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出張報告 - 政策研究大学院大学

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出張報告 - 政策研究大学院大学
エチオピア出張報告
2008 年 10 月 22 日
GRIPS 開発フォーラム
GRIPS 開発フォーラムの大野健一、大野泉、細野昭雄の 3 名は、2008 年 10 月 10∼17 日
にアジスアベバを訪問した。これは、我々の第 1 回エチオピア訪問(2008 年 7 月)を契機
に同国のメレス首相から東アジア型産業支援に対する強い要請が日本政府に出されたこと
を踏まえての追加訪問である。日本政府ではこの要請にこたえるべく東京と現地で新案件
の検討が始まっており、GRIPS がこれに深く関与することが決まっている。今回の出張目
的は、前回に十分確認できなかったエチオピアの政策体系やその実施状況、ドナーの支援
状況に関する基本情報を追加的に得ることであった。
本訪問は GRIPS の企画・予算によるものであるが、その実現のために在エチオピア日本大
使館および JICA エチオピア事務所に多大の協力をいただいた。とりわけメレス首相との再
会を実現していただいた駒野大使、多くの有益な会見をアレンジいただいた伊藤書記官、
日野企画調査員に深く感謝したい。
1.背景
J・スティグリッツ教授(コロンビア大)が主催し JICA が支援する政策対話イニシャティブ
(IPD)アフリカ部会が 2008 年 7 月アジスアベバで開催され、そこで GRIPS 開発フォー
ラムの大野健一・大野泉は東アジアの産業戦略についてプレゼンテーションを行った。IPD
は毎年開催されている政策志向の会議であり、エチオピアのメレス首相も 2 日間の議論の
大部分に出席し、我々や欧米・アフリカからの参加者とともに活発な議論が行われた。この
会議直後、メレス首相は在エチオピア駒野大使を呼び、我々の発表や我々が首相に手交し
た書物に紹介されていたチュニジアにおける JICA 生産性向上支援1にもとづき、エチオピ
アにおいても①東アジアの視点からの開発政策対話、②チュニジアのような企業単位の競
争力改善支援、の 2 点を日本の援助ポートフォリオに加えるよう明確かつ強力な支援要請
があった。
この首相要請にこたえるため、現地ではさらなる首相との会見・情報収集、東京においては
帰国中の駒野大使・外務省・JICA・GRIPS による打合せなどが行われた。日本側の関係者間
では、この要請の実施は、東アジア経験のアフリカへの適用、TICAD IV での日本のアフリ
カ支援約束の知的実現、新開発パラダイムの確立といった複数の観点からきわめて有意義
なエントリーポイントであり、日本としてもこの案件の成功に向けて真剣に取組むべきで
あるとの認識が共有された。現在その進め方に関する検討が行われつつある。今回訪問の
GRIPS3名は①の開発政策対話を担当する予定であり、②は新規の企業単位の生産性向上
1
Tsuyoshi Kikuchi, “The Quality and Productivity Improvement Project in Tunisia: A Comparison of Japanese and
EU Approaches,” chapter 7, GRIPS Development Forum (ed), Diversity and Complementarity in Development Aid:
East Asian Lessons for African Growth, 2008.
1
支援にすでに進行中の GRIPS 大塚・園部両教授の企業研修計画を組合わせて実施する予定
である。今回訪問にひきつづき、エチオピアでは 11∼12 月にかけて大塚・園部教授の研修、
12 月 15 日に我々によるセミナー(東アジアにおける産業アクションプラン策定方法および
チュニジア支援の詳細紹介)、2009 年の早い時期に本件を正式にキックオフするシンポジウ
ムを開催する予定である。
2.メレス首相との会見
2008 年 10 月 14 日首相官邸において GRIPS3名、駒野大使、日野企画調査員(JICA エチ
オピア)がメレス首相と会見し、2 時間にわたり意見交換を行った。首相発言の要点は以下
の通り(詳細は添付議事録を参照)
。
○ エチオピアは東アジアから学ぶ努力を長年してきたが、韓国との知的提携はあまりうま
く行かなかった。今回、TICAD IV における日本のアフリカ支援への新しい能動性や7
月会議での GRIPS 報告をみて、東アジア開発の先頭を切った日本と直接に知的対話を
行う時期が到来したと確信した。
○ IMF 世銀の小政府ビジョンには与しない。政府は開発に積極的・能動的に関与すべきで
