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研究成果の論文 - 公益財団法人 大林財団

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研究成果の論文 - 公益財団法人 大林財団
公益財団法人大林財団
研究助成実施報告書
助成実施年度
2007 年度(平成 19 年度)
研究課題(タイトル)
イラン・バム地震で被災した世界遺産中世歴史都市アルゲ・バムと
その周辺の文化的景観の修復計画に関する研究
研究者名※
花里 利一
所属組織※
三重大学
研究種別
研究助成
研究分野
建築技術
助成金額
150 万円
概要
2003 年 12 月 26 日に発生したイラン・バム地震では、中世歴史都
大学院工学研究科
市アルゲ・バムの土の建築群が大模に崩壊し、その周辺のオアシス
の文化的景観とともに翌年世界危機遺産に緊急登録された。
当初修復には約 15 年を要するとしていたが、緊急対策が終わりつつ
ある段階でいまだ修復計画のマスタープランは示されていない。ま
た、その周辺の文化的景観もユネスコによりバッファゾーン(第 1,
第 2 および文化ゾーン)が決められ、建物の高さ制限は設けられてい
るが、歴史的な街並みを形成していたアドベ造住宅の建築はバム市
により禁止されている。レンガ壁(軽量穴あきレンガ)をもつ鉄骨もし
くは鉄筋コンクリート骨組住宅がバッファゾーンに建設され、ドー
ム屋根を有する土の建築群を有する伝統的な都市景観は失われつつ
ある。
本研究は、地元産のナツメヤシの繊維を用いた土の建築物の補強方
法を提案し、実験によりその効果を確認する。さらに、修復対象と
して選定した住宅建築(アルゲバム内)の修復計画を立案し、都市遺跡
アルゲ・バム修復のマスタープランの策定に向けた技術資料とする。
このアドベ造住宅の構造修復計画の立案は、バッファゾーン内にお
いて、伝統的なアドベ造住宅による住宅再建の工法に適用できるも
のと期待される。本研究の特色は、現地修復事務所も協力した実践
的な国際共同研究であり建築構造および建築史、保存修復学の専門
家によって学際的に進めることにある。
発表論文等
※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります
1.研究の目的
2003 年 12 月 26 日に発生したイラン・バム地震では、中世歴史都市アルゲ・バムの土の建築群が大
模に崩壊し、その周辺のオアシスの文化的景観とともに翌年世界危機遺産に緊急登録された。当初修復
には約 15 年を要するとしていたが、緊急対策が終わりつつある段階でいまだ修復計画のマスタープラ
ンは示されていない。また、その周辺の文化的景観もユネスコによりバッファゾーン(第 1, 第 2 および
文化ゾーン)が決められ、建物の高さ制限は設けられているが、歴史的な街並みを形成していたアドベ造
住宅の建築はバム市により禁止されている。レンガ壁(軽量穴あきレンガ)をもつ鉄骨もしくは鉄筋コン
クリート骨組住宅がバッファゾーンに建設され、ドーム屋根を有する土の建築群を有する伝統的な都市
景観は失われつつある。
本研究は、地元産のナツメヤシの繊維を用いた土の建築物の補強方法を提案し、実験によりその効果
を確認する。さらに、修復対象として選定した住宅建築(アルゲバム内)の修復計画を立案し、都市遺跡
アルゲ・バム修復のマスタープランの策定に向けた技術資料とする。このアドベ造住宅の構造修復計画
の立案は、バッファゾーン内において、伝統的なアドベ造住宅による住宅再建の工法に適用できるもの
と期待される。本研究の特色は、現地修復事務所も協力した実践的な国際共同研究であり建築構造およ
び建築史、保存修復学の専門家によって学際的に進めることにある。
2.研究の経過
2.1
研究の体制
本研究は、花里利一(研究代表者)、岡田保良(国士舘大学古代イラク文化研究所教授)、メールダッド・
ヘジャジ(イスファハン大学工学部教授)、エスカンダル・モクフタリ(アルゲ・バム修復事務所長)、
種市麻衣(三重大学大学院修士課程)によって実施した。また、文化的景観の保存問題に関しては、メー
ディザーヘ教授(イラン科学技術大学)の協力を得た。
2.2
国際共同研究の実施
①国内におけるセミナーの実施と研究打ち合わせ
共同研究者のメールダッド・ヘジャジ教授を招聘し、2008 年8月 20 日に、日本イコモス主催のセミ
ナーを開催した(東京藝術大学赤レンガ館)。合わせて、本研究の進め方について打ち合わせを行った。
②イランにおける国際ワークショップの参加と研究打ち合わせ
共同研究者・岡田保良教授が 2009 年5月初旬にイランを訪問し、テヘランおよびイスファハンにお
