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インターネットの普及と日本の広告市場
インターネットの普及と日本の広告市場: 広告主の視点 要約 日本の広告市場は 6 兆円の規模を誇る世界第二位の市場である。その巨大な市場の 中心的プレイヤーである日本の広告会社は、旧来の経営形態と業界秩序を保持したまま、 一業種多社制に代表される特異な取引慣行を続けてきた。しかし近年、日本の広告市場 にもようやく変化の波が押し寄せている。インターネットの普及とそれに伴う消費者行 動の変化、BS,CS デジタル放送などの新しい媒体の出現、広告主のビジネスにおけるグ ローバル展開の進行、外資系広告会社の日本市場進出、等々のことは、日本の広告業界 に何らかの新しい形の対応が必要であることを迫っている。 本論文においてはこのような問題意識に基づき、1999 年8月から 10 月にかけてわが 国の主要な広告主 30 社の宣伝部長および宣伝担当役員にインタビュー調査を行い、分析し た。調査の結果、伝統的広告取引における代理店及び媒体社への不満が確認された。 また、一部の広告主は、広告会社評価の導入、修正コミッション制の採用等広告取引 の近代化に向けて少しずつ動き始めており、インターネットの活用に向け活動をはじ めていることが明らかになった。 伝統的媒体取引による構造的な問題を解決する一つの糸口となるのが、媒体の多 様化とインターネットの爆発による媒体の多様化と選択肢の増加である。媒体が多様 化し選択肢が増加すれば、媒体市場は売り手市場から買い手市場へとシフトし、顧客 である広告主の発言力が増大することは間違いない。しかし、現在は可能性を模索し 目標を設定する段階にあり、本格的なインターネット・マーケティングの活用と広告 市場の変革には至っていない。 Japanese Advertising Market in the Digital Environment: Advertisers Perspectives Abstract Advertising market in Japan is the second largest market in the world. It is a highly concentrated market characterized by old-fashioned transaction process and unique business practice such as "nonexclusive client relations". There, however, the emergence of new media, market entrance by foreign ad agencies, and the rise of the Internet are challenging the old fashioned client -agency relationships. This paper explores how the advertisers perceive the changes in their market environment and clarifies their views on the communication strategies and on the transactions with ad agencies in the digital environment. The findings from the interview research on 30 major advertisers in Japan delineate the significant dissatisfaction on traditional business practice with the advertising agencies and the media companies. Some advertisers started the move to modernize the business practice by introducing the evaluation system and adjusting the commission system, and they are trying to take advantage of the emergence of the Internet. The paper concludes with the prospects for the future changes in this market. インターネットの普及と日本の広告市場: 広告主の視点 片平秀貴 (東京大学経済学部) 山本晶 (東京大学大学院) 1. はじめに 2. 伝統的広告と広告取引 3. インターネット広告と広告取引 4. 実証分析:宣伝部長インタビュー 5. 今後の展望 1.はじめに 日本の広告市場は 6 兆円の規模を誇る世界第二位の市場である。その巨大な市場の 中心的プレイヤーである日本の広告会社は、旧来の経営形態と業界秩序を保持したまま、 一業種多社制に代表される特異な取引慣行を続けてきた。しかし近年、日本の広告市場 にもようやく変化の波が押し寄せている。インターネットの普及とそれに伴う消費者行 動の変化、BS,CS デジタル放送などの新しい媒体の出現、広告主のビジネスにおけるグ ローバル展開の進行、外資系広告会社の日本市場進出、等々のことは、日本の広告業界 に何らかの変革が必要であることを迫っている。 日本の広告市場は、世界のそれと比較して様々な点で異質である。その第一の特徴 として、広告主の一業種多社制が挙げられる。欧米の広告会社は広告主の戦略的な新製 品、およびマーケティングに深く関与するため、一業種一社制を厳守し、同じ業種の中 で競合する広告主に対するサービスは提供しない。一方、日本においては同業種内で競 合する複数の広告主に広告サービスを提供することは一般的な慣習であり、機密保持の 問題に関しては広告主ごとに担当する部署に独立性を持たせることによって対応して いる。 第二に、欧米の広告会社は媒体社と広告主の間の仲介業務からマーケティング、プ ロモーションといった付加価値事業に事業の重点をシフトさせているのに対し、収支構 1 造から見た日本の広告会社の中心的業務は依然として媒体と広告主の仲介であること が挙げられる。広告会社の最終的な生産物であるクリエイティブも、海外においてはソ フトとしてそれ自体利益確保の大きな源泉となっているが、日本においては媒体取扱い シェア確保のための副次的ツールに過ぎない。