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人間の走行時の骨盤運動や脚弾性を 模擬する2足走行ロボットに関する

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人間の走行時の骨盤運動や脚弾性を 模擬する2足走行ロボットに関する
人間の走行時の骨盤運動や脚弾性を
模擬する2足走行ロボットに関する
研究
Study on a Biped Running Robot
Mimicking Pelvic Motion and Leg
Elasticity in Human Running
2016年 2月
早 稲田大 学大 学院 先 進理 工学研 究科
生 命理工 学専 攻 バイ オ・ ロボテ ィク ス研究
大谷 拓也
Takuya OTANI
摘
要
人間の運動のメカニズムを解明するため,人間の運動時のデータを検証する人体運
動解析やシミュレーションによる検証などが行われている.しかし,人体運動解析で
は,被験者に危険が及ぶ可能性のない動作しか検証することができず,シミュレーシ
ョンでは,衝突や摩擦のモデル誤差による結果の違いなどの問題がある.そこで,人
間と同等の運動が可能な等身大のヒューマノイドロボットにより人間の動作の模擬
を行うことで,危険な動作であっても実世界において検証することができ,実際のロ
ボットに動作をさせた際に各部の負担を検証することで傷害のリスクなどを検証で
きる.さらには,開発途中の道具などを人間の代わりに使用させ評価することにも有
用である.これまで2足ヒューマノイドロボット WABIAN-2R により人間の歩行運動
の模擬の研究が進められている.さらに走行運動も実現できればスポーツ科学の研究
など,はるかに広い分野に利用できるようになる.しかし,WABIAN-2R を人間の代
わりとして用いるためには,膝などにおいて約 150W の出力しか出せないため,人間
の通常の歩幅での歩行や,さらに約 1000W もの出力が必要となる走行は実現できな
い.加えて,各部のサイズや質量配置が人間と異なるなどの問題がある.また既存の
ヒューマノイドロボットは人間と同程度の速度で走行することは出来ず,人間の走行
時の様々な特徴をすべて模擬しているものはない.
そこで本研究では,走行時の特徴を2足ヒューマノイドロボットにより模擬するこ
とで大きな出力の発揮による走行運動の実現が可能になると考え,人間の走行運動の
模擬が可能な2足ヒューマノイドロボットの開発を目的とした.具体的には,特に跳
躍力の獲得に寄与していると考えられる人間の下半身に見られる特徴を模擬し,また
身体各部のサイズや質量分布なども人間と同等にすることで,人間の運動時のダイナ
ミクスを利用することとした.
本論文は,以下に示す 6 章から構成されている.各章の要約を示す.
第 1 章では,序論として本研究の研究背景と目的,その意義と関連研究の動向につ
いて述べた.
第 2 章では,人体計測に基づいた骨盤運動を取り入れた走行モデル SLIP2 を用いて
骨盤運動の跳躍への寄与を検証するため,人体計測の詳細と,それに基づく走行モデ
ルの開発,評価実験と考察を述べた.人間の走行時の特徴としては様々なものが挙げ
られるが,走行運動の実現に対して重要な特徴として,立脚がばねのように振る舞っ
ていることや,走行速度に応じて走法を変化させること,上体や上肢を用いて走行時
i
の床反力や脚部の運動により生じる回転モーメントを相殺していることなどがある.
しかし,骨盤運動に注目した解析の先行研究例は少なかったため,走行時の人体計測
データから特徴を抽出することにした.その結果,前額面において着地側の脚部を路
面に押し付けるように骨盤が動いているため,力強い蹴り出しに寄与している可能性
が示唆された.
一般的に走行運動の解析には,立脚がばねのように振る舞うことから,1 つの質点
と 1 つの減衰のないばねによる SLIP(Spring Loaded Inverted Pendulum)モデルが用い
られている.SLIP モデルは人間の走行運動をもっとも簡単にかつ的確に表現したモ
デルであるが,前述の走行運動時の骨盤揺動を見ると正弦運動に近い挙動を示してお
り,これは SLIP モデルでの共振運動に大きな影響を与える.この知見を基に,新た
に骨盤を有する SLIP2(Spring Loaded Inverted Pendulum using Pelvis)モデルを考案し
た.この SLIP2 モデルにより,重心の鉛直方向の移動に対する骨盤の回転運動の位相
の違いの影響を検証し,人間の走行時の前額面における骨盤揺動が跳躍力の獲得に寄
与していることが示唆された.
第 3 章では,骨盤と脚弾性を利用した走行制御の開発について述べた.人間のよう
な脚での走行運動を実現させるため,骨盤揺動による跳躍制御に加え,多関節脚が直
動ばね脚と同様に振る舞うように床反力方向を操作するための動力学モデルを導出
した.また,走行速度を変更するためには,人間が走行速度に応じて跳躍中に次の着
地位置を変更することによる走行速度制御を開発した.走行時には,足関節の関節角
度を計測することで着地判定を行い,それに基づき上記の制御を行う.この制御によ
り,シミュレーションにて,骨盤揺動により跳躍力を得て,着地位置を変更すること
でそれを推進力とする走行運動が実現できることを確認した.
第 4 章では,上記の SLIP2 モデルを元に開発した走行ロボットの詳細および特に重
要な脚弾性の模擬について述べた.前述のように,走行中の人間の脚は立脚中にはば
ねのように振る舞い,そのばね性は膝や足関節の回転ばね性によることが分かってい
る.また,遊脚中には路面からのクリアランスを確保するために屈曲する.しかし,
人間の走行時に必要な出力を得ることは既存の関節構造では難しいため,膝・足関節
の回転弾性を,板ばねを用いた関節構造により模擬することで,走行時に要求される
立脚の大出力を実現した.各関節の回転弾性の要求仕様は走行中の人体計測データか
ら算出した.使用する弾性体としては,圧縮コイルばね,ねじりばね,板ばねが考え
られたが,走行運動中に弾性を調節することを考え,有効長の変更により弾性調節が
容易な板ばねを用いることにした.この際,軽量かつ高剛性な CFRP 製の板ばねを重
ねて用いることで 1 枚あたりの応力を低減し使用を可能とした.また,板ばね間にウ
ォームギアを用いることで,立脚のばね性の発揮と遊脚時の能動的な屈曲を両立した.
ii
開発したロボットを用いて,人間の関節弾性を模擬でき,さらに骨盤揺動と脚弾性を
利用することによりその場での跳躍動作を実現し,跳躍力が十分に獲得できているこ
とを確認した.
第 5 章では,開発した走行ロボットおよび走行制御の検証のため行った走行実験に
ついて述べた.この走行実験において,骨盤揺動および脚弾性を利用した走行を実機
にて実現し,開発した走行制御およびロボット機構の有効性を確認した.また,走行
速度制御についても速度指令値に応じて機能していることを確認した.
最後に,第 6 章では結論として以上の研究成果を総括した.
まとめると,第 2 章では人体運動計測に基づき骨盤を考慮した新たな走行モデル
SLIP2 を開発し,骨盤の揺動が跳躍力の獲得に寄与することを明らかにした.第 3 章
では,上記 SLIP2 モデルを用いた走行制御を構築した.第 4 章では,人間の骨盤およ
び脚弾性を模擬した2足走行ロボットを開発した.第 5 章では,開発した2足走行ロ
ボットと走行制御を用いることにより,人間の骨盤揺動や脚弾性を模擬した走行を実
現した.
また今後の展望として,上半身を含めた全身を利用した走行運動について示し,歩
行と走行の両立の可能性について言及した.
以上,本論文では,2足ロボットの運動能力向上につながる研究として,人間の走
行時の骨盤揺動および脚弾性を模擬した走行モデル,制御方式,関節機構を提案し,
これに基づき実際に製作した2足走行ロボットにより実験を行い評価することによ
り,その有効性を実証することを研究の目的とした.
その成果として,人間の走行中の骨盤揺動が跳躍力の獲得に寄与していることを示
し,また CFRP 重ね板ばねとウォームギアを用いた弾性関節機構を開発することによ
って人間の脚弾性を模擬し,跳躍が可能であることを実証した.また,骨盤揺動と脚
弾性を利用し着地位置変更などによる走行制御を行うことで走行が可能であること
を実証した.
本研究の成果は,2足ヒューマノイドロボットの実用化に向けて運動能力を飛躍的
に向上させる技術となるものである.また,本研究を応用し人間のような走行が可能
な2足ヒューマノイドロボットを開発出来れば,人間らしい運動と人間らしくない運
動を容易に比較できるため,人間の歩行・走行運動の研究の一助となる.さら
に
は歩行・走行時の姿勢の影響や靴の定量的な評価手法としてのロボットの利用や,開
発した機構を歩行と走行の兼用が可能な義足への応用が可能となるなどのように,ロ
ボット工学のみならずスポーツ科学やリハビリテーションといった様々な用途が広
がると期待できる.
iii
目
次
(人間の走行時の骨盤運動や脚弾性を模擬する
2足走行ロボットに関する研究)
記号の説明
第 1 章 序論
1.1
1.2
1.3
1.4
はじめに
本研究の背景
本研究の目的と意義
関連研究
1
1
4
6
1.5
本論文の構成
8
第 2 章 骨盤と脚弾性を有する走行モデルの開発
2.1
はじめに
11
2.2
2.3
2.4
2.5
2.6
人間の走行研究調査
人体運動計測に基づく骨盤揺動解析
走行モデル SLIP2 の構築
シミュレーションによる提案モデルの検証
まとめ
12
14
16
20
28
第 3 章 走行制御法の開発
3.1 はじめに
31
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
3.9
31
33
34
35
36
37
38
44
全体設計
骨盤振動制御法
走行速度制御法
動力学を用いた床反力推定
安定化制御法
床反力推定の検証
評価実験と考察
まとめ
第 4 章 2足走行ロボットの開発
4.1
4.2
4.3
4.4
4.5
4.6
はじめに
基本設計
2枚の板ばねによる弾性を有する関節構造
骨盤機構
全身設計
実験設備
4.7 評価実験と考察
4.8 まとめ
47
48
48
58
59
62
62
第 5 章 2足走行運動の実現
5.1
5.2
5.3
5.4
はじめに
走行評価実験
安定化制御検証
考察
73
73
78
79
5.5 まとめ
第 6 章 結論
6.1 結論
6.2 今後の展望
付録 A 走行実験データまとめ
参考文献
謝辞
研究業績
85
87
記号の説明
記 号 の 説 明
座標系
O XYZ :
X軸およびY軸を含む平面が路面に一致し,路面に垂直な軸を Z 軸とし,原点が路
面に固定されている(右手)直交座標系(絶対座標系)
.


O  XYZ :
原点がヒューマノイドロボットの腰部付近に固定されている(右手)直交座標系(運
動座標系)
.
 pelvis
骨盤部の Roll 軸の回転角度
m
重心の質量
k
仮想脚ばね定数
a
重心鉛直加速度
g
重力加速度
l p (t )
骨盤揺動の鉛直方向変位
l k (0)
着地時の脚ばね長
A
骨盤振幅

系の固有振動数
tstance
立脚してからの時間

重心の鉛直方向の運動に対する骨盤運動の位相ずれ
 pelvis _ off
地面から跳躍した瞬間の骨盤の角度
t flight
跳躍してからの時間
Ttransition
補間時間
T
立脚全時間
M (q)
慣性項
H (q, q )
遠心力・コリオリ力に関する関数
G(q)
重力項
J (q)
ヤコビアン
F
床反力
S
トルクの変換行列
T
脚の関節トルク
x
重心の前後方向の位置
z
重心の鉛直方向の位置
記号の説明 - 1
大谷拓也 博士論文
 body
重心の矢状面における傾き
 hip
股関節角度
 knee
膝関節角度
 ankle
足関節角度
q
重心の位置と関節角度

機体姿勢に対するゲイン

機体姿勢の角速度に対するゲイン
Kj
関節の回転弾性
M
関節トルク
l
板ばね有効長
E
板ばねのヤング率
I
板ばねの断面二次モーメント

ウォームギアの進み角
1
駆動時のトルク伝達効率
2

逆駆動時のトルク伝達効率
b
板ばねの幅
t
板ばねの厚さ

板ばねに発生する応力

板ばねのたわみ量
x; z;
; hip ; knee ; ankle 
body
材質と回転数に依存する定数
本論文中における記号表記に関する注意事項
1.
記号上部の線(例: ri )は運動座標系 O  XYZ におけるベクトル表現であることを示す.
2.
記号上部の 1 つの点(例: ri )は時間に関する 1 回微分であることを示す.
3.
記号上部の 2 つの点(例: ri )は時間に関する 2 回微分であることを示す.
記号の説明 - 2