いてセミナーと打ち合わせを行った。テヘランでのセミナーはシャヒド・ベヘシティ大学において、5
月 5 日に行い、共同研究者のエスカンダル博士、ヘジャジ教授とアルゲバムの文化的景観の保全問題等
について議論した。また、イスファハン大学では、5 月 9 日に、歴史的建築物のシンポジウムに参加し、
研究発表を行うとともに、アルゲバムの土の建築群の修復方法について議論した。
③アルゲ・バムにおける被災建物の修復状況およびその周辺の景観に関する現況調査
アルゲ・バムの被災建物の修復状況と周辺の歴史地区の現地調査を実施した(ヘジャジ教授(イスファ
ハン大学), メーディザーヘ教授(イラン科学技術大学)2008 年 12 月)。さらに、2009 月 5 月にアルゲバ
ムとその周辺のバム旧市街の調査を NHK の協力で実施した(ヘジャジ教授)。
④イランにおける土の建築群の調査
2009 年 5 月 7,8 日および 8 月 13 日にイスファハン周辺の土の建築遺産の保全状況に関する調査を実
施した(5 月:岡田,8 月:花里)。
2.3
アルゲ・バムの被災建物の修復方法に関する実験と解析
①日干しレンガおよびナツメヤシ・ロープの力学試験
日干しレンガおよび目地材料とチネの材料試験をバム城砦修復事務所で実施した。さらに、補強材料
として地元産のナツメヤシのロープの適用性を確認するため、三重大学において、バムで入手したナツ
メヤシ・ロープの引張強度試験を実施した。
②アルゲバムの被災建物の耐震解析
アルゲバム内の被災建物の構造修復計画を立案するために、バザールの住宅建築を対象とした耐震解
析をイシファハン大学において実施した。
3.研究の成果
3.1
文化的景観の修復計画に関する調査
3.1.1
危機遺産登録の経緯と文化的景観の保全(岡田)
2003 年 12 月 26 日に発生したバム地震で、中世歴史都市アルゲバムが崩壊した。翌年、早々とバム
の遺跡は危機遺産リストへの登録が決議された。しかし、考古学的な考証が不十分なため、暫定リスト
にも載っていない遺跡にしては、極めて迅速な措置であった。世界遺産委員会が定める作業指針が 200
5 年に大幅改定された際、危機遺産審査の手続きはより詳細に規定されたが、アルゲバムの審査はそれ
以前であったため、震災直前・直後の国際協力体制が審査の実を結び、異例の早さでの登録となった。
震災直前の 2003 年 12 月初旬にバムに近い町ヤズドで土の建築に関する国際会議が開催され、海外を
含めて多くの専門家が参加し、震災直前のバムを見学した(岡田参加)。震災後の翌年4月には、再び国
際ワークショップが緊急に開催され、その多くの参加者が再び集まり、復興指針となる宣言書をまとめ
た(岡田参加)。
上述の危機遺産登録に関わる国際的な環境はあったとはいえ、文化的景観に関する登録の範囲について
は、次の指摘ができる。申請時に、イラン政府は『バム城砦とその関連資産』として、登録面積を 81
ヘクタールに限った提案を行った。これに対して、世界遺産委員会側は、登録対象を 2300 ヘクタール
まで広げ、『バム城砦とその周辺の文化的景観』とするよう勧告した。イラン政府の提案は、カナート
(イラン式灌漑用地下水路)の効用による砂漠と人間との共存の姿を評価したものであるが、世界遺産委
員会側は、それよりもナツメヤシの繁る城砦周囲の景観こそふさわしいとみなした。イラン政府には、
2010 年を期限に再提案を求められている。世界委員会の勧告は、文化的景観の重視と同時にそれをバッ
ファゾーンで逃げようとする傾向に注意を与えたものである。2009 年 9 月現在、イラン政府が作成中
の草案によれば、世界遺産の指定区域は、この勧告を受け入れて、断層を含む広範囲な領域を指定して
いる。2010 年に提出する最終報告書が待たれる。
アルゲバムは震災により、イラン政府によりそれ以前から進められてきた修復事業が無に帰したもの
の、危機遺産登録を機に、考古学的な調査抜きの復興事業は認められなくなった。震災で遺構が破壊さ
れたが、それが遺跡の学術調査の機会を生んでいる。現在、アルゲバムの復興事業には、イラン国外か
らは、イタリア、ドイツ、フランスが参加している。イタリアは、タワーの調査・修復(ローマ大学・ク
ローチ教授)、集合住宅建築(ミラノ工大ビンダ教授)ドイツは、シスタニハウスと呼ばれる住宅建築の調
査・修復(ドレスデン工大イェーガー教授)、フランスは、第二ゲートの修復を手掛けている。日本政府
も、震災直後に緊急支援を実施し、その後も本研究も含めて、学術調査を通した国際協力が行われてい
る。
3.1.2
旧市街におけるバッファゾーン
バム市役所でのヒヤリング(2006 年実施)およびモクフタリ氏(本研究の共同研究者)によれば、下記の
ようにまとめられる。なお、この領域区分は、2006 年頃の当初の計画案であり、2009 年現在、3.1.