ある。レントシーキングを撲滅し価値創造を増加させるために、政府は必要な政策手段
を確保したうえで民間企業を指導・激励する任務を負う。エチオピアはこの開発体制を、
国民の大多数を占める小農およびこれから育成していきたい都市の零細・小企業者を政
治基盤として堅持していきたい(democratic developmental state)。
○ 日本への当面の期待は、①GRIPS による東アジアの観点からの我々の開発体制の分析
およびその深化(analyze and enrich our development policy regime)、②JICA によ
る大・中企業への OJT 式生産性改善支援、の 2 つである。後者の対象業種については皮
革・繊維に必ずしもこだわらない。少数でもよいからぜひ他社も学べるモデル企業を作
ってほしい。将来、日エ協力はこれら以外の活動に発展する可能性もある。
これに対し当方からは以下のような質問・要請を行った。
産業家(大企業・FDI)は政治基盤ではないのか?――戦略的パートナーであるが、政治基
盤ではない。企業家は開発に不可欠だが、政権が彼らの支持や資金に依存することはなく、
相互に自立性を維持しながら、彼らの価値創造を奨励しレントシーキングは罰していく。
民間を指導激励するのは原則としてよいが、官民対話が不十分なまま介入の強さ・範囲を誤
ると逆効果になる可能性があるのではないか――バランスの重要性は認識している。民間
意見を吸い上げる仕組みとして輸出運営委員会等がある。
エチオピアにおいて緑の革命や一村一品など、農村生産性突破の可能性は?――自給農業
から農業商業化へのシフト、特定作物をコアとしたうえで補助作物の追加(specialization
and diversification)などをめざしている。
2
さらに、駒野大使よりこれからの予定の確認があった。①の開発政策対話については、報
告書作成およびエチオピア留学生・研究者の GRIPS への派遣が当方から提案された2。②の
企業単位の競争力改善支援については、皮革を支援対象とすることは日本にとって難しい
ことが説明された。これらについてはメレス首相の了承が得られた。
3.政策体系と実施状況
関連省庁、研究所、ドナー、NGO、大学、企業等を訪問し以下の観察を得た(訪問先は別
添参照、ドナーについては次節で詳説)。なお以下は 1 週間の追加調査に基づく印象にすぎ
ず、わが国の新案件形成に先立ってより本格的な調査・分析が必要であることは論を待たな
い。いずれにせよ、現在のエチオピアは他の低所得国と比べて傑出した政策体系と実施体
制を持つことは疑いなく、同国が自国の歴史上重要な転換点に立っているということもほ
ぼ間違いなくいえるであろう。
<メレス首相の知的指導力>
エチオピアは、東アジアの権威主義開発体制とも IMF 世銀型自由主義ともアフリカの他国
とも異なる新たな開発体制を構築・実践しようとしている。その中心で指揮をとっているの
がメレス首相である。開発にかんするメレス首相の知的能力・意欲は一国首脳としてはお
そらく唯一無二であり、現在のエチオピアの開発ビジョン、政策体系、実施体制はすべて
彼の強烈な信念を反映していると断言してよい。彼の経済・政治運営に関する考え方は明快
かつ強固であり、エチオピアの開発にかかわろうとする者はそれらを十分理解したうえで
参加する必要がある。ただし、大方針については 1990 年代以来不動であるが、具体的な施
策については修正・改善もありうるというプラグマティズムで臨んでいるように見うけら
れる。たとえば土地利用権については、強い規制から自由化へと最近大きく舵を切った。
<上位政策体系の明確性と浸透>
上位文書はビジョンを提示した ADLI(Agricultural Development Led Industrialization)
と基本原則を謳った各種の戦略文書からなり、とりわけ重要なのが産業開発戦略文書
(Ethiopian Industrial Development Strategy)である。そこでは第 1 部で諸原則を掲げ、
第 2 部で産業促進のための環境条件をあげ、第 3 部で優先分野を指定している3。エチオピ
アの産業戦略に関して質問されると、首相・閣僚から中堅官僚・実施機関にいたるまで、こ
の戦略を異口同音に説明することからして、この文書はエチオピアの産業戦略ビジョンと
2
GRIPS はすでにエチオピアとの留学生受け入れや研究協力を行っているが(大塚・園部グループ)
、これ
をテーマ①にも拡張して将来政策を担う人づくりをするという意である。メレス首相からは、ヌアイ顧問
を通じて人を探すとの返答があった。
3 原則は、①民間部門の主導的役割、②農業主導の工業化、③輸出志向、④労働集約産業志向、⑤国内投
資と外国投資それぞれの役割、⑥強い国家管理、⑦工業化への全社会の参加(官と民、産業家と農民、労
