとるよ。外
○今日の集会は,クイズを
くなり,立ち歩いた
に出んと」
して楽しむ活動であった。
り,他の教師に話し
かけたりする
考え て 行 動 する と い うよ
・座って待つことを話
り,○や×の場所に移動す
すが聞こうとはしな
ることを楽しんでいた。ク
いので見ている
イズをする時の約束が理解
(直:教える,間:見
ができないため,友達や教
守る)
師の注意を受けることにな
・立ち歩いていて,他
った。
の教師に座るように
注意を受けると座る
が,また立ち歩く
・すぐに,聞こうとせ
・注意したり,制止し
たりする
(直:教える,叱る)
ず,振り返りながら
同じ行動をする
- 9 -
イ
A児の変容から教師の援助に係る考察
〇
「友達とかかわり方を模索している時期」のA児は,自己中心的な言動が多く
見られ,自分の思いのまま行動している。一緒に遊びたい気持ちがあるものの望
ましいかかわり方ができずトラブルになる。教師は,A児の気持ちを受け止め,
焦らないで行動の意味をとらえながら,教えたり,気付かせたりする直接的な援
助を繰り返したことが有効であった。
〇
「友達とかかわる楽しさを実感している時期」のA児は,相手のしぐさを真似
て遊びながら,友達と一緒に遊ぶ心地よさを味わっている。教師は,危険のない
限り,喜びを共有し笑顔で見守る間接的な援助を行ったことが有効であった。
〇
「自分の思いを話すようになる時期」では,A児と一対一の会話を通してゆっ
たりとかかわりながら,A児の内面や今ある姿の意味,課題を把握したりするよ
うな言葉を直接交わす援助が有効であった。
〇
「笑顔で素直な言動が表れ始める時期」では,A児の望ましい言動を認め,励
ます援助や,どのようにしたらよいかを提案したり,考えさせたりする援助をし
たことが有効でった。
〇
2学期終了後,A児の育ちや援助を振り返った時,A児自身が乗り越えなくて
はならない課題に直面する毎に,直接的な援助や間接的な援助を繰り返し行って
いたことが明らかになった。しかし,保護者の体調によって登園や降園時刻が定
ま ら な い こ と や 休 み が ち に な る こ と で ,継 続 し た 指 導 が で き に く く 残 念 で あ っ た 。
今後も,A児の育ちを見極めながら保護者の協力を得ながら望ましい育ちにつな
がる援助を試みたい。
5
研究の成果と課題
2学期までのA児のエピソードから,育つ過程や援助の傾向を探った事例であるが,
幼児の育ちは一律ではないことや,育ちに節目があることが明確になったことが成果で
あった。教師が,幼児の日々の何げない言動を見逃さずていねいに見取ることが幼児理
解につながり,内面を理解した援助が望ましい育ちにつながることを再認識できた。
幼稚園において,幼児が友達や教師と安心して過ごせる生活や,意欲をもって遊びに
取 り 組 む 生 活 と な る た め の 教 師 の 役 割 と し て ,以 下 の こ と が 大 切 で あ る こ と が 分 か っ た 。
6
○
で き る 限 り 多 く の 教 師 と カ ン フ ァ レ ン ス を 行 い ,様 々 な 角 度 か ら 理 解 に 努 め る こ と 。
○
幼児の内面の理解を確かなものとすること。
○
その場や状況を的確にとらえ援助すること。
○
幼児が示す言動の背景を探り,言動を肯定的に受け止め,援助すること。
○
幼児の育ちを見極めた援助をすること。
おわりに
本研究では,教職員間で幼児の姿や教師の援助について意見交流をした。このことに
よ り ,教 師 の 援 助 を 再 考 し た り ,幼 児 の 見 取 り を 確 か な も の に し た り す る こ と が で き た 。
エピソード記録を取って事例研究を行ったことで,教師の保育観や価値観をより確かな
ものにすることができた。
- 10 -
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