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熊本県の個人消費の現状と先行き ~ 小売業の販売動向と事業戦略の
日銀 くまもと 金融経済トピックス 2015 年 8 月号 2015 年 8 月 3 日 日本銀行熊本支店 ~ 熊本県の個人消費の現状と先行き 小売業の販売動向と事業戦略の視点を中心に ~ ○ 日本銀行熊本支店では、管内の景気動向を把握する観点から、各種の統計指標の 定点観測に加え、個別企業の協力を得てヒヤリングを実施している。また、短観集 計時には、回答内容を確認する観点から、聞き取り調査も行っている。 本レポートでは、各種統計のほか、主に消費関連企業との意見交換から得られた 情報を参考に、管内の個人消費の動向と先行きに関して整理した。 <要 旨> ● 当地の個人消費は、雇用・所得環境の改善などを背景に、基調的には底堅く推 移している。ただし、仔細にみるとまだら模様が続いており、業界関係者の評 価としても、消費持ち直しの手応えを実感するまでには至っていない面もあ る。 ● このように、当地の消費は大都市圏に比べ、消費税率引き上げ後の持ち直しに 向けた動きが、なお緩慢なものに止まっている。これには、①多雨・長雨とい った悪天候、②所得改善の相対的な遅れ、③増加基調にはあるが、インバウン ド需要の取り込みが限定的なこと、④ウエイトの高い軽自動車の販売低迷、⑤ 限定的な資産効果、などが複合的に影響しているものと判断される。 ● もっとも、業界関係者の間では、この先、消費は持ち直しに向けた動きが明確 化していくことに期待を寄せている。その根拠として、①雇用・所得環境の改 善が徐々にはっきりしてきたこと、②ガソリン価格の下落基調、③プレミアム 商品券の効果、④八代港へのクルーズ船の寄港増や台湾・高雄との定期便開設、 ⑤万田坑・三角西港の世界遺産登録の決定、などが指摘されている。 ● 業界では、個人消費の持ち直しに期待を寄せつつも、どちらかと言えば下振れ リスクを意識している。そこで、如何にして売り上げ増を図るか、家計の支出 行動などを踏まえた販売戦略を練っている。 1 ● その一端を紹介すると、業界では、家計は根強い節約志向を有しているものの、 最近では、価値と価格がバランスした財・サービスにはきちんと消費する傾向 にあると分析している。所謂「メリハリ消費」と評される動きの背後では、ひ と頃のような家計の委縮した消費マインドはほぐれてきており、客単価も上昇 傾向にある。この点は、実質所得の目減りに直面してきた勤労世帯でもみてと れると評価されている。 ● 小売業界では、売り上げ増に結び付きやすいシニア層や富裕層、外国人観光客 をターゲットとした販売戦略の構築を優先的に対応している。同時に、安全志 向や健康志向、更には多様化する消費者ニーズにマッチしたきめ細かな対応を 図ることで、販売増を目指している。この間、かつての値下げ競争は影を潜め つつあり、むしろ価値ある財・サービスの提供を通じ、適正利潤の確保に努め ている。 ● 当地において関係者間で意識されている今後取り組むべき課題として、第 1 に、インバウンド需要のより一層の拡大に向け官民で取り組みを強化し、ハー ド・ソフト両面で着実にインフラ整備を進めることが挙げられている。第 2 に、 如何に供給側が消費需要を引き出すかという観点で、新たな財・サービスの提 供にチャレンジする企業家を育成する必要も意識され始めている。第 3 とし て、労働需給がタイト化するもとで、如何に人手を確保し人材を育成するかも、 経営上の重要な課題となっている。 1. 個人消費の現状~統計、ミクロヒヤリングを踏まえた基調判断~ ○ 当地の個人消費は、消費税率引き上げを前にした駆け込みの反動減や税率引き上 げの影響が概ね一巡する中で、雇用・所得環境の改善などを背景に、基調的には底 堅く推移している。ただし、業態別だけでなく業態内でも売り上げや業況感にバ ラつきがみられている。また、月々の売り上げの好不調の波もやや大きいとの声 も聞かれており、小売業関係者の間で、消費がしっかりと持ち直しているとの手 応えが拡がっているわけではない。 