...

2017年のユーロ圏経済、為替見通し[ 641KB ]

by user

on
Category: Documents
22

views

Report

Comments

Transcript

2017年のユーロ圏経済、為替見通し[ 641KB ]
2016年12月1日 作成
No.552
為替動向と
見通し
2017年のユーロ圏経済、為替見通し
緩やかな成長続くが、17年は小
OECD(経済協力開発機構)は11/28、世界経済見通しを発表した。トラン
幅に成長鈍化
プ次期米大統領が計画している減税策、公共投資が米経済を押し上げ、
17‐18年に世界の経済成長に弾みがつくとした。一方、ユーロ圏経済の
17年成長見通しは+1.6%と、9月時点から0.2pt上方修正されたものの、
16年から小幅に減速すると予想されている。ユーロ安を背景とする輸出
増が成長を押し上げる一方で、政治的な不確実性や銀行セクターの脆弱
性が投資や消費を抑制するリスクが指摘されている。ただし減速幅は限
定的で、ここ数年間続くユーロ圏経済の緩やかな回復基調は維持される
見通しである。
(図 1)OECD 主要国 経済成長率見
通し (2016/11)
OECD 主要国 経済成長率見通し (2016/11)
4.0
(%)
3.6
2016
3.5
2017
2018
3.0
2.9
3.0
2.5
3.3
2.3
2.0
1.7 1.6 1.7
1.5
1.5
1.0
1.0
0.8
0.8
0.5
0.0
米国
日本
ユーロ圏
世界
出所:OECD(経済協力開発機構)「Economic Outlook No 100」2016/11のデータをもとにMUMSS作成
個人消費の成長がやや減速
小幅ながらユーロ圏経済の成長が減速するとみられているのは、ここ数
年、成長を牽引した個人消費の伸びが鈍化すると予想されているためで
ある。原油価格の回復に伴い物価が徐々に上昇することで実質雇用者
報酬の成長が抑制されることが、個人消費に悪影響を及ぼすと想定され
る。OECDは、ユーロ圏HICP(消費者物価指数)が16年0.2%→17年
1.2%に上昇すると予想している。次項図4で示すように、ユーロ圏の実質
雇用者報酬と実質個人消費には強い相関がみられ、物価高は相応に個
人消費を下押しすると想定される。OECDは、ユーロ圏の実質個人消費
(前年比成長率)が16年+1.6%→17年+1.4%に減速すると予想してい
る。実質GDPの約55%(15年実績)を占める実質個人消費の成長鈍化
が、僅かではあるがユーロ圏経済の成長を抑制するとみられる。
川原 拓士
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、お客様への情報提供の
みを目的としたものであり、特定の有価証券の売買、あるいは特定の証券取引の勧誘を目的としたものではありません。本資料で直接あるいは間接的に取り上
げられている株式・外国株式・債券は、値動きのある商品であるため、元本が保証されておらず、経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部環境の変
化、金利・為替の変動などにより、投資元本を割り込むリスクがあります。加えてこの資料で取り上げられている外国証券は、我が国の金融商品取引法に基づく
企業内容の開示は行われておりません。当該外国証券の開示情報は、主要取引所の所在する国の開示基準に基づいています。本資料の利用に際しては、お
客様御自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. All rights reserved.
2016年12月1日
為替動向と見通し
(図2)実質GDP 成長率と構成項目の
寄与度(前期比年率)
実質GDP成長率と構成項目の寄与度(前期比年率)
4
(%)
3
2
1
0
-1
在庫投資
総固定資本形成
個人消費
-2
純輸出
政府支出
実質GDP
-3
14/3
14/6
14/9
14/12
15/3
15/6
15/9
15/12
16/3
16/6
出所:EurostatのデータをもとにMUMSS作成
(図 3)ユーロ圏の実質雇用者報酬と
実質個人消費
ユーロ圏の実質雇用者報酬と実質個人消費
4
(%)
3
2
1
0
-1
