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1.社会経済環境の変化と国内産業立地の動向

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1.社会経済環境の変化と国内産業立地の動向
1.社会経済環境の変化と国内産業立地の動向
1−1 社会経済環境の変化
①グローバル化の一層の進展と国内産業空洞化の拡大
◇わが国産業では、リーマンショック以後の内需低迷により大きな成長が見込めない国内
での設備投資を抑制する一方、世界同時不況後の回復著しい中国、インド、ブラジル等
の新興国市場への事業投資を一貫して拡大してきた。
◇特にこうした新興国市場の成長に依存した製造業大手メーカーの生産・調達体制は、東
日本大震災にともなうサプライチェーンの寸断や電力供給不安等による国内調達リス
クの増大、さらには欧州債務危機を契機とした国際通貨不安等を背景に、引き続き量産
部門を中心とした海外シフトを強める一方、国内各地では生産拠点の縮小・集約化等に
よる産業空洞化の流れが加速しつつある。
②人口減少・高齢社会化の進展と地域コミュニティの衰退
◇すでに従前から予測されていたように、急速な尐子化・高齢化の進展と人口減尐社会へ
の突入にともなう構造変化への本格的対応が、年金等の社会保障制度や医療・福祉、子
育て支援等の対人ケアサービス分野をはじめとして国民生活の中心課題になりつつあ
る。
◇とりわけ先の東日本大震災では、従来から人口減尐による都市縮小と限界集落化、高齢
社会化が進行する東北各地の地域社会が大きな被害を受け、地域コミュニティの崩壊の
危機を現実のものとした。こうしたわが国社会の構造的危機は各地で拡大しつつあり、
長引く景気低迷による雇用情勢の悪化や格差の拡大、“無縁社会”化等にともなう社会
問題も深刻化の度合いを増しつつある。
③国民意識と国民生活における潮流変化
◇この間、わが国経済社会の長期停滞と東日本大震災を経た国民の生活者意識においては、
従来の生活・雇用不安や閉塞感に加え、より直接的な生命・健康にかかわるリスク意識や
安全安心志向の高まり、日々の生活圏における社会的つながりの見直し(コミュニティ
再生志向)など、個々人の生活価値にかかわる潮流変化をみることができる。
◇こうしたなかで、今後中長期的な「原発依存度」の低減を意識した省電力志向や再生可
能エネルギー導入への機運の高まり、電力等エネルギー利用システムのあり方について
の関心の高まりが、国民生活に密着した形で顕著となりつつある。
-1-
図表 1-1 円レート(対ドル)の推移(東京外為市場における取引状況)
図表 1-2 人口・高齢化の推移
出典:「日本の将来推計人口」(平成 18 年 12 月推計、国立社会保障・人口問題研究所)
図表 1-3 国民意識の変化
出典:「社会意識に関する世論調査」(平成 24 年1月、内閣府)
-2-
1−2 国内産業立地の動向
①海外成長市場における生産拠点の増強と国内拠点の再編・集約化
◇震災以前からグローバル成長市場内での生産・調達を進める自動車、電機(デジタル機器、
電子部品等)など大手メーカーの量産組立工場(完成車、最終製品等)については、近
時の歴史的な超円高局面に対応して、新興国等での新設立地や既存拠点の増強増設投資
の動きがさらに加速されつつある。
◇その一方、輸出競争力が急速に低下した国内生産拠点では、従来の設備投資計画の見直
しや生産中止・海外移管の前倒しなど再編・集約化が相次ぎ、全国的にみた立地縮小~
産業空洞化の流れが顕著となっている。
◇これにともない、自動車・電機向けの部品・部素材等を生産供給する関連協力メーカー
についても、顧客企業の海外生産拡大に随伴した海外進出(当地周辺の生産拠点の増強
や新設立地等)の流れが、中堅・中小企業を含めて加速しつつある。
②新たな成長分野での国内立地の展開
◇わが国産業においては、以上のような海外成長市場と直結したグローバルな生産・調達
