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調 査 好調ナゴヤの中にある「貧しさ」

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調 査 好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
調 査
好調ナゴヤの中にある
「貧しさ」
∼ 東海地方における貧困問題の現状とその行方 ∼
目
次
1.
はじめに
2.
データからみた東海地方の貧困の
現状
3.
どうして東海地方には貧困が
少ないのか
(1)貧 困 の 地 域 格 差 を 決 め る要 因
は 何か
(2)東海地方に「 高齢者 の み世帯 」
が少ない理由
(3)製造業の強さが貧困を抑制する
(4)
「貯蓄好き・借金嫌い」な地域性
が貧困を遠ざける
4.
楽観できない東海地方の貧困問題の行方
(1)他地域以上の速さで増える「 高齢者
のみ世帯」
(2)人 口 流 動 性 の 上 昇 で 家 族・親 族 間
の扶助機能が低下
(3)
“ 製 造 業 王 国 ”で も 進 む「 経 済 の
サ ービス化」
(4)外 国 人 労 働 者 の 多 さ が 貧 困 問 題 を
見えにくくする
5.
おわりに
【参考1】低所得世帯率にも増して生活保護率が
低い東海地方
【参考2】生活保護率の重回帰分析
【参考3】貧困と隣り合わせの外国人研修・技能実習生
1. はじめに
では、果たして本当のところはどうなのだろうか。
2007 年5 月、放送番組に与えられる最高の賞と
そこで本稿では、東海地方の貧困問題の現状を
される「ギャラクシー賞」の2006 年度テレビ部門
データで概観した後に、東海地方の地域特性や人
の大賞に、NHKスペシャル「ワーキングプア∼
の気質などが貧困とどのような関わりを持つかを
働いても働いても豊かになれない」が選出され
明らかにした上で、今後東海地方の貧困問題がど
た(注1)。この番組は、懸命に働いているにもかか
のような方向に向かうかについて考えていくこと
わらず生活保護水準以下の暮らししかできない
にしたい(注2)。
人々の厳しい現状を紹介する内容で、大きな社会
的反響を呼んだ。
これまでマスメディアに登場する貧困といえば、
16
般に貧困とは縁遠い地域と考えられている。それ
2.
データからみた東海地方の
貧困の現状
アフリカやアジアなど低開発国でのことで、国内
本章では、データをもとに東海地方における貧
の貧困が報道されることはほとんどなかった。だ
困問題の現状を概観していくが、本題に入る前に、
が今日では、貧困は多くの人の身近にも存在する
貧困を示すデータとしてどのようなものがふさわし
問題となりつつある。
いかについて考えてみたい。
ただ、国内の貧困問題には大きな地域差がある
「貧困」という語を辞書で引くと、「貧しくて
といわれている。ここ東海地方は、国内有数の経
(注3)とある。つまり、貧困と
生活が苦しいこと」
済力を持ち、雇用にも恵まれていることから、一
は、
「貧」と「困」が同時に存在する状況を指す言
KR I REPORT2007
葉で、所得が低くても、生産した米や野菜等を自
ない場合は貧困とは呼ばない(注4)。従って、地域
家消費する農家や、近親者などから物的支援を受
の貧困状況を捉えるには、低所得世帯の割合と
けている世帯のように、貧しくはあるが困ってい
いった「貧」のデータではなく、生活保護を受け
図表1 地域別「貧困指標」
② ホームレス数(2007年)
① 生活保護率(2005年)
(人)
25
(人口千人あたり生活保護被保護実人員)
(人口10万人あたり)
(人)
30
23.6
29.0
25
20
18.1
20.1
15
14.3
全国 11.6
15.1
20
全国 14.5
12.9
15
10.3
10
10.0
8.8
11.2
10.1
12.3
10
5.3
4.3
5
5
3.2
0
北
海
道
東
北
関
東
②
甲
信
越
①
北
陸
③
東
海
2.9 2.3
0
近
畿
中
国
四
国
九
州
北
海
道
沖
縄
②
東
北
関
東
③ 個人自己破産件数(2004年)
①
甲
信
越
③
北
陸
東
海
24.4
20
22.2
全国 16.6
17.1
沖
縄
15.1
全国 12.8
15
12.9 13.0
12.5
15.0
14.4
10.8
12.1
11.8
九
州
19.8
19.3
18.9 18.8
16.5
15
③
四
国
中
国
(%)
25
25
20
近
畿
2.8
④ 就学支援率(2004年)
(人口1万人あたり)
(人)
30
3.6
2.2 2.8
9.4
10
10.5
7.4
10
6.9 7.0
5
5
0
0
北
海
道
東
北
関
東
②
甲
信
越
①
北
陸
③
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
沖
縄
北
海
道
③
東
北
関
東
甲
信
越
①
北
陸
②
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
沖
縄
(注)特に注記がない限り、本稿での地域区分は次の通り。
【北海道】北海道 /【東北】青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島 /【関東】茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川 /【甲信越】新潟、山梨、長野 /【北陸】富山、
石川、福井 /【東海】岐阜、静岡、愛知、三重 /【近畿】滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山 /【中国】鳥取、島根、岡山、広島、山口 /【四国】徳島、香川、愛媛、高
知 /【九州】福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島 /【沖縄】沖縄
各グラフの地域名上にある囲み数字は数字が小さい(=困窮が少ない)順(3位まで)。
就学援助率は、公立小中学校における学用品、給食費、修学旅行費用等の援助を受ける児童生徒の割合で、生活保護の支給要件より緩い。
出所:厚生労働省「福祉行政報告例」
(2005年度)、
「ホームレスの実態に関する全国調査」
(2007年1月調査)、最高裁判所「司法統計年報」
(2004年)、総務省「国勢
調査」
(2005年)をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
17
る、ホームレスになるなど、「貧」の結果として
れ方が一様ではないために、1 つのデータでは必ず
「困」が顕在化したデータをみていく必要がある。
しも捉えきれない。このため、ここでは、①「人
口 千 人 あ た り の 生 活 保 護 被 保 護 実 人 員 ( 人 )」
ただ、「困」を表すデータについては、困窮の顕
参考1 低所得世帯率にも増して生活保護率が低い東海地方
貧困指標では“優等生”であった東海地方で
緩やかな関係ながら、低所得世帯率が高い地域
あるが、他地域に比べて“貧しい“世帯も少ない
ほど生活保護率が高くなる傾向がみられる。その
のであろうか。
中で、東海地方は、北陸、甲信越とともに「低
参考図表1は、総務省の全国消費実態調査
(2004年)で、
「年収200万円未満世帯」の割合
(以下「低所得世帯率」)を地域別に比べたものであ
る(*)(**)。東海地方の低所得世帯率(9.0%)は
全国平均(10.4%)を下回っており、東海地方