第 1 章 序論
第1章
1.1
序論
1.1
はじめに
1.2
本研究の背景
1.3
本研究の目的と意義
1.4
関連する研究事例
1.5
本論文の構成
はじめに
本論文では,人間の走行時の骨盤運動や脚弾性を模擬する2足走行ロボットについ
て論ずる.
これは,人間の運動の模擬が可能なヒューマノイドロボットを用いた人間の運動解
明を目指し,人間の走行時に見られる骨盤運動や脚弾性を模擬することで大きな跳躍
力を獲得し走行運動を実現することを目的とした研究である.
1.2
1.2.1
本研究の背景
社会的背景
近年,2足ヒューマノイドロボットは主に実環境での運用を目指して,多くの大学
や研究機関,企業によって盛んに研究開発が行われている.ヒューマノイドロボット
の研究開発が進められる背景には,人間の代替という機能が求められている.それは,
単純な機械的労働力だけでなく,キャラクターとしての人間性を用いた接客などにも
広く適用されている.しかし,常に議論の対象となる問題として,「人間と同等,も
しくは人間に近い必要性」が挙げられる.目的が人間の代替だとしても,必ずしも人
間とまったく同じでなければならない環境は多くなく,その意味で人間に近いヒュー
マノイドロボットには必要性がなく,また人間の持つ構造などについてもそれが最適
解であるわけではないため,人間を模倣することに意味はないというものである.こ
れに対し,機械的労働力としては人間に適した環境での作業性のために人間に近づけ
る必要があることが言われるが,それらにおいても,人間と同等のサイズであること
1
大谷拓也 博士論文
などの理由にはなるものの,人間よりも高い作業性を実現するために腕の本数を増や
すなど,人間とまったく同一である必要性は見出せない.
筆者は,人間と同等なヒューマノイドロボットによる人間研究が可能であると考え
る.人間そのものの構造や制御についてはまだまだ未知の部分が多く,この人間の研
究を進める際に,人間の運動解析により得られた仮説の検証のために,人間と同等な
ヒューマノイドロボットが必要である.また,現状のヒューマノイドロボットの性能
で人間に匹敵するものは,精密さや頑強さなど,ほんの一部である.当然,現状の人
類の持つ技術レベルの問題でもあるが,人間の構造や運動戦略を導入することで,ヒ
ューマノイドロボットの性能を飛躍的に上げることができると考える.本研究は,こ
れらの理由により,人間と同等の走行運動が可能なヒューマノイドロボットの開発に
向けたものである.
1.2.2
既存のスポーツ科学研究
上述のとおり,人間の運動に関しては未だ解明されていない部分が多く,スポーツ
科学などにおいて盛んに研究が行われている.これには,主に,人体運動計測と,数
値シミュレーションが用いられる.人体運動計測とは,実際に人間がある運動をして
いるときの関節角度や筋電などを,カメラやモーションキャプチャシステムなどによ
り取得し,得られた動きから,その理由を明らかにするものである.一方,シミュレ
ーションでは,人間と同等もしくは人間に近いモデルを作成し,そのモデルを用いて
運動時のデータを推測するものである.数値シミュレーションは,これまでの人体運
動計測による研究成果の蓄積と,近年のコンピュータの性能向上により可能となって
いる.
しかし,これらにも問題がある.まず,人体運動計測については,被験者にけがの
恐れのある運動は当然検証することはできない[1].また,シミュレーションでは,未
だ摩擦や衝突の計算が完全なものはないため,どうしても実世界と誤差が生じる[2].
これは,特に人体が外環境(床面や道具など)と接触する場合に大きな問題となる.
これらの問題に対し,筆者は本研究の目的である,人間と同等な運動が可能なヒュー
マノイドロボットの利用を提案する.ヒューマノイドロボットであれば,人間ではけ
がの恐れのある動作をさせることもでき,また,衝突などの問題についても実環境に
おいて検証できる.これにより,ヒューマノイドロボットを用いて,通常の人間では
けがの恐れのある動作も含めて検証することができ,運動能力を向上させられる知見
が得られれば,それを裏付けとしその動作を可能とするトレーニング方法などを開発
することで,人間の能力向上を図ることができる.さらには,実際に存在する道具を
をテストする際にも用いることができると考える.
2
第 1 章 序論
1.2.3
早稲田大学における2足歩行ロボット研究
著者ら早稲田大学の研究グループにおける2足ヒューマノイドロボットの研究と
しては,1973 年に開発された WABOT-1[3]に始まり,2足歩行のための下肢機構とそ
の歩行制御に注目した WAP・WL[4, 5]シリーズを用いた研究を経て,1996 年より
WABIAN(WAseda BIpedal humANoid)シリーズ[6, 7]を開発し,それを用いて研究が
行われていた.その成果としてこれまでに,腰と体幹の協調によるモーメント補償軌
道算出アルゴリズムを開発し,全身運動を伴う歩行,視覚・聴覚からの追従歩行[8, 9]
等を実現している.また,2003 年に開発された2足ヒューマノイドロボットの下肢機
構 WABIAN-2/LL(WABIAN No.2 Lower Limb)[10],WABIAN-2 を経て,2005 年に人
体運動シミュレータとしての2足ヒューマノイドロボット WABIAN-2R(WABIAN-2
Refined)を開発した[11].2自由度を持つ腰部による下肢の冗長自由度を活かして,
膝関節角度軌道を歩行パラメータの一部として予め与えることにより,従来の逆運動
学計算で問題となる特異点問題を解決し,人間のように歩行中に膝関節の完全伸展を
伴う膝伸展型歩行を実現した[12].さらに 2006 年には,爪先に受動関節を搭載した足
部機構を開発し,より人間らしい踵接地爪先離地歩行を実現した[13, 14].
さらに,2008 年には情動表出ヒューマノイドロボット WE-4RII(Waseda Eye No.4
Refined II)と WABIAN-2R を統合し,情動表出が可能な2足ヒューマノイドロボット
KOBIAN を発表し,表情のみならず全身を用いた情動表出を実現している[15].
1.2.4
研究課題
これまでの WABIAN-2R による人間の模擬は歩行を対象としたものであるが,さら
に走行の模擬が可能となれば,上述のスポーツ科学への応用が可能となり,加えて既
存のヒューマノイドロボットを遥かに凌駕する性能を持ったヒューマノイドロボッ
トとなる.
しかし,WABIAN-2Rでは走行運動を実現することはできない.一般的に,歩行運
動と走行運動の最も大きな違いは,跳躍期の有無であるとされている.歩行運動の場
合は,片脚のみによる立脚期と両脚による立脚期のどちらかであるのに対し,走行運
動の場合は,片脚のみによる立脚期と両脚とも地面から離れている跳躍期に分けられ
る.ただし,これは単純に脚のみを屈伸させるなどして,脚が地面から離れさえすれ
ばいいわけではない.人間の走行中の重心運動に着目すると,立脚期に比べ跳躍期に
は鉛直方向の重心高さが高く,これにより,地面からの反力により跳躍し滞空するだ
けのエネルギーを得ていることが分かる.この跳躍エネルギーを得るためには自重を
超えて地面を蹴り出す必要があるが,人間の走行時の蹴り出し時には,脚の関節は約
3
大谷拓也 博士論文
Table 1. 1 Comparison with humanoid robots related to this reseach
Human
Angular
velocity
deg/s
Torque Nm
Walking[1]
Running[2]
WABIAN-2R
specification
Hip
160
810
390
Knee
270
1300
310
Ankle
660
1000
360
Hip
30
200
56
Knee
11
180
56
Ankle
79
180
24
1000 Wもの大きな出力を発揮している[16].各関節のトルク・角速度をTable 1にまと
める.それに対し,WABIAN-2Rの脚の関節のモータ出力は150 Wであり,大きく差が
ある.また,鉛直方向の床反力についても,歩行時には自重相当の600 N 程度である
のに対し,跳躍後の着地時には大きな衝撃力が発生し,さらに地面を蹴り出すために
2000 Nもの大きさとなり,それに耐えられる機械的剛性も必要となる[17].これらの
他にも,身体の重心配置が人間と異なるなどの問題もあり,これらを解決した上で,
人間の走行時の特徴を模擬する必要がある.
本研究では,走行実現に向けた大きな問題である跳躍力の獲得を,人間の走行時の
特徴である骨盤運動と脚弾性を導入することで可能とした2足走行ロボットの開発
を目指す.
1.3
1.3.1
本研究の目的と意義
本研究の目的
そこで本研究では,人間の走行時の特徴を2足ヒューマノイドロボットにより模擬
することで大きな出力の発揮による走行運動の実現が可能になると考え,人間の走行
運動の模擬が可能な2足ヒューマノイドロボットの開発を目的とする.具体的には,
特に跳躍力の獲得に寄与していると考えられる人間の下半身に見られる特徴を模擬
し,また身体各部のサイズや質量分布なども人間と同等にすることで,人間の運動時
のダイナミクスを利用する.また,この研究ののち,上半身も含めた全身ヒューマノ
イドロボットにおける走行運動にも拡張できるよう,研究を進める(Fig. 1. 1).
4
第 1 章 序論
Fig. 1. 1 Roadmap of this research
1.3.2
本研究の意義
本研究の成果は,2足ヒューマノイドロボットの実用化に向けて運動能力を飛躍的
に向上させる技術となるものである.また,本研究を応用し人間のような走行が可能
な2足ヒューマノイドロボットを開発出来れば,人間らしい運動と人間らしくない運
動を容易に比較できるため,人間の歩行・走行運動の研究の一助となる.さらには歩
行・走行時の姿勢の影響や靴の定量的な評価手法としてのロボットの利用や,開発し
た機構を歩行と走行の兼用が可能な義足への応用のように,ロボット工学のみならず
スポーツ科学やリハビリテーションなどの様々な用途が広がると期待できる.
1.4
関連研究
本研究に関連する2足歩行ロボット,2足走行ロボット,4足走行ロボットについ
て,以下にまとめる.
5
大谷拓也 博士論文
1.4.1
2足歩行ロボット
独立行政法人 産業技術総合研究所は,川田工業株式会社,株式会社安川電機,清
水建設株式会社と共同で,HRP-2P,HRP-2 を開発した.HRP-2 は,人間と共同で机
の持ち運び作業や,仰向けの状態からの起き上がり等を実現している.さらに,川田
工業株式会社,川崎重工業株式会社と共同で,防塵・防滴機能を備え、実環境で働く
人間型ロボット HRP-3P および HRP-3 Promet Mk-II を開発した.HRP-3[18]は HRP-2P,
HRP-2 の研究を受け継ぎつつ,屋外での活用をも視野に入れ,降雨を模したシャワー
の中での動作が可能である.また,滑らかな歩容生成と滑り検出技術とそのフィード
バックによって、低摩擦路面での歩行も実現している.さらに,2009 年 3 月には,人
間に近い外観を持つ女性型2足ヒューマノイドロボットである HRP-4C[19]を開発し,
そのリアルな表情を活かしてイベントにおけるデモンストレーションなどを発表し
ている.HRP-4 は,これまでの HRP シリーズの技術を継承し,身長 151 cm,体重 39 kg
で全 34 自由度構成である.ロボットの安全要求に配慮して、すべての関節軸に 80 W
以下のモータを採用するなど、働く人間型ロボット研究開発用プラットフォームとし
て開発された.
また,海外でも,ドイツ・ミュンヘン工科大学の Johnnie や LOLA,ドイツ・ハノ
ーバー大学の BARt-UH や LISA,ベルギー・ブリュッセル自由大学の Lucy,国内の
みならず世界的にもヒューマノイドロボットが注目を集めている.
1.4.2
2足走行ロボット
Raibert らは,最も早く2足走行ロボットの開発に成功したと言える[20].軽量なボ
ディに,直動脚を組み合わせた機体により走行を実現し,1脚,2脚,4脚など,様々
な移動形態にも応用されている.ヒューマノイドロボットとしては,本田技研工業株
式会社は P1,P2,P3 を経て ASIMO を開発した[21, 22].ASIMO は安定した歩行動作
や 9km/h の走行運動[23]や,旋回走行運動,階段昇降のみならず,視覚によるジェス
チャー認識や,コミュニケーション能力も備えた世界最先端のヒューマノイドロボッ
トのひとつである.
トヨタ自動車株式会社ではパートナーロボットのひとつとして2足歩行型ロボッ
トを開発し[24],トランペットやバイオリンの演奏や 7km/h での走行運動のデモンス
トレーションなどを発表している[25].
また,Grizzle らは,MABEL という2足走行ロボットを開発している.このロボッ
トは,脚に弾性を持たせることで高出力を可能とし,横方向の拘束はあるものの,現
在2足ロボットの中では最速となる 11 km/h での走行を実現している[26, 27].
その他にもさまざまなロボットが開発されている(Table 1. 2)[28-32].
6
第 1 章 序論
Table 1. 2 Comparison with humanoid robots related to this research
TOYOTA
2009
TOYOTA
ASIMO
2011
HONDA
HRP-2LR
2003-2004
産総研
Athlete
Robot
2010
東大
KenKen
2002
東工大
Scarl ETH
2011
ETH
planer biped
1985
MIT
2足
2足
人間形
2足
人間形
2足
2足
1本足
1本足
2本足
DCブラシレス
モータ
モータ
モータ
モータ
空気圧
油圧
モータ
SEA(ばね)
油圧
面接地
0 DoF
面接地
(爪先)
1DoF(爪先)
面接地
2 DoF
面接地
1 DoF
点接地
0 DoF
点接地
(爪先)
点接地
0 DoF
点接地
0 DoF
弾性体(胴体)
制御
力 フィード
フォワード
制御
足部緩衝材
コンプライア
ンス制御
分解運動量
制御
弾性体(脚)で
エネルギーを
吸収・放出
油圧(脚)
SEA(ばね)
空気圧(脚)
ジャイロ
6軸無し
床面センサ
ジャイロ・加
速度計(胴
体)
センサ(足)
センサ(足部)
IMU(胴体)
詳細不明
詳細不明
ジャイロ
タコメータ
ポテンショメータ
有
(y軸方向)
無
無
無
無
有
有
(z軸以外)
有
(y軸方向)
歩行
走行(3.06m/s)
段差乗り越え
(23cm)
静止
走行
(7.0km/h)
静止
歩行
走行
(9.0km/h)
様々な動作
静止
歩行
走行
走行
(5歩のみ,
カタパルト
使用)
ホッピング
ホッピング
走行
(4.3 m/s)
MABEL
2008-2012
ミシガン大
カーネギーメロン大
形態
アクチュ
エータ
足部構
造
衝撃吸
収
足部全面触覚
センサ
軸の
拘束
実現
動作
1.4.3
4 足歩行・走行ロボット
これまでの2足歩行ロボットにおいては,特に制御に関して,片脚による立脚時
に支持面が小さくなってしまうことが根本的な課題であった.一方,4足やそれ以上
の多脚ロボットでは,常に複数の脚により地面と接地することで広い支持底面を確保
できるため,比較すると容易に安定することが出来る.このため,制御系が大きく異
なることから関連させることは少なかったが,本研究のように走行を視野に入れると,
本質的には同等のモデルを用いており,また大出力を必要とするという点など共通点
が多いため,これらについても関連研究としてまとめておく.
第一に挙げるべきは,前述したとおり,Raibert らによる4足ロボットであろう.こ
7
大谷拓也 博士論文
のロボットでは,1脚,2脚,4脚のロボットを同じ原理に基づいて制御を行い,歩
行や走行を実現している.それ以後,4脚ロボットの開発はさまざまに行われるが,
大きな話題となったのは,BostonDynamics による BigDog である[33].Raibert らが前
述の研究を発展させ,油圧駆動によるパワフルな脚を持ち,さまざまな路面での高い
安定性をアピールした.同様に油圧駆動を採用している4足ロボットとして IIT の
HyQ が挙げられる[34].こちらでは,4足動物を参考に脚の反射制御などを取り入れ
るなどしている.このような油圧駆動をベースとした研究に対し,主に4足動物の走
行模擬を目的とした研究も最近行われている.MIT のチーターロボットは,チーター
の走行を模擬することを目的に,軽量な脚や独自に開発した高出力モータなどを用い
て走行を実現している[35].この他にも,4足哺乳類の運動原理を解明するため,小
型のロボットを用いた研究もいくつか行われている[36, 37].
1.5
本論文の構成
本論文は,2 足走行ロボットの開発を軸として,以下に示す 6 章から構成されてい
る.まず,本章では,前述の通り序論として本研究の研究背景と目的,またその意義
と関連研究の動向について述べた.
第 2 章では,人体運動計測に基づき骨盤を考慮した新たな走行モデル SLIP2 を開発
し,骨盤の揺動が跳躍力の獲得に寄与することを示す.第 3 章では,上記 SLIP2 モデ
ルを用いた走行制御について述べる.具体的には,共振運動を利用した骨盤揺動によ
り跳躍力を獲得し,着地位置を変更することで走行速度を変更するものである.第 4
章では,人間の骨盤および脚弾性を模擬した2足走行ロボットを開発した.第 5 章で
は,開発した2足走行ロボットと走行制御を用いることにより,人間の骨盤揺動や脚
弾性を模擬した走行を実現した.最後に,第 6 章では,これらの研究成果を総括し,
本研究によって得られた知見をまとめ,本研究の将来性について示す.
以上,本論文の構成を Fig. 1. 2 に示す.
8
第 1 章 序論
第1章
序論
第2章
骨盤と脚弾性を有する走行モデルの開発
第3章
走行制御法の開発
第4章
2足走行ロボットの開発
第5章
2足走行運動の実現
第6章
結論
Fig. 1. 2 Configuration of this thesis
9
大谷拓也 博士論文
10
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
第2章
骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモ
デルの構築
2.1
2.1
はじめに
2.2
人間の走行研究調査
2.3
人体運動計測に基づく骨盤揺動解析
2.4
走行モデル SLIP2 の構築
2.5
シミュレーションによる提案モデルの検証
2.6
まとめ
はじめに
第 1 章では序論として,人間の走行運動を模擬することの重要性およびそれを実
現するための基本構想,本研究の目的やその意義について述べた.しかし,人間の
走行運動を模擬すると言っても,走行運動にとって重要な特徴を正確に捉える必要
がある.
本章では,これまでの先行研究において示唆されている人間の走行運動の特徴を
まとめ,様々な特徴の中でも走行運動を実現するために重要な跳躍力獲得に寄与す
るものを明らかにする.さらに,我々が行った骨盤揺動解析により,骨盤揺動が走
行時の地面の蹴りに貢献していることについて報告する.その結果に基づき,骨盤
と脚弾性を模擬した走行モデル SLIP2 モデルを提案する.次に,本モデルの有効性
を検証するために跳躍シミュレーションを行い,その結果について報告し,それに
関する考察を述べる.
以上より,次章より述べる走行制御および走行ロボットハードウェアの前提とし
て,走行運動を模擬するに当たって対象とするべき特徴の抽出および走行モデルの
構築,シミュレーションによるそのモデルの有効性の検証を本章の目的とする.
11
大谷拓也 博士論文
2.2
人間の走行研究調査
2.2.1
歩行運動と走行運動の違い
これまで模擬してきた歩行運動に比べ,人間の走行運動は現行のWABIAN-2で模
擬するには難しい点が多い.ここでまず,人間の歩行運動と走行運動の違いを改め
て整理すると主に以下のものが挙げられる.
A) 跳躍期(両脚とも地面に接していない期間)がある[38]
B) 着地衝撃が自重の3倍程度になる[39]
C) 関節出力が歩行時の10倍程度になる[40]
D) 腱のエネルギー蓄積を利用している[41]
E) 立脚期の脚が直動ばねのように伸縮する[42]
F) 立脚期の膝関節や足関節が回転ばねのように振る舞う[43]
G) 上体の動作により慣性モーメントを補償する[44, 45]
H) 上肢の振り動作を用いて慣性力を補償し,さらに加速を行う[46]
I)
速度に応じて各動作が変化する[47]
1章でも述べたように,一般的に,歩行運動と走行運動の最も大きな違いは,跳躍
期の有無であるとされている.歩行運動の場合は,片脚のみによる立脚期と両脚に
よる立脚期のどちらかであるのに対し,走行運動の場合は,片脚のみによる立脚期
と両脚とも地面から離れている跳躍期に分けられる.
しかし,WABIAN-2Rのような現状のヒューマノイドロボットでは,そもそも人
間の走行運動の一番の特徴である,跳躍を行うことも困難である.そこで,本研究
では,数多くの人間の特徴の中でも,特に跳躍力を得ることに寄与している特徴の
模擬を中心に進めることとする.上記特徴の中で,跳躍に寄与している特徴として
は,脚のばね性である.人間の走行時には,立脚がばねのように伸縮動作をしてい
ることが言われている.また,この脚のばね性は,脚全体だけではなく,膝や足関
節それぞれにおいても,回転ばねのような挙動が見られ,これらが組み合わされ脚
としてばねのように動作している.この特徴は,ロボットにも取り入れるべきもの
であると考えられるため,本研究では,この特徴に基づき,関節弾性の模擬を進め
る.
しかし,人間の運動解析に置いては,脚の挙動は様々な面から解析されているもの
の,同様に下半身である腰部・骨盤部の解析はあまり行われていなかった.これま
でに言われているのは,Yaw軸における骨盤旋回動作である.歩行時,走行時とも
12
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
骨盤Yaw軸の旋回運動は確認でき,これは足の振出時のYaw軸モーメントを補償し
ていると考えられている.しかし,歩行時と走行時では旋回パターンが異なる.体
幹部と骨盤部の旋回運動を見ると,歩行時はこれらが逆位相で起こっており,モー
メント補償と考えやすい.しかし,走行時には走行速度が上がるにつれて同位相に
近づいていく[48].つまり,歩行時には全身がねじれているが,走行時にはねじれ
が無くなっていくのである.これは,走行時の下肢の運動によるモーメントがねじ
れによる補償だけでは間に合わず腕の振りなどにより補償している,もしくは脚の
ねじれによりそれを補償している,常に上体を正面に向けているのではないなどが
考えられる.しかし,なぜ歩行と走行で異なる動作をする必要があるかについては
示唆されていない.本研究の一要素として,この旋回動作についても検証し,本章
の考察部で論じる.
上記のように,骨盤部の旋回動作についてはこれまでにも着目されているものの,
それ以外の向きの運動については,走行運動への寄与は示唆されていなかった.そ
こで,次節のように人体計測を行い,走行時の骨盤運動,特にRoll方向での運動に
ついて検証を行った.
13
大谷拓也 博士論文
2.3
2.3.1
人体運動計測に基づく骨盤揺動解析
実験目的
ここで,本研究において着目した人間の走行時の骨盤揺動の寄与について検証
するための人体運動計測を行った.
具体的には,人間が走行した際の骨盤部の揺動をモーションキャプチャシステ
ムによって計測し,どのような運動が行われているかを検証した.
2.3.2
実験条件
本実験の被験者は,早稲田大学スポーツ科学学術院所属の,スポーツ競技者 7
名である(男性, 身長: 1724 ± 36 mm, 体重: 64 ± 6 kg).各被験者に,運動に影響する
障害などはなく,事前に実験方法などについて十分に説明しており,早稲田大学の
倫理委員会にも申請している.
その他には以下の実験条件を設定している.
A) マーカ測定周波数:240 Hz
B) 床反力測定周波数:2400 Hz
2.3.3
実験方法
8 台のカメラによる測定区間を設け(Motion Analysis Corp., Santa Rosa, CA),被験
者の身体に計測用マーカを貼り付け,実験条件の走行速度での走行計測を各 5 回ず
つ行い,得られたデータを元に,各被験者の身体各部の動きおよび着地時の床反力
を算出した.
測定前に,各被験者が床反力計に自然に着地できるよう,何度か予備走行を行
う.走行速度については,測定区間の通過時間をフォトインタラプタにより計測し
ており,そこから算出した走行速度が指示したものと 5%以上離れている場合,再
計測を行った.
2.3.4
14
実験結果
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
θpelvis
deg
8
6
4
2
θpelvis
Z
X
Y
Pelvic rotation
0
40
20
-2 0
60
80
100
-4
-6
-8
-10
HS
SL
Stance
Fig. 2. 1
HS
TO
Swing
Running cycle %
Human pelvic rotation in the frontal plane during running
走行時の前額面における骨盤揺動運動の様子を Fig. 2. 1 に示す.ここで,骨盤が
水平になっている状態を 0 deg とする.まず,踵接地時には 0.7 deg と遊脚側が下
降している状態であり,その後足底接地まで遊脚側がさらに下降するように骨盤が
回転して 3.0 deg に至る.その後爪先離地に向けて,遊脚が上昇するように回転し,
爪先離地時には-5.3 deg に至る.このように着地から離地にかけて,骨盤は一度遊
脚を下降させるように回転した後,遊脚を上昇させるように回転している.これよ
り,人間は骨盤を回転させることで着地衝撃吸収および蹴り出しの力の補助を行っ
ているという仮説を立てた.
2.3.5 考察
この運動を正弦運動とみなした場合の固有周期と,重心の上下動の固有周期を
