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基礎研 レター - ニッセイ基礎研究所

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基礎研 レター - ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所
基礎研
レター
2016-03-15
【アジア・新興国】
タイの生命保険市場
斉藤 誠
(03)3512-1780 [email protected]
経済研究部 研究員
1―はじめに
タイ生命保険マーケットは、一貫した拡大傾向が
(図表1)
生命保険会社の正味収入保険料の推移
6,000
(億バーツ)
続いており、直近 10 年間で約 3 倍まで拡大している
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
4,500
険密度(国民 1 人当たり保険料,2014 年)を見ると、タ
3,500
イは 198 ドルと低水準に止まっている(図表 2)。
2,500
3,371
2,840
198
127
44
44
40
14
フィリピン
インド
インドネシア
ベトナム
度と生命会社を概観し、2014 年の販売動向につい
(500)
338
中国
500
マレーシア
れるタイの生命保険市場について、まず保険監督制
韓国
1,500
タイ
2,014
本稿では、このように中長期的な拡大が見込ま
て報告することとする。
5,071
シンガポール
べると依然として低い水準にある。また生命保険の保
生命保険の保険密度
1人当たり保険料
(USドル)
5,500
台湾
傾向にあるが、日本の生命保険の普及率 8.4%と比
(年次)
(資料)OIC
(図表 2)
香港
GDP 収入保険料比率,2014 年)は 4.1%と、近年上昇
2007
0
2006
超えている。従って、タイの生命保険の普及率(対
2005
1,000
2004
すると言われており、タイは 2011 年頃にこの水準を
2003
2,000
2002
が 5,000 米ドルを超えると生命保険が飛躍的に普及
2001
3,000
2000
の拡大による影響が大きい。一般に 1 人当たり GDP
1999
4,000
1997
市場拡大の要因としては、経済成長に伴う中間層
1998
5,000
(図表 1)。
(資料)Swiss Re, sigma No4/2015
2―生命保険監督
タイの保険業は、生命保険(Life Insurance)と損害保険に当たる非生命保険(Non-Life Insurance)に分けら
れる。保険委員会法(Insurance Commission Act, 2007 年)に基づき、財務省(Ministry of Finance)管轄下の
保険委員会(Office of Insurance Commission: OIC)が生命保険業と非生命保険業を監督している。
保険委員会は、保険に係る法規制の整備や保険会社に対する財務状況のチェック、生命保険エージョント
及び生命保険ブローカーに対する許可書の交付、さらには保険の普及や持続的な発展に向けて政策の策
1|
|ニッセイ基礎研レター 2016-03-15|Copyright ©2016 NLI Research Institute
All rights reserved
定などを行う。
主な規制を挙げると、まず保険市場の健全性を維持するため、わが国同様にタイにおいてもソルベンシー
規制を導入している。生命保険会社のソルベンシー・マージン比率の最低必要水準は 140%1(2013 年 1 月
以降)となっており、大手各社は 300%~500%超と基準を大きく上回る支払余力を有している。また保険
会社は経営危機に対処するために保険契約者保護基金を設け、さらに最低自己資本金額 5 億バーツ(約 16
億円)を維持しなければならないといった規制もある。
3―生命保険会社
タイの保険会社は、2015 年末時点で生命保険会
(図表 3)
タイ生命保険会社一覧
社 24 社(図表 3)、損害保険会社 62 社の合計 86
社が登録されている。
会社名
略称
収入保険料
シェア(%)
1 AIA Co., Ltd.
AIA
22.55
2 Muang Thai Life Assurance Public Co., Ltd.
MTL
15.01
3 Thai Life Insurance Public Co., Ltd.
TLI
12.58
4 Bangkok Life Assurance Public Co., Ltd.
BLA
10.33
5 Krungthai AXA Life Insurance Public Co., Ltd.
KTAL
9.74
6 SCB Life Assurance Public Co., Ltd.
SCB Life
9.70
7 Allianz Ayudhya Assurance Public Co., Ltd.
AZAY
5.33
8 Prudential Life Assurance (Thailand) Public Co., Ltd.
PLT
3.12
9 Ocean Life Insurance Public Co., Ltd.
OLIC
2.87
10 FWD Life Insurance Public Co., Ltd.
FWD
2.81
11 Southeast Life Insurance Public Co., Ltd.
SELIC
0.98
Life(明治安田生命が 15%出資)
、Bangkok Life(日
12 Dhipaya Life Assurance Public Co., Ltd.
DLA
0.86
13 Thai Cardif Life Assurance Public Co., Ltd.
TCLife
0.82
本生命が 24%出資)