このように当地の消費動向は、大都市圏に比べ、消費税率引き上げ後の持ち直 しに向けた動きが、なお緩慢なものに止まっている。この背景についてヒヤリン グ情報などを加味し、整理すると以下のようになる。 ① 多雨・長雨といった悪天候:当地の特徴 3~4 月も平年に比べ降水量は多かったところ、6 月はかなり降水量が多く、 日照時間も少ない中で、客足が伸び悩み(図表 1(1))。 初夏に気温が上がらなかったため、エアコンをはじめ季節商品の売れ行きが、 最近まで全般的に低調。 ② 所得面の改善が大都市圏に比べ遅れたこと:地方圏共通の特徴 2 昨年も所得は改善基調を辿ったものの(図表 1(2))、ガソリン価格の上昇や 消費税率の引き上げなどもあり、実質所得は前年を割り込み。このため、勤 労世帯を中心に節約志向は根強く残存。 ③ 訪日外国人は増加しているものの、他の幾つかの地域に比べ、インバウンド 需要の取り込みが相対的に限定的なこと:当地の特徴 為替円安が定着する中で、当地でも、官民双方の取り組みが奏功し、外国人 旅行客は着実に増加。ただし、東京や京阪神、福岡・沖縄といった地域に比 べ、訪日外国人増加の恩恵はやや見劣りする(図表 1(3))。大都市圏の一部 百貨店で聞かれるような売り上げの数十%が外国人旅行客といった「爆買い」 現象までは、みられていない。 ―― 当地でも、インバウンド需要拡大の効果は着実にみられている。ただ し、観光地(熊本城や水前寺成趣園)でも、量販店や家電販売店でも、 その恩恵を受ける場所や店舗にやや偏りがみられる。恐らくは、クルー ズ船での来日客をはじめ、短期間の滞在が多い中、ツアーに組み込まれ ているか否かで、売り上げが大きく異なっているように見受けられる。 阿蘇山は依然として警戒レベル 2 が続いている。外国人需要の取り込みでカ バーしつつも、修学旅行をはじめ影響は残っている。 ④ 自動車販売において本年 4 月に税率が引き上げられた軽自動車のウエイトが 高いといった要因:地方圏共通の特徴 乗用車では普通車を中心に消費税率引き上げ後の反動減から持ち直しに向 かっている一方で、軽自動車は 4 月の軽自動車税増税に伴う駆け込み需要の 反動等から、販売はなお低迷(図表 1(4))。 ⑤ 株価上昇に伴う資産効果も大都市圏に比べ限定的:地方圏の特徴 外商や一部高級品需要の売れ行きには、株高の効果がみられるとの声も聞 かれるが、大都市圏のような売り上げを大きく押し上げる効果はみられな い。 2. 個人消費の先行き展望 ~業界が寄せる期待~ ○ 熊本県の個人消費は、基調的には底堅く推移しているものの、大都市圏に比べ、 これまでのところ持ち直しがなお緩慢なものに止まっている。もっとも、小売業 界では、この先、梅雨が明け気温が上昇してきた中で、次のような理由を指摘し つつ、持ち直しに向けた動きが徐々に明確化していくことに期待を寄せている。 ① 雇用・所得環境の改善:当地の特徴 熊本県の有効求人倍率は、5 月に 1.11 倍と統計開始以来の最高水準に達し た後も、高水準にある(6 月:1.10 倍)。また、熊本支店が集計した 6 月短 観の雇用判断 D.I.をみても、非製造業を中心に企業の間で強い雇用不足感 が確認される(図表 2(1))。こうした労働需給の引き締まりを受けて、県 3 内企業でも、人材の繋留に向け、ベースアップを含めた賃上げの動きが着 実に続いている。また、夏季賞与では、業績改善の従業員への還元も進め られてきている。業界では、消費税率引き上げに伴う実質所得の目減りが 漸く解消されつつあるとして、今後の売り上げ増加に期待を寄せている。 ② ガソリン価格の下落基調:全国的な動きながら地方圏により恩恵 夏休みシーズン開始に当たり、ガソリン価格が低位で推移している(図表 2 (2))。個人旅行客にとっての当地での交通手段は、タクシーないしレンタ カーであり、ガソリン価格の低位安定は、観光業界からも「追い風」と受 け止められている。 円安に原油価格の下落が加わることで、サーチャージ分が節約出来る点で も、外国人旅行客を押し上げる方向に働くと見込まれる。 