計算すると,それぞれ,0.30 ± 0.03 sec,0.29 ± 0.03 sec となった.これより,骨盤
揺動は正弦運動として,重心の振動周期に非常に近いため,共振運動を起こすこと
に大きく影響していることが推測される.人間の走行モデルである SLIP モデルな
どにおいても,人間は共振運動を巧みに用いていることが示唆されているが,この
15
大谷拓也 博士論文
結果により,骨盤揺動も共振を巧みに起こすことで,着地時の回転が着地衝撃の吸
収に,その後の回転が蹴り出しの補助に寄与していると考えられる.
また,共振運動として考えた場合,重要な要素としては,振幅,周波数,位相
の 3 つが挙げられる.振幅については,その大きさにより重心運動の影響が変化す
るものであると考えられ,周波数については,前述のように重心運動に近いため,
効率的に共振運動を起こしていると考えられる.さらに,位相については,重心運
動は,着地後沈み込み,その後上昇し離地するという挙動を示すのに対し,骨盤揺
動は,着地後すぐにピークに達し,逆方向に回転し,立脚を地面に押し付ける向き
のピーク時に離地するように回転している.これにより,位相はずれていることが
分かるが,これも影響していると考えられる.周波数があっているとしても,位相
が逆であれば,共振運動を大きくするのではなく,逆に小さくするように影響して
しまうからである.そこで,この位相の影響に関しては,後述するシミュレーショ
ンにより,さらに検証することとした.
以上より,人体運動計測に基づいた走行時の前額面における骨盤揺動の貢献の
可能性を示した.この特徴はこれまでの先行研究では示唆されていなかったもので
あるが,走行運動に寄与している特徴であり,ヒューマノイドロボットへの応用に
より,運動能力の向上が期待できる.さらには,人間の走行時にも,骨盤揺動に着
目することで競技能力の向上を見込めるものである.
2.4
走行モデル SLIP2 の構築
2.4.1 既存のばね質点モデル
これまでの歩行制御には倒立振子モデルが用いられることが多かった(Fig. 2. 2)
[49, 50].しかし,走行制御には跳躍期が存在するため,単なる倒立振子ではなく,
質点とばねからなるばね質点モデル Spring loaded inverted pendulum (SLIP) が用い
られる(Fig. 2. 3).これは,人間の走行時の重心の鉛直方向の動きおよび床反力の
鉛直成分の関係が次式であらわされるためである(Fig. 2. 4)[51].
ma  kz
16
(2.1)
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
ここで,m は重心質量,k は仮想脚ばね定数, a は重心加速度である.このばね質点
モデルは,人間の走行運動を非常に単純なモデルにしているが,走行運動時と非常
Fig. 2. 2 Inverted pendulum model
Z
X
Fig. 2. 3
Spring loaded inverted pendulum model
6
4
4
av
z
3
2
2
1
0
-2
0
-1
-4
-6
tc
ta
-8
-2
-3
-4
走行 18.0km/h
Fig. 2. 4
重心加速度 av [g]
重心高さ変位 z[cm]
8
k
CoM movement and ground reaction force
17
大谷拓也 博士論文
に近いことから数多くの研究で用いられているものである.これを元に,モデルで
のばねにあたるものとしての脚のばね的挙動が示唆される.実際,人間の脚には筋
肉や腱など構造的弾性を有する部分が多くあるが,それだけでなく脊髄での制御系
下部における反射運動なども含めて全体の挙動として,脚がばねのようにふるまっ
ているのである.ここで注意しなければならないのは,モデルにおいては理想的な
減衰のないばねでモデル化されているが,実際には必ず減衰が存在する.着地時に
は衝突によりエネルギーが失われ,また路面自体も理想的な剛体床ではなく減衰項
を有している.すなわち,理想的なばねは収縮時に弾性エネルギーを蓄積しそのエ
ネルギーで伸長するが,脚はその挙動がばねのようであるだけで,伸展時のエネル
ギーおよび衝突や減衰により失われたエネルギーの多くを新たに供給している(も
ちろん腱などには全体の 10%程度のエネルギーが蓄積されている).本来あるはず
のエネルギー供給要素(筋の伸展)を減衰のあるばねと組み合わせることで,エネ
ルギー保存はされないものの挙動としては理想的なばねとみなせる,ということで
ある.
また,上記の脚のばね性は走行速度の変化による走行周期の変化に合わせて変化
しており,ばね質点モデルとした場合の固有振動数とも合致しており,人間が速度
変化時に脚のばね性を変化させることで,周期の変化に対応していると考えられる.
2.4.2 骨盤ばね質点モデル
前述したとおり,ばね質点モデルは人間の走行をもっとも簡単に的確な表現した
モデルであるが,そのばね部には減衰のあるばねとエネルギー供給源としてのアク
チュエータがまとめられている.これまでの研究では,このアクチュエータとして
脚の筋を想定したもののみであった.ここで,ばね質点モデルと人間の構造を再度
比較してみると,人間の構造には質量としての上体,骨盤,そして脚があることが
分かる.骨盤が上体と脚の間にあるため,骨盤動作はばね質点モデルに必ず影響を
与えるはずである.運動していなければ単なるリンクとして上体の一部とみなせる
が,運動していればばね質点モデルの「ばね」の一部として組み込まれるべきであ
る.前述の走行時の骨盤動作を見ると正弦運動をしており,これはばね質点モデル
での共振運動に大きな影響を与える.この動作から,以下の 3 つの仮説を立てた.
・着地時には骨盤 Roll の回転により衝撃吸収を行っている
・地面を蹴り出す際に骨盤を下方に回転させることで補助をしている
18
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
・上記の運動が正弦的に行われており,共振により脚のばね性を活用している
つまり,骨盤がばね質点モデルに対して力を印加する励振部として機能しているの
ではないかということである.骨盤が動作していることから,骨盤および脚を合わ
せて理想的なばねとみなすとして,その中にはばね要素とアクチュエータが含まれ
る.当然脚にアクチュエータ要素があることも考えられるが,骨盤部を駆動してい
るものは腸腰筋などの体幹筋群であり,これらにはハード的ばね要素はほとんどな
い.よって,脚の正確なモデルとしてのアクチュエータおよびばね,骨盤のモデル
として,ばねのように動作するアクチュエータというモデル化ができると考えられ
る.骨盤が正弦運動をしているとすれば,それは系全体からみるとエネルギーの供
給源であるため,脚を理想的なばねとみなすための脚のアクチュエータによるエネ
ルギー供給が不十分として,より簡単のために脚を単一のばねとしてモデル化する.
上記により,本研究において新たに考案した骨盤ばね質点モデルは,骨盤の前額
面の回転動作がばね質点モデルにおける直動変位源 l p (t ) として組み込まれている
(Fig. 2. 5).このモデルにおける運動方程式を以下に示す.ここで,m は重心質量,
k は脚ばね定数,z(t)は重心鉛直方向変位, l p (t ) は骨盤揺動を垂直変異原とみなし
た際の変位, l k (0) は着地時の脚ばね長である.
mz(t )  k ( z(t )  l p (t )  l k (0))  mg  0
(2.2)
ここでは簡単のために,脚が常に地面に対し垂直であるとして数式に組み込んでい
るが,垂直でない場合についても計算は可能である.この骨盤ばね質点跳躍モデル
はその場での鉛直方向への跳躍のみを考慮したものであるが,このモデルに股関節
Pitch 軸の駆動を加えることで走行モデルとする(Fig. 2. 6).ここでは簡単のため
X-Z 平面内における走行運動を考える.前方(X 方向)への移動のためには,X 軸,
Z 軸,Pitch 軸の運動を考慮する必要があるが,股関節 Pitch 軸の運動により着地位
置を制御し,さらに Pitch 方向のモーメントを制御することができる.これは,X
軸,Pitch 軸の運動を,そのまま,Y 軸,Roll 軸にも拡張できるためである.
19
大谷拓也 博士論文
m
l pw
ls
 pelvis (t )
Z m (t ) l p (t )
lk (t )
k
Z
Z f (t )
Y
Fig. 2. 5 Spring-mass model with pelvis joint (SLIP2)
R
P R
Z
P
R
Y
X
:active
:passive
Fig. 2. 6 Spring-mass model with pelvis and leg joints
2.5
2.5.1
シミュレーションによる提案モデルの検証
実験目的
ここで,前述の骨盤ばね質点モデルの検証及び次章以降の走行制御の検証およ
び開発の補助のために動力学シミュレータ MapleSim を用いたシミュレーション環
境を構築し,シミュレーションを行った.具体的には,ロボットモデルが立脚時に
骨盤揺動を行った場合の跳躍運動の検証及び,落下時に骨盤揺動の位相が異なるケ
ースについてどのような影響があるかをシミュレーションにより確認した.
20
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
2.5.2
動力学シミュレータ
ロボットモデルによるシミュレーションを検討した際,いくつかの手段が考えら
れる.
A) MATLAB などの計算ソフトによるモデル作成および動力学計算
B) MapleSim
C) OpenHRP
D) ODE 系のシミュレータ(GAZEBO, WeBots など)
本年度においては,基礎的な部分からモデルを構築,検証していくことが求められ
たため,複雑なモデル系だけではなく,簡単なモデルも作成・検証できる必要があ
る.また,本研究と並行して下半身ロボットを開発し,初期段階から可能な限り実
機に近いモデルを作成・検証することでロボット開発の際の設計仕様の検討などを
行う必要があった.さらに,今後も継続していくために誰でも容易に使用できるこ
とも求められる.これらを満たすものとして,動力学シミュレータ MapleSim を用
いた.
MapleSim は,数値計算ソフト「Maple」を元に,さらに力学,動力学的なモデル
化およびそのシミュレーションを簡便に行えるようにしたものである.モデル化に
ついては,様々な工学分野を想定した「コンポーネント」を組み合わせることで,
モデルを作成することができる.つまり,実際にロボットを構築していくのと同様
にモデルを作成することができ,さらに制御系も数式コンポーネントの組み合わせ
により構築できる.加えて,データの入出力の容易さやシミュレーション結果を動
画でも確認できるため,「動作そのもの」の自然さも確認しながら検証を進められ
る.
2.5.3
実験条件
以下の 2 通りの実験条件を設定し,後述の実験方法に従い,シミュレーション
を行う.
(a) 立脚状態から骨盤揺動による跳躍を行う場合
製作した SLIP2 モデルを用いて,片脚で立脚した状態でシミュレーション開始後,
1 秒経過した時点で骨盤振動を開始する.
21
大谷拓也 博士論文
(b) 落下時に異なる位相の骨盤揺動を行う場合
SLIP2 モデルにより,重心の鉛直方向の移動に対する骨盤の回転運動の位相の違
いの影響を検証した.位相については,骨盤の制御式において,φ=0, π, -πのそ
れぞれの場合について 0.1 m の高さから落下させ,着地した後再び跳躍する場合の
シミュレーションを行った.
2.5.4
実験方法
Table 2.1 のようにパラメータを設定し,SLIP2 モデルによる跳躍シミュレーショ
ンを行った.本シミュレーションにおいては,脚を直動ばねとしてモデル化した.
また,鉛直運動を検証するため,Y 方向および Roll 方向には回転しないよう拘束
している.
実験(a)では,開始後 1 秒経過した時点で骨盤振動制御を開始する.また,
実験(b)では,開始時には地面より脚先が 0.1 m の高さから落下し,着地後,骨盤揺
動を行い,再び跳躍するまでシミュレーションを行った.それぞれの場合について,
前述の実験条件に基づき,その結果をグラフ化した.
2.5.5
実験結果
(a) 立脚状態から骨盤揺動による跳躍を行う場合
Fig. 2. 7 は本シミュレーションでの重心高さを示すグラフであり,Fig. 2. 8 は本
シミュレーション時の様子である.グラフの横軸は時間 sec,縦軸は重心高さ m を
示す.
実験結果より,脚ばねが自然長である場合の重心高さが 1.0 m であるため,跳躍
高さは 0.04 m を超える.これにより重心の鉛直方向の振動が増大し,立位状態か
らの跳躍運動を実現した.
Table 2. 1 Simulation parameters
Parameters
Mass weight
Distance from mass to pelvis
50
m
0.1
Pelvis width
m
0.2
Leg length
m
0.9
Leg stiffness
Pelvic rotation amplitude
22
kg
kN/m
16
deg
5.0
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
Fig. 2. 7 Mass height in hopping simulation
Fig. 2. 8 Hopping simulation using pelvic movement
23
大谷拓也 博士論文
(b) 落下時に異なる位相の骨盤揺動を行う場合
Fig. 2. 9 は本シミュレーションでの重心高さを示すグラフであり,Fig. 2. 10 は本
シミュレーション時の様子である.グラフの横軸は時間 sec,縦軸は重心高さ m を
示す.
実験結果より,骨盤を揺動させず脚の弾性のみで跳躍した場合に対し,骨盤揺動
を重心鉛直運動と同位相で行った場合には跳躍高さが増大し,骨盤運動を逆位相で
行った場合には,跳躍高さが減少した.
2.5.6 考察
ここで,上記のシミュレーションによる実験結果を基に考察を述べる.
初めに,立脚状態からの跳躍について考察する.
実験結果より,立脚状態から骨盤揺動を行うことで跳躍が可能であることが分
かったが,これは,骨盤揺動が走行運動にとって重要であることを示唆している.
しかし,これはあくまでも単なる跳躍を目的としたものであり,実際に人間が跳躍
あるいは走行を始める際に複数回の振動を行っているわけではない.人間の跳躍や
走り始めの挙動が,”Counter movement”として,沈み込んだ後跳躍するというばね
性を利用した運動であることはこれまで示唆されているが,このためには,脚,特
に膝関節を能動的に大きく屈伸させることも重要である[52].このため,SLIP2 モ
デルは SLIP モデルと同様,定常走行時には適用できるが,走り初めにはこれに脚
の能動自由度を考慮する必要がある.第 4 章における走行ロボットハードウェアの
開発時には,これも考慮し膝関節を開発した.
次に,骨盤揺動の振幅および共振周期の影響に対して考察する.
本実験において,振幅や周期を変更した場合についても検証した.どちらも,
本実験時のパラメータでなければ跳躍が出来ないわけではなく,ある程度の範囲で,
跳躍が確認できた.これは,本シミュレーションにおける床モデルの影響であると
考えられる.一般的に,共振モデルにおいて粘性がない場合は,共振点に非常に近
い場合にのみ共振振幅が無限大に近く大きくなるが,粘性がある場合には,そこま
で大きくならず,また共振点近傍の比較的広い範囲で振幅の増大が見られる.本シ
ミュレーションでは,床面のモデルとして一般的な硬い路面を想定し,粘弾性モデ
ルとした.この路面の粘性により,SLIP2 モデルと床面モデルを合わせた系として
粘弾性モデルとしての挙動を示したものと考えられる.実環境においても,床面は
粘弾性モデルであり,またロボットに関しても粘性を排除することはできない.第
4 章で述べるロボットハードウェア開発時には,ハードウェアの粘性要素(バック
ラッシュやガタなど)を低減するよう考慮しているが,最終的には実機を用いたパ
24
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
1
Mass height m
0.9
0.8
0.7
A=0
0.6
φ=π
φ=0
0.5
0
0.1
0.2
0.3
0.4
Time s
0.5
0.6
0.7
Fig. 2. 9 Mass height in falling and jumping simulation
Fig. 2. 10 Falling and jumping simulation using pelvic movement
25
大谷拓也 博士論文
ラメータ調整を行っている.
これを別の視点から考えると,人間は床面の弾性に応じて,自身の脚弾性を変
化させていることが言われている[53, 54].このように,ヒューマノイドロボット
においても,実際の実験時のデータから最適な脚弾性を求めるようなアルゴリズム
の実装が,幅広い環境での走行のためには必要であると考えられる.
さらに,骨盤揺動の位相の影響に対して考察する.
上記実験結果より,骨盤揺動の位相が重心鉛直運動の位相に対してずれている
かどうかで,跳躍高さが異なることが分かる.本実験では,重心運動との位相ずれ
がない場合には,骨盤揺動をさせない場合に比べ跳躍高さが増大しており,逆位相
になっている場合には,跳躍高さがむしろ減少していることが分かる.これにより,
単に骨盤を動かせばその分高く飛べるわけではなく,共振運動を適切に考慮する必
Fig. 2. 11 Vertical acceleration in falling and jumping simulation
26
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
要があることが示唆された.
ここでさらに,落下時の骨盤揺動の位相を細かく変化させた場合についても検
証してみる.位相については,骨盤の制御式において,φ=0, 1/8π, 1/4π, 3/8π, 1/2
π のそれぞれの場合について同様のシミュレーションを行った.Fig. 2. 11 に示す
実験結果のように,それぞれの場合の重心の鉛直方向の加速度の最大値は位相のず
れが大きくなるに従って大きくなった.特に,人間の走行時の骨盤運動と同程度の
φ=1/4πの位相差の場合は,φ=1/2πの場合(すなわち着地後骨盤が立脚を上昇
させるように回転させることなく即座に下降させるように運動させた場合)と比較
すると,加速度の最大値が 6%の減少となっている.これより,人間の走行時の前
額面における骨盤の回転運動が地面を蹴る力の補助および着地衝撃吸収に適した
位相であり,寄与していることが示唆された.
ここで,少し視点を変え,人間における骨盤運動の利用の是非について考察す
る.本研究により,上記のように骨盤揺動が走行運動にとって重要であることが示
唆された.これは,人間の走行時に実際に観測されたものであり,力学モデルにお
いてもその有効性を確認できたため,ヒューマノイドロボットの運動だけでなく,
人間の走行時に積極的に取り入れる,すなわち,骨盤揺動の振幅を大きくする,周
期を自身の固有周期に合わせる,位相を調整するなどにより,走行能力の向上が可
能であると考えられる.しかしながら,現在のスポーツコーチングにおいては,腰・
骨盤に関しては,走行時には可能な限り動かさないように指導されているという
[55].これは,腰・骨盤部が,トレーニングすることが難しい部位であり,故障す
る可能性が高い部位の一つであるためである.
しかし,筆者は次のように考える.
そもそも,これまで骨盤の重要性については示唆されておらず,そのため,積
極的にトレーニングされることもなかった.しかし,本研究によりその重要性が示
唆されたため,腰部・体幹部のトレーニング方法を構築し,骨盤揺動を可能とする
ことができれば,走行能力を飛躍的に向上させることができると考えられる.実際,
2015 年現在,人類でも最速の走行が可能なウサイン・ボルト氏は,先天的な背骨
の障害により,通常のスプリンターに比べて骨盤を大きく揺動させていることが人
体運動計測により明らかになっている[56].これにより,骨盤揺動が人間の走行ス
ピード向上につながるのでは,ということが本研究と同時期に示唆されているが,
本研究は,これを力学的に検証したものである.このように,本研究において,ロ
ボット工学的見地から人間の運動を解析することで,新たな特徴を見出すことがで
きたことは,本研究の成果であるだけでなく,今後の新たな学術研究を進める礎と
なると考える.そして,このような新たな走行方法の検証およびトレーニング方法
27
大谷拓也 博士論文
の構築にこそ,本研究で提案する走行ヒューマノイドロボットを用いるができると
考える.ロボットを用いることで,人間の被験者ではけがの可能性のある,しかし
競技能力を向上させられる可能性のある運動を検証することができ,現状のシミュ
レーションでは考慮しきれない衝突問題などの影響も含めて検証することができ
るからである.
2.6
まとめ
本章では,人間の走行運動の模擬に向け,次章より述べる走行制御および走行ロ
ボットハードウェアの前提として,走行運動を模擬するに当たって対象とするべき
特徴の抽出および走行モデルの構築,シミュレーションによるそのモデルの有効性
の検証を目的とした.
まず,走行運動の特徴の抽出のため,人間の走行運動の調査を行い,本研究に置
いて特に注目する人間の立脚の脚弾性および既存の SLIP モデルについて述べた.
さらに,人体計測データから前額面の骨盤運動の着地衝撃吸収や蹴り出す力の補助
への寄与について述べた.これらにより,本研究において特に注目する跳躍力の獲
得に寄与する特徴として,脚弾性と骨盤運動を抽出した.
次に,上記の脚弾性および骨盤の動作を走行運動に取り入れるため,既存の SLIP
モデルに骨盤部を加えた SLIP2 モデルを考案した.
最後に,このモデルを用いた動力学シミュレーションにより跳躍運動を実現した.
また,0.1 m の高さから落下させた場合の着地および跳躍について,人間のような
重心の振動に対して位相がずれた骨盤運動の影響を検証した.その結果,位相のず
れにより,着地衝撃吸収の効果や蹴り出す力の補助への影響が異なることが確認さ
れた.これらにより,脚弾性および骨盤運動を用いることで走行運動のための跳躍
力を獲得できることを確認した.本章で述べた SLIP2 モデルに基づき,第 3 章にお
いて走行制御を構築,第 4 章において走行ロボットハードウェアの開発を進める.
本章で得られた知見を以下にまとめる.
A) 人間の走行運動の特徴について説明(2.2)
B) 跳躍力獲得のための脚弾性の重要性について説明(2.2)
C) 人体運動解析に基づく人間の走行中の骨盤揺動の蹴り出しへの寄与について
28
第 2 章 骨盤と脚弾性を模擬した走行ロボットモデルの構築
説明(2.3)
D) 既存の走行モデルである SLIP モデルおよび骨盤を組み込んだ SLIP2 モデルに
ついて説明(2.4)
E) 骨盤揺動による跳躍の可能性についてシミュレーションにより確認(2.5)
F) 骨盤揺動の位相が跳躍力の獲得に対して影響することをシミュレーションに
て確認(2.5)
29
大谷拓也 博士論文
30
第 3 章 走行制御法の開発
第3章 走行制御法の開発
3.1
はじめに
3.2
全体設計
3.3
骨盤振動制御法
3.4
走行速度制御法
3.5
動力学を用いた床反力推定
3.6
安定化制御法
3.7
床反力推定の検証
3.8
走行シミュレーションによる検証
3.9
まとめ
3.1 はじめに
第 2 章では,走行時の人間の特徴および既存の走行モデルである SLIP モデルにつ
いて説明し,人体運動計測結果から骨盤揺動も跳躍力の獲得に寄与していることを示
した.さらに,上記特徴に基づき,骨盤揺動と脚弾性を持つ SLIP2 モデルを提案し,
シミュレーションにより,骨盤揺動による跳躍が可能であることおよび骨盤揺動の位
相が重心の鉛直運動に影響することを確認した.そこで本章では,脚弾性や骨盤運動
を利用するための走行制御法の開発について述べる.
まず上記モデルに基づいた走行制御の概要について述べる.
次に,走行制御を構成する,骨盤振動制御,走行速度制御,床反力推定,安定化制
御のそれぞれについて説明する.
最後に,提案手法を用いて,シミュレーションにより走行運動の実現性について検
証し,その有効性を示す.
これらにより提案した手法の具体的な説明およびその有効性を示すことを本章の
目的とする.
3.2 全体設計
骨盤による振動励振が可能な骨盤ばね質点走行モデルを用いて,骨盤振動制御,着
31
大谷拓也 博士論文
地位置修正による走行速度制御,上体安定制御から成る走行制御を行う.
Fig. 3. 1 Block diagram of running control
Fig. 3. 2 Control approach
32
第 3 章 走行制御法の開発
制御の概要図を Fig. 3. 1 に示す.それぞれ,骨盤振動制御により跳躍力を獲得し,床
反力推定を用いてその跳躍力を効率よく跳躍に利用し,着地位置変更による走行速度
制御により推進力に変換し,安定化制御により回転方向の安定を行う(Fig. 3. 2).
3.3 骨盤振動制御法
SLIP2 モデルにおいて,立脚中には立脚を圧縮ばねとしてモデル化し,骨盤の前額
面の運動に よる共 振 を利用して ,跳躍 力 を得る (Fig. 3. 3). 立脚中の骨 盤角度
 pelvis _ stance (t stance ) は以下のように制御する.
 pelvis_ stance(tstance )  Asin(tstance   )
(3.1)
ここで, A は骨盤振幅,  は系の固有振動数, tstance は立脚してからの時間,  は重
心の鉛直方向の運動に対する骨盤運動の位相ずれであり,人間の骨盤運動において,
より地面を強く蹴ることに寄与している.また,跳躍後には以下のように,次の着地
に備え骨盤を同じ着地角度に線形補間により回転させる.
 pelvis_stance (0)   pelvis _ off
t flight

