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Page 1 Page 2 38 アフリカの人々と名付け18 父親の名前から苗字へ
\n Title Author(s) Citation アフリカの人々と名付け 18 父親の名前から苗字へ 小馬, 徹; KOMMA, Toru 月刊アフリカ, 36(6): 38-39 Date 1996-06 Type Journal Article Rights publisher KANAGAWA University Repository アフリカの人々と名付け 1 8 父親の名前から苗字へ 小馬 苗 字 か父子 連 名 か 徹 の一つは、エチオ ピアに住む クシュ語系のコ に父の名を添え る、(ロ)原則 と して父系に ンソ人である。彼 らの場合、苗字を もつのは ● 各 々の リネージの司祭に限 られ、 しか も、苗 よって継承され る一種の苗字に本人の名を添 字の継承 には次の 3つの要素か らなる規則が える、 という 2つの方法が」ある。 「(イ)は 守 られ る。即 ち、( 1 ) 初代の司祭の息子たちは、 西アフ リカの名付けでは、 「(イ)本人の名 きわめて浅い時間の参照要素を、(ロ) は擬 2) 第2 同腹異腹を問わず、同 じ苗字を もつ。 ( 制的な系譜関係 も含めた、より深い時間の参 世代では、長男の息子たちだけがその苗字を 照要素を加えた、二項命名方式」だが、現実 受け継 ぎ、次男以下の息子たちは父親の名前 の系譜深度が浅いので、「 事実上 『 個』を共 を苗字 とす る。 ( 3) 第 2妻以下の妻が産んだ息 時的な 『 類』に分ける役割 しか果た していな 子たちは、仮 にその妻の長男であって も、第 いことが多い」 という [ 川 田順造、「 モ シ族 1妻の次男たちと同 じ取 り扱 いを受ける。コ の命名体系 」 『 民族学研究』4 3 ( 4 ) ,1 9 7 9 ]。 ンソ人の この命名法は、兄弟たちの団結 と長 東 アフ リカの場合 も、基本的にはこの図式 男の優越 という 2つの原理を統合 してお り、 で把握できる。 しか し、苗字を持つ民族はき 初代の司祭の名前が苗字 として各世代の長男 わめて例外的で、 この場合で も民族成員のご に受け継がれて行 く事 になる [ Hal l pi ke ,C . く一部の人 々が苗字を もつに過 ぎない。 ,TheKons oo fEt hi o pi a,1 9 7 2 ]o E. 例えば、キブ シギス人を初めとす るケニア コンソの命名法 は、父子連名による 「 二項 のカ レンジン諸民族やマサイ人などでは、父 命名方式」である。ただ、司祭だけはこの連 子連名により 「 二項命名方式」が取 られ、男 環方式の一部が固定化 され、親の個人名が息 性の正式名は 「Aの息子 B」 となる。 子たちの苗字 となる。そ して、長男の系列が 一方、アラビア半島のオマーンの強い影響 初代の名前を苗字 として維持 し続 ける一方、 下で形勢されて来たスワヒリ語を母語 とする、 次男以下で は同 じ連環 と固定の過程が反復さ ザ ンジバル、ラム、パテなどの住民の間では れ、次々と父親の名前の苗字化が行われて行く。 祖父 ・父 ・息子 〔 娘〕 3者の連名による 「 三 項命名方式」が見 られる。 この場合、正式名 父子 連名 か ら苗 字へ は 「Aの息子の Bの息子 〔 娘〕 C」になる。 ところで、ザイールのテ ンポ人 は、 自分の この方式は、イスラム文化の影響を強 く受け 名前を単独で用いていた。 ところが、欧米の たアフ リカの他の地域にも普及 している。 制度の影響を受 けて、手紙や書類 には父子連 これ らの命名方式を もつ人々の間には、従 来苗字の観念は見 られなか った。 名方式で記名す る傾向が生 まれた。更 に少数 だが、父親の揮名を姓のごとく用いる例が出 始 めている。例えば、「 髭づ らの人」 と呼ば 父親 の名前 の苗 字化 東アフ リカの民族で苗字を もつ数少ない例 3 8 れ るの に髭 の な い人物 が い る。 