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CHEMKIN-PRO: メタン燃料を用いた水蒸気改質の反応シミュレーション
技術情報 詳細化学反応解析支援ソフトウェア CHEMKIN-PRO: メタン燃料を用いた水蒸気改質の反応シミュレーション Reaction Design社製CHEMKIN-PROは化学反応の解析を支援するために開発されたソフトウェアです。燃焼 反応をはじめとして、触媒表面上の反応や半導体基板上の薄膜成長反応など、幅広い分野の研究開発に活用 されています。本稿では、メタン(CH4)燃料を用いた水蒸気改質の反応シミュレーションについて紹介します。 ■ 背景 化炭素(CO 2)に変え、触媒表面へ吸着させて無害化する 水蒸気改質とは、炭化水素系燃料と水蒸気(H 2 O)か 技術が用いられており、CO濃度を10ppm以下に抑える ら水素(H 2 )を生成する製造技術です。化学反応により 役割を担っています。これは、COが燃料電池のセルスタッ 炭化水素系燃料の組成や性質を変化させる操作のこと クに混入すると電池性能が低下するため、燃料改質装置 を「改質」と呼びます。例えば、家庭用燃料電池には燃料 で発生したCOをできるだけ抑える必要があるためです。 改質装置が実装されており、都市ガス等から水素を取り 今回は、ソフトウェアに含まれる反応器モデルのなか 出す仕組みが取り入れられています(図1)。 からStagnation-flow Reac torとPlug-flow Reac tor そこで本稿では、都市ガスや天然ガスの主成分である (PFR)を選択して燃料改質装置のプロセスをモデル化し メタンに注目し、燃料改質装置における水蒸気改質の反 ました(図3)。このシミュレーションモデルは、触媒表面 応シミュレーションについて取り上げました。 上の化学反応と進行方向の気体流れを同時に考慮する ことができます。 図1 燃料改質装置の概略図 ■ 熱平衡計算による予備考察 図3 燃料改質装置のプロセスモデル 温度と圧力による影響を調べるため、ソフトウェア付属 ■ 化学反応機構 の熱力学データベースを用いて熱平衡計算を行いました つぎに化学反応機構を定義します。ここではメタンを (図2)。熱平衡状態において、高温かつ低圧条件下では、 メタンの改質を促進させる傾向にあることがわかります。 原料とする水蒸気改質反応について取り上げました。 水蒸気改質反応をひとつの化学反応式で表すとCH4 + 2H2O → 4H2+ CO2です。しかし実際は、気体の流れのなか で反応したり、 触媒表面上で様々な化学種が吸着や脱離を 繰り返したりして、 複雑に反応が進行します。 それらひとつ ひとつの反応素過程を記述したものが化学反応機構です。 今回は文献 1- 4 )をもとに反応素過程をモデル化して、 化学反応機構を定義しました(図4)。化学種の数は87種、 反応式の数は432式です。ここで用いた触媒は、ロジウ 図2 熱平衡状態における温度・圧力の影響 ム(Rh)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)の3種類です。 ■ 燃料改質装置のモデル化 燃料改質装置の製造プロセスは、一般的に、改質部、 CO変成部、CO浄化部で構成されます(図3)。各反応器に は燃料を改質させるための仕掛けが含まれており、例え ば改質部では燃料と水蒸気から水素を取り出すための 触媒が用いられています。さらにCO変成部とCO浄化部 では、燃料改質に伴い発生する一酸化炭素(CO)を、二酸 10 図4 触媒表面上の化学反応機構(抜粋) 詳 細 化 学 反 応 解 析 支 援ソフトウェア ■ 反応シミュレーション ◇設定条件◇ シミュレーションモデルにRh、Ni、Pt系触媒の化学反応機 燃料改質装置 反応圧力:40 kPa 構と反 応速 度データを含めて、水蒸気改 質の反 応シミュ -流入条件- レーションを行いました。設定条件および反応器内のおも 原料:メタン(CH4 )、水蒸気(H2O) な化学反応は右記の通りです。とりわけ燃料改質装置内の 流速:130 cm/sec、流入温度:135℃ CO濃度に注目して計算を行いました。 -おもな化学反応- 本ソフトウェアを用いることで、化学種の濃度変化や触 改質部:Rh系触媒/表面温度 740℃ 媒表面上の被覆率の値を詳しく調べることが可能です。 改質反応 CH4 + H2O → 3H2 + CO ① CO変成部:Ni系触媒/表面温度 375∼740℃ シフト反応 CO + H2O → H2 + CO2 ② CO浄化部:Pt系触媒/表面温度 150∼375℃ 選択酸化反応 2CO + O2 → 2CO2 ③ 空気流入量:0.01 cm3/sec ■ CO濃度の推移 改質部において、原料ガスが触媒表面に近づくと、徐々に 改質反応①が進行します(図5)。シミュレーションの結果、ス チームカーボン比1.4のときにCO濃度は触媒表面付近でおお よそ7%となりました(表1)。スチームカーボン比は、供給する 図5 改質部における各化学種の濃度分布 水蒸気とメタンのモル比率を表します。 続いてCO変成部においても、引き続き改質反応①が進行 しますが、その後、すみやかにシフト反応②が優勢となり、 CO濃度が徐々に下がってCO2 濃度が上昇します(図6)。 さらにCO濃度を低減させるべく、CO浄化部に空気を供 給して選択酸化反応③を促進させます。このとき、触媒表 面の被覆率CO(s)の値が徐々に大きくなることがわかりま した(図7)。これは、CO分子が触媒表面に吸着して、気体中 のCO濃度が下がることを意味します。それゆえCO浄化部 では、これら触媒作用により、最終的にCO濃度が10ppm以 下となることがわかりました。 図6 CO変成部における各化学種の濃度分布 ■ 展望 石油や石炭などの化石燃料のなかで、比較的クリーンで環 境に優しいエネルギー資源のひとつが天然ガスです。昨今、 シェールガスに対する採掘技術の飛躍的な進歩に伴い、天 然ガスの可採年数が大幅に上昇することがわかりました。こ れを受けて、天然ガス、とりわけメタン燃料に対する期待が 従前にも増して高まりつつあります。 さりとて、化石燃料の枯渇は徐々に深刻さを増しています。 限りあるエネルギー資源の有効利用に向けて、今後も触媒 技術を応用した研究開発が積極的に進められていくものと 期待されます。 1)G. P. Smith GRI-Mech 3.0, http://www.me.berkeley.edu/gri_mech/. 図7 CO浄化部におけるCO濃度と被覆率の関係 2)N. E. McGuire 3)E. S. Hecht 4)K. Shah 394, 257-267 (2011) . 295, 40-51(2005). 28, 303-313(2005). 表1 シミュレーション結果 11