Ttransition
 pelvis_flight(t flight )  

 pelvis_stance (0)
for reaching initial angle
for reached
(3.2)
Fig. 3. 3 Spring-mass model with pelvis joint
33
大谷拓也 博士論文
ここで,  pelvis _ off は地面から跳躍した瞬間の骨盤の角度, t flight は跳躍してからの
時間, Ttransitionは補間時間である.
3.4 走行速度制御法
まず,Raibert らによる着地位置修正制御を以下に述べる.Raibert ら[22]は跳躍運動
の実現のため,理想的なばね質点モデルを想定し,これに直動変位源を加えることで,
跳躍を継続できるばね質点モデルを考案した.Raibert らはさらに,このモデルを再現
したホッピングロボットおよびそれを拡張した多脚跳躍・走行ロボットを開発してい
る.前章で示した骨盤ばね質点モデルも,この Raibert らによるモデルが鉛直方向の
運動としては人間のものに非常に近いため,人間も本質的にはこのモデルとして動作
しているとして,このモデルをより人間的な構造で実現するために置き換えたもので
ある.Raibert らは,走行運動のために着地位置を変更することによる走行制御を開発
した.
まず,ばね質点モデルが X 方向に定速移動している場合を考える.簡単なばね質
点モデルとして,脚ばねの角度(股関節 Pitch 軸)のみを制御できるとする.床面と
の接触時などのエネルギーの減衰がないとすれば,エネルギーが保存され永久に跳
躍・走行を継続できる.このモデルが跳躍しながら X 方向に速度 v で移動していると
き,質点部から xf 先の位置に着地するとする.この xf の最適な位置を考える.前述の
とおり,速度 v で定速移動しているとすると,立脚期に重心が移動する距離は,立脚
時間を T として vT で表される.ここで,この vT の中点に着地すると,立脚期の重心
の軌道は重心が足先の真上に来るまでは下降し,その後上昇するという谷の軌道を描
く.着地時から重心軌道の最下点および最下点から離地時までの軌道が対称となるた
め,着地時と離地時で走行速度は変化しない.一方,この位置からずれた箇所に接地
した場合,手前であれば倒れこみ動作による加速,奥であればつっかえることによる
減速が生じる.すなわち,着地位置を変更することにより,走行速度を制御すること
が可能である(Fig. 3. 4).
34
第 3 章 走行制御法の開発
vT
x
x
 hip _ pitch
Z
X
xf
(a) Steady running
x
x  vacc
xf
(b) Acceleration
Fig. 3. 4 Schematic of running velocity control
3.5 動力学を用いた床反力推定
立脚を圧縮ばねとしてモデル化する際,その脚弾性は膝・足関節の関節角度により
変化する.しかし,それらによって床反力の方向も変化し,それが重心を貫かなけれ
ば鉛直方向の跳躍力が減少することになり,また安定した走行も困難になる.そこで,
動力学方程式より着地時の床反力を推定しその床反力が重心を貫く脚の関節角度を
導出することとした.運動方程式は以下のように示される[56].
  H (q, q )  G(q)  J (q) F  ST
M (q)q
(3.3)
ここで, M (q) は慣性項, H (q, q ) は遠心力・コリオリ力に関する関数, G(q) は重力
項, J (q) はヤコビアン,
F は床反力,S
はトルクの変換行列, T は脚の関節トルク,
q は重心の位置と関節角度であり,
q : x; z;body;hip;knee ;ankle 
(3.4)
35
大谷拓也 博士論文
x は重心の前後方向の位置, z は重心の鉛直方向の位置, body は重心の矢状面におけ
る傾き,  hip は股関節角度,  knee は膝関節角度,  ankle は足関節の角度である.また,
上式より床反力は以下のように得られる.

F  J ( q )M ( q )1 J ( q )T

1

J ( q ) 
1
T
 J ( q )M ( q ) S T  H ( q , q )  G( q )  q q 




(3.5)
3.6 安定化制御法
SLIP モデルで着地位置制御を実装する際,重心が回転しないことが前提となって
いる.このため,先行研究[22]でも行われているように,立脚時に機体姿勢に応じて
股関節 Pitch 軸を動かす必要がある.しかし人間の場合,矢状面方向から見て,重心
は股関節 Pitch 軸ではなく,その上部の腰椎部に存在する.現状の機体においても同
じにはなっていないため,機体の Pitch 軸の拘束を外した状態で跳躍運動を行おうと
すると,床反力からのモーメントによって機体が回転してしまう.
実装の方法を以下に記載する.立脚時は,機体が前へ傾いた時,機体の傾いた角度
に応じて股関節 Pitch 軸を後ろへ伸展させる(Fig. 3. 5).立脚時の股関節 Pitch 軸の動
きは以下のようになる.
 hip   stand pitch   standpitch
(3.6)
 :機体姿勢に対するゲイン
 :機体姿勢の角速度に対するゲイン
36
第 3 章 走行制御法の開発
Stand
Y
X
 ankle
 pitch '
 pitch
 hip
 hip
 knee
 ankle
 knee
 hip '
 ankle
 knee
Fig. 3. 5 Schematic of body attitude control
3.7
床反力推定の検証
本章において提案した走行制御の有効性を検証するため,シミュレーションを行っ
た.中でも,床反力推定の有効性の検証と,走行制御の有効性の検証のための走行シ
ミュレーションについて以下に述べる.
多関節脚モデルを用いた床反力推定の有効性を検証するために,後述する2足走行
ロボットを立脚させた時の床反力の値と,シミュレーションでの床反力の値を比較し
た.この際,各関節角度と弾性係数を  hip = 2 deg, knee = 26.8 deg, ankle = 90 deg,K knee
= 220 Nm/rad , K ankle = 500 Nm/rad とした.これは,前もって床反力推定を用いて,
進行方向の床反力が 0 N に近づく条件を求めている.実験時の多関節脚モデルを Fig.
3. 6 に示す.実験結果を Table 3.1 に示す.上下方向,前後方向の床反力とも,推定し
たものと実際の値が非常に近いものであることが分かる.実際に,この状態の走行ロ
ボットを立脚させた場合,点接地であるため立脚し続けることは難しいものの,制御
を行わずとも数秒は立脚することを確認した.本手法を用いない場合には,関節角度
によっては,すぐに大きく傾く場合もあったため,本手法の有効性が確認できた.
37
大谷拓也 博士論文



 

A'       
A'


2

Fz
Fx
Fig. 3. 6 Schematic of the verification of GRF estimator
Table 3. 1 Simulation parameters
3.8
Estimated
Measured
Force in forward direction
N
-5.43
-5.38
Force in vertical direction
N
580
583
走行シミュレーションによる検証
提案した走行制御の有効性の検証のため,前章と同様,動力学シミュレータ
MapleSim を用いて走行シミュレーションを行った.
3.8.1
実験条件
以下の 3 通りの実験条件を設定し,後述の実験方法に従い,シミュレーションを行
う.
Y 方向および Roll 方向において,走行速度制御および姿勢安定化制御の有効性を検
証するため,制御なし,Y 方向走行速度制御のみ,走行速度制御および姿勢制御あり
の 3 条件を比較することとした.
モデルのパラメータは,次章にて述べる走行ロボットと同様,人間に基づき設定し
ている.また,Pitch 方向のみ拘束している.本シミュレーションのパラメータを Table
3.2 にまとめる.
38
第 3 章 走行制御法の開発
P
P
R
P
Y
PR
R
PR
P
P
P
P
Fig. 3. 7 Schematic of the running simulation model
Table 3. 2 Running simulation parameters
Parameters
Mass weight
Distance from mass to pelvis
50
m
0.1
Pelvis width
m
0.2
Leg length
m
0.9
Leg stiffness
Pelvic rotation amplitude
3.8.2
kg
kN/m
16
deg
5.0
実験方法
SLIP2 モデルによる跳躍シミュレーションを行った.本シミュレーションにおいて
は,脚を人間と同様,股関節,膝関節,足関節としてモデル化した(Fig. 3. 7).また,
39
大谷拓也 博士論文
骨盤部には Roll 軸を持ち,さらに体幹部に Pitch, Roll, Yaw の 3 自由度を有している.
これらに加え,肩部や腕部にも自由度を有しているが,本シミュレーションでは,上
半身の自由度のうち,体幹 Roll 軸のみ姿勢制御に用いている.実験開始時は,前述の
床反力推定より求めた脚関節初期角度を取り,開始後落下し,着地した瞬間から骨盤
振動制御を開始する.この際,体幹の自由度を用いた姿勢制御も行い,跳躍期に移れ
ば走行速度制御を行うようシミュレーションを行い,前述の実験条件に基づき,その
結果をグラフ化した.
3.8.3
実験結果
Fig. 3. 8 はそのシミュレーションの際の重心の Roll 方向の姿勢を示したものであり,
Fig. 3. 9, Fig. 3. 10, Fig. 3. 11 は本シミュレーション時の様子である.横軸を時間 sec,
縦軸を重心 Roll 姿勢角 rad とし,比較を容易にするため,転倒が発生する 3 sec まで
を示す.
制御なしの場合,着地位置がずれていることにより姿勢も傾いていく.着地位置制
御のみの場合,姿勢を修正する要素がないため,少しずつ Roll 方向の傾きが大きくな
ることが見て取れる.両方の制御を行うことで,Y および Roll 拘束を外した状態での
2
Roll attitude rad
1.5
着地位置・姿勢制御
着地位置制御のみ
姿勢制御のみ
1
0.5
0
0
-0.5
0.5
1
1.5
2
Time s
Fig. 3. 8 Roll attitude of CoM in running simulation
40
2.5
3
第 3 章 走行制御法の開発
Fig. 3. 9 Photos of the running simulation without running velocity control in Y direction
41
大谷拓也 博士論文
Fig. 3. 10 Photos of the running simulation without body attitude control in Roll direction
42
第 3 章 走行制御法の開発
Fig. 3. 11 Photos of the running simulation
43
大谷拓也 博士論文
走行を確認した.
3.8.4
考察
シミュレーション結果を元に,走行制御について考察を行う.
まず,姿勢安定化についてである.走行シミュレーションの結果,Pitch 方向の拘
束がない状態での走行は現状の安定化制御では難しいことが分かった.これは,Pitch
方向には,脚の関節が複数あり,また膝関節・足関節ともに立脚時には弾性を示すた
め,これらを用いても回転モーメントを発生させないように制御する必要がある.こ
のためには,現状の冗長自由度である体幹自由度をさらに効果的に用いることが考え
られる.具体的には,回転モーメントによる角運動量を補償する制御が有効であると
考える.
また,Y 方向,Roll 方向については,拘束がない状態でも走行を実現することがで
きた.これは,先ほどの Pitch 方向の場合と異なり,前額面においては,脚が単純な
直動ばねに近い挙動を示しているからであると考えられる.しかし,本シミュレーシ
ョンにおいて,両脚を交互に用いるのではなく,片脚のみで跳躍を継続する場合につ
いても検証したところ,転倒はしないものの,Y 方向に少しずつずれてしまうことを
確認した.これは,Y 方向の制御として用いている走行速度制御のパラメータ調整に
よって改善することはできるが,Y 方向および Roll 方向のモーメントが,両脚により
交互に逆方向に発生するものであり,その意味で収束しやすいものであると考えられ
る.
3.9
まとめ
本章では,第 2 章で述べた,骨盤揺動と脚弾性を持つ SLIP2 モデルに基づいた走行
制御の開発を目的とした.
走行運動を実現するために,走行運動を鉛直方向,並進方向,回転方向に分け,そ
れぞれに対して,跳躍力を獲得するための骨盤振動制御,推進力を獲得するための着
地位置変更による走行速度制御,回転方向の姿勢安定化制御を構築し,さらに,本研
究の特色でもある,人間のような関節弾性を有する多関節脚における走行運動の実現
のために,動力学モデルを用いた床反力推定を行うこととした.
最後に,提案手法を用いて,シミュレーションにより走行運動の実現性について検
証し,走行運動を確認しその有効性を示した.
44
第 3 章 走行制御法の開発
本章で得られた知見を以下にまとめる.
A)
走行運動を実現するための制御の全体像を説明(3.2)
B)
跳躍力を獲得するための骨盤振動制御の詳細について説明(3.3)
C)
着地位置変更による走行速度制御について説明(3.4)
D)
多関節脚を直動脚と同様に扱うための床反力推定について説明(3.5)
E)
回転方向の安定のための安定化制御について説明(3.6)
F)
制御アルゴリズムの有効性をシミュレーションにて確認(3.8)
45
大谷拓也 博士論文
46
第 4 章 2足走行ロボットの開発
第4章
2足走行ロボットの開発
4.1
はじめに
4.2
基本設計
4.3
2枚の板ばねによる弾性を有する関節構造
4.4
骨盤機構
4.5
全身設計
4.6
実験設備
4.7
評価実験と考察
4.8
まとめ
4.1 はじめに
第 2 章では,骨盤揺動と脚弾性を持つ SLIP2 モデルについて述べ,第 3 章では,そ
のモデルに基づいた走行制御手法について述べた.次に,この走行制御手法を実際に
実現可能なロボットハードウェアを開発する必要がある.
そこで本章では,SLIP2 モデルに基づいた2足走行ロボットハードウェアについて
述べる.まず上記モデルに基づいた2足走行ロボットの概要について述べる.
次に,ハードウェアにおいても特に重要である,膝関節機構および骨盤機構のそれ
ぞれについて説明する.さらに,それらを統合した2足走行ロボットの詳細を述べる.
最後に,開発した走行ロボットを用いて,関節弾性値が人間と同等であるかどうか
および,跳躍運動のための大出力の発揮,大きな床反力に耐えることが可能かを検証
し,その有効性を示す.
これらにより開発した2足走行ロボットの具体的な説明およびその有効性を示す
ことを本章の目的とする.
4.2 基本設計
前章の走行制御により,本研究で開発する2足走行ロボットハードウェアの走行運
動を改めてまとめる.部位ごとに分けると,上半身は安定化制御のため,骨盤部は骨
盤揺動制御により跳躍力を獲得するために必要であり,脚部は,立脚中には膝・足関
47
大谷拓也 博士論文
節において弾性を発揮し,遊脚中や走り始めなどには能動的に屈伸させる必要がある
(Fig. 4. 1).これを考慮し,本章において述べる2足走行ロボットハードウェアの自
由度構成図を Fig. 4. 2 のように定めた.上半身については,大きな質点としてモデル
化した.骨盤部は,Roll 方向に揺動が可能なように Roll 自由度を設け,脚部は,着地
位置を変更する走行速度制御のため,股関節に Pitch および Roll 自由度を設ける.さ
らに,膝関節は弾性発揮と能動屈伸を切り替え両立できるものとし,足関節について
は,弾性発揮の実現を目指す.
Z
X
Transition
Swing
Stance
Fig. 4. 1 Schematic view of human running
R
P R
Z
P
R
Y
X
:active
:passive
Fig. 4. 2 Model of running humanoid robot
4.3 2枚の板ばねによる弾性を有する関節構造
4.3.1
要求仕様
走行運動中の脚の動作に着目すると,地面に着いている立脚期と着いていない遊脚
期の動作に分けることができる.しかし,前述したように定常走行時の立脚期の動作
48
第 4 章 2足走行ロボットの開発
は SLIP2 モデルと見なせるが,走り始めの動作は異なるため膝関節の要求仕様を検討
する際に分けて考える必要がある.
膝関節の走行運動中の動作は,定常走行においては,立脚期には関節の弾性要素に
エネルギーを蓄積しそれを用いて強い蹴り出しを行い,遊脚期には能動的な屈伸によ
りクリアランスを確保する.そして,走り始めでは能動的な蹴り出しにより跳躍力の
獲得に寄与する.走り始めも含めた走行運動に必要なトルク・角速度を Table 4.1 に,
立脚中の関節弾性の要求仕様を Table 4.2 に示す.立脚期のトルクは演者らが行った前
述の走行運動計測データから定めた.また,遊脚期の角速度も同走行運動計測データ
から定め,その時に膝関節が発揮しなければならないトルクを下腿部・足部の慣性モ
ーメントから算出した.走り始めのトルク・角速度については,これまでのロボット
での跳躍実験において跳躍し始める際に膝関節が発揮するトルク・角速度を計測し要
求仕様とした.
Table 4.1 Requirements for knee joint
Transition
Swing
Stance
Torque Nm
29
15
180
Angular velocity rad/s
3.5
6.5
11
Table 4.2 Requirements for joint stiffness
Running
4.3.2
4 m/s
10 m/s
Knee joint stiffness Nm/deg
7
10
Ankle joint stiffness Nm/deg
9
10
高出力実現方法の検討
しかし,上記の要求仕様は既存のヒューマノイドロボットから考えると,実現が難
しいものである.人間の走行中の脚の関節出力は 1000 W 以上であり,既存のロボッ
トの関節出力は 200 W 程度である.これは,より大きな出力のアクチュエータになる
49
大谷拓也 博士論文
ほど,そのサイズ・重量も増大し,ヒューマノイドロボットに搭載することが難しく
なるためである.油圧アクチュエータや水圧アクチュエータを用いているものも見ら
れるが,これらはアクチュエータ駆動用の巨大なポンプなどを機体内に搭載するか,
常に外部から供給する必要がある.しかし,出力の要求仕様を実現するには,人間程
度の重量よりも遥かに重いため搭載は難しい.また,本研究の目的である人間の走行
模擬においては将来的に非常に高速な走行を目指すものであり,その際に外部との接
続は大きな障害になると考えられるため,使用は難しい.
この出力の問題を解決し,さらに人間の特徴である弾性の模擬を行うため,関節に
弾性体を搭載することとした.使用する弾性体としては,圧縮コイルばね,ねじりば
ね,板ばねが考えられた.走行運動中に弾性を調節することを考え,有効長の変更に
より弾性調節が容易な板ばねを用いることにした[57].板ばねを用いた弾性可変機構
の模式図を Fig. 4. 3 に示す.荷重支持ローラは 1 つ目のリンク(Link A)に,板ばね
は回転軸を介してもう 1 つのリンク(Link B)に固定されている.リンク A に外力
が加わると,荷重支持ローラを通じて板ばねに力が加えられ,板ばねが曲がるにした
がってリンク A は回転軸を中心に回転する.荷重支持ローラの位置を変えることで
板ばねの有効長を変え,機構の持つ回転弾性を調節する.理論式は以下のとおりであ
る.
Kj 
3EI bt 3 E

