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14)セージとサルビア

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14)セージとサルビア
花の縁 05-02-14
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14)セージとサルビア
セージはシソ科の多年草である。南ヨーロッパ、特に地中海沿岸地方が原産で、
広くイタリア、ギリシャ、ユーゴスラビア、アルバニア、またアメリカなどにも分布
する。美しい花を咲かせるサルビアとは極めて近い品種で、日本へは明治 22 年、1890 年頃
に渡来したといわれている。高さは 1m ほど、株の根元は木質化して低木状となり、
葉裏はビロード状の軟毛で覆われ白色になる。初夏、白や紫、青色の小花を咲かせる。
葉には強い芳香があって、
『ピネン』
『シネオール』などの精油分を含み、古くから
薬草として栽培されてきた。学名は『Salvia officinalis』で、属名はラテン語の「治す」
「救う」を意味する『salvare』で、頭脳の働きをよくするとされ、強壮剤や長寿薬
としてもひろく用いられていた。
セージとローズマリーは近縁の種であるために、香も効能もよく似ている。それ
ばかりかこの植物にまつわる物語も、ローズマリーとオーバーラップしているものも
少なくない。昔は同じ植物と思われていたのかも知れない。キリスト教徒の間では、
聖母マリアがヘロデ王に追われてエジプトへの脱出をこころみたとき、追手から身を
守る場所として、この植物の繁みが選ばれたという。このために祝福を与えられ、その
全ての葉から、すばらしい香りを放つようになったと伝えられている。
これとは別の物語によれば、セージは池のかたわらに聳えるオークの洞に棲む
ニンフだったとされている。
その池には水仙が見事な花を開き、
森には小鳥が戯れ、
平和な時が流れ、ニンフはまだ人間の姿など見たこともなかった。ところがある日
突然、角笛の音が森に木精し、 猟犬とともに若くて美しい王様がこの池のほとりに
現れる。そしてニンフと王様はたちまち恋に落ちるが、ニンフにとって人を愛する
ことは死を意味していた。やがてニンフは王様の愛を受け入れて、王様の両腕に抱き
しめられるが、その腕の中で彼女は静かに息を引き取ったのである。 王様はニンフを
丘に横たえて池の水を与えるが、もはや息を吹き返すことはなかった。深い悲しみの中、
王様はその場所を後にしたと伝えられ、
そこにはセージが生えたというわけである。
中世になるとセージはキリスト教全盛の中で、修道院や教会でしきりに栽培される
ようになる。精神を高揚させたり、強壮剤としての働きが知られ、薬草としての効能
が注目されたのである。またヨーロッパでは若い女性が、この香りを混ぜた強壮剤を
飲んでから眠りにつくと、未来の夫の夢を見ることができるという俗信がある。
しかしセージが最も利用されたのは、やはり料理の世界であろう。乾燥させた
セージの葉は一見するとカビが生えたように見えるが、これは前述のごとく葉の裏面
が細毛で覆われているためで、シネオールとピネンの香りは、肉の臭みを和らげる
働きがある。このため豚肉料理やソーセージ、レバーや肉のマリネ、さらにはハンバーグ
や煮込み料理、ひき肉を用いた詰めもの料理などにも利用され、世界中でもっとも
大事な香辛料の一つになっている。
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メキシカンブッシュセージ『Salvia leucantha 』 (さいたま市緑区)
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メキシカンブッシュセージは最近ではアメジストセージと呼ばれている(さいたま市緑区)
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満開のメキシカンブッシュセージ、10 月ごろが花盛りである(さいたま市緑区)。
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ヴェルレーヌ(Paul Marie Verlaine)は「秋の日のヴィオロンの・・・」(上田敏訳)と歌っているが、
筆者にとっての秋は、セゴヴィア(Andres Segovia)のギターの調べのような気がする。そして
このメキシカンブッシュセージは、なぜかセゴヴィアの『秋』を思い出させてくれる。
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ガラニティカセージは別名アニスセンテッドセージとかメドーセージなどとも呼ばれる。学名
は『Salvia guaranitica 』で、花には蜜が多いのか昆虫たちが集まる(さいたま市緑区)。
ガラニティカセージに吸蜜にやって来たヒメアカタテハ(東京都小平市薬用植物園)
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薬用種の、秋の紅花サルビア。薬用種とはいえ、サルビアには美しい花を咲かせるものが
多い。このためしばしば庭でも栽培されている(東京都小平市薬用植物園)
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ローズリーフセージ『Salvia involucrate 』は秋咲きで、美しい花を咲かせる(小平市薬用植物園)
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ロシアンセージ、学名は『Perovskia atriplicifolia』。原産地はアフガニスタンからヒマラヤにかけてで、
夏から秋 10 月末まで花を咲かせる。このため別名は「秋のラベンダー」である(さいたま市緑区)
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ロシアンセージは7~10 月にかけて開花し、陽当たりがよく水はけのよい土を好み 10 月ごろ
の花が美しい。ただ暑さは苦手なので真夏には遮光してあげるとよい(さいたま市緑区)。
ロイアルパープルセージ、学名は『Salvia muelleri』で、青紫が美しい(さいたま市緑区)。
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ブルーサルビアはアメリカ南西部が原産で、学名は『Salvia farinacea』である。夏から秋にかけて青、
または紫色の花を次々と咲かせる。白色の品種もあり公園の花壇などに植えられる(埼玉県戸田市)。
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咲き始めたプレーリーセージ。学名は『Salvia azurea』である(さいたま市緑区慶応大学)
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薬用種のサルビア・ルーゲン。ブルーサルビアとして扱われていることが多い。
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同じく薬用種のサルビア・ネモローザ(上、下とも小平市薬用植物園)
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セージは肉の臭みを中和し、古くからソーセージに用いられていた。ソーセージとはこのセージに
由来するといわれている。学名は『Salvia officinalis』で、ヨーロッパ南部原産である(薬用植物園)。
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イギリスでは「メドークラリー」と呼ばれるセージ。学名は『Salvia pratensis』
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