働者と資本家)からなる。環境条件は、①開発主義的資本家、②マクロ安定、③金融、④インフラサービ
ス、⑤教育訓練、⑥行政システム、⑦司法制度である。優先分野は、繊維縫製、食肉・皮革・皮革製品、食
品加工、建設、零細・小規模製造企業である。
3
して広く浸透し指針として活用されていることが伺えた。このような状況はかなり珍しい
ものであって、タイやマレーシアなどでは可能かもしれないが、ベトナムやインドネシア
には見られない状況である。
これに対し、業種ごとのマスタープランおよびアクションプランはシステマティックに整
備されているとは必ずしもいえない。マスタープランについては、UNIDO が支援した 2
巻からなる皮革産業 M/P が一番出来がよいといわれているが4、産業分析報告書としてはと
もかく、実践可能性からみると詳細な目標を立てすぎており、行動との断絶が見られる。
エチオピア政府高官は「社会主義計画のようだ」とコメントしたが、我々もそういう印象
を持った。繊維縫製、食品加工などについてもマスタープランが着手されているがまだ完
成にいたっていない。しかしながら、産業支援はマスタープランなしに(あるいはそれを
無視して)現実に行われており、とりわけ輸出指標を核とする月次会合はきわめて重要で
ある(次項)
。下位文書の不備自体は必ずしも欠陥とはいえず、政策メカニズムが実際に機
能しておれば文書不在も問題ないのだが、これについては現実の状況についてさらなる調
査検討が必要である。いずれにせよ、エチオピアの政策体系に問題があるとすれば、それ
は上位ビジョン・原則ではなく、下位の実施メカニズムや民間企業のレスポンスにあること
は容易に想像できる。
なおエチオピアでは value chain、SWOT、benchmarking、twinning といった経営学系用
語が東アジアよりも多用されているが、これらが言葉上のみならず内容的にも東アジアの
産業戦略と異なるのか、あるいは欧米ドナーがエチオピアで実施している産業支援(以下
参照)と日本が東アジアで行ってきた産業支援がどれほど一致するのかについてはこれか
らの研究課題である。
<輸出目標と官民連携をてことする政策行動>
産業戦略の実施メカニズムとして、エチオピアでは輸出目標をコアとして各産業の実態を
把握し、問題があればその解決を図っている。これを実施する場が貿易産業省が調整役と
なり首相が主宰する輸出運営委員会(Export Steering Committee)である。ここでは関連
省庁、首相経済顧問等の出席のもと、年次輸出目標(全体とセクター別)と月次輸出目標
が定められ、必要に応じて支援プログラムが策定されている。最近の毒物検出に起因する
コーヒー輸出の停止に関しても、この委員会が検討を重ね具体的な措置をとりつつある。
官民間の情報・意見交換については、現在、貿易産業省がホストする分野別対話(sectoral
forum)を中心に行われている。これは繊維縫製、皮革、食品加工、花卉、胡椒などの各業
界団体が 3 ヶ月ごとに集まり(以前は 2 ヶ月ごと)、各企業の生産能力の合計から年次輸出
目標を決定し、また月々の努力目標を定めるものである。これに加えて、2003 年に開始さ
れ 2005 年から 3 年間中断されていた、全国および地方の各商工会議所との官民フォーラム
4
2005 年 3 月策定。A Strategic Action Plan for the Development of Ethiopian Leather and Leather
Products Industry と題する 5 年間の戦略的行動計画と、具体的な目標・ターゲットを掲げたビジネスプラ
ンの二巻からなる。
4
も制度的に拡充したうえでまもなく再開される予定である。これは、年1回の首相との対
話(National Business Forum)、年に 2 度の全国官民対話(National Public Private
Dialogue)、イシューごとのワーキンググループ、その下に必要に応じてのテクニカル・グ
ループを配する重層構造となる予定である。このほかにも、産業界の課題を摘出・研究す
る「民間セクター開発ハブ」
(PSD Hub, 2005∼2010)プロジェクトがスウェーデン等の援
助を得て進行中であり、ビジネス環境評価を行う世銀の投資環境アセスメント(ICA)報告
書も作成されている。
輸出をてこに課題設定・問題解決を図るというやり方はおそらく韓国から学んだものと思
われるが、一般の途上国では実質成長、各産業の生産・投資、雇用創出といった指標を含む
目標群が設定される方が普通であろう。輸出目標だけでは、輸出をしない分野が視野に入
らない、国際価格・世界景気変動・天候・自然災害といった不可抗力ショックが大きくて目
標がぶれやすいといった欠点はある。ただし、少数輸出産業に集中して政策対話・行動を密