は「困」と同様、
「貧」も少ない地域ということが
できる。ただ、東海地方の低所得世帯率は、低い
方から数えて甲信越(6.8%)、関東(7.6%)、
北陸(7.7%)の「第1グループ」には及ばない。
また、参考図表2は、「貧」のデータである低
所得世帯率と、
「困」のデータの代表である生活
保護率の関係を表したものである。これをみると、
参考図表1 地域別「低所得世帯率」
(世帯年収200万円未満の割合・2004年)
35
30
566
561 567
25
503
全国 10.4
6.8
9.3
関
東
甲
信
越
200
7.7
低所得世帯率
第1グループ
東
北
平
均
収
︵
万
300 円
︶
低所得世帯率 15.0
13.5
12.8
9.0
北
海
道
500 世
帯
400 年
7.6
0
512
392
10
5
600
542
全国 589
低
所
得 20
世
帯
率
︵ 15
%
12.412.5
︶
北
陸
低所得世帯率
第2グループ
東
海
近
畿
中
国
100
四
国
九
州
沖
縄
0
(注)勤労者世帯以外を含む全世帯・単身世帯を含む総世帯のデータ。
出所:総務省「全国消費実態調査」
(2004年)をもとに共立総合研究所作成
18
KR I REPORT2007
参考図表2 「低所得世帯率」と「生活保護率」の関係
︵
人
口
千
人
あ
た
り
生
活
保
護
被
保
護
人
員
・
人
︶
25
20
生 15
活
保
護 10
率
y=0.4597x + 5.775
R2 = 0.215
5
0
0
10
20
30
低所得世帯率
(年収200万円未満世帯の割合・%)
40
29.3 700
636
632625
保護率が低い地域」ということができる。(***)
(注)低所得世帯率は勤労者世帯以外を含む全世帯・単身世帯を含む総世
帯のデータ。
出所:総務省「全国消費実態調査」
(2004年)、厚生労働省「福祉行政報告
例」
(2005年度)をもとに共立総合研究所作成
800
(参考)
699 世帯平均年収
所得世帯率から推定される結果よりもさらに生活
(*)世帯年収の地域比較ができるデータとしては、
「全国消
費実態調査」以外にも、同じく総務省の「家計調査」があ
る。家計調査は毎年実施されることから、より新しいデータ
が入手できるが、標本数が全国消費実態調査の7分の1ほど
しかなく、信頼性の点で全国消費実態調査が優れている
(集計標本数:家計調査8,563件・2006年、全国消費実
態調査58,048件・2004年)
。
(**)
「世帯年収200万円未満」は全国消費実態調査におい
て世帯年収が最も低い階級で、生活保護を受けられる世帯
年収も地域や家族構成等で異なるものの、概ねこのあたりと
いわれている。
(***)ここでの生活保護率は人数ベースで、世帯ベースの低
所得世帯率との相関を調べるのはあまり適切ではないという
考えもあるが、生活保護率を世帯ベース(被保護世帯/一
般世帯)としても結果はほとんど変わらない。
(以下「生活保護率」)、②「人口10 万人あたりの
ホームレス数(人)」、③「人口1 万人あたりの個
人自己破産件数(件)」、④公立小中学校の「就
学援助率(%)」の4 つを「貧困指標」として、そ
れぞれを地域別に比較した。その結果をまとめた
域の一つということができる(なお「貧」に関す
るデータについては【参考1】を参照)。
3.
どうして東海地方には
貧困が少ないのか
(1)貧困の地域格差を決める要因は何か
ものが図表1である。
これら4 つの貧困指標の中で、困窮者(困窮世
世界レベルでみれば、貧困が多い国というのは
帯)の年齢や都市と地方の違い、困窮に至る原因
経済力が弱い国である。このため国内においても、
などの影響が少なく、最も重要な指標と考えられ
貧困が多い地域は経済力が弱い地域と考えがちで
るのが生活保護率である(注5)。東海地方の生活
ある。では、本当にそうであろうか。
保護率(53
. 人)は北陸(3.2人)や甲信越(4.3人)
には及ばないものの、他の地域に比べてかなり低
図表3 生活保護被保護世帯の世帯類型別構成比
(2005年度)
い。また、東海地方は個人自己破産件数と就学援
高齢者世帯
43.5%
助率も低い方から3位以内で、大都市に多くなり
傷病・障害者世帯
37.5%
がちなホームレス数でも、関東の半分、近畿の3
分の1に過ぎず、沖縄、九州よりも少ない。この
ように、東海地方は全国でも最も貧困が少ない地
図表2 47都道府県の「1人あたり県内総生産」と「生活保護率」
の関係
(N=47)
25
母子 その他
世帯 10.3%
8.7%
(注)
「高齢者世帯」は,男女とも65歳以上の者のみ、またはこれらに18最未
満の者が加わった世帯。
「母子世帯」は,未婚、死別、離別、生死不明等で現に配偶者がいない65
歳未満の女子と18歳未満の子(養子を含む)のみで構成されている世帯。
出所:厚生労働省「厚生統計要覧」
(2005年度)をもとに共立総合研究所
作成
図表4 世帯類型別「生活保護被保護世帯数」
(千世帯あたり・2005年度)
(世帯/千世帯)
160
131.0
(5.9倍)
20
︵
人
口
千
人
あ
た
り
生
活
保
護
被
保
護
人
員
・
人
︶
120
15
生
活
保
護
率
y=0.000x + 9.620
(0.05) (2.16)
R2 = 0.000
80
54.1
(2.4倍)
10
40
5
0
0
2,000
4,000
6,000
8,000
1人あたり県内総生産(千円)
(注)
1人あたり県内総生産は2004年度名目値、生活保護率は2005年度のデータ。
回帰式の( )はt値。
出所:厚生労働省「福祉行政報告例」
(2005年度)、総務省「県民経済計算」
(2004年)をもとに共立総合研究所作成
22.1
(1)
全
世
帯
13.1
(0.6倍)
母
子
世
帯
高
齢
者
世
帯
そ
の
他
(注)
「高齢者世帯」
「母子世帯」の定義は図表3と同じ。
( )は全世帯の値を1とした場合の倍率。
出所:厚生労働省「厚生統計要覧」
(2005年度)をもとに共立総合研究所
作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
19
この疑問への答えを得るために、全国47都道府
みると、意外なことに両者の間に相関はみられない。
県について「1人あたりの県内総生産」と「生活
ということは、東海地方に貧困が少ないのは、経済
保護率」の関係を表したのが図表2である。これを
力の強さ以外に何か他の理由があると考えられる。
図表5 重回帰分析に用いた変数の地域別データ
(再掲)y : 生活保護率(2005年)
(人口千人あたり生活保護被保護実人員)
(人)
25
20
a : 高齢者のみ世帯率(2005年)
(%)
25
23.6
18.1
20
全国 11.6
15
12.9
8.8
10
10.3
13.6
0
関
東
②
甲
信
越
12.8
全国 15.7
5.3
3.2
①
北
陸
5
③
東
海
0
近
畿
中
国
四
国
九
州
北
海
道
沖
縄
b : 完全失業率(2005年)
(%)
19.1
14.5 13.6
10.0
4.3
東
北
14.8
15
15.7
20.5
17.0
10
5
北
海
道
14.3 15.1
18.9
18.3
東
北
②
関
東
甲
信
越
②
東
海
北
陸
近
畿
中
国
四
国
九
州
c : 非持ち家率(2005年)
(%)
60
15
11.9
10
全国 6.0
6.5 6.5
5.6
5
0
北
海
道
東
北
関
東
7.2
①
北
陸
②
東
