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エネルギー政策と日本の経済成長 - 一橋大学・津田塾大学経済学研究会
エネルギー政策と日本の経済成長 一橋大学・津田塾大学経済学研究会 2015 年 10 月 27 日 目次 1. 各種発電方法と日本のエネルギー事情 1. 火力 ・・・4 1.1. 火力発電のリスク ・・・5 1.2. バイオマス発電と代替燃料候補 ・・・6 2. 原子力 ・・・9 2.1. 原子力発電のメリット ・・・9 2.2. 原子力発電のデメリット ・・・11 2.3. 福島原子力発電所事故におけるリスクの顕在化 ・・・12 3. 水力 ・・・14 4. 太陽光 ・・・14 5. 風力 ・・・15 2. エネルギー事情の国際比較 ・・・19 1. アメリカ ・・・20 2. ドイツ ・・・24 3. フランス ・・・26 4. 韓国 ・・・28 5. ニュージーランド ・・・30 6. インド ・・・33 1 『エネルギー政策と日本の経済成長』 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を契機に、日本では、電力シ ステム改革や原子力に代わる新エネルギーの開発を求める声が高まっています。2012 年 12 月に 誕生した、第二次安倍内閣においては、長年停滞している日本経済を再生するために、 「三本の 矢」がスローガンとして掲げられ、日銀による金融緩和などによって株価は上昇し、効果を発揮 しつつあるかもしれません。ただ第三の矢である、民間投資を喚起する成長戦略はまだ影を潜め ています。先に述べた電力システム改革は、まさに第三の矢に含まれるものであり、国民の関心 を非常に集めてしまう。そこで、政府は、電力システム改革に向けて、電気事業法の改正を伴い ながら、3つのステップに取り組んでいる状況です。 第一のステップは、広域系統運用の拡大です。これは、地域を超えて電力を分け合うことによ って、電力需給のひっ迫に対応していくというもので、2015 年の 4 月には、電力広域的運営推 進機関が創設され、全国の基幹電力系統を 24 時間 365 日監視することにより、災害などで特定 地域の電力不足が生じた際に、電気事業者に対し電力融通などの指示することで、地域間での電 気の供給がスムーズに行われるようにしています。 次に第二のステップが、電力小売参入の全面自由化です。現行制度においては、電力量の約 40%にあたる電力を地域の一般電気事業者が独占的に供給している状態であり、電力小売全面自 由化後は、すべての需要家が電力会社を選べるようになっています。2015 年 10 月 8 日には、登 録制となっている小売電気事業者 40 社の事前登録が行われ、今後も順次登録が認められる予定 です。2016 年 1 月からは、小売電気事業者の変更を希望する重要家の受付開始などの事前手続 きが開始され、同年 4 月より、小売全面自由化が実施されます。 最後に第三のステップとして、送配電部門の法的分離及び小売料金規制の撤廃が挙げられま す。ここでは、3段階で行われる電力システム改革の総仕上げを行うとともに、ガスや熱供給の 分野の改革も同時に進めていくことになっております。まず、送配電事業の中立性を確保するた めに、一般送配電事業者・送電事業者が小売電気事業や発電事業を行うことを原則禁止していま す。そして、適正な競争関係が確保されている供給区域では、小売料金の規制撤廃をすることに しています。また、ガスや熱供給においても電力システム改革と同じような措置が取られること になっています。 このように、政府は積極的な電力システム改革を推し進めている訳ですが、原子力への不信感 が国民に広がる中、電源構成のベストミックスはどのようになっていくのでしょうか。政府は、 2015 年 6 月に、2030 年度の望ましい電源構成として、原子力の比率を 20~22%、太陽光など の再生可能エネルギーの比率を、原子力をやや上回る 22~24%とするなどしています。原子力 に関しては、2015 年 8 月に原子力規制委員会の厳しい規制をクリアした川内原子力発電所が再 稼働しましたが、これから他の原子力発電所が次々と再稼働していくかどうかはいまだ不透明で す。さらに、原子力発電所の 40 年での原則廃炉の問題は、政府の望ましい電源構成を達成する ためには、大きな足枷となっています。また、2030 年には現在の約2倍の電源構成比率となる 2 予定の再生可能エネルギーの拡大は今後、重要な課題となってくるでしょう。現在、再生可能エ ネルギーの中では、圧倒的に水力の割合が高いわけですが、水力発電所を新たに建設できるよう な場所は少なく、水力以外の太陽光・バイオマスといった現時点では発電コストが高いものをい かに拡大させていくか、政府の手腕が試されるところです。 今回のシンポジウムにおいては、このような日本の将来に関わる最重要問題である、エネルギ ー政策及びそれに伴う日本の経済成長に関して、4 名の専門家の方々に熱い討論を繰り広げてい ただきたいと思っております。そこで、以下各発電方法のメリット・デメリット及び主要各国の 電源構成について部員が執筆した簡単な解説がございますので、ご覧になっていただければ幸い です。 一橋大学・津田塾大学経済学研究会 ※解説の内容に関する注意事項 この解説は一橋大学・津田塾大学経済学研究会の活動の一環として部員により執筆されたもので あり、文責は全て当会部員に属します。 シンポジウムにご参加いただくパネリストの方々の意見を表すものではございませんので、ご注 意ください。 3 1. 各種発電方法と 日本のエネルギー事情 4 1. 火力 福島原子力発電所の事故以来日本のエネルギー政策は根本から揺らぎ原発をこのまま使用し続 けるのか、または原発 0 を目指し再生可能エネルギーを積極的に利用するのか。この議論は今な お継続中であるがその間日本のエネルギー供給の中心を担っているのは火力発電である。一次エ ネルギー供給における火力発電の割合は震災前の 2010 年度には 81.8%、震災後の 2012 年度には 92.2%であり、2010 年度 11.3%、2012 年度に 0.7%の原子力発電と比べても圧倒的に高く震災前・ 後を問わず日本の一次エネルギー供給において主役であるのは火力発電である。1ここではその割 合にもかかわらず原発と再生可能エネルギーという二項対立の間に隠れてしまっている火力発電 を今後どうすべきかを考えていきたい。 まず、火力発電を他の発電方法と比較して考えてみたい。発電には石油を使うもの、天然ガスを 使うもの、石炭を使うものがあるが、それぞれの発電コストは 1kwhあたりそれぞれ 36.0~37.6 円、10.7~11.1 円、9.5~9.7 円である。原子力、太陽光の 1kwhの発電コストは 8.9 円、33.4 ~38.4 円である。2石油・太陽光はコストが高い傾向にある。ただし石油は常温で液体であり、天 然ガス・石炭と比べ扱いやすいという利点を有する。コスト面で見た時に火力発電と原子力発電 に大きな違いはない。しかし二酸化炭素排出量に注目すれば大きな違いが分かる。原子力・太陽光 が発電時に二酸化炭素を排出しないのに対して、火力発電では大量の二酸化炭素を放出する。最 も多い石炭火力で 1kwhあたり 864g、石油火力で 695g、天然ガス火力で 476gの二酸化炭素 を排出している。3その他に火力発電には大気汚染の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物を排出す ることが問題となっている。しかし、環境面で原子力・再生可能エネルギーに劣る火力発電にも大 きな強みが存在する。火力発電の最大の強みは発電量を比較的容易に変更でき安定的に電力を供 給できることである。電力が我々の日常生活において不可欠であるという性質を考えれば、発電 量の変更が難しい原子力や、自然条件に大きく左右される再生可能エネルギーに比べ、発電量を 需要に応じて柔軟に変更できる火力発電は発電方法として大きな利点を有していると言える。ま た火力発電は発電効率が原子力などに比べ高く、事故が起きたとしても局所的な被害に留まるこ とも利点である。 次に火力発電の中で石油火力・天然ガス火力・石炭火力のそれぞれの特徴について考えてみた い。石油火力は第一次石油危機後過度な石油依存は避けられており、2013 年度には 42.7%、逆に 第一次石油危機以降石油の代替手段として利用されてきた天然ガスは 24.2%、石炭は 25.1%とな っている。4石油の特徴は「 『常温で液体』ということであり、これにより、他のエネルギーに比し て相対的に取り扱いやすいということである。 」(橘川・安藤 2014)日本はほぼすべての化石燃料 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2014』 第 1 部エネルギーを巡る状況と主な対策 第 1 章エ ネルギー基本計画の背景にある諸情勢 第 1 節我が国が抱える構造的課題 2 関西電力 『エネルギー問題と原子力』 3 関西電力 『エネルギー問題と原子力』 1 4 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2015』 第 2 部エネルギー動向 1 章国内エネルギー動向 5 を海外からの輸入に頼っていることを考えれば貯蔵・運搬が容易なことは重要となってくる。主 な石油の輸入先としてはサウジアラビア・アラブ首長国など中東諸国からの輸入量が多くなって いる。天然ガスの特徴は石油・石炭に比べ二酸化炭素排出量が少なく、また石油に比べて地域偏在 性が低くなっている。主な輸入先はオーストラリア、カタール、マレーシアである。石炭の特徴と しては地域偏在性が天然ガスよりさらに低く、埋蔵量も 109 年と石油の 53 年、天然ガスの 59 年 と比べ多く安定した供給が見込めることである。主な輸入先はオーストラリア・インドネシアで あり 2013 年には約 8 割をこの二国に依存している。