に行うことは、人的資本と政策経験の乏しいエチオピアにとって一つの有効な選択である
といえよう。輸出運営委員会も官民対話も、もしそれらが十分に機能しているならば、貧
困国としてはかなり進んだ制度といえる。ここでも、制度の実際のワーキングを検討する
ことが重要である。
<ビジネス環境と外資誘致>
我々が意見を聴取したアジスアベバ商工会議所、アジスアベバ大学経済経営学部長、大中
小の工場を経営する複数のエチオピア人によると、エチオピア政府の産業支援方針やマイ
ンドセットには問題がなく、課題があるかどうかは個別イシューごとにきいてくれとのこ
とであった。そこで官民連携、税制、関税・通関、土地、中小企業支援、金融、労働者の質、
運輸・物流、電力、水、通信などについてそれぞれ尋ねたところ、各分野に問題は残るもの
の、全体としてはそれほど悪くない状況であるという印象を受けた。ただしアジスアベバ
商工会議所では労働法の朝令暮改、鉄道の不備、通信の悪さなどが指摘された。ある工場
経営者は、彼らが提示した課題への貿易産業省のレスポンスが遅すぎるとのことであった。
外資誘致に関しては担当機関のエチオピア投資庁(EIA)を訪れたが、その機能にはまだま
だ改善の余地があるという印象を受けた。外資法は過去 16 年に 5 回改訂され自由度が高ま
り、また以前遅かった投資認可も現在は 4 時間以内に行えるとのことであった。ただし直
近の FDI 受入実績とその中身、工業団地の数と位置といった基礎情報がすぐ出てこないの
は不思議であった。入手したファイルを後で見たところ、FDI 認可額はほとんどゼロの状
態から 2003 年より急増し 2007 年は 15 億ドルに達したとのことである。これは GDP の 1
割程度であり決して少ない金額ではない。この急増の理由と中身を分析する必要があろう。
また実行ベースの数字も必要である。
全体にいえることであるが、エチオピアでは政策体系や実施体制はベトナムなどよりもし
っかりしているが、数字を用いた現状説明がきわめて少なかった。外資誘致機関は近年の
経済指標や投資受入状況からプレゼンを始めるのが普通だが、エチオピアはそのような外
5
資誘致活動の場数を重ねていないようである。
<経済動向>
エチオピアはこの数年 10%をこえる高度成長を遂げたが、今年に入って高インフレに見舞
われマクロバランスを崩している。近年の成長および今年のインフレの原因をそれぞれ分
析することが必要である。アジスアベバ大学経済経営学部長によると、インフレは議論さ
れているが、その原因についてはまだコンセンサスがないとのことであった。これまでの
成長が構造的・非可逆的な好変化を反映するものかそれとも偶然の賜物であったのか、そし
てマクロ不調は開発体制を覆すほどのショックとなりうるか一過性のものかをさぐること
が肝要である。
もし数年前に開発政策が改善され経済がそれに反応しているのならば、エチオピアはテイ
クオフの初期段階に到達したといえるかもしれない。そのような兆候はいくつかある。上
記の FDI 流入増加、農業における生産・所得向上、国内食品加工業者の勃興、建設ブームな
どである。皮革と花卉については輸出が急増しつつあり、ADLI に基づく輸出戦略の最初の
成功例といえるであろう。また食品加工と繊維縫製についても FDI や輸出が伸び始めてい
るようである。もしそうならば、これらの優先業種についてはさらなる競争力向上と量的
スケールアップ、およびそれに必要な課題摘出と問題解決が図られるべきであろう。
4.他ドナーの産業支援
メレス首相から日本に支援要請があった産業開発分野では GTZ(ドイツ)、UNIDO、イタ
リア、USAID(米国)、世銀等が活動しており、また UNDP、DFID(英国)、SIDA(スウ
ェーデン)も民間セクター開発に取組んでいる。GTZ による能力構築省への支援を除けば、
当該分野への援助の大部分は貿易産業省が調整し、産業開発戦略が定める優先業種に沿っ
て実施されている。援助調整の枠組みとしては、民間セクター開発グループという情報共
有・意見交換の場(政府・ドナー間、およびドナー間)5があり、ドナー支援のインベント
リーも作成されている。
複数ドナーが企業単位の競争力強化(品質管理・生産性向上・人材育成等)を支援してお
り、我々が面談したドナーからも、皮・皮革製品産業では既に多くの支援が行われている
こと、繊維縫製においてエチオピア政府は GTZ と UNIDO に類似の調査を要請している等
の指摘があった。エチオピア政府が意図的にドナーを競合させているのかどうか、我々は
判断できる材料をもっていないが、日本がチュニジアで実施したような技術協力を同国で
展開する際には、既存の支援を十分理解したうえで、対象企業や支援アプローチを決める
ことが重要と思われる。以下、当該分野における主要ドナーの取組みを記す。