海
41.4
35.1
30.8
6.8 6.7
27.9
38.8
38.6
34.2 32.2
25.5
5.0
4.8 4.5 4.6
③
甲
信
越
48.2
全国 37.9
44.0
40
20
0
近
畿
中
国
四
国
九
州
北
海
道
沖
縄
(参考)障害者率(2005年)
(%)
8
③
東
北
関
東
②
甲
信
越
①
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
3
5.8
2.0 2.1
5.4 5.6 5.5
4.6 4.7
4.6
4
4.8
4.6
3.3
北
海
道
③
甲
信
越
北
陸
②
東
海
③
近
畿
0
中
国
四
国
九
州
沖
縄
(注)指標の定義は参考図表3の通り。
地域名上にある囲み数字は数字が小さい(持ち家率は大きい)順(3位まで)。
多重共線性から説明変数として有意でなかった障害者率と離婚率も参考に加えた。
参考図表3
(次ページ)のデータをもとに共立総合研究所作成
KR I REPORT2007
2.1
1.9
2.1 2.1
2.7
全国 2.0
0
①
関
東
1.7 1.6
1.9
1
全国 4.3
③
東
北
2
3.8
2
20
沖
縄
(参考)離婚率(2005年)
(件/千人)
2.4
6
①
沖
縄
北
海
道
東
北
関
東
②
甲
信
越
①
北
陸
③
東
海
近
畿
③
中
国
四
国
九
州
沖
縄
参考2 生活保護率の重回帰分析
(1)使用データ:参考図表3にある6指標の都道府県データ
参考図表3 分析に用いたデータ
指 標
被説明変数
説明変数
定 義
データ出典
年 次
生活保護率
被保護実人員/人口(人/千人)
厚生労働省「福祉行政報告例」
2005年度
高齢者のみ世帯率
65歳以上の者のみの世帯/一般世帯(%)
総務省「国勢調査」
2005年
障害者率
(身体障害者手帳台帳登載者+療育手帳台帳
登載者)/人口(%)
厚生労働省「福祉行政報告例」
2005年度
完全失業率
完全失業者/労働力人口(%)
総務省「国勢調査」
2005年
非持ち家率
非持ち家世帯/住宅に住む一般世帯(%)
総務省「国勢調査」
2005年
離婚率
離婚件数/人口(人/千人)
厚生労働省「人口動態統計」
2005年
・説明変数間では、障害者率と高齢者のみ世帯
(2)指標間の相関:参考図表4
・被説明変数と各説明変数との間には相関が
率、離婚率と完全失業率および非持ち家率な
みられる。(障害者率は5%有意、他の指標は
どに相関がみられることから多重共線性(*)が
1%有意)
疑われる。
参考図表4 指標間の相関行列
(上段:相関係数、下段:有意確率)
生活保護率
生活保護率
高齢者のみ世帯率
障害者率
完全失業率
非持ち家率
離婚率
1
0.449
0.002
0.334
0.021
0.662
0.000
0.630
0.000
0.645
0.000
**
*
**
**
**
高齢者のみ世帯率
0.449 **
0.002
1
0.845 **
0.000
0.159
0.287
-0.016
0.912
0.121
0.417
障害者率
完全失業率
0.334 *
0.021
0.845 **
0.000
1
0.155
0.298
-0.153
0.304
-0.001
0.995
0.662 **
0.000
0.159
0.287
0.155
0.298
1
0.488 **
0.000
0.761 **
0.000
非持ち家率
離婚率
0.630 **
0.000
-0.016
0.912
-0.153
0.304
0.488 **
0.000
1
0.645 **
0.000
0.121
0.417
-0.001
0.995
0.761 **
0.000
0.720 **
0.000
1
0.720 **
0.000
(注)**は1%水準、*は5%水準で有意。
出所:共立総合研究所作成
(3)分析結果:参考図表5
参考図表5 重回帰分析結果
y : 被説明変数(生活保護率)
・5つの説明変数で重回帰分析を行ったところ、
説明変数
(=人口千人あたり生活保護被保護人員)
偏回帰係数
t値
P値
a : 高齢者のみ世帯率
0.708
4.76
0.000
b : 完全失業率
1.602
3.96
0.000
これらを説明変数から除き、残る3指標で分
c : 非持ち家率
0.381
4.80
0.000
析した。
切片
-23.948
-6.98
0.000
「障害者率」と「離婚率」について有意でな
かったため(それぞれp 値は0 . 8 6 9 と0 . 7 3 8 )、
観測数
自由度修正済決定係数(adj-R2)
(*)多重共線性とは,重回帰分析の説明変数間に強い相
関が存在することで、この場合には分析で得られた回帰
式に信頼が置けなくなる。
47
0.693
(注)a、b、c、切片は1%水準で有意。
adj-R2は回帰式の当てはまりの良さを表す(完全一致すると1)。
出所:共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
21
それでは、貧困が多い地域と少ない地域はどの
上の者のみからなる世帯の割合・%)、
「障害者率」
ような要因で決まるのだろう。ここでは、貧困指
(人口に対する身体障害者手帳・療育手帳交付台
標の代表である「生活保護率」の地域格差が生じ
(注7)、
帳登載者の割合・%)
「離婚率」
(人口千人
る理由について考えてみたい。
生活保護を受けている世帯の世帯類型をみる
と、「高齢者世帯」(43.5 %)、「傷病・障害者世
図表7 地域別「65歳以上の高齢者がいる世帯の世帯構造」
005年)
(%) (2
100
帯」(37.5%)、「母子世帯」(8.7%)で全体の
9割を占めている(図表3)。そして、生活保護
を受けている世帯の割合(千世帯あたりの被保
80
全国の2世代・3世代同居率 49.1%
60
護世帯数)は、母子世帯(131.0 世帯)や高齢者
世帯(54.1 世帯)が、全世帯の平均(22.1 世
28.2
30.4
0
無なども、貧困の地域格差に影響を与えると考
そこで、「生活保護率」を被説明変数(y)とし、
「高齢者のみ世帯率」(一般世帯に占める65歳以
図表6 65歳以上人口の割合(2005年)
(%)
25
26.0 26.3 26.0 37.3
17.6
北
海
道
東
北
関
東
3世代同居
甲
信
越
北
陸
東
海
2世代同居
16.5 20.8 18.7 18.4 16.1
近
畿
中
国
四
国
夫婦のみ
九
州
沖
縄
一人暮らし
(注)
2世代同居には「夫婦とその兄弟」のように同一世代だけからなる親族
世帯を含む。
3世代同居には4世代以上あるいは親、世帯主、孫というように連続しな
い3世代が同居する場合を含む。
出所:総務省「国勢調査」(2005年)をもとに共立総合研究所作成
図表8 出生地域別「地元居住率」
(2001年)
(%)
100
23.5
23.1
32.1 34.7 27.8
34.1
12.2
場合に生活の支えとなる貯蓄残高や持ち家の有
えられる。
26.6
25.1
20
を受ける世帯の割合が高いと推定できる。また、
この他に、地域の雇用環境や、所得が減少した
27.2
40
(注6)。このため、
帯)に比べて断然高い(図表4)
高齢者世帯や母子世帯が多い地域は、生活保護
28.5 26.3
22.9 24.3
22.3
22.2
80
19.1 19.4
20
88.8
87.9
21.4
79.2
82.1
81.6
81.2
77.1
76.4
17.8
74.2
全国 78.7
全国 201
.