1.に記述したように、世界遺産委員会の勧告を受けて、見直しがなされている。
旧市街は約 150 年前に形成された街並みである。旧市街では、アルゲバムの周囲について、ユネスコ
の勧告によりカルチュラル・ゾーンの区域が定められている。この区域内では、住宅建築と事務所建築
がそれぞれの規制基準で建てられている。また、さらに狭いエリアを対象として、カルチュラルゾーン
の内側だけでなく外側にも、歴史的建造物を中心として、第一および第二バッファゾーンが設けられて
いる。第一バッファゾーン、第二バッファゾーンでは、建築物の高さ制限がなされ、第一バッファゾー
ンでは 4.5m 以下、第二バッファゾーンでは、7.5m 以下と規制されている。ただし、ドーム屋根を持つ
伝統的なアドベ造の建築は、耐震対策から建設が禁止され、震災後は、建築基準により、主に、穴あき
レンガを壁材料に用いた鉄骨または鉄筋コンクリート造の建物が建てられている。この問題では、地震
後に建設委員会が開催され、建築意匠と構造の2つの委員会で基本的な復興計画が検討されている。建
築意匠委員会では、伝統的な町並みの景観も考慮することが提案され、構造委員会では、イランの耐震
基準に基づくこととし、アドベ造建築は禁止された。その結果、屋根の形状もフラットであり、ドーム
屋根の並んだ街並みは失われている。上術の3つのゾーンに建物を建てる場合には、国の機関(National
Cultural Heritage Organization)の承認が必要とされている。実際には、バム城砦修復事務所のスタッ
フも審査に加わっている。もともと、バム市の都市計画は 1966 年にケルマン州で策定され、1977 年お
よび地震直前の 2003 年に見直されている。2003 年の見直しでは、次の 17 年間の計画案が策定されて
いる。震災により、このマスタープランは少し修正されたが、その後も続けられた。
3.1.3
バム市街における伝統的なアドベ造住宅建築群の被害
2006 年9月に現地調査を実施したが、バム市街地の大多数のアドベ造住宅は、倒壊もしくは大きな被
害を受けており、市街地の住宅地は空き地もしくは新しい再建住宅が建て始められていた。それらの工
法は、3.1.4、3.1.5に示すとおりであり、アドベ造による再建は禁止されている。
いまだ撤去されずに残されているアドベ造住宅について、日干しレンガの寸法、壁やドーム屋根の厚
さ、工法などを 2006 年に調査した。
1)アドベ造のバザール跡
ファザードやドーム屋根はほぼ全壊し、壁の一部が残っている状態であった。広場内の瓦礫は撤去さ
れていた。アドベ造の店舗兼住宅の壁の厚さは、約 55cm であった。別の敷地において、新しい RC 造
のバザール建築群の建設が始まっていた。
2)アメリ氏邸宅
バム市街における典型的なアラブ式住宅である。家屋の周囲はチネと呼ばれる土塀で造られており、
中央にある中庭を囲むように居室が並んでいる。アドベ造の壁厚は 75cm であった。日干しレンガの寸
法は、約 22cm×約 22cm×約 5cm であった。目地厚さは約 cm であった。焼成レンガも建設材料に使
用されていたが、目地にはセメント・モルタルが使用されており、壁厚は約 50cm であった。この焼成
レンガの構造体は被害を受けていない。一部に鋼材の補強が施されていた。
3)鉄骨骨組とレンガ壁の住宅
アドベ造だけではなく、地震前に建設されていた鉄骨骨組とレンガ壁の工法による住宅も大きな被害
を受けていた。骨組自体は残っているが、補強筋が入っていないレンガ壁が崩壊している例が多い。
3.1.4
バム市における復興住宅計画
バム市では、住宅建築の復興に関して、2つの委員会を発足させている。ひとつは、Architectural
Committee of Bam (町並みおよび景観の保全を目的とした委員会)、もうひとつは、Structural
Engineering Committee (構造に関する委員会)である。構造に関する委員会では、住宅再建にあたり、
イランの建築基準法を適用することとし、レンガ壁は非構造材として構造計算を行うこととしている。
イランの耐震基準は、改訂され、以下に示すように、地震荷重の評価は、米国基準(UBC)と同じ考え方
の基準を適用している。
設計用地震荷重
V = C×W
C
=
A×B×I/ R
ここに、 A=0.3, B=2.75
I : 重要度係数 I=1(住宅),I=1.2 (重要な建築物)
R : R=6,7 (RC)
R=8(S 造)
上述の基準によれば、住宅建築の設計荷重(せん断力係数)は、鋼構造で約 0.11、鉄筋コンクリート構
造で約 0.15 と計算される。この地震荷重は、保有水平耐力計算に用いられると考えられるが、日本の
現行の基準で規定されている地震荷重に対して、約 1/2 以下のレベルである。この荷重レベルでは、3.
