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「ねえねえお父さん。『くやしい』ってどう いう意味?」とわが子に聞かれ
「ねえねえお父さん。 『くやしい』ってどう いう意味?」とわが子に聞かれ、「それは、そ のー…、 誰かと勝負したとき負けてしもうて、 「あ∼ぁ…」とか「もうー…」とか思うて、 くやしくなるがあよ。」 その答えに、何だか分かったような分から ないような顔で、父親の顔をじっと見つめて いる子ども。 「くやしい」経験を何度もしてき た大人には、何でもない当たり前の言葉なの ですが、それを幼い子どもが理解できるよう に説明することは結構難しいものです。 そのあと、 「ねえねえお母さん。 『くやしい』 ってどういう意味?」と台所から聞こえてく る同じ問いに、 「最初からお母さんに聞いたら えいのに…。」とつぶやく父の声が、居間のす みほうから空しく響いてきました。 「ねえねえお母さん、 ちょっと持ってみて。 」 と、 忙 しく夕食の準備をする母の手を止めて、自分のあ ごの下にその手を当てる子ども。 「いったい何が始まるのだろう…」 と母は訝しげ な表情をしながら、 「どうかしたが?」 と尋ねています。 するとその疑問を晴らす答えが、 すぐ返ってきま した。 「おかあさん、 ぼくの口かるい?」 そうです。 よくよく聞いてみると、 秘密にしていた ことを、 つい友達に喋ってしまい、 「どうして言うが! もうほんとうに口が軽いがやき。」 と兄に言われ たようです。 子どもたちの会話の中でも、よく使われる 表現なのですが、初めて「口が軽い」という 言葉を聞いた子どもにとって、注意をされた ことは分かっていながらも、 「口にも重さがあるのかなあ。」と 不思議に思ってしまった例です。 しかし、兄に言われた文句 に後悔の念を抱きながらも、 「口が軽い」という意味を、 深く理解した瞬間でもあります。 「水泳」という言葉を聞いたとき、たいてい 海や川、プールで泳いでいる場面を思い浮か べるのではないでしょうか。しかし、誰もが 「水泳」という言葉を、全く同じ気持ちで聞 いているとは限りません。 幼い頃から家の近くの海でよく泳ぎ、魚や 貝をとった経験が多かったり、夏休みには毎 日のように友達と川に行っ て、流れに体を預けたり、 岩場から川面に向かって思 いっきり飛び込んでいる、 楽しい場面を思い浮かべる 人もいます。 ところが、 とにかく水が苦手で水泳の授業は 大嫌い。 「 水泳」 という言葉の響きにさえ鳥肌の 立つ人もいます。 また子どもの頃、家の近くには海や川がなく、 また通っていた学校にもプールがなく、泳いだ 経験があまりないという人もいます。だから 「水 泳」 という言 葉を聞いても、思い浮 かんでくる 場面がほとんどなく、 「楽しい!」 とか「嫌やなあ…」 という感情が、湧き起こってこない場合もあります。 ― テレビや新聞に出てくる、 新しい言葉や聞き 慣れない言葉に、その理解に苦しむことがあり ます。でも言葉と体験を豊富に持つ大人は、話 の前後の内容やその使われ方から、大体の意味 を推測することができます。 「何回言うたら分かるが!」と、つい子どもを 叱ってしまうことがありますが、子どものこと を心配し、自分の経験から様々な状況を想像し ながら叱責する親の気持ちを、十分理解できな いのが子どもです。 今私たちが自由自在に使える言葉の底には、 繰り返し耳にしてきた言葉、たくさんの人との 会話、豊富な体験という根っこがあります。子 どもたちも身近な人とたくさん会話し、たくさん 体験し、使える言葉を1つ1つ身に付けています。 子どもはいっぱい話をしたがっています。人 の話をいっぱい聞きたがっています。日々の生 活に追われ、十分な時間はなかなか取れません が、子どもの話にじっくり耳を傾け、親の思いを ゆっくり語る時間が家庭には必要です。またテレ ビを消して、じっくり読書をする時間も大切です。 こうして子どもの心の中に、豊かな言葉、一 つ一つの『生きた言葉』を育てたいものです。 2005.10月号 2