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3 山地酪農を目指す新規就農者への飼料給与指導

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3 山地酪農を目指す新規就農者への飼料給与指導
3 山地酪農を目指す新規就農者への飼料給与指導
○南波ともみ 山本健晴 井上和典 1) 岡野良夫 大浦知行 2)
要 約
山地酪農をめざし、平成 24 年 1 月に開牧、乳用育成牛のみを飼育していた新規就農者が、平成 25 年
5 月に島内唯一の酪農家が廃業をしたため、急遽、妊娠牛を導入、生乳を生産することとなった。昼夜放
牧飼養を希望するものの、当該地は開墾、草地造成ともに中途段階であったことから、放牧地造成が完
了するまでの間、廃業した酪農家のパドックにて八丈島に自生する野草を与え、飼養することとなった。
しかし、放牧未経験牛であったこと、暑熱、飼料変更等のストレスにより、死産、導入牛の死亡、乳成
分の低下などの問題が相次いだ。当所では平成 19 年度に八丈に自生する野草を用いた肉用繁殖牛飼養に
関する調査を行っていた経験を生かし、放牧地および採草地の確保と造成が完了するまでの間、農業振
興事務所の助言をうけ、1)刈り取り野草の細断給与、2)給与する野草の成分分析及び給与メニュー
の提示、3)八丈島に自生する主な毒草に関するパンフレットの作成等の指導を行った。野草のみの給
与では乳成分の向上が期待できないため、配合飼料の増飼を行うこと、冬季は野草の確保が見込めない
ため、野草に加え購入粗飼料もしくは自給飼料を給与することとなった。指導前と比較し、ボディーコ
ンディショニングスコア(BCS)は 2.25 程度から 2.75 程度に向上、乳成分も向上し、年内販売開始に至っ
た。当面、本給与体系を維持し、徐々に昼夜放牧方式に移行するよう指導をすすめていく。
ととなった。農場の従業員は、経営者とは別に、
農場概要
岩手県内の山地酪農を実践している牧場で研修を
今回指導を行った農場は牛乳工場経営者が通年
していた職員 1 名のほか 2 名の計 3 名が主として
昼夜放牧、いわゆる山地酪農を目指し、平成 24
管理をし、その他牛乳工場の職員 4 名が島内の野
年 1 月、八丈島に開牧した農場で、当初育成牛 2
草等の草刈を行っていた。経営者も含めてほぼ全
頭、去勢牛 2 頭を飼養していた。しかし、平成
職員が畜産の知識と経験が十分であるとは言えな
25 年 5 月に島内唯一の酪農家が廃業したことか
い状況であった。当牧場の経営方針として、粗飼
ら、同年 9 月に島内牛乳供給を行うべく、急遽 7
料は島内の野草を使用し、配合飼料はなるべく使
月に分娩 1 ヶ月前のジャージー初妊牛 6 頭を岩手
用せず、使用しても非遺伝子組み換え飼料を用い
県より導入した。しかし、放牧地は自然公園法に
ることとしていた。
基づく特別地域に指定され、開発には諸手続きが
経 緯
必要な場所であり、かつ、現状の開発面積では山
地酪農を行うには不十分であった。また、導入時
1.導入から導入牛死亡まで
点の開牧部分はすでに入牧していた牛群の踏圧に
7 月 3 日、岩手県よりジャージー牛 6 頭を導入。
より可食草類がなく、搾乳施設も未整備であった
すべて分娩 1 ヶ月前の初任牛であった。牛導入時
ため、当面廃業した酪農家の農場にて飼養するこ
には配合飼料が手配できず、代替飼料として当所
の指導によりふすまを給与していた。また、当時
1)農林水産部農業振興課 2) 東京都農業振興事務所 平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 9 -
1 血液生化学検査結果
表㻝㻌 表血液生化学検査結果㻌
検体№㻌 死亡牛㻌
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溶血㻌
+㻌
++㻌
++㻌
++㻌
++㻌
㻌㻌
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上限値
上限値
下限値
下限値
推奨値
上限値
上限値
下限値
下限値
図㻝㻌 図代謝プロファイルテストの実施(㻥月㻝㻝日)㻌
1 代謝プロファイルテストの実施(9 月 11 日)
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 10 -
の給与粗飼料は、約 1 ヘクタールの採草地からと
で 15kg、配合飼料 5kg、豆腐粕 1kg と変更され
れる野草(ハチジョウススキ、メダケ等)
、アシ
ていた。本農場では岡山県のジャージー牛の成績
タバ製品加工時に廃棄されるアシタバの茎、剪定
を元に乳脂肪 4.3%、乳量 10kg を目標に掲げてい
樹木(オオバヤシャブシ、モチノキ)を給与して
たが、当時の給与量では本目標値に対する栄養要
いた。しかし、当該牛は放牧経験がない牛のため
求量は充足されず(TDN 69.7%、CP78.1%)
、
か、導入直後 1 週間は摂食せず、その後摂食が始
かつ、給与していた野草も刈り取ってきたままの
