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大学におけるジャーナリズム研究・教育の現状と問題点 今 村 庸 一
駿河台大学 文化情報学研究所 小研究会 2009.7.16 大学におけるジャーナリズム研究・教育の現状と問題点 文化情報学研究所長・メディア情報学部教授 今 村 庸 一 <梗概> 日本におけるメディア研究の中で、ジャーナリズム研究は、特異な位置に置かれてきた といえる。伝統的にジャーナリズム研究は専門の学部や学科を大学に設置しているのは少 数にすぎない。その多くは政治学や経済学などの基礎的な知識が求められるにもかかわら ず、文学部や社会学部などの中に置かれてきた場合が多い。 一方、大学から、新聞、出版、放送などのマスコミ企業に人材を輩出するための大学で の教育体制といえば、就職対策の一環として、マスコミ講座を開いたり、また、現職の記 者や編集者を非常勤講師に招いたりして、学部教育とは別にしているところも多い。欧米 先進国と比べると、この分野の日本の大学の対応は質量ともに大きな後れをとっているだ けでなく、大学でジャーナリズムに関する研究や教育について、何を、どうすべきか、と いう合意さえ希薄であるのが現状である。 この問題については、本年の日本マス・コミュニケーション学会(2009.6.6∼6.7)のシ ンポジウムでも取り上げられ、若い世代へのジャーナリスト教育を、どこで、誰が行うべ きかという問題について、活発な意見が交わされた。 (早稲田大学大学院と朝日新聞の事例) 早稲田大学の J-School が開設されて1年。マスコミの現場と密接に連携しながら、その養 成目標は、専門知、批判的思考力、現場主義、実践的スキル、ジャーナリズム理解、の5 つだという。現在、修士号授与に向けて、その内容を巡って試行錯誤が続いている。 一般に、ジャーナリスト教育には、OJT(On the Job Training)が必要とされている。 これは大学で教えるべきか、学生が入社後に企業が教えるべきか、議論が分かれている。 アメリカでは医者や弁護士のように、ジャーナリストは社会に不可欠の知識や技能を有す る専門職であるという認識が定着している。そのため、大学には専門的な職業人を輩出す る責任があり、またジャーナリズムの構造やメディア環境の変化などを分析する専門の研 究者が、当然のように社会から求められる背景がある。 現在の問題は、デジタル機器の発達やインターネットの普及などで、映像・音声などの 情報が、誰でも簡単に発信できる時代に、大学でジャーナリズムの理解と、ジャーナリス ト養成をどのように進めていくかということにある。情報の授受について、その社会性、 政治性、文化性など、メディアが担っている役割を学部の段階から教え、また専門職とし てのジャーナリストの役割を理解させる、広範な教育システムが早急に求められる。