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年頭に寄せて - 石油エネルギー技術センター

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年頭に寄せて - 石油エネルギー技術センター
CONTENTS
■「年頭に寄せて」
■ 特 集
1
◎調査報告
「米国のエネルギー政策と米国独立系石油会社の
経営戦略に関する調査」
◎技術報告
「バイオマスガス化を利用した燃料油の製造技術関連調査」
4
10
■ トピックス
「改正化審法について」 19
2011.1
年頭に寄せて
理事長 西尾進路
皆さん、明けましておめでとうございます。
旧年中、賛助会員をはじめ関係者の皆様には、当センターの事業運営に対し多大なご支援ご協
力を賜り、厚く御礼申し上げます。
本誌新年号の刊行に当たり、一言ご挨拶申し上げます。
さて、昨年の世界経済を振り返ってみますと、2008 年秋のリーマンショック以降各国が打ち
出した景気刺激策の効果が徐々に現れ、また、中国、インドを中心としたアジア諸国の順調な経
済成長が牽引役となり、多少落ち着きを取り戻してきた感があります。しかしながら、回復のテ
ンポが鈍い米国経済、信用不安の再燃リスクがくすぶり続ける欧州経済など、まだまだ不安要因
を抱え、先行き不透明な状況であると言えます。
一方、我が国の経済は、昨年前半はエコポイント制度やエコカー補助金が一時的なカンフル剤
になったものの、その後の円高進行や海外経済の減速を受けて、輸出・生産の伸びに鈍化傾向が
見られるなど、引き続き足踏み状態が続く予断を許さない状況です。
ここで石油業界に目を転じますと、昨年の原油価格は、秋口まではバレル当たり 70 ~ 80 ドル
近辺で比較的安定しておりましたが、その後、投機資金の流入や欧州寒波の影響等により急伸し、
12 月には 90 ドルを超え、2年2カ月振りの高値を記録、先の読み難い展開となっております。
また、国内石油需要は、昨年は猛暑の影響でほぼ前年並みとなる見込みではありますが、「少子高
1
2011.1
齢化・若者の車離れ・産業の燃料転換・省エネ意識の浸透」などを背景とした減少基調に大きな
変化はなく、経済産業省の石油製品需要見通しによれば、国内の製品需要は今後年率 3.5%のペー
スで減少し、2014 年度には、2009 年度の8割程度にまで縮小すると予想されております。それ
に伴い、各社とも、収益改善に向けて、国内の余剰精製能力の削減等、抜本的な事業改革の早期
実現が焦眉の急となっています。
次に、環境問題を取り巻く情勢についてです。 我が国では、昨年 12 月の閣議で、本年 10 月
から地球温暖化対策税(環境税)の導入が決定され、輸入原油や天然ガスなどに課せられる石油
石炭税が段階的に引き上げられる見込みです。他方、昨年 12 月に開催された COP16 では、米国・
中国などが加わる新たな枠組みとして「ポスト京都議定書」の早期策定を目指す決議が採択され
たものの、削減目標など具体的協議は先送りされるなど、地球温暖化対策をめぐる内外の情勢は、
今後も目を離せない状況です。
かかる事業環境下、我が国のエネルギー政策はどうなっているか。皆さんお聞き及びかと思い
ますが、昨年4月の総合エネルギー資源調査会で 「 石油の有効利用のための判断基準 」 等の指標
がとりまとめられ、エネルギー安定供給における石油の高度利用の重要性が、はっきりと位置付
けられました。
石油は、液体燃料として運搬・貯蔵が容易なうえ、すでに高度に整備された供給インフラを有
している、最も使いやすいエネルギー資源であり、また、燃料のみならず石油化学などの高付加
価値製品にも転換できるなど、他のエネルギー資源にない多くの特徴と優位性を有しています。
当センターとしては、石油が持つこれらの可能性を活かし、更なる高度利用に向け革新的な技
術開発を推進していくことが、石油産業のみならず国民経済の発展に寄与するものであると確信
しております。そこで、昨年3月に当センターが作成した「石油エネルギー資源関連分野の技術
戦略マップ」の中で、石油が中長期的にも主要な一次エネルギーであると位置付け、2030 年ま
での技術開発分野および主たるテーマを明らかにしたところです。
当センターでは今年も、製造技術開発・燃料利用技術開発・情報収集調査・統計解析の4つを
主要事業として取り組んでまいります。
重点方針としては、以下の4点を掲げております。
1.製造技術開発事業では、オイルサンド等非在来型原油及び超重質原油の白油化対応と付加
価値の高い石油化学原料の製造を目的に、ペトロリオミクス手法を用いた革新的な技術開
発の実現に向けた検討を進めてまいります。 2.水素エネルギー関連では、石油産業の強みである“水素供給余力”と、“災害に強いガソリ
ンスタンド”を最大限に活かし、将来の燃料電池自動車普及に向けた、高純度水素製造・
水素供給インフラ確立のための技術基準の作成に取り組んでまいります。
3.石油基盤技術研究所を拠点に、バイオマス燃料等の自動車燃料多様化に対応した温室効果
ガスの削減、エネルギー利用の効率化、大気環境の改善を実現するため、石油の利用技術
開発に取り組んでまいります。
4.製油所の安全安定運転支援、海外事務所を活用した石油・エネルギーに関する有効な情報
収集・提供事業を行うとともに、従前にもまして自立的経営の実践に努めてまいります。
2
なお、上記以外の石油関連産業に共通に裨益する事業につきましても、企画・検討を進めてま
いります。
最後になりますが、2008 年 12 月の公益法人制度改革3法の施行により、昨年 10 月、当センター
も行政庁に新法人への移行申請を行いました。新法人となりましても、基本的な経営理念、目的、
事業内容に大幅な変更はありません。今後も組織・運営体制の整備と効率的な事業運営を図り、
『石
油産業における技術開発プラットフォーム』としての役割を実現するため、役職員一丸となって
邁進する所存であります。
引き続き厳しい事業環境ではありますが、賛助会員をはじめ関係者の皆様におかれましては、
今後とも当センターの取組みに対して、倍旧のご支援ご協力をお願い申し上げますとともに、ま
すますのご健勝を祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。
【JPEC ホームページ 新着情報】
(JPEC HPアドレス => http://www.pecj.or.jp/japanese/index_j.html )
1.PEC 海外石油情報ミニレポート
( => http://www.pecj.or.jp/japanese/minireport/minireport.html ) (最新)2010-029「米国 DOE のバイオリファイナリー・プロジェクト(上)
」
~バイオマス・ガス化によるバイオ燃料生産技術~
2010-028「米国の CO2 有効利用の革新的実証プロジェクト」
2.世界製油所関連動向レポート
( => http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery.html )
(最新) JPEC 世界製油所関連動向(2011 年 1 月号)
3. 機関誌 JPEC NEWS(バックナンバーをご覧になれます)
( => http://www.pecj.or.jp/japanese/jpecnews/jpecnews.html )
3
2011.1
特集
調査報告
「米国のエネルギー政策と米国独立系石油
会社の経営戦略に関する調査」
我が国では、国内の石油製品の需要減、再生可能燃料の導入の動きのほか、温室効果ガス排出
規制への取り組みなど石油産業を取り巻く環境が大きく変化しております。一方、米国でもオバ
マ政権がグリーン・ニューディール政策を掲げて、再生可能エネルギーの導入促進、エネルギー
効率化および温室効果ガス排出量取引制度の導入等へ取り組んでおり石油会社の経営環境が大き
く変化しております。米国において上流資源を比較的保有せず、我が国の石油会社の形態にやや
類似した独立系石油会社の考え方や行動を調査し、日本の石油会社の経営戦略の策定に資するこ
とを目的として掲題の調査を実施しました。(当報告は平成 21 年度に環境対応型石油関連調査事
業の一環として実施した調査報告の概要を紹介したものです。詳しくは当センターのホームペー
ジで報告書「米国新政権のエネルギー政策に対応した米国独立系石油会社の経営戦略」を御参照
ください。)
表 1 主要な米国独立系石油会社