16.1
60
15
40
10
20
0
5
0
北
海
道
東
北
関
東
甲
信
越
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
出所:総務省「国勢調査」(2005年)をもとに共立総合研究所作成
22
KR I REPORT2007
沖
縄
北
海
道
東
北
関
東
中東
部海
・除
北く
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
・
沖
縄
(注)ある地域で生まれた人のうち何%が同じ地域に住んでいるかを表す。
ここでの東海は、愛知、岐阜、三重の三県。
出所:国立社会保障・人口問題研究所「人口移動調査」(2001年)をもとに共
立総合研究所作成
あたりの離婚件数・件)、
「完全失業率」
( %)、「非
低いと、高齢者のみ世帯の割合が低くなるのは当
持ち家率」
(%)の5つを説明変数として重回帰分
然である。もう一つは、東海地方の高齢者は子や
析を試みた(詳細は【参考2】を参照)。その結
孫と同居する割合が比較的高いことである。2世
果 、 生 活 保 護 率 は 、「 高 齢 者 の み 世 帯 率 : a 」、
「完全失業率:b」、「非持ち家率:c」の3つの変
図表9 生活保護率、完全失業率、
65歳以上人口比率の推移
(最近20年間)
という回帰式が得られた(注8)。また、図表5は各
12
変数の地域別データであるが、生活保護率が低い
東海地方は、3つの説明変数すべてが全国平均を
下回っている。すなわち、東海地方に貧困が少な
いのは、高齢者のみ世帯が少なく(=2世代、3
世代同居が多く)、雇用に恵まれ、持ち家が多い
ことの3点が大きな要因とみることができる。
(2)東海地方に「高齢者のみ世帯」が
少ない理由
それでは、東海地方にはなぜ「高齢者のみ世帯」
25
14
数との間に、y=0.708a+1.602b+03
. 81c−23.948
20
︵
人
口
千
人
あ
た
り
生
活
保
護
被
保
護
人
員
・
人
︶
65歳以上人口比率(右軸)
10
65
歳
以
15 上
人
口
比
率
・
完
10 全
失
業
率
︵
%
5︶
8
生
活
保
護 6
率
生活保護率(左軸)
4
2
完全失業率(右軸)
が少ないのであろうか。それには2つの理由を挙
0
0
198788899091929394959697989900010203040506
(年度)
げることができる。
一つは、東海地方は人口に占める高齢者の割合
が低いことである(図表6)。高齢者人口の割合が
(注)
2006年度の生活保護率は見込値。
出所:厚生労働省「福祉行政報告例」、総務省「労働力調査」
「人口推計」を
もとに共立総合研究所作成
図表10 非正規雇用者の数とその割合の変化
40
6,000
非正規雇用者の割合(右軸)
32.6
5,000
33.7 35
30
正
規 4,000
・
非
正
規
20.2
雇 3,000
用
者
数
3,488
︵
万
人 2,000
︶
26.1
20.9
3,374
3,663
3,779
非
正
25 規
雇
3,393
用
20 者
の
割
合
15 ︵
%
︶
10
1,000
881
1,001
1,293
1,633
1,726
5
0
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
(年)
非正規雇用者
正規雇用者
(注)
2007年は1∼3月平均。
非正規雇用者の割合は、役員を除く雇用者に占める非正規雇用者の割合。
出所:総務省「労働力調査」
(2001年までは労働力調査特別調査)をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
23
図表11 主な産業の非正規雇用者比率(2004年)
代 同 居 や3 世 代 同 居 は核 家 族 化 が進 む大 都 市
73%
飲食店,
宿泊業
圏より地方に多いと考えがちだが、必ずしもそう
いうわけではない(図表7)。2世代・3世代同
教育,
学習支援業
51%
卸売・小売業
居率が最も低いのは北海道(37.3%)で、九州
(44.4%)
、四国(45.0%)
、中国(46.8%)も
49%
全国平均以下である。これに対して東海(55.0%)
サービス業
(他に分類されないもの)
42%
非製造業全体
(農林漁業を除く)
41%
は高い方から4番目で、全国平均(49.1%)を上
回っている。
それでは、東海地方は高齢者の子や孫との同居
医療,
福祉
33%
不動産業
率がなぜ高いのであろうか。その最も大きな理由
に「人口流動性の低さ」、別の表現をすれば「地
30%
製造業
元志向の強さ」があると考えられる。図表8は、
24%
国立社会保障・人口問題研究所の「人口移動調
運輸業
23%
建設業
22%
金融・保険・不動産
21%
査」(2001年)をもとに、全国を9地域(注9)に
分けて、「それぞれの地域で生まれた人が現在も同
じ地域に居住している割合」(地元居住率)を比
情報通信業
較したものである、これをみると、東海地方は地
元居住率が全国で最も高く、東海地方で生まれた
18%
人のほぼ9割が今も東海地方に住んでいる。
(注)非正規雇用者比率=(非正社員・非正職員+臨時雇用者)/雇用者
出所:総務省「事業所企業統計調査」
(2004年)をもとに共立総合研究所作成
これは、東海地方では子供が就職や結婚をして
図表12 47都道府県の「第三次産業就業率」および「製造業就業率」と「生活保護率」の関係(2005年)
第三次産業就業率との関係
20
生
活
保 15
護
率
︵
人
/
千
人 10
︶
製造業就業率との関係
(N=47)
25
(N=47)
25
y=0.792x − 41.539
(6.02) (−4.86)
R2 = 0.446
20
生
活
保 15
護
率
︵
人
/
千
人 10
︶
5
5
y=0.724x + 22.354
(−5.95) (10.17)
R2 = 0.440
0
50
60
70
第三次産業就業率(%)
80
0
0
(注)回帰式の( )はt値。
出所:総務省「国勢調査」
(2005年)
、厚生労働省「福祉行政報告例」
(2005年度)をもとに共立総合研究所作成
24
KR I REPORT2007
10
20
製造業就業率(%)
30
も親と同居や近居をして、地元を離れないことを
確かに、雇用者全体に占める非正規雇用者の割
意味している。この背景には、東海地方の家族・
合は、全般にサービス産業(非製造業)で高い
親族関係を重視する風土や(注 10)、温和な気候、
(図表11)。非正規雇用者の所得はフルタイムで
適度な都市規模による暮らしやすさ、恵まれた雇