3に示すように、ある程度の壁厚を有すれば、アドベ造住宅も、耐力的には耐えることができると考え
られるが、R の値がよくわからないこと、実際のバム地震でアドベ造住宅の多くが崩壊したことから、
前節に示すようにバム市では、アドベ造住宅の建築を禁止している。
なお、コンンクリートの圧縮強度は 210-250kg/cm2、鉄筋の引張強度は 3,000kgf/cm2 としている。
また、建築確認の流れは、設計者が上記委員会に申請し、建築許可を得た後に建築工事を行う手順に
なっている。このように、新築の住宅は、構造計算による安全性を確認した後に、建てられており、い
わゆる Non-engineered 住宅ではなく、Engineered 住宅に分類されるものである。
ところで、新築住宅の壁材料には、工場生産の軽量な穴あきレンガが広く普及している。この壁材料
の使用は耐震的には有効であるが、とくに、行政で指導を行っておらず、基準も穴あきレンガの使用を
義務付けていない。設計者が軽量化を目的として独自の判断で使用している。
後節において、イラン人共同研究者の調査結果を示すが、日本チームでは以下の知見を得ることがで
きた。調査は、バム市内でも最も被害の著しい Moallem Bounbard 地区で実施した。
鉄骨フレームに穴あきレンガを用いたレンガ壁をもつ構造は、広く普及している。約 10cm 角の角型
鋼管または I 型鋼を溶接したもので柱と梁の骨組を建てる。屋根には、特殊な RC の小梁を渡して、屋
根専用の穴あきレンガを並べ、その隙間をコンクリートで充填する。この工法の住宅建築の費用は単位
面積当たり約 60US$/m2 である。
約 30cm 角の柱寸法をもつ RC 骨組に、infill として穴あきレンガ壁を積んだ工法は、上記の鉄骨フ
レーム構造に比べてやや割高であり、単位面積あたり約 85US$/m2 といわれている。
レンガで壁を立ち上げた後に、レンガ壁の幅とほぼ同程度の寸法をもつ RC 柱のコンクリートを打つ
Confined Masonry 工法も用いられている。この工法の例として、柱の断面寸法が 30cm×30cm、主筋
として φ14-18mm の鉄筋が用いられ、帯筋として φ9mm の鉄筋が 20cm 間隔で配されていた住宅があ
り、壁厚は外周部で約 35cm、間仕切り壁で約 30cm、目地厚は 15-20mm であった。壁の補強には φ
9mm の鉄筋が水平に配されていた(50-60cm 間隔)。
3.1.5
文化的景観からみたバム市街の復興に関する現状調査と課題
研究協力者のメーディザーヘ教授(イラン科学技術大学)の現地調査による報告を以下にまとめる。そ
の報告資料を本研究報告の末尾に添付する。
建物や施設は、所有者および用途により分類される。すなわち、住宅、店舗、宗教、役所、工場、ラ
イフラインである。建物のなかには、複数の用途のものもある。例えば、メインストリートの建物の多
くは、住宅と店舗の共用である。これらの建物の多くは、2または3階建で、1階が店舗として使われ
ていた。
バム市街を形成する建築の工法は構造的に以下のように分類される。
Type 1 : 伝統的なアドベ造建物
壁で仕切られ、連続した長方形または正方形の部屋を持つ。部屋の
長さはふつう 4m から 12m 程度である。日干しレンガの壁厚さは一般に 80-90cm であり、目地は土モ
ルタルが使用されている。屋根の形状はドームまたはヴォールトであり、日干しレンガで造られる。こ
の工法はイランで数世紀にわたって普及してきたものである。なお、しばしば、焼成レンガでも同類の
壁工法が用いられるが、壁厚さは約 35-45cm 程度である。
Type 2 : 無補強組積造建物
焼成レンガの壁をもつ。無補強の壁厚 35-45cm である。屋根と床は
90cm 間隔の I 型梁 90cm による平面で構成されている。I 型梁の間はレンガが用いられている。屋根や
床の I 型梁は壁に単純に支持されており、壁との接合は剛ではない。しばしば、コンクリートの梁が壁
頂部に使用されている。
Type 3 : 無補強のレンガ壁を有する鉄骨または鉄筋コンクリートの単純な骨組
この工法は、鉄骨ま
たは鉄筋コンクリートの骨組とその間を無補強組積造(レンガ造)壁を設ける。鉛直荷重は、単純な梁と
柱で支えるシステムである。屋根や床は Type 2 と同様に建てられる。しばしば、壁厚は、レンガの幅
と同等に薄くなる。
Type 4 :無補強レンガ壁をもつ鉄骨骨組構造(鋼材のブレースを有する) この構造は Type 3 と類似して
いるが、水平荷重に抵抗するよう、鋼製ブレースを設けている。しばしば、鋼棒もブレースに用いられ
る。
Type 5 : モーメント抵抗フレーム構造(鉄骨または鉄筋コンクリートラーメン構造) この構造は、鉄骨
または鉄筋コンクリートフレームにより、床や屋根に作用する水平力を下階に伝えるものである。屋根
や床は Type 2 の工法の特徴を有する。壁は無補強レンガ壁である。