さらに、欧米では広告会社の報酬の形態 が固定コミッション制(媒体購入費の一定割合(典型的には約 15%)を媒体手数料とし て徴収)からフィー制(固定制・時給制のコンサルティングフィー)へと移行している のに対し、日本では依然として媒体手数料による収入に依存している。 グローバル戦略に関しても、海外の大手広告会社は自国外取扱高を平均 50-60%に まで拡大させ、着実に地理的拡大を進めることによって広告主のグローバル戦略に対応 しているのに対し、日本の広告会社の取扱いは未だ国内からのものがほとんどを占めて いる。 一方、広告コミュニケーションの対象たる消費者はというと、インターネットの普及 に伴いその媒体接触行動は大きく変化している。インターネットの利用時間が増加した 分、マス媒体の利用時間が減少しているのだ。米ジュピター社の調査によると、回答者 の 40%が「インターネットの利用時間が増加した分、TV の利用時間が減少した」と回 答している。それに追い討ちをかけるように、BS デジタル放送等によるテレビの多チ ャンネル化が進行しており、広告媒体としての地上波テレビの圧倒的地位がこのまま続 くとは考えにくい。 インターネットは消費者に媒体接触の量的変化を引き起こしただけでなく、購買行動 自体の質的変化をも引き起こした。情報探索が容易になったことによる情報感度の向上、 ウェブ・コミュニティの普及に伴う口コミの活性化、企業への不平不満の積極的表明、 グループを作って新しい商品を企画する「プロシューマー」の出現、などはそのほんの一 例である。 このように、媒体環境が変わり、消費者が変わっている状況下において、広告ビジネ スも変わらざるを得ないのは間違いない。では日本の広告主は現在起こりつつある変化を どのように認識し、広告コミュニケーション自体を、そしてそれを供給する広告会社との 取引をどう位置付けようとしているのか。そしてその結果日本の広告市場はどのような変 化を遂げようとしているのか。本論文においてはこのような問題意識に基づき、1999 年8 月から 10 月にかけてわが国の主要な広告主 30 社の宣伝部長および宣伝担当役員にインタ ビュー調査を行い、分析した。 本論文の構成は次のとおりである。まず、第 2 節でインターネット出現以前の日本の 広告市場と広告取引について論じ、従来のマス4媒体を中心とした広告ビジネスについて 述べる。つぎに、第 3 節でインターネット広告と広告取引について説明し、ついで第 4 節 でインターネットの出現による日本の広告市場における変化の兆しについて論じる。第 5 節で広告主がその変化の兆しをどのように認識しているかに関する実証分析の結果を提示 し、最後に今後の展望を論じたい。 2 2. 伝統的広告市場と広告取引 広告取引代理業の基本的機能としては、広告主に対しては①市場調査および分析、② マーケティング/ブランド戦略提案、③広告媒体購入、④広告原稿作成、④広告料金の 立替払い等が挙げられ、媒体社に対しては、①新規広告主の開拓、②広告主の広告料金 不払いのリスク負担、③広告スペース売れ残りリスクの回避、④広告主からの苦情処理 等が挙げられる。以下図 1 に広告主―広告会社―媒体社間の取引の流れを示し、具体的 に説明していきたい。 図1 広告取引のルート 媒体社 広告会社 広告主 提案 オリエンテーション 予備交渉 マーケティング戦略/ク リエイティブ戦略/媒体 戦略立案 プレゼンテーション 承認 交渉 広告原稿制作、媒体スペ ース確保、料金交渉 プレゼンテーション 送稿 承認 媒体社 広告料金請求 広告料金請求 広告料金支払 (手数料分控除) 広告料金回収 3 まず、広告会社からの自主的な提案か、広告主からの依頼(オリエンテーション/ブ リーフィング)によってプロジェクトが立ち上がる。プロジェクトは新製品導入の包括 的なマーケティング戦略、製品イメージ調査、広告クリエイティブ制作プロジェクト、 イベント企画など、マーケティングの様々な側面があり得る。 プロジェクトが立ち上がると、状況に応じて広告会社はマーケティング/ブランド戦 略、クリエイティブ戦略、媒体戦略等々の全体または一部を社内で立案する。媒体に関 しては、広告主に提案する前に実現可能性を媒体社と事前交渉を行うことが多い。広告 会社の社内で戦略が策定された後、広告主に対してプレゼンテーションが行われる。戦 略が承認されればプランの実施へと進み、承認されない場合は再プレゼンとなる。 戦略が承認された後は、細部を決定し、実行する作業へと移る。クリエイティブの場 合は広告原稿や CF 素材の制作へと移り、媒体戦略の場合はスペースの確保や料金交渉 へと移る。この広告料金は広告主の出稿額、広告会社の取扱高などに大きく依存し、基 本的には出稿額の大きい広告主(広告会社)が媒体社に優遇され、よい広告枠を有利な レートで確保することができる。逆に、出稿額の小さい広告主(広告会社)は希望する 広告枠を媒体社から供給してもらうことは困難であるし、ボリュームディスカウントも 期待できない。正規の媒体料金表は形骸化しており、どの広告主がいくらで媒体を購入 しているかは明らかにされていない。 完成した広告原稿や媒体プランは広告主へとプレゼンテーションされ、最終確認が行 われる。そして、承認された広告素材は TV 局、雑誌社、新聞社といった媒体各社に送 られ、オンエアあるいは掲載となり、媒体社から広告会社へと広告枠の料金が請求され る。広告会社は自社の手数料を控除した金額を媒体社に対して支払う。手数料は通常約 15%である。その後、広告会社は広告主より広告料金を回収するのである。 以上が広告取引の流れである。図 1 に示した通り、媒体社と広告主の間には必ず広告 会社の存在があり、媒体社と広告主が直接交渉することは例外的である。 3 インターネット広告と広告取引 以上、伝統的なマス広告の広告取引について述べてきた。ここからはインターネットの 登場によって、広告手法や広告取引にどのような変化がおきているのかについて論じた い。 インターネット広告とは、インタラクティブかつ高度にターゲティングが可能な広告 手法である。ハイパーリンクによって、広告視聴からそのまま視聴者による資料請求、ア ンケート回答、購買等のアクションが誘導される。したがって、インターネット広告には インプレッション効果(認知促進)とレスポンス効果(クリックによる各種申込、アンケ ート回答、購買といった行動)の二つの効果がある。前者は伝統的なマス広告と同様の効 果であり、後者は,ダイレクトレスポンス形マス広告を除くと,インターネット広告固有の 4 効果であると言っていい。 