火力発電は燃料が供給されれば安定した電力 供給を行えるが、燃料のほぼすべてを海外からの輸入に頼っている日本の場合には国内に安定的 に供給されるかが重要となってくる。2013 年にはホルムズ海峡を通過して輸入される石油の量は 81%、天然ガスの量は 25%、マラッカ海峡を通過して輸入される石油の量は 83.3%、天然ガスの 量は 33.6%となっており5、 「これらの地域で何らかの緊急事態が発生した際には、我が国のエネ ルギー供給上の課題が顕在化し得る、いわば脆弱な供給構造となっています」(資源エネルギー庁 2014)エネルギー安全保障の観点からエネルギー資源の輸入先の多様化は重要課題であり危険海 域を避けることは必要となってくる。そこで注目すべきなのがシェールガス・シェールオイルで ある。シェールガス・シェールオイルは主に北米で開発が進んでいる。シェールガス・シェールオ イルは掘削技術の進歩、2004 年の原油価格高騰を背景として 2006 年以降開発が進められている。 日本が北米からシェールガス・シェールオイルを輸入すればエネルギー資源の多様化につながり、 エネルギー安全保障上のリスクも低減することになる。 これまで見てきたように火力発電は環境面での問題、燃料をほぼすべて海外からの輸入に頼ら ざるを得ないという問題を抱えてはいるものの、需要に応じて発電量を変更し安定的に電力を供 給でき、また原発が停止し、再生可能エネルギーが十分に機能していない現状を鑑みれば積極的 に火力発電を利用するほかないであろう。もちろん化石燃料の地域偏在性はシェールガス・シェ ールオイルがどの程度積極的活用されるかに依るが、完全に解決する手段は存在し得なく、一次 エネルギー供給の約 90%を火力発電に依存するというのはエネルギー安全保障の観点からすれば 好ましくなく、原発再稼動、再生可能エネルギーの更なる活用により火力発電依存度が低下する ことが望ましい。しかし、安全確認が不十分なまま原発再稼動に踏み切ることはできず、再生可能 エネルギーの即時の劇的な利用の拡大も可能性が低いということであれば火力発電の役割は重要 であり一定量の発電を火力発電に依存することが望ましいといえる。 1.1 火力発電のリスク 1 はじめに 日本におけるエネルギー・発電の供給量のうち石油・石炭を材料とする火力発電は約 8 割を占 めている。 (Sustainable Japan 2015) つまり現在日本において、火力発電無しではエネルギー・ 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2014』 第 1 部エネルギーを巡る状況と主な対策 第 1 章エ ネルギー基本計画の背景にある諸情勢 第 1 節我が国が抱える構造的課題 5 6 発電供給は難しいと いえる。また、中でも石油の輸入は中東地域に偏っており、中東諸国の政治 情 勢によっては、石油の確保が困難になる可能性が十分にある。そこで現在の中東各国の情勢と 日本への影響についてここで述べていく。 2 石油の主な輸入先 図1 は日本の石油輸入のグラフである。 日本の原油中東依存度は極めて高く、中東情勢が私たちの暮らしに影響がある と言える。 図1原油輸入先(2012 年度) (経済産業省資源エネルギー庁 2014) 3 中東情勢 現在の中東石油情勢を各国別に述べる。以下のように、日本が石油輸入を頼っている中東諸国 のこの先の情勢は不透明で あり、各国が軍事費拡大や資源確保の必要性が高まった時、日本への 石油輸出 は減り、日本の石油事情は難局に行き当たると考える。 ① イラン 核開発問題をめぐりイランは欧米諸国と対立する中、ホルムズ海峡の封鎖をほのめか す発言をしている。日本が輸入する石油の約85%、液化天然ガスの約 20%がホルムズ海 峡を通過しており、 (経済産業省エネルギー省 2014)常にイランと欧米諸国の動向を私た ちは見ていく必要がある。 ② サウジアラビア 日本の石油確保の要といえるサウジアラビアだが、今年に入りイエメン国内でのシーア 派過激派組織の台頭を恐れ、イエメン内戦に軍事介入している。過激派組織の背後にイ ランの支援があるとされている。 (日本経済新聞 2015)つまりサウジアラビアとイラン の関係悪化は避けられない上、内戦の長期化によって石油高騰の可能性も大いにありえ ると言える。 ③ シリア情勢 7 日本はシリアから石油輸入は行っていない。しかし、シリア国内での紛争、欧米による 経済制裁、IS の侵攻による経済打撃によって国内産業は壊滅的状態 となった。そしてそ のシリアに物資や経済援助を行っているのが日本の石油輸 入国も含む近隣諸国などで ある。 4. 改善策 今のような発電材料の過度な外国依存を改めるため必要となるのが、他の発電システム の稼働を増やし、火力発電の割合を減らすことである。環境面を考慮すると再生可能エ ネルギーの発電量を増やすことが理想であるが、コスト面 などから考えるとやはり原 子力発電の再稼働が必要と考える。 5. 結論 上で示した通り、日本は中東地域への石油依存度が極めて高く、火力発電のリスクは、 発電材料の確保が諸外国の情勢に左右されやすいことである。私たちは自国の発電事情 を見直し、常に改善策を模索していく必要がある。 1.2 バイオマス発電と代替燃料候補 バイオマス発電は燃料の違いにより火力発電とは別のカテゴリとして見なされる事があるが、発 電方法は火力発電に等しいため、ここでは火力発電の項目内で扱う。 まずバイオマス発電のメリットは環境に優しい点である。燃焼時に発生する温室効果ガス(CO2) が、成長過程の光合成時に吸収する CO2 である程度相殺されるため、全体としての温室効果ガス 排出量が少ない。この概念はカーボンニュートラルと呼ばれる。 一方デメリットは多数挙げられ、木材等は使用する燃料の出所を示す証明書を用意しなければな らないため手間が掛かる、未使用の木材とリサイクル木材に価格差があり燃料の分別が煩雑、以 上によりコストが掛かる、サトウキビ・トウモロコシなどは燃料用途に回されることで食用のも のが不足してしまう、自然の条件により収穫が左右されるため燃料の供給が不安定である、等の 点である。 以上のようにデメリットがメリットを上回る面が大きいため、日本においてバイオマス発電は他 発電方法に比べ普及していない。 前述のデメリットのうち数点を回避する燃料として近年藻を利用した燃料(藻類バイオマス)の 研究が進んでいる。近年研究が進んでいる藻は榎本藻と呼ばれ、油分を多く含む(サトウキビ・ト ウモロコシ等に比べ狭い面積で大量の油分が取得可能) 。通常の藻に比べ増殖の速度が 1000 倍速 いため大量の生産が可能で、また食糧との資源競合が少ないため先述の植物燃料と違い食糧不足 の心配が少ない。現在この藻は、既存の燃料に替わる代替候補が限られ需要が特に多い航空機の 燃料用途を主なターゲットとしているが、発電燃料としての可能性(海洋バイオマス)も期待され る。 8 榎本藻の栽培場所は気候や土地代の条件によりオーストラリア・東南アジアが見込まれているが、 こうした榎本藻の栽培とは別に各地の発電所に藻類の基地を設け、発電所から排出される CO2 を 海中に溶かしこみ藻の育成に利用する構想もある。こうして、藻は他のバイオ燃料に比べ幾つか のデメリットの解消は可能だが、現段階の技術での生産は依然として費用がかさむため、実用化 を進めるにはその削減が不可欠である。 2. 原子力 2.1 原子力発電のメリット 原子力発電のメリットとしてまずあげられることは、原子力発電は電気を発電する際に二 酸化炭素を排出しないということである。二酸化炭素は地球温暖化の原因とされており、世 界各国が二酸化炭素を削減する必要性に迫られている。日本においても、2009 年に国連気候 変動サミットにて鳩山元総理は 2020 年までに二酸化炭素排出量を 1990 年と比べて 25%削 減させることを標榜する67など、二酸化炭素排出量削減に向けて努力が進められている。二酸 化炭素排出量を減少させる方法はさまざまであるが、原子力発電は重要な方法の一つである。 そのほか、原子力発電の地球環境に対するメリットとして、原子力発電は酸性雨や光化学ス モッグの原因とされている窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を排出しないことが あげられている。技術進歩のおかげで現在は火力発電においてもこれらの酸化物はあまり問 題となっていないが、それでも火力発電ではわずかにこれらを排出してしまう。 これに対して、原子力発電はこれらの酸化物を全く排出しない。これは大きなメリットで ある。こうした点について、原子力発電は環境にやさしい発電方法といえる。環境以外でも 原子力発電のメリットはある。それは、原子力発電の燃料であるウランがカナダやオースト ラリアなどの比較的政情が安定した国々に分散して存在しているということである。日本に おいては火力発電の燃料となる石油の多くを中東から輸入している8。この現状では、オイル ショックのような特定の国による資源外交に対する抵抗力が弱い。日本においてはエネルギ ー自給率がかなり低いためこれはゆゆしき問題である。またウラン採掘年数が 100 年である のに対し、火力発電の燃料である石油は 42 年、天然ガスは 60 年である9。これらの点で原子 力発電は火力発電と比較して、燃料において安定 性を持っているといえる。 6現時点では、エネルギー政策やエネルギーミックスの在り方が検討中のため、原子力発電による二酸 化炭素削減効果を含めずに、2020 年度までに 1990 年度比で 3.8%減が国際的に標榜している目標 環境省「2020 年に向けた我が国の新たな温室効果ガス排出削減目標」 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/ert2020.html (2015/08/29 アクセス) 7 首相官邸「国連気候変動首脳会合における鳩山総理大臣演説」 http://www.kantei.go.jp/jp/hatoyama/statement/200909/ehat_0922.html (2015/08/29 アクセス) 8 政府統計『平成25 年-2013- 資源・エネルギー統計年報(石油) 』5~8 項 9 電気事業連合『図表で語るエネルギーの基礎 2010-2011』10 項 9 図1(電気事業連合のデータより自作)10 また、エネルギー白書によると原子力発電は「燃料のエネルギー密度が高く備蓄が容易で あることや燃料を一度装填すると一年程度は交換する必要がない」11といったメリットもあ る。 