体制の下で国内立地を縮小させつつある自動車・電機等の基幹産業(かつての輸出主導
型成長産業)に代わり、新たな成長分野での潜在需要に着目した新規事業化の動きとそ
のための国内設備投資(拠点新設等の国内立地)が徐々に増加する方向にある。
◇こうした新たな事業展開の動向は、いずれも先にみた社会経済環境の変化と国民意識
(生活者意識)の潮流変化を受けて、震災以後、特に顕著な流れになりつつある。ここで
はそれらが指向する主な需要領域に対応した「新たな成長産業分野」として別表のよう
な整理を行った。[→図表 1-4 参照]
●環境・エネルギー関連
これらのうち環境・エネルギー関連の立地動向をみると、原発事故を契機とする電力
供給不安を背景に、再生可能エネルギーの事業化機運が一挙に高まりつつある。
具体的には、法制定による電力の固定価格買取制度の導入(平成 24 年 7 月施行)が
追い風となり、地方圏の中山間地域を含む各地で大規模太陽光発電所(メガソーラー)
、
風力・小水力発電施設やバイオマス利活用システム、スマートグリッドを利用した分散
型エネルギー利用システムなど、様々な関連諸業種からの新規参入を含めた新設立地や
開発計画の具体化が進められつつある。
●社会インフラ・システム関連
また、当面の被災地復興事業をはじめとして、今後の地域整備やまちづくり事業に際
しての災害リスクの低減(減災)や超高齢社会の生活ニーズ等に対応した社会インフ
ラ・社会システムの再整備(都市市街地の縮小にともなうコンパクトシティ化、次世代
交通システム等)などに関わる機資材、機器・システム等の開発・生産拠点も増強ないし
新設が進む方向にある。
●医療・健康/福祉・介護/子育て支援等関連
尐子高齢化の進展や地域コミュニティの衰退にともなう社会再生ニーズに対しては、
対人ケアサービスをはじめとする非製造業分野を中心に、医療・健康(病院・診療所、
医療機器、健康食品等)や福祉・介護(福祉用具、高齢者向け住宅等)、子育て支援(各
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種保育施設等)などに関わる多様な分野での堅調な立地展開がみられる。
●農業再生/食の安全等関連
また、消費者の健康志向・食の安全志向を背景に、都市部の食品流通・飲食サービス
事業者等と連携した付加価値の高い地場農作物の契約栽培などの動きが広がりつつあ
り、こうした農業・食品関連の新たな生産・流通システム(農業の 6 次産業化)に対応し
た拠点展開(民間出資による農業生産施設、農産物加工・流通施設等)や「植物工場」
等の新設立地が進む方向にある。
③新成長分野の共通基盤産業による事業再編やリスク分散にともなう拠点再配置
◇以上のような新たな需要領域からみた成長産業分野を供給面・技術面から支える「共通
基盤産業」として、製造業における高度製造技術関連、非製造業における ICT(情報通信
技術)利用および産業支援サービス関連の立地動向を取り上げる。
●高度製造技術関連
自動車・電機等の従来型生産体制を支えてきた先端部品・装置ユニット、部素材加工
等の高度製造技術を担う専門メーカーや中小製造企業など共通基盤産業群では、大手メ
ーカーの相次ぐ海外シフトへの対応と競争力の再構築が求められる一方、新たな成長分
野に対応した事業体制の転換・再構築が模索されつつある。
こうした事業再編の取組みとも相まって、震災によるサプライチェーン寸断の影響を
受け、東日本等の既存拠点での集中生産による事業継続上の脆弱性を克服するために、
災害時のリスク分散を目的とした西日本方面でのバックアップ拠点新設など、国内拠点
の立地分散・再配置が進む方向にある。
●ICT 利用関連/産業支援サービス関連
こうした災害時の事業リスクを回避するための立地分散の動きは、ICT 関連等の非製
造分野においても、クラウドコンピューティングの普及拡大に対応したデータセンター
や BPO(業務代行サービス)関連のバックアップ拠点の地方分散という形で積極的に進