ジュピター・メディアメトリックス社の試算によると、日本のインターネット広告市場の 規模は 1999 年現在で 220 億円であり、2000 年には 470 億、2001 年には 790 億まで拡大す る。このようにインターネットは重要な広告媒体に成長しつつあり、ラジオ、屋外広告に 迫りつつある。表1にインターネット広告と伝統的なマス広告の違いをまとめた。 表 1インターネット広告の特徴 メディアとしての特徴 コミュニケーションの性質 顧客の情報に対する関与度 視聴者情報分析の迅速性 視聴者調査主体 視聴者情報の精度 広告取引市場 伝統的な広告 プッシュ型 一方的/相互作用なし 低い データ収集解析に数週 間から数ヶ月要する 調査会社のみ パネルデータ 売り手市場 インターネット広告 プル型 双方向型/相互作用あり 高い リアルタイムで視聴者のデータ取 得,レポート作成可能 自社サイトの運営者も可能 パネルデータ+実数で把握も可能 買い手市場 ここで注目したいのは、インターネット広告の広告効果測定である。伝統的なマス広 告の場合、広告主が視聴者情報の分析をし、広告の費用対効果を測定するためには、調 査会社のパネルデータに依存するほかなかった。そして、データ収集解析には数週間か ら数ヶ月の時間を要した。調査会社と広告主の間には通常広告会社が介在しており、調 査会社の生データは広告会社へと渡り、広告会社が広告主のために加工・分析して広告 主へと報告される。つまり、自分の媒体購入やクリエイティブのパフォーマンスを自己 で分析して広告主に報告しているのであり、これでは自分の試験を自分で採点している のと同じことになる。 ところが、インターネット広告の場合、広告主は自社内でリアルタイムに視聴者情報 を把握することが可能になったのである。つまり、インターネット広告は費用対効果の 測定が容易となるのである。無論、他社サイトとの相対的な比較分析のためには横断的 なデータが必要であり、そういった意味では調査会社のインターネット視聴率データは 重要である。しかしここで強調したいのは、広告主自身が自社のネット広告の効果測定 を行えるようになった事実である。 次に、インターネット広告における広告取引形態をみていきたい。従来、広告主が媒 体スペースを購入するためには広告会社に購入を依頼するほか道がなかった。しかし、 この新たな広告市場においては新たな広告ビジネスと新たな取引形態が生まれている。 インターネット広告は新しい広告手法であり、マス広告とは技術も用語も異なる。この ためインターネット専門の広告会社やメディアレップが多数登場しており、広告主に新 たな選択肢を与えている。 メディアレップとはインターネット媒体社との契約に基づき、ウェブ上の複数の広告 5 媒体を束ね、広告主または広告会社に販売する企業である。この業態はメディアの仲介 と AD サーバーによる広告配信の二つの機能を持っている。広告会社にスペースを販売 する場合や、広告会社から委託を受け、広告配信代行を行う場合は、メディアレップは 広告会社と競合しない。しかし、広告主から直接媒体スペース購入依頼を受け、メディ アプランを策定し、広告を配信するような場合は、インターネット広告会社として伝統 的広告会社を脅かす存在となる。 伝統的なマス広告の場合、広告主は広告会社に依頼し、広告会社が媒体社から枠を購 入するという方法しかなかった。しかし、広告主がインターネット広告を出稿しようと する場合、広告主には4つの選択肢がある。 図2の(1)は広告会社もメディアレップも使わずに、広告主が直接媒体からスペース を購入する方法である。広告主は媒体と直接交渉することになるので、広告会社に支払 う 15%のコミッションを節約することができる。 (2)は従来どおり広告会社に依頼し、広告枠を購入する方法である。このような場 合、広告会社と取引することによる様々な付帯サービスを享受することができる。 (3)は伝統的な広告会社に依頼するが、広告会社が直接媒体と交渉するのではなく インターネット広告の専門知識と専門技術を有するメディアレップを通じて広告枠を 購入する方法である。 (4)広告主が伝統的な広告会社ではなく、インターネット広告専門のメディアレッ プと直接取引きするような方法である。このような取引が増加すれば、長く寡占市場で あった日本の広告市場は大きく変化する可能性があるといえよう。 図 2インターネット広告取引の枠組み 広告主 (1) (2) (3) (4) 広告会社 メディアレップ** AD サーバー* メディア メディア AD サーバー AD サーバー 6 メディア ここまで見てきたように、インターネットの登場によって、広告取引市場に変化の兆し が現れ始めたのは間違いない。 第一の変化は市場構造の変化である。基本的にマス広告市場は売り手市場であった。 それは、媒体市場が数少ない主要媒体社によって独占されていたためである。売り手市 場であったため、当然媒体料金は高止まりする。媒体手数料が収益源である広告会社は、 億単位のマス媒体のスペースを広告主に売ることが関心の中心となり、広告主の利益を 代表することよりも媒体枠を販売することに熱心になることは当然の帰結と言える。こ うした中で、不透明な媒体市場と曖昧な効果測定が行われてきたのである。 しかし、インターネット広告市場は買い手市場である。媒体であるウェブサイトは多 数存在し、企業ドメイン数だけでも 16 万以上ある。また、伝統的マス媒体と異なり、 広告会社の介入なく媒体を購入することも可能である。そして広告の特性上、広告会社 に依存することなく広告効果を測定することができるのである。 第二に、インターネット市場で要求される能力の独自性がある。インターネットはそ れ独自の専門技術と専門知識を必要とし、広告料金もリーチの限定性から安価であるた め、マス媒体を専門に扱ってきた広告会社にとって魅力が小さい。このことは独立系の インターネット広告会社やメディアレップの活躍の場を広げ、寡占市場である日本の広 告市場を変革する一つの原動力となりえる。 このように、インターネットの登場は日本の広告市場に大きな変化をもたらし得る。 このような状況において、広告市場の一翼を担う広告主は、広告会社や媒体との広告取 引をどのように捉えているのだろうか。次の実証分析で明らかにしたい。 4 実証分析:宣伝部長インタビュー データ 本小論のデータ・ソースは広告主に対するインタビューであるが、その詳細は下記の通 りである。 