更なるメリットとして、使用済み核燃料を再利用することで資源燃料として再利用するこ とができるというものがある。これは現在開発途中であり実現されているわけではないが、 もし可能になればこれは大きな効果をもたらす。先述したように日本はエネルギー自給率が 低いが、エネルギーを自給できるようになることで電力の安定供給性が高まる。また、エネ ルギーの自給によって石油などの一次エネルギーの輸入量を減少させることができるので、 これは経常収支黒字化に大きく貢献する。原子力発電のデメリットとして使用済み核燃料の 最終処分先が決まっていないことがあげられるが、使用済み核燃料の再利用によってこの問 題も同時に解決してしまう。先述したようにこの技術は確立されていなため、これはメリッ トに当たらないと考えるかもしれないが、原子力発電には技術革新の余地が残されており、 技術革新が成功すれば多くの利益を享受できる可能性があるということだけで、原子力発電 を推進し、研究するインセンティブとなりうる。このことから使用済み核燃料の再利用化も 原子力発電のメリットである。 電気事業連合『図表で語るエネルギーの基礎 2010-2011』10 項 資源エネルギー庁『エネルギー白書 2010』第 3 章第 1 節1 http://web.archive.org/web/20110302135631/http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010ener gyhtml/3-3-1.html (2015/08/31 アクセス) 10 11 10 2.2 原子力発電所のデメリット 1. 原子力発電所事故の被害 ここでは原子力発電所の設置におけるコストについて紹介する。第一に事故発生時の被害に ついてである。2011 年における原発事故が記憶に新しいが、過去のチェルノブイリ原子力発 電所の例にも表れている。原子力発電所の事故によっておこる問題は永続的に国土を、そし て国民を縛り付けるのである。チェルノブイリ原発の事故は 1986 年に発生した事故である が、現在も立ち入り禁止地域が残っている。これは故郷を追われた人々だけにかかわる問題 ではない。利用可能な土地の減少は生産可能な土地面積を減らすことになり、ひいては国全 体の生産量を減らすことにつながるのである。一方かつての「住民」はその土地に地域的つ ながりなどの何らかの都市部に移り住んで得られる便益以上のものがあるからこそそこに住 んでいたと考えられる。原発事故は立ち退きを強制し、その便益を奪った。これらの問題は、 原発稼働によって得られる便益と比較して、それ以上に国全体の効用を大きく引き下げてい る可能性を持つ。 2. 発電所の所有者と責任の所在 そもそも原子力発電所は誰のものなのであろうか。発電所は電気を生み出して個人に販売す るための装置である。つまり、電気を販売していた電力会社のものである。したがって事故 の起きた責任は電力会社がとるというのが筋ではないだろうか。 「平成 25 年末に環境省で実 施した試算では、除染にかかる費用の総額は、汚染廃棄物の処理も含めて、約 2.5 兆円と見 込」まれている一方で、 「東京電力株式会社に対して、汚染廃棄物の処理費用も含めて、平成 27 年 1 月末までに約 2,053 億円を請求」することとなっている。2.5 兆円という額は一つの 企業が背負い込むには明らかに酷であるとはいえる。また、東京電力が倒産すれば、社会的 なインフラが失われるためそれは避けなければならないだろう。しかし、リスクに対する意 識の薄かった(といわれている)東京電力が未だ故郷に帰れない原発避難者13万人(2014 年現在)に対しての責任が、一人当たり約 150 万円で良いのであろうか。もし、原発のリス ク回避のために多額の資金がかかるのであれば、国が助けてくれるという予想の下で行動す るという戦略をとるというのは十分にありうることである。したがって政府は電力会社の援 助に対して NO を突きつけることのできるコミットメント戦略をとるべきではないだろうか。 例えば電力の自由化は好例でたとえある電力会社が倒産したとしても新たな企業が参入でき るという状況を作ることができるためにコミットメント戦略として成り立つのである。 3. 原子力発電所と権力 私は原発事故が都市部と地方における権力関係があらわになった出来事ではないかと考え ている。東北地方の福島県にあった原子力発電所は東京電力の管轄であり、地方で生産した 電力を都市部で消費するという形がとられていた。事故が発生した時、それまで利益を受け ていた都市部の住民は停電や電気料金の値上げという形で被害をこうむった。しかし、より 11 大きく、生活の根幹を揺るがす、あるいは生命をも脅かす形で被害を受けたのは、生産地で ある福島県の住民なのである。これは、先進国の企業が発展途上国に粗悪な工場を作り、事 故によって現地の労働者が負傷あるいは命を落とすという出来事と似ている。これらは、経 済格差による権力関係に起因すると考えられる。ほかにも原子力発電によって発生する廃棄 物処理の問題にもこのような権力関係が発生する可能性がある。このような関係においては 金銭を得るためにリスクを度外視した決定が行われたり、決定を受け入れざるえない状況が 生まれたりするので、注意しなければならない。 4. 結論 以上のように原子力発電所には様々なリスクやデメリットも付きまとう。今後も是非につい ては様々な意見を取り入れ考えていかなければならない問題であろう。 2.3 福島原子力発電所事故におけるリスクの顕在化 福島原発事故において先述したリスクがどのように顕在化しているかを測定するのは容易では ないが、ここでは公開されている原発事故報告書をもとにリスクが福島第一原子力発電所でリス クの顕在化プロセス、すなわち地震及び津波が水素爆発を引き起こしたプロセスについて外的要 因の地震と津波に分けて簡単にまとめることにする。これについては国会や政府による事故調査 報告書が子細な分析を行っているため、それらの記述を解釈していくことになるが、原因につい て知るべき情報のほとんどが格納容器の中にあり、人が立ち入ることは不可能であることから、 この分析は困難を極めることを付言しなければならない。 なお、民間事故調については地震及び津波に移管する記述が非常に淡白であること、東電事故調 についてはその第三者性の欠缺から以下の記述においては考慮の対象とせずに進めていく。 これまで描かれていたシナリオは、地震によって外部交流電源が断たれた後津波により非常用の 電源が喪失し、それによって炉心核燃料などの冷却ができなくなり溶融落下に至らせ、水素爆発 につながった、というものだった。しかし、国会による事故調査報告書は、科学的知見に基づく重 厚な調査を行うことで、このシナリオに疑義を投げかけている。 1. 地震 まず検討すべきは、原発に対して津波ではなく地震が与えたダメージはどの程度であったのかに ついて考えることから始まる。 東電の中間報告書が、2,3,5 号機の観測された最大加速度値が東西方向において基準地震動におけ 12 る最大応答加速度値12を上回っていることについて、 「耐震評価の想定と概ね同程度」と評価した のに対し、国会事故調は「基準地震動に対する応答加速度を下回るのが当然で、一部でも上回るこ とは耐震設計上あってはならないことである」と評価する。基準地震動とは「施設周辺において発 生する可能性がある『最大の』地震の揺れの大きさのこと(goo 辞書、 『』は筆者)」であることを踏 まえると、国会事故調の評価が適切だと言えるだろう。地震による被害が小さいものではなかっ たということがここからわかる。 また、基準地震動の大きさだけでなく継続時間についても、はぎとり波13の計測によってわかった ことだが、スクラム(原子炉の緊急停止)後に一度揺れが弱くなった後も激しい揺れが 50 秒以上 続いたことになる。 このような加速度や継続時間の大きさは、原発内の重要な配管に対して金属疲労による破壊をも たらし得る。これについては格納容器内に人間が入ることが不可能であることから正確に判断す ることは不可能であるが、国会事故調は原子炉系配管の破損について詳細な検討を行い、配管の 破損によって冷却材の喪失が起きた可能性があることを強調している。 政府による報告書は、この地震によって IC(緊急炉心冷却装置)をはじめとする機器の破壊が起 きていたことを綿密な調査によって否定している。この部分について見られる意図が他にあるこ とについては興味深い論考がある14。 2. 津波 国会事故調は、波高計の値や防波堤を波が突破した時刻の計算、津波進行の連続的撮影などか ら津波到達の少し前に電源喪失が起こっていた可能性が濃厚であるとして、地震に関する検証と 合わせて電源喪失の原因が津波であったことに懐疑的である。 3. まとめ 多角的なデータから綿密な検証を行っている国会事故調の論旨はかなり信用性のあるものと考 えられ、津波による電源喪失のみによって水素爆発、それに伴う放射能の拡散が引き起こされた と考えるのは早急ではないかと考えられる。今後のシビアアクシデントの防止のためにも、原発 の再稼働にあたっては地震による機器破損の影響をより重視する姿勢が必要であると考える。 12 最大応答加速度:原発施設の各部位が地震の揺れに対応してどの程度揺れるかという指標のこと。 はぎとり波:地下深部の地震計データから、上の地層などの影響を計算で取り除くことで算出され た、上になにも載っていなかったらどれだけ揺れたかという波のこと。 14 政府事故調の意図しているシナリオとしては、IC が「破損」ではなく「機能停止」していたことを 東電の運転員や現場責任者が把握しておらず、再作動させなかったことが過酷事故に至る原因であっ たというものであるため、それ以前に地震によって IC が破損してしまってはシナリオが成り立たなく なる、というものである。 (塩谷 2013) 13 13 3. 水力発電 1. 水力発電の仕組み 水が高いところから低いところへ落ちる時の力を利用して水車を回し、水車と直結した発電 機で電気をおこすのが基本の仕組みとなっている。 2. 流れ込み式(自流式)水力発電 川の水をそのまま発電所に引き込んで発電する方法。豊水期や渇水期など水量変化にともな い、発電できる電気の量も変わる。 3. 調節池式水力発電 調整池に水を貯水することで水量を調節し発電する方法。1 日分あるいは一週間分の程度の 発電用水を貯水池に貯めて、発電量を調整することができる。 ① 貯水池式水力発電 河川をダムでせき止め、ダムに溜まった水を発電用に用いるもので、雪どけや梅雨、台 風などの豊水期に貯水し、渇水期に放流して発電する方法。 ② 揚水式水力発電 発電所の上部と下部に調整池をつくり、昼間の電力需要の多い時は上の調整池から下の 調整池に水を落として発電し、発電に使った水は下部の調整池に貯めておく方法。 4. 水力発電のメリット・デメリット 水が落下する際のエネルギーを利用するシンプルなシステム構造の水力発電は、CO2 の排 出量が圧倒的に少ないという大きな利点を持つ発電システムである。 酸性雨、光化学スモッグといった待機汚染の原因となる酸化物の排出量が圧倒的に少ない 水力エネルギーは再生可能であるため、枯渇することがない。 多くの場合、ダムを造る必要があり、周囲の環境を破壊する周辺地域の動植物や魚などの 生態系に多大な影響を及ぼす発電所は大都市から離れた場所に建設されるため、送電線など の設備に多大な費用がかかる。 4. 地熱発電 1. 地熱発電の仕組み 地球の内部で生成され、そして蓄えられている地熱をエネルギー源として発電する。地熱に よって発生した天然の水蒸気を用いてタービンを回すという仕組みをとっている。 2. 地熱発電のメリット・デメリット <メリット> ① 地熱エネルギーはほぼ無尽蔵にあるため、枯渇の心配がない。 14 ② 天候や時間の変化による影響を受けにくい。 <デメリット> ① 国や地元行政からの支援が乏しい。 ② 発電所が少なく、地熱発電そのものの知名度が低い。 ③ 地質調査や地盤調査など、発電所の建設までに莫大な費用と時間がかかり、コストパフ ォーマンスが良くない。 4. 太陽光発電 1. 太陽光発電の仕組み 太陽電池を用いて、太陽の光エネルギーを直接電力に変換する仕組みをとっている。 2. 太陽光発電のメリット・デメリット <メリット> ① 太陽光エネルギーは無尽蔵にあるため、枯渇の心配がない。 ② CO2 や有害な廃棄物を排出しない。 ③ 設置導入に必要な条件が少なく、設置可能な面積・場所が広い。 <デメリット> ① 設置導入に多くのコストがかかる。 ② 天候によって発電量が大きく左右されてしまう。 5. 風力発電 風力発電とは、その名の通り風力をモーターにより電力へと変換する発電方法である。2014 年 末時点で全世界の発電量の 3.1%を占めており、その割合は年々増加している。 風力の特徴としては、まずは化石燃料を使用しない自然エネルギーであることが挙げられる。 化石燃料を使用しないため、エネルギー自給率の上昇が見込める、物価変動の影響を受けづらい、 温室効果ガスを発生しないと言った利点が生まれる。 また、エネルギー源である空気の運動エネルギーを熱エネルギーへの変換を介することなく電気 エネルギーに変換することも大きな特徴である。熱に変換しない事により生まれるメリットとし ては、熱放射によるエネルギーのロスが無いことと、冷却水を必要としないために水流の有無に よる発電所の建設場所制限を受けず、海水が温まることによる環境破壊の心配もないことが挙げ られる。 3つ目の特徴として、規模の調整が容易であることがあげられる。火力・水力。原子力・地熱な どといった大規模集中型の発電所と比較して、風力発電は発電機能を持つ個々の小規模発電機の 集合体である。そのため、発電所の規模を調整しやすく、点検・修理も比較的容易となる。また、 小規模の発電所を設けたい場合には最適の発電方法となっており、燃料や電力を送るためのコス 15 トが高い離島などでの電力供給手段として重視される。これが、割合は小さいながらも様々な国 で風力発電が採用されている理由の一つである。 費用の面から見ると、建設コスト自体は低く、また建設にかかる時間も短いため需要の変化・ 技術の向上に対応しやすく利子も少なくて済むといった利点がある。しかし、建設までに建設候 補地の風量調査が必要である点、電力供給の不安定さゆえ電力供給全体に占める風力発電の割合 が高くなると出力の平滑化にかかるコストが高くなる点など問題点もあり、必ずしも費用対効果 の面から見て優れているとは言えない。実際、風力発電の導入を推進する多くの国では炭素税の 導入や固定価格買い取り制(再生可能エネルギーの買い取り価格を一定期間保証する制度)等によ る風力普及補助が行われている。 以上、風力発電の特徴として「自然エネルギーである」 「熱に変換しない」 「規模の調整が容易」 「建設はしやすい(が問題もある)」ことを述べた。次に、その問題点について述べる。風力発電の もつ主な問題点としては「機械の脆さ」 「電力供給の不安定さ」 「生活環境への影響」 「自然環境へ の影響」が挙げられる。 風力発電機は許容範囲以上の強風では故障の危険があるため対策する必要があるうえ、効率を 上げるために発電機を大きくすればするほど落雷や地震による故障も起こりやすくなる。風力発 電は予測の難しい風力をエネルギー源とするために、上に述べたように電力供給が不安定である ため一国の電力供給のうちの大きな割合を占めるのには向かず、また建設前に発電量を予測する ための費用も嵩む。またブレードの風切り音による周囲の環境への被害も無視できず、騒音の問 題に加え、可聴領域外の低周波振動によっても周辺住民が動機やめまい・耳鳴りを訴えるケース が報告されている。また環境破壊に関しては用地確保の際の環境破壊以外にも、鳥がブレードに 激突して死亡したり、回転する羽によって断続的に横切る影により影響を受けたりするなどの問 題点も存在する。 以上のことから、風力発電を導入するのに向いている地域・国家の条件を考察する。 まずそもそも基本的に風力発電を導入する動機は風力発電が自然エネルギー発電であることで あるため、原子力発電への反対意見が根強い国家・化石燃料の自給が難しい国家や買い取り競争 に弱い国家など、他の発電方法導入に問題のある国家の方が風力発電導入へのインセンティヴは 強いことは当然である。また規模の調整が容易であるため、送電網の未発達な離島を多く持つ国 家からの需要も高い。風力発電所を建設する土地は住宅街から距離があることが必要であり、ま た台風・地震の少ない地域であることが望ましい。単位面積当たりの発電量もそこまで多くはな いため、広大な平地を、それもなるべく近くに人の住んでいない土地を、持つ国家の方が風力発電 所建設には適している。ただし風車そのものが占有する面積はそれほど多くないため、畑や牧草 地など高さを必要としない土地利用と両立することも考えられる。 風力発電は他の発電方法とは異なる性質を多々持つ発電方法であるから、単純に火力・原子力 発電の代替手段として扱うよりもよりその性質を活かした運用が求められると言えよう。 16 引用 ・橘川武朗・安藤晴彦 『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方一橋大学からの提 言・p132』 2014 年 第一法規 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2014』 第 1 部エネルギーを巡る状況と主な対策 第 1 章 エネルギー基本計画の背景にある諸情勢 第 1 節我が国が抱える構造的課題 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/1-1-1.html 参考文献 関西電力 『エネルギー問題と原子力』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/3-5-1.html 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2015』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2015html/ 資源エネルギー庁 『エネルギー白書 2014』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/ 橘川武朗・安藤晴彦 『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方一橋大学からの提言』 2014 年 第一法規 Sustainable Japan 【エネルギー】 『 日本の発電力の供給量割合[最新版] (火 力・水力・原子力・風力・ 地熱・太陽光等) 』2015 年 http://sustainablejapan.jp/2015/02/24/electricity-proportion/13961 経済産業省資源エネルギー庁『エネルギー白書2014』2014 年 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/2-1-3.html#n12 経済産業省資源エネ ル ギ ー 庁 『 エ ネ ル ギ ー 白 書 2014 』 2014 年 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014html/1-1-1.html 日本経済新聞『サウジ、イエメンに軍事介入、緊張高まる』2015 年 http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM26H3F_W5A320C1MM0000/ 東洋経済『IHI が実用化を狙う「藻類ジェット燃料」 』(2015/10/27 アクセス) http://toyokeizai.net/articles/-/34915 一般財団法人 新エネルギー財団『藻類のバイオマス利用(1) 「非食料の藻類からのバイオ 燃料が本格始動」 』 (2015/10/27 アクセス) http://www.asiabiomass.jp/topics/0911_05.html ITmedia Inc.