働く場合でも正規雇用者の半分程度であるため、
用環境などがあるとみられる。
サービス産業で働く人の割合が高くなれば、それ
東海地方の地域特性ともいうべき「地元志向」
だけ低所得者の割合も高くなると考えられる(注 13)。
は、消極的、閉鎖的、進取独立の精神に欠けるな
こうした考えを裏付けるように、実際のところ、
ど、東海地方の弱点といわれる部分の根底にあり、
わが国では、第三次産業就業者の割合が高い都
どちらかというと批判の対象とされることが多い。
道府県ほど生活保護率が高く、製造業就業率の
その反面で、こうした地元志向が東海地方の高齢
割合が高い都道府県ほど生活保護率が低い傾向
者世帯の貧困化を抑制している面もあることは否
(注 1 4 )。製造業に強みを
がみられる(図表12)
定できない。
持つ東海地方は、当然製造業で働く人の割合も
(3)製造業の強さが貧困を抑制する
すでにみたように、現在の各都道府県の生活保
護率は、高齢者のみ世帯率、完全失業率、非持
高いことから(図表13)、この点も東海地方に
貧困が少ない理由の一つに挙げることができる。
(4)
「貯蓄好き・借金嫌い」な地域性が
貧困を遠ざける
ち家率を変数とする回帰式によってかなり説明で
きる。しかし、この式では、人口の高齢化で高齢
また、東海地方は金銭面に関して堅実な地域性
者のみ世帯が増加したことを考慮しても、2002 年
があるといわれているが、こうした地域性もこの
以降に失業率が低下したにもかかわらず、わが国
地方の貧困の少なさに関係している。
の生活保護率が上昇を続けていることをうまく説
明できない(図表9)。
この点に関して、最近の貧困の増加は、サービ
ス産業の拡大(いわゆる「経済のサービス化」)と、
東海地方の「貯蓄好き、借金嫌い」な地域性
はさまざまなアンケート調査などに表れている。そ
図表13 地域別「製造業就業比率」
(2005年)
(%)
30
その結果としての「非正規雇用の増加」が影響し
ているという見方がある。わが国の非正規雇用者
26.0
25
は1990年代半ばから一貫して増え続けている
(図表10)。サービス産業には、弁護士や公認会
22.2
20.8
20
ある一方で、小売・飲食・物流・配送・介護な
全国 17.3
18.7
計士など高度な専門性を持ち、所得が高い職業が
17.5
16.1 16.0
14.6
15
ど非熟練者でも比較的容易に働くことができる労
働集約的な職業も多い。後者のような職業では、
12.3
10
時間や曜日、季節などによって繁閑差があり、ま
た人件費の抑制が収益に直結するため、賃金が低
8.4
4.9
5
いパートや契約社員などの非正規雇用が増える傾
向がある。このため経済のサービス化が進むと非
正規雇用者も増えて、その結果、社会全体の貧困
が拡大するといわれている(注11・注12)。
0
北
海
道
東
北
関
東
甲
信
越
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
沖
縄
出所:総務省「国勢調査」
(2005年)をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
25
うした調査の一つとして、株式会社ジェーシー
ビーが行った「クレジットカードに関する総合調
査」(2006 年度)を例にみてみると、「お金を借
4.楽観できない東海地方の
貧困問題の行方
りることについて罪悪感があるので絶対に借りた
前章では東海地方に貧困が少ない要因について
くない」という質問に「そう思う」と答えた割合
探ってきたが、東海地方に貧困が少ないのは、「景
は、東海地方が、北海道、関東、近畿、九州を
気がいい」からではなく、そこにはこの地方の世
加えた5地域の中で最も高い。同様に、「欲しい
帯構造や産業構造の特徴、人々の気質などが深く
ものがあってもお金が貯まるまで我慢するほうだ」
関わっており、中でも、地元志向の強さや、製造
との質問でも、
「そう思う」とする割合は東海地方が
業が盛んな反面サービス業が弱いなど、この地方
最も高い(図表14)
。こうした堅実な地域性を反映
の地域特性の中に、実は貧困を抑えるカギがある
して、総務省の「全国消費実態調査」による世帯あ
ことがわかった。しかし、今後は東海地方でも、
たりの平均貯蓄額や純貯蓄額(=貯蓄−負債)は、
貧困問題を楽観視できないいくつかの理由が考え
東海地方が全国で最も多い(図表15)
。
られる。
貯蓄好きで借金嫌いという地域性や、それによ
(1)他地域以上の速さで増える
「高齢者のみ世帯」
る世帯貯蓄の多さは、生活保護率の重回帰分析で
取り上げた「持ち家率」の高さ(=非持ち家率の
第1の理由は、この先わが国全体で人口の高
低さ)と同じように、自身や家族・親族が低所得
齢化が進んでいくと、東海地方でも、貧困に陥
になった際、貧困に陥るのを防ぐ“クッション”
る危険が高い「高齢者のみ世帯」が増えると予
の役割を果たしているとみられる。
想 されることである。 図表16は、国立社会保
図表14 地域別「お金に対する意識」
「お金を借りることについて罪悪感があるので絶対に借
りたくない」→ 「そう思う」と答えた割合
「欲しいものがあってもお金が貯まるまで我慢するほうだ」
→ 「そう思う」と答えた割合
(%)
40
(%)
60
35.5
52.6
50
49.7
47.3
46.7
46.4
29.6
30
全国 47.9
28.0
25.9
40
25.9
全国 27.6
30
20
20
10
10
0
北
海
道
関
東
東
海
近
畿
九
州
0
(注)地域表記は本稿全体で統一するため、出所の表記とは異なる(例:首都圏→関東)
出所:株式会社ジェーシービー「クレジットカードに関する総合調査」
(2006年度版)
26
KR I REPORT2007
北
海
道
関
東
東
海
近
畿
九
州
障 ・ 人 口 問 題 研 究 所 の推 計 をもとに2005年
が65.8 % 増 えると予 想 されているが、 これは、
から2025年までの高齢者のみ世帯の増加率を
沖縄(76.1% )
、関東(67.6 % )に次いで全国
地 域 比 較 したものである( 注15)。 東 海 地 方 では
で3番目に高い増加率である(全国では50.1% )。
2005年から2025年までの間に高齢者のみ世帯
つまり、この先東海地方では他地域以上の速さ
図表15 地域別「世帯貯蓄・負債残高」
(2004年)
(万円)
1,500
1,000
757
731
貯
蓄
720
618
482
464
500
379
379
364
純貯蓄額
(貯蓄−負債)
0
-184
負
債 500
1,000
東
海
四
国
北
陸
中
国
近
畿
関
東
九
州
北
海
道
東
北
沖
縄
(注)
2人以上の勤労者世帯のデータ。