Type 6 : 金属製の屋根を有する鉄骨フレーム構造
平屋で傾斜屋根を有する建物で、工場や店舗に用
いられる。
バム市街のほとんどの建物は、上記の6種類またはその変形に分類される。Type 6 を除き、重量屋根
を有することは注意すべきである。このような屋根は、麦わらと混ぜた薄い粘土の層が屋根の外側部分
を滑らかにするために用いられる。この工法は、雨水の防水と断熱のために用いられている。2~3年
後には、粘土と麦わらを混ぜた新しい層をつくる。これを繰り返すうちに、数年後には、屋根の重量は
極めて重くなる。このような工法は、外壁にも適用される。
3.1.6
建物各種工法の耐震性能に関する考察
バム市の被害率(建物の全壊率)は、断層距離が約 3km 以下では、80-100%、約 3-5km では、5080%、5-6km 以上では、30-50 と分布していた。アルゲ・バムは断層から約 2km に位置しており、その
周囲の住宅建築の多くが倒壊していた。
以下は、各工法の被害状況を示す。
Type 1 : 伝統的なアドベ造建物
この工法は、砂漠の気候(日中は暑く、夜間は寒い)には適している
が、地震にはたいへん弱い。重い屋根と壁と低い水平抵抗により、水平力が壁の破壊と重い屋根の崩壊
の原因となる。階高が低い建物では、地震動に対する重い屋根の応答による慣性力を抑えるが、壁のせ
ん断強度を付加するための補強が不十分であったり、壁と屋根の接合耐力の不足は、建物の崩壊を招く。
同様の建造物の再建には、少なくとも壁の補強とともに、屋根の接合を鉄筋コンクリート梁を用いて確
保すべきである。軽量コンクリートの屋根も有効である。
Type 2 : 無補強組積造建物
この種の構造は、耐震的に問題である。重い屋根と壁の接合耐力の不足
により、屋根の梁がそれを支持する壁からはずれ、崩壊する。新市街の被害は、この構造の弱点を明ら
かにした。この地域では、ほとんどの建物が崩壊したが、建物の脆弱性に加えて、地盤による地震動の
局所的な増幅が影響していると考えられる。この工法の建物のうち、2~3の建物では、壁の頂部に鉄
筋コンクリート梁を回していたが、Type 3 などの多くの全壊建物がみられた地域においても、被害は軽
微であった。
Type 3 : 無補強のレンガ壁を有する鉄骨または鉄筋コンクリートの単純な骨組構造
バムで大きな被害を受けた建築物のなかでも、最も件数の多い構造である。とくに、鉄骨柱の形式
が多い。その柱は、ほとんどの場合、チェンネル形状であり、縁間の距離は、壁厚と同等である。2つ
のチャンネル断面の鋼材を溶接した交差ブレースとグラウトでつないでいる。崩壊は、柱の破壊と水平
梁との接合部の破壊による。全壊していない建物では、柱の座屈や不十分な接合部の破壊による被害が
みられた。この種の建物では、構造要素の接合耐力の不足が建物の耐震性を低下させている。
Type 4 : 無補強レンガ壁をもつ鉄骨骨組構造(鋼材のブレースを有する) この構造は、3階~5階建の
店舗もしくは住宅兼店舗共用建物で、おそらく最も一般的な形式である。階数が高くなるにつれ、地震
応答が大きくなる。最も大きな被害を受けた地域では、このことが建物の全壊の原因となった。破壊
形態には、水平抵抗が不十分な柔らかな層(Soft Story)におけるブレースの座屈が含まれる。また、接合
部の不十分な施工の例も少なくない。このようなケースでは、全壊に至る前に、接合部が破壊したかど
うかを見分けることは難しい。
Type 5 : モーメント抵抗フレーム構造(鉄骨または鉄筋コンクリートラーメン構造)
この種の構造は
十分な構造設計と良好な施工がなされれば、構造要素や接合部の破壊無しに、じん性を有する建物にな
る。好例は、ホテル・アザディと建設中の新しい病院である。セパー銀行は、モーメント抵抗型のコン
クリート骨組を持つ。最大級の地震動域に近くに位置する場合でも、軽微な被害を受けただけである。
銀行は2階建である。Type 5 のなかでも、高さの低い建物は、レンガ壁の面にせん断亀裂がみられる
だけである。
Type 6 金属製の屋根を有する鉄骨フレーム構造
一般に、この構造は頂部の質量が比較的小さので
好ましい構造である。上階から下階に伝わる慣性力が小さくて済む。さらに、この構造は、地震応答
によるエネルギーを消費する十分なじん性を持つ。バムでは、Type 6 の構造の建物もまた、ほとんど被
害を受けていない。
3.1.7
文化的景観の保全に関するプロジェクトの提案
バム市街は慎重な再建計画を必要としている。現在、バム市の再建には、市役所や国際支援による基
金によって、エンジジアリングや建築会社が参加している。しかし、バム市の再建の現在の状況をみる
と、都市景観の保全の観点からみて、計画が不十分である。とくに、伝統的なアドベ造住宅は、地域の
気象条件によく適合していたが、耐震性が低いことから、地震後は役所によって禁止された。しかし、