調査対象: 日本の主要広告主(表2参照) サンプル数: 30 社(内分析対象サンプル 28 社) 調査方法: インタビュー 調査時期: 1999 年 8 月−10 月 主要な調査項目: (表3参照) 7 表 2 調査対象企業(順不同) 本田技研工業 サントリー ライオン シャープ 資生堂 ゴールドマンサックス証券 キャノン キッコーマン トヨタ自動車 アメリカン・エキスプレス Int’l アサヒビール NOVA 花王 NEC オリンパス光学工業* 日本 IBM 富士写真フィルム メリル・リンチ日本証券 ソニー ネスレ日本 味の素 メルセデス・ベンツ日本 プロクター・アンド・ギャンブル 雪印乳業 日清食品 キリンビール ハウス食品 ハーゲンダッツ・ジャパン 日本リーバ 大塚製薬* *都合により今回の分析には用いられていない。 表 3 • • • • • 調査項目概要 どの広告会社とどのような付き合いをしているか 広告会社の成績評価に対してどのような方針で臨んでいるか 広告会社に対して満足している点,不満に思っている点 広告会社との取引における勘定形態 インターネットの普及をはじめとする媒体環境の変化は今後のコミュニケーション 戦略をどう変えていくか インタビューで得られた回答は当然のことながら定性的なテキスト形式の情報であ る。それを何らかの形で定量化するために、そのテキスト情報からキーとなるメッセー ジを多数抽出し、その頻度をカウントするという方法を用いた。その際に、コメントを その強度に応じて 3 段階に分け、強く主張している場合は 2 点、ただ言及していれば 1 点、言及していなければ 0 点としてウェイト付けしてデータ入力した。これがここでの 分析の基礎データである。 広告主のグループ分け インタビューから,日系の広告主が,現状の枠組を肯定的に捉えながらその中で変化 に対応していこうというグループと、新しい動きに対応してゆくには現状の枠組自体が 問題であるとするグループに二分されているのではないかという直感的感触が得られ た。本論文においては、表3に挙げられたいくつかの進歩派的または現状批判的メッセ 8 ージの得点と現状維持的発言の得点をから「革新度尺度」を定義し,この得点で日系広告 主を分類することにした。 表 4 革新度尺度 進歩派的要因 取引形態 コミッションからフィーに転換するだろう 修正コミッション制を採用 フィー制を採用 媒体への不満 媒体データが不備 自分のサービスの価値を正当化できるか ぬるま湯的雰囲気打破すべき 何をいくらで売っているのかはっきりさせるべき 広告会社への不満 媒体計画は驚くほど遅れている 変化についてゆくのに動きが遅すぎる プロ的リーダーシップない 金にならないことはやらない 透明性とディスクロージャー必要 クライアント側に立っていない 既得権的体質がある 広告会社との付き合い 評価システムあり 広告会社は原料の仕入先 すべての段階で自分がコミット 貢献度が高い広告会社を選択 非進歩派的要因 取引形態 ある程度どんぶり勘定だとやりやすい/わかりやすい 媒体 ある程度のいい加減さは歓迎 評価システム 評価は特にしてな い 評価はむずかしいのでやめた 日系の広告主についてその頻度分布を見ると,事前の推測どおり二つのグループに分 かれることが観察された。得点の高いグループを「日系進歩派」、低いグループを「日系 慎重派」と名づけ,「外資系」を含めて3つのグループを設定した。そして、各グループ の得点を集計し、そのグループ内平均値を「ポイント」として以後の分析に用いた(「ポ 9 イント」は全員がそのメッセージを強く主張しているとき 2.0,誰も主張していないとき 0.0 を取る)。 図 3日系企業の革新度の得点分布 22 1 20 18 2 16 14 3 4 56 革新度 12 7 8 10 8 6 9 4 10 11 12 2 16 17 13 0 14 15 -2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 18 19 20 -4 -6 19 -8 企業番号 広告取引の実態 はじめに、広告主のプロファイルを見ていきたい。表4にあるように、日系進歩派は宣 伝担当者の平均在職期間はグループ間で最長の 10.1 年であり、媒体部や制作部といった広 告会社の機能を内包している場合が多い。このことから日系進歩派が自社内に広告に関す る人的資源を蓄積していることがうかがえる。彼らは平均広告予算の金額も最も大きく、 金銭的にも組織的にも広告活動に積極的であることがわかる。 表 5 広告主のプロファイル 日系慎重派 日系進歩派 外資系 全体平均 平均在職期間(年) 3.8 10.1 2.8 7.7 平均予算額(億円) 205.9 261.3 87.5 184.9 平均取引広告会社数 3.9 10.1 2.8 5.6 広告会社の機能あり(ポイント) 0.5 0.9 0.2 0.5 調査対象 28 社の平均取引広告会社数は 5.6 社である。ただし、その内訳をみると外 資系広告主の平均取引社数は 2.8 社、日系進歩派は 10.1 社、日系慎重派は 3.9 社とグ ループ間に大きな差がある。調査対象企業の取引広告会社の中で最も金額シェアが大き いのは電通であり、全グループ共通で広告予算の約 40%を占めている。2 位の博報堂は 日系企業の広告予算の 30%弱を担当しているが、外資系広告主の間でその存在感は小 10 さい。また、電通、博報堂以外の広告会社のシェアは非常に低い水準にとどまっている。 この 28 社の広告主に関する限り電通と博報堂の取扱いシェアは公表されている全国シ ェアの約2倍にも上っており、市場が寡占状態にあることが伺える。 表 6 広告会社の金額シェア 広告会社の金額シェア (%) 電通 博報堂 アサツーDK その他日系広告会社 外資系広告会社 日系慎重派 46.9 27.5 2.9 12.3 0.9 日系進歩派 41.3 26.9 10.0 12.5 0.6 外資 43.3 3.3 0.0 1.1 51.1 全体平均 43.8 19.3 4.3 8.6 17.5 日系広告主は日系広告会社と主に取引しているのだが、その取引スタイルは進歩派と 慎重派で異なる。慎重派は進歩派と比較して少数の広告会社と取引し、そのシェア構成 を意識して一定に保つように努力している。例えば、一社の扱い高が増加すると、もう 一社に次のプロジェクトを任せるといったように、広告会社とバランスのとれた関係を 維持することに気遣っている。一方、進歩派は貢献度と得手不得手で冷静に広告会社の パフォーマンスを評価し、成果が期待に満たない場合は取引を停止することも辞さない。 