地域区分については、新潟は北陸、山梨、長野は関東に含まれる。
左から純貯蓄額が多い順。
出所:総務省「全国消費実態調査」
(2004年)をもとに共立総合研究所作成
図表16 地域別「高齢者のみ世帯増加率」
(2005年→2025年)
(%)
80
(%)
35
(参考)
2025年高齢者のみ世帯率(右軸)
65.8
67.6
70
30
25.1
60
25
50
45.3
50.2
40
76.1
44.6
51.7
15.6
36.0
20
(参考)
2005年高齢者のみ世帯率
(右軸)
31.0
30
33.3
15
28.6
2005→2025年の
高齢者のみ世帯増加率
(棒グラフ・左軸)
20
10
5
10
0
北
海
道
東
北
関
東
甲
信
越
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
沖
縄
0
(注)高齢者世帯は、世帯主が65歳以上の単独世帯、および世帯主が65歳以上の夫婦のみ世帯の合計で、世帯主の配偶者が65歳未満の世帯を含む点で図表7より
範囲が広い。 出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)」
(2005年8月推計)をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
27
で高齢者のみ世帯が増えるわけで、これまで東
る(図表18)。域外からの転入者は、経済的に貧
海 地 方 の貧 困 拡 大 を抑 えてきた重 要 な地 域 的
しくなった場合に、親兄弟などの支援を受けにく
特徴の一つが失われることになる。
い面がある。最近東海地方には、自動車関連企業
(2)人口流動性の上昇で
家族・親族間の扶助機能が低下
の期間従業員や派遣社員として、沖縄や北海道な
どから多くの人が流入している。ただ、新聞等の
第2の理由は、今後東海地方では、人口流動
報道によると、彼らの中には待遇に恵まれず、些
性の上昇によって、家族間、親族間の扶助機能が
細なきっかけで貧困化する恐れのある人も少なく
低下するとみられることである。
ないといわれている(注16)。
図表17は、1976年以降の三大都市圏の人口
また、2006年には、東海地方から域外への転
流動性(人口千人あたりの圏外からの転入者と圏
出者についても、前年比で5年ぶりに増加した。
外への転出者の合計)を表している。少子化によ
今後、転出者の増加傾向が定着するかどうかはわ
る若年人口減少などの影響で、三大都市圏では基
からないが、仮にそうなれば、地元志向が強い東
本的に人口流動性は低下する傾向にあった。とこ
海地方でも親との同居・近居率が低下し、高齢者
ろが東海地方に限っては、2004 年を境に人口流
のみ世帯の割合を高めることとなる。このように、
動性が反転、上昇している。
人口流動性の上昇は、転入増、転出増のいずれの
こうした東海地方での人口流動性の上昇は、域
外から東海地方への転入者の増加が主な要因であ
図表17 三大都市圏の「人口流動性」
(人口千人あたり圏外からの転入者+圏外への転出者・1976年以降)
(人/千人)
50
場合も家族・親族間の扶助機能を低下させ、貧困
の増加要因になると考えられる。
図表18 東海地方の人口千人あたり「域外からの転入者数」と
「域外への転出者数」
(人/千人)
20
18
関東
転出
40
近畿
16
転入
30
14
東海
2003年を
底に上昇
東海地方だけ人口流動性が反転上昇
20
197678 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06
(年)
(注)
(域外からの転入者+域外への転出者)/人口(千人)
ここでの地域の範囲は次の通り。
関東:東京、神奈川、千葉、埼玉
近畿:大阪、兵庫、京都、奈良
東海:愛知、岐阜、三重
出所:総務省「住民基本台帳人口移動報告年報」をもとに共立総合研究所作成
28
KR I REPORT2007
12
06年は上昇
(今後定着?)
10
197678 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06
(年)
出所:総務省「住民基本台帳人口移動報告年報」をもとに共立総合研究所作成
図表20 全国と東海の「第三次産業就業率」
(3)“製造業王国”でも進む
(%)
80
「経済のサービス化」
第3の理由は、“製造業王国”といわれる東海
地方においても、経済のサービス化が着実に進ん
全国
第三次産業就業率
67.2
64.5
でいることである。
61.8
東海地方は、近年、自動車産業をはじめとし
60
59.0
57.3
55.4
60.7
58.4
て輸出型製造業が好調なことから、全国的な傾
56.1
向とは異なり、域内総生産に占める第三次産業
53.0
51.7
50.6
東海
比率の上昇が収まっている(図表19)。しかし、
就業面からみてみると、東海地方の第三次産業就
40
東海
業率は、全国と同様に右肩上がりの上昇が続いて
いる(図表20)。
東海地方で第三次産業就業率が上昇しているの
20
は、製造業で余剰となった雇用が第三次産業へと
(参考)
製造業就業率
シフトしているためではない。むしろ、東海地方
全国
は製造業の人手不足が深刻で、待遇の良さや安定
性から人気の高いトヨタグループでさえ地元だけ
0
1980
図表19 域内総生産(GDP)に占める第三次産業比率
(%)
80
1985
1990
1995
2000
2005(年)
(注)
1995年以前は旧産業分類による。
出所:総務省「国勢調査」をもとに共立総合研究所作成
図表21 ブラジル人世帯、中国人世帯の世帯年収階層別構成比
6.7% 3.7%
300万円未満:
62.2%
75
73.1
71.0
ブラジル
(N=135) 14.8%
16.3%
31.1%
27.4%
70
65.6
全国
65
62.7
61.5
60.9
61.1
中国
(N=42)
60
52.4%
33.3%
4.8% 9.5%
56.7
東海
300万円未満:
90.5%
55
53.2
100万円未満
200∼300万円未満
500∼700万円未満
51.9
50
1985
1990
1995
2000
(年度)
2004
(注)名目ベース。
出所:内閣府経済社会総合研究所「県民経済計算年報」をもとに共立総合
研究所作成
100∼200万円未満
300∼500万円未満
700万円以上
(注)世帯年収は税込み。ブラジル人世帯の大半が就労制限のない、在留資
格が「定住者」である日系人世帯とみられる。
出所:岐阜県国際交流センター「岐阜県における多文化共生の推進に向けて」
(2005年)をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