Sunoco 社
Koch Industries 社
(Flint Hills
Resources 社)
Tesoro 社
Holly 社
ペンシルベニア州
フィラデルフィア
カンサス州
ウィチタ
テキサス州
サンアントニオ
テキサス州
ダラス
Valero Energy 社 Marathon Oil 社
本拠地
売上高 (2008 年、 億ドル)
営業利益 (2008 年、 億ドル)
従業員数
(2008 年 12 月現在)
製油所
原油処理能力
(万 BD)
製油所数
事業部門
テキサス州
サンアントニオ
テキサス州
ヒューストン
1,090
786
541
非公開
283
58.7
8
70
7.8 (当期利益)
非公開
4.7
2
22,000
30,360
13,700
非公開
5,600
980
250 注)
120
67.5
84
66.5
25.6
14
7
4
3
7
4
精製、 小売販売、 原 油 ガ ス 開 発、 精製 ・ 供給、 石 精 製、 販 売、 化 精 製、 販 売、 精 製、 パ イ
エタノール事業 オ イ ル サ ン ド 開 油製品小売、 石 学品とポリマー
仕入供給
プ ラ イ ン・ タ
発、 ガ ス 事 業、 油 化 学 製 品 製
ーミナル事業
精製販売
造 ・ 販売、 エタノ
(Holly Energy
ール、 ロジスティ
Partners 社)
ックス、 コークス
製造
(注)カナダおよびオランダ領アルバにある製油所を含む
1.米国のエネルギー政策
(1)エネルギー政策、環境対策の経緯
・米国では大気浄化法(CAA)が 1955 年に制定されました。1970 年には環境保護庁(EPA)
が環境政策実施体制の強化のため創設され、1977 年にはエネルギー省(DOE)が省エネ、代
替燃料の開発、石油消費の低減、国家安全保障、およびエネルギー価格等の所管のため創設
され、エネルギー政策及び環境対策の骨格が整備されました。 4
・1975 年にエネルギー政策法(EPCA)が制定され国内原油価格が統制されると共に戦略備蓄
SPR(最大 10 億バレル)が創設され、自動車の燃料規制である企業平均燃費規制(CAFÉ 基準)
も制定されました。
・1990 年に大気浄化法(CAA)の改正により、自動車排出ガスの規制が強化され、主要4プ
ログラム(含酸素燃料プログラム、自動車用ディーゼル燃料、改質ガソリン(Reformulated
Gasoline :RFG)および有鉛ガソリンの販売禁止が 1992 年 11 月 1 日から 1996 年 1 月 1
日の間に実施されました。
・1990 年代にガソリンとディーゼル油の規格が何度か変更され、精製会社および輸送業者はそ
の都度設備改造を余儀なくされました。過大なコスト負担は石油産業の収益性を低迷させる
原因の一つとなっていきました。
(2)オバマ政権のエネルギー政策
2009 年1月に発足したオバマ政権はグリーン・ニューディール政策を掲げていますが、これ
に関連し石油産業に影響を与えるものは以下3点です。
①再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard: RFS)
・2005 年エネルギー政策法(EPAct)では、1992 年エネルギー政策法が全面的に改正され、
再生可能燃料基準(RFS1)が設けられました。RFS1 はガソリンへの再生可能燃料の混合
を義務づけるもので、2012 年の再生可能燃料の使用義務量は 75 億ガロンと定められまし
た。
・更に 2007 年エネルギー自立・安全保障法(EISA)では、ガソリンの消費削減および石油
輸入依存度の低減や環境政策の強化対策として CAA が改定され、再生可能燃料の混合の対
象がディーゼル油まで拡大されるとともに、使用義務量を 2022 年には 360 億ガロン(約
235 万 BD)とする新たな再生可能燃料基準(RFS2)が定められ、オバマ政権の下で実施
されています。
(単位:千 BD)
緑色
は石油系ガソリン、 黄色
は RFS1 による再生可能燃料の量、 赤紫色 は RFS2 による再生可能燃料の上乗せ量
出所:Purvin & Gertz 社分析
図 1 再生可能燃料基準(RFS2)に定められた再生可能燃料使用義務量
5
2011.1
②企業平均燃費基準(Corporate Average Fuel Efficiency:CAFE)
・2007 年エネルギー自立・安全保障法によって CAFE 基準が改定され、2011 年式車以降
の燃費規制が強化され、2020 年までに軽量自動車(Light-Duty Vehicles)の平均燃費を
35 mpg(約 14.9km/L)とすることが義務付けられました。(注:mpg = マイル / ガロン、
1.00mpg = 0.425 km/L)
・2009 年 5 月、オバマ大統領はそれまで 2020 年に達成するとしていた 35mpg のレベルを
2016 年に前倒しで達成すると発表、
2009 年 9 月に、
EPA と運輸省道路交通安全局(National
Highway Traffic Safety Administration:NHTSA)が協力して取り纏めた CAFE 基準(2012
~ 2016 年式車)の提案書が公表され、
各自動車メーカーは適合する車の開発を進めています。
表 2 2012 ~ 2016 年式車の CAFE 基準案
(単位 : mpg)
年式
乗用車
軽トラック
乗用車と軽トラックを
合わせた平均
2012
33.6
25
29.8
2013
34.4
25.6
30.6
2014
35.2
26.2
31.4
2015
35.4
27.1
32.6
2016
38
28.3
34.1
③温室効果ガス排出量取引(キャップアンドトレード)制度
米国ではこれまでに多数の排出量取引制度導入法案が議会に提出されていますが、成立し
ていません。2009 年 6 月にワクスマン・マーキー法案が下院を通過し、上院で審議中です
が難航しています。米国石油協会(API)は石油に対する上流規制の適用や無償排出枠の低
支給率など産業間の公平感を欠いていることを指摘し、キャップアンドトレード導入には反
対の意見を表明しています。
(3)カリフォルニア州の低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard: LCFS)
今後、米国石油産業に影響を与える可能性があるものとしてカリフォルニア州が独自に採用す
る低炭素燃料基準(Low Carbon Fuel Standard: LCFS)があります。2006 年に成立したカリフォ
ルニア地球温暖化対策法(AB32)によって同州の温室効果ガス排出量を 2020 年までに 1990
年水準まで削減することが義務づけられました。そして、2010 年 1 月にカリフォルニア州行政
法局は同州で販売または供給される輸送用燃料の炭素強度(Carbon Intensity)を 2020 年までに
1990 年比で 10% 低減するとした規則改定を承認し、LCFS 制度が発効しました。同州の LCFS
は 2011 年からの実施が決定しており、他州においてもこれに追随する動きがあります。
6
2.米国の独立系石油会社の経営戦略
米国の各独立系石油会社の経営戦略の動きを下記に項目別にまとめました。
(1)精製能力の削減
・環境対応等エネルギー政策により今後の精製設備の余剰が予測されるなか、独立系石油会社
においても精製能力の削減は有力な事業戦略の選択肢の1つとなっており、既に各社ともに
対応を実施しています。
・Valero Energy 社は、2008 年末に米国内に 16 ヵ所の製油所を保有していましたが、2009
年に 2 製油所を閉鎖しました。Sunoco 社は、2008 年末に 5 ヵ所の製油所を保有していまし
たが、2009 年に1製油所を売却および1製油所の永久停止を決定しております。小規模精製
業者は更に厳しい状況に置かれています。
(2)石油代替エネルギー事業への進出
米国のエネルギー政策の1つである RFS 強化は石油製品需要を減少させる方向に働く一方で、
その代替として再生可能燃料の需要増を加速させます。既に Valero Energy 社を始めとして独立
系石油会社数社は、需要増を見越し再生可能燃料事業に参入を進めています。
・エタノール事業
 Valero Energy 社:子会社 Valero Renewable Fuel 社を設立してエタノール事業を行なっ
ています。現在、10 ヵ所でエタノール製造設備(合計生産能力:11 億ガロン/年)を