日系進歩派は他グループと比較して担当広告会社を替えることが多いが( 「広告会社 を辞めさせることはある」:日系進歩派 0.9 ポイント、日系慎重派 0.5 ポイント、外資 系 0.0 ポイント) 、今回の調査全般の傾向として浮かび上がるのは、全グループに共通 した広告会社―広告主間の固定的な取引関係である。「広告会社を辞めさせることはな い」、「広告会社はパートナー」、「広告会社とは長く付き合う」、「新しい広告会社は難 しい」といったコメントがこの結果を裏付けている。 表 7 固定的取引関係 単位:ポイント 日系慎重派 日系進歩派 外資 全体平均 広告会社はパートナー 0.4 0.5 1.7 0.9 新しい広告会社は難しい 1.2 1 0.3 0.8 カテゴリーやブランドによって決まっている 0.5 0.9 0.7 0.7 広告会社とは長く付き合う 0.9 1 0.1 0.7 広告会社を辞めさせることはほとんどない 0.3 0.3 1 0.5 競合はやらない 0.3 0.4 0.4 0.4 しかし、この固定的な取引関係の背景にある理由はグループ間で異なる。例えば、外 資系広告主の場合は広告会社を真のパートナーとして認識し、永続的長期的取引を前提 として捉えている。また、広告会社の選択に本国の本部の承認が必要であることが多い ため、広告会社変更は容易でない。これに対し、日系慎重派は「広告会社とは長く付き 11 合」い、「新しい広告会社(との取引開始)は難しい」と考えているものの、取引広告 会社を必ずしも真のパートナーとは考えていない。このことは彼らが意識して「主導権 を渡さない」(日系進歩派 1.6 ポイント、日系慎重派 0.9 ポイント、外資 0.1 ポイント) ようにしていることからも明らかである。また日系では、新製品開発に関しても「ある 程度製品ができてから、決まってから」広告会社の参加を求める広告主がほとんどであ り、アイデアの段階から広告会社と作業をはじめることは稀である。これは多くの日系 広告主が広告会社を単に媒体とクリエイティブの購入先と捉え、真のパートナーとは捉 えていないことの表れである。この傾向は特に日系進歩派に顕著であった。 表 8 広告会社との取引関係 単位:ポイント まかせられない・主導権は渡さない 広告会社は長期的パートナー 広告会社とは長く付き合う 媒体とクリエイティブ担当会社は別 すべての段階で自分がコミット クリエイティブとは頻繁に接触 広告会社は仕入先 媒体とクリエイティブ担当会社は一緒 シェア構成を崩さないようにしている 日系慎重派 日系進歩派 外資 0.9 1.6 0.4 0.5 0.9 1.0 0.3 0.5 0.1 0.5 0.3 0.4 0.0 0.6 0.0 0.1 0.5 0.0 全体平均 0.1 0.9 1.7 0.8 0.1 0.7 0.9 0.6 0.8 0.5 0.0 0.2 0.0 0.2 0.4 0.2 0.0 0.2 固定的な取引関係においては、取引広告会社の入れ替わりは頻繁でなく、広告会社に 多少の不満があっても取引を継続している。今回のインタビューの中で、「広告会社を 替えても今より良くなるという見通しはない」というコメントがあった。このコメント に現れているように、不満を抱えながらも取引を継続せざるを得ないという閉塞的状況 にあることがわかる。 支払形態 広告会社との勘定形態については、未だに媒体費用に定率コミッションをかける「コ ミッション制」をとるところが圧倒的に多い。クリエイティブ戦略や媒体計画の立案と いった知的インプットはその中に含まれた「サービス」として扱われ,それらに対して別 途フィーが計上される例は少ない。しかしながらそこにも新しい動きが生まれている。 それはコミッション制をベースにしながらも,広告会社への支払額に何らかの貢献度を 反映させようという試みである。われわれはこれを「修正コミッション制」と名づけた。 修正コミッション制は、具体的には、固定コミッションの中から一定分をプールしそ れを貢献に応じて配分する「AE フィー制」 、貢献が十分でないときコミッションの割合 を減じる「可変コミッション制」、貢献に応じてボーナスを与える「ボーナス制」、フィ 12 ーベースで積上げ、結果的に合計が固定コミッションの計算金額以下になるように調整 する「積上げ定率制」等を総称したものである。このシステムはかなりの数の広告主に 浸透しており、とくにこれを牽引しているのは日系進歩派と外資系広告主である。 彼らはフィー制導入に関しても積極的であり、外資系広告主の一部は既にフィー制を 導入している。日系進歩派には将来フィー制への移行を予想しているものも少なくない。 しかし、日系慎重派の中には新システムへの変革よりも勘定の既存枠組の維持とある程 度の「どんぶり勘定」が残存することを暗に望んでいる雰囲気もある。欧米においては 1990年代の初頭に固定コミッション制からフィー制への移行が一気に進んだが、日 本においては直接フィー制へと移行するのではなく、コミッション制の枠組の中で実質 的にフィー制の色彩を強めていくという非常に日本的な便法が取られている。フィー制 が名実ともに業界基準となるには当分時間がかかりそうであるが、従来型の固定コミッ ション制が崩壊し始めているのは間違いない。 表 9 支払形態 単位:ポイント 日系慎重派 日系進歩派 外資 全体平均 修正コミッション制を採用 0.4 1.0 0.8 0.7 透明性必要 0.7 0.6 0.4 0.6 コミッションからフィーに転換するだろう 0.1 0.9 0.6 0.5 固定コミッションを採用 0.4 0.5 0.4 0.4 他よりよい条件で取引 0.0 0.6 0.3 0.3 フィーを採用 0.0 0.0 0.7 0.2 ある程度どんぶり勘定だとやりやすい 0.5 0.0 0.0 0.2 この修正コミッション制と表裏一体の関係にあるのが広告会社評価システムである。 これは、ある期間内におけるクリエイティブの質、ブランドの売上シェア、媒体購入の 費用対効果といった側面の貢献度を測定・評価するものである。この広告会社評価シス テムは修正コミッション率の決定に必要不可欠なシステムであり、透明、公正、かつ生 産的な取引関係を維持するのに役立っている。外資系と日系進歩派の多くは、実施頻度 や評価内容にばらつきはあるものの、何らかの形で広告会社評価システムを確立し、定 期的に実施している。修正コミッション制と同様に、評価システムに関しても日系慎重 派は消極的である。 