、Krungthai AXA Life(フラ
14 Tokio Marine Life Insurance (Thailand) Public Co., Ltd.
TMLTH
0.69
15 ACE Life Assurance Public Co., Ltd.
ACE
0.66
16 Generali Life Assurance (Thailand) Public Co., Ltd.
GT
0.52
17 Thanachart Life Assurance Public Co., Ltd.
TLA
0.38
18 Thai Samsung Life Insurance Public Co., Ltd.
TSLI
0.31
19 Advance Life Assurance Public Co., Ltd.
ALife
0.25
20 Siam City Life Assurance Public Co., Ltd.
SCI Life
0.18
21 Phillip Life Assurance Public Co.,Ltd.
PLA
0.17
22 Manulife Insurance (Thailand) Public Co., Ltd.
MIT
0.10
23 Saha Life Insurance Public Co., Ltd.
SAHA
0.06
24 BUI Life Insurance Public Co., Ltd.
BUILife
0.01
タイの生命保険市場の収入保険料のシェア
(2014 年末時点)を見ると、上位 5 社が全体の 7
割、上位 10 社が全体の 9 割を占めている。また大
半の生命保険会社が外国資本との関係を持ってお
2
り、
上位 5 社を見ると香港系 AIA 、
Muang Thai Life
(ベルギー系保険会社 Ageas が約 31%出資)
、
Thai
ンス系保険会社 AXA が 45%出資)となっている。
このほか日系保険会社と資本関係がある生命保険
会社は、第一生命が 24%出資する Ocean Life、そ
して唯一の日系事業者である Tokio Marine Life
が存在する。
なお、タイにおいて保険業の外資出資規制比率
は上限が 25%であるが、当局の承認を得ることを
※収入保険料のシェアは2014年の数値を記載。
(資料)OIC
条件に上限を 49%までにすることができる。
4―2014 年のタイ生命保険市場
1|収入保険料
2014 年のタイ生命保険市場の収入保険料は前年比 14.7%増の 4,936 億バーツ(約 1.6 兆円)と、6 年連続
の二桁成長を記録したほか、前年の同 13.1%増を上回った(図表 1)。タイにおいて 2014 年は政治の混乱が
生じ、景気の低迷も続いた年となったが、生命保険市場への影響は見られていない。またスイス再保険会社
によると、インフレ調整後の 2014 年の生命保険料3はタイが前年比 11.6%増と、世界平均の同 4.3%増、新興
1
2
3
日本の最低必要水準は 200%であるが、算出方法が異なっているため一概に数値の比較はできない。
同社がタイに進出した 1938 年当時、外国資本に対する出資比率規制がなかったために単独出資となっている。
スイス再保険会社 Swiss Re,Sigma No4/2015
2|
|ニッセイ基礎研レター 2016-03-15|Copyright ©2016 NLI Research Institute
All rights reserved
国平均の同 6.9%増を大きく上回った。いかにタイの生命保険市場が急成長を遂げているかが分かる。
タイ生命保険市場の成長要因は、上述した中間層の拡大に加え、少子高齢化と公的社会保障制度の整
備の遅れを背景に政府が保険料控除枠を拡大し、民間保険への加入を推奨4していることが大きい。タイで
は所得税が高く5、国民の潜在的な節税需要は多いだけに、政府の保険料控除枠の設定は保険の普及に大
きな役割を果たしている。このほか、万一の時に家族に残す保障や退職後の備えといった一般的な理由も市
場拡大の要因として挙げられる。
しかし、近年はタイ経済の伸び悩み・金利低下傾向等もあり、更なる成長に向けてより一層各社の戦略(商
品開発など)が試されると考えられる。
2|保険種類別シェアの推移
保険種類別シェア(収入保険料ベース)を見る
と、2014 年は個人保険が全体の 83.7%と、前年か
(図表 4)
保険種類別シェアの推移(収入保険料ベース)
100%
90%
9.8%
10.8%
12.7%
10.6%
80%
ら 1.3%ポイント拡大した(図表 4)
。個人保険が
最大のシェアを占める構図は変化が見られない。
更に個人保険の商品別シェアを見ると、貯蓄性
の高い養老保険と保障性の高い終身保険でほぼ
100%を占めている。2014 年は、養老保険が全体
70%
その他
個人障害保険
60%
50%
84.2%
40%
簡易保険
83.6%
82.4%
83.7%
30%
団体保険
20%
10%
個人保険
0%
2011
2012
2013
2014
(年次)
(資料)OIC
の 74.9%と前年から 0.5%ポイント拡大する一方、 (図表 5)
終身保険が全体の 23.1%と前年から 0.3%ポイン
個人保険の商品別シェアの推移(収入保険料ベース)
100%
90%
ト縮小した(図表 5)
。
20.9%
80%
23.4%
23.4%
