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特発性側彎症患者全脊椎撮影における 女性患者の生殖腺防護着作成の

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特発性側彎症患者全脊椎撮影における 女性患者の生殖腺防護着作成の
特発性側彎症患者全脊椎撮影における
女性患者の生殖腺防護着作成の検討
学 術
Arts and Sciences
Evaluation of whole-spine radiography with respect to gonadal shielding in female
patients with idiopathic scoliosis
原 著
)
)
)
)
林 映里1(
59858) 加藤 京一2(
25483) 藤澤 宏信1(
48473) 渋谷 綾子1(
52805) 3)
2)
高橋 俊行 (37576)
中澤 靖夫 (19263)
1)昭和大学藤が丘病院 放射線室 診療放射線技師
2)昭和大学大学院 保健医療研究科 教授
3)昭和大学大学院 保健医療研究科 講師
Key words: Whole-spine radiation, Gonad shielding, Idiopathic scoliosis
【Summary】
Whole-spine radiography is employed periodically for patients with idiopathic scoliosis. Young female patients who
are susceptible to radiation account for most cases of idiopathic scoliosis. In our clinic, gonadal shielding is therefore
required for all female patients aged younger than 50. However, because of the poor reproducibility of protector
placement and disagreement between the shapes of the protector and the pelvic cavity, adequate gonadal shielding
is not achieved. In this study, we report on the development and evaluation of an examination gown for whole-spine
radiography that enables adequate gonadal shielding in female patients with idiopathic scoliosis. The results suggested
that installation of protectors of the same size regardless of the body type or height 8.5cm below Jacoby s line allowed
highly reproducible and adequate gonadal shielding.
【要 旨】
全脊椎撮影は主に特発性側彎症患者に対して行われる撮影法である.特発性側彎症患者は,放射線感受性の高い若年齢女性患者が
ほとんどを占めており,当院では 50 歳未満の女性全てに生殖腺防護を行っている.しかし,プロテクター装着の再現性が悪く,プ
ロテクターの形状も骨盤腔と合致していないことから,正確に生殖性防護が行えていなかった.今回われわれは,特発性側彎症にお
ける女性患者に対し,正確な生殖腺防護を行うことができる全脊椎撮影専用検査着を作成し,検討した.その結果,体格や身長に関
係なく,ヤコビー線から 8.5cm 下に同一サイズのプロテクターを装着することによって,再現性良く,正確に生殖腺防護を行うこ
とが可能となった.
ため 3),4),8),撮影時の生殖腺防護が非常に重要 9)∼11)
諸 言
であった.当院では,50 歳未満の女性を対象に恥骨
全脊椎撮影は,主に側彎症患者の診断や経過観察を
結合やヤコビー線を体表指標として触知し,骨盤腔の
目的として,頸椎・胸椎・腰椎・仙椎を 1 枚の画像上
位置にプロテクターを装着することで生殖腺防護を行
1),2)
側彎症進行度合いを確認す
っている.しかし,全脊椎撮影は,生殖腺を防護しな
るために 3∼12 カ月ごとに定期的に行われる.しか
がら仙腸関節下縁まで描出する必要があるにもかかわ
し,撮影目的が脊椎側彎症のカーブの大きさを表す
らず,再現性良くプロテクターを装着することができ
Cobb 角の測定,腸骨稜骨端核による骨年齢評価,椎
ず,生殖腺防護を一律に行うことができなかった.ま
体のねじれ,仙腸関節炎の診断,骨盤の傾きの計測に
た思春期の女性患者が多く,
男性の診療放射線技師が,
に描出する撮影法で
1),3)∼7)
,撮影部位に生殖腺を含み,若年者の
プロテクターの位置決めのために患者の下腹部を触れ
生殖腺被ばくが問題となっていた.特に,特発性側彎
ることに抵抗があった.プロテクターについても,骨
症患者は全側彎症の 70∼80% を占めており,症例の
盤腔の形状と合致しなかったり,装着のために用いて
85% が放射線感受性の高い若年齢女性の患者である
いるテープが撮影時に外れたりして,防護の意味を成
あるため
さないことを経験した.今回われわれは,全脊椎撮影
1)
2)
Eri Hayashi (59858)
, Kyoichi Kato (25483)
,
)
Hironobu Fujisawa1(
48473)
,
)
)
Ayako Shibuya1(
52805)
, Toshiyuki Takahashi3(
37576)
,
2)
Yasuo Nakazawa (19263)
1)Showa University Fujigaoka Hospital Department of radiology
2)Showa University Graduate School Health
Sciences
3)Showa University Graduate School Health
Sciences
において,撮影者が女性患者の体に触れることなく,
再現性良く正確に生殖腺防護を行うことのできる検査
着を作成することができたので報告する.
1.方 法
1-1.全脊椎撮影プロテクター形状の検討と作成
座高や体形の違いが防護すべき骨盤腔の形状に及ぼ
学 術 ◆
23(1405)
04
す影響の検討を行った.座高が骨盤腔に及ぼす影響を
なお,本研究に用いた画像については,全て当院倫
全脊椎画像における頭頂−座骨下縁の距離と骨盤腔の
理委員会の使用許可(平成 27 年 05 月 19 日承認番号
短径を計測(Fig.1)することで,また体形が骨盤腔
2015011)を得ている.
