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インド経済・金融政策動向

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インド経済・金融政策動向
インド経済・金融政策動向
2016年10月27日(木)
公益財団法人 国際金融情報センター
(JCIF)
アジア第3部 首席研究員 幸田円
テーマ: モディ政権下における経済・金融政策
1.
景気動向
1.
2.
3.
4.
世界最速で拡大するインド経済の死角は何か?
経済政策
1.
モディノミクスとは?
2.
製造業振興政策 「Make In India」
3.
財サービス税(GST)導入
金融政策
1.
中銀総裁交代
2.
インフレターゲット制導入
3.
不良債権問題
見通し
1.
短期的見通し
2.
中長期的見通し
(100ルピー=156円=1.50ドル、2016年10月26日現在)
2
1.景気動向
• 景気動向
3
景気動向-世界最速で拡大するインド経済の死角は何か?
•
世界最速で成長中
–
•
12年度の+5.6%をボトムに15年度は+7.6%に上昇
もっとも、その実態をみると
–
–
–
–
固定資本形成
•
16年入り後、2四半期連続してマイナス成長
•
民間投資の回復にはまだ時間を要する
消費
•
05~11年頃までは8~9%の成長
•
12年以降は4~7%に低下
純輸出
•
輸出入ともに15年1~3月以降、マイナスで推移した後、輸出
は16年4~6月はかろうじてプラスに
•
純輸出は輸入が低迷した13年度と14年度を除き、05年度以
降、マイナス寄与
鉱工業生産指数
•
•
16年4~6月の実質GDP成長率+7.1%
–
•
15年11月以降、おおむねマイナスで推移
新規労働市場へ参入する若年層に雇用を賄うためには
8%超が必要
課題は山積み
– 投資の回復
– 消費の底上げ
– 製造業の競争力強化
4
2.経済政策
• 経済政策
– モディノミクスとは?
– 製造業振興政策: Make In India
– 税制改革: 財サービス税導入
5
国内産業振興政策-Make In India
•
「Make in India(インドでものづくりを)」-製造業振興キャンペーン
立ち上げ
– 製造業のGDP比を15%から25%に引き上げ
•
雇用創出および輸入削減を目指す
•
輸出志向ではない
– 現在、輸入している物の生産者を国内に誘致して国内生産を目指す
•
対内直接投資規制緩和
– 15年度の対内直接投資(資本)は既往最大の410億ドル
•
もっともインドでの生産コストは割高であり、掛け声だけでは難しい
– 輸入電子製品への増税
– 国防、鉄道分野の調達に際し、国内企業と合弁事業を設立して、国内生産
することを義務付け
•
同分野への直接投資の規制を大幅に緩和
6
国内産業振興政策-Make In India-日本への影響
•
国防: 救難飛行艇
•
•
•
14年1月、日本の新明和工業が日本で生産する水陸両用の救難飛行艇「US-2」をインドが1機
あたり1億1000万ドルで、15機購入することで概ね合意
インド側は完成機2機を輸入、残りは技術移転を受けてインドでの組み立てを求めており、最
終合意に至っていない
鉄道: デリー・ムンバイ貨物専用鉄道(DFC)
•
約200車両に及ぶ車両
–
•
•
入札を既に実施するも、インド側の現地生産の要求について折り合いがつかず、やり直しに
事業費:当初の約4,500億円から膨張
鉄道: アーメダバード-ムンバイ間を結ぶ高速鉄道計画(MAHSR)
– 15年12月、日印首脳会談の際に新幹線システム導入に関する協力覚書に署名
•
円借款の供与
–
•
借款(タイド)、総工費(9,800億ルピー、約1.8兆円)の81%
車両を含む高速鉄道システムの建設及び製造に関する技術移転
–
車両、設備及び機材の製造を含む高速鉄道システムの「メイク・イン・インディア」の段階的な推進
7
税制改革-17年4月の財サービス税(GST)導入を目指す
•
16年8月、財サービス税(GST)導入の憲法改正法案が政権発足後2年超を経て難航し
ていた国会を通過
•
•
連邦税と州税からなる諸間接税を財・サービス税として一本化
–
–
•
標準税率:約18%
その他:6%、12%、26%(ただし、金は4%)
食品は非課税
各州は20%超を求めている
政府は17年4月の導入を目指す
–
•
生産州は税収減、消費州は税収増
税率: 財務省案
–
–
–
–
•
連邦税: 物品税、加算物品税、サービス税、加算関税、特別加算関税
州税: 付加価値税、娯楽税、入境税、購入税、贅沢税、賭博税
GST導入に伴う州の歳入減を連邦政府が5年間全額補てんすることで、州政府と合意
–
•
05年の前政権時からの最重要課題
税務当局や納税企業等の情報処理システム(IT)をはじめとした税のインフラ整備を整える必要
GDP1.5~2%の押し上げ効果
–
–
諸間接税の一本化により州毎に異なる税制の簡素化が進むことからコスト低下に繋がり、州を
跨いだ商取引の活発化が期待
導入当初は物価上昇要因
•
消費者物価指数の品目の54%は非課税
8
3.金融政策
• 中銀総裁交代による影響
– 金融政策: インフレターゲット制導入
– 銀行部門: 銀行不良債権問題
9