操業しています。製造設備の所在は、アイオワ州(4ヵ所)、インディアナ州(1ヵ所)、
ウィスコンシン州(1ヵ所)、サウスダコタ州(1ヵ所)、ネブラスカ州(1ヵ所)、ミネ
ソタ州(1ヵ所)です。同社はセルロース系エタノールの技術開発にも投資しています。
 Marathon 社:オハイオ州にあるエタノール製造設備(生産能力:1.1 億ガロン/年)に
50%、インディアナ州にあるエタノール製造設備(生産能力:1.1 億ガロン/年)に
35%を出資しています。
 Sunoco 社:ニューヨーク州にエタノール製造設備(生産能力:1 億ガロン/年)を保
有しています。同設備がフル稼働すると同社の必要とするエタノールの約 25%が供給さ
れる見込みです。同社は、エタノール事業を代替燃料ビジネスへの参入の第一歩と位置
づけながらも、事業として成長可能かどうか評価を継続するという慎重な姿勢です。
・バイオディーゼル
 Valero Energy 社:バイオ燃料ベンチャー企業 Terrabon 社に出資しており、廃棄物処理・
環境サービス供給会社 Waste Management 社と共同で廃棄物からバイオ燃料を製造す
る大型設備の建設を計画しています。また、食物リサイクル・油脂溶融採取業者 Darling
International 社と共同でバイオディーゼルを製造する大型設備の建設を計画しています。
さらに、オーストラリアのバイオ燃料精製事業者 Mission NewEnergy 社とジャトロファ
を原料とするバイオディーゼルの長期売買契約を締結しています。
 Tesoro 社:投資ではなくパートナーシップに参加する方針で、例えば製油所に隣接して
計画されているバイオ燃料製造設備との運転の最適化を検討しています。
7
2011.1
(3)海外を含めたオペレーションの最適化の検討
・今回の調査範囲内では、Valero Energy 社および Tesoro 社は、国内だけではなく海外の製油
所との製品のバーターによって下流部門の操業を最適化してコストダウンを図ることを検討
していました。
・Valero Energy 社は、欧州、南米、オーストラリア、ニュージーランドおよびアジアにわたる
広範な地域を視野に入れていますが、特に大西洋を挟んだ石油製品のバーターに関心を示し
ています。
・Tesoro 社は、アジアの石油会社との提携による太平洋を挟んだ製品のバーターを検討してい
ます。
(4)海外下流事業への進出
・Valero Energy 社は、外国の製油所の買収、資本参加を検討しています。これは、米国内の石
油製品マーケットが悪化していく中で、自社の下流事業における経験・ノウハウを他国にお
いて活用することを目指したものと言えます。
・2009 年の動向を見ても、5 月に Total 社のオランダ子会社(TRN)の製油所における Dow
Chemical 社持分 45%の取得交渉(Lukoil 社が獲得)、同年 7 月にはニュージーランドの NZ
Refining 社への資本参加検討、翌 8 月オランダ UK-Dutch Shell 社の Stanlow 製油所の売却
応札(インドの Essar Oil が売却交渉を継続)等、Valero Energy 社は精力的に活動しています。
(5)下流以外の事業に重点を移す
・Marathon Oil 社は、ここ数年上流部門の比率が高くなっており、下流部門から上流部門に同社
の事業の重点をうつしています。同社は、地球温暖化問題から、今後、天然ガスの需要が増加
すると考えており、石油開発部門と連携して天然ガス事業にも積極的に取り組む考えです。
(6)既存の下流事業に集中
・今回の調査対象会社のうち Koch Industries 社(Flint Hills Resources 社)および Holly 社は、
上記(1)から(5)のような戦略方針あるいはその具体化は確認できませんでした。両社
は今後もコストダウン等により下流事業における競争力の維持を目指していくと思われます。
・Holly 社は経営方針で対象事業は米国内での石油精製・卸売りおよびパイプライン・ターミナ
ル事業と明確に打ち出しています。同社は 2008 年末で2ヵ所の製油所を保有していました
が、2009 年にオクラホマ州 Tulsa にある Sunoco 社と Sinclair 社がそれぞれ保有していた
製油所を買収しました。同社はこの 2 ヵ所の製油所を一体運営する計画です。
3.まとめ
・米国政府による RFS2 の実施と CAFE の前倒しは今後の米国石油製品マーケットに大きな影
響を及ぼし、キャップアンドトレードに関しては連邦議会での導入法案の審議動向は不透明
ですが、導入が決定された場合は石油需要にさらに大きな影響を及ぼし、米石油精製業に打
撃を与えることが想定されます。
・米国独立系石油会社は、国内下流事業に注力し続ける会社もある一方で、精製能力の削減だ
けでなく、エタノール等の石油代替エネルギー事業への進出、海外を含めたオペレーション
の最適化の検討、海外下流事業への進出、上流事業など下流以外の事業への重点移行など、
8
エネルギー政策による影響を極力減少させるべく、各社それぞれの事業戦略を採っているこ
とがわかりました。
・国内下流事業においても、独立系石油会社は、コストダウン、事業実施エリアの拡大あるい
は縮小などを行い、経済情勢とエネルギー・環境政策によって悪化していくマーケット環境
の変化に柔軟に対応しようとしています。
・米国独立系石油会社はそれぞれが特色を持って独自の営業戦略を持ち、また対応策を取って
いることから、各社が取り組んでいる事業内容から事業を選別し参考になるものを取り入れ
てゆくのが、今後の我が国石油会社の経営戦略に少しながらも資するものと考えます。
・米国のエネルギー・環境政策は、従来のエネルギー安全保障の観点に加え、世界的な潮流の
中で地球温暖化問題の取り組みが新たな課題となっており、短中期的にも不透明感を増して
います。
・今後、米国独立系石油会社がどのように対応していくかは流動的であり、当面、米国のエネ
ルギー環境政策およびメジャーを含めた米国石油会社の動向を注視していく必要があると考
えます。
表 3 米国独立系石油会社の経営戦略のまとめ
Valero Energy 社 Marathon Oil 社
精製能力の削減
○
石油代替エネルギー
事業への進出
○
海外を含めたオペレー
ションの最適化の検討
○
海外下流事業への
進出
○
下流以外の事業に
重点を移す
既存の下流事業に
集中
Sunoco 社
Koch Industries 社
(Flint Hills
Resources 社)
Tesoro 社
Holly 社
○
○
○
○
○
○
○
○
9
2011.1
技術報告
「バイオマスガス化を利用した燃料油
(エタノール、BTL 等)の製造技術関連調査」
バイオマスからのバイオ燃料製造において、食料との競合問題を避けるため非可食性のリグノ
セルロース資源
注1)
からエタノールを製造する研究がおこなわれています。糖化、発酵による方法
の研究が主流となっていますが、最近、米国では熱化学法と呼ばれるバイオマスのガス化で得ら
れる合成ガス
注2)
から触媒転換、酵素転換などによりエタノールを製造する技術が注目され、技術
開発が進められています。熱化学法では合成ガスへの転換で乾燥バイオマス重量の 25 ~ 40wt%
程度を占めるリグニンの有効利用が可能であり、バイオマス炭素の有効利用率が高く、排水処理
の面でも有利となりますが、合成ガスから効率的にエタノールを製造する技術が必要となります。
本調査は、バイオマスガス化を利用した燃料油(エタノール、BTL 等)の製造技術に関して、
国内製油所でのバイオエタノール生産を想定して、バイオマス資源、ガス化の技術、合成ガスか
らの転換技術の現状レベルを調査するとともに、経済性評価、LCA(環境負荷)評価についても
検討を加え、今後の日本の進むべき方向性を探ろうとしたものです。
表1 バイオマスからのエタノール製造技術
原料
糖質、デンプン質
(可食性)
リグノセルロース類
(非可食性)
一次処理
エタノールへの転換
技術開発状況
糖化
C6 糖の発酵
現在主流の工業製法
糖化
C6 糖の発酵
C5 糖の発酵
開発段階、一部小規模
生産
触媒転換:直接合成(気相法)
米国ベンチャーが技術
開発中
:直接合成(液相法)
熱化学法
(高温合成ガス化) :メタノール経由間接合成
(ホモロゲーション法)
1980 年 代 に 日 本 の
C1 化学プロジェクト
で検討(ただし原料は
