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マラ工科大学 INTEC 高専予備教育コースにおける プログラミング教育
マラ工科大学 INTEC 高専予備教育コースにおける プログラミング教育 (長岡工業高等専門学校)○佐々木徹,青柳成俊,竹部啓輔, 池田富士雄,外山茂浩,衛藤俊彦 1.はじめに Educaion Centre, UiTM)におけるプログラミング教 育について報告する。 長岡高専では、全国の高専の中でも多数の留学 生が在籍している(近年では全学年で計 20 名程度) ことを生かし、平成 17 年度より実施している学生 海外派遣研修、平成 19~20 年度で実施した文科省 学生支援GPによる学生の国際性涵養を支援するた めの拠点「地球ラボ」の設立等、国際交流関連の 活動を活発に行なってきている1) 2)。 そして、平成 21 年度より高専機構特別研究経費 プロジェクト「アジア高等教育機関との交流およ び地域連携による人材育成」を実施している。図 1に本プロジェクトの全体像を示す。本プロジェ クトの目的は、マレーシア、べトナム、中国等の アジア高等教育機関との交流を通した、学生間お よび教員間の継続可能な双方向型協同連携教育プ ログラムの開発とその実践である。さらに、国際 交流に関する学内外組織の連携体制を構築して、 「国際異文化理解活動を取り入れた高専教育」に より、統合的な人材育成活動を行うことを主眼に おいている。 本論文では、本プロジェクトのメインプログラ ムの一つである、マラ工科大学 INTEC 高専予備教 育コース(Kumpulan Teknikal Jepun,International 2.マラ工科大学 INTEC 高専予備教育コ ース マラ工科大学INTEC高専予備教育コース(以下、 KTJとする)はマレーシア政府が国費留学生を全国 の国立高専の3年次に編入学させるための予備教 育機関である。留学生の派遣は、マレーシアの「東 方政策(Look East Policy)」の一環により、1983 年頃より行なわれている。最近では毎年 80 名程度 の留学生が全国の国立高専に編入学している。KTJ にはマレーシアの中等教育を修了し、マレーシア 人事院により選抜された学生が入学する。全2年 課程で予備教育が行なわれる。1年次には日本語 教育とマレー語および英語による数学・物理・化 学・英語教育が行なわれ、2年次には日本語によ る数学・物理・化学・英語教育が行なわれる。そ の後、1月中旬に実施される文部科学省試験に合 格した学生が全国の高専へ派遣される3)。 なお、KTJと長岡高専は、これまでに学生海外派 遣研修において、学生間交流、ものづくり研修等 様々な交流を行なっている1) 2)。 3.プログラミング教育実施の背景とそ の概要 近年、KTJ からの編入留学生が高専でのプログラ ミング系科目の修得に苦労しているという声が数 多く聞かれるようになってきている。その要因と して、KTJ の現在のカリキュラムにはプログラミ ング系の授業科目は設置されていないことが挙げ られる。また他の要因として、高専におけるプロ グラミング関連の授業は、2年次から3年次で行 なわれる場合が多く、3年次編入の留学生は途中 から参加する形になっていることが挙げられる。 図1「アジア高等教育機関との交流および地域連 携による人材育成」プロジェクトの全体像 1 そこで、KTJ は予備教育期間におけるプログラミ ング教育の開始を検討している。 これらを踏まえ、ここでは平成 22 年 1 月 17 日 ~22 日に KTJ を訪問し、KTJ との教員間交流によ り、 ・次年度以降も KTJ にて実施・継続可能な C 言語 プログラミング教材の開発と提供 ・KTJ において高専教員によるプログラミング教育 の実施 ・プログラミング教育に関する意見交換 を行った。 4.プログラミング教育 4.1 教育方針 対象学生は、平成 22 年4月より来日予定の2年 生(約 40 人×2クラス)である。現地で用意でき た期間は5日間と限られていることを踏まえ、プ ログラミング教育では、 ・プログラミングの概要(どのようなものなの か?何ができるのか?)を理解させる。 ・プログラミングに苦手意識を持たせず、4月 からの高専での学習の動機付けを行なう。 ことを重視する方針とし、 ・C 言語プログラミングの授業 ・ライントレースロボットの製作 ・ロボット制御競技会 を行った。 