l
4l
(4.1)
ここで, K j は関節の回転弾性, l は板ばね有効長, E は板ばねのヤング率, I は板
ばねの断面二次モーメント, b は板ばね幅, t は板ばね厚さである.
このような板ばねの利用により,人間の関節弾性を模擬し,かつ関節としての大出
力の発揮を行うことが可能となる.しかし,さらに以下の問題が残る.
A) 能動駆動も可能にする必要がある
B) 一般的な鉄の板ばねは大きく,重い
現状の板ばねによる構造だけでは,走り始めや遊脚中に能動的に脚を駆動することが
出来ない.そこで,この機構に加えて能動機構を搭載する必要があるが,板ばねが大
出力を発揮している際に,その力がアクチュエータにもかかってしまうと,アクチュ
エータにも大出力が必要となってしまう.そのため,板ばねの力を使う立脚中には,
アクチュエータをロックする機構を合わせて搭載する.また,一般的な鉄の板ばねを
50
第 4 章 2足走行ロボットの開発
Effective length l
Link B
Rotation center
Roller
Link A
Leaf spring
(a) No load
Load F
Joint torque T
(b) Loaded
Fig. 4. 3 Scheme of the joint stiffness adjustment mechanism
搭載すると,それだけで大きく,重くなってしまうため,人間に近いサイズ・重量と
することが難しくなる.そこで,鉄に代わり,軽量・高強度で知られる Carbon Fiber
Reinforced Plastic(CFRP)製の板ばねを開発し用いることとした.以下,それぞれの
詳細を述べる.
4.3.3
弾性を有する能動関節機構
そこで,関節に弾性要素として 2 枚の板ばねを取り付け板ばねの荷重点を変更する
ことで,人間の可変関節弾性を模擬し,さらに 2 枚の板ばねの間の角度をウォームギ
アとアクチュエータを用いて固定することで,立脚時には板ばねによる関節の回転ば
ね性を利用し着地時の大きな床反力に耐え,遊脚時には駆動することができる高出力
弾性関節機構を開発した.立脚中には板ばね間の角度を固定することで板ばねの屈
曲・伸展により膝関節として回転し,跳躍中にはモータを回転させることで膝を屈伸
させることができる.立脚中には自重を支える大きなトルクが必要となるが,板ばね
51
大谷拓也 博士論文
間の角度を固定するだけでよいため,入力軸からのトルクは伝達するが,出力軸から
入力軸へのトルクは伝達しないウォームギアを利用することとした(Fig. 4. 4 (c)).こ
れにより,板ばねからの反力でウォームホイールが回ろうとしても電磁モータにはト
ルクが伝達されず(Fig. 4. 4 (a)),電磁モータからのトルクはウォームホイールに伝達
し回転させることができる(Fig. 4. 4 (b)).
しかし,一般的なウォームギアでは駆動時のトルク伝達効率が 30%と低く,立脚時
の負荷がかかった状態では膝関節機構のモータ出力を跳躍に用いることができない.
走り始めの能動的な蹴り出しを実現するため,逆駆動時のトルク伝達効率を抑えたま
ま駆動時のトルク伝達効率を高くすることで,膝関節のモータ出力も跳躍力獲得に用
いることとした.これを実現するため,ウォームギアの進み角を大きくすることによ
り,逆駆動性を有してしまうが駆動時のトルク伝達効率も高くなることを利用した.
ウォームギアの進み角  とトルク伝達効率の関係は以下のようになる[58].
1 
tan 
tan(   )
(4.2)
2 
tan( -  )
tan 
(4.3)
ここで,  1 は駆動時のトルク伝達効率,  2 は逆駆動時のトルク伝達効率,  は材質
と回転数で決まる定数とする.これを元に,走り始めの要求仕様が達成できる駆動時
のトルク伝達効率であり,かつ着地時の衝撃をモータの発揮トルクで耐えることがで
きる逆駆動時のトルク伝達効率となる進み角を決定し(Fig. 4. 5),ウォームギアを設
Thigh
Motor
Active axis
Leaf spring
Passive axis
Z
Shank
X
Load point
(a) Stretched
(b) Actively Rotated
(c) Bended by the external torque
Fig. 4. 4 Schematic of the knee mechanism comprising two leaf springs
52
第 4 章 2足走行ロボットの開発
計した(Fig. 4. 6).
さらに足関節については,跳躍中には膝が 60 deg 動くのに対し 6 deg しか動かない
ためクリアランスの確保にはあまり寄与できないが,能動化し重くなることで,股関
節からみた脚の慣性モーメントが非常に大きくなってしまうため,板ばねによる弾性
機構により立脚中の動作のみを模擬することとした.
Efficiency %
60
1
η1

η22
40
20
0
0
General
Developed
5
10
Lead angle deg
15
Fig. 4. 5 Torque transmission efficiency
Upper leaf spring
Worm
Z
X
Y
Lower leaf spring
Worm wheel
Fig. 4. 6 CAD model of the knee mechanism comprising two leaf springs and a
worm gear
53
大谷拓也 博士論文
4.3.4
回転中心のずれの影響
関節の回転中心と板ばねの固定点のずれにより,脚弾性値が想定より大きくなって
いるという問題があったため,本項目ではその影響を検証する.
どの程度影響があるかを計算するために,関節の回転中心と板ばねの固定点のずれ
を座標に置き換える(Fig. 4. 7).O 点は膝関節の回転中心を示し,座標を(0 , 0)と
与える.A 点は板ばねの固定点を示し,座標を(a , b)と与える.B 点は荷重支持点
を示し,座標を(a + L , b)と与える.
初めに,関節の回転中心と板ばねの固定点のずれによりトルクの伝達がどう変わるか
を考える.O 点周りにモーメント M が加わった場合,B 点には,
Fls 
M
aL
(4.4)
Y
Fixed point
( a, b)
Fls
M ls
M
 load
Load point
( a  L, b )
X
O Rotational center
(0,0 )
Fig. 4. 7 Influence of the difference between the rotational center and the fixed
point of the leaf spring
54
第 4 章 2足走行ロボットの開発
の力が発生する. Fls により A 点周りに発生するモーメント M ls とすると,
M ls  LFls
(4.5)
となる.回転中心のずれである a,b が 0 の場合,板ばね周りのモーメント M ls と関節
のモーメント M は同じになる.しかし a > 0,b > 0 の場合は関節のモーメントより板
ばね固定点周りのモーメントが小さくなることが分かる.これにより,実際の関節弾
性値は以下の式により求められる.
K j' 
bt 3 E
4 L2
( a  L) 2  b 2
(4.6)
以上の理由により関節弾性が理論値より大きくなると考えられるため,膝関節の回
転中心と板ばねの固定点のずれを補正して,板ばねを再選定することとした.
さらに,弾性を可変するためには,板ばねの荷重点を移動させる必要がある.1 回
の遊脚期に 4 m/sec の膝関節弾性から 10 m/sec の膝関節弾性に変更するためには,今
回新たに選定した板ばねの組み合わせの場合,1 回の遊脚期(0.4 sec)の間に荷重支
持点を 130 mm 動かす必要がある.また,板ばねがたわむことを考慮すると,荷重支
持点には板ばねから上下方向と前後方向の荷重を受けることとなる.詳しい要求仕様
をまとめると以下のようになる.
・無負荷時に荷重支持点を 0.4 sec に 130 mm 動かす
・上下方向に 10000 N,前後方向に 750 N の荷重を受けても荷重支持点が動かない
荷重支持点を移動させる方法としては,ラックピニオンを用いる方法とボールねじ
を用いる方法を考えた.ラックピニオンを用いた方法の場合,荷重支持部に電磁モー
タを搭載するので荷重支持点を移動する際の慣性モーメントが大きくなってしまう
ため,ボールねじを用いた機構を採用した.
また,前後方向の荷重はボールねじにより回転力に変化するため,その回転力を電
磁ブレーキで受け,上下方向の荷重はリニアガイドにより受ける機構とした(Fig. 4.
8).
55
大谷拓也 博士論文
Adjustable roller
Ball screw
Leaf spring
Linear guide
Motor
Y
Z
X
Electrical Break
Timing pulley
Fig. 4. 8 CAD model of the joint stiffness adjustment mechanism
4.3.5
重ね CFRP 板ばねの開発
上記の機構に必要な重ね CFRP 板ばねを開発した.人間の走行運動をヒューマノイ
ドロボットにより模擬するためには,人間の身体の質量特性を模擬する必要があるが,
一般的な鉄の板ばねは重いため,人間と同等のサイズ・重量の脚とすることが難しく
なってしまう.
そこで,関節機構の軽量化のため,鉄に代わる板ばねとして,炭素繊維強化プラス
チック CFRP による板ばねを用いることとした.CFRP は強度に優れ,鉄の密度が 7.8
g/cm3 であるのに比べ 1.5 g/cm3 と軽量であるため,この特性を利用し,スポーツ義足
などにも用いられている[59-63].しかし,脚内に収まるように小型の板ばねとして用
いる際には,板ばねにかかる応力が大きくなるため,1 枚の CFRP 板ばねでは強度不
足が問題となり,破断してしまう.
そこで,板ばねを 2 枚重ねて搭載することで板ばね 1 枚あたりの応力を低減すること
により,CFRP の使用を可能とした.一般的に重ね板ばねというと,段階的に長さを
変えた板ばねを何枚も重ねることにより各板ばねの応力を均等にしたものである
(Fig. 4. 9).しかし,本機構では関節剛性変更の際に荷重点が大きく移動するため,
長さの異なる板ばねが重なっている場合に荷重点が変わると,重なっている枚数に応
56
第 4 章 2足走行ロボットの開発
(a) No load
(b) Loaded
Fig. 4. 9 Schematic view of laminated leaf spring
じて関節剛性が大きく変化してしまう.そこで本研究では,同じ長さの板ばねを 2 枚
重ねることにより,板ばねの有効長が様々に変化した場合にも 1 枚当たりの応力を低
減し,耐荷重を上げることとした.片持ちとして固定した板ばねの変形において,た
わみ量を  ,有効長を L ,角度変位を  とすると,次の関係が成り立つ
  tan 1  L 
(4.7)
板ばねが 1 枚の場合,上式の板ばねのたわみ量  は,次式の関係から荷重位置 L の 2
乗に比例する.
TL2 4TL2


3EI bt 3 E
(4.8)
ここで, E は板ばねのヤング率, I は断面 2 次モーメント, T は関節にかかる曲げモ
ーメント, b は板ばねの幅, t は厚さである.また,曲げモーメント T が作用してい
るときの板ばねに発生する応力  は次式より求められる.
57
大谷拓也 博士論文

6T
bt 2
(4.9)
これに対し,板ばねを重ねて搭載する場合には,たわみ量,応力とも以下の式より
求められる.

6TL2
nbt'3 E

6T
nbt'2
(4.10)
(4.11)
ここで,t ' は 1 枚の板ばねの厚さ,n は重ねた板ばねの枚数である.この関係式より,
これまでの鉄の板ばねと同等の弾性を有する CFRP 板ばねを製作した.重ねる枚数が
増えるほど 1 枚当たりの応力は減少することになるが,その分たわみ量も減少するた
め,本研究では大きな荷重に耐え,かつ大きなたわみを実現するため重ね板ばねとし
た.鉄の板ばねに比べて厚くなったものの幅・長さに関しては同等となり,重量に関
しては鉄の板ばねが 1 枚 600 g となるのに対し,重ね板ばねは 200 g となった.この
重ね板ばねを 1 関節につき上部と下部に 2 組搭載するため,重量に関しては 1 関節に
つき 1200 g から 400 g へと 800 g の軽量化に成功した(Table 4.3).
4.4 骨盤部設計
上述のモデルを基にした脚ロボットによる跳躍運動のため,可動骨盤部を製作した
Table 4.3 Comparison of leaf springs
Material
SK85
CFRP
Length
mm
250
220
Width
mm
90
70
3.4
8.8*
600
200*
Thickness mm
Mass
g
*laminated
58
第 4 章 2足走行ロボットの開発
(Fig. 4. 10).股関節や骨盤の前額面の揺動のため 5 自由度を有する.各関節の要求仕
様は,前述の人間の走行時のデータを元に決定した.150 W の DC モータ(Maxon Co.,
Ltd.)とタイミングベルト,ハーモニックドライブを用いた駆動機構とした.
Fig. 4. 10 Developed robotic pelvis
4.5 全身設計
上記のように開発した脚関節機構および骨盤部を搭載した2足走行ロボットを開
発した.足部については,人間のように踵接地と爪先接地を実現するため,この 2 点
にゴム製の半球を搭載した(Fig. 4. 11).ゴムの物性が系の運動に影響するため,シ
ョア硬さが異なるものをいくつか購入し,実験的に硬すぎないものを選んだ.これは,
ゴムの弾性や粘性が系に入ることを避けるため硬いものを選ぼうとしたが,硬すぎる
場合,床との接触面が小さくなり摩擦力が小さくなることによるスリップが生じたた
めである.
また,ロボットの系全体の特性を人間に近づけるため,下半身だけでなく,上半身
についても,重量および慣性モーメントを模擬する必要がある.そのため,人間と同
59
大谷拓也 博士論文
等の上半身重量を搭載した(Fig. 4. 12).また,走行ロボットのシステム構成を Fig. 4.
13 に示す.人間と同等のサイズ・重量[64, 65]を実現した.
Toe rubber
Ankle Joint
Z
X Y
Heel rubber
170
1200
Fig. 4. 11 CAD of the developed foot
Z
Y
X
Fig. 4. 12 Bipedal running robot with pelvis and the leg equipped the joint elasticity
60
第 4 章 2足走行ロボットの開発
External PC
Remote
Desktop
Client
Running robot
RS422
PC box
RS232
CPU board
WB4
PCI Backplane Board
Force Sensor
Receiver Board
HRP Interface Board 16ch
Enc Counter A/D D/A I/O
DOF
Photo sensor
Force sensor
Motor driver
Motor
Encoder
Fig. 4. 13 System configuration of the running robot
R
R
P
R
R
P
P
P
Y
P
P
Z
Y
X
Fig. 4. 14 DoF configuration of the running robot and the guide
61
大谷拓也 博士論文
4.6 実験設備
開発したロボットにおいて走行実験を行う際に,走行には大きなスペースが必要と
なるという問題がある.実験を行う環境としては,大きく分けて以下の3案が考えら
れる.
A) 可能な限り広いスペースを用意し,その範囲内で実験を行う
B) 機体を円周方向に拘束する実験ガイドを用いる
C) トレッドミルを用いる
A 案については,研究資金の関係から難しく,また研究を進めるにあたって,跳躍運
動のみの検証などを行うためにもガイドの政策が必要であった.B 案については,簡
易的なガイドを製作するだけで対応でき,さらには機体の重心高さなどのデータも取
得しやすい.C 案については,スペースの制限はなくなるものの,走行程度の速度で
稼働するトレッドミルは非常に高価であるため,今回は見送ることとした.
ガイドは,機体に接続するビーム部と,中心のポール部,回転を行う Yaw 軸,Roll
軸の2つの受動自由度から成る.この円周方向に拘束するガイドを用いて,機体は矢
状面方向にのみ移動できるように拘束しており,ガイドの周囲を走行する(Fig. 4. 14).
また,ガイドの Roll 回転軸に取り付けたエンコーダにより胴体部の高さを測定する.
4.7 評価実験と考察
4.7.1
板ばね荷重試験
上記のように製作した CFRP 板ばねに関して,鉄の板ばねと同等の弾性を有するこ
とを確認するため,荷重をかけた際の変形量を計測する実験を行った.本実験では,
板ばねに対し大きな荷重をかける必要があるため,実験用冶具を製作し,圧縮試験機
とともに用いた(Fig. 4. 15).圧縮試験機と接触する上部が鉛直に摺動し,圧縮試験
機から荷重がかかるにつれて,荷重点を通して板ばねに荷重を伝える.この際,板ば
ねの取り付け位置を変えることで荷重点を変更できるようにすることで,異なる有効
長での実験を可能とした.荷重および板ばねのたわみ量に関しては圧縮試験機により
測定した.本実験においては,用いる膝関節の要求仕様である 177 Nm を耐荷重の要
求仕様とした.
実験結果として,板ばねのたわみ量に対する,荷重と有効長より計算した負荷モー
メントをFig. 4. 16に示す.合わせて,前述の理論式より導出した重ね板ばねに関する
理論値と,板ばねを重ねず1枚のみ用いた場合の理論値,重ねている板ばね2枚分の厚
さを持つ1枚の板ばねとした場合の理論値についても記載した.実験結果より,CFRP
62
第 4 章 2足走行ロボットの開発
F
Roller
Leaf spring
Linear bush
Z
X
Y
Fig. 4. 15 Test fixture used to measure the deflection of the leaf springs under applied
vertical loads
180
160
140
Moment Nm
120
100
80
60
Theoritical value two layers
40
Measured value two layers
Theoritical value one layer(thickness4.4mm)
20
Theoritical value one layer(thickness8.8mm)
0
0
0.1
0.2
0.3
Angle displacement rad
0.4
0.5
Fig. 4. 16 Theoretical and measured deflection of leaf springs in relation to the magnitude
of the applied vertical load
板ばねを2枚重ねた場合であっても,要求仕様である177 Nmの負荷モーメントに耐え
ることを確認した.また,弾性値についても,理論値に近いものとなった.
63
大谷拓也 博士論文
さらに,1 枚の板ばねの場合と比較すると,同等の厚さの 1 枚の板ばねとした場合
と比べ弾性値が低くなることを確認した.本研究における,板ばねの有効長を利用し
た剛性可変機構においては,有効長を短くすることで剛性を非常に大きくすることが
できるが,一方,小さくするためには有効長を長く取る必要がある.人間と同程度の
大きさのヒューマノイドロボットへの搭載の都合上,板ばねとして取れる長さには制
約があるため,板ばねを重ねることにより 1 枚である場合に比べ耐えられる荷重が大
きくなり剛性が低くなることは有利に働く.ただし,実際に 1 枚の場合には破損して
しまうため,本研究における実装方法が,強度・重量・弾性の点から有効である.
4.7.2
関節弾性値確認実験
上述のとおり,CFRP 重ね板ばねが弾性関節機構に搭載可能であることが確認され
たため,さらに関節機構に組み込んだ場合の関節弾性が,人間と同程度であるかどう
かを確認する実験を行った.
4.7.2 (a) 実験方法
高弾性時と低弾性時の 2 通りで測定するため,それぞれの条件において機体に 0,
10,20,30kg のおもりを載せ,その時の膝関節角度変位  と床反力を計測すること
で,算出した膝関節周りにかかるモーメント F  ( x  x) から脚弾性を計算した(Fig. 4.
17).
kknee 
F ( x  x )