化石資源)
酵素転換
米国ベンチャーが技術
開発中
1.バイオマスからの合成ガス製造技術
バイオマスのガス化は石炭や重質油等のガス化と基本的に同じで、部分酸化反応と熱分解反応
があります。部分酸化反応はバイオマス等の原料とガス化剤(空気、酸素、スチーム等)との反応で、
主要生成物は、H2、CO、CO2、H2O です。熱分解反応は、酸素不在下でのバイオマスの熱分解で
あり、主要生成物は、H2、CO、CO2、H2O の他、各種含酸素化合物、CH4、C2H4、タール、チャー
等になります。
グノセルロース系バイオマスは主に木や草などに由来し、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成さ
リ
れる。セルロースは分解(糖化)が困難でヘミセルロースは一般の酵母では代謝できない。
注2)
合成ガス(シンガス、syngas, synthesis gas)とは一酸化炭素と水素の混合ガスのことであり、C1 化学におけ
る基本的な原料の 1 つである。合成ガスは石炭や天然ガス、重質油、石油オフガス、オイルシェールやバイオマ
スなどから作られる。
注 1)
10
ガス化を行うガス化炉は、表2に示すように固定床の他、流動床、噴流床、ロータリーキルン
など種々のガス化炉が開発されてきましたが、バイオマスのガス化は原料バイオマスの特性に応
じた最適なプロセスの選定・実証研究・技術確認が必要ですが、技術開発の多くは実証研究段階
にあり、大型商用プラントで安定運転される技術は開発されておらず、既存の外部技術の導入に
より商用プラントが建設できる段階とはいえません。
尚、合成ガス中の不純物に関してはタールの分解あるいは分離を十分行う必要がありますが、
その他の不純物は石炭のガス化等で採用されている精製法で対処可能です。
表2 木質系バイオマスガス化炉の比較
ガス化方式および
炉型式
固定床
下降流式
上昇流式
流動床
バブリング式
循環式
噴流床
ロータリーキルン
微粉体バーナ式 内熱式ロータリー 外熱式ロータリー
キルン方式
キルン方式
ガス化炉概略図
F:木質バイオマス
O:酸化剤(空気、
酸素、蒸気)
P:発生ガス
ガス化温度
ガス出口温度
タール含有量
制御性
運転性
原料の条件
適正容量
備考
700~1,200℃
600~800℃
低い
3
(<0.5g/m N)
700~900℃
100~300℃
非常に高い
3
(30~150g/m N)
800~1,000℃
500~700℃
中
3
(<5g/m N)
800~1,000℃
700~900℃
中
3
(<5g/m N)
1,000~1,500℃
1,000~1,200℃
非常に低い
3
(<0.1g/m N)
850~1,000℃
800~950℃
中
3
(<5g/m N)
700~850℃
650~800℃
中
3
(<5g/m N)
良
負荷変動:敏感
運転ロード範囲:
40~100%
非常に良い
負荷変動:敏感で
はない
運転ロード範囲:
50~100%
中
負荷変動:敏感
運転ロード範囲:
30~100%
中
負荷変動:敏感
運転ロード範囲:
30~100%
複雑
中
良
負荷変動:敏感 負荷変動:敏感 負荷変動:それほ
運転ロード範囲: 運転ロード範囲: ど敏感でない
30~100%
30~100%
運転ロード範囲:
30~100%
制約厳しい(含水
率:<25w%
サイズ: 20 ~
100mm
灰分含有量:<6d%)
制約あり( 含水
率:<60w%
サイズ:5~100mm
灰分含有量: <
25d%)
制約少(含水率:
< 60w%
サイズ:20mm
灰分含有量:<
25d%)
制約少(含水率:
< 60w%
サイズ:20mm
灰分含有量:<
25d%)
制約厳しい(含水 制約あり( 含水
率:<10w%
率:15w%
サイズ:微粉
サイズ:50mm)
灰分含有量:<
25d%)
制約あり( 含水
率:40w%
サイズ:50mm)
<5MWth
・欧米の設置数の
約75%を占める
・変形型にオープ
ンコア式がある
<20MWth
・左記との中間型
にクロスフロー
式がある
>60MWth
・常圧式のほかに
加圧式(IGCC
用)がある
>100MWth
・最近では小規模
向けの開発がな
されている
<600kWth
・制約は工場製作
による搬送性か
ら現場組立なら
ば大型可能
・タール分は後段
高温改質で<
3
0.05g/m N 程度
まで除去する
20<MWth<60
?
出典:「バイオマスの変換技術」城子克夫、化学装置、2004 年 3 月
2.合成ガスからの燃料油製造技術
合成ガスからエタノールなどの燃料油を製造する研究は、1970 ~ 1990 年代に日本の C1 化
学プロジェクトを含め、世界で活発に行われましたが、当時は化石資源由来の合成ガスを想定し
ていました。現在のバイオマス由来の合成ガスからの燃料油製造技術は、これらの研究がベース
になっています。
(1)エタノール製造技術
バイオマスからの合成ガスを原料としたエタノール製造技術は大別すると次の4種類に分類で
きます。
a . 合成ガスからの直接エタノール合成(気相法、液相法)
b . 合成ガスからメタノールを経由するエタノール合成(ホモロゲーション
)
注3)
注 3)
モロゲーション:有機化学でホモログ(homologue)といえば、「炭素が一つ多い同族体」を意味し、合成反
ホ
応などによって元の化合物より 1 炭素増やす反応を「ホモロゲーション」と呼ぶ。
11
2011.1
c . 合成ガスからメタノールを経由するエタノール合成(カルボニル化
)
注4)
d . 合成ガス発酵法によるエタノール製造
有力な技術として、直接エタノール合成(気相法)が米国、カナダを中心に検討され、複数の
パイロット試験計画も発表されていますが、ベンチャー企業による開発が多く、いずれも技術レ
ベルは実証段階であり、大型プラントでの安定運転されるレベルに達した技術はありません。直
接エタノール合成はエタノール以外に C1 ~ C4+ の混合アルコール、炭化水素が副生され、選択
性向上が課題となっています。メタノールを経由する方法は、完成度は高いのですが工程が長く、
コスト高になるため、燃料油製造技術というよりは化学品製造技術のイメージが強くなります。
また、合成ガス発酵法は反応速度が実用可能なレベルに達していない状況です。
低廉化石燃料
(低 質 石 炭 類 )
(重 質 残 渣 油 )
(ペ トロ コ ー クス)
バイオマス資源
(草 本 系 )
(木 質 系 )
(有 機 系 廃 棄 物 )
(プ ラン テ ー シ ョン 廃 棄 物 )
合成ガス化
(部 分 酸 化 型 )
(水 蒸 気 改 質 型 )
(熱 分 解 + 改 質 )
(メタン 発 酵 +
水 蒸 気 改 質 )
ター ル 分 離
+
合成ガス精製
合 成 ガ ス の エ タノー ル へ の 転 換
合 成 ガ ス の 直 接 転 換 法 と検 討 例
・気 相 法 ・・・・・Dow, IFP, Lurgi
・・・日 本 の C1化 学 (相 模 中 研 )、
大連化物研
・・・NREL, Range Fuels, Syntec
・液 相 法 ・・・・・Texaco, UCC, National Distillers
・・・日 本 の C1化 学 (三 井 化 学 )
合 成 ガ ス の 間 接 転 換 (メタノー ル 経 由 )法 と検 討 例
・ホ モロ ゲ ー シ ョン ・・Pearson Technologies
・・日 本 の C1化 学 (三 菱 ガス 化 学 )
・カ ル ボ ニ ル 化 ・・・・Enerkem、富 山 大 学
合 成 ガ ス の 微 生 物 転 換 法 エタノー ル 合 成
Coskata Inc, Bioengineering Resources Inc
三 井 造 船 ・九 州 大 学
図1 合成ガスからのエタノール製造プロセス
(2)BTL 製造技術
バイオマス由来の合成ガスから FT 合成により BTL(灯油・軽油に相応するバイオ燃料油)を
製造する研究開発は欧州を中心に行われており、以下のようなプロジェクトが進められています。
a. SunFuels / SunDiesel プロジェクト
栽培林のチップを Choren のガス化技術(Carbo-V)でガス化し、Shell の FT 合成技術
(SMDS)による BTL(特にディーゼル燃料油)の製造技術の確立を目指したプロジェクト。
b. Bioliq®Project
麦わらが主原料。農業地帯に分散配置された急速熱分解設備で裁断した麦わらを分解油と