『高速増殖型の藻からバイオ燃料、量産に向けた培養試験が始まる』(2015/10/27 ア クセス) http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1502/09/news022.html 橘川武朗 安藤晴彦編著『エネルギー新時代におけるベストミックスの在り方日窒橋大学からの 提言』 2014 年 第一法規株式会社 電気事業連合『原子力 2010[コンセンサス] 』 17 http://donjon.rulez.jp/refeqsum/genshiconsensus2010.pdf (2015/08/31 アクセス) 除染情報プラザ http://josen-plaza.env.go.jp/decontamination/qa_04.html NHK スペシャル http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20140308 放射性廃棄物の憂鬱 楠戸伊緒里 塩谷喜雄『 「原発事故報告書」の真実とウソ』2013 年 国会事故調(2012) http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/ 政府事故調(2012) http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/icanps/post-2.html 中部電力「水量発電の基本原理」 (2015 年8月 31 日) http://www.chuden.co.jp/energy/ene_energy/water/wat_shikumi/genri/index.html 電気事業連合会「発電のしくみ|水力発電の種類」 (2015 年 8 月 31 日) http://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/water/ SmaQoo(スマクー)「水力発電のメリット・デメリット・問題点」 (2015 年8月 31 日) http://smaqoo.com/smartgrid/water.html 発電量ナビ「水力発電の 3 大長所・デメリット」 (2015 年 8 月 31 日) http://www.hatsudenryou-navi.com/expression/hydropower.html 発電量ナビ「地熱発電の 3 大メリット・デメリット」 (2015 年 8 月 31 日) http://www.hatsudenryou-navi.com/expression/geothermal.html 蓄電池.net「地熱発電の仕組みとメリット・デメリット」 (2015 年 8 月 31 日) http://蓄電池.net/kinds/geo.html 蓄電池.net「太陽光発電の仕組みとメリット・デメリット」 (2015 年 8 月 31 日) http://蓄電池.net/kinds/solar.html JPEA 太陽光発電協会「太陽電池とは|太陽光発電基礎意識」 (2015 年 8 月 31 日) http://www.jpea.gr.jp/knowledge/solarbattery/index.html 18 2. エネルギー事情の国際比較 19 1 アメリカ 1.1 概要 アメリカは世界最大のエネルギー大国であり、電力生産量が多く、アメリカだけで世 界の約 19%を占める。石炭、石油、天然ガスによる火力発電が 70%近く、原子力発電 が 20%ほどを占めている。また、広大な土地があり、水力発電用地にも恵まれ、約 7% の割合ではあるが、水力発電量は世界 4 位である。再生可能エネルギーの導入も進ん でおり、再生可能エネルギーが約 5%である。 (図表 1;アメリカの電源構成) 石油 石炭 天然ガス 0.8 38.5 29.6 18.8 7.45.1 原子力 水力 再生可能エネルギー 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1. 2 火力発電 アメリカ大陸には新期造山帯、古期造山帯があるため、油田、天然ガス田や炭田があり、化石 燃料に富んでいる地形であると言える。そのため、化石燃料を利用した火力発電が盛んに行わ れてきた。石油は電力以外(車のガソリンなど)に使われることが多いので、発電にはあまり 用いられない。 アメリカは世界最大のエネルギー生産国であるが、エネルギーの消費も大きく、エネルギーの 輸入国でもあった。しかし、2006 年ごろからシェール(頁岩)層の開発が進められ、シェー ルオイルやシェールガスの生産が進められ、石油、天然ガスの生産量が増加した「シェール革 命」により、エネルギー自給が視野に入るようになった。 「シェール革命」は、高度な技術を要し、生産コストが高く、市場性がないと判断されていた が、2004 年に原油価格が高騰すると、原油か価格に連動していた天然ガス価格が上昇したた め、シェール開発は採算が合うようになった。 アメリカでは世界に先駆けて「シェール革命」といわれる状況が生じたが、30 年以上前から、 シェール掘削技術開発に関する資金投入や規制緩和を行うなど、アメリカ政府による支援も それを可能にした要因の一つである。また、シェール開発のための周辺技術が確立し、それを 提供する掘削サービス関連企業および熟練技術者が国内に多数存在し、厚みのある産業構造 20 をいち早く形成することが可能であったことも、シェールガスの短期間での商業化に大きく 寄与している。 シェールガスの生産拡大により、天然ガスの価格は下がったため、天然ガスによる発電は増大 した。一方、旧式化した石炭火力発電所の閉鎖や、政府による再生可能エネルギーの導入推進 策により、石炭火力発電はシェアを落とすとみられている。石炭と天然ガスの割合は 2035 年 までに逆転すると予測されている。 1.3 原子力発電 アメリカは世界に先駆けて原子力発電開発を手掛けた国で、現在世界一の原子力発電国であ る。2014 年 11 月、100 基、約 9800 万 kW の原子力発電所を運転中である。 原子力発電所の新規建設は 1979 年のスリーマイル島(TMI)原発事故以来、反対運動に加え て電力需要の鈍化を受け停滞してきた。しかし 2000 年以降のエネルギー、電力需要の増大を 受け、2001 年にはブッシュ政権が国家エネルギー政策で原子力推進を謳うとともに、2005 年の「包括エネルギー法」では新規建設に対する財政支援策が盛り込まれ、原子力再稼働へ と転換した。 2011 年の福島第一原発事故の後、アメリカ国内の原子力支持率は一時低下したが、オバマ大 統領は、原子力発電は温室効果ガス削減に大きく貢献するとの観点から、安全性を確保しつ つ原子力発電を推進するとの方針を示した。アメリカでは原子力発電所の安全確保が優先課 題となっている。 しかし、原発の推進機運を鎮静化する動きもみられる。シェールガスの生産拡大で天然ガス の価格が下落していることや、経済の停滞で将来の電力需要が伸びないと予想されているこ とから、新規建設計画を中止したり、先送りしたりする電気事業者も出ている。また、経済 性を理由に出力増強計画をキャンセルしたり、閉鎖を発表したりする原子炉もある。 1.4 水力発電 水力発電による発電量を各州別にみると、西海岸に集中していることが分かる。これは偏西 風が山脈にぶつかる位置にあるため降水量が多いからである。全米の水力発電量の 32%を占 めるワシントン州は、北米最大級のグランドクーリーダム等を有するコロンビア川が流れて おり、水力発電設備が複数存在する。また、湿潤気候帯に属するニューヨーク州も水力発電 量が多い。 アメリカでは水力発電は、クリーンエネルギーの一つとして注目されており、インフラ整備 や技術開発のための資金援助がおこなわれている。 (図表 2;水力発電量の多い州) 21 (日本産業機械工業会『米国水力発電を取り巻く状況について』 http://www.jsim.or.jp/kaigai/1006/007.pdf より引用) 1.5 再生可能エネルギー アメリカでは、一次エネルギー総供給のうち約 5%が再生可能エネルギーによって賄われて いる。特に、風力発電およびバイオ燃料の供給量が拡大している。バイオエタノールについ ては、アメリカは世界第一位の生産能力を有しており、年間 340 億リットルの生産規模とな っている。 風力発電に適した自然条件としては、アパラチア山脈、ロッキー山脈にはさまれた、中央部 に広がる中央平原が存在するが、この中央平原と、その西部にあるグレートプレーンズにお いて、平地であること、また平均的な風速が、風力発電に適した秒速 6m 以上であることが 挙げられる。 (図表 3;アメリカの風況マップ) (経済産業省 資源エネルギー庁『エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書) http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/より引用) また、南西部を中心として、いわゆるサンベルト地帯にあたる地域は、太陽エネルギー資源 22 に恵まれており、太陽光発電が普及している。 (図表 3;アメリカの太陽光発電資源の分布) (経済産業省 資源エネルギー庁『エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/より引用) バイオマス発電については、アメリカで生産が多いトウモロコシの繊維や茎葉、硬木や軟木 の廃材などをエタノールに変換する方法が取られている。 これらの再生可能エネルギーに対してさまざまな支援策が取られている。