「 髭づ らの 人」は父親 の津名なのだ。「 つ ま りある個人 に与え られた 『あだ名』をその息子 たちがあ の天皇、更にはタイの国王などを後者の典型 たか も自分の名前のよ うに用 いるのであ る」 。 的な例 として挙げる事がで きるだろう。 この事例を報告 した梶茂樹 は、「 『 姓』がた とえばフランスでpatronyme<父親の名前 > 苗字と社会構造 と呼ばれ ることを考えあわせればきわめて興 つまり、父親の名前の苗字化 は、先祖が獲 味深い」 と述べて いる [ 「テ ンポ族 における 得 した権威を保存 ・継承す る一つの方法であ 季刊人類学 』1 6 ( 1 ) ,1 9 8 5 ]。苗字 個人名」 『 り、そのために命名法を利用 しようとす る事 と個人名の間に父称を入れ るロシアの名付 け だ と言えよう。 - 即ち、父子連名による 「 二項命名方式」 と苗字の結合 - は、 この点で興味深い。 梶がテ ンポにおける父親 の揮名の苗字化の 例 と して挙 げたのは、「 髭づ らの人」の他 に 実は、父親の名前を固定 してあたか も苗字 は、 「人づ きあ いの よ い人 」 と 「よ く働 く のように用 いる傾向は、今やケニアなどで も 人」である。 「 玉邑づ らの人」の含意 は明 らか 現れつつある。ただ しそれ は、大概、父親が にされていないが、「 人づ きあいのよい人」 社会的に傑 出 した人物である場合 に限 られ る。 と 「よ く働 く人」が、いずれ も肯定的な含意 を もっている事実 は見逃せない。つまりこれ 苗字 と王権 さて、先 に概観 した コンソ人の命名慣行を 参考にすれば、 この新 しい傾向の社会的な意 味をよりよ く理解す る事が出来 るだろう。 らの事例は、萌芽的な形で、上の私の仮説を 証 していると考えてよい。 アフ リカ諸国で は、特 に大統領の子孫など、 政府高官や著名な政治家の子孫たちが苗字を コンソの最初の司祭の息子たちは、始祖の もとうとす る傾向が著 しい。大統領制 とは、 権威を保持 し、継承す るために父親の名前を いわば現代の 「 年限付 きの王制」であると言 苗字とした。 しか し、同時 に、一方で は権威 える。 しか も、実際には、 アフ リカ諸国の大 を発散 させないために、その苗字を受 け継 ぐ 統領は終身その地位 に留 まりがちだ。 者を長男に限定 したのである。 この規則 に則 ところで、ブルキナフ ァソのモ シ人の問で れば、様 々な位階を もつ権威 とそれに対応す は、個人の差異化をめざす詩名 としての 「 戦 る苗字が生み出され る結果 になる。 名」は、それが苗字化 され ると類へ と発散 し 司祭や予言者 とは、人 々と神や祖霊 との問 て しまう、 と川 田は述べた。だか ら、それを に立って両者を仲介 し、作物の豊かな稔 りや 避 け るため に王 は苗字 を拒絶 し、王 の 「 戦 家畜の繁殖、な らびに人 々の繁栄を確保す る 名」は名前の意味作用を強めるべ く長大 にな 事に奉仕す る役職の事である。 しか しその一 る [ 川田順造、前掲書]。 方で、 こうした宗教的な職能者 は、神秘的な しか し、 これはモ シや 日本など、貴族 ( や 媒介力の行使を差 し控えるとい う脅 しによっ 庶民)が苗字を持つ階級社会での事情である て、往 々人 々を支配 しようとす る。だか ら、 だろう。東アフ リカで は、植民地化を経て、 多くの民族で、司祭や予言者 は宗教的な王で 無頭的な平等社会を糾合 した 「 国民国家」が ある 「 神聖王」の起源 とな っている。 作 られた。そこで生み出された新 しい様 々な 「 神聖王」は、やがて暴力装置を獲得 して 権威 と地位を保存 したいとい う意志が人 々の 「 世俗王」になって行 く場合がある。また、 心 に卒 まれ、伝統的な命名法が変化 して行 く 宗教的権威 に止 まって、世俗的な権力である 時、その行 く手 に苗字の観念が立 ち現れ る。 王に桔抗す る場合 もある。 ローマ教皇や 日本 ( こんま とおる 神奈川大学社会人類学) 3 9