コークに変性したのち、スラリー状にして集中処理設備である高温ガス化/精製設備に輸送
し、Lurgi の MegaSynfuels プロセス等により燃料油化をめざしています。
c. RENEW Project
欧州がバイオ燃料化拡大に向け展開しているプロジェクト。各種流動床、噴流床による
BTL プロセス最適化検討を実施。
(3)ブタノール製造技術
現在、合成ガスからの工業的なブタノール合成は行われていません。しかし、Syntec Biofuel(カ
注4)
12
ルボニル化:カルボニル化とは、有機化合物を種々の反応条件下で一酸化炭素と反応させ、アルデヒド、ケト
カ
ン、カルボン酸、あるいはその誘導体を合成する方法。
ナダ)や Diesel Brewing(米国)がセルロース系バイオマスから合成ガスを経てブタノールを合
成する計画を打ち出しています。触媒やプラントの仕様は明らかにされていませんが、本格的な
参入を考えているようであり注目に値します。
(4)急速熱分解法による製油所での混合処理プロセス化
厳密には合成ガス化による製造法ではありませんが、低コストな熱化学法によるバイオ燃料製
造技術として、急速熱分解法が注目されるようになっています。欧州では BIOCOUP プロジェク
トとして、チップ等のバイオマス原料を熱分解し、生成油を既存の製油所で石油と混合処理する
ことにより、グリーン燃料比率を向上させ、生成油の一部を含酸素化合物製品原料としても活用
するというシステムの開発を行っています。急速熱分解法で生成する粗油は、水溶性で pH が低
く活性な含酸素成分を引金にした重合変質を起しやすいため、脱酸素による化学的・熱的安定化
および親油性化が必要です。安定化された改質熱分解油(脱酸素燃料)は、既存の石油精製プロ
セスに混入され、内燃機関用燃料に精製されます。
既存リファイナリー
鉱油系留分
水素化分解工程
改質熱分解油
内燃機関燃料
FCC工程
鉱油系留分
図2 改質熱分解油の混合処理プロセスの概念図
3.バイオマス資源および想定価格
熱化学法による燃料用エタノール製造は高度な化学プロセスなので、一カ所集中型の大型プラ
ントを建設する方が有利となります。規模は石油連盟が描いている 2010 年にバイオ燃料を 36
万 kl 導入方針を賄える量
として 40 万 kl(31.2 万 t/y)を一カ所で生産することを想定すると、
注5)
100 万 t/y 超のバイオマス資源を通年で確保する必要があります。このような条件を満たす低廉
なバイオマス資源を検討しましたが、単一のバイオマス種でこれを達成するのは容易ではありま
せん。 バイオマス資源として木質バイオマス、産業廃棄物、都市ごみ、下水汚泥などを乾燥圧密化燃
料に加工して利用するプロジェクトが日本でも徐々に進んでいます。本調査ではバイオマス種を
限定せず、こうした原料が一定価格以下であれば何でも採用するという、オープンマーケット市
注 5)
油連盟は政府の要請(2010 年度にバイオ燃料を原油換算 21 万 kl 導入する)に協力し、2010 年度からバイ
石
オ ETBE を配合したバイオガソリンの本格販売開始を決定した。原油換算 21 万 kl のバイオ燃料とは、バイオ
ETBE で 84 万 kl に相当し、その原料となるバイオエタノールで 36 万 kl に相当する。
13
2011.1
場を想定しました。ここでは国内調達以外に外国からの輸入バイオマス燃料も排除しないことと
しました。また、経済性評価でのバイオマス資源の基準価格は米国 NREL
注6)
が 2022 年想定で
エタノール製造する場合の4種類のバイオマス(農業残渣、スイッチグラス、森林残渣、都市ご
み)の輸送、貯蔵、二次処理含みのコストで試算した結果の加重平均価格である約 6,700 円 /t
(US$67.42/t、1 ドル =100 円)を使用しました。
ガス化炉 2系列
・残渣油、ペトロコークス
(液体用、固体用)
@ 5,000~10,000円/t1)
合成ガス化
資源
<バイオマス資源>
・木質バイオマス
賦存量 1,330万t/y
@~5,000円/t (製材等残材)
@20,000円/t 前後(間伐材等)
@逆有償(建築廃材)
・産業廃棄物 (廃プラスチック)
賦存量 900万t/y
@ 不明
・都市ゴミ
賦存量 5,200万t/y
@ 不明
ペレット化
残渣油、ペトロコークス、石炭より安価
(ex 5,000~15,000円/t)
・RPF, C-RPF
現状生産量 150万t/y
@4,000~5,000円/t
・RDF
現状生産量 70万t/y
@50,000円/t 前後
・下水汚泥
賦存量 230万t/y(乾燥品)
@20,000円/t前後(東京都)
@~15,000円/t(鳥取県)
ペレット化
炭化
・輸入バイオマス
賦存量 ~10,000t/y(アジア)
@2,000~5,000円/t (現地)
Yes
チップ、ペレット品
輸入
No
バイオマス原料選定の前提
1)ペレットに加工した段階で低廉化石燃料より安価なバイオマス原
料を選択する。
2)量的に充足できない場合は、複数のバイオマス原料を組み合わ
せて使用する。
3)残渣油(ペトロコークス)とバイオマスは、混合してガス資源とす
る。その際に液体用と固体用の2系のガス化炉を設置することが
予想される。
注)RPF、C-RPF、RDF は廃棄物固形燃料
RPF:Refuse Paper & Plastic Fuel
C-RPF:Char-Refuse Paper & Plastic Fuel
RDF:Refuse Derived Fuel
図3 製油所でのバイオエタノール生産で想定されるバイオマス原料選択の考え方
4.バイオエタノール製造コスト試算
熱化学法によるエタノール製造で、現在米国を中心に検討が進められている直接法と従来の間
接法(ホモロゲーション法、カルボニル化法)のコストを試算しましたが、NREL が 2022 年到
達を想定した高度技術レベルの酵素糖化ベースの発酵法とほぼ同等レベルとなることが確認され
ました。エタノール製造で最も製造コストが低いのは糖質原料の糖化発酵法であることは事実で
すが、ホモロゲーション法、カルボニル化法のバイオマス原料原単位は、糖質純度の高い原料を
用いたこの発酵法に次ぐものです。したがって今後メタノール経由のホモロゲーション法または
カルボニル化法によるエタノール製造も、米国を中心に検討が進められている直接法と同様、本
格的な技術開発を開始する価値があると考えられます。
注6)
14
REL:National Renewable Energy Laboratory。 米 国 エ ネ ル ギ ー 省 に 所 属 す る 研 究 所 で、EISA(Energy
N
Independence and Security Act)RFS2 プログラムの中で、2022 年の再生可能燃料生産量(7,950 万 kL)達
成を目指して精力的にバイオエタノール等の製造技術確立と工業化をめざした検討を進めている。
バ イオマ ス 原 料 原 単 位
t- D ry b io m a ss/ t- E tO H
E tO H 製 造 原 価 円 / t- E tO H
0
2 0 ,0 0 0
4 0 ,0 0 0
6 0 ,0 0 0
8 0 ,0 0 0
0
糖質、デンプン質 糖化発酵法
1
リグノセルロース類 糖化発酵法
2
リグノセルロース類 熱化学法
直接エタノール合成
3
リグノセルロース類 熱化学法
メタノール経由ホモロゲーション法
4
リグノセルロース類 熱化学法
メタノール経由カルボニル化法
5
2
4
6
注)バイオマス原料原単位はエタノール(1 トン)を生産するのに必要なバイオマスの量(トン)で、数値が小さいほど効率が良い。
※コスト試算の詳細は PEC 報告書 PEC-2009-L-05「バイオマスガス化を利用した燃料油(エタノール、BTL 等)の製造技術関
連調査報告書」のP 228-245 を御参照ください。
図4 バイオエタノール製造法の経済性評価結果
5.熱化学法を中心とした燃料用エタノールの LCA
(環境負荷)評価
NREL が発表している 2022 年到達技術レベルでの糖化発酵法、熱化学法(気相・直接法)による
エタノール製造に伴う CO2 負荷の比較を以下に示しましたが、
ほぼ同等というのが NREL の結論です。
表3 NREL による糖化発酵法及び熱化学法のエタノール生産に伴う CO2 負荷比較
想定プラント
原料
製造規模(アルコール)
年間稼働時間
CO 2 年間排出量
CO2 発生量
発酵排ガスから
CO2 ガスベント
