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Stanford University留学記

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Stanford University留学記
〔千葉医学 86:149 ∼ 153,2010〕
Stanford University 留学記
〔 海外だより 〕
Stanford 大学放射線科客員研究員 千葉大学循環病態医科学大学院 4 年 高 岡 浩 之 は甲子園球場の830倍程度と言われ,行政上もスタン
はじめに
フォード市として 1 つの市を形成しております。ただ
千葉大学循環病態医科学大学院 4 年の高岡浩之と申
し,大学のみならずその周辺のショッピングセンター
します。私は2009年 2 月中旬からアメリカ,カリフォ
や駅も含めて大学の無料シャトルが走っており,学内
ルニア州のサンノゼ近郊に位置するスタンフォード大
の移動は大変便利です。このシリコンバレー周辺は,
学放射線科に留学しております。千葉大学大学院では,
サンフランシスコとサンノゼを南北に結ぶ鉄道(カル
教授 小室一成先生,講師 船橋伸禎先生のご指導のも
トレイン)も走っており,今までに訪れた他のアメリ
と,循環器疾患領域における CT,MRI を用いた画像診
カの地域に比べると,公共交通機関が大変発達してい
断の研究をしておりまして,現在はスタンフォード大
ると感じます。キャンパス内は駐車場が有料というこ
学放射線科で同領域の臨床研究を行っております。
ともあってか,平日は学生などを中心に大勢の関係者
が自転車を利用しております。留学生が多いせいもあっ
てか,大学周辺には賃貸アパートも多数存在しており,
スタンフォード大学
住環境も整っております。また,大学周辺は治安もよ
スタンフォード大学(写真 1 )は,カリフォルニア
く,気候も晴天が多く温暖で大変生活しやすい印象で
州の中部,サンフランシスコとサンノゼの両都市の間
す。また,この近郊はもともと日本からの移民が多かっ
に位置しております。医学部,法学部などを中心に 7
たせいもあり,日本人向けのスーパーやレストランも
つの学部から成り立っており,大陸横断鉄道の創立者
多数あり,食材など日本からのものも容易に購入でき
であるスタンフォード氏が,若くして亡くなった息子
ます。
を偲んで1891年に設立しました。スタンフォード周辺
スタンフォード大学はサンフランシスコ周辺にお
の地域は,別名シリコンバレーと呼ばれており,グー
け る 観 光 ス ポ ッ ト の 1 つ と な っ て お り, 趣 の あ る
グル,インテルなど多数の先端技術企業が本拠地とし
Memorial Church や,最上階から大学全体を見渡すこ
ております。大学は大変広い敷地を持ち,その広さ
とが可能なフーバータワーの周りは,連日,観光客で
写真 1 スタンフォード大学正門
150
高 岡 浩 之
にぎわっております。また同大学は勉学や研究の分野
評価に有用になる可能性が期待されております[2]。こ
における印象が強いですが,スポーツも盛んであり,
の DSCT は,同社のさらに時間分解能が最大75ms ま
特に女子バスケットボールは2010年の大会で全米 2 位
でに改善された最新の第 2 世代 DSCT に代替え予定と
と優秀な成績を修めており,文武両道を目指す校風が
なっています[3]。
伺えます。
現在,千葉大学病院では,東芝社製の320列マルチス
ライス CT が導入され,ほとんどの症例で心臓全体をガ
放射線科について
ントリー 1 回転でカバーするため,良好な縦軸方向の
画像の連続性という利点に基づき,特に心房細動など
私が所属しておりますのは,放射線科の循環器領域
不整脈症例の冠動脈評価を中心にそのメリットを十分
診断部門で,放射線科にはそれ以外にも計10程度の部
に発揮しておりますが[4],スタンフォードにおける前
門に分かれており,それぞれ教授がいて独立しており
述の両者はそれとは異なる新たな特徴を備え,日常臨
ま す。 私 の 所属する部門 の 教授は Geoffrey D. Rubin
床において冠動脈の良好な描出に寄与しております。
