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マルチホーム環境におけるアドレス決定支援機構の提案
マルチホーム環境におけるアドレス決定支援機構の提案 池永 全志* ( 九州工業大学大学院, * 堀 良彰** 九州大学大学院, ** 1 はじめに インターネットの普及は、データリンク層以下の階層を IP パケット 交換網に抽象化することによって支えられている。様々なデータリン ク(通信事業者によるネットワークサービス)が提供されている現在で は、利用者は性能、信頼性、コスト等いくつもの特性から最適なインタ ーネットアクセス回線を選択可能である。またインターネットの急速な 普及に伴って、比較的小さな組織または家庭向けのインターネットア クセスサービスの価格は著しく低下している。このようなことを背景と して、単一のネットワークが複数のインターネットアクセスを利用する マルチホーム接続に注目が集まっている。 本研究では、マルチホーム接続環境に着目し、これによって提供 される接続性(可用性)および信頼性のみならず、複数のインターネ ットアクセスをトラヒック制御技術によって効率良くまた高い通信品質 で利用するためのアーキテクチャとその手法について考察する。 2 マルチホーム接続環境を支える技術 2.1 IPv6 マルチホーミングとアドレス選択 マルチホーム接続環境の基盤技術として筆者らは、IP version 6 に 着目している。マルチホームを実現するためのアーキテクチャとして は、NAT によるプレフィクス変換機構を用いたもの[1]や、各 ISP から 割り当てられた IPv6 アドレスプレフィクスをエンドホストへ割当てる方 式が検討されている。後者の手法に関しては、エンドホストが自律的 に使用する始点IPアドレスを決定することでエンドホストによるISP選 択を実現する方法が注目を集めている。この場合、エンドホストは与 えられた終点アドレスの候補および自身が有する始点アドレスの候補 から通信を行うために必要な始点・終点アドレスを選択する。この選択 手法は RFC3484 で標準化が行われているが、これは候補となるグロ ーバル IPv6 アドレスが複数ある場合に、負荷分散等のトラヒック制御 の観点から最適な始点・終点アドレスを与えるものではない。 また、IETFのmulti6 WG においてC. Huitema らは、現在のほとん どの IPv6 の実装が終点アドレスを先に決めていることについて疑問 を呈している [2]。我々は始点および終点IPアドレスを決定するにあ たり、始点・終点それぞれのIPアドレスの候補となるIPアドレスの組が 与えられたとき、入手し得る知識を基に最も適切な始点および終点IP アドレスの一対の組が与えられることが理想であると考え、そのため に必要となるアドレス選択機構のアーキテクチャを検討する。 2.2 始点・終点IPアドレス選択のための機構 通信を開始しようとするエンドホストは、一般に始点アドレスおよび 対応するインタフェースに関する情報は容易に取得できる。例えば、 当該エンドホストにおけるインタフェース関連情報(リンクの Up/ Down、通信速度等)や通信履歴等が考えられる。しかしながら、始点・ 終点間のスループットや安定性などは、経路(情報)の安定性やパケ ットが通過するネットワークの混雑状況に依存することから、始点また は終点アドレスのどちらかを先に決定する方法では最適な選択は困 難である。 3 提案アーキテクチャ 我々は、通信の開始に先立ち与えられる始点・終点IPアドレスの 候補、さらにポリシを入力することによって最適な始点IPアドレスおよ び終点IPアドレスのペアを導出するサービス機構を提案する。本サ ービスは、ネットワークの管理単位毎に設置され、通信の開始に先立 ってエンドホストから発せられる問い合わせに自らが有する知識を用 いて応答する。図1に提案機構の動作概念図を示す。この図では、始 尾家 祐二*** 九州工業大学 ) *** 点アドレスの候補としてAXとBX、終点アドレスの候補としてCY、DY、 EZの三つのアドレスがある場合の例を示している。 (提案機構) ・情報収集 Internet S ・問合せ ・応答 R ISP-A R ISP-B Addr: CY Addr: DY Addr: EZ Addr: AX Addr: BX 図1. 提案機構の動作概念図 3.1 始点・終点 IP アドレスの候補 始点IPアドレスとしては、始点となるエンドホストが有するIPアドレ スのいずれかが選択される。さらに、次のような場合には終点となる IP アドレスに複数の候補が存在する。ア)終点となるエンドホストが複 数のIPアドレスを有する場合、イ)終点となるホスト名に対応するIPア ドレスが複数存在する場合、ウ)同一のサービスを提供するホストが複 数存在する(ミラーサーバ)場合。本提案機構では、これらの各状況に 対応して適切な始点および終点IPアドレスを選択する。 3.2 アドレス選択のための知識 アドレス選択のための知識としては、ア)経路情報、イ)フロー履 歴情報、ウ)通信品質関連(遅延時間、利用帯域など)情報、オ)管理・ 運用のためのポリシなどが考えられる。これらの情報を選択的に、あ るいは総合的に利用して最適な組み合わせを導出する。 3.3 インタフェース設計 エンドホストとのインタフェースとしては、DNSクエリ・レスポンス を拡張したインタフェースを使用する方法が考えられる。この場合に は、既存の DNS サーバを本システムで置き換えることによって段階 的な導入が容易になるといった利点がある。別の方法として、アドレス 選択のために必要なメッセージや手順を独自に作成することも考えら れる。例えば、NAROS [3] では始点アドレスを選択するための独自 問合せプロトコルを提案しており、これをさらに改良することによって 本提案機構を実現することも可能である。 4 まとめ 本稿では、マルチホーム接続環境の基盤となる技術として、通信 の開始に先立って与えられる始点・終点IPアドレスの候補およびポリ シ等を入力することで最適な始点IPアドレスおよび終点IPアドレスの ペアを導出するサービス機構を提案した。 今後、提案機構における最適アドレス決定アルゴリズムの評価およ び提案機構の実装による実証実験を行う予定である。 謝辞 本研究は、総務省による「戦略的情報通信研究開発推進制度」およ び文部科学省における科学研究費補助金基盤研究(A)(課題番号 15200005)の支援を受けている。ここに記して謝意を表す。 参考文献 [1] Y. Hori, et al, “Design and Implementation of IPv6 gateway allowing effective use of multihome network,” in Proc. IEEE PACRIM’03, 2003. [2] C. Huitema , et al., “Host-Centric IPv6 Multihoming,” internet-draft, draft-huitema-multi6-hosts-01.txt, June 2002. [3] C. Launois, et al, “The NAROS Approach for IPv6 Multihoming with Traffic Engineering,” in Proc. QoFIS2003, 2003.