められつつある。
また、これらの地方拠点の展開にともない、地元 ICT 人材の確保やアウトソーシング
業務の効率化とも相まって、分散型のサテライトオフィスや小規模バックオフィスなど
の立地も広がる方向にある。
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図表 1-4 新たな成長産業分野における事業展開の動向
新成長産業分野
■環境・エネルギー
■社会インフラ・システム
■農林漁業・食基盤
■医療・健康
■福祉・介護
■子育て支援
■居住・生活支援
■生活文化
■芸術文化・コンテンツ
■地域文化・観光文化
主な事業展開分野
□再生可能エネルギー利用/分散型エネルギーシステム/
□資源リサイクル/バイオマス利活用/
□スマートグリッド/スマートコミュニティ/
□エコ住宅/省エネ家電・機器/蓄電池/次世代自動車/
□環境修復・浄化/環境調和型素材・製品/
□次世代交通システム(ITS)/都市新交通システム/
□水環境保全・管理/社会資本維持管理/
□コンパクトシティ/サステイナブル・シティ/バリアフリー化/
□防災・バックアップシステム/
□地産地消・食の安全/里山・森林等保全・活用/休耕地活用/
□農林漁業の6次産業化/農商工連携/植物工場/
□農産物直売・加工/地場産品開発/
□里山・森林等保全・活用/
□予防医療/ヘルスケア/運動サポート/
□先端医療(新薬、再生医療、無侵襲診断・医療等)/医療機器/
□遠隔医療システム/在宅医療支援サービス/
□精神医療/メンタルケア(心理カウンセリング)/
□福祉用具/福祉・介護ロボット/
□在宅・施設介護サービス/生活見守りサービス/
□バリアフリー化施設・設備/高齢者向けモビリティ/
□サービス付き高齢者住宅/グループホーム/
□幼保一元化施設(こども園;就学前保育・教育サービス)/
□認可外保育施設(認証保育所等)/家庭的保育施設(保育ママ)/
□認可保育所への民間企業参入/グループ型共同保育/
□ベビーシッター/一時預かりサービス/育児カウンセリング/
□住宅リフォーム(耐震・バリアフリー化等)/
□公営住宅改修(医療・介護・保育等一体型整備)/
□コーポラティブハウス/シェアハウス/コレクティブハウジング/
□家事支援サービス(ホームヘルプ、配食、買い物支援等)/
□ライフデザイン(食文化・住空間文化、生活雑貨等)/
□スローライフ文化/地方生活文化/コミュニティスクール/
□ファッション/アパレル・衣料/
□美術・造形アート/精神文化/
□ライブ・パフォーマンス系イベント/アミューズメント/
□映像ソフト/メディア・デジタルコンテンツ/
□歴史・風土・景観文化/地域ブランド/地場産業文化・伝統技芸/
□グリーンツーリズム/エコツーリズム/産業観光/
□歴史的建造物・街並み等の保全・活用/産業遺産活用/
【共通基盤領域】
新成長産業分野
主な事業展開分野
■高度製造技術・生産システム □高機能部品・部材・ユニット/高度専門加工・試作/
□新素材・材料(機能性材料、炭素繊維、レアメタル等)/
□ロボット/ナノテクノロジー/バイオテクノロジー/
■ICT融合利用
□クラウドコンピューティング(データセンター等)/
□組込みソフトウェア/
□産業・生産システム、社会システムの高次化/
■産業支援サービス
□業務代行サービス(BPO)/
□起業支援/SB・CB支援/中小企業組織化・協同化/
□経営コンサルティング(経営革新、企業統治、事業承継他)/
〈資料〉
「新成長戦略」
「産業構造ビジョン」等をもとに過去 1 年間の動向事例を整理して作成。
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図表 1-5 海外生産比率の推移
図表 1-6 工場立地動向
図表 1-7 新規立地計画
図表 1-8 設備投資の動向
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