消費者物価上昇率(逆符号)
雇用者数
-2
一人当たり雇用者報酬
実質雇用者報酬
-3
実質個人消費
-4
11
12
13
14
15
16
(年)
出所:Eurostat、BloombergのデータをもとにMUMSS作成
(図 4)ユーロ圏実質雇用者報酬と実
質個人消費(前年比)の近似曲線
ユーロ圏実質雇用者報酬と実質個人消費(前年比)の近似曲線
2.5
(%)
2
1.5
実
1
質
個
人 0.5
消
0
費
( -0.5
前
年 -1
比
) -1.5
y = 0.6827x - 0.0648 (近似曲線)
R² = 0.9044 (決定係数)
(%)
-2
-2
-1
0
1
2
3
4
実質雇用者報酬(前年比)
出所:Eurostat、BloombergのデータをもとにMUMSS作成 ※期間:2011年Q1~2016年Q2
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
2
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
2016年12月1日
為替動向と見通し
欧州政治リスクに注意
また、欧州では今後重要な政治イベントが相次ぐ。特に欧州5ヵ国(イタリ
ア、オーストリア、オランダ、フランス、ドイツ)で実施される選挙(国民投
票)が注目される。6月に行われた英国民投票でのEU離脱の選択や米大
統領選でのトランプ氏勝利はポピュリズム(大衆迎合主義)の伸張を示唆
しており、選挙を控える欧州各国においても火種は燻っている。具体的に
は、イタリア:五つ星運動、オランダ:自由党、フランス:国民戦線、ドイツ:
AfD(ドイツのための選択肢)など反移民、反EUを掲げる政党が勢力を拡
大させており、次回選挙での躍進が予想されている。こうしたいわゆるポ
ピュリスト政党には、英国同様、EU離脱を問う国民投票を実施すべきとの
主張が多くみられ、欧州統合が一段と失速することが警戒される。政治的
な不透明感が高まれば、消費や投資が抑制される可能性があるため注
意が必要である。
(表 1)欧州各国での重要政治イベント
欧州各国での重要政治イベント
日程
イベント
楽観シナリオ
悲観シナリオ
12/4
・憲法改正賛成派勝利(レン
ツィ首相残留)
労働市場改革や銀行不良債権
イタリア:憲法改正を
処理が加速
めぐる国民投票
・憲法改正反対派勝利も与党
から首相選出で、18年の総選
挙まで解散総選挙なし
12/4
リベラル系の「緑の党」出身の 極右・自由党のホーファー氏勝
オーストリア:大統領
ベレン氏勝利で極右政党の躍 利でEU初の極右政党出身の国
選挙
進を阻止
家元首誕生
2016年
3/15
オランダ:総選挙
3月末まで 英国;EU離脱通告
2017年
ルッテ現首相率いる中道右派
の自由民主党
が議席を維持し、極右政党の
躍進を阻止
ウィルダース党首率いる極右・
自由党が第一党に躍進
移民排斥、EU離脱機運が高ま
る可能性(ウィルダース氏は総
選挙で勝利すればEU離脱を問
う国民投票を実施すると発言)
11月の英高等法院での判決
(政府が離脱通告を実施する
際、議会の承認が必要)を最高
裁判所が支持(17年1月頃判
決か)
議会で審議を行うため、離脱通
告時期を延期、あるいは離脱
の強硬姿勢が緩和(EU単一市
場へのアクセスを模索)
メイ首相が宣言どおりEUに対し
て3月末までに離脱通告
EU単一市場へのアクセスを犠
牲に、独自の移民政策を優先
する強国な離脱(ハードブレグ
ジット)を実施
・第一回投票での国民戦線・ル
ペン党首の敗退(ただし、可能
性は高くない)
・第二回投票(第一回投票上位
4/23、5/7 フランス:大統領選挙
2人の決戦投票)で中道右派の
野党・共和党のフィヨン元首相
が勝利→極右政党対等のリス
ク後退
秋
ドイツ:総選挙
憲法改正反対派勝利(レンツィ
首相辞任)
17年夏までに解散総選挙を模
索(与党・民主党のグエリーニ
副党首が言及)
現政権の改革が頓挫、銀行問
題再燃
・第一回投票でルペン氏が過半
数を獲得し、当選(ただし、可能
性は高くない)
・第二回投票でルペン氏が勝利
移民排斥、ユーロ圏離脱、反グ
ローバリズムなどの機運が高ま
るリスク
メルケル首相の再選
反移民を掲げる極右・AfD(ドイ
欧州最大の経済国であるドイ
ツのための選択肢)が予想を上