2009 年に誕生した オバマ政権は、風力、ソーラーといった再生可能エネルギー(グリーンエネルギー)の利用 促進や環境関連技術への投資を景気回復、雇用創出の柱の一つとして位置付ける「グリーン・ ニューディール政策」を掲げている。再生可能エネルギーの促進支援策として、連邦レベル では投資額の一定比率を税額控除する投資税額控除(ITC)や、発電電力量に応じて税額控除 される発電税額控除(PTC)などの優遇税制が挙げられる。州レベルでは供給電力の一定割 合を再生可能エネルギーで賄うことを義務付ける再生可能エネルギー利用基準制度(RPS) が再生可能エネルギー利用拡大に貢献しており、30 の州・特別区において導入されている。 家庭や企業の自家発電余剰能力を電気事業者が小売料金の価格で買い取るネットメータリン グ制度も、ソーラーパネルの設置を増大させている。 1.6 日本の電源構成に活かすべき点 今後の日本のエネルギーを考えるにあたり、化石燃料だけでなく、さまざまなエネルギーを 考慮に入れる必要があると思われる。現在日本は原子力発電の割合がほぼゼロの状態である。 23 しかし、現在のように、自前のエネルギー資源がない日本が、化石燃料を用いた火力発電に 大いに頼っていると、その燃料は海外から輸入しなければならないので、貿易赤字が増大し ていく。また、化石燃料を燃やすと二酸化炭素が発生し、環境にも悪影響を与える。そのよ うな状況を少しでも回避するためにも、化石燃料の割合を減らし、原子力発電や、再生可能 エネルギーと組み合わせていくしかないと思われる。これからの日本は、再生可能エネルギ ーを少しずつ普及させていきながら、原子力発電や火力発電の割合を少しずつ減らしていく という策を取るべきであると思う。 アメリカの発電の中で、日本に活かすべき点としては、再生可能エネルギーを普及させるた めに政府が促進策を取るという点である。再生可能エネルギーがあまり普及しないのは、ソ ーラーパネルや、風車などの発電設備の設置や、技術開発にかかるコストが大きいというの が原因の一つであると思われる。コストを減少させるためにも、政府は優遇税制などを通し て、再生可能エネルギーを用いた発電や、発電設備の技術開発に取り組む企業の負担を減ら すことが必要である。 また、日本の近海に存在しているメタンハイドレートは、メタンの扱いが難しいことから、 扱いにくいエネルギーとされているが、制御技術を開発すれば実用可能である。メタンハイ ドレートを自前のエネルギーとして扱うことは十分に可能であると思う。メタンハイドレー ト実用化のためにも、政府が促進策を取ることが必要になってくると思われる。 2. ドイツ 2.1 ドイツの電源構成における立ち位置と道筋 2010 年 9 月、ドイツ政府は電力に関する長期的な新戦略を採用した。 これは 2050 年までに主要電源を再生可能エネルギーとするというものである。高いエネルギ ー効率と環境配慮を目標としながらも、電力価格と経済発展の維持も両立する考えだ。 ドイツ政府は 1990 年と比較して、2020 年までに 40%、さらに 2030 年までに 55%、2040 年までに 70%、2050 年にはほぼすべての CO2 の削減を計画しているが、福島原子力発電所 の事故を受けて 2022 年までに原子力発電所の段階的廃止を計画。これにより EU の排出権取 引に頼らず 2020 年までの目標を達成することが最初の試練となっている。 2.2 統計とグラフから見たドイツの現状 再生可能エネルギーを主要電源とする戦略を採用しているとおり、再生可能エネルギーの成 長が著しい。福島原子力発電所の事故を受けて 2011 年の原子力発電の量も減少している。褐 炭と無煙炭を合わせた量は多少減少しているものの、増加した再生可能エネルギー分はほと んどが原子力発電の減少分に当てられているのが現状である。 24 また、再生可能エネルギーの内訳について、ほぼ変わらない水力発電に対し、風力発電とバイ オマスの成長が見られる。近年は太陽光発電の成長が著しい。また、今後の家庭ごみを利用し た発電に注目が集まる。 電源の量と割合を見たところで、電力消費量を見る。日本とドイツで比較すると、下図のよう になる。日本の電力消費量は上昇傾向であるのに対して、ドイツの電力消費量はほぼ変わらな い。しかしドイツの CO2 排出量を見ると、確かな減少傾向である。 2.3 総評 CO2 の削減という目線で見た場合、 電力生産、消費を効率化する CO2 をより産まない発電方法へ転換する。 電力消費自体を少なくする。 といった方針が考えられる。 1について電力の生産量と CO2の排出量の変化を考えて効率化がなされているといえる。最 25 も基本的であり、全世界で電化製品や工場機械の技術進歩に組み込まれ、進展している。省電 力化による電気代の節約が企業や家計の関心と一致し、自主的な進歩が起こっている。 ドイツ政府は主に 2 の方針に興味を示しており、発電方法はより温室効果ガスに配慮しクリ ーンエネルギーを利用した発電方法へ転換している。この方針は今後も続くと思われ、原子力 発電の段階的廃止による火力発電の増加分を近いうちに打ち消すと思われる。日本ではどう かと問われた場合、地方を中心に太陽光発電等のクリーンエネルギーによる発電所は日本で も増加しており、多少はこの路線を追っているのではないか。 3について、電力消費自体を削減する方針は、ドイツ政府も国内経済を十分に配慮しているこ ともあり、あまり良く思ってはいないように思われる。日本では震災時の電力不足の時、半強 制的に実施されたが、経済に悪影響を及ぼしている。経済発展を目指す以上受け入れることは 難しいのではないか。 やはり今後重要となってくる分野は資本や労働力以上に技術であろう。上記の1.2.3 のい ずれにおいても技術は重要な位置を占めている。まず第一段階として政府や企業の支援を受 けて、大学や研究者による基礎となる技術の開発を支援することは重要である。しかしそれに もまして、技術だけでなく研究自体を産業の中に組み込み、利益へとつなげる構造を企業や政 府、金融機関までもが考える必要があるだろう。技術を事業と切り離したものと考えるのでは なく、事業の一部と認識し、共同開発も視野に入れながら、企業競争の中に置く必要がある。 3. フランス 3.1 発電供給量割合 フランスの最大の特徴は下記のグラフの通り原子力発電が占める電力の割合が7割を超える 点にある。石油・石炭の使用比率が 1 割を切る国は他に水力発電に電力の 4 割以上を依存す るスウェーデンや水力発電でほぼすべての電力を賄うノルウェーなどしかなく、非常に珍し い。2012年に大統領に就任したオランド大統領は2025年までに原発依存度を現状の 75%から50%に低減する政策案を掲げており、 「縮原発」が今後フランスで進むと予想さ れる。 26 フランス:電源構成(2014) 1 5.00% 0% 77% 20% 火力発電 40% 12.60% 5.60% 60% 原子力発電 80% 100% 水力発電 その他 3.2 フランスの電力政策の背景 フランスで原子力発電が盛んな理由としては、①化石燃料などのエネルギー資源が乏しい。② 石油・天然ガスが豊富な英国、石炭資源の豊富なドイツとの欧州における主導権争いに勝つた め。③余った電力を陸続きの他の国に売ることができる。などが挙げられる。フランスは原子 力を除くエネルギー輸入依存度が非常に高く、主要国では韓国(98%) 、日本(96%)に 次ぐ数値(92%)となっているが、原子力を含むエネルギー輸入依存度を計算すると49% まで数値が下がる。原子力によってエネルギー自給率を高めているが、先に挙げた原発依存度 低減政策によって化石燃料の輸入増加や電力自体の輸入増加が発生する恐れがある。 3.3 発電方法毎のリスクをどう捉えているか 第二次世界大戦前からフランスは原子力の研究・開発の歴史があり、大戦後は自前の核を保 有するという国防の観点から原子力開発を行ってきた。また 1986 年に起きたチェルノブイ リ原発事故後も順調に開発を進めたことからもわかるように原子力のリスクをフランスは低 く考えていた。一方、各原発立地地域に地域情報委員会(CLI)を設置し、原発維持政策に対 する地域住民の不安を解消するための対策も施している。 1981 年より原発立地地域に設置された CLI は住民や事業者との交流・情報発信・事業者の 監督を行い、住民の原発不安解消に努めた。公平性・独立性を担保するため委員会は様々な メンバーで構成されており、メインは地方議員だが、労働組合・環境保護団体・原発専門家 なども含まれている。公平性・独立性を維持するために事業者からの出資を禁じており、財 源は原子力安全機関と関係自治体が半分ずつ負担する形を取っている。 3.4 フランスから日本が学べること 再生可能エネルギーのコストの高さやホルムズ依存度の上昇などの問題点を考慮すると日本 での「脱原発」は現実的ではない。最適な電源構成には原子力発電は不可欠な存在だと言え る。今後も原発を使用する社会を構成するにあたって、地域住民の不安を払拭する作業が必 要になってくるので日本版 CLI を設置することを一つ提案する。原発の「安全神話」が崩壊 27 した今、原子力のリスクや安全性を客観的事実に基づいて地域住民に伝え、広報活動をより 強化して情報提供を行うことが重要になる。また日本の原子力政策は地域住民の声が殆ど反 映されていないと言われる。地域住民の不満を解消するには地域住民の声を政治に反映する ことも効果的だと考えられる。 4. 韓国 4.1 韓国の電源構成 韓国の2011年の総発電量は515.5 TWh(テラワット時)である。 その電源は、 石炭 (45.2%) 、 原子力 (29.1%)、 天然ガス(21.2%) 、石油(2.9%) 、水力(0.9%) 、生物燃料と廃棄物 (0.2%) 、風力(0.2%) 、その他(0.2%)で構成されている(図 1 参照) 。つまり、総発電 量の約 75%を石炭と原子力に頼っている一方で、政府が近年重要視している再生可能エ ネルギーによる発電は総発電量の 1.5%に留まっている。 