ほとんどの住民は、古いアドベ造住宅に住みたいという。住民のこの思いは近代的な建物の新たな問
題を引き起こしている。
バム市の再建では、2003 年地震以前の日干しレンガの町並みという、主たる景観上の特徴を大切に
して、いろいろな組織の活動が協力して進めるべきである。
都市景観の指針に合うように進めることは、数々のプロジェクトが統一的な結果をもたらすことにな
ろう。検討すべきこの都市景観の保全プロジェクトは、バムにおいて最初の包括的なものになり、2003
年地震前後の景観について全体的な知見を与えるものになろう。
本提案の課題は、広い区域を扱うので、いくつかの典型的な中心軸を選び、それぞれの副課題を扱う
のがよいと考えられる。都市景観のすべての特徴、緑の場所、市の公園、都市のオープンな空間、ファ
サードなどについて検討する必要がある。しかし、このプロジェクトでは、主に町並みのファサードに
ついて調査を行い、2003 年前後の比較を行う。町並みのファサードの形態は、色彩、スカイライン、
隣接する建物などで構成されるが、十分な評価を必要としている。この提案プロジェクトは、建築形態
や美術的な視点に基づく必要があり、シミュレーション・プログラムと論理的な研究方法を適用する。
さらに、国際的な基準類にも適合するようにしなければならない。
本提案プロジェクトは3つの段階から成る。第一段階は、2003 年地震前の町並みファサードについて
の調査である。第二段階は、2003 年地震後のファサードの記録である。第三段階は、第一、第二段階の
結果を比較・解析し、実際に適用する都市計画の指針を提案するものである。
現時点では、第一段階を終えたところである。第一段階は下記のようにまとめられる。
2003 年地震前の町並みのファサードの詳細な調査項目として、1.1 建物の高さ、1.2 隣接するファサー
ドの水平線の連続性、1.3 建物形状と量、1.4 建物の量的な凹凸、1.5 隣接するファサードの色、1.6 隣
接するファサードの材料、1.7 隣接するファサードの fenestration の調査を実施した。さらに、街路
に沿った調査として、2003 年地震以前のファサードの調査項目では、2.1 隣接するファサードの比較、
2.2 地震で残った重要なアドベ造建築の同定と国際指針に基づいた修復、2.2 隣接する軸線の連続性、
市街地全体の建築物の高さ制限とその統一的なパターン、2.3 町並みのファサードの機能と形態の関係
の理解、が挙げられる。
3.2
アルゲ・バムの住宅建築の構造修復に関する実験と解析
3.2.1
アルゲ・バム遺跡の歴史と被害状況
アルゲバム遺跡の被害調査を 2005 年 5 および 2006 年 9 月にイスファハン大学ヘジャジ教授と共同
で実施した。以下、地盤および地震動の条件と土の建築群の被害状況を示す。
2003 年 12 月 26 日に発生したイラン・バム近郊のバム断層を震源とする地震(Mw=6.5)では、バム市
内で約 800Gal,126kine(EW=断層直交方向成分)を観測し、この地震により土の建築群である中世歴
史都市アルゲ・バムが崩壊した(写真 1 参照)。記録によれば、アルゲ・バムは 9 世紀にはオアシスの街
として始まり、その後、商業および綿花・ナツメヤシで栄えた歴史都市 7)であり、城砦に囲まれた建造
物群は、基本的にアドベ造もしくはチネと呼ばれる土壁で建てられて美しい景観をなしていた。19 世紀
半ばには、経済的な繁栄から住民は新市街に移り住み、アルゲバム内の旧市は遺棄されていたが、約 30
年前から復原工事が行われていた。共同研究者のヘジャジ教授によれば、今回の地震により近年の修復
箇所が崩れ、伝統的な古い構造が露出したと指摘している。このことは、近年の修復工事において、復
原のため新たに付加した土材料の層と古い構造の間の接合および新たに付加した部分の耐震性が不十分
であったことを示唆している。この現象については、いまだ工学的な解釈がなされておらず、修復計画
を立案する上での構造的な課題になっている。
アルゲ・バムは東西約 400m、南北約 600m の城砦に囲まれているが、建造物が直接岩盤上に建てら
れていた北側の区域では建造物の崩壊はわずかであり、岩盤上に表層が堆積している南側の区域での建
造物は一部を除いてほとんど崩壊した。このことは、地盤条件による地震動特性によると考えており、
今後の調査課題となっている。
3.2.2
アルゲバム遺跡修復計画における目標耐震性能
共同研究者でバム城砦修復事務所長モクフタリ氏によれば、米国 FEMA(Federal Emergency
Management Agency)の方法を参考に、アルゲバム内の建造物に対して以下の段階(目標性能)を設定
している。ただし、LEVEL 2 と LEVEL 3 の分類作業は、まだ、終わっていない。
LEVEL 1 : すべての建造物に対して適用する緊急対策。その後の修復事業にも問題がないように設定。