に及ぼす影響を骨盤と骨盤腔の長径を計測(Fig.2)
することで,それぞれの関連性について検討し,特
1-2.プロテクター最適装着位置の決定方法
発性側彎症患者専用のプロテクターを作成した.計
プロテクターの装着位置を決定する基準線を,立位
測には,平成 25 年 4 月から平成 26 年 3 月までに当院
でも触知しやすいヤコビー線とし,症例ごとに座高と
で撮影した全脊椎撮影において,無作為に抽出した
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離を計測(Fig.3)し,
50 歳未満女性 47 人の全脊椎正面撮影画像を用いた.
その関連性を検討することで,ヤコビー線をプロテク
a
b
Fig.1 Sitting height-Minor axis of the pelvic cavity measure method
( a)Sitting height
A :Vertex
B :Inferior margin of the ischium
(b)Minor axis of the pelvic cavity
C:Superior margin of the pelvic cavity
D:Superior margin of the pubic symphysis
Fig.2 Major axis of the pelvis – Major axis of the
pelvic cavity measure method
E:Major axis of the pelvis
F :Major axis of the pelvic cavity
24(1406)◆
日本診療放射線技師会誌 2016. vol.63 no.769
Fig.3 Distance between Jacoby s line and superior
margin of the pelvic cavity measure method
G:Jacoby s line
C:Superior margin of the pelvic cavity
原 著
学 術
特発性側彎症患者全脊椎撮影における女性患者の生殖腺防護着作成の検討
Arts and
Sciences
ター装着位置の基準として用いることができるかを検
で一定とし,当院で用いている 1mm 厚の被ばく防護
討した.なお,計測には方法 1-1 で計測を行った 47
用鉛シートを加工し,特発性側彎症患者専用の全脊椎
人の全脊椎正面撮影画像を用いた.
撮影用プロテクター(約 150g)を作成した(Fig.7)
.
1-3.全脊椎撮影専用検査着の作成
2-2.プロテクター最適装着位置の検討
方法 1-1 で作成したプロテクターを,方法 1-2 で検
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離は平均 7.8cm,標
討した位置に装着できる専用検査着を試作し,この検
準偏差は 0.7 であった(Fig.8)
.またヤコビー線−骨
査着を用いて行う全脊椎撮影法について検討した.
盤腔上縁間距離で最も多い結果は,7cm と 8.5cm で
1-4.従来法と新撮影法のプロテクター位置変位の検討
従来法と新撮影法で撮影した画像で,骨盤腔に対す
る最適プロテクター装着位置がどのように変位してい
るかを計測し,比較検討した.変位の基準である原点
04
は,体軸である正中線と骨盤腔上縁の接線との交点と
し,骨盤腔上縁側を Y 軸,正中線側を X 軸とした.Y
軸は骨盤腔上縁より上方への変位をプラス,下方への
変位をマイナスとし,X 軸は正中から左外側への変位
をプラス,右外側への変位をマイナスとした.
2.結 果
2-1.全脊椎撮影プロテクター形状の検討と作成
Fig.5 Major axis of the pelvis – major axis of the
pelvic cavity
座高と骨盤腔短径の関係を Fig.4 に,体形(骨盤長
径)と骨盤腔長径の関係を Fig.5 に表した.またこの
関係を図で表した(Fig.6)
.今回計測した患者の座高
は最長 94cm,最短 70cm,標準偏差は 5.3 と値に変
動があるのに対して,骨盤腔の短径の標準偏差は 1.3
となり,座高の高低にかかわらず,値に変動は認めら
れなかった(Fig.4)
.また特発性側彎症患者の骨盤長
径が標準偏差 2.0,骨盤腔長径が標準偏差 1.3 であり,
骨盤長径値に対する骨盤腔長径値も値に変動は認めら
れなかった(Fig.5)
.この結果より,作成するプロテ
Minor axis of
the pelvic cavity
Sitting height
Ave:86.3
SD:5.3
n=47
Ave:9.4
SD:1.3
n=47
Major axis of
the pelvic cavity
Major axis
of the pelvis
Ave:26.7
SD:2.0
n=47
Ave:13.0
SD:1.3
n=47
fig6. Correlation diagram
クターのサイズを最大長径 16.0cm,最大短径 12cm
Fig.6 Correlation diagram
Fig.4 Sitting height – minor axis of the pelvis cavity
Fig.7 Protector for whole-spine radiography
学 術 ◆
25(1407)
Fig.8 Distance between Jacoby s line and superior
margin of the pelvic cavity
Fig.10 Examination gown for whole-spine
radiography
Fig.9 Distance between Jacoby s line and superior
margin of the pelvic cavity(number of cases
according to the distance)
Fig.11 Comparison between conventional and
new radiographic methods with respect
to the vertical gap and the horizontal
gap distance of protectors
あった(Fig.9)
.
は認められなかった.なお,変位の基準は方法 1- 4 に
記述した.