29
では人材を確保できず、北海道や九州あたりでも
外国人世帯は全国消費実態調査や家計調査の
募集を行っている。“製造業王国”といわれる東
調査対象から除外されており、国の統計調査では
海地方でも、地元の働き手は製造業離れしつつあ
外国人世帯の経済状況を捉えることはできない。
り、こうした傾向は恐らく製造業の景気の良し悪
また、外国人が経済的に困窮状況に陥っても、生
しとは関係なく今後も進んでいくと思われる。
活保護を受けるには制度上、あるいはその他の有
すでにみたように、第三次産業就業率(および
形無形のハードルがあり、生活保護率のように貧
製造業就業率)と生活保護率との間には相関があ
困が目に見える形としては現れにくい(注18)。こ
ることから(前掲図表12)、東海地方でも経済の
のように、外国人の貧困についてはその実態を捉
サービス化(第三次産業就業率の上昇)が進んで
えることは難しい。従って、東海地方の場合には、
いくとサービス業分野で低賃金の非正規雇用者が
貧困問題が外国人労働者問題に形が変えて、人々
増加し、その結果、この地方の貧困拡大につなが
の目の届かないところで静かに進行する恐れがあ
る可能性がある。
る点に注意する必要がある。
(4)外国人労働者の多さが
貧困問題を見えにくくする
最後に挙げる理由は、東海地方には単純労働に
図表22 地域別「人口千人あたりの単純労働外国人」
(2006年)
と「生活保護率」
(2005年)
(人/千人)
25
従事する外国人が多いために、貧困問題が単純労
働外国人の問題に形を変えて、貧困問題自体が見
えにくくなっていることである。
(再掲)生活保護率
(人口千人あたり
被保護実人員)
20
単純労働外国人世帯は総じて所得が低く、ブ
ラジル人世帯(日系人が大半)の6割、中国人世
帯の9割が年収300万円未満である(図表21)。
15
一般に単純労働外国人は派遣や請負(日系人の
場合)という雇用形態を取るために地位が不安定
単純労働
外国人計
10.0
で、派遣・請負先の業績が悪化した場合には職
を失い、一気に貧困に陥る恐れがある(なお中
10
日系外国人
(定住者)
国人に多い「研修・技能実習生」については雇用
の不安定さ以外にも多くの問題がある。詳しくは
【参考3】を参照)。
3.1
図表22は、人口千人あたりの「単純労働外国
る。東海地方は、人口あたりの単純労働外国人が
全国でも群を抜いて多い。また、同じ人口千人あた
りで比べると、ほとんどの地域では生活保護を受け
ている人より単純労働外国人の方が少ないが、東
海地方は単純労働外国人(10.0 人)が生活保護を
受けている人(5.3人)の2倍近くに上っている。
30
KR I REPORT2007
3.1 3.0
2.2
人数」(注17)と「生活保護率」(人口千人あたりの
生活保護被保護実人員)を地域比較したものであ
研修・技能実習生
(研修+特定活動)
4.6 5.1
5
0.8
0
北
海
道
1.4
東
北
1.1
関
東
甲
信
越
北
陸
東
海
近
畿
中
国
四
国
九
州
0.7
沖
縄
(注)
( )内の定住者、研修、特定活動は該当する外国人の在留資格。
「定住
者」はいわゆる日系外国人で、就労の制限がないために大半が単純労
働に従事する。研修・技能実習は、在留資格が「研修」または「特定活動」
である外国人。なお、在留資格が「特定活動」の外国人には、技能実習
以外に外交官等の家事使用人、ワーキングホリデー、アマチュアスポー
ツ選手などが若干数含まれる。
出所:法務省入国管理局「在留外国人統計」
(2006年12月末現在)、厚生労働
省「福祉行政報告例」(2005年)をもとに共立総合研究所作成
参考3 貧困と隣り合わせの外国人研修・技能実習生
外国人労働者の中でも特に貧困化が懸念されるの
研修・技能実習制度に関しては、技術移転と
が、中国人を中心とした「研修生」や「技能実習
いう本来の目的が形骸化しており、企業が低廉
生」である。研修・技能実習制度は、発展途上国
な労働力を確保する手段に変質しているといわれ
への技術移転を目的として1993年に創設された制
いる。研修生、技能実習生の所得は極めて低く
度で、この制度の下では1年間の「研修」
(在留資 (参考図表7)、特に1年目の「研修」期間中は、
格は「研修」
)と2年間の「技能実習」
(在留資格
技能を学ぶ期間という位置から労働法令が適用
(*)
は「特定活動」
)の最長計3年間、外国人が日
されないこともあって、最低賃金を大幅に下回る
本企業で働きながら学ぶことができる。
手当で“働かされる”例もみられる(**)。
ここ数年で、研修・技能実習生は急激に増加
している(参考図表6)。研修・技能実習生は
(*)
「特定活動」には技能実習以外に外交官等の家事使用
人、ワーキングホリデー、アマチュアスポーツ選手などが若
前に比べると約2倍に増えており、日本で永住可 干数含まれる。
能な在留資格の外国人(主に在日韓国・朝鮮 (**)新聞等によると、研修中、管理費として2万∼2万5千
円を研修手当から不正に控除する、研修生に時間給100円
人)以外では、日系ブラジル人などの「定住者」 で残業させる、技能実習生を最低賃金未満の月額6万円で
働かせるなどの悪質な事例が報道されている。
(約27万人)に次いで数が多い。
2006年末現在16.8万人であるが、これは4年
参考図表6 主な在留資格別の外国人数(全国)
参考図表7 研修生研修手当および技能実習生賃金(2005年度)
(万人)
(万円/月)
18
30
定住者
26.9
16
15.3
25
14
11.8
12
20
16.8
研修+特定活動
15
13.0
11.8
10
8
6.6
6
10
留学
4
5
2
0
研修生研修手当 技能実習生賃金
最低賃金
高卒初任給
0
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006(年)(注)研修生研修手当以外は基本給。
技能実習生賃金は当該年度技能実習移行申請者への支給予定賃金最
低賃金、高卒初任給は全国平均。
(注)
人数は各年12月末現在。
研修手当は賃金ではなく「生活する上で必要と認められる実費の支給」
在留資格が「特定活動」の外国人には、技能実習以外に外交官等の家事使人、
という位置づけで、額の基準はなく、法令上の支払い義務もない。
ワーキングホリデー、アマチュアスポーツ選手などが若干数含まれる。
出所:厚生労働省「研修・技能実習制度研究会資料」
をもとに共立総合研究所作成
出所:法務省入国管理局「在留外国人統計」をもとに共立総合研究所作成
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
31
5.