地方圏では、ガソリン代が消費支出に占める割合は大都市圏に比べ高い。 「財布の紐」が ガソリン価格の下落は、可処分所得の押し上げ要因となり、 多少とも緩むことへの期待も垣間見える。 ③ プレミアム商品券の販売:全国的な動き 当地でも、国の 2014 年度補正予算に盛り込まれた施策として、自治体によ るプレミアム商品券や旅行券が販売された。消費への効果について伺うと、 業態によってまちまちの声が聞かれるのは事実ながら、お得感に触発され た一定の消費底上げ効果が指摘されており、利用期間中(多くは 12 月末) の売り上げ拡大に期待を寄せている。 大まかに分類すると、量販店では食料品や住居関連の生活必需品の購入 に充当されるのみで、消費喚起効果を実感できないとの声が多い。また、 業態を問わず「予め決まった支出にプレミアム商品券が使われている」と の指摘も聞かれる。他方で、プレミアム商品券を利用することで、お中元 などの贈答品や家電などの耐久財では、よりグレードの高い商品の売れ行 きが良いとの指摘が小売店から聞かれる。また、プレミアム旅行券につい ても、ワンランク上の宿泊需要を誘発するなど一定の押し上げ効果が指摘 されている。 ④ 万田坑・三角西港の世界遺産登録の決定:当地の特徴 先般、荒尾市に所在する万田坑と宇城市に所在する三角西港が県下初とな る世界遺産への登録が決定した。既に現地では県内外からの来客数がはっ きりと増加しており、今後も来訪者ひいては消費の増加が期待されている。 熊本市内でも、宿泊をはじめ派生需要に期待する声が聞かれている。 ⑤ 八代港のクルーズ船の寄港増や台湾・高雄との定期便開設の決定:当地の特徴 八代港への大型クルーズ船の寄港効果は局所的な面はあるにせよ、はっき りと及んでいる。ツアーに組み込まれた量販店や家電販売店では、化粧品 や医薬品、魔法瓶、カメラや掃除機などを中心に局地的な「爆買い効果」 がみられている。 4 韓国・ソウルに続き、今秋 10 月には台湾・高雄との間で従来のチャーター 便から定期便就航に切り替わることが決まった(図表 2(3))。台湾からの 来日客増加が見込まれる中で、宿泊や消費需要に期待が寄せられている。 3. 消費関連業種からみた最近の個人消費の特徴と販売戦略 ○ 当地の小売業界では、大都市圏に比べ遅れ気味の消費の持ち直しが、この先徐々 に顕在化することを期待している。もっとも、期待先行である側面も窺われ、7~9 月の販売計画もどちらかと言えば下振れはしないかと警戒している先が相対的に 多い。また、やや長い目で見てバブル期にみられたように、家計を取り巻く環境が 改善するだけで、自動的に自店の売り上げが増加するとの展望を有している訳では ない。こうした中、個々の企業では、家計支出の特徴などを把握したうえで、大小 様々な販売戦略や工夫を通じ、売り上げ増加に向け取り組んでいる。 以下では、消費関連業界からみた最近の消費行動の特徴点を整理するとともに、 業界の売り上げ増加に向けた取り組みの一端を紹介する。 (1-1)財・サービス別にみた動向・特徴 非耐久消費財では、どこで買っても中身が同じ商品については、少しでも安く 購入しようとする傾向は根強い。その一方で、食料品やスポーツ関連では、安 全志向や健康志向などに合致した商品については多少、値が張っても売れ行き は好調で、単価も徐々に上昇している。商品ごとの売れ行きに大きな差が生じ るのも最近の特徴となっており、例えば、衣料品ではインナーは節約する一方、 アウターは他人との差別化の視点から、財布の紐を緩めるといった姿勢も窺わ れている。 耐久消費財のうち家電では、健康志向や省エネ志向が続いている。自動車でも、 燃費や安全性、乗り心地を売りにした新型車には引き合いが増えているとの声 が聞かれている。 サービス消費のうち旅行業界では、円安定着のもとで、国内旅行は堅調な一方 で、海外旅行は勢いを欠いており、この辺りにも価格に敏感な消費行動の一端 が窺われる。そうした中で、国内・海外ともに、どちらかと言えば高額なパッ ケージ商品への予約が先行して埋まる傾向にあるとしている。宿泊業界では、 ビジネス関連を含め価格帯がワンランク上昇する傾向にある。