ツの政情安定により、欧州経済
回る議席数を確保
成長失速への不安が後退
出所:MUMSS作成
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
3
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
2016年12月1日
為替動向と見通し
財政政策拡大は限定的か
ユーロ圏の財政政策については、14年に均衡財政を達成したドイツの歳
出抑制圧力がやや緩和されることなどを背景に緩やかな拡大が予想され
る。ただし、ドイツは今後も均衡予算を維持する方針を示しているため、大
幅な財政支出の拡大は期待し難い。また、その他主要国においても、
マーストリヒト条約が定める水準(財政赤字が対GDP比3%以内)の達成に
向け、歳出削減圧力が掛かるため、米国や日本と比較すると、財政政策
の拡大余地は限定的である。OECDは、ユーロ圏財政支出が16年+
1.8%→17年+1.3%に減速すると予想している。
(図 5)ドイツ連邦財政収支
ドイツ連邦財政収支
360
(10億ユーロ)
350
328.7 331.1
340
330
316.9
320
296.2
292.3
311.4
306.8 307.8
303.7
310
300
343.3
見通し・計画
295.5
349.3
349.3
343.3
328.7 331.1
316.9
311.4
歳出
290
295.5
280
歳入
284.3 285.7
270
278.9
260
250
258.1 259.7
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20 (年)
出所:ドイツ財務省のデータをもとにMUMSS作成
(図 6)ユーロ圏各国財政収支(対
GDP 比)
ユーロ圏各国財政収支(対GDP比)
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
-10
-11
-12
(%)
IMF見通し(16年10月時点)
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
ポルトガル
マーストリヒト基準
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
出所:IMFのデータをもとにMUMSS作成
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
4
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
2016年12月1日
為替動向と見通し
ユーロ安を受け輸出拡大
ユーロ圏経済の外需寄与度は小幅な改善が見込まれている。ユーロ安
の追い風を受け、輸出が押し上げられることがその背景である。ただ、EU
離脱を巡り英国との交渉難航が貿易上のリスクとして意識されるほか、欧
州政治イベントの結果次第で、各国が保護貿易主義に傾いてしまうことも
警戒される。
(図 7)ユーロ圏外向け輸出(財)と各
国(地域)の寄与度(前年比)
ユーロ圏外向け輸出(財)と各国(地域)の寄与度(前年比)
14.0
(%)
中南米
アジア(中国除く)
アフリカ
ユーロ圏外
12.0
10.0
(%)
米国
中国
ユーロ圏以外の欧州
ユーロ実質実効レート 右軸
8.0
15
10
5
6.0
4.0
0
2.0
-5
0.0
-2.0
-10
-4.0
-6.0
-15
12
13
14
15
16
(年)
出所:EurostatのデータをもとにMUMSS作成
ドル高局面でユーロ、円ともに売
為替市場では、米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、ドル高圧力が
られやすい
強まっている。米次期政権下での積極的な財政政策が短期的に米経済
を浮揚させるとの見方や財政悪化への思惑、米利上げペースが速まると
の観測を強め、米長期金利が上昇していることがドル買いを後押ししてい
る。通貨ペア別の取引高(次項図8)を確認すると、ドル/ユーロが全体の
23%、円/ドルが17%となっており、ドル買いの矛先はユーロや円に向か
いやすい。ドルの実効為替レート(貿易加重平均)であるドルインデックス