エネルギー自給率の低い国、供給リスクの高い国、エネルギー需要の急増が見込まれる国 は原子力を重要視する傾向にあるが、それは韓国の電源構成にも表れている。韓国の主要 なエネルギー源である無煙炭、石油、天然ガス、水力は、いずれも韓国での埋蔵量や包蔵 水力が極めて少ないため、エネルギー供給のほとんどを輸入に依存している。 韓国の電源構成(2011年) 生物燃料、廃棄物, 0.2 水力, 0.9 風力, 0.2 その 他, 0.2 石油, 2.9 天然ガス, 21.2 石炭,45.2 原子力, 29.1 図 1:IEA より作成 4.2 韓国の電力問題とその対策 韓国は世界で 13 番目に大きい経済規模で、エネルギー多消費国である。2011 年の総電力 28 容量が79.1GW (ギガワット) であったことに対し需要は最大で約 71.3 GW にも達した。 近年は電力の供給に余裕がないため、部分的な送電の停止が実行されることもある。 この 5 年間で韓国の電力市場は約 30%拡大してきて、政府は将来の電力需要の増加に間 に合わせるために原子力と再生可能エネルギーによる発電容量の更なる増加を計画して いる。2008 年 8 月には、エネルギー基本法制定後初の国家エネルギー基本計画を制定し た。この計画では 2030 年を目途とした原子力発電と再生可能エネルギーの大幅な拡大が 掲げられた。このようなエネルギーの自立社会を目指している再生可能エネルギーの促進 計画には、低炭素技術とクリーンエネルギーにより経済成長を促進する狙いもある。 原子力発電の推進に関して、東日本大震災後の 3 月 16 日、崔知識経済部長官は、国内の 原子力発電所の検査を始めるとしながらも、2030 年までに発電量シェア 59%をめざす計 画を放棄しないとの方針を表明した。その一方で、韓国では 2011 年の福島第一原子力発 電所の事故を受けて、効率性や経済性の面から促進されている原子力発電の開発に対し、 安全性の観点も取り入れられてきている。2015 年 6 月 12 日には、経済性と安全性の観 点から、韓国初の原子力発電所である古里原発の一号機の廃炉が、産業通商資源省により 運営企業に勧告された。また、2013 年 12 月に策定された「第二次国家エネルギー基本計 画(2013~2035 年) 」では、福島第一原子力発電所の事故等を考慮し 、2030 年までに 41%に引き上げる方針だった原子力による発電設備の比率が、第二次計画では 2035 年ま でに 29%増という計画修正が行われた。 政府は原子力と再生可能エネルギーによる発電の開発以外にも、エネルギーの安定供給の ため、国内での天然ガス等の資源開発を進めるほか、エネルギー源や輸入相手国の多様化 や海外での資源開発を積極的に推進してきた。こういったエネルギー関連の 研究や開発、 実証への政府の支出は OECD 諸国で最高水準にある。さらに利用に関しても、エネルギ ーの効率的利用や化石燃料の使用を減らす計画も促進している。 化石燃料は温室効果ガスの排出量が多い。2020 年までに温室効果ガスの排出量 30%の削 減することをエネルギー基本計画において掲げている韓国としては、化石燃料での発電に、 輸入に頼るため不安定なエネルギー供給となってしまうリスクだけでなく、温室効果ガス の排出量削減を妨げる要因となるリスクも感じているだろう。 4.3 日本との関連とまとめ 韓国は日本と同様、輸入エネルギーに依存する構造である。韓国では、エネルギー自給率 を高め、エネルギーの安定的な供給を目指すために、原子力発電と再生可能エネルギーに よる発電を増加させる計画を立てている。韓国のように原子力発電に多く頼ることは、原 子力発電所での事故が起きて数年の日本では理解が得られない可能性も十分にある。再生 可能エネルギー分野では日本も開発を進めているが、韓国での RPS 制度の非太陽光発電 に関する普及率の低さといった政策の失敗点などからは、同じ状況にある日本として学ぶ ことがあるだろう。 29 一方で、韓国では高効率システム化によるエネルギー低消費社会の実現も目指している。 例えば韓国では韓国エネルギー管理公団が効率エネルギー表示規定を設け、対象製品を 5 段階に分類しているため、消費者が製品ラベルからエネルギー効率の良い製品を判別する ことができるようになっている。これは生産者側にもエネルギー効率の良い製品をつくる 動機づけになり、消費者側も節電がより容易になるというメリットがある。このような韓 国におけるエネルギー低消費社会に向けた政策には、日本が参考にできるものもあるので はないだろうか。 5. ニュージーランド 5.1 供給源別内訳(2011 年) 水力:57.6% 天然ガス:18.4% 地熱:13.3% 石炭:4.7% 風力:4.5% 木材:0.8% バイオマ ス:0.5% ※原子力 0% 水力 0.8 0.5 天然ガス 地熱 57.6 18.4 13.3 4.7 4.5 石炭 風力 木材 バイオマス 0% 20% 40% 60% 80% 100% 近年、環境問題が浮上したことにより水力発電所の新規建設が抑制され、水力の割合は減 少傾向にあるが、依然として総発電量の 6 割近くを水力が占めている。また、2007 年に クラーク政権は「2050 年に向けたニュージーランド・エネルギー戦略」で 2025 年までに 再生可能エネルギーの発電シェアを 90%にすることを国家目標として設定し、目標達成 のため再生可能エネルギー、特に環境問題が伴わない地熱・風力発電への依存度が高まっ ている。加えて、大規模な潮力発電所建設計画も発表されており、再生可能エネルギーの 割合は今後ますます増加すると考えられる。ARC 国別情勢研究会(H26)参照 5.2 水力発電に依存するリスク 総発電量の半分以上を水力に依存しているニュージーランドでは、降水量の減少により電 力不足が生じ、電気料金が高騰するという問題が存在する。企業は長期固定料金契約の締 結により、電気料金高騰対策をしているが、固定料金は上昇傾向にあり、問題の根本的な 解決には至っていない。また、政府は一定の使用量以下の世帯については 1 日 30 セント 30 の固定料金で利用できるよう電力小売り業者に義務付けている。ARC 国別情勢研究会 (H26)参照 5.3 地質 ニュージーランドは太平洋プレートとオーストラリアプレートの境界に位置し、地震が頻 発している。平均して、マグニチュード 8 級地震は 100 年に1回、7級は 10 年に 1 回発 生する。最近では 2015/4/24 にM6.3 の地震が 2011/2/22 にM6.1 の地震が発生している。 また、北島には長さ約 300km、幅約 30-75km のタウポ火山帯があり、火山活動が活発で ある。そのおかげで地熱発電の発電量が大きい。植村善博(2007)参照 5.4 埋蔵資源 石炭・石油・天然ガス等が存在するが、石油の輸入依存度は 57.14%であり石油に関して は輸入に頼っている状態である。IEEJ(2011)参照 5.5 日本への応用点 日本には新たに水力発電所を建設できるような河川は少なく、ニュージーランドとは違い 天然資源も豊かではないので、水力・火力発電の増加はあまり見込めない。しかし、日本 にはニュージーランドと同じく、火山帯が走っており豊富な活火山が存在するので、温泉 協会の反発はあるだろうが、地熱発電所を建設できる場所はまだまだある。また、風力や 潮力、バイオマス発電等の再生可能エネルギーの利用は日本ではまだ進んでおらず、火力 や原子力の代替エネルギーとして活用できると思われる。 <参考文献> ・柴田明夫『 「シェール革命」の夢と現実』2013 年 PHP 研究所 ・経済産業省 資源エネルギー庁『エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/ ・Sustainable Japan『[エネルギー]世界各国の発電供給量割合』 http://sustainablejapan.jp/2015/03/03/world-electricity-production/14138 ・電気事業連合会『米国の電気事業』 http://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_jigyo/usa/index.html ・海外電力調査会『データ集(各国の電気事業:米国) 』 http://www.jepic.or.jp/data/ele/pdf/ele01.pdf ・日本産業機械工業会『米国水力発電を取り巻く状況について』 http://www.jsim.or.jp/kaigai/1006/007.pdf AG Energiebilanzen e.V. 