LEVEL 2 : 不特定多数の観光客の出入りがない建物。耐震性を確保するが、その目標性能は LEVEL 3
に比べて低い。本研究において修復計画の検討を行うバザールの小規模店舗はこれに分類される。
LEVEL 3 : 不特定多数の観光客が入る建造物、たとえば、ホールやモスク。ドイツ・チームが修復支援
を行っているシスタニ・ハウスもこれに分類される。地震時に人命の安全を守るよう、耐震補強を施す
必要がある。
上述するように、アルゲバム城砦内の建造物を一律ではなく、重要度に応じて、目標耐震性能を設定
することは、先進的な取り組みである。また、修復設計で用いる検討用地震荷重は、現時点では、
バム地震の記録をまず使用し、修復プロジェクトが完了後にイランの耐震基準の地震荷重を用いてチェ
ックする方針である(モクフタリ氏)。バム城砦のように、広い領域内の建造物を扱う場合には、この
ような目標耐震性能に関する考え方も有効となろう。
3.2.3
アルゲ・バムのバザールにおける小規模建築の修復計画
本研究プロジェクトでは、パイロット・プロジェクトとして、アルゲ・バム遺跡内の被災建物を選択
し、その修復計画を提示する。対象とする建物の選択にあたっては、比較的小規模であること、典型的
な形態であること、主要な通路に面して修復事業の効果が多くの観光客の目に触れること、を条件とし
た。その結果、バザールの小規模店舗建築を選定した。この小規模店舗建築は、住宅建築とほぼ同等の
形態で、ドーム屋根を有する。このような小規模建築は、地震前にはバム市街の住宅にも多くみられた
形態であり、この建物の修復計画は、バム市街で被災したアドベ造住宅の修復にも参考となるものであ
る。
3.2.4
すでに提案もしくは適用されている補強工法
バム城砦修復事務所では、ドーム屋根を持つアドベ造建築について、壁は補強せず、屋根に Geo
Grid(補強繊維を束ねたロープで製作)を上面に張り、四隅のコーナーには Geo Grid の材料をロッド状に
したものを鉛直方向に挿入する方法を提示している。小規模な建築であれば、後述する解析で確かめら
れたように、有効な工法と考えられる。また、修復事務所では、本研究と同様にナツメヤシのロープを
屋根に付加する補強工法も考案している。
外国の協力・支援プロジェクトが提案もしくは適用している補強工法には、ドイツ・ドレスデン工大
イェーガー教授によるグラスファイバーを用いた補強工法が挙げられる。この工法は、すでに実験によ
る有効性の検証を済ませ、実際の修復事業に適用し始めている。また、イタリア・ミラノ工大ビンダ
教授によるミルザ・ナイムの修復では、ポリポロピレンの管を用いた工法が提案されている。フランス
チームによる第2ゲートの修復事業では、竹や葦、ナツメヤシのロープを用いた工法が提案されている。
3.2.5
日干しレンガおよび補強用ナツメヤシ・ロープの強度試験
本研究では、グラスファイバーや Geo Grid などの人工材料ではなく、地元の自然材料を用いた補強
工法を提案し、その効果を材料試験および構造解析で確かめる。
対象とした建物は、日干しレンガと土モルタルの目地、チネと呼ばれる土構造で造られた壁で、構成
されている。日干しレンガの寸法は 22cm×22cm×5cm であり、圧縮強度は、10.5×105N/m2(11kg/cm2)
、曲げ引張強度 4.04×105N/m2(4.1kgf/cm2)、含水率 1.32%、質量密度 1550kg/m3 であった。さらに、
日干しレンガおよびチネから採取した試料の粒度分布を得た。
バム市で入手したナツメヤシのロープの引張強度試験 (計 6 本)の結果、引張強度は 0.61~1.83kN と
バラツキを有する強度が得られた。平均 1.2kN である。材料試験の観察では、ロープを構成する繊維が
1本1本切断する挙動が見られ、見かけ上、剛性が小さくなる原因となった。
3.2.6
耐震構造解析の概要
構造解析に用いる材料定数は、アルゲバム遺跡に関する既往の調査報告資料に基づいて以下に示すよ
うに設定した。(解析コードの入力データに合わせて、修正している)
ヤング率
1050×105 N/m2
ポアソン比
0.17
質量密度
1600 kg/m3
材料減衰定数
7%
圧縮降伏強度
3.6×105
引張降伏強度
0.36×105 N/m2
圧縮強度
4.5×105 N/m2
引張強度
0.45×105 N/m2
N/m2
耐震構造解析では、動的な地震応答解析を行った。使用した解析コードは ANSYS である。
入力地震動は、2003 年バム地震記録の L 成分を時間刻み 0.02 秒に修正した波形とした。
以下の4ケースについて解析を実施した。
CASE 1 : ナツメヤシのロープのメッシュで壁を補強した構造(メッシュの効果を確認するため)
CASE 2 : 店舗とエントランスの屋根をヴァレル・ヴォールト、居室の屋根を円形ドームとした構造
建物の建設当初のモデルとして解析する。
CASE 3 : 店舗の屋根がないケース。地震後すなわち現状の建物の耐震性を確認するための解析