教授で,大動脈疾患の CT の 3 次元構築をはじめとし
循環器診断部門は主に CT,MRI の画像を中心に,循
て,循環器領域の画像診断においてご高名で,放射線
環器領域疾患の読影をしております。また,日本では
科分野では最大といわれる国際学会の北米放射線学
一般的ではないと思いますが,こちらでは胸部レント
会(Radiology Society of North America) で は, 毎
ゲン写真も放射線科医が読影して詳細な所見を残して
年多くの参加者に対して循環器診断に関する教育講演
おり驚きました。CT は,循環器領域においては,主に
をされています。また,2008年のアメリカ心臓病学会
大動脈疾患や冠動脈疾患の診断,ルールアウトに施行
(American Heart Association) の 総 会 で は,Annual
されております。また,スタンフォード大学では,大
Charles T. Dotter Memorial Lecturer と称される特別
動脈疾患(主に大動脈瘤)の血管内ステント治療が盛
受賞記念講演もされています。
んに行われており,術前の治療戦略の構築や術後評価
スタンフォードは大学病院以外に, 2 つのイメージ
に CT は大変有用です。特に術後のフォローアップ CT
ングセンターを有し,新しい機種の CT,MRI など積
では,ステントの migration や fracture,endoleak など
極的に取り入れて臨床応用しております。特に CT は,
の評価を行っております。ステントの形態学的異常は,
GE 社製の,750HD(High Definition)CT や,Siemens
術後の有害事象との関連も指摘されており[5],その発
社 製 の DS(Dual Source)CT な ど を 使 用 し て い ま
見,評価は術後のフォローアップにおいて非常に重要
す。前者の750 HDCT は,発光特性や光の透過性に優
です。冠動脈疾患に関していえば,CT の高い陰性的
れ,残光特性が非常に小さい特殊鉱物ガーネットを用
中率を活用し,動脈硬化のハイリスク症例において主
いたのが特徴で,石灰化など CT 値の高い物質による
に冠動脈疾患のスクリーニングに利用されております。
artifact を低減できると期待されています。特に冠動
また,肺血栓塞栓症のルールアウトにも有用でよく用
脈の高度狭窄病変などでは通常石灰化を伴うことも多
いられております。MRI は,先天性心疾患症例などを
く,従来の機種では狭窄度の評価に難渋していたよう
中心に,シャントの有無など解剖学的な評価や両心室
なケースで威力を発揮すると考えられます[1]。
駆出率や異常血流量の計測など機能的評価,心筋症な
後者の DSCT は, 1 つの機種に 2 つの管球を搭載し,
どにおいて遅延造影の有無などに基づく心筋変性の評
個々の管球が同じ出力で機能した場合,それぞれの管
価などを行っております。
球が協力して画像作成に寄与するため,時間分解能を
最大83ms まで改善させることが可能で,この場合個々
の水平断の画像は大変良好に描出され,通常 motion
3 次元研究室(3D Laboratory)
artifact の多い冠動脈も artifact が少なく良好に描出さ
私は通常,病院とは別棟に位置する 3 次元研究室(3D
れます。また,両管球を異なった出力で作動させれば,
laboratry)で CT 画像を解析してリサーチを行ってお
通常の 1 管球撮像に比べ,両者を様々な割合に加減す
ります。こちらは,放射線科教授の Sandy Napel 教授
ることで,より多くの情報を得ることが可能であり,
(写真 2 )と,前述の Rubin 教授の指導のもと主に放
今後左室心筋の虚血や梗塞,線維化など変性の有無の
射線技師で組織,運営されている研究室で,研究室と
Stanford University留学記
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写真 2 放射線科 Sandy Napel 教授(左)と著者(右)
いっても基本業務は主に日常臨床業務のサポートであ
り,撮像された CT や MRI 画像を解析し, 2 次元画像