燃焼排ガスから
合計発生量
上記から算出されるCO 2 負荷
kg・CO 2 /アルコール(L)
(kg・CO 3 /GJ)
糖化発酵プロセス
熱化学プロセス
トウモロコシ
262,000
8,406
748,772,856
木質チップ
275,000
8,406
881,226,198
23,381
0
65,695
89,076
0
23,878
80,955
104,833
2.86
(135)
3.20
(151)
(kL/年)
(時間)
(kg CO2)
(CO2
(CO2
(CO2
(CO2
kg/時間)
kg/時間)
kg/時間)
kg/時間)
ここでは、
エタノール 1 リットル
(ま
注)CO2 負荷:地球温暖化への影響を温室効果ガスである CO2 の発生量で見たものが CO2 である。
たは 1 ギガジュール)を生産する際に発生する CO2 の重量
6.課題と対応策の検討
(1)製油所に設備導入するための課題
バイオマス資源の原料化では、固体原料の導入搬送設備、貯蔵設備が必要となりますが、その
嵩高さ、吸湿性、臭気などで問題が発生する可能性があります。その他、製油所で固体バイオマ
15
2011.1
ス資源を用いてガス化、燃料油生産を実
施する場合に想定される全体的な課題と
表4 国 内製油所における固体バイオマス資源原料化
に伴う課題と対応
対応の概要を表4に整理しました。
製油所におけるバイオマスの
ガス化、燃料油生産の課題
(2)国内における原料バイオマスの確保
国内製油所でのバイオマスの発酵法や
製油所におけるバイオマスの
ガス化、燃料油生産の課題
1.原料の輸送・貯蔵効率の低下
嵩高さ、高含水、腐敗、自然発火
大量貯蔵、粉塵、臭気、雑菌
2.設備
分散型、集中型が可能だが、集中型では
大量のバイオマス確保が容易でない
3.ガス化技術
部分酸化ガス化でもタール副生大
灰融点が低いことによるガス化炉閉塞
酸素源(空気深冷分離)が必要、高建設費
残渣油との単一炉による共ガス化は困難
4.燃料油合成
C1触媒は高性能だが、高価
Dow系触媒は混合アルコール生成
バイオ系合成ガス転換の国内実績は
メタノール合成のみ
5.経済性
バイオマス資源価格の見通しが困難
建設費が高い
競合技術(糖化発酵、熱化学転換、熱分解)
の比較が必要
6.燃料化技術
混合アルコール(MeOH主成分)の
ガソリン基材化は不可
1.原料の輸送・貯蔵効率の低下
嵩高さ、高含水、腐敗、自然発火
熱化学転換法による燃料エタノール生産
大量貯蔵、粉塵、臭気、雑菌
を想定すると、大量の原料バイオマスの
2.設備
分散型、集中型が可能だが、集中型では
輸送、貯蔵が必要となりますが、嵩高さ、
大量のバイオマス確保が容易でない
高含水のため、腐敗、臭気、粉塵など、
3.ガス化技術
部分酸化ガス化でもタール副生大
これまでに経験したことのないトラブル
灰融点が低いことによるガス化炉閉塞
が予想されます。ガス化では灰融点が石
酸素源(空気深冷分離)が必要、高建設費
残渣油との単一炉による共ガス化は困難
炭灰に比較して低く、またバイオマス
4.燃料油合成
の種類ごとに異なります。ガス化炉の安
C1触媒は高性能だが、高価
Dow系触媒は混合アルコール生成
定化のためには、大きな原料組成変化は
バイオ系合成ガス転換の国内実績は
好ましくありませんが、国内では単一種
メタノール合成のみ
5.経済性
類で大量のバイオマス原料確保が困難で
バイオマス資源価格の見通しが困難
す。現在国内でも検討されている高収穫
建設費が高い
性バイオマス(草本類、ユーカリ等)の
競合技術(糖化発酵、熱化学転換、熱分解)
の比較が必要
栽培が開始され、それを原料化する場合
6.燃料化技術
でも通年収穫ができる訳ではないので、
混合アルコール(MeOH主成分)の
複数種のバイオマス資源の利用は避けら ガソリン基材化は不可
れません。安定操業のためには石炭、残
渣油等を主原料としてバイオマス資源と
1.乾燥圧密化バイオマスの導入
RDF、RPF、Palm kernel shell, EFB
検討されている対応法
1.乾燥圧密化バイオマスの導入
RDF、RPF、Palm kernel shell, EFB
検討されている対応法
16
2.多様なバイオマス、化石系資源の併用
バイオマス資源の長期安定契約など
1.原料の輸送・貯蔵効率の低下
クス等の需要減少により、これらを低廉
嵩高さ、高含水、腐敗、自然発火
なガス化原料として使用できる可能性が
大量貯蔵、粉塵、臭気、雑菌
2.設備 大きくなります。そこで、こうした化石
分散型、集中型が可能だが、集中型では
資源とバイオマス資源の共原料化が大き
大量のバイオマス確保が容易でない
な選択肢となります。自社原料である製
3.ガス化技術
部分酸化ガス化でもタール副生大
油所残渣油を主原料としてガス化プラン
灰融点が低いことによるガス化炉閉塞
トを稼働するとともに、この化石燃料と
酸素源(空気深冷分離)が必要、高建設費
残渣油との単一炉による共ガス化は困難
発熱量基準で等価以下の値段で導入され
4.燃料油合成
る各種の圧密化バイオマスペレットを選
C1触媒は高性能だが、高価
Dow系触媒は混合アルコール生成
択利用するのが好ましい原料選択のあり
バイオ系合成ガス転換の国内実績は
方と思われます。製油所で残渣油を原料
メタノール合成のみ
5.経済性 として併用すると、ガス化工程は複雑な
バイオマス資源価格の見通しが困難
ため建設費が高くなりますが、残渣油の
建設費が高い
価格を低く設定できれば、安定供給原料と
競合技術(糖化発酵、熱化学転換、熱分解)
の比較が必要
して利用できる可能性があると考えます。
6.燃料化技術
混合アルコール(MeOH主成分)の
ガソリン基材化は不可
3.ガス化技術
部分酸化ガス化 (大規模化では必須)
水蒸気ガス化(Syntec, Pearson/NREL,
Power Ecalene Fuelsなど)
4.燃料油合成
C1触媒成果を踏まえた間接法触媒開発
(特にホモロゲーション、カルボニル化)
Dow系触媒で混合アルコールを分離、
PrOH、BuOHの高付加価値副生物評価
一方、製油所では残渣油、ペトロコー
5.経済性
製油所残渣油を中心とする原料構成
大規模化で建設費負担の削減
糖化発酵、熱化学転換の経済性、
LCA比較ではほぼ同等とみられる
ガス化、燃料油生産の課題
6.燃料化技術
MeOHリサイクルによるEtOHリッチ生産
ETBE化、EtOH直接ガソリン混合の判断
共ガス化する方法が提案できます。
製油所におけるバイオマスの
2.多様なバイオマス、化石系資源の併用
バイオマス資源の長期安定契約など
3.ガス化技術
部分酸化ガス化 (大規模化では必須)
水蒸気ガス化(Syntec, Pearson/NREL,
Power Ecalene Fuelsなど)
4.燃料油合成
C1触媒成果を踏まえた間接法触媒開発
(特にホモロゲーション、カルボニル化)
Dow系触媒で混合アルコールを分離、
PrOH、BuOHの高付加価値副生物評価
5.経済性
製油所残渣油を中心とする原料構成
大規模化で建設費負担の削減
糖化発酵、熱化学転換の経済性、
LCA比較ではほぼ同等とみられる
6.燃料化技術
MeOHリサイクルによるEtOHリッチ生産
ETBE化、EtOH直接ガソリン混合の判断
1
2
3
4
5
6
表5 製油所を想定したガス化技術の考え方
原 料
固
体
液
体
バイオマス(圧密化乾燥
ペレット)
ガス化炉
付帯設備
合成ガス精製
固定床、部分酸化
型、低圧
酸素プラント
圧縮機
高圧蒸気
部分酸化型、高圧
酸素プラント
高圧蒸気
タール分離・除去
酸性ガス(CO2、H2S
等)
吸収除去
両ガス化系共通の大
型設備にする
ペトロコークス、燃料炭
重質残渣油
酸素
循環炭化水素類
改質装置-1
CO2
残渣油
CO2
除去
合成ガス
エタノール
合成
酸素
スチーム
ガス
水性ガス
シフト
バイオマス
ガス化炉
コンプレッサー
改質装置-2
クエンチ室
タール分離
灰
図5 製油所でバイオエタノールを生産するための工程イメージ
(3)熱化学法による燃料油生産の課題
バイオエタノール生産技術に関して、今回の調査で明らかになった課題を、直接法、間接法の
製法別に整理し、各課題への対応を考察して表 6 に示しました。
17
2011.1
7.まとめ
今後のエタノール製造技術開発
表6 合成ガス転換の課題
合成ガス転換技術の課題
の方向性としては、米国を中心に
検討が行われている熱化学法の直
接エタノール合成に加えて、C1 化
学プロジェクトでも検討されたメ
タノール経由ホモロゲーション法、