5 Development Assistance Group (DAG)のテーマ別ワーキンググループのひとつ、Private Sector
Development and Trade を指す。日本は大使館の磯貝経済協力調整員(2008 年 9 月まで在職)が USAID
と共同で同グループの議長を務めていた。現在は、GTZ と USAID が共同議長。
6
<ドイツ技術協力公社(GTZ)>
エチオピアはドイツ最大の技術協力が展開されている国である。数百人にのぼる専門家が
現地で活動しており、中でも GTZ はドイツ関係機関の調整役として、エチオピア政府自ら
が策定したプログラムに沿って行政府のビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business
Process Reengineering: BPR)、企業競争力強化をめざしたエンジニアリング能力構築
(Engineering Capacity Building Program: ECBP)、大学能力構築(University Capacity
Building Program: UCBP)等を支援している。特記すべきは政府がかなりの部分を資金負
担している点で、例えば、BPR ではエチオピア側が費用を全額負担して GTZ は実施支援を
行い、ECBP では第1フェーズ(2005 年 12 月∼2008 年 12 月)の予算 100 百万ユーロを、
エチオピアとドイツが半分ずつ負担している。
ECBP は、①大学改革(理論から実践志向へとカリキュラム改革・工学部の強化、大学運
営、産業界とのリンク強化等)、②技術職業訓練(TVET)、③国家レベルの品質管理インフ
ラ、④民間セクター開発等のコンポーネントから成る包括的かつ大型プログラムで、エチ
オピア側は能力構築省がカウンターパートとなり教育省や貿易産業省と連携し、ドイツ側
は GTZ が様々な開発協力機関の活動を総合調整している。具体的には長期専門家を約 150
人、短期専門家を年に約 150 人派遣しており、派遣元は資金協力機関である KfW(約 30
人)、German Development Service(GED、25∼30 人)、Center of International Migration
and Development(CIM、70∼80 人)、German Academic Exchange Service(DAAD、
研究者 10 人)、Foundation for Economic Development and Vocational Training(SEQUA、
1 人)等にわたる6。このような”All Germany”による大型技術協力を GTZ が担うようにな
ったのは、メレス首相がドイツの技術力に関心をもち、シュレーダー前首相に協力を要請
した背景がある。
特に④の民間セクター開発では、優先業種を対象に value chain approach に基づいて以下
のような協力を行っている。
○ ドイツ企業とのマッチング: 皮・皮革製品ではドイツ企業1社とエチオピア企業 2 社
との提携決定、繊維縫製においてもドイツ企業 2 社が提携可能性を検討中。
○ 輸出関連企業を対象としたリエンジニアリング支援: 皮・皮革製品、繊維縫製、製薬
企業を対象にドイツ人の長期専門家(5 人、フルタイム)と短期専門家(3 ヶ月おきに
訪問・指導)を組み合わせて企業経営、品質管理、工場での生産性向上を支援7。皮・
皮革製品では長期専門家(3 人)を派遣して LLPTI の設置支援を行ったほか、エチオ
ピア側が全額負担してドイツの 4 機関と契約して LLPTI や繊維・縫製産業研修所(建設
中)の研修プログラムのカリキュラム・レビューを行う予定とのこと。
○ 商工会議所や業界団体への支援: 産業界によるアドボカシー活動やビジネス環境改善、
地方の産業競争力強化を支援すべく、優先業種に関連する業界団体にドイツ専門家を派
これら機関に加えて、シニア専門家派遣の担当機関である Senior Expert Services (SES)もド
イツのエチオピア技術協力に参画している。
6
7
例えば、製薬企業については全 10 社のうち 7 社を対象として、長期専門家とともに 8 人の短期専門家が
訪問・指導(coaching, co-reengineering, benchmarking)を行っている。
7
遣中(皮・皮革製品、繊維縫製、製薬、製粉業界)。園芸業界団体は既に基盤があるの
で専門家派遣よりも、パートナーシップ構築を重視したいとのこと。
○ 金融へのアクセス支援: 民間銀行に対するマイクロファイナンス機関(MFI)への融
資保証、MFI への能力構築等を実施中。フランス開発庁(AFD)やバングラデシュの
グラミン銀行の関心をうけて、今後、MFI への融資保証の資金を共同プールする可能性