まったものの給与した野草の一部分しか食べない
長物給与で、相変わらず給与量のすべてを摂食し
状況であった。このような状況にもかかわらず当
ている状況ではなかった。また、飼養環境も暑熱
時の経営者、従業員とも「よく食べている」との
の影響が大きく、日中気温が 30 度を越し、飼養
認識であった。ふすまは、配合飼料代替として、
されているパドックについても床面が 30 ~ 60℃
農業振興事務所の助言から1頭当たり 4kg の給
と非常に厳しい飼育環境であった。本牛群の状態
与を行うよう助言していたが、実際には 3kg し
を把握するため、代謝プロファイルテストを実施
か与えていなかった。当時の給与量は野草刈り取
した。実施項目は、飼料給与調査、BCS、ルー
り原物量で 10kg、ふすま 3kg であった。可消化
メンフィルスコア、血液生化学検査とした。な
養分総量(TDN)充足率は 44.5%、粗タンパク
お、各項目の平均値は総コレステロール、LDL、
質(CP)充足率は 46.9%であった。しかし、実
トリグリセライド、遊離脂肪酸については生産獣
際には、粗飼料は目視下において刈り取り原物
医療システム乳牛編 1) に記載されている優良牛
量の 4 割程度しか摂食していない状況であった。
群の平均値を、その他については岡山県のジャー
BCS は導入時(2.75 ~ 3)と比較し、出産前で
ジー種の血液成分検査値の平均値 2) を用いた。
あるにもかかわらず、
低下していた(2.25 ~ 2.5)
。
ルーメンフィルスコアについては良好であった
その後、8 月 9 日出産予定の牛が 8 月 6 日に死産
が、栄養面については全体的に不足しており(図
し、その翌日に乳熱およびクレブシエラによる甚
1)
、
前回の状態に引き続き栄養不良の状態であっ
急性乳房炎により死亡した。他の導入牛において
た。
も同様の事故が予想されたため、導入時に採取し
指導内容
た血清と事故発生時に採取した牛群の血清を用い
て血液生化学検査を行い、
比較した
(表1)
。なお、
飼養牛群の栄養面を改善するため、当所より 2
死亡牛の測定値は治療、補液後のものである。い
点の改善策を提案した。1 点目は、粗飼料の給与
ずれの牛も総コレステロール値が導入時よりも極
量と比較して摂食量が少ないことから、樹木、メ
度に低下し、BUN も死亡した牛を除き、低値を
ダケを代表する笹以外の野草等について細断を行
示していたことから、著しい栄養不良であった。
い、給与量を計測するよう指導した。導入牛は放
2.導入牛死亡から乳脂肪低迷の相談まで
牧経験がないことから、野草を舌で巻き取って食
その後約 20 日間に 2 頭の導入牛が出産したが、
べるという行動ができていないこと、ルーメン内
いずれの牛も乳脂肪が低迷しているとの相談を受
微生物が野草の消化に馴化してないため消化に時
けた。当初はサンプリング方法に問題があったた
間がかかる、暑熱により長いままの粗飼料給与で
め、改善指導をおこなったが、その後も乳脂肪に
は発酵熱により、さらなる暑熱ストレスがかかる
改善がみられないため、
再度当所に相談があった。
として細断を行う事由について説明、指導した。
給与飼料について確認した結果、粗飼料の種類は
2 点目として野草を主体とした給与メニューの
前回の指導時と同様であったが、給与量は原物量
提案をおこなった。当所では平成 19 年度に肉用
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 11 -
表2㻌 㻌表2
飼料分析結果(㻴㻞㻡年度)㻌
飼料分析結果(H25 年度)
名 称
分析値の
区分
水分
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チガヤ
主体乾草
タチスズメヒ
エ
ストレリチア
ヨメナ
メダケ(笹)
※現物値は試料の生品当たりの分析数値
※乾物値は試料水分0%としたときの換算値
※TDNは日本標準飼料成分表(2009年度)の消化率を参考にして算出した。
牛を対象とした野草給与に関する調査 3) を実施
いという物理的な問題があることから、イネ科の
していたことから、これらのデータを活用し、乳
野草を主とした給与メニューを提示した。
牛に応用することとした。野草の成分分析は平成
図2に泌乳初期の給与メニューを示す。当時、
24 年度までに計 17 種を実施しており、これに加
豆腐粕がわずかであるが、手に入る状態だったの
え今年度は 6 種の分析を実施した。いずれの野草、
で、豆腐粕を入れた給与メニューとした。この場
特にイネ科であるハチジョウススキ、チガヤ、タ
合、飼料費用は配合飼料1㎏当たり 120 円、野草
チスズメノヒエなどは種間において成分に大きな
刈り取り費用 10 円とし、乳価を1㎏当たり 200
違いはみられなかった(表2)
。マメ科植物では
円とした場合の乳飼比は 61 となった。次に泌乳
クズが八丈では代表的な野草であるが、量が少な
最盛期の給与メニューを示す(図 3)
。配合飼料
いため、乳牛が必要とするタンパク量をまかなう
を 11kg に増飼した場合、乳飼費 48 となり、都
ことはできない。メダケについては粗タンパク量