表 10 広告会社評価システム 単位:ポイント 日系慎重派 日系進歩派 外資 評価システムあり 0.1 1.1 広告会社を辞めさせることはほとんどない 0.3 0.3 全側面を評価して広告会社の幹部に伝える 0.1 0.3 辞めさせることはある 0.5 0.9 13 全体平均 1.6 0.9 1.0 0.5 1.1 0.5 0.0 0.4 双方に隠し事があってはならない 評価システムを立ち上げた(るつもり) 売上の伸びに注目;ボーナスのベース 費用対効果 特にしてない むずかしいのでやめた 0.1 0.0 0.0 0.2 0.5 0.2 0.0 0.5 0.1 0.0 0.0 0.0 0.8 0.1 0.4 0.3 0.0 0.0 0.3 0.2 0.2 0.2 0.2 0.1 広告会社への不満 次に、広告会社に対する満足・不満足の結果を見ていきたい。外資系、日系進歩派、 日系慎重派の 3 グループを通じて、広告会社の貢献として高く評価されているのは、ポ イントの高い順にクリエイティブ、媒体購入、マーケティング戦略である。3 グループ 内で最も広告会社の貢献を高く評価しているのは日系慎重派であり、彼らはクリエイテ ィブと媒体購入のみならず、新製品提案や戦略策定後の具体的なプランの実施、さらに は仕事の仕方まで、幅広い分野で広告会社の貢献を認識している。 表 11 広告会社の貢献 単位:ポイント 日系慎重派 日系進歩派 外資 全体平均 クリエイティブ非常に助かる 0.8 0.4 0.9 0.7 媒体購入は役に立っている 0.5 0.1 0.8 0.5 戦略も助けを借りている 0.4 0.3 0.6 0.4 リサーチは自分で 0.2 0.3 0.1 0.2 部下と同じように仕事をしてくれる 0.3 0.0 0.2 0.2 電通は媒体支配力が図抜けていて無理が利く 0.4 0.0 0.1 0.2 フレッシュな新製品提案 0.4 0.0 0.0 0.1 ビジネスをわかってくれている 0.3 0.0 0.0 0.1 日系慎重派と対照的なのは日系進歩派である。第一に、広告会社の貢献に関して彼ら が明示的に発言する回数は、他グループと比較して圧倒的に少ない。次に、彼らはクリ エイティブや媒体購入といった広告会社の基幹的な機能に関してもプラスの貢献があ るという認識は低い。これは、彼らが自社内に媒体部や制作部といった広告会社の機能 を内包している場合が多いためであり、(表5参照)、極端なケースでは広告会社を単な る「仕入先(表 8 参照) 」として位置付け、取引していることが明らかになった。 広告会社に対する不満は、広告会社に対する満足よりもコメント数が圧倒的に多く、 広告主が広告会社に対して全般的に不満と不信感を抱いていることが伺える。その不満 は、大きく分けてパフォーマンスやコストに対する実質的な不満と、心情的な不信感の 二類型に分類することができる。また、グループ別に分析すると外資系広告主が広告会 社に対して他グループと比較して不満が顕著でない傾向が見て取れる。 14 表 12 広告会社への実質的不満 単位:ポイント 変化についてゆくのに動きが遅すぎる 広告会社の戦略立案力は弱い プロ的リーダーシップない 透明性とディスクロージャー必要 クリエイティブの質向上必要 勉強不足 旧態然としている 媒体料高い。費用対効果疑問 何をいくらで売っているのか不透明 もっと効率的に コミッションが高すぎる 既得権的体質がある 媒体計画は驚くほど遅れている 国際的視野ない 日系慎重派 日系進歩派 外資 1.0 1.3 1.0 0.9 0.6 1.1 0.9 0.5 1.0 0.3 0.5 0.8 0.7 0.6 0.5 0.5 0.0 0.5 0.2 0.6 0.5 0.1 0.0 0.9 0.0 0.3 0.1 0.0 全体平均 0.8 1.0 0.6 0.8 0.6 0.8 0.3 0.6 0.3 0.5 0.1 0.5 0.0 0.5 0.2 0.4 0.6 0.4 0.2 0.3 0.3 0.3 0.0 0.3 0.4 0.2 0.4 0.2 全グループを通じて、実質的な不満の第一位は「変化について行くのが遅すぎる」こ とである。ここでいう変化とは、インターネットの台頭によるビジネス構造の変革、BS・ CS・ニューメディアの台頭による媒体の多様化、全社会的なディスクロージャーとアカ ウンタビリティの必要性の高まり、熾烈なグローバル競争、経営の効率化など、広告会 社と広告主を取り巻く経営環境の変化すべてを含む。特にインターネットに関しては広 告主の方が積極的に取り組み、広告会社がリーダーシップを取り損ねているという構図 が浮き彫りになった。 次に多い不満は「戦略立案能力」の弱さである。広告会社の媒体購入やクリエイティ ブといった従来からのサービス領域における貢献はある程度認識されているが、マーケ ティング戦略等の知的生産物に関する能力はまだ広告主に認められていないのが現状 のようだ。グループ別にみると、「戦略立案能力」の弱さを指摘しているのは日系慎重 派が最も多い。ここで「広告会社の貢献」の「戦略も助けを借りている」と照らし合わ せてみると、戦略立案を広告会社に依頼し、その結果に不満なのが日系慎重派、不満が 少ないのが外資系であることがわかる。外資系の場合には、基本戦略は自前で立てるも のの、日本という現地への文化的適応という側面では広告会社に頼る傾向が強くその限 りにおいて大きな不満がないということのようである。 いずれにせよ、全体的な不満の傾向としては、「広告会社は勉強不足」であり、その ために「変化についてゆくのが遅すぎ」てしまい、有益な「戦略立案」を立てられず、 「プロとしてのイニシアティブ」が欠如していることが顕著に表れている。 広告主が広告会社に対して抱いている金銭的な不満としては、コミッションと媒体料 の高さ、取引の不透明性が挙げられる。商社と不動産のコミッションがそれぞれ 1%と 15 3%であるなかで、広告会社が約 15%のコミッションを当然のように要求することに憤 りを感じている広告主は少なくない。この 15%という割合は 1944 年に電通のリーダー シップの元で商工省が広告取引の合理化、透明化を行った際に、新聞広告の取次ぎ手数 料を媒体料金の 15%と決定して以来、50 年以上経ていまだに維持されているのである。 また、価格破壊が進む中で、媒体料のみが据え置かれ、媒体データが絶対的に不足して いる状況に不満を抱き、広告費の費用対効果を疑問視する声も多く聞かれた。特に個人 視聴率データの不備をはじめ媒体データが絶対的に欠落している中で平然と取引が行 われていることに対して苛立ちを募らせる広告主も少なくない。このような状況は言っ てみれば性能表示なしで商品を売っているに等しいことで他の業界では考えられない ことなのである。 心情的な不満としては、クライアントの利益よりも自社の利益を優先させるという点 が最も顕著である。この不満は特に日系進歩派が顕著である。