をベースに Volume Rendering(VR)や Curved Planer
Reformation(CPR)画像など,種々の 3 次元画像を作
成したり,心臓などのボリューム解析や,冠動脈の石
灰化スコアなどを測定し,放射線科医のレポートに記
載することになっています。日本では馴染みの薄い部
署だと思いますが,それはおそらく日米の画像診断の
診療報酬の違いから生まれているのではないかと思い
ます。
こちらには GE 社や TeraRecon 社,Vital Images 社な
どの多数のワークステーションが装備されており,臨
床診断のために解析を行う放射線技師の傍らで,私も
リサーチのため,画像の解析を行っております。解析
する目的に合わせて各社のワークステーションを選ん
で使用できるのは大変恵まれた環境だと思っておりま
す。こちらには大学病院だけでなく,前述の各イメー
ジングセンターからも画像が集まり,月約900件の画像
診断の補助を行っております。この研究室には,私以
外にもヨーロッパなどからの研究留学生がおり(写真
3 ),互いのリサーチの内容や異国での生活の相談,互
いの国の様子や医療事情の話などを時にします。通常
写真 3 3D Laboratory の あ る Lucas Center
の前で(左から,ドイツからの医学
生セドリックさん,著者,スイスか
らの放射線科医アンドレアスさん)
我々のような海外からの研究者は,このように研究室
で 1 日を過ごすことが多いですが,希望すれば放射線
をとっており,この読影会に参加するのは大変勉強に
科医の日々の読影業務を行っている現場に顔を出すこ
なります。特に心臓 MRI の読影などは,循環器科 Dr
ともできます。こちらでは通常,レジデントがあらか
も参加して,個々の症例のバックグラウンドや他のモ
じめ読影を行い,教授ないし助教授などスタッフが皆
ダリティでの検査結果も踏まえて議論しながら読影を
とディスカッションしながら修正するというスタイル
行っておりこちらも参考になります。また,各科のカ
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高 岡 浩 之
ンファレンスも基本的にオープンな雰囲気で行われて
年に数回大きなイベントを開催しており,またメーリ
おり,他の病院のドクターが参加されることも多く,
ングリストで様々な情報を交換する場を与えてくれま
血管内治療部門の放射線科のカンファレンスなど時に
す。私もこちらに参りました際には,車や家具の購入
参加して,救急症例の診断,治療のプロセスなどを聞
の際に利用して大変助かりました。また, 2 か月に 1
くのも興味深いです。
度程度,こちらで活躍中の日本人研究者を招いて 1 時
間程度の講演を依頼する企画もあり,そういった方々
他科留学生との交流
私は日本では循環器科医ですが,今回こちらでは放
のリサーチ内容やこちらでの日々の苦労話をお聞きす
るのは大変有意義で,仕事に対するモチーベーション
を高めるのに非常に役立ちます。
射線科に留学しております。こちらでは,循環器科や
心臓血管外科などの循環器領域にも日本から医師が
多数留学されており,主に血管内超音波を中心に研
英会話研修
究 を 行 う,Cardiovascular Core Analysis Laboratory
大学周辺には各国からの留学生が多いこともあり,
(CCAL)やアニマルラボラトリーに留学されておりま
たくさんの語学研修の場が用意されております。 1 つ
す。1988年に血管内超音波(IVUS)を初めて臨床応用
は大学の国際交流センターにおいて平日のデイタイム
した Paul G. Yock 教授や Peter J. Fitzjerald 教授によっ
に英語のクラスを提供しており,また,大学周辺の市
て CCAL は開設され,日本でも冠動脈カテーテル治療,
も平日に各国語の語学スクールを提供しております。
診断においてご高名な本多康浩先生を中心に,最近で
いずれも無料で,我々留学生には大変ありがたいシス
は常時数人の日本人研究者が在籍しています。大学病
テムです。さらに,大学の国際交流センターでは,自
院は約600床の規模で,循環器科では年間約800件のカ
分にマッチするボランティアの英会話パートナーを斡
テーテルインターベンション(弁置換や ASD 治療を含