(4.12)
4.7.2 (b) 実験結果
膝関節弾性の目標値および実測値を Table 4.4 に示す.実験結果より,要求仕様であ
る人間の膝関節弾性値の範囲を模擬できることを確認した.また,前述の関節中心と
板ばね固定点のずれによる弾性理論値が,実際の関節弾性値を精度よく算出できるこ
とが確認できた.
4.7.3
能動駆動検証実験
4.7.3 (a) 実験方法
走行ロボットの膝関節をモータで屈伸させて,その時の目標値と実際の角度を比較
する.実験条件を以下に示す.
64
第 4 章 2足走行ロボットの開発
F
x
x  x

Z
  
X
Y
(a) No loaded
(b) Loaded
Fig. 4. 17 Experimental model for joint stiffness evaluation
Table 4.4 Experimental result of knee joint stiffness evaluation
Min. Nm/rad
Max. Nm/rad
Requirement for knee joint
300
600
Theoretical value
230
690
Measured value
220
680
A) 走行ロボットは宙づりの状態.
B) 板ばねは CFRP と鉄の 2 種類.
C) CFRP のみ重ね板ばね.
D) 目標値はモータのエンコーダにより得られる.
E) 実際の角度は膝関節に取り付けたワイヤエンコーダより得られる(たわみ含む).
F) 膝 Pitch のモータをパターンで動かすことで屈伸運動させる.
G) パターンは遊脚中の角速度の要求仕様である 6.54rad/s で動かす.
4.7.3 (b) 実験結果
膝関節の目標値,実測値を Fig. 4. 18,Fig. 4. 19 に示す.実験結果より,要求仕様で
ある 6.54rad/s を達成することができた.
65
大谷拓也 博士論文
Fig. 4. 18 Swing experiment with iron leaf spring
Fig. 4. 19 Swing experiment with CFRP leaf spring
66
第 4 章 2足走行ロボットの開発
4.7.3 (c) 考察
どちらの板ばねも屈伸動作の端々で膝関節角度がオーバーシュートすることが見
られた.これは慣性力により板ばねが変形してしまうために見られる.また,伸展時
と屈曲時の偏差量に違いがみられることについてだが,伸展側は板ばねを固定する目
的の部材の位置が有効長になるため短くなっているが,屈曲側は荷重ローラの位置が
有効長になるため長くなっているため変形しやすいためだと考えられる.
次に,問題になっている振動についてだが,鉄の板ばねと比較して CFRP 板ばねの
ほうが,振動が収まるまでの時間と振れ幅のどちらも改善していることが分かる.こ
の理由については以下の 2 つを考えることができる.
A) CFRP そのものが一般的に金属に比べ振動減衰が速い
B) CFRP を重ねているため,板間の摩擦により振動減衰が生じる
4.7.4
跳躍実験
開発した膝関節機構を搭載した2足走行ロボットを用いて,脚の能動的な蹴り出し
の跳躍への影響を検証するため,跳躍実験を行った.本実験においては,床反力が重
心を貫くように初期角度を設定し(Table 4.5),右脚で立脚している状態から骨盤を揺
動させる.実験時のパラメータを Table 4.6 にまとめる.骨盤の揺動は以下のように制
Table 4.5 Leg joint angles in hopping experiment
Swing leg
Kicking condition
Stance leg
Pelvis
Pelvis and leg
Hip Roll deg
0
10
10
Hip Pitch deg
5
0
4
Knee Pitch deg
60
23
31.5
Ankle Pitch deg
90
90
90
Table 4.6 Experimental parameter in hopping experiment
Mass
Leg stiffness
kg
N/m
60
20000
Pelvic amplitude
deg
5
Hip displacement
deg
4
Knee displacement
deg
8.5
67
大谷拓也 博士論文
御した.
Δθ pelvis = A sin ωt s tan ce
(3)
ここで,A は骨盤振幅, ω は系の固有振動数, tstance は揺動開始からの時間である.
この骨盤揺動のみの場合に対し,骨盤揺動に合わせて股関節・膝関節を,重心が鉛直
方向に動くように 1 度目の跳躍が始まるまでのみ動かした.股関節・膝関節を動かし
た後の右脚は骨盤のみでの蹴りの跳躍実験と同じ関節角度になる.跳躍したことを判
定するために足関節のロータリーエンコーダを用いており,立脚期の床反力による足
関節の板ばねの変形を測定することで判定を行うこととした.本実験は機体を矢状面
上にのみ移動できるガイドに拘束した状態で行った.また,ガイドの Roll 軸に取り付
けたロータリーエンコーダにより胴体部の高さを測定している.
骨盤 Roll 軸の角度と跳躍判定の結果を Fig. 4. 20 に示す.関節角度が負の時に脚が
地面を蹴り出していることを示している.骨盤の蹴りのみでは 1 度目の蹴りで跳躍せ
ず,2 度目の蹴りで跳躍を開始しており,骨盤と脚を使った蹴りでは 1 度の蹴りで跳
躍を実現できた.さらに,重心の変位に着目すると,骨盤と脚による蹴りでは最初か
ら重心変位の最大値が 35 mm 付近に到達している.それに対して骨盤のみの蹴りで
は,徐々に大きくなり 35 mm 付近に到達する(Fig. 4. 21).
跳躍時間を調べると,骨盤と脚による 1 度目の跳躍時は 0.090 sec に対して,骨盤の
みによる 1 度目の跳躍時の跳躍時間は 0.078 sec であった.走行運動を考えると跳躍中
に両脚を入れ替える動作が必要であり,膝関節を 37 deg 駆動させる必要がある.膝関
節の角速度からこれを実現するには 0.080 sec 必要であるため,骨盤のみの蹴りでは予
備動作として何度か跳躍した後でなければ脚を入れ替えることができないが,脚での
蹴りでは 1 度目の跳躍から入れ替えを実現できると考えられる.
68
第 4 章 2足走行ロボットの開発
6
関節角度 deg
4
2
0
-2
骨盤Roll軸
跳躍
-4
-6
0
1
時間 s
2
(a)Pelvic movement for pushing-off
6
関節角度 deg
4
2
0
-2
骨盤Roll軸
-4
跳躍
-6
0
1
時間 s
2
(b)Pelvic and leg movement for pushing-off
Fig. 4. 20 Pelvis joint angle in hopping simulation
69
大谷拓也 博士論文
40
重心変位 mm
30
20
10
0
-10
-20
脚での蹴り
-30
骨盤のみでの蹴り
-40
0
0.5
1
時間 s
1.5
2
Fig. 4. 21 CoM displacement in hopping simulation
4.8 まとめ
本章では,SLIP2 モデルに基づいた2足走行ロボットハードウェアの開発を目的と
した.本研究では,人間の走行時の特徴である骨盤運動と脚弾性を取り入れることと
し,また走行運動が立脚期と跳躍期で運動として大きく異なることに着目し,立脚時
には人間と同様の弾性を発揮し,跳躍時および走行開始時には能動的に屈伸すること
が可能な脚関節を開発することとした.
このため,弾性体として板ばねを用い,ウォームギアにより能動的な屈曲が可能な
機構を開発した.また,重量増大の一因となる鉄の板ばねではなく,より密度の低い
CFRP 板ばねを使用することで軽量化を図った.この際,小型化をする際には板ばね
にかかる応力が大きくなり耐えられないという問題を解決するため,2 枚を重ねた重
ね板ばねとすることで 1 枚当たりの応力を低減し,CFRP の利用を可能とした.この
重ね CFRP 板ばねにより関節機構としての重量は,鉄の板ばねの場合 1200 g になるの
に対し,400 g まで軽量化することができた.
70
第 4 章 2足走行ロボットの開発
さらに,前章にて述べた骨盤揺動が可能な骨盤機構を開発し,それらを統合した2
足走行ロボットを開発した.
開発した弾性関節機構について,荷重実験により理論値に近い弾性を有することを
確認し,関節に搭載した場合も人間の膝関節に近い関節弾性値を模擬することができ
た.
最後に,骨盤振動制御および脚の能動的な屈伸を用いることによる,跳躍運動の検
証を行い,開発したハードウェアの有効性を確認した.
本章で得られた知見を以下にまとめる.
A)
既存のヒューマノイドロボットにおける人間の走行運動模擬の問題点および
SLIP2 モデルに基づいた2足走行ロボットハードウェアのコンセプトを説明(4.2)
B)
人間の弾性模擬と能動屈伸を両立する高出力関節機構について説明(4.3)
C)
人間と同等の骨盤揺動が可能な骨盤機構について説明(4.4)
D)
弾性関節脚および骨盤機構を組み合わせた2足走行ロボットハードウェアに
ついて説明(4.5)
E)
2足走行ロボットの実験に用いる円周拘束ガイドについて説明(4.6)
F)
重ね CFRP 板ばねの弾性値が理論値と同程度であることを荷重試験にて確認
(4.7.1)
G)
開発したロボットハードウェアにおいて跳躍が可能であることおよび着地時
の床反力に耐えられることを確認(4.7.2)
71
大谷拓也 博士論文
72
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
第5章
5.1
骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
5.1
はじめに
5.2
走行評価実験
5.3
安定化制御検証
5.4
考察
5.5
まとめ
はじめに
第 2 章では,人間の走行運動に基づいた走行モデルを開発し,第 3 章では,そのモ
デルに基づいた走行制御を開発,第 4 章では,そのモデルを実現する走行ロボットハ
ードウェアを開発した.
本章では,これらを統合し,骨盤と脚弾性を利用した走行運動実験を行い,提案し
たモデル,走行制御,ハードウェアの有効性を検証する.
5.2
走行評価実験
提案した手法の有効性を検証するため,2足走行ロボットを用いて,走行実験を行
う.実験条件として,まずは跳躍そのものに対する検証を行うため,大きく跳躍に寄
与する骨盤振幅を 2 条件で行い,影響を比較する.跳躍後の走行運動については,走
行速度制御における速度指令値が異なる条件にて実験を行い,その有効性を検証する.
5.2.1
実験方法
本実験においては,床反力が重心を通るように脚の状態を設定し(Table 5. 1),立
脚している状態から骨盤揺動により跳躍力を獲得し,跳躍中に着地位置を変更するこ
とで走行速度を制御する.跳躍していることを判定するためには,足関節部の関節角
度を測定するエンコーダにより,着地時の床反力による足関節の屈曲を測定すること
とした.骨盤揺動角度や位相ずれなどのパラメータは,人間の走行時の動きを元にし,
走行速度制御のゲインは実験的に求めた.膝関節および足関節の関節弾性は,人間の
走行時のデータを元にそれぞれ 7, 9 Nm/deg とした.走行速度については,0.2,0.3 m/s
の 2 条件とした.骨盤振幅角度は 3.5, 5 deg の 2 条件とした.機体は矢状面方向にの
73
大谷拓也 博士論文
Y R
R
P R
P R
 
P
P P
Fz
y
P  Fy
x
Fx
z
(a) Whole body model of the running robot
Z
X
Y
 Lknee
Z
X
 Rhip
 Rknee