広告会社は「クライアン ト側に立っていない」というコメントに付随して、「メディア側に立っている」という 指摘もあった。広告会社の役割の変遷からも明らかなように、広告会社はそもそも媒体 社のスペース販売代行から始まり、媒体社の経済的リスクを代替する業態である。日本 の広告会社と媒体社との過度に緊密な関係はこの歴史的経緯によるものではないかと 思われる。 上場や合併のために広告会社が急に効率化をめざし、扱い高を増加させることのみに 関心が集中しているという指摘は近年ならではの不満であろう。その他、広告主の問題 を自分の問題として捉え、広告主の社員のような熱意と気概をもった広告人が減り、サ ラリーマン化しているといった意見も聞かれた。 表 13 広告会社への心情的不満 単位:ポイント 日系慎重派 日系進歩派 外資 クライアント側に立っていない 0.5 1.6 金にならないことはやらない 0.5 1.0 上場や合併のため急に効率化 0.3 0.3 コミットメントが足りない 0.2 0.3 緊張感がない 0.4 0.0 面白さ重視で軽薄な部分多い 0.2 0.0 全体平均 0.3 0.8 0.4 0.6 0.0 0.2 0.0 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 媒体の多様化 広告主は今後メディアが多様化することに関しては疑いを持っていないものの、近い 将来劇的な変化が起こるとは考えていない。マス媒体の存在感は当分続くという点に関 しては広告主の間で共通認識が存在した。これは、日本のインターネット人口が増加し 16 ているとはいえ、絶対数としてはマス媒体の利用者に及ばないためであろう。 しかし、日系進歩派と外資系企業からはマス媒体以外のメディア開発の必要性が指摘 されており、メディアの多様化に対する対応は急務である。 表 14 媒体の多様化 単位:ポイント マス媒体の存在感は当分続く 媒体は多様化するだろう 媒体の細分化を活用したい 新しい媒体を含めて効率化 目的により媒体を使い分けている マス媒体以外の開発必要 TV依存はおわるだろう マス媒体への支出は減る 日系慎重派 日系進歩派 外資 1.1 1.4 0.8 0.9 0.4 0.5 0.0 0.4 0.1 0.5 0.0 0.4 0.2 0.4 0.1 0.1 全体平均 1.4 1.3 1.0 0.9 0.8 0.5 0.7 0.3 0.2 0.3 0.3 0.2 0.1 0.2 0.2 0.1 「マス媒体への支出は減る」と明示的に発言した広告主は少数派である。自社サイト への誘導にマス広告が有効であることは米国でも主張されており、ネット広告費の増大 がマス広告費削減に直結するような単純な構造にはなっていない。 このように、マス媒体は引き続き重要な媒体ではあり続けることに異論はないものの、 マス媒体市場の古い体質に対する不満は多く聞かれた。媒体社が自社の提供するサービ スの価値を正当化できるのかどうか疑問視し、透明なオープンマーケットになるべきで あるという意識は日系進歩派と外資系広告主の間で高まっている。また、媒体データの 不備は費用対効果への不信感を助長している。 しかしながら、媒体市場全体に関してはその閉鎖性や不透明性に一般的な不満を抱え ているものの、自社の媒体購入に関しては大きな不満は聞かれなかった。これは特に日 系進歩派が媒体社にとっては巨額の広告予算を持つ大広告主であり、媒体購入の際に好 条件で取引できているためと思われる。 表 15 媒体独占問題 単位:ポイント 透明なオープンマーケットになるべき 問題は効果であって値段ではない 媒体データが不備 自分のサービスの価値を正当化できるか 購入量を梃子にいい条件で買いたい 電博独占はある程度続く 媒体購入に大きな不満なし 日系慎重派 日系進歩派 外資 全体平均 0.4 0.6 0.4 0.5 0.4 0.4 0.4 0.4 0.0 0.5 0.7 0.4 0.1 0.5 0.6 0.4 0.0 0.4 0.3 0.2 0.2 0.3 0.2 0.2 0.0 0.5 0.1 0.2 17 ぬるま湯的雰囲気打破すべき ある程度のいい加減さは歓迎 TVの番組枠は制約多い 規制が強く競争原理働いてないため未来ない 0.0 0.2 0.2 0.0 0.5 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1 0.2 0.2 0.1 0.1 0.1 インターネット・マーケティング インターネットに関しては各社ともに積極的に取り組んでおり、一部の先進的企業で は自社内に人的資源が充実しつつある。 ホームページは広告主にとってはじめての自社媒体であり、第三者媒体を購入せずに 直接顧客と対話できる場である。クッキーの利用やアクセスログ解析により顧客データ ベースを構築し、蓄積されたデータを活用して顧客を囲い込むことが可能である。 現在のところホームページの利用法は情報発信がメインではあるが、今後はインタラ クティブ・マーケティング、e-コマース、CRM(カスタマー・リレーション・マネジメント) の充実に積極的に取り組もうという姿勢がうかがえる。 表 16 インターネット・マーケティング 単位:ポイント 自社内に資源(人材,部署)蓄積 インタラクティブ・マーケティング目指す e-commerce積極的にやりたい 広告会社は助けにならない・熱心ではない 顧客データベースに活用したい/している 自社媒体として活用したい CRM充実させたい サイトを面白くしたい HPの使用方法は情報発信メイン 広告会社は助けになる 広報部が担当 小規模だができるコンサルを入れて取組中 HPはグローバルに統一 顧客の交流の場にしたい ネット上でメンバークラブを作っている 日系慎重派 日系進歩派 外資 全体平均 1.3 1.3 0.9 1.1 0.9 1.0 1.3 1.1 0.5 0.9 1.2 0.8 1.2 0.5 0.8 0.8 0.6 0.4 0.4 0.5 0.5 0.6 0.3 0.5 0.3 0.5 0.4 0.4 0.2 0.4 0.6 0.4 0.2 0.5 0.3 0.3 0.3 0.3 0.2 0.2 0.4 0.3 0.0 0.2 0.1 0.0 0.3 0.1 0.0 0.0 0.3 0.1 0.2 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 0.2 0.1 このような新しい取組みは広告主が独自に進めており、広告会社の協力を仰ぐケース は非常に少ない。むしろ、「広告会社は助けにならない・熱心ではない(外資 0.8 ポイ ント、日系進歩派 0.5 ポイント、日系慎重派 1.2 ポイント) 」という声が非常に多く聞 かれた。