または酢酸、酢酸誘導体製造で工
業実績が大きいメタノール経由カ
ルボニル化などの液相間接法が考
えられます。
間接法は反応工程数が多く、ハ
ロゲン含有触媒の使用で耐食性高
級材質を使用するなどもあって建
設費は高くなりますが、バイオマ
ス原料原単位が低く、エタノール
製造原価は将来技術である糖化発
酵法と比肩できるレベルです。生
成物中のエタノール選択率は高く、
精製系が単純であること、メタノー
1.間接法(MeOH 液相ホモロゲーション法)
C1化学ホモロゲーション活性は高く、EtOH選択率は85%以上
副生アルデヒド、酢酸エステル除去で、水素化精製が必要
ハロゲン含有触媒で反応器材質は高級化
MeOH合成、EtOH合成が必要で、工程数が多く、建設費が高い
2.直接法エタノール合成
・直接法エタノール合成(Dow-MoS 2 系触媒気相法)
Dow系触媒は高活性だが、アルコール選択率は50%以下
Dow系触媒は気相硫黄添加が必要
炭化水素、C1-C6アルコール生成、
MeOH循環が前提で、全アルコール中のEtOH 70%達成
・直接法エタノール合成(遷移金属系)
IFP/出光、Syntec触媒など、Dow系と同レベルの活性だが、
やはりMeOH合成反応の1/3程度の反応速度、かつ
CO選択率は50%程度と低い
3.間接法(MeOH、DMEのカルボニル化法)
酢酸(メチル)を中間体とする。EtOH選択率は90%以上
MeOH合成、EtOH合成、CO/H 2 分離が必要で
工程数が多く、建設費が高い
4.直接法EtOH合成(Rh触媒気相法)
C1化学プロジェクト開発触媒は高選択率(80%)だが、低変換率
(H 2 /CO = 2で高STYが達成される)
5.直接法EtOH合成(液相、錯体触媒法)
C1触媒は高性能だが、高圧反応、かつ生産性が低い
副生物が多い(CO2 、CH 4 等)、ハロゲン系触媒、Ruの気化ロス
6.新規競合技術が目白押し
ルまでは技術が完成している点な
どが有利となります。気相あるい
は液相直接法に関してはエタノー
検討されている対応法
ル合成活性と選択率を高める触媒
性能のブレークスルーが求められ
ます。
現在、燃料用バイオエタノール
合成では熱化学法、糖化発酵法ば
かりでなく、多くの新規技術提案
が目白押しです。こうした動きに
も配慮しながら、情報収集と技術
開発を併行して進める必要があり
ます。
1.間接法(MeOH 液相ホモロゲーション法)
触媒改良(活性の向上、非ハロゲン系、選択性向上)
建設費の低減
EtOH選択率が高いことから、Bio-C有効利用の視点で
MeOH経由の製法が有利
2.直接法エタノール合成
・直接法エタノール合成(Dow-MoS 2 系触媒気相法)
触媒の改良
(活性、アルコール選択率の向上)
(CO 2 、炭化水素抑制:触媒の根本的改良を要す)
MeOH分離・リサイクル技術の確立
・直接法エタノール合成(遷移金属系)
上に同じ
3.間接法(MeOH、DMEのカルボニル化法)
・非金属・非ハロゲン系触媒(富山大・椿教授など)の開発
・MeOH法酢酸プロセスモデル、新規錯体触媒系開発
・合成ガス高効率分離法開発
4.直接EtOH合成(Rh触媒気相法)
C1触媒の改良検討が必要、高STY化、低Rh化
(H2 /CO = 1での評価を含めて検討)
5.直接法EtOH合成(液相、錯体触媒法)
触媒の活性、選択性の改良
6.合成ガス発酵法(Coskata)、グルコースの酢酸への発酵
+水素化法(Texas A&M Univ MixAlco法; ZeaChem法)、
微細藻類、Shell-Virent BioForming法などの動きに注目
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トピックス 「改正化審法について」
~世界共通概念による化学物質管理へ~
1.はじめに
化学物質は幅広い産業活動において不可欠なものであり、私たちの生活にとっても切り離すこ
との出来ない必要性や利便性を与えています。一方で取扱いや管理の方法によっては、化学物質
の製造工程、流通・販売経路、日常での利用や廃棄など、ライフサイクルのあらゆる段階で人の
健康や環境に有害な影響を及ぼす可能性があります。
近年、日本においても安全・安心についての関心が高っていますが、化学物質管理をめぐる国
際状況も大きな変化を遂げつつあります。このような中、化学物質による人及び環境への影響を
最小化するという国際的共通課題に対応することを目的として、2009 年(平成 21 年)5 月 20
日に、「化学物質の審査及び製造等の規則に関する法律の一部を改正する法律」(改正化審法)が
公布されました。
尚、石油業界への影響という面では、石油製品(揮発油、灯油、軽油、重油)は「揮発油等の
品質の確保等に関する法律(品確法)」によって既に規制を受けているという理由から、改正化審
法において、評価を行うことが必要と認められない化学物質として、昨年の 8 月 24 日付けで届
出不要物質に指定されました。
2.背景
高度経済成長期の 1960-1970 年代に、産業活動がもたらす公害が顕在化し、PCB(ポリ塩
化ビフェニル)による環境汚染が明らかとなる中で「カネミ油症事件」が起きました。これを契
機として、難分解性、高蓄積性であり人に対する長期毒性を有する化学物質を規制する目的で、
1973 年(昭和 48 年)に化審法が制定されました。この際、新規導入化学物質の事前審査制度が
盛込まれています。
その後、今回の改正に至るまでの間に化審法は 2 回改正されています。1986 年(昭和 61 年)に、
蓄積性は無いが、
難分解性で長期毒性を有する物質(トリクロロエチレンなど)の規制制度が導入され、
2003 年(平成 15 年)には、動植物などに環境影響を有する物質の審査・規制制度が導入されました。
一方、化学物質管理に関する国際動向が、今回の改正に大きな影響を与えました。2002 年に、
「持
続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD:World Summit on Sustainable Development)」が
ヨハネスブルグにおいて開催され、ここで採択されたヨハネスブルク宣言を受けて、世界各国で、
リスクベースの化学物質管理制度への転換が行われました。欧州では、2007 年に REACH が施
行され、米国では「HPV チャレンジプログラム(高生産量化学物質の安全性情報を整備)」が開
始しされました。また、残留性有機汚染物質の減少を目的とする、ストックホルム条約(POPs
条約:Persistent Organic Pollutants)もあげられます。
3.改正化審法
3-1.改正に求められたもの
日本における国民的な安全・安心意識の高まりと、化学物質管理の国際的動向を踏まえ、リス
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2011.1
クベースの包括的な化学物質管理を実現するために、今回の大幅な化審法改正が行われました。
改正後の化審法の体系を図 1 に示します。この中で、一般化学物質とは、第一種・第二種特定化
学物質、監視化学物質(旧法の第一種監視化学物質)、優先評価化学物質、新規化学物質を除く化
学物資を指します。
出典:「化審法について」平成 22 年 11 月 経済産業省 製造産業局 化学物質管理課
図 1 改正後の化審法の体系(2011 年 4 月 1 日~)
化審法改正に具体的に求められたものを大きく整理すると次のようになります。
①ハザードベース評価から、リスクベースの評価とリスク管理への転換
②既存物質や良分解性物質をも含む、全ての化学物質の包括的管理を可能にする ③安全・安心の確保と産業活動・利便性の持続的維持の同時解決
改正前の化審法は、主に化学物質の性状及び有害性(=ハザード)に着目した審査・分類を行い、
規制が実施されていました。また、新規導入物質のみを対象としており、多くの既存物質は規制
対象となっていませんでした。
リスクとはハザード(危険性)に発生確率を掛け合せ、その危険性がどの程度の頻度で発生し
うるかという定量的概念です。化審法においては、化学物質のハザード(人や動植物への有害性)
に暴露量(人や動植物が化学物質を接種量する量、環境中濃度)を当てはめて、化学物質のリス
クを定量的に評価することをリスク評価といいます。図2では、改正化審法で言う、化学物質の
リスクに基づくリスク管理とは何かを、わかりかりやすく表しています。