なお、現地でのスケジュールは以下のとおりで ある。 17 日 打合せ、見学 18 日 オリエンテーション、ロボット製作(2 時間) 、 授業【ガイダンス】(2時間) 19 日 授業【概要、入出力】(2時間×2クラス) 20 日 授業【演算、変数】(2時間×2クラス) 21 日 授業【分岐、繰返し】(2時間×2クラス) 22 日 ロボット制御競技会(4時間)、表彰式 4.2 プログラミング授業 教科書として、要点が簡潔にまとめられている 「やさしく学べる C 言語(森北出版)」と、口語調 で書かれ自学自習に適した「C 言語プログラムレッ スン入門編(ソフトバンクパブリッシング)」を各 85 冊(学生分 80 冊、教員分 5 冊)、提供した。 さらに、フリーコンパイラ、エディタおよびサ ンプルプログラムが入った USB ディスクと講義プ リントで構成される‘自学自習が可能なプログラ ミング教材’を開発し、配布した。 2 授業では、このプログラミング教材を活用し、 講義プリントに対応したサンプルプログラムを実 行したり修正したりする形で進めた。この教材に より、プログラムを実行するまでの時間を大幅に 短縮できた。今回のような時間の限られたプログ ラミング教育においては、このような教材を用い ることが適していると考えられる。なお、授業は 日本語により行った。 前述した方針を踏まえ、限られた時間の中でよ り効果を出すために、授業の内容は、ロボット制 御に必要な内容【分岐、繰返し】までとした。ま た、1人の教員が授業を進め、4人の教員が細か い操作説明や補助に入る形で授業を進めた。時間 帯によっては人手が足りない時もあったが、KTJ の先生方も協力してくれた。 4.3 ロボット製作と制御競技会 競技会に使用した教材は、自立型ロボット教材 『Cロボ』かたつむり(㈱イーエスピー企画)で ある。これを 36 個と工具等を提供した。 まず、初日に、高専ロボコン、日本のロボット 技術等について紹介し、興味を持たせた。そして、 2~3人1組でロボットを製作し、競技課題に取 り組む形で行った。課題は、授業で取り扱った内 容に対する‘応用プログラミング教材’として開 発し、以下のように設定した。 【課題1】ロボットを前進や回転させる『基本動 作』 (基本文法に関する演習) 【課題2】フォトセンサで黒線を検知したら停止 や旋回する『ライン検知』 (分岐、繰 返しに関する演習) 【課題3】複数の黒線を検知したら停止する『複 数のライン検知』 (分岐、繰返しおよ び変数に関する演習) このように授業で取り扱った内容の演習とし、 徐々に難易度を上げていくようにした。さらに、 各課題にフィールドを走破するチャレンジ課題も 設定した。図2に課題内容の詳細を示す。競技会 はこれらの課題の達成問題数を競う形で行なった。 成績上位のグループには、賞品を用意した。 表1に各課題の達成状況を示す。表中の数値は 各課題を達成できたグループの割合を表す。 データの転送法等の操作説明を2時間で行なっ た後に、上記の競技課題の作成の時間を2時間設 けた。事前の予想ではこの時間では、プログラミ ングを始めて学ぶ学生にとっては、 『ライン検知』 は難しい可能性があると考えていたが、表1に示 すように6割以上のグループがクリアしてくれた。 また、KTJ の学生達は、一生懸命に課題に取り組ん 表1 課題1 基本動作 各課題の達成状況 課題1 問2 問3 問4 問1 問5 問6 100% 100% 100% 100% 100% 89% 課題2 課題3 チャレンジ課題1 問7 問8 問9 71% 課題2 ライン検知 64% 4% 68% チャレンジ課題2 チャレンジ課題3 29% 0% チャレンジ課題1 課題3 複数のライン検知 チャレンジ課題 2 図2 チャレンジ課題 3 写真1 ロボット制御競技会の課題内容 プログラミング教育の様子 5.プログラミング教育の評価と効果 でくれて、その気迫に圧倒される場面もあった。 来年度、日本人学生を TA として参加させることが できれば、日本人学生にも教育効果が期待できる と考える。 写真1に、プログラミング教育(授業、ロボッ ト製作および制御競技会)の様子を示す。 5.1 KTJ の学生への評価アンケート 最終日に KTJ の学生に対して、図3中に示す内 容の評価アンケートを行った。 「Q1~Q3」では、肯定的な意見が8割以上であ 3 1.プログラムで何ができるか理解できましたか? 1.