23.1%
70%
定期保険
60%
3|販売チャネル別シェアの推移
販売チャネル別シェア(収入保険料ベース)を
見ると、2014 年は最も大きい個人エージェントが
50%
40%
77.3%
74.8%
74.4%
74.9%
終身保険
30%
20%
養老保険
10%
0%
2011
全体の 52.0%を占めたものの、前年から 2.6%ポ
その他
2012
2013
2014
(年次)
(資料)OIC
(図表 6)
イント縮小した(図表 6)
。一方、銀行窓販は全体
販売チャネル別シェアの推移(収入保険料ベース)
100%
の 41.9%と、前年から 2.4%ポイント拡大してお
り、主力の販売チャネルに育っていることが分か
80%
る。なお、新契約保険料ベースで見ると、2014
年は銀行窓販が全体の約 6 割を占めている。
40%
出依存度の高かった銀行の収益源の多角化が進む
なか、2002 年に銀行窓販が解禁され、その後は一
31.4%
70%
60%
タイではアジア通貨危機(1997 年)を受けて貸
その他
90%
35.4%
38.5%
41.9%
代理店
50%
30%
直販
61.9%
57.8%
54.6%
20%
52.0%
10%
銀行窓販
エージェント
0%
2011
2012
2013
2014
(年次)
(資料)OIC
貫して銀行窓販のシェアが拡大し続けている。銀行が有する堅固な顧客ネットワークの活用や貯蓄機
保険加入を推奨するため、タイでは保険契約期間が 10 年以上の生命保険契約において死亡保障に対応する保険料部分が生命保険料控除を
受けられる。
5 タイの所得税の最高税率は 35%程度だが、所得控除が小さいために納税額は大きい。
4
3|
|ニッセイ基礎研レター 2016-03-15|Copyright ©2016 NLI Research Institute
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能を有する保険商品の販売が拡大したことが要因と考えられる。
4|会社別シェアの推移
会社別シェア(収入保険料ベース)を見ると、
2014年は最大手のAIAが全体の22.6%を占めたも
のの、
前年から 2.2%ポイント縮小した
(図表 7)
。
一方、Bangkok Life、Muang Thai Life、Krungthai
AXA Life がそれぞれ 1%超シェアを拡大させた。
(図表 7)
100%
80%
60%
タイ生保市場のプレイヤーを大きく2つに分け
40%
るとすれば、AIA、Thai Life、Allianz Ayudhya
20%
といったエージェント主体のグループと、Muang
0%
Thai Life(カシコーン銀行傘下)
、Bangkok Life
会社別シェアの推移(収入保険料ベース)
16.1
6.4
9.2
9.6
11.5
6.3
12.2
16.0
15.7
14.8
Others
7.4
10.7
8.9
12.5
5.8
12.5
8.6
10.3
8.9
13.7
5.7
12.5
9.7
9.7
10.3
KTLA
28.8
26.2
24.8
22.6
2012
2013
2014
2011
15.0
5.3
12.6
SCBLife
BLA
MTL
AZAY
TLI
AIA
(年次)
(資料)OIC
(バンコク銀行傘下)
、Krungthai AXA Life(クルンタイ銀行傘下)
、SCB Life(サイアム商業銀行傘
下)といった銀行窓販主体のグループに分かれる。後者の銀行窓販主体のグループは、支店が 1000
店以上もある四大銀行傘下であり、銀行との協力関係を追い風に 2000 年代に入って以降、シェアを急
速に拡大している。
5|資産運用状況
2014 年の保険会社の運用資産残高は、前年比
(図表 8)
21.7%増の 2 兆 1,766 億バーツ(約 7 兆円)と、
100%
前年の 9.7%増から上昇した。2014 年は、好調な
80%
株式市場を背景に株式や投資信託といったエクイ
60%
ティ投資および社債の運用収益が改善したことが
40%
運用資産残高の拡大に寄与した。
20%
タイの生命保険会社の運用資産構成割合を見る
と国債が 64.8%、
社債が 17.3%、
株式等が 9.6%、
0%
資産構成比の推移
5.4%
8.2%
12.0%
5.0%
9.5%
12.9%
4.9%
9.2%
4.6%
9.6%
14.3%
17.3%
その他投資
貸付
株式等
71.6%
社債
69.7%
68.2%
64.8%
国債
2.0%
2011
2.2%
2012
2.3%
2013
(資料)OIC
現預金・
2.9%
短期証券
2014 (年次)
貸付が 4.6%と、国債中心の運用となっている(図表 8)
。2011 年頃から景気の停滞を受けてタイ銀行(中
央銀行)は政策金利を段階的に引下げてきたことから金利の低下傾向が続いており、タイの 10 年国債利回り
は 2011 年 2 月末の 3.9%から 2016 年 2 月末の 2.1%まで低下した。このような状況下において、各社ではよ
り魅力のある商品を提供するため、資産利回りの改善に向けた運用資産構成割合の変更の検討に加え、デ
ュレーションマッチング等の手法の活用等を実施している。
4|
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