『20141216_brd_stromerzeugung1990-2014』 31 http://www.agenergiebilanzen.de/index.php?article_id=29&fileName=20141216_brd_stromerzeugung19902014.pdf エネルギー 世界各国の発電供給量割合 http://sustainablejapan.jp/2015/03/03/world-electricity-production/14138 一般社団法人海外電力調査会 http://www.jepic.or.jp/data/gl_date/gl_date03.html フランスの原子力政策及び計画 http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-05-02-01 エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方 一橋大学からの提言 橘川武郎 安藤晴彦編著 第一法規 原子力政策に関する信頼向上について 資源エネルギー庁 http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/011/pdf/011_003.p df ・International Energy Agency 「Energy Policies of IEA Countries The Republic of Korea 2012 Review」 <http://www.iea.org/publications/freepublications/publication/Korea2012_free.pdf> (アクセス日:2015/8/30) ・ 「経済産業省資源エネルギー庁」 <http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2011html/1-2-2.html>(アクセス日:2015/8/24) ・貝瀬秋彦「朝日新聞」 <http://www.asahi.com/sp/articles/ASH6D5H20H6DUHBI01B.html> ( ア ク セ ス 日:2015/8/31) ・経済産業省資源エネルギー庁「各電源の特性と電源構成を考える上での視点」 <http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/005/pdf/0 05_05.pdf>(アクセス日:2015/8/31) ・ 「CORCS」 <http://www.korcs.jp/ 東 ア ジ ア -1/ 韓 国 -kc/ 効 率 エ ネ ル ギ ー /?mobile=1> ( アクセス 日:2015/8/31) 資源エネルギー庁 『 【第 214-1-6】発電電力量の推移(一般電気事業用)(xls/xlsx 形式:79KB) 』 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2013html/data/whitepaper2013_214-1-6.xls International Energy Agency 『Energy Policies of IEA Countries - Germany 2013 Review』 http://www.iea.org/Textbase/npsum/germany2013SUM.pdf 32 ARC 国別情勢研究会『ARC レポート ニュージーランド 2014/15 年版』平成 26 年 ニュージーランド学会編『ニュージーランド百科事典』2007 年 春風社 日本エネルギー経済研究所 2011 年 https://eneken.ieej.or.jp/news/trend/pdf/2011/1_18NewZealand.pdf 6. インド インドの発電方法比較 この節では、世界 2 位の人口を抱え、今後の電力需要も増加していくと考えられるイ ンドについて、固有の事情を踏まえた上で、原子力発電を念頭に各種発電方法について 考察していく。 6.1 地理的条件 図1のようにインドのネパールやパキスタンとの国境付近はユーラシアプレートとイ ンドプレートの境界であり、新規造山帯15であるため地震が多いが、国土の大部分は安定 陸塊16であり、地震の発生確率は低く、原子力発電所の立地としての制約はあまりない。 一方そのために、図 2 のように国土が平坦で、比較的降雨量の少ない乾燥した気候であ ることもあり、水力発電に向いている場所は限られている。地熱発電も安定陸塊である ことから不向きである。インドは緯度が低く、年間の平均日照時間が 300 日以上あるこ とから、太陽光発電に向いている。 造山運動の時期によって 3 つに分類する大地形の一つで、今も造山運動が行われている地域。起伏 の大きな地形が特徴で、火山や地震による災害が多い。日本列島はこれに属する。 16 3 分類の中で最も昔に造山運動が行われた地域、現在は侵食が進み台地や平原をなす。世界の陸地 の大半は安定陸塊である、 15 33 図 1 「世界のマグニチュード 6 以上の震源分布とプレート境界」 (注)2004~2013 年 平成26 年度防災白書 より引用 図 2「インドの標高」 Gooogle Earth で作成(標高データは「Google Earth で見る世界地 34 図」より引用) 6.2 エネルギー資源 インドは石油、天然ガスが採れるが、自給できるほどではなく、可能採掘年数も短い。 一方 CO2 排出量の多い石炭は豊富であり、図 3 のように 2010 年の一次エネルギーの供 給構成の 42%、発電量の 68%を石炭が占めている。全体としてみると、エネルギー自給 率は 2010 年で 75%であり、エネルギー資源の純輸入国である。また、2014 年のインド の貿易額トップは原油・石油製品であり、貿易赤字の一因ともなっている。さらに、イン ドの CO2 排出量は外務省「二酸化炭素排出量の多い国」ランキングによると、中国・ア メリカについで 3 位と多く、日本の約 1.5 倍である。 2010 年のインドの再生可能エネルギーは一次エネルギーの 25%を占めている。インド の「第 12 次 5 ヵ年計画」では持続可能性を考慮して、成長は環境に配慮する必要がある とのしており、国策で再生可能エネルギーにも力を入れている。伝統的に燃料に牛糞を 加工したものや、薪炭を使うなど、途上国ではもともと再生可能エネルギーの利用割合 が多い傾向にあることもあり、電源構成で見ると十数%と少なくなり、大半が水力であ る。しかし近年、太陽光・風力発電といった近代的な再生可能エネルギーも推進してお 35 り、モディ首相も 2022 年までに、太陽光で 100 ギガワット、風力で 60 ギガワットの発電 を目指すという目標を掲げている。 一方で電力不足は深刻であり、常に需要が供給を上回る状態であるため、日常的に停 電が発生している。経済成長に伴い電力需要も伸びているため、発電能力の増加が追い ついてない。 図3 6.3 インドのリスクに対する認識 インドは植民地支配を受けていたこともあり、外国企業の進出への抵抗を抱く国民が 多い。また、インドは 1984 年にアメリカの殺虫剤製造工場の化学物質流出で、死者 2 万 人・後遺症患者約 60 万人の大事故があった。この事故の補償が十分に行われなかったこ とから、外国企業の投資に対する国民の不信感がつよくなった。この事故を受けて、イン ドは「原子力損害賠償法」という厳しい法律を制定した。この法律では、設備に欠陥があ 36 った場合、設備の供給業者にも巨額の保証責任を問うことができ、補償金請求期間も長 いものになっている。その結果、世界の原発メーカーは進出に慎重であった。2008 年に 米国と原子力協定が結ばれたあとも、米国企業は進出に慎重で、オバマ大統領は 2015 年 に「原子力損害賠償法」に備えるものとしてインドの国営の保険会社が賠償の一端を担 う妥協案に合意した。 一方でインドは第12次 5 ヵ年計画で主要な課題としてエネルギー価格の合理化も掲 げており、日本やアメリカ、ロシアなど各国と原子力に関する協定を結んで参入を促し たり、原発建設計画について合意している。 一方、インドは核兵器保有国であり、核拡散防止条約(NPT)に未加入であることか ら、原子力技術の平和利用という観点から疑問がある。 エネルギー安全保障の面からは、インドは石油を地理的にも近い中東から輸入してい るが、2012 年にアメリカがイランの制裁を導入した際に、インドもイランから原油の輸 入を控えるように要請され、中国に次ぎイランからの輸入量の多いインドは制裁に自国 が巻き込まれるのを防ぐために妥協してイランからの輸入量を抑制させられた。このよ うに、インドも産油国リスクと無縁ではないことがわかる。 6.4 日本が取り入れられる点 インドと日本の共通点として、資源輸入国であることが挙げられる。偏在性が高く、貿 易赤字の原因である原油と、二酸化炭素排出量の多い石炭の使用を減らし、再生可能エ ネルギーを推進すると同時に、原子力発電に対する過剰な規制を見直し、国が賠償リス クを軽減するしくみを導入することで原子力発電による発電も増やしてバランスをとっ ていくインドの姿勢は参考になる。日本も温暖化や資源の埋蔵量、エネルギー安全保障 といった制約の中で、今後必要になってくる発電量を達成するには、原発の新設は避け ることができない。インドのように、再生可能エネルギーを推進していくと同時に、事故 時の国の役割を明確にして事業者のリスクを明確にして、原子力発電を取り入れていく 必要がある。 <参考文献> 東京法令出版『地理資料』2012 年 橘川武郎・安藤晴彦編著『エネルギー新時代におけるベストミックスのあり方』 2014 年―第一法規 内閣府『防災白書』平成 26 年度版 日本エネルギー経済研究所『1-5 インド』2013 年 10 月 http://eneken.ieej.or.jp/news/trend/pdf/2013/1-5_India.pdf 外務省 『インド基礎データ』http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/india/data.html 37 『二酸化炭素排出量の多い国』 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/co2.html Government of India [Twelfth Five Year Plan 2012-2017]『第 12 次 5 ヵ年計画』 http://planningcommission.gov.in/plans/planrel/12thplan/welcome.html REUTERS 『インド原発推進合意、米大統領の抜け目無い布石か』2015 年 1 月 27 日 日本経済新聞 『 「ボパールの悲劇」から 30 年 大事故の後遺症、今もなお』2014 年 12 月 11 日 『ロシア、インドに原発 12 基建設 首脳会談で合意』2014 年 12 月 12 日 JPEA『インド太陽光発電市場 視察調査報告』平成 24 年 http://www.jpea.gr.jp/pdf/02semi210_07.pdf Google Earth で見る世界地図 http://www.osakakyoiku.ac.jp/~syamada/map_syamada/GE_Maps/Q_Landform_GoogleEarthMaps.ht ml 38