 Lankle
 Rankle
Y
(b) In frontal plane
(c) In sagittal plane
Fig. 5.1 Model of the running experiment
Table 5. 1
Experimental condition
Parameters
Pelvic rotation amplitude
Phase difference
Mass
Gain of running speed control
Reference of running speed
Hip angle
Knee angle
Ankle angle
Knee joint stiffness
Ankle joint stiffness
74
A deg
φ rad
kg
K
x ref m/s
 hip deg
 knee deg
 ankle deg
Nm/deg
Nm/deg
3.5, 5
3  /8
50
0.2
0.2, 0.3
10
140
90
7
9
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
み移動できるようにガイドにより拘束しており,ガイドの周囲を走行する.また,ガ
イドの Roll 回転軸に取り付けたエンコーダにより胴体部の高さを測定する.実験条件
を Table 5. 1 にまとめる.
5.2.2
実験結果
骨盤振幅角度 5deg,走行速度指令値 0.2m/s の際の実験時の様子を Fig. 5. 2 に示す.ま
ず結果として,骨盤運動および脚弾性を利用することで片脚による走行運動を実現す
ることが出来た.以下,それぞれについて詳細に述べる.
(a)骨盤振幅角度を変化させた場合
骨盤振幅角度を 3.5, 5deg とした場合の機体の重心高さ変位の遷移を Fig. 5.3 に示す.
重心高さ変位は 20mm の時点で脚が地面から離れるものであることを実験的に確認
している.骨盤振幅角度 3.5deg の場合は,重心変位が大きくても 20mm を超えていな
いことから,跳躍が実現できていない.一方,人間の走行時と同様である骨盤振幅 5deg
の場合には跳躍が実現できていることが分かる.本実験結果より,骨盤振幅により跳
躍力が獲得できることが確認できた.また,1.5deg 程度の振幅の違いであっても,跳
躍力には大きく影響することも確認できた.
0 sec
2 sec
4 sec
Fig. 5.2 Running experiment
75
大谷拓也 博士論文
Fig. 5.3 Comparison of mass displacement with the difference of pelvic amplitude
(b)走行速度指令値を変化させた場合
実験結果の機体高さ変位の遷移を Fig. 5. 4 に,走行速度の遷移を Fig. 5. 5 に示す.
これまで同様,重心高さ変位は 20mm の時点で脚が地面から離れるものであることを
実験的に確認している.すなわち,変位が 20 mm よりも大きいときには跳躍してい
ることとなり,実験結果より跳躍高さが 40 mm になっていることが確認された.ま
た,前進走行も達成し,走行速度については,制御指令値に応じて制御できているこ
とを確認した.
さらに,跳躍時間が脚の入れ替え時間として十分なので,跳躍中に両脚を入れ替え
る走行を行うことも可能であると考えられる.
76
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
80
Running speed (0.3m/s)
Running speed (0.2m/s)
Mass displacement mm
60
40
20
0
-20
-40
-60
0
1
2
3
Time s
4
5
Fig. 5.4 Mass vertical displacement
Fig. 5.5 Running speed in running experiment
77
大谷拓也 博士論文
5.3
安定化制御検証
5.3.1 実験目的
これまでの走行実験においては Pitch 方向に回転しないように拘束した状態で実験
しているため,Pitch 方向における拘束をしていない状態において,安定化制御の有
効性を検証することを目的とした.
5.3.2 実験方法
実験方法および実験条件は 5.2 節のものと同一とし,これに加え股間節 Pitch 軸に
安定化制御を実装した.本来は体幹自由度への実装を検討していたが,機体にはない
ため,重心に対する位置関係が変化するものの,股間節 Pitch 軸とした.本制御にお
ける P ゲインおよび D ゲインに関しては,実験的に求めることとした.
5.3.3 実験結果
制御が無い場合 3 条件および,制御のゲインを変更した場合 3 条件の実験を行った
際の,機体重心部の Pitch 方向の傾きを Fig. 5.6 に示す.
結果より,安定化制御を行わない場合には,機体姿勢が傾いていき,復帰不可能な
角度まで至っている.一方,安定化制御を行った場合には,ゲイン調整の結果によっ
ては,数秒の走行を維持することができた.しかし,成功した条件においても必ず成
功するというわけではないため,更なる安定化手法の確立が必要であると考える.詳
細は以下考察にて論じる.
Fig. 5.6 Comparison of pitch attitude with stabilization control
78
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
5.4
考察
走行実験の結果および本研究を通して得られた知見に関して,考察を行う.
5.4.1 走行時の弾性関節の挙動に関する検討
本研究の大きな目的の1つは,既存のヒューマノイドロボットと人間の出力の歴然
たる差を解消することである.そのために,出力を生み出す部位を増加させるものと
して骨盤の運動を利用し,また関節そのものの出力を向上させるためには人間を参考
にばね性を利用することとした.
本実験における片脚走行における弾性関節の挙動を確認すると,板ばねの変位より
算出した関節の発揮トルクと関節の角速度より,関節の最大出力が 1000W になって
いることが確認できた.これは,人間の走行時と比較して同等のものであり,これま
での約 150W 程度の出力に比べてはるかに大きいことが分かる.これにより,本研究
の目的の1つである関節出力の向上は達成できたと考える.
5.4.2 走行時の共振利用に関する検討
上記のとおり,本研究では骨盤運動を取り入れることで,系全体としての出力向上
を目指した.
この骨盤運動の影響に関しては,2章におけるシミュレーションや本章における骨
盤振幅の違いの検証実験により,跳躍力の獲得に対して大きな影響があると考える.
本研究においては,人体運動計測より,骨盤運動が共振現象を利用するように行われ
ていると考えた.共振運動においては一般的に,強制振動源の振幅,共振周波数,そ
の位相が重要なパラメータとなる.振幅においては実機による実験から,跳躍力の獲
得に大きく寄与していることが確認できた.また,共振周波数および位相においては,
2章でのシミュレーションより,それぞれを人間と同程度のパラメータとすることで,
大きな跳躍力を獲得できることが分かった.これらより,本研究において着目した骨
盤運動と脚弾性の共振現象は,ヒューマノイドロボットおよび人間の走行時において
有用であると考える.
また,上記のような共振利用は,今後他の部位にも拡張できると考えられる.強制
振動源として腕の振りなどを利用することで,より大きな出力を得ることが出来,高
速走行が可能になると考えられる.
加えて,共振理論をベースとした運動生成としては,今後走行以外の運動にも拡張
できると考える.本研究においては,走行時の大きな出力を得るための手段として共
振現象を用いているが,逆に系の出力を大きく低減することも出来る.例えば,高速
79
大谷拓也 博士論文
走行からの急停止時などには大きくエネルギーを消散させる必要があるが,このよう
な場合には共振現象を逆に利用することで,同一理論による運動生成が可能になるの
ではないかと考える.
5.4.3 3 次元無拘束走行の検討
現状では,実機での 3 次元無拘束走行は実現できていない.そのためには,以下の
2 つの事項が必要であると考える.
1 つ目は,能動的な体幹自由度の搭載である.実機に対して,動力学シミュレーシ
ョンでは上半身を駆動させるための自由度を搭載し,これを用いた安定化制御を行っ
ている.これは,人間にも見られるとおり,上半身を用いて角運動量補償や重心移動
を行うためである.これらを用いることで,シミュレーションにおいては,Roll 方向
への安定化も実現できており,上半身による安定化が有効であることが分かる.これ
は,上半身と下半身の重量配分に着目するとほぼ同等であることから,上半身の運動
が系全体の運動に大きな影響を及ぼしてしまうためであると考えられる.本研究では,
跳躍力の獲得に大きな役割を果たしている下半身の開発に力を入れたため,上半身は
実装できていないが,上半身を搭載することで 3 次元無拘束走行が可能になると考え
る.
2 つめは,外界センシング能力の向上である.現状の機体と人間のセンシング能力
を比較した場合に大きく異なる点として,視覚情報の有無が挙げられる.人間の場合
でも,視覚情報を遮断した場合には安定した走行の継続が困難になることが知られて
おり,視覚情報の重要性が示唆されている.これは,視覚情報を用いて,自己の状態,
特に姿勢情報の獲得を行っているからであると考えられる.このような重要な情報な
くして人間と同等の運動能力にすることは困難である.また,人間は,足裏の皮膚感
覚が無くなった場合に歩行や走行が困難になることが言われており,これらの床反力
情報も重要であると考えられる.
5.4.4 走行速度向上手法
現状の走行実験では,走行速度は 0.3 m/s 程度と人間に比べて遅い.これは,上記
のように無拘束での走行が実現できていないことにより検証が不十分であることも
あるが,大きくは以下の 2 つの理由によると考えられる.
1 つ目の理由は,股関節 Pitch 軸による大きな蹴り出しを行っていないことである.
人間は走行中には,立脚中に股関節 Pitch を大きく伸展させ,地面を強く蹴ることで
大きな推力を得ている[66].現状の走行運動時には,この蹴り出しを行っていないた
80
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
め,上記のような安定化を可能にしたうえで,蹴り出しを行わせることで走行速度の
向上が見込める.また,股関節 Pitch 軸による大きな蹴りを利用するために必要不可
欠である,その蹴り出し強さに耐えられる膝・足関節が本研究により構築できたため,
大出力の発揮が可能な股関節 Pitch 軸を開発することで,より高速な走行が可能とな
ると考えられる.しかし,この股関節 Pitch 軸の蹴り出しについても,膝・足関節と
同様 1000 W 以上の出力であるため,既存のロボットではまったく実現できていない
ものである.
2 つめの理由は,脚弾性を変化させていないことである.本研究の中でも重要な概
念として,脚弾性が挙げられるが,これは走行速度が向上するにしたがって硬くなる
ことが知られている.これは,脚弾性値が大きくなると,系全体の共振周波数が大き
くなる,すなわち走行運動時のピッチが速くなるためであると考えられる.本研究に
おいて開発した関節機構は人間と同様に関節弾性を変更可能であるため,走行速度に
合わせて脚弾性の値を大きくし,さらに振動元としての骨盤揺動の振動周波数を速く
することで,ピッチの速い走行が可能になると考えられる.
これらの他にも,上肢の振りによる前後方向の推進力の獲得なども示唆されている
が,走行速度向上のための主たる要素としては上記が考えられる.
5.4.5 他の移動様式への応用
本研究は,人間の移動様式の中でも特に走行運動に着目したものであるが,他の移
動様式として歩行や競歩,ハイハイや匍匐など様々なものがある.
まず歩行運動については,一般的には倒立振子モデルとして解釈されるが,近年,
SLIP モデルとして考えるべきという研究が見られる[67].これは,人間の歩行中の重
心が,倒立振子の場合のような円弧軌道ではなく沈み込んだ後上昇するためである.
歩行運動が SLIP モデルにより実現できるとすれば,本研究の成果を歩行運動に拡張
することは可能である.また,歩行と走行の中間の移動様式として競歩がある.自然
なものではなく特殊な様式だと言えるが,競歩時には基本的には脚がばねのように伸
縮しており,SLIP モデルと見なせると考えられる.しかし,跳躍をせず高い移動速
度を実現するため,大きく腰を動かすことで脚の蹴り出しに対して衝撃吸収のように
用いて跳躍を防いでいる.これを本研究の骨盤運動と比較すると,重心運動に対して
骨盤揺動の位相が異なっている,すなわち,着地後骨盤が大きく回転しピークに達し
たところで立脚期が終わってしまい,蹴り出す方向への回転が見られない.これによ
り,本研究の制御手法を応用することで,歩行や競歩運動が可能になると考えられ,
統一的な制御手法を用いることで,これらの移動様式の遷移も可能になると考えられ
る.
81
大谷拓也 博士論文
さらに,上記のような2足による運動に対して,ハイハイや匍匐などの 4 足による
ものがあるが,人間の形態は2足運動に適したものに変化していると考えられ,実現
は難しいと考えられる.しかし,4 足哺乳動物の移動形態は,人間と同様にばね質点
を基本とした複数足の SLIP モデルとしてモデル化できることが知られている[68].そ
のため,本研究のように SLIP モデルを基本とした制御則であれば,4 足運動に応用
することそのものは可能であると考えられる.また,詳細は後述するが,本研究で着
目している骨盤運動などは 4 足哺乳動物にも見られることが示唆されているため,そ
れらも含め応用の可能性はあると考える.
5.4.6 4 足運動との関連
近年,4 足動物を模擬した 4 足ロボットの開発が盛んに行われている.これは,4
足動物の構造を模擬することで,高い運動能力を有するロボットの開発を目的とした
ものであるが,その過程で,本研究と同様にロボットを用いて生物の構造・運動解明
を進めているものがある[36].その中でも,4 足哺乳動物の脊椎の運動および骨盤部
の運動に着目した研究があるが,これは本研究において着目した人間の骨盤運動と非
常に関連深いものであると考えられる.一般的な魚類や両性類・爬虫類は,脊椎を左
右方向に波打たせるようにして移動するのに対し,一般的な哺乳類は歩行や走行時に,
脊椎を矢状面において上下方向に波打つように動かすことが知られている.矢状面に
波打たせることで,その動作により強く地面を蹴り出し,跳ねるように走行すること
が可能になっており,このような動きを模擬するロボットが存在する.また,同様の
研究として,4 足哺乳類の体幹の揺動の影響も示唆されている[37].そして,これら
の特徴は同じ哺乳類である人間にも同様に見られるものである.歩行や走行時の人間
の脊椎(体幹)の矢状面の運動は示唆されており[69],骨盤の運動においては本研究
により同様の動作が見られることが確認された.進化論的見地から考えると,4 足哺
乳類からヒト科が発生しており,4 足哺乳類時代から有している脊椎や骨盤部の運動
を,2 足形態への変化に際して転換していると推測できる.
これらのことから,上記のように様々な移動形態を1個のロボットにて実現する際
にも,これまでのように脚だけを用いるのではなく,体幹や腰の自由度を巧みに利用
することで,より洗練された動作が可能になると考えられる.また,ロボットを用い
た進化論的構造研究という新たな研究分野に繋がるかもしれない.
82
第 5 章 骨盤と脚弾性を利用した走行の実現
5.5
まとめ
第 2 章で述べた人間の走行運動に基づいた走行モデル,第 3 章で述べた走行制御,
および第 4 章で述べた走行ロボットハードウェアの有効性を検証するため,これらを
統合し,骨盤と脚弾性を利用した走行運動実験を行った.
具体的には,床反力推定を用いて床反力が重心を向くような脚の関節初期角度を算
出し,立脚させた状態から骨盤振動を用いて跳躍し,跳躍中に着地位置を変更するこ
とで走行運動を実現した.結果として,骨盤揺動と脚弾性を利用した跳躍運動および
走行運動が可能であること,また,走行速度指令値に応じて走行速度を変更できるこ
とを映像および計測データにて確認した.また,安定化制御に関しても実機にて検証
を行ったが,成功率が高くなく,上半身自由度などを用いた更なる安定化手法の開発
が必要であると考える.
以上のことから,提案する骨盤と脚弾性を利用する走行モデルおよび走行制御,ハ
ードウェアの有効性を確認した.
本章で得られた知見を以下にまとめる.
A)
2足走行ロボットを用いた走行実験により,骨盤と脚弾性を利用する走行制
御およびハードウェアの有効性を確認(5.2)
B)
走行速度指令値を変更することで,着地位置変更による走行速度制御の有効
性を確認(5.2)
C)
開発した手法が最終目的である人間の全身走行模擬の実現に対して重要な成
果であることを確認(5.4)
83
大谷拓也 博士論文
84
第 6 章 結論
第6章
6.1
結論
6.1
結論
6.2
今後の展望
結論
本研究では,走行時の特徴を2足ヒューマノイドロボットにより模擬することで大
きな出力の発揮による走行運動の実現が可能になると考え,人間の走行運動の模擬が
可能な2足ヒューマノイドロボットの開発を目的とした.具体的には,特に跳躍力の
獲得に寄与していると考えられる人間の下半身に見られる特徴を模擬し,また身体各
部のサイズや質量分布なども人間と同等にすることで,人間の運動時のダイナミクス
を利用することとした.
第 1 章では,序論として本研究の研究背景と目的,その意義と関連研究の動向につ
いて述べた.
第 2 章では,人体計測に基づいた骨盤運動を取り入れた走行モデル SLIP2 を用いて
骨盤運動の跳躍への寄与を検証するため,人体計測の詳細と,それに基づく走行モデ
ルの開発,評価実験と考察を述べた.人間の走行時の特徴としては様々なものが挙げ
られるが,走行運動の実現に対して重要な特徴として,立脚がばねのように振る舞っ
ていることや,走行速度に応じて走法を変化させること,上体や上肢を用いて走行時
の床反力や脚部の運動により生じる回転モーメントを相殺していることなどがある.
しかし,骨盤運動に注目した解析の先行研究例は少なかったため,走行時の人体計測
データから特徴を抽出することにした.その結果,前額面において着地側の脚部を路
面に押し付けるように骨盤が動いているため,力強い蹴り出しに寄与している可能性
が示唆された.一般的に走行運動の解析には,立脚がばねのように振る舞うことから,
1 つの質点と 1 つの減衰のないばねによる SLIP(Spring Loaded Inverted Pendulum)モ
デルが用いられている.SLIP モデルは人間の走行運動をもっとも簡単にかつ的確に
表現したモデルであるが,前述の走行運動時の骨盤揺動を見ると正弦運動に近い挙動
を示しており,これは SLIP モデルでの共振運動に大きな影響を与える.この知見を
基に,新たに骨盤を有する SLIP2(Spring Loaded Inverted Pendulum using Pelvis)モデ
ルを考案した.この SLIP2 モデルにより,重心の鉛直方向の移動に対する骨盤の回転
85
大谷拓也 博士論文
運動の位相の違いの影響を検証し,人間の走行時の前額面における骨盤揺動が跳躍力
の獲得に寄与していることが示唆された.
第 3 章では,骨盤と脚弾性を利用した走行制御の開発について述べた.人間のよう
な脚での走行運動を実現させるため,骨盤揺動による跳躍制御に加え,多関節脚が直
動ばね脚と同様に振る舞うように床反力方向を操作するための動力学モデルを導出
した.また,走行速度を変更するためには,人間が走行速度に応じて跳躍中に次の着
地位置を変更することによる走行速度制御を開発した.走行時には,足関節の関節角
度を計測することで着地判定を行い,それに基づき上記の制御を行う.この制御によ
り,シミュレーションにて,骨盤揺動により跳躍力を得て着地位置を変更することで
走行運動が実現できることを確認した.
第 4 章では,上記の SLIP2 モデルを元に開発した走行ロボットの詳細および特に重
要な脚弾性の模擬について述べた.前述のように,走行中の人間の脚は立脚中にはば
ねのように振る舞い,そのばね性は膝や足関節の回転ばね性によることが分かってい
る.また,遊脚中には路面からのクリアランスを確保するために屈曲する.しかし,
人間の走行時に必要な出力を得ることは既存の関節構造では難しいため,膝・足関節
の回転弾性を,板ばねを用いた関節構造により模擬することで,走行時に要求される
立脚の大出力を実現した.各関節の回転弾性の要求仕様は走行中の人体計測データか
ら算出した.使用する弾性体としては,圧縮コイルばね,ねじりばね,板ばねが考え
られたが,走行運動中に弾性を調節することを考え,有効長の変更により弾性調節が
容易な板ばねを用いることにした.また,板ばね間にウォームギアを用いることで,
立脚のばね性の発揮と遊脚時の能動的な屈曲を両立した.ウォームギアの進み角を変
更することでトルク伝達効率を向上させ,アクチュエータによる能動的な蹴り出しを
実現した.また, CFRP 製の板ばねを重ねて用いることで 1 枚あたりの応力を低減し
使用を可能とした.開発したロボットを用いて,人間の関節弾性を模擬でき,さらに
骨盤揺動と脚弾性を利用することによりその場での跳躍動作を実現し,跳躍力が十分
に獲得できていることを確認した.
第 5 章では,開発した走行ロボットおよび走行制御の検証のため行った走行実験に
ついて述べた.この走行実験において,骨盤揺動および脚弾性を利用した走行を実機
にて実現し,開発した走行制御およびロボット機構の有効性を確認した.また,走行
速度制御についても速度指令値に応じて機能していることを確認した.最後に,第 6
章では結論として以上の研究成果を総括した.
以上,本論文では,2足ロボットの運動能力向上につながる研究として,人間の走
行時の骨盤揺動および脚弾性を模擬した走行モデル,制御方式および関節機構を提案
86
第 6 章 結論
し,これに基づき実際に製作した2足走行ロボットにより実験を行い評価することに
より,その有効性を実証することを研究の目的とした.その成果として,人間の走行
中の骨盤揺動が跳躍力の獲得に寄与していることを示し,また CFRP 重ね板ばねとウ
ォームギアを用いた弾性関節機構を開発することによって人間の脚弾性を模擬し,跳
躍が可能であることを実証した.また,骨盤揺動と脚弾性を利用し着地位置変更など
による走行制御を行うことで走行が可能であることを実証した.
本研究の成果は,2足ヒューマノイドロボットの実用化に向けて運動能力を飛躍的
に向上させる技術となるものである.また,本研究を応用し人間のような走行が可能
な2足ヒューマノイドロボットを開発出来れば,人間らしい運動と人間らしくない運
動を容易に比較できるため,人間の歩行・走行運動の研究の一助となる.さらには歩
行・走行時の姿勢の影響や靴の定量的な評価手法としてのロボットの利用や,開発し
た機構を歩行と走行の兼用が可能な義足への応用のように,ロボット工学のみならず
スポーツ科学やリハビリテーションなどの様々な用途が広がると期待できる.
6.2
今後の展望
本研究では,第 1 章で示した通り,人間の運動を模擬し代わりに実験を行うロボッ
トとしての, ヒューマノイドロボットを提案している.
この目的に対して,さらに課題となる点が大きく分けて 2 つあると考えられる.一
つは,特に運動制御面における更なる人間の模擬であり,そしてもう一つは,ヒュー
マノイドロボットを用いた人間研究である.以下,これらの課題に関してそれぞれ述
べる.
6.2.1
運動制御面における人間の模擬
本研究においては,人間の運動の模擬を進めるに際し,人間の各部における特徴と
いう形で模擬を進める,いわゆるボトムアップに近い形態を取った.これは,人間の
運動メカニズムの解明が,部分的に進められているものの,全身の運動制御メカニズ
ムとしては,未だ統一見解を得ていないことにより,そのため,部分的に見られてい
る特徴を力学的に検証し統合することで,人間の運動の模擬を試みた.この方針は,
一定の成果を獲得し,今後も有用であると考えるが,脳や神経系も含めた人間の運動
制御システムそのものを模擬してやることも必要である.これに対し,現状のヒュー
マノイドロボットは,人間に比べて視覚などの感覚器が少ないことや,さらに人間の
87
大谷拓也 博士論文
ような学習機能がないなどの問題が様々見られる.人間にとって視覚は非常に重要な
感覚であり,通常の歩行などの運動に置いても,視覚情報を用いて安定化が行われて
いることが示唆されており,現状のヒューマノイドロボットのように視覚を用いない
運動制御は,本質的に非常に困難であることが伺える.また,現状の人間の運動制御
システムとしては,大きく,筋骨格系における各部分的運動制御と,小脳による自己
モデルの作成およびそのモデルを用いた予測,大脳による高次な全身運動生成に分け
られると言われている.本研究においては,各関節の動きをハードウェア的に組み込
んでいる部分や,動作生成によって組み込んでいる部分があり,これらは各部分的運
動制御の一部となるものである.また,走行制御における床反力推定は,自己モデル
を用いた予測の一部となるものである.しかし,自ら自己モデルを作成・修正する機
能や,それらを含め全身の運動を計画することはまったくできない.
このように,運動生成の根幹となるべき部分に置いて,未だ研究できていない部分
があることから,これらの研究を進めることが肝要であると考える.近年の研究の発
展により,高度な画像認識や学習アルゴリズムが開発されていることもあり,これら