おわりに
ここ数年、全国では、格差や貧困が大きな問題
として取りざたされるようになった。これに対して、
同じ時期に東海地方は、経済の好調さと万博の開
催や中部国際空港の開港といった大型プロジェク
トのおかげで、「元気なナゴヤ」ともてはやされて
きた。こうした“ナゴヤ礼賛ムード”は、一時の
勢いこそなくなったものの、今日もなお続いてい
る。それゆえ東海地方では、格差の問題はともか
く、貧困の方は、まだまだ遠い存在と思われてい
る感がある。たが、本稿でみてきたように、ここ
東海地方においても、貧困問題は確実に大きな存
在になりつつある。
東海地方の貧困問題の行方は、地元志向、強
い製造業、堅実な風土など、この地方の地域性が
今後どうなるかによって大きく方向が左右される。
東海地方で貧困が拡大しないためには、この地方
が「ナゴヤ的」であり続けることが重要といえる
だろう。
また、東海地方では、貧困を外国人に“押しつけ
て”
、人々の目に触れないところへ追いやる危険性
も意識しておかなければならない。好調ナゴヤの中
の「貧しさ」は、
しっかり目を凝らさないと見えて
こない。
(注1)NHK 総合で2006 年7 月23 日放送。同番組の続編
として2006 年12 月10 日に「ワーキングプアⅡ∼努
力すれば抜け出せますか」が放送された。
(注2)マスメディアでは「貧困」という言葉は「格差」
とセットになって用いられることが多いが、この2
つの言葉の意味には大きな違いがある。格差とは
「上と下との差」であり、一般にそれが存在するこ
と自体は必ずしも否定されるものではない。今日
格差が問題になっているのは“下”
(貧困)が増え
ているためで、貧困がなければ格差はさほど問題
にはならないであろう。従って本稿では議論を貧
困に絞り、いわゆる格差の問題については取り上
げない。
32
KR I REPORT2007
(注3)岩波書店「広辞苑」(第五版)
(注4)本稿で世帯所得データに用いた総務省の「全国
消費実態調査」では、
「 現物」
(外部からのもらい
物,
自 家菜園の産物など)を収入に含めていないた
め、
こうした物的支援を多く受けても世帯所得は
増加しない。
(注5)生活保護については、申請を受け付ける市町村の
福祉事務所が様々な理由をつけて申請をさせない、
いわゆる「水際作戦」と呼ばれる窓口規制が行われ
ているといわれていて、こうした規制の程度が生活
保護率の地域差に影響を与えている可能性もある。
ここで貧困指標として生活保護率以外の3 指標を取
り上げたのは、生活保護率と他の指標との間に極端
な地域差がないことを確認するためで、実際、ホー
ムレス数以外の2 指標については、生活保護率と似
た地域的傾向がみてとれる。
(注6)傷病・障害者世帯についてはこうしたデータがない
が、恐らく高齢者世帯や母子世帯と同様に生活保
護を受ける世帯の割合は全世帯の平均よりかなり高
いと思われる。
(注7)療育手帳とは、知的障害者に対して都道府県(ま
たは政令指定都市)が発行する手帳。
(注8)
自由度修正済決定係数(adj-R2)=0.693
(注9)
ここでの地域区分は本稿全体の地域区分(図表1)
参照と若干異なる。
(注1
0)
こうした風土を直接示す統計はないが、結婚や住宅
取得時の親から子への援助の多さなどに表れている
と思われる。
(注11)例えば、厚生労働省の「海外労働白書」(1 9 9 7
年)は、アメリカにおける所得格差拡大と貧困増
加の要因の一つとして、「経済構造の変化によっ
て雇用が比較的高賃金業種である製造業から比較
的低賃金業種のサービス産業へ移行し、またパー
トタイム労働や派遣労働などの臨時雇用者の拡大
により賃金の不安定性が増した」と指摘している。
また、労働政策研究・研修機構「戦略的都市雇
用政策の課題に関する基礎的研究― 2 1 世紀の東
京の機能―」
( 2 0 0 5 )は、
「(近年の東京における)
産業のソフト化、サービス化は、専門サービス職
を増加させる一方で、非熟練の労務階層の増加を
もたらし、職業上の階層分極化は始まりつつある
状況だ」としている。
(注1
2)
メディアに取り上げられる「ワーキングプア」(有
職貧困者)の職業も、小売(コンビニ)、建設、福
祉・介護、運輸(タクシー)、配送など、労働集約
的な非製造業が多い。
内閣
(注1
3)
正規雇用と非正規雇用の賃金格差については、
( 20 06 年度)第3−1−5 図を
府「経済財政白書」
参照されたい。
(注1
4)
そうであれば、生活保護率の重回帰分析でなぜ「第
三次産業就業率」を説明変数としなかったか疑問
かもしれないが、これは、現在わが国では製造業が
盛んな(=製造業就業率が高い)都道府県ほど完
全失業率が低くなる傾向があるため、製造業就業
率と完全失業率が同様の傾向を示し、いわゆる多
重共線性が疑われることが理由である。
(注1
5)
ここでの高齢者のみ世帯は「世帯主が65 歳以上の
単独世帯と世帯主が65 歳以上の夫婦のみ世帯の合
計」であり、図表7より若干範囲が広い。
(注16)2007 年 9 月 2 日∼ 4 日付中日新聞連載記事「派遣
難民 沖縄⇔愛知」など。
(注1
7)
就労制限がない日系人の在留資格である「定住者」
と研修・技能実習生の在留資格である「研修」お
よび「特定活動」の合計。なお「特定活動」には
技能実習以外に外交官等の家事使用人、ワーキン
グホリデー、アマチュアスポーツ選手などが若干数
含まれる。
(注1
8)外国人の生活保護は法律上の権利として保障され
たものではない。ただ、在留資格が永住者・日本
人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者である
外国人については生活保護法が準用されているため、
単純労働外国人でも在留資格が定住者である日系
人は生活保護の対象となる。しかし、研修・技能
実習生については生活保護の対象とされていない。
また、生活保護の対象である日系人についても、言
葉の問題や生活保護制度に対する理解不足などか
ら、保護を受けられるにもかかわらず受けていない
ケースが多いとみられる。
参考文献
S.Sassen 著 森田桐郎他訳「労働と資本の国際移動」岩
波書店(1992)
橘木俊詔編「リスク社会を生きる」岩波書店(2004)
牛沢賢二、鈴木博夫“生活保護率の地域格差に関する研
究”産業能率大学紀要24 巻2 号(2004 年2 月)
下平好博「大阪における産業の空洞化と社会的リスクの
深化」生活経済政策研究所(2005)
岐阜県国際交流センター「岐阜県における多文化共生の
推進に向けて」(2005)
労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書 No.42
戦略的都市雇用政策の課題に関する基礎的研究― 21 世
紀の東京の機能」(2005)
厚生労働省社会・援護局「生活保護費及び児童扶養手当
に関する関係者協議会 共同作業における議論のまとめ」
(2005 年10 月19 日)
門倉貴史「ワーキングプア」宝島社新書(2006)
橘木俊詔「格差社会」岩波新書(2006)
論座2007 年1 月号“現代の貧困”朝日新聞社
湯浅誠「貧困襲来」山吹書店(2007)
(2007.9.25)
共立総合研究所調査部 江口 忍
好調ナゴヤの中にある「貧しさ」
33
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