を検討するとのこと。
UCBP は、15 の地方都市に 13 大学を設置する国家目標を、地場の小・零細建設業者を動
員して達成をめざすユニークなプログラムである(契約の約 4 割を小・零細建設業者がサ
ブコントラクトすることをめざす)
。GTZ のコンサルタント部門(GTZ IS)がマスタープ
ラン策定から実施調整を請負っている。
<国連工業開発機関(UNIDO)、イタリア>
UNIDO は皮・皮革製品、繊維縫製、農産品加工産業の競争力強化、および中小企業育成を
積極的に支援している8。その一部はイタリア政府の援助を請負う形で UNIDO が実施して
いる。
○ 皮・皮革製品: 皮・皮革製品産業開発マスタープランの策定支援(2005 年)、マスタ
ープラン実施のための皮・皮革製品研修所(Leather and Leather Products Training
Institute: LLPTI)の設置支援(研修プログラムの設計、専門家派遣を通じた靴生産企業
向けの研修支援、機材供与等)、エチオピア・ブランド創出をめざした TAYTU プロジ
ェクトの立ち上げ(12 社から成る有限会社)、外国人デザイナーによる指導、海外での
見本市・展示会等のマーケティング支援を実施中。
○ 繊維縫製: 企業の生産性の国際比較調査(ベンチマーキング)を実施中。最近、貿易
産業省と関連企業に対して中間報告を行った。
○ 農産品加工: 産業開発マスタープランを策定中で、近い将来に貿易産業省とドラフト
を協議予定。
○ 中小企業育成: 貿易産業省傘下の連邦零細中小企業庁に対して竹製品の品質向上を支
援中(Eastern Africa Bamboo Project (EABP)の一貫で、International Network for
Bamboo and Rattan: INBAR と連携)。
<米国国際開発庁(USAID)>
米国の対エチオピア支援は HIV/AIDS をはじめとする保健分野が中心だが、経済成長も支
援分野のひとつであり9、USAID を通じて農業政策(土地所有、研究等)、②ビジネス環境
改善(WTO 加盟準備、American Growth and Opportunity Acts (AGOA)支援、アグリビ
ジネス貿易拡大プログラム(Agribusiness Trade Expansion Program: ATEP)、融資保証)、
③牧畜振興と家畜管理(食肉輸出の衛生基準(GTZ と連携)、皮革製品の原材料である皮の
8
9
現在、Integrated Programme for Ethiopia Phase II を実施中(2004 年 10 月から)。
Congressional Budget Justification: Foreign Operations, Fiscal Year 2008, State Department.
8
質向上支援等)に取組んでいる。特に②については、以下の支援を実施中である。
○ AGOA 支援: 米国在住エチオピア人(diaspora)による対エチオピアビジネスを促進
する One Stop Shop を世銀と共同で設置準備中(EIA とは別の民間機関となる見込み)。
今後、米国商工会議所をエチオピアに設置予定。
○ アグリビジネス貿易拡大プログラム(ATEP)支援: 貿易産業省と農業地方開発省をカ
ウンターパートとしてオイルシード、皮・皮革、園芸作物、コーヒー等を対象業種に、
生産から市場までの value chain を視野に入れた支援を実施中。特に市場とのリンクを
重視し、展示会や TAYTU プロジェクトにも協力中(2006 年 4 月∼2010 年 4 月、予算
は約 90 百万ドル)10。
○ 融資保証: 民間銀行(アビシニア銀行、アワシュ銀行、ダシェン銀行)に対し融資額
の 50%を上限に保証供与を行い、農産品加工、繊維縫製、皮・皮革製品を生産する中小
企業、農牧業分野のサービス業者等を対象とした融資促進を支援。最近は diaspora や
女性起業家を対象とした融資への保証も開始。
<世界銀行>
世銀は Private Sector Capacity Building Project を中心に、産業貿易省をカウンターパー
トとしてエチオピアの民間セクター開発を支援している(2004 年末∼)。このプロジェクト
には①民営化プログラム支援、②WTO 加盟準備支援(アジスアベバ大学に特別修士プログ
ラムを設置して人材育成)、③競争政策、④民間セクターの競争力強化等の活動が含まれる。
また 2005 年 5 月の選挙で中断するまでは、一般財政支援(PRSC (I, II))を通じてビジネ
ス環境の改善支援(企業登録・ライセンス取得手続きの簡素化・短縮化、民営化政策の見
直し等)も行っていた。
特に④は、適切なビジネス戦略を策定した民間企業を対象に、その実現に必要な活動の一