客室の稼働率も 総じて高く、利益率は持ち直し傾向にある。飲食サービスでも、ひと頃に比べ 客単価が上向きつつあるとの指摘がみられる。具体的には、健康志向の強まり もあって注文の品数は減少する一方で、一品単価が上昇する傾向が指摘されて いる。サービス業全体でも、全般的に財布の紐が緩むという地合いにはないも のの、所謂「コト消費」や「ハレ」の日に、支出を増やす傾向が続いている。 (1-2)世代別・所得階層別にみた動向・特徴 勤労世帯(中間所得層が大宗)では、実質所得が伸び悩むもとで、最近まで節 約志向を強める傾向がみてとれた。もっとも、物価が落ち着き、所得面での改 5 善が徐々にはっきりするもとで、選別的ながらも消費を増やす動きが再開して いる。その基本的な軸は、バリュー消費であり、自らの価値観と価格がバラン スしたと判断した場合に、消費者の財布の紐が緩む傾向にある。 シニア層は二極化傾向にある。年金生活者では、昨年の年金減額以降、生活防 衛的な節約志向が強まったとの声が聞かれた。具体的には、 「安いものを必要な 分だけ買う」傾向は、本年入り後の年金増額後も大きな変化はみられていない。 他方、富裕層では、引き続き旺盛な支出スタンスに変化はない。景気回復の実 感が徐々に拡がるもとで、周囲の目に気兼ねせずに高額支出(高級車や高級雑 貨、クルーズ船旅行など)を行うといった様子も、販売サイドでは感じている。 (2)消費喚起に向けた最近の販売戦略面の特徴および変化 販売戦略面では、ターゲットを絞った商品・サービス提供に関し工夫を施す先が 多い。 「リーズナブルな価格でより良いもの」を求める消費者ニーズに対して、プ レミアム商品の開発に注力するといった対応が目立つ。具体的には、食料品で共 働き世帯やシニア層を対象に、小分け商品や中食を拡充する動き、旅行関連で女 性限定ツアーや高額の旅行商品開発への注力、飲食業では店舗立地ごとの顧客層 にあったメニューの開発や提供、娯楽業では女性客のために分煙室や消臭スプレ ー、シャワールームを設置する動き、雑貨関連では中間所得層向けの提携フリー ローンを投入、といった施策が該当する。 このほか、消費を引き出す観点から店舗のリニューアル投資に踏み切る動きも、 ひと頃に比べ増えている。また、シニア層や外国人観光客にターゲットを絞り、 各種サービスの拡充を図る動きは広範にみられている。 人口減少・少子高齢化のもとでの顧客獲得という観点では、シニア層対象のポ イントカードや特典日、配達サービスの開始といった対応が拡がっている。 その際には、行政や他業態と協力し、外出が困難な高齢者向けに配達サービ スを開始する動きもみられている。冠婚葬祭スタイルの多様化、簡素化に応 じたプラン拡充の動きも、拡がっている。 価格設定行動の面では、消費税率引き上げ後の消費停滞期には一部に価格訴求の 動きが再開した面もあった。もっとも、デフレ期にみられたような値下げのみに傾 注した動きは長続きしなかった。その背景には、第一に円安もあって仕入価格が上 昇しているもとで、値下げは経営を圧迫するとの認識が拡がっている。第二に、経 営者の間で消費者の間に根強い節約志向が残るとの認識はある一方で、価格一辺倒 の消費行動は多少とも緩和してきているとの実感が共有されつつある。 こうした環境のもとで、仕入価格の上昇を販売価格に転嫁する動きがやや長い目 で見て拡がってきている(図表 2(4))。ただし、他社との競合から表面価格の値上 げに踏み切れない先は、少なからず残っている。そうした先では、サービス内容や 量目を変更しながら、 「実質値上げ」を行う先が多い。また、店舗立地ごとに価格設 定を柔軟に調整する先も散見されている。 6 4.当地の課題 ~おわりに代えて~ ○ 小売業界を取り巻く環境は、消費需要の飽和感、人口減少や高齢化、可処分所得 の伸び悩みなど全体として厳しく、業界内の競争環境は自ずと激しくなる傾向にあ る。そうした中で、如何にして消費を喚起し、売り上げを伸ばすかに各企業が戦略 を練り、新たな取り組みにチャレンジしている。以下では、関連業界の方々との間 の意見交換を通じ得られた、消費を喚起する上での課題を整理する。 ① インバウンド需要拡大に向けた一層の官民の取り組み 前述のとおり、小売業を取り巻く事業環境は総じて厳しく、新たな需要掘り起こ しを通じて、パイの拡大を図る必要がある。最も即効性の高い需要は、訪日旅行者 がもたらす需要である。既に、当地では官民挙げて積極的な取り組みが進められて おり、着実に当地を訪れる外国人旅行者は増加している。もっとも、幾つかの大都 市圏に比べ増加テンポは急ではない。ただし、逆に言うと、潜在的需要は大きく、 観光振興に向け一層の取り組み強化が待たれる。 ハード面では、海空陸の交通網の整備はもとより、宿泊施設の拡充を要する。 多様な需要に応じることが可能なように、高価格帯から中低価格まで幅広い宿 泊施設を整備する視点が重要との指摘が聞かれる。 ソフト面では、言うまでもなく外国語への対応力強化は必要。その上で、海外 に対し如何に熊本の認知度を向上させるか、それに向けた仕掛けやブランド力 の向上を進めることが重要となってくる。初来日の外国人旅行客を当地に取り 込むことには自ずと限界がある中で、リピーターを如何に掴むかの視点、同時 に九州を訪れた旅行客を周遊してもらう視点がより必要と考えられる。 ② 消費需要を促す供給側の戦略とそのサポート 可処分所得が高度成長期のペースで伸びることは期待し難い。また、総じて消費 需要には飽和感が窺われる。もっとも、経営者との意見交換では、供給側が消費需 要を引き出す余地は十分にあるとの評価で一致した。一昔前には簡易マッサージや ネイルサロンといったサービスは存在しなかったほか、家庭向けの警備システムも 今ほどには普及していなかった。温水洗浄便座や自動掃除機、自動車のバックビュ ーモニター然りである。動物園や水族館も同様で、創意工夫を通じ、集客力を飛躍 的に高め得ることは、幾つかの地域での成功例が物語っている。供給側が消費者の ニーズを見抜き、商品化することで、消費者、供給者(事業者)が win-win の好循 環に入る余地は十分にある。 その際、消費者の根強い節約志向や、同時に強まりつつある安全志向や健康志向 といったニーズを踏まえ、進取に富む製品やサービスの企画、開発に取り組む必要 がある。高齢化社会において、何が消費者に求められているか、潜在的な需要を掘 り起こすことが必要となる。その過程では、成功事例を見聞する機会が必要と考え られる。素朴なアイデアや思い付きが草の根で存在しても、商業ベースに乗せるノ ウハウを欠いていれば、折角のアイデアが埋もれてしまう恐れも大きい。そうした 機会逸失を回避する観点からも、アイデアの事業化を手助けする仕組みの構築を要 し、そこには、行政や金融機関などが貢献する余地が大きいように窺われる。 7 ③ 人材の確保 サービス業は、労働集約的傾向が相対的に高い。今後も、就業者が減少する基調 に変わりはないため、幅広い業種で人手を如何に確保するかも経営課題として重要 度を増す。省力化投資を通じ、人手不足を緩和する先も一部にみられるが、相対的 に勤務環境が厳しい飲食業などでも待遇改善を含め対応に迫られている。そうした 観点から、外国人研修生の受け入れ拡大、中でも賃金が上昇気味にある中国人か ら、ベトナム人の活用にシフトする先もみられている。なお、高齢者向けサービ スには、「日本語」による接遇を要することがネックとなる面もあるが、それを 如何に克服して介護や福祉の担い手を確保するかも、官民で知恵を出し合う必要 があろう。また、接客やフロア管理をはじめサービス業の売り上げは、多分に従 業員の質や能力に左右される。如何に人材を育成するかも、人手の確保同様に重要 な経営課題となっている。 以 上 本稿に関するお問い合わせは、日本銀行熊本支店総務課(電話 096-359-9501)までお願いします。 本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行熊本支店(上記連絡先)までご 相談ください。