旋してくれ,彼らは週に 1 ∼ 2 回こちらも無料で英会
む)が行われております。循環器科の主任教授は Alan
話を指導してくれます。また,大学では外国人留学生
Yeung 先生で,インターベンションチームは同教授を
向けの有料の語学クラスも多数用意しており,意欲的
中心に構成されています。また,心臓外科では心移植
な留学生はそちらに通っています。私も夏季の集中プ
を盛んに行っており,アメリカ初のケースを施行以来,
ログラムを教授に勧められて受講しました。こちらは
現在までにすでに1,200件以上行っており,年間では約
6 週間平日ほぼ連日の授業と,かなり密なスケジュー
40∼50件行っています。また,血管外科は大動脈瘤な
ルでしたが,ディスカッションやプレゼンテーション
どの大動脈疾患に対する血管内治療を積極的に施行し
のトレーニングなども用意されており,終了した際に
ており,同領域において世界をリードする Christopher
は大変充実感がありました。こちらでは先生方が積極
K. Zarins 教授や Ronald K. Dalman 教授のもと,日本か
的に生徒達の間での交流を深める機会を与えて下さり,
らの先生方も手術の見学や基礎研究を行っております。
各国の留学生やまた日本からの企業や官庁の方々も多
他部署に所属される研究者の方々とは実際の仕事では
数参加されていたため,皆でお互いの分野の情報を交
あまりご一緒する機会はないですが,同分野の同郷の
換することができました。
友ということで交流会は盛んに行われており,私も同
じ循環器領域の人間として参加させて頂き情報交換な
どしております。また,時にはお互いの研究室を見学
終わりに
したり,私の場合は CCAL のカンファレンスに参加さ
最後になりますが,こちらに留学するに際しまして
せて頂くこともあります。もちろん循環器科,心臓血
多大なご助力を頂きました,千葉大学医学部循環病態
管外科以外にも,脳外科,眼科,皮膚科,消化器外科,
医科学教授 小室一成先生,同講師 船橋伸禎先生,同
麻酔科など様々な診療科のドクターが留学されており
医局長 宮内秀行先生,循環病態医科学の先生方ならび
ます。また,こちらにはスタンフォード日本人会とい
にスタッフの皆様,さらに留学当初にスタンフォード
う組織があり,医学系の方のみならず他の分野の方々
大学でお世話になりました,現千葉大学医学部放射線
とも交流を深めることができます。この日本人会は,
科講師 植田琢也先生には,この場をお借りいたしまし
Stanford University留学記
て御礼申し上げます。
153
高ピッチ心臓撮影.心 CT 増刊号,東京 : 文光堂,
2009: 92-8.
文 献
1 )佐々木公祐.機器開発においてメーカーが目指し
4 )上原雅恵,船橋伸禎.320列 CT の特徴を活かした
撮影法.心 CT 増刊号,東京 : 文光堂,2009: 12-26.
5 )Harris PL, Vallabhaneni SR, Desgranges P, et
たもの.心 CT 増刊号,東京 : 文光堂,2009: 70-5.
al. Incidence and risk factors of late rupture,
2 )Balazs Ruzsicu, U. Joseph Schoepf.船橋伸禎(訳)
,
conversion, and death after endovascular repair
虚血心筋における dual energy CT. 心 CT 増刊号,
of infrarenal aortic aneurysms: the EUROSTAR
東京 : 文光堂,2009: 99-117.
experience. European Collaborators on Stent/
3 )Geoffrey D. Rubin.高岡浩之(訳),新世代 dual
source computed tomography(DSCT)を用いた
graft techniques for aortic aneurysm repair. J
Vasc Surg 2000; 32: 739-49.
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