部を資金支援するものである。皮・皮革製品、繊維縫製、園芸作物、食品加工に従事する
民間の輸出関連企業が対象で、企業規模は問わない11。当該コンポーネントには 8 百万ドル
が配分されており、残る 3 年程度のプロジェクト期間で約 6 百万ドルが活用可能とのこと
(1 社 200,000 ドルが上限、今後 30 社程度が支援可能)。MOTI とは別に実施運営ユニッ
トを設置し、エチオピア人のマネージャー、外国人専門家 2 名(輸出促進専門と制度開発
専門を 6 ヶ月程度ずつ短期派遣)、エチオピア人専門家 5 名を配置している。
<その他>
UNDP は、成長支援では UNIDO 等との連携に加え、農業地方開発省に対して経済成長回
10
当初 3 年間のプログラムとして始まり、2008 年の中間評価を経て 2010 年まで延長することが決定。米
国 Fintrac 社が受注。中間評価報告書(2008 年 10 月)を入手。
11当初は企業からの提案を単発で支援していたが
(約 100 社を支援済)アドホックになりがちだったので、
最近は企業にビジネス戦略の提出を求め、適切な戦略をもつと判断された企業(あるいは助言後に適切な
提案を再提出した企業)に対して、提案の実現を支援するようになったとのこと。このアプローチのもと
で今まで 16 社が応募し 6 社に対して総額 1 百万ドルの支援を実施済(2 社は繊維・縫製、4 社は皮・皮革
製品)。
9
廊の構想づくりを支援している12。異なる地域ごとに農業を中心とした成長回廊をつくる発
想とのことだが、水資源省、財務経済開発省、MOTI との調整が必要で、まだ抽象的な段
階にとどまっている印象をうけた。インドネシア人専門家を招聘し東アジアの成長回廊の
事例を紹介したほか、現在エチオピア政府関係者のスタディツアーを企画中(中国やマレ
ーシア、11 月予定)とのことだった。
英国 DFID は、成長回帰や民間セクター開発を主導した Shriti Vadera 副大臣(当時)13が
2007 年 10 月にエチオピアを訪問した際にメレス首相から要請があり、続く本年 4 月に行
われた DFID チーフエコノミストとヌアイ首相経済顧問との協議をうけて①農業商業化と
②小・零細企業振興に関する調査に協力中である。①はオックスフォード大学の Stefan
Dercon 教授を中心としたチームが担当し、バックグラウンドペーパー(15 論文、GRIPS
の研究者も含む)をとりまとめ中で、これらを集約してエチオピアの農業開発の歴史、東
アジアの経験、エチオピアがめざすべきシナリオ、政策提言・結論から成るレポートを作
成予定である。②についてはヌアイ首相経済顧問と目下、調査 TOR を調整中とのこと。
スウェーデン SIDA は、産業界によるアドボカシー強化やビジネス環境改善を目的として
2005 年から Private Sector Development Hub (PSD-Hub) Program の立ち上げ(アジスア
ベバ商工会議所内)、民間セクター開発の阻害要因についての調査、課題解決をめざすプロ
ジェクト形成等を支援している(企業登録、会計基準、商法改定)。今後、これらのプロジ
ェクト実施のための資金確保が必要とのこと。また、エチオピアでは官民対話の経験は浅
いので、東アジアの官民パートナーシップの事例に強い関心を示していた。
5.わが国の参入について
日本がエチオピアの産業支援を中心とする新たな協力分野に参入するにはいくつかの留意
点がある。
まず理解すべきことは、ここは一般財政支援や援助協調が肥大化し現場主義・実物経済が忘
れられたふつうのアフリカ諸国とは異なり、政府の能動性と個別産業への強い関心を軸と
した、ある意味でより伝統的な開発援助の場であることである。またメレス首相が日本を
単なる1ドナーではなく、彼の開発政策を実現するための戦略的パートナーと位置づけて
いることも無視できない点である。以上の 2 点は、わが国がエチオピアを TICAD IV のフ
ォローアップ国として重視すべきことを示唆している。
わが国としても、これから始まるであろう支援案件はアフリカの自立、新開発パラダイム
12 UN グループ全体のエチオピア支援枠組み(UNDAF)は①人道支援、人間の安全保障、②経済成長、
③社会サービス、④ガバナンス、⑤HIV/AIDS の 5 つを重点支援分野と定めているが、UNDP は②と③に
関わっている。②は UNIDO 等と連携しつつ、③は UNDP が中心になり DFID と連携して Democratic
Institution Program (DIP)を実施中とのこと。
13 Shriti Vadera 氏は英国 Gorden Brown 政権誕生に伴い、2007 年 6 月に DFID 副大臣に就任し、成長
を通じた貧困削減、民間セクター開発を重視する方針を発表した。2008 年 1 月からビジネス・企業・規制