内酪農家の乳飼比 60 と比較しても経営的にかな
は他の野草と比較して多いものの、全量を牛に摂
り良好な状態となる。なお、野草を給与すること
食させるために細断をした場合、胃にささりやす
から毒草の給与防止対策を実施した。従業員も毒
泌乳初期 乳量㻝㻜㎏ 乳脂率 㻠㻚㻟%㻌
泌乳最盛期 乳量 㻝㻡㎏ 乳脂 㻠㻚㻟%㻌
給与植物:マグサ(ハチジョウススキ)
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給与植物:マグサ(ハチジョウススキ)
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+
+
配合11㎏(1日3回に分けて給与)+リン酸Ca㻌 30g
配合9㎏(1日3回に分けて給与)+豆腐粕㻌 1㎏
DM充足率107.1%、TDN充足率105.4%、CP充足率114.5%
DM充足率106.5%、TDN充足率105.8%、CP充足率123.0%
乳飼比48
乳飼比61
図2㻌 野草等を用いた給与メニュー㻔泌乳初期)㻌
図2 野草等を用いた給与メニュー ( 泌乳初期)
図3㻌 野草等を用いた給与メニュー(泌乳最盛期)㻌
図3 野草等を用いた給与メニュー(泌乳最盛期)
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
- 12 -
草についての知識がなく、実際に従業員が八丈島
に加えて購入乾草を与えて飼養を行っている。平
に多く自生するキンポウゲ科のセンニンソウのみ
成 25 年 11 月には放牧経験牛 4 頭を新たに導入し、
を多量に給与しようとした事例があった。
そこで、
現在は 7 頭で搾乳を実施している。当初平成 25
当所では八丈ビジターセンターの植物リストや、
年 9 月に島内産牛乳の供給再開という計画であっ
採草地での実地調査、他の牛の飼養者からの聞き
たが、同年 12 月に牛乳として販売できる見込み
取り、家畜の中毒情報を元に、その毒草が生えて
がたったことから島内主要スーパーにて試飲会を
いる場所などを含めた「八丈に自生する毒草」の
実施した ( 図 6)。牛乳は低温殺菌、ノンホモジナ
パンフレットを作成し、従業員に配布し、啓蒙を
イズのため、評価はさまざまであったが島内の牛
行った ( 図 4)。
八丈島野生植物リスト
(八丈ビジターセンター)
指導結果
八丈に自生する毒草
一連の対策の結果、ボディーコンディショニン
実地調査
グスコアは給与指導前の 2.25 から 2.75 に回復し、
また、低迷していた乳脂肪も給与指導開始から
1 ヶ月で向上した(図 5)
。その後台風により、飼
在島の肉用牛、山羊飼養者
etc
養していた廃業農家の搾乳舎が倒壊したため、飼
養場所を放牧地に移し、仮設の搾乳舎を建設、搾
当所オリジナルver.
生えている場所も記載
図4㻌 八丈島に自生する毒草の知識の普及・啓発㻌
図4 八丈島に自生する毒草の知識の普及・啓発
乳を開始した。野草の確保が難しい冬季は、野草
指導前(㻮㻯㻿)㻌
指導後(㻮㻯㻿㻕㻌
9月撮影
12月撮影
乳脂肪
8月13日指導
再指導
図5㻌図5
指導による改善状況㻌
指導による改善状況
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
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入を確保するために、導入した牛に対しては現在
の給与体制の維持、②放牧地の造成や冬季粗飼料
確保のための採草地の確保と造成、③山地酪農に
対応できる後継牛の育成、④通年昼夜放牧への移
試飲会の様子
行⑤山地酪農に適した牛群の選抜などの指導を行
い、本農場がめざす山地酪農で自立した酪農経営
ができるよう支援していく予定である。
参考文献
図6㻌 当該就農者から生産された牛乳㻌
図6 当該就農者から生産された牛乳
1)(社)全国家畜畜産物衛生協会:生産獣医療シ
乳を待ちわびた人たちからは、販売はいつごろに
ステム乳牛編 3,
(社)農山漁村文化協会,東京
なるのかという声がいろいろな場所で聞かれた。
(2001)
本来、
就農者が目指そうとしている山地酪農は、
2) 秋山俊彦ほか:蒜山地方おけるジャージー種
特段の栄養指導等は必要ではないとのことである
飼養管理改善に関する研究 (2)ジャージー種の
が、今回の事例では舎飼いの牛を馴致期間なしに
血液成分,岡山県総合畜産センター研究報告,
昼夜放牧に馴化させようとしたため、指導の必要
14,1-8(2003)
が出た事例だと思われた。しかし、当農場の山地
3) 小山朗子,南波ともみ:八丈島における肉用
酪農の実現には、10 年ほどの準備期間が必要と
繁殖牛の生草給与調査,平成 19 年度東京都家
思われる。今後の方針として、①当面 5 年間は収
畜保健衛生業績発表会集録,10-14(2008)
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
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