広告会社がなぜ熱心ではないのかという点については、「金にならないことは 18 やらない体質だから」、 「勉強不足だから」という認識が強い。このような状況のために インターネット専門の広告会社やマーケティング会社に活躍の余地が生まれているの である。 広告会社がインターネットについては昨今かなり力を入れてきているのは間違いの ないところだが、それにもかかわらずこのような声が強いのは大きな問題である。これ についてはつぎの二点を考慮する必要がある。第一に、広告主と広告会社をつなぐ接点 である広告会社の営業担当者の中に IT に精通した人材が少ないという問題がある。広 告会社の中にインターネット関連の資源をいくら蓄積しようとも、それを広告主に橋渡 しする営業のところでうまく進まなければ広告主にとっては何の役にも立たない。もう 一つの要因は広告主の側にある。現在のところインターネット関連の事柄は広報が担当 していることが多い。宣伝部長に代表されるいわゆるマーケティング・コミュニケーシ ョンの最高責任者がインターネットを含めたトータルなコミュニケーション全体を管 轄しているのでなければ、たとえ広告会社がインターネット関連の提案をしてもうまく 機能するはずがないのである. この両者の窓口の形態が新しい時代に適合していないという問題は、マス広告とイン ターネットを自在に使い分けなければならないこれからのマーケティングにとって最 大の障害になることは間違いない。 5 今後の展望 今回のインタビューから分かったことは以下の各点である: ・ 伝統的広告市場のあり方についての潜在的不満は広告主の間で相当溜まっている ・ それを解決する手立てがすぐには見当たらないことに苛立ちを募らせている ・ 一部の広告主は、広告会社評価の導入、修正コミッション制の採用等広告取引の近 代化に向けて少しずつ動き始めた ・ 広告主はインターネットの活用に向け活動をはじめている。しかし、現在は可能性 を模索し目標を設定する段階であり、本格的なインターネット・マーケティングの 活用には至っていない 調査の結果、伝統的広告取引における広告会社及び媒体社への不満が確認された。 社会全体の動きとして中間業者排除によるコスト削減が進む中で、メディア仲介業とし ての広告会社の存在意義は時代錯誤であろう。また、全社会的にディスクロージャーや アカウンタビリティが叫ばれる中で、不透明な媒体取引が行われていることに対する不 満が生じるのは当然と言える。 しかしながら、この構造的な問題に対する解決法は見当たらない。調査の結果広告 19 会社との取引は非常に固定的であり、上位2社との取引に集中していることが明らかに なった。広告主は現状が最善の状態でないことを認識しつつも、解決法がないために現 状に甘んじているように見える。 広告市場の構造的な問題は、広告産業が限られた広告枠を巡る利権ビジネスである ことに起因している。市場が売り手市場であるため、顧客である広告主よりも売り手で ある媒体社の交渉力の方が強い。そのために顧客に対するアカウンタビリティとディス クロージャーが無視されてきたのである。 構造的な問題の根源が媒体市場の特性にあるとすれば、現状を打破する一つの糸口 となるのが、媒体の多様化とインターネットの爆発による、媒体の多様化と選択肢の増 加である。 媒体が多様化し選択肢が増加すれば、媒体市場は売り手市場から買い手市場へとシ フトし、顧客である広告主の発言力が増大することは間違いない。 また、インターネットの世界では、広告主は自社媒体を保有し、自社内で広告効果測 定を実行し、広告会社の仲介なく広告枠を購入することができる。これは広告会社に依 存することなくマーケティング活動を行うことが可能になったことを意味している。現 在起こりつつある変化はスマートな広告主にとっては追い風なのである。 それでは広告会社は今後どのような道があるのだろうか。今後生き残っていくために は、広告会社はつぎのいくつかの問題を解決する必要がある: 1 媒体データの整備、媒体取引条件の開示、および媒体取引のオープン化 2 インターネットを含めた統合的コミュニケーション戦略の提案力強化 3 顧客と心身ともに一体化したクリエイティブ開発体制の再構築 4 新時代に適合した営業モデルの構築 1は媒体社との関係,2,3,4は人的資源の蓄積と組織文化の問題から現実的には非 常に困難な問題を含んでいる。しかしながら、これらの点を解決しないで形式的な「近 代化」を進めても明るい未来は見えてはこない。 インターネットが爆発し、TV の多チャンネル化が進むことによりマス媒体市場が需 要過多から供給過多に転じ、買い手市場になれば、大手 TV 局と大手広告会社の交渉力 は大幅に低下する。そうなれば広告市場は媒体供給力の競争からクリエイティブ能力、 戦略提案力、総合プロデューサー能力などが問われる知の競争の場になる。 今後広告会社は広告主への交渉力の低下と、熾烈な企業間競争に直面することになる であろう。伝統的なメディアブローカーから、広告主に付加価値を提供するマーケティ ング企業へと変身を遂げることがインターネット時代の広告市場でプレイヤーとして 生き残る道であろう。 20 <参考文献> インターネットマーケティング研究会(2000) 「インターネット広告 2000」ソフトバンク パブリッシング。 片平秀貴・山本晶(2000) 「広告ビッグバンはやってくるのか・宣伝部長30人に聞く」 『宣伝会議』。 株式会社大和総研(1998)「マーケティング・ツールへの展開が期待されるインターネット 広告」 、http://www.dir.co.jp/kj/inet_ad/toc.html 小林保彦(1998) 『広告ビジネスの構造と展開−アカウントプランニング革新―』、日経 広告研究所。 公正取引委員会事務局編(1980)『広告取引の実態について』、公正取引協会。 日本広告主協会(1998)「インターネットバナー広告効果検証実験レポート」 。 日本広告主協会 Web 広告研究会(2000) 「企業ホームページハンドブック」インプレス。 日経産業新聞、2000 年 12 月 13 日。 2000 年 12 月 14 日に行われたジュピターメディアメトリックス株式会社副社長 永竹 正幸氏講演「インターネット広告:世界のトレンド及び将来展望」から。 The Association of National Advertisers “Fourth Annual ANA Web Site and Internet Advertising Survey” (2000) 21