改革省の副大臣。
10
の建設という大きな意味で政策的にも学問的にも重要な知的活動であることを肝に銘じ、
成功に必要な資源を動員し実施体制をきちんと整え、また国内的にも対外的(アフリカ・
欧米・国際機関)にも発信していくことが必要であろう。日本が東アジアの観点からエチ
オピアの努力を支援しコメントすることは、わが国が対アフリカ関係を新たに構築する上
での重要な第一歩となるに違いない。
さらに考えなければならないのは、エチオピアではすでに多くのドナーが産業支援とその
関連分野で多様な協力を展開しており、その中には日本が東アジアで実施してきたメニュ
ーと重なる部分も多いという点である。対アフリカ援助を倍増するにしても、エチオピア
における日本の資金動員力は限られているので、他ドナーの多様な援助を無視した単発の
支援でなく、十分な状況調査のもと、既存ドナー支援体系のコンテクストを視野にいれて、
既存ドナーとの連携、さらにはそれをリードしていくエントリーポイントを慎重に定める
必要がある。メレス首相、各ドナー、日本のステークホールダーなどの利害関心を十分考
慮のうえ、最小限の資源投入で最大限の効果をもたらすために頭を使うことが肝要である。
この目的のためには、他ドナーの援助を積極的に宣伝・利用することも有効であろう。
むろん新しい試みにはリスクを伴なう。メレス首相の経済政策と政治運営はこれまでどの
国も試みたことのない新規性をもつ。これらがはたして果実を生むものか、途中で挫折す
るものなのかはまだよくわからない。また 2005 年選挙直後の騒擾に対する政府の対応が、
欧米ドナーの懸念を招いていることも事実である。これらのリスクを十分認識しながらも、
日本はエチオピアの信頼しうる戦略的パートナーとして自らを先方政府に提示していくこ
とが切に望まれる。
以上
別添
1.日程・面談先
2.メレス首相との会談記録
11
別添1
日程・面談先
10 月 9 日(木)
東京からエチオピアへ(大野泉は途中コペンハーゲンで会議出席)
10 月 10 日(金)
皮革工場(Jonzo Leather Garments)視察
UNIDO(David Tommy 所長、 Aurelia Callabori Bellamoli 次席、
Asgid Adame 氏、野口氏(インターン))
皮なめし工場(Dire Industries)視察
10 月 11 日(土)
縫製工場(Knit to Finish)視察
バラ農園(Dugda Floriculture)視察
10 月 12 日(日)
Workku Zewede 氏(General Manager, Knit to Finish)
10 月 13 日(月)
財務経済開発省(Mekonnen Manyazewal 国務大臣)
エチオピア投資庁(Abi W/Meskel 長官、Aklilu Woldbmariam 氏)
零細中小企業庁(Yaregal Meskir 氏、他)
アジスアベバ商工会議所(Teshome Beyene 事務局長、Aberra Tafesse
氏、Girma Milky 氏(PSD Hub)、Philip Corish 氏(PSD Hub)
10 月 14 日(火)
日本大使館(駒野大使、森本書記官、大本書記官、伊藤書記官)
メレス首相(H.E. Prime Minister Meles Zenawi)との会見
貿 易 産 業 省 ( Ato Tadesse Haile 国 務 大 臣 、 繊 維 ・ 皮 革 産 業 局
Ato Sileshi Lemna 局長)
DFID(Paul Walter 氏)
10 月 15 日(水)
EDRI
Program Director(Ato Getathew 氏、他)
アジスアベバ大学、ビジネス・経済学部長(Prof. Gebre Hiwot Agebe)
皮・皮革製品技術研修所(LLPTI)所長(Ato Solomon Getu 氏)
JICA 事務所長と夕食会
10 月 16 日(木)
UNDP(Yemserach Assefa 氏)
USAID ビジネス・環境・農業・貿易担当(Michelle Jennings 氏)
笹川アフリカ協会農産物加工技術普及担当ダイレクター(間遠登志郎氏)
世界銀行民間セクター開発担当(Menbere Taye Tesfa 氏)
大使公邸で夕食会
10 月 17 日(金)
GTZ
ECBP-Value Chain Development 専門家(German Muller 氏)
JICA エチオピア事務所(佐々木所長、安藤次長、中村所員、日野企
画調査員、伊藤書記官(大使館))
在エチオピア日本大使館(駒野大使、大本書記官、伊藤書記官、日野
企画調査員(JICA))
夜のフライトで移動
10 月 18 日
羽田着
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