(DXY)とドル/ユーロ相場は逆相関の関係にあるため、ドル買いが強まる
局面では、ユーロ圏サイドの要因に関わらずユーロ安が進みやすくなる
傾向がある。ただ、ドル買いは円にも向かうため、円/ユーロ相場は方向
感不在の展開が続くことが予想される。金融政策についてはユーロ圏、
日本ともに、相対的に低水準のインフレが継続し、当面緩和的な政策が
維持される見込みであり、方向感に大差はない。違いがあるとすれば政
治上のリスクであろう。欧州では17年に主要国での総選挙(大統領選)が
予定されている。仮に極右政党の勝利などリスクイベントが発生した場合
には、欧州統合の失速、後退が意識され、ユーロ売りが強まるだろう。逆
にこうしたイベントを無風で通過すれば、安心感からユーロが買い戻され
る展開も予想される。
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
5
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
2016年12月1日
為替動向と見通し
(図 8)通貨ペア別の取引高(対ドル、
通貨ペア別の取引高(対ドル、1日平均)のシェア
1 日平均)のシェア
ユーロ
円
ポンド
豪ドル
カナダドル
人民元
スイスフラン
メキシコペソ
シンガポールドル
ニュージーランドドル
韓国ウォン
香港ドル
スウェーデンクローナ
トルコリラ
インドルピー
ロシアルーブル
その他
1.0
1.2 1.1
1.5 1.3
7.8
23.0
1.5 1.5
1.6
2.1
3.5
3.8
4.3
17.7
5.2
9.2
(単位、%)
出所:BISのデータをもとにMUMSS作成
(図 9)ドルインデックスとドル/ユーロ
相場
ドルインデックスとドル/ユーロ相場
105
(指数)
(ドル/ユーロ)
1.6
ドルインデックス(DXY) 左軸
100
1.5
ドル/ユーロ相場 右軸
95
1.4
90
1.3
85
1.2
80
1.1
75
70
1
10
11
12
出所:BloombergのデータをもとにMUMSS作成
円/ユーロは方向感不在
13
14
15
16
(年
)
ドルインデックスとドル/ユーロ相場の関係からは、ドルインデックスに10%
程度の上昇があれば、ドル/ユーロ相場はパリティ(1ユーロ=1ドル)近辺
までユーロが下落することが示唆される。ここ2年間は1ユーロ=1.1ドルを
中心とする狭いレンジでの往来相場が続いたが、ドル買い圧力を受けて
その中心値がやや押し下げられると想定する。一方、円/ユーロ相場はド
ル高の矛先が両通貨に向かうため方向感が出にくいと考える。足元では
リスク選好ムードの高まりなどを背景に円売りがより強まっている印象であ
るが、来年の半ば以降は円に対する売り疲れ感からドル買いの対象が
ユーロに向かいやすくなると想定する。以上を踏まえ、2017年のドル/
ユーロ相場、円/ユーロ相場の想定レンジを次項図10、11の通りとする。
川原 拓士
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
6
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
2016年12月1日
為替動向と見通し
(図 10)ドル/ユーロ相場見通し
ドル/ユーロ相場見通し
1.5
(ドル/ユーロ)
1.45
1.4
1.35
1.3
1.25
1.2
1.15
1.15
1.1
1.05
1
1.00
0.95
0.98
0.9
13
14
15
16
17
18
出所:BloombergのデータをもとにMUMSS作成
(図 11)円/ユーロ相場見通し
円/ユーロ相場見通し
155
(円/ユーロ)
145
135
130
125
125
115
110
105
105
95
13
14
15
16
17
18
出所:BloombergのデータをもとにMUMSS作成
川原 拓士
Copyright 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd.
All rights reserved.
7
表紙に記載の留意事項を必ずご確認ください。
投資情報部
東京都千代田区大手町1-9-2
大手町フィナンシャルシティ グランキューブ
Fly UP