を統合した形の,真なるインテグレーションとしてのヒューマノイドロボットの開発
が進むことを期待してやまない.
6.2.2
ヒューマノイドロボットを用いた人間研究
本研究の最終目的に照らし合わせ,ヒューマノイドロボットを用いた人間の研究を
進めていくことが必要である.ヒューマノイドロボットを人間の被験者の代わりに用
いることで,けがの可能性のある動きについても調査を進めることができ,実験条件
が飛躍的に拡大することが期待できる.これは,さらにヒューマノイドロボットを用
いた,人間が使用する道具の評価という新たな製品開発手法にも繋がると考えられる.
また,ロボット技術の応用として,より人間に近い運動が可能となる義足の開発も
可能となると考える.これまでの義足は,その多くが人間と同等の構造を持っている
わけではなく,最終的には人間の持つ学習能力,運動制御能力により,運動を実現し
ている場合が多い.そのため,前述のように人間の高い運動制御能力の模擬も進める
必要があると考えるが,一方,ロボットの脚機構が人間に近づけば,そのまま義足に
応用することもできる.この場合,人間が義足を装着しその運動を学習していく過程
さらには学習した結果としての運動を,同じ義足脚を装着したロボットに搭載すると
いうことも可能であると考えられる.
88
第 6 章 結論
6.2.3
まとめ
以上,本研究において新たに浮かび上がった問題領域に関する今後の展望について
述べた.本研究の成果は,ヒューマノイドロボットの更なる発展はもちろん,ロボッ
ト開発により得られた技術の応用など,様々な分野での研究も考えられる.筆者の思
い描く研究の発展として,ヒューマノイドロボットの発展と,人間に対する探究は互
いに向上しながら進めていくことができると考える.
89
大谷拓也 博士論文
90
付録 A 走行実験データまとめ
付録 A 走行実験データまとめ
1
はじめに
第 5 章における実機による走行実験に関して,本論にて言及しないデータも含めて,
こちらにまとめることとする.
Fig. 1 Pelvis Roll Joint angle
Fig. 2 Right Hip Roll Joint angle
Fig. 3 Right Hip Pitch Joint angle
Fig. 4 Left Hip Roll Joint angle
Fig. 5 Left Hip Pitch Joint angle
Fig. 6 Right Knee Pitch Joint angle
Fig. 7 Left Knee Pitch Joint angle
Fig. 8 Right Ankle Pitch Joint angle
Fig. 9 Left Ankle Pitch Joint angle
Fig. 1 Pelvis Roll Joint angle
91
大谷拓也 博士論文
Fig. 2 Right Hip Roll Joint angle
Fig. 3 Right Hip Pitch Joint angle
92
付録 A 走行実験データまとめ
Fig. 4 Left Hip Roll Joint angle
Fig. 5 Left Hip Pitch Joint angle
93
大谷拓也 博士論文
Fig. 6 Right Knee Pitch Joint angle
Fig. 7 Left Knee Pitch Joint angle
94
付録 A 走行実験データまとめ
Fig. 8 Right Ankle Pitch Joint angle
Fig. 9 Left Ankle Pitch Joint angle
95
大谷拓也 博士論文
Fig. 10 Left Ankle Pitch Joint angle
96
参考文献
参
考 文 献
第1章
[1]
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102
謝辞
謝
辞
本研究を進めるにあたり,多大なご指導とご教示を賜りました早稲田大学理工学術
院 高西淳夫教授に,深く感謝し心より御礼申し上げます.
学部生のころから現在に至るまで,研究活動だけでなくあらゆる面において,温か
く熱心なご指導とご激励を賜りましたこと,重ねて御礼申し上げます.そして本論文
をまとめるにあたり,貴重な御時間を割いていただいた上,適切なご指導ご意見を賜
りました早稲田大学理工学術院 藤江正克教授,梅津光生教授,早稲田大学スポーツ
科学学術院 川上泰雄教授に深く感謝いたします.
本論文は,筆者の修士課程および博士後期課程における研究成果をまとめたもので
あり,機械工学,ロボット工学,人間工学,スポーツ科学の各分野の先生方から数え
切れないほどのご助言を頂きました.研究開始当初より,異分野であるスポーツ科学
に関していつも深い知識を授けていただきました阪口正律氏に心より感謝申し上げ
ます.また,機械工学的観点から適切なご助言を頂きました総合機械工学科の諸先生
方および生命理工学専攻の諸先生方,早稲田大学ヒューマノイド研究所の諸先生方,
特にご指導を賜りました神奈川大学工学部林憲玉教授に深い感謝の意を表します.
そして,研究を共に遂行した,高西淳夫研究室2足班の橋本健二氏,近藤秀樹氏,
遠藤信綱氏,Aiman OMAR 氏,Przemyslaw KRYCZKA 氏,Gabriele TROVATO 氏,
Matthieu DESTEPHE 氏,Martim BRANDAO 氏,Gan MA 氏,Benoit LEVESQUE 氏,
Ludovic HOFER 氏,高本大己氏,粟野晴貴氏,飯塚晃弘氏,南重松行紀氏,孫瀟氏,
瓜生和寛氏,二木元氏,八原昌亨氏,小泉文紀氏,下村宗一郎氏,濱元伸也氏,宮前
俊介氏,礒道貴矢氏,寺町知峰氏,松澤貴司氏,柳野浩志氏,植田大貴氏,金子勲矩
氏,木村駿介氏,酒井伸明氏,夏原彬氏に,心より感謝いたします.
また,本研究に際し多大なご協力を頂きました日本学術振興会様,アクティヴ・エ
イジング研究所の皆様,ソリッドワークス・ジャパン株式会社様,ST マイクロエレ
クトロニクス様,有限会社エフテック様,ニッタ株式会社様,株式会社寺畑商会様,
日本電計株式会社様,マクソンジャパン株式会社様,サイバネットシステム株式会社
様,東邦テナックス株式会社様に深い感謝の意を表します.
さらに,研究生活を支えてくださいました高西研究室秘書の太田久子女史,遠藤幸
子女史,穴井裕美女史,渋谷真澄女史に厚く御礼申し上げます.そして,これまで楽
しく研究室生活を共にした高西研究室の諸先輩方,同輩,後輩方に感謝いたします.
また,共に学位取得に励んだ岸竜弘氏に感謝いたします.
そして,学会等で御会いした折に議論に御付合いいただきご意見を頂きましたすべ
近藤秀樹 博士論文
ての研究者の皆様,関係者の皆様に感謝いたします.
最後に,筆者の研究活動を常に応援し,支えてくれた家族,すべての友人達に心よ
り感謝いたします.
2016 年 2 月
大谷
拓也
研究業績
研
種類別
題
名
究 業 績
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
1. 論文
○ Joint Mechanism That
Mimics Elastic
Characteristics in Human
Running
Machines 2016, 4(1), 5;
doi:10.3390/machines401
0005
2016 年 1 月
大谷拓也
橋本健二
礒道貴矢
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
○ Running with Lower-Body
Robot That Mimics Joint
Stiffness of Humans
Proceedings of the 2015
IEEE/RSJ International
Conference on Intelligent
Robots and Systems
(IROS2015), pp.
2015 年 9 月
大谷拓也
橋本健二
八原昌亨
宮前俊介
礒道貴矢
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
2015 年 9 月
大谷拓也
橋本健二
濱元伸也
宮前俊介
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
Front. Robot. AI 2:17.
2015 年 6 月
doi:
10.3389/frobt.2015.00017
大谷拓也
橋本健二
八原昌亨
宮前俊介
礒道貴矢
塙真太郎
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
3969-3974
Knee Joint Mechanism That
Mimics
Elastic Characteristics and
Bending in Human Running
Proceedings of the 2015
IEEE/RSJ International
Conference on Intelligent
Robots and Systems
(IROS2015), pp.
5156-5161
○ Utilization of Human-Like
Pelvic Rotation for Running
Robot,
研究業績 - 1
大谷拓也 博士論文
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行年
月
連名者
1. 論文
の続き
Leg with Rotational Joint
That Mimics Elastic
Characteristics of Human
Leg in Running Stance Phase
Proceedings of the 14th
IEEE-RAS International
Conference on Humanoid
Robots (Humanoids
2014), pp. 481-486
2014 年 11 月
大谷拓也
Thomas George,
瓜生和寛
八原昌亨
飯塚晃弘
濱元伸也
宮前俊介
橋本健二
Matthieu Destephe
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
Hopping Robot Using Pelvic
Movement and Leg Elasticity
Proceedings of 2014 XX
CISM-IFToMM
Symposium on Theory
and Practical of Robots
and Manipulators
(ROMANSY 2014), pp.
235-243
2014 年 6 月
大谷拓也
瓜生和寛
八原昌亨
飯塚晃弘
濱元伸也
宮前俊介
橋本健二
Matthieu
Destephe
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
Running Model and Hopping
Robot Using Pelvic
Movement and Leg Elasticity
Proceedings of the 2014
IEEE International
Conference on Robotics
and Automation (ICRA
2014), pp. 2313-2318
2014 年 5 月
大谷拓也
八原昌亨
瓜生和寛
飯塚晃弘
橋本健二
岸竜弘
遠藤信綱
阪口正律
川上泰雄
玄相昊
林憲玉
高西淳夫
研究業績 - 2
研究業績
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
1. 論文
の続き
2014 年 5 月
岸竜弘
遠藤信綱
野澤隆司
大谷拓也
SarahCosentino
Massimiliano
Zecca,
橋本健二
高西淳夫
Bipedal humanoid robot that
makes humans laugh with
use of the method of comedy
and affects their
psychological state actively
Proceedings of the 2014
IEEE International
Conference on Robotics
and Automation (ICRA
2014), pp. 1965-1970
Foot Placement Modification
for a Biped Humanoid Robot
with Narrow Feet
The Scientific World
2014 年 1 月
Journal, Vol. 2014, Article
ID 259570, 9 pages,
January, 2014
橋本健二
服部賢太郎
大谷拓也
林憲玉
高西淳夫
Impression Survey of the
Emotion Expression
Humanoid Robot with
Mental Model based
Dynamic Emotions
Proceedings of the 2013
IEEE International
Conference on Robotics
and Automation, pp.
1655-1660
2013 年 5 月
岸竜弘
遠藤信綱
Matthieu
Destephe
大谷拓也
Lorenzo
Jamone
Przemyslaw
Kryczka
Gabriele
Trovato
橋本健二
Sarah
Cosentino
高西淳夫
New Shank Mechanism for
Humanoid Robot Mimicking
Human-like Walking in
Horizontal and Frontal Plane
Proceedings of the 2013
IEEE International
Conference on Robotics
and Automation, pp.
659-664
2013 年 5 月
大谷拓也
飯塚晃弘
高本大己
本橋弘光
岸竜弘
Przemyslaw
Kryczka
遠藤信綱
Lorenzo
Jamone
橋本健二
高嶋孝倫
林憲玉
高西淳夫
研究業績 - 3
大谷拓也 博士論文
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
1. 論文
の続き
顔面各部の広い可動域お
よび顔色により豊かな表
情表現が可能な 2 足ヒュ
ーマノイドロボット頭部
の開発
日本ロボット学会誌,
Vol. 31,No. 4,pp.
106-116
2013 年 5 月
Development of Expressive
Robotic Head for Bipedal
Humanoid Robot
Proceedings of the 2012
IEEE/RSJ International
Conference on Intelligent
Robots and Systems, pp.
4584-4589
2012 年 10 月 岸竜弘
大谷拓也
遠藤信綱
Przemyslaw
Kryczka
橋本健二
中田圭
高西淳夫
Development of Distributed
Control System and
Modularized Motor
Controller for Expressive
Robotic Head
Proceedings of the 19th
CISM-IFToMM
Symposium on Robot
Design, Dynamics and
Control
(ROMANSY2012), pp.
183-190
2012 年 6 月
大谷拓也
岸竜弘
Przemyslaw
Kryczka
遠藤信綱
橋本健二
高西淳夫
Development of Expressive
Robotic Head for Bipedal
Humanoid Robot with Wide
Moveable Range of Facial
Parts and Facial Color
Proceedings of the 19th
CISM-IFToMM
Symposium on Robot
Design, Dynamics and
Control
(ROMANSY2012), pp.
151-158
2012 年 6 月
岸竜弘
大谷拓也
遠藤信綱
Przemyslaw
Kryczka
橋本健二
中田圭
高西淳夫
研究業績 - 4
岸竜弘
遠藤信綱
大谷拓也
Przemyslaw
Kryczka
橋本健二
中田圭
高西淳夫
研究業績
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
1. 論文
の続き
2012 年 5 月
橋本健二
竹崎裕記
本橋弘光
大谷拓也
岸竜弘
林憲玉
高西淳夫
2. 講演 骨盤 運動に着 目した2足 第 33 回日本ロボット学 2015 年 9 月
走行ロボットの開発(第 11 会学術講演会予稿集,
報: CFRP 重ね板ばねによ 3I1-04
る軽 量高出力 弾性関節機
構)
大谷拓也
礒道貴矢
橋本健二
八原昌亨
宮前俊介
林憲玉
高西淳夫
骨盤 運動に着 目した2足 第 33 回日本ロボット学 2015 年 9 月
走行ロボットの開発(第 10 会学術講演会予稿集,
報:弾性要素と能動的な蹴 3I1-03
り出 しから跳 躍力を獲得
できる膝関節機構)
礒道貴矢
大谷拓也
橋本健二
八原昌亨
宮前俊介
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
骨盤 運動に着 目した2足 日本 IFToMM 会議シン
走行ロボットの開発(第 9 ポジウム前刷集(第 21
報:人間の脚弾性を模擬し 回)
た下 半身ロボ ットによる
矢状 面におけ る片脚走行
の実現)
大谷拓也
八原昌亨
橋本健二
宮前俊介
礒道貴矢
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
Biped Walking Stabilization
Based on Gait Analysis
Proceedings of the 2012
IEEE International
Conference on Robotics
and Automation, pp.
154-159
2015 年 7 月
研究業績 - 5
大谷拓也 博士論文
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
2. 講演
の続き
骨盤 運動に着 目した2足 第 32 回日本ロボット学 2014 年 9 月
走行ロボットの開発(第 8 会学術講演会予稿集,
報:膝関節に能動屈伸機構 1B1-03
と弾 性要素を 有する2足
走行ロボット脚部)
濱元伸也
大谷拓也
飯塚晃弘
宮前俊介
瓜生和寛
八原昌亨
橋本健二
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
骨盤 運動に着 目した2足 第 32 回日本ロボット学 2014 年 9 月
走行ロボットの開発(第 7 会学術講演会予稿集,
報:着地時間推定を用いた 1B1-02
連続跳躍の実現)
大谷拓也
飯塚晃弘
宮前俊介
濱元伸也
八原昌亨
橋本健二
林憲玉
高西淳夫
骨盤 運動に着 目した2足 第 32 回日本ロボット学 2014 年 9 月
走行ロボットの開発(第 6 会学術講演会予稿集,
報:走行運動を目指した腰 1B1-01
部関節の強度強化)
宮前俊介
大谷拓也
飯塚晃弘
濱元伸也
八原昌亨
橋本健二
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
骨盤 運動に着 目した2足 日本 IFToMM 会議シン
走行ロボットの開発(第 5 ポジウム前刷集(第 20
報:人間の骨盤動揺と多関 回)
節脚 の関節弾 性を模擬し
た跳躍ロボット)
大谷拓也
八原昌亨
瓜生和寛
飯塚晃弘
濱元伸也
宮前俊介
橋本健二
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
研究業績 - 6
2014 年 5 月
研究業績
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
2. 講演
の続き
漫画表現への特化により
高い感情表出能力を有す
る2足ヒューマノイドロ
ボット頭部の開発
日本ロボット学会第 31
回学術講演会予稿集,
2H2-02
2013 年 9 月
二木元
岸竜弘
遠藤信綱
トロヴァト
ガブリエレ
大谷拓也
飯塚晃弘
デステフ マ
チュー
橋本健二
高西淳夫
骨盤運動に着目した2足
日本ロボット学会第 31
走行ロボットの開発(第 4 回学術講演会予稿集,
報:骨盤回旋運動を利用し 1C1-03
た走行制御)
2013 年 9 月
大谷拓也
飯塚晃弘
八原昌亨
瓜生和寛
橋本健二
林憲玉
高西淳夫
笑い方策を利用した2足
ヒューマノイドロボット
による人間の笑い誘発と
心理状態への積極的な働
きかけ
日本ロボット学会第 31
回学術講演会予稿集,
1C3-06
2013 年 9 月
岸竜弘
遠藤信綱
大谷拓也
Sarah
Cosentino
野澤隆司
Massimiliano
Zecca
橋本健二
高西淳夫
人体運動シミュレータと
日本ロボット学会第 31
しての2足ヒューマノイ
回学術講演会予稿集,
1C1-01
ドロボットの開発(第 17
報:歩行中の視線安定を維
持する頭部姿勢安定化モ
デル)
2013 年 9 月
Przemyslaw
Kryczka
南重松行紀
大谷拓也
橋本健二
Egidio Falotic
Cecilia Laschi
Paolo Dario
Alain Berthoz
林憲玉
高西淳夫
研究業績 - 7
大谷拓也 博士論文
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
2. 講演
の続き
骨盤運動に着目した2足
日本ロボット学会第 31
走行ロボットの開発(第 3 回学術講演会予稿集,
報:板ばねを用いた弾性可 1C1-02
変機構を持つ回転関節脚)
2013 年 9 月
瓜生和寛
大谷拓也
八原昌亨
飯塚晃弘
濱元伸也
デステフ マ
チュー
橋本健二
保原浩明
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
骨盤運動に着目した2足
日本 IFToMM 会議シン
走行ロボットの開発(第 2 ポジウム前刷集(第 19
報:骨盤運動と脚弾性を活 回)
用した跳躍運動の実現)
2013 年 6 月
八原昌亨
大谷拓也
瓜生和寛
飯塚晃弘
岸竜弘
遠藤信綱
橋本健二
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西淳夫
骨盤運動に着目した2足
日本機械学会ロボティ 2013 年 5 月
走行ロボットの開発(第1 クス・メカトロニクス講
報:骨盤運動と脚弾性を活 演会 2013,2A1-I04
用した走行モデルの考案)
研究業績 - 8
大谷拓也
八原昌亨
瓜生和寛
橋本健二
阪口正律
川上泰雄
林憲玉
高西 淳夫
研究業績
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
2. 講演
の続き
超小型無線慣性センサユ
ニット WB-4 の開発-2足
ヒューマノイドロボット
の脚部姿勢とたわみ量測
定-
第 13 回計測自動制御学 2012 年 12 月
会システムインテグレ
ーション部門講演会予
稿集,pp. 2798-2803
人体運動シミュレータと
日本ロボット学会第 30
しての2足ヒューマノイ
回記念学術講演会予稿
ドロボットの開発(第 16
集,4K1-6
報:水平面と前額面におけ
る人間の歩行運動が模擬
可能な下腿機構)
2012 年 9 月
高い情動表出能力を有す
る2足ヒューマノイドロ
ボット頭部の開発
日本ロボット学会第 29
回学術講演会予稿集,
1J3-7
2011 年 9 月
ヒューマノイドのための
モジュール化された多機
能小型モータコントロー
ラの開発
日本ロボット学会第 29
回学術講演会予稿集,
3K2-8
2011 年 9 月
蒲旭
本橋弘光
大谷拓也
瓜生和寛
八原昌亨
クリチェカ・
プシェミスワ
フ
リン・ゾウワ
ピーターセ
ン・クラウス
橋本健二
セッサ・サル
バトーレ
ゼッカ・マッ
シミリアーノ
高西淳夫
飯塚晃弘
高本大己
大谷拓也
本橋弘光
Przemyslaw
Kryczka
遠藤信綱
橋本健二
高嶋孝倫
林憲玉
高西淳夫
岸竜弘
遠藤信綱
大谷拓也
Przemyslaw
Kryczka
橋本健二
中田圭
高西淳夫
大谷拓也
Przemyslaw
Kryczka
遠藤信綱
岸竜弘
橋本健二
高西淳夫
研究業績 - 9
大谷拓也 博士論文
種類別
題
名
発表・発行掲載誌名
発表・発行
年月
連名者
3. 特許
移動ロボット及び先端ツ
ール
2足歩行ロボットの移動
制御システム
特願 2014-263528
日本ロボット学会研究奨
励賞
Young Investigator Fund Best
Paper Award
Young Investigator Fund Best
Paper Award Finalist
日本ロボット学会
特願 2013-238123
4. 受賞
SI2012 優秀講演賞
研究業績 - 10
2015 年 9 月
第 21 回日本 IFToMM 会 2015 年 7 月
議シンポジウム
第 20 回日本 IFToMM 会 2014 年 5 月
議シンポジウム
第 13 回計測自動制御学 2012 年 12 月 蒲旭
会システムインテグレ
本橋弘光
ーション部門講演会
大谷拓也
瓜生和寛
八原昌亨
Przemyslaw
Kryczka
林 焯华
Klaus Petersen
橋本健二
Salvatore Sessa
Massimiliano
Zecca
高西淳夫
Fly UP