CASE 4 : エントランスに屋根を持つケース。地震前の状態である。この解析ケースは、地震前の状態
に復元する修復計画を考慮したものである。
3.2.7
解析結果
CASE 1 : 実験に使用したナツメヤシのロープの強度・剛性は不十分で、ナツメヤシのロープのメッ
シュは補強には役立たない。補強に使用するためにはロープの強度を 10 倍大きくする必要がある。
CASE 2 : ヴァレル・ヴォールトを支える店舗室の南北壁の引張応力が過大となる。しかし、壁厚を大
きくすれば、この問題は解決する。
CASE 3 : 現状の建物は、劣化部分など修復すれば、バム地震と同等のレベルの地震動にも耐える。
CASE 4 : 現状の建物の劣化部分などを修復して、エントランスの屋根を再建するモデルであるが、構
造物は損傷し、エントランスの屋根が崩壊する。エントランスの屋根の補強が必要である。
3.2.8
まとめ
現状の建物は、劣化部分などを修復すれば、バム地震と同規模の地震動にも耐える。屋根を再建する
場合には、壁厚を大きくすることが有効である。バム市で売られているナツメヤシのロープでは、強度
が不十分で、そのまま、構造補強に用いても耐震性の向上効果は期待できない。ナツメヤシのロープに
代わる強度の大きな地元産の植物性のロープの調査、もしくは、ナツメヤシのロープを使用するには、
製造過程において、強度を大きくする工夫、が必要であろう。構造解析は、このような補強計画に重要
な役割を果たすことが確かめられた。
4.今後の課題
中世歴史都市世界遺産アルゲバム遺跡の復興は、地震後6年を経過して、いくつかのパイロット・プ
ロジェクトによる建造物の再建が始まりつつある。一般に土の建築は、耐震性に乏しいといわれており、
再建にあたっての補強計画について、実験・解析による妥当性の確認が必要である。本研究では、典型
的な小規模建築を対象として、材料試験と構造解析による検討を行ったが、地元の自然材料であるナツ
メヤシのロープは、そのままでは強度が不十分であり、製造過程での強度化、もしくは、ナツメヤシに
代わる植物性材料のロープを調査する必要がある。ただし、壁厚の増大は耐震性の向上に効果があるこ
とも解析的に確認され、今後の補強計画の参考になろう。また、本研究では、構造解析により耐震性能
を評価したが、実大スケールのアドベ造モデルを用いた振動台実験も今後の課題となろう。
ドイツ、イタリア、フランス、そして日本チームがそれぞれアルゲバムの修復支援調査を実施してい
る。また、イランも文化省の下で、修復事務所が修復事業を進めている。今後、再建事業が本格化する
と考えられるので、今後、修復事業を始める上で、各国間の情報交換や国際的な合意を得るための国際
会議の開催も待たれる。その国際会議では、本国際共同研究の成果も発表するようにしたい。
本研究では、アルゲバム遺跡のバザールにある小規模建築の修復計画を検討したが、その計画に基づ
く、修復事業の実施が待たれる。
アルゲバム遺跡周辺の文化的景観の修復計画では、本研究において、街並みの景観の保存という
面から問題点を抽出した。世界遺産としては、カナート(地下水路)やナツメヤシの林の景観が指定の
対象となっているが、文化的景観の意味からも、伝統的な建物の復興も課題となろう。地震後、アドベ
造建築が禁止になり、イランの基準法に基づいて鉄骨または鉄筋コンクリートの骨組に穴あきレンガ壁
を有する構造形式の建築が建てられている。建物の高さ制限も設けているが、歴史的な街並みの保存と
いう視点から、ドーム屋根を持つアドベ造住宅の建築は欠かせないと考えられる。小規模の住宅建築で
あれば、壁厚の増大と屋根の適切な補強により、バム地震にも耐え得ることが、本研究で実施した地震
応答解析の結果からいえる。本研究の成果がアドベ造住宅建築の再建に寄与することが望まれる。
世界遺産委員会の勧告をふまえて、イラン政府は世界遺産の指定区域を相当拡げる内容の報告書の
準備を進めている。その動きも考慮すれば、前述したように伝統的な建築群による景観保全も今後の課
題となろう。
[主な発表論文等]
1. 花里利一,田村晃一,松尾淳,大和智:近年の大地震によるアジア世界遺産組積造建造物の被害の特徴と
修復に向けた調査-イラン中世歴史都市アルゲバムとインドネシア・プランバナン寺院-,歴史的地盤
構造物の構築技術および保存技術に関するシンポジウム発表論文集,pp34-37,2008
2. Yasuyoshi Okada,: Conservation of Earthen Architectural Properties and World Heritage
Convention, 1st Workshop on Traditional Structures and Cultural Heritage, Isfahan, 2009
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