2-3.全脊椎撮影専用検査着の作成
鉛板が検査着の上端位置から 8.5cm 下にプロテクタ
ーを装着できる,ポケット付きの専用検査着(Fig.10)
を作成した.
3.考 察
3-1.全脊椎撮影プロテクター形状の検討と作成
座高の標準偏差の値に変動があるのに対して,骨盤
2-4.従来法と新撮影法のプロテクター位置変位の検討
腔短径の標準偏差は小さく,値の変動が少ない.この
従来法と新撮影法のプロテクターの上下の変位は,
ことから,骨盤腔の短径と座高の間に相関関係はない
従来法では最大 11cm あり,平均値は 3.6cm,標準
と考えられた.また骨盤長径,骨盤腔長径ともに標準
偏差は 2.8 であった.それに対して,新撮影法では最
偏差の値が小さかった理由として,特発性側彎症の女
大 2.5cm,平均値は 1.1cm,標準偏差は 1.1 であった
性患者の体形が類似して細身であるため,骨盤および
(Fig.11)
.従来法と新撮影法間には Mann-whitney
骨盤腔の長径に差がなかったと考えられた.これらの
の U 検定で有意差(P<0.05)が認められた.左右の
ことから,特発性側彎症の女性患者の生殖腺防護プロ
変位は,従来法では平均値は 1.0cm,標準偏差は 0.8
テクターは,同一サイズに統一できると考えられた.
であったが,新撮影法では平均値 0.5cm,標準偏差
は 0.6 となり(Fig.11)
,従来法と新撮影法の間に差
26(1408)◆
日本診療放射線技師会誌 2016. vol.63 no.769
原 著
特発性側彎症患者全脊椎撮影における女性患者の生殖腺防護着作成の検討
学 術
Arts and
Sciences
3-2.プロテクター最適装着位置の検討
標準偏差が 2.8 から 1.1 に減少したことから,今回作
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離の標準偏差の値に変
成した全脊椎専用検査着は,再現性良く安定した位置
動が少ないことから,全脊椎撮影専用検査着に装着す
にプロテクターを装着することができると考えられ
るプロテクターの高さは患者の座高を考慮せず,ヤコ
た.プロテクター最適装着位置の左右変位で,従来法
ビー線を基準に同一箇所に装着することが有用である
と新撮影法の標準偏差の値に変動が見られなかった理
と考えられた.
由として,特発性側彎症の女性患者の体形が類似して
細身であるため,体の正中を視覚的にも明瞭に指摘す
3-3.全脊椎撮影専用検査着の作成
ることができたためであると考えられた.
ヤコビー線−骨盤腔上縁距離の平均が 7.8cm であ
るにもかかわらず,プロテクターを装着する基準を
8.5cm にしたのは,症例の半数が 8cm 以上で,平均
4.結 語
値をプロテクター装着位置とすると仙骨が欠像してし
今回われわれは,全脊椎撮影を行う特発性側彎症女
まうことから,標準偏差 0.7 を加算した 8.5cm にする
性患者に対し,プロテクター形状とプロテクターの最
必要があると考えられた.
適装着位置を特定することで,体表指標を触知するこ
となく,再現性良く正確に生殖腺防護を行いながら撮
3-4.従来法と新撮影法のプロテクター位置変位の検討
影することができる全脊椎撮影専用検査着を作成する
プロテクター最適装着位置の上下変位が,従来法よ
ことができた.
りも新撮影法の方が,平均値で 3.6cm から 1.1cm に,
図の説明
Fig.1
Fig.2
Fig.3
Fig.4
Fig.5
Fig.6
Fig.7
Fig.8
Fig.9
Fig.10
Fig.11
座高−骨盤腔短径計測方法
骨盤長径−骨盤腔長径計測方法
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離計測方法
座高−骨盤腔短径
骨盤長径−骨盤腔長径
相関図
全脊椎撮影専用プロテクター
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離
ヤコビー線−骨盤腔上縁間距離(距離別症例数)
全脊椎撮影専用検査着
従来法・新撮影法 プロテクター上下左右ズレの距
離比較
参考文献
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1版.37-40,株式会社メディカル・サイエンス・インターナ
ショナル,2009年.
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3) 国分正一,他:標準整形外科学第10版.466-468,株式
会社医学書院,2008年.
4) 小宮節郎,他:Rothman-Simeone The Spine 脊椎・脊髄
外科 原著第5版.1巻,515-524,株式会社金芳堂,2009
年.
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6) 金澤一郎,他:今日の診断指針第6版.1501-1504,株式
会社医学書院,2010年.
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オーム社,2009年.
8) スティーブン・G・デイビス,他:所見から考える画像鑑別
診断ガイド第1版.43,メディカル・サイエンス・インターナ
ショナル,2014年.
9) 草間朋子,他:放射線防護マニュアル第3版.99,日本医
事新報社,2013年.
10)田内 広,他:本当のところ教えて ! 放射線のリスク第1版.
37-40,株式会社医療科学者,2015年.
11)鈴木 元:正しい被曝医療Q&A50 第1版.71-73,株式会
社診断と治療社,2012年.
学 術 ◆
27(1409)
04
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