改正化審法で対象となる公示物質数は既存化学物質も含めて 2 万件以上になると見こまれてお
り、これらをコスト負担の低減を図りつつ効率的に評価するために段階的なリスク評価の仕組み
が構築されています。つまり、評価物質を 3 ステップに分けて評価しながらリスクを振り分ける
ことにより、評価の物質数を段階的に減らし、重点となる物質を絞り込みます。
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出典:「改正化審法とリスク評価 ー届出情報の利用についてー」化学物質管理セミナー キャラバン 2010
独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物資管理センター
図 2 化学物質のリスクに基づくリスク管理とは
また、リスク評価のプロセスにおける国と事業者の役割分担は、事業者が数量、用途、有
害性情報等の届出を行い、国がリスク評価を行うこととしています。
3-2.改正の概要
化審法の主な改正ポイントは以下の通りです。
(1)既存化学物質を含めた包括的リスク管理制度の導入
①既存化学物質(一般化学物質)を含む全ての化学物質について、一定量(1 トン)以上の製造・
輸入した事業者に対して、毎年度その数量等の届出る義務を課す。
②上記届出の内容や有害性に係る既知知見を踏まえ、優先的に安全性評価を行う必要がある化
学物質を「優先評価化学物質」に指定する。(「優先評価化学物質」の新設に伴い、「第二種監
視化学物質」 「第三種監視化学物質」は廃止する)
③必要に応じて、優先評価化学物質の製造・輸入者に有害性情報の提出を求めるとともに、取
扱い事業者にも使用用途の報告を求める。
④優先評価化学物質に係る情報収集及び安全性評価を段階的に進めた結果、人又は動植物への
悪影響が懸念される物質については、「特定化学物質」として製造・使用規制等の対象とする。
⑤これまで規制対象としていた「環境中で分解しにくい化学物質」に加え、「環境中で分解しや
すい化学物質」についても対象とする。
(2)流通過程における適切な化学物質管理の実施
特定化学物質及当該物質が使用された製品による環境汚染を防止するため、取扱い事業者に対
して、一定の取扱い基準の遵守を求めると共に、取引に際して必要な表示を行う義務を課す。
(3)国際的動向を踏まえた審査・規制体系の合理化
POPs 条約の規制対象となる物質(第一種特定化学物質)について、条約で許容される例外的
使用を厳格な管理の下で認めるため(エッセンシャルユース)、第一種特定化学物質に係る規制の
見直しを行う等、規制の国際整合化を行う。
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2011.1
改正法の施行は第一段階(2010 年 4 月 1 日から施行)と第二段階(2011 年 4 月 1 日から施行)
に分けて行い、上述(1)の①から④は第二段階で、その他は第一段階で実施されます。
改正化審法において、
“優先評価化学物質に係る情報収集及び安全性評価を段階的に進められる”
ことになりますが、このリスクスクリーニング・リスク評価のイメージを図3に示しました。
出典:「化審法について」平成 22 年 11 月 経済産業省 製造産業局 化学物質管理課
図 3 スクリーニング評価とリスク評価のイメージ
このように、今後は、スクリーニング評価において優先評価化学物質に指定された物質について、
2回のリスク評価(1次リスク評価、2次リスク評価)を経て審査され、最終的にリスクが高い
と判断された場合、第二種特定化学物質に指定されます。
4.おわりに
日本の化学物質管理において重要な位置を占める2つの法規制として、化学物質管理の‘入り
口規制’である「化審法」と、‘出口規制’である「特定化学物質の環境への放出量の把握及び管
理の改善の促進に関する法律(化管法)」が上げられます。「化審法」と「化管法」とは、同様の
目的で、ほぼ同じ時期の、2010 年、2009 年にそれぞれ改正され、これら一連の改正により国際
的な化学物質管理の流れとの整合性を取ることができました。
最近の動きとして、米国の有害物質規制である TSCA が、この 2 - 3 年内に REACH を視野
に入れた大幅な改正が計画されています。TSCA は、1976 年の制定以来大きな改定が無いまま
運用されてきており、現代のニーズへの対応と国際的整合化が困難となっていたことが理由です。
世界共通の概念をベースにした新しい化学物質管理規制が、日本や欧州を含めて、米国、中国、
カナダ等々の諸外国でも次々と誕生しつつあります。
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参考資料
1. 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の一部を改正する法律の公布について
→ http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/h21kaisei.html
2.「化審法について」平成 22 年 11 月 経済産業省 製造産業局 化学物質管理課
→ http://www.janus.co.jp/caravan/slide/03.pdf
3.「改正化審法とリスク評価 -届出情報の利用について」 独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
→ http://www.janus.co.jp/caravan/slide/04.pdf 受託試験事業についてのご案内
当センターでは、石油基盤技術研究所の各種自動車用試験設備及び燃料油試験分析装置の
一部を公開して、一般からのご依頼による受託試験を行なっています。別表1につきまして
は 2010 年 7 月から受託試験を開始しており、別表2につきましては、今後のご要望により
受託試験の開始を検討しています。
当事業にご関心をお持ちの方は、是非、下記にご連絡ください。
別表 1:受託試験を実施している試験項目
No
試験項目
試験方法、規格等
設備名称
形式、仕様
1
揮発油 蒸気圧
JIS K2258
燃料油揮発性状測定装置
蒸気圧測定器(6 サンプル掛け
オートフィーダー)
2
燃料油 密度
JIS K2249
振動式密度計
多検体チェンジャー付き
別表2:今後の受託試験を検討中の試験項目
No
試験項目
試験方法等
3
バイオディーゼル燃料 酸化安定性(その 1)
経済産業省告示法
4
バイオディーゼル燃料 酸化安定性(その 2)
ランシマット
5
バイオディーゼル燃料 酸化安定性(その 3)
petroOXY 法
6
バイオディーゼル燃料 酸価及び過酸化物価
石油学会試験法
7
燃料油 引火点
PM 式
8
ディーゼル排出粒子中の硫酸根(SO4
9
ガソリン車への給油時の蒸発ガス(HC)
)
2ー
―
―
※ご利用方法(及び、料金、サービス内容等)につきましてはご相談ください。
本件に関するお問い合わせは下記に E-mail、又は、担当者にお電話ください。
お問合せ用 E-mail
atri-service@pecj.or.jp
担当窓口
石油産業活性化センター
・石油基盤技術研究所 試験分析室 担当:石垣(電話 043-295-2255)
・本部 自動車・新燃料部 担当:佐藤(電話 03-5402-8506)
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(☆平成22年4月1日から新体制になりました。)
Japan Petroleum Energy Center (JPEC)
Chicago Representative Office
c/o JETRO Chicago, 1E. Wacker Dr., Suite 600 Chicago, IL 60601, USA
Japan Petroleum Energy Center (JPEC)
Brussels Representative Office
Bastion Tower Level 21, Place du Champ de Mars 5, 1050 Brussels/BELGIUM
住友新虎ノ門ビル
(5F)
セブンイレブン
ローソン
【交通機関】
地下鉄・日比谷線
「神谷町」下車、
神谷町MTビル出口
徒歩3分
神谷町MT
ビル出口
4b
4a
ジョナサン
三菱東京UFJ銀行
無断転載を禁止します。
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