プログラムで何ができるか理解で きましたか? 2.プログラムの作成方法・実行方法を理解できました 2.プログラムの作成方法・実行方法 か? を理解できましたか? 0% 15% 3. プログラムによるロボットの動かし方を理解できまし 3.プログラムによるロボットの動かし たか? 方を理解できましたか? 0% 2% 17% 68% 理解できた 11% まあまあ理解 できた あまり理解で きなかった 理解できな かった 28% まあまあ理解 できた あまり理解で きなかった 理解できな かった 70% 4.授業の時間は適当でしたか? 6.高専でもっとプログラムを勉強したいですか? 4.高専でもっとプログラムを勉強し たいですか? 5.授業の時間は適当でしたか? 5.授業時間は適当でしたか? 0% 2% 8% 17% 勉強したい 13% 77% 理解できた 11% 理解できた あまり理解で きなかった 61% 理解できな かった 5.ロボット競技会の時間は適当でしたか? 6.ロボット競技会の時間は適当でしたか? 6.ロボット競技会の時間は適当で したか? 2% 適当だった まあまあ勉強 したい あまり勉強した くない 勉強したくない 図3 25% 43% まあまあ適当 だった 短かった まあまあ理解 できた 31% 32% 27% 適当だった まあまあ適当 だった 短かった 40% 長かった 長かった KTJ の学生への評価アンケート結果 った。ある程度の学生にプログラミングの概要の 理解してもらうことができたと言える。また、学 習の動機付けになったかどうかの確認のために聞 いた「Q4」では、9割が肯定的な意見だった。内 訳も「勉強したい」の学生が 77%となっており、 かなりの効果があったと考えられ、こちらにとっ ても嬉しい結果だった。 「Q5、Q6」では、授業およ び競技会の時間について聞いたが、半数以上が適 当であったとの意見であった。しかし、「短かっ た」という意見が 30%程度あった。この件は、来 年度少し工夫が必要なのかもしれない。 また、自由記述には、「来年度も後輩に行なって 欲しい」、「プログラミングに興味を持った」、「ロ ボットを動かすのは面白かった」、「実習時間を増 やして欲しい」等の意見がいくつもあった。 が、双方にとってプラスになると考える。 6.まとめと今後の課題・展望 KTJ との教員間交流により、C 言語プログラミン グ教材を開発し、KTJ にてプログラミング導入教育 (C 言語プログラミングの授業、ライントレースロ ボットの製作、ロボット制御競技会)を実施した。 アンケートおよび意見交換の結果、KTJ の学生と教 員および外部評価委員による評価は上々であり、 KTJ の学生にプログラミングの概要の理解と学習 の動機付けを行うことができたといえる。今後の 課題・展望として、以下の点が挙げられる。 1)高専編入後の追跡調査。 2)双方のいくつかの問題を解決し、日本人学 生を TA として参加させる。 3)今回開発したプログラミング教材を本校の 授業等でも活用。 4)KTJ 側の情報処理系の教員との連携し、KTJ のカリキュラムへの導入の検討。 5.2 意見交換会および外部評価委員会 現地での KTJ の教員との意見交換会および外部 評価委員会(平成 22 年 3 月 12 日実施)において、 ここでのプログラミング教育に対する評価・討論 が行われた。その中で、「留学前の高専教員による 授業の体験は、KTJ の学生にとって貴重な経験であ る」、「このような事業を今後も何らかの形で継続 したい」、「もう少し長期の授業はできないか?」、 「プログラミング以外の専門科目の実施は可能 か?」等の意見が挙がり、ここでの趣旨および結 果に関し一定の評価を得た。また、参加した本校 の教職員にとっても、留学生および現地教育の現 状理解や高専の教育内容の問題の発見等の点で非 常に有効であったことが確認された。今後、互い の様々な事情も踏まえ、さらに連携を深めること 参考文献 1) 長岡高専: 「長岡高専「地球ラボ」によるキャ ン パ ス の 国 際 化 最 終 報 告 書 」, 長 岡 高 専 (2009) 2) 青柳成俊他:「学生の海外研修と国際交流の推 進」,pp.631-635,高専教育第 33 号(2010) 3) KTJ INTEC UiTM:「マラ工科大学・国際教育セ ンター東方政策プログラム高専予備教育コー ス 概要」,pp.1-23,KTJ INTEC UiTM(2009) 4