そのうえで転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 8 図表 1 (1) 【降水量、日照時間】 (2) 【名目賃金】 春先に続き 6 月は多雨で日照時間も少なめ (mm) 名目賃金は安定的に増加 (h) 120.0 240.0 降水量の平年差 200.0 (前年比、%) 100.0 (前年比、%) 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0 日照時間の平年差(右目盛) 160.0 80.0 120.0 60.0 80.0 40.0 40.0 20.0 0.0 0.0 ▲ 40.0 ▲ 20.0 ▲ 80.0 ▲ 40.0 ▲ 120.0 ▲ 60.0 ▲ 160.0 ▲ 80.0 ▲ 200.0 ▲ 100.0 ▲ 0.5 ▲ 1.0 14/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 15/1 2 3 4 5 6 7 ▲ 1.0 1 3 (出所)気象庁 (3) 【外国人延べ宿泊客数】 1 4 ┘ └ 1 5 (年) (4) 【自動車の登録台数】 外国人宿泊は増加基調ながら、福岡に見劣り 自動車販売は軽自動車を中心に減少 (万人) 30.0 (前年比、%) 沖縄県 普通・小型乗用車 軽乗用車 10 11 12 15/1 2 3 前年比 20.0 熊本県(138) 200 ┘ └ 注 1. 5 人以上の事業所が対象。 注 2. 2015/2Q の前年比は、4、5 月の指数の単純 注 1..平均値をもとに算出。 (出所)熊本県『毎月勤労統計調査』 (月) (注)15/7 月は上・中旬のみ。 250 └ 10 11 12 13 14 ▲ 120.0 ▲ 240.0 ▲ 0.5 福岡県(213) 佐賀県(222) 10.0 長崎県(132) 大分県(104) 150 宮崎県(246) 0.0 福岡県 鹿児島県(206) 沖縄県(492) 100 ▲ 10.0 長崎県 熊本県 50 ▲ 20.0 ▲ 30.0 0 2010 11 12 13 14 14/1 2 (年) 3 4 5 6 7 8 9 4 5 6 (月) (注) 県名の後の( )内は 2010 年宿泊客数を 100 とした場合の 2014 年宿泊客数の指数。 (出所)観光庁『宿泊旅行統計調査』 (出所)九州運輸局熊本支局、熊本県軽自動車協会 9 図表 2 (1) 【雇用人員判断 D.I.】 (2) 【熊本県のガソリン価格】 企業の雇用不足感は着実に高まり ガソリン価格は本年入り後前年を明確に下回り (円/リットル) (「過剰」-「不足」、%p) 200 全産業 うち うち 製造業 非製造業 190 全国 価格 180 11/6 月 9 9 10 8 12/6 月 7 18 1 1 13/6 月 1 15 ▲6 ▲1 14/6 月 ▲7 4 ▲13 15/6 月 ▲13 14年下期 平均価格 170 14年上期 160 150 140 15年上期 130 ▲1 ▲18 ▲10 120 7/27日 価格142.8円/リットル 110 ▲15 100 06 (出所)日本銀行『全国企業短期経済観測調査』、 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) (出所)経済産業省『給油所小売価格調査』 当店『県内企業短期経済観測調査結果』 (3)【熊本空港の乗降客数】 (4) 【仕入・販売価格判断 D.I.】 熊本空港国際線の乗降客は 2013 年以降大幅増 (万人) 企業は仕入価格の上昇を販価に部分的に転嫁 (万人) 5.5 320 国内線 (「上昇」-「下落」、%p) 30 仕入価格判断D.I. 国際線(右目盛) 販売価格判断D.I. 20 5.0 310 10 300 4.5 290 4.0 0 ▲ 10 ▲ 20 3.5 280 ▲ 30 2004 06 08 10 12 14 (年度) (出所)国土交通省、大阪航空局 ▲ 40 2009/3 6 9 12 10/3 6 9 12 11/3 6 9 12 12/3 6 9 12 13/3 6 9 12 14/3 6 9 12 15/3 6 3.0 270 (月) (出所)当店『県内企業短期経済観測調査結果』 10