金融政策-中銀総裁にパテル副総裁が昇格
•
16年9月4日、インド準備銀行(RBI)の総裁にウルジット・パテル副総裁が昇格
– 1963年10月生まれ、52歳、インド国籍、ケニア出身(祖父がグジャラート州からケニアに
移住)、独身
– オックスフォード大学修士、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒業、イエール大学経
済学博士
– IMFのエコノミスト、インド財務省顧問をはじめとした、金融、経済、エネルギー、インフラ
など多岐にわたる分野における経験
– 13年1月:RBI副総裁(金融政策担当)、16年1月:同、再任
•
近年の歴代総裁(選出前の職位)
– 1992:Rangarajan(副総裁)→1997:Jalan(財務次官)→2003:Reddy(副総裁)
→2008:Subbarao(財務次官)→2013:Rajan(政府首席経済顧問<CEA>)
•
モディ首相が最終的に決定
– (1) エコノミストとしての経歴
– (2) 控えめな性格
– (3) BJP政権との良好な関係
10
金融政策-ラジャン総裁退任の背景
•
•
3年間で多くの功績
–
通貨ルピーを安定させ、フラジャイル・ファイブから脱することに貢献
–
物価上昇率の低下(10%→6%)
–
外貨準備積み上げ(約2700億ドル→約3400億ドル)
–
インフレターゲット導入
–
銀行の不良債権問題への取り組み(債権回収のための新制度導入、不良債権の仕分け、期限を設定しての処理加速、銀
行評議会の設置)
16年9月4日に任期3年が満了
–
–
•
中銀法では1期は最高5年、再任が可能
•
92年就任のランガルジャン総裁以降、在職期間は約5年が通例
•
任期延長になるのかが早くから大きな話題に
16年6月18日、ラジャン総裁が退任を中銀職員への手紙として公表
政府周辺にラジャン総裁に対する根強い反発
–
不十分な利下げ
•
高金利は中小企業に厳しい一方、外国人投資家に旨み
–
不良債権処理への厳しい取り組み
–
ラジャン総裁の金融政策をはみ出した発言
–
•
15年10月、「非寛容」を批判する講演
•
メイク・イン・インディアへの批判
中銀に「ロックスター」は不要
11
金融政策-15年2月、柔軟なインフレターゲット制に合意
•
金融政策委員会を設立して合議制へ変更(16年10月)
– 中銀から総裁を含む3名、政府指名による3名からなる計6名
– 投票結果が3票ずつに分かれた場合は総裁がさらに1票投じる
•
CPI上昇率(前年同月比)の目標: 4%(±2%)
– 移行期間について
• 16年1月:+6%以下 →達成
• 17年3月:+5%
• 18年3月:変動許容幅(+2~6%)の中間である+4%を目指す?
•
金融政策の目的
– 第一の目的は価格安定の維持及び複雑性を増している経済への対応
• 「経済成長の目的にも配慮しつつ」
– 「変動許容幅を設けているのは、短期的にはインフレ抑制と経済成長の目的は
相反することがあるため、景気周期でみた長期的な観点からインフレターゲット
を達成することを可能にするため」
12
金融政策-16年10月4日、前回一致で4月以来となる利下げを決定
消費者物価指数(CPI)上昇率と寄与度内訳
•
16年10月4日、定期金融融政策レビューを
実施
• パテル総裁就任後としてはじめてであると同時
に合議制としてもはじめて
– 政策金利を25bps引下げて6.25%に
• 全会一致で決定
•
パテル新総裁のもとで方針に変更か?
– 「中立的実質利回り」の引き下げ
– =(1年国庫証券利回り)-(1年後のインフレ率
予測値)
• 1.5~2.0%(15年9月)→1.25%
– 18年3月までにCPI上昇率+4%の目標は事
実上白紙か?
• 2~6%に収めればよい?
13
銀行部門-銀行部門-双子のバランスシート問題
•
企業の過剰債務
–
問題債権の産業別動向(15年9月)
04~10年の景気拡大期に積極的に借り入れを行ってインフラや鉄鋼などに積
極的に投資
–
•
銀行貸出残高GDP比
–
•
05~11年:借り入れ増大 irrational exuberance
2000年の28%→2011年以降は51~53%
事業利益に対する利払い負担の増加
–
企業の過剰債務問題
14
銀行部門-貸出条件緩和債権とは?
•
インドの不良債権問題の特徴
–
問題債権(=不良債権+貸出条件緩和債権)における貸出条
件緩和債権の割合が大きいこと
–
•
国営銀行(総資産に占める割合7割)に問題債権の9割が集中
貸出条件緩和債権とは?
–
元利払い条件の変更を実施した債権
•
–
返済期間、返済額、返済回数、金利など
08年8月、世界的金融危機の深刻化と国内の景気減速で導入
•
特別措置として、一定の条件のもとで不良債権ではなく正常債権に
分類
–
•
•
日本の中小企業金融円滑化法に相当
引当率は通常債権と同様の0.4%
12年から貸出条件緩和債権が増加
–
要因: 11~12年に投資プロジェクト中断が多発
15
銀行部門-投資プロジェクトの中断と貸出条件の緩和
•
•
投資プロジェクト中断の理由
–
景気減速による事業の採算性見通しの悪化
–
許認可の遅れ
–
発電計画:
問題債権の産業別動向(15年9月)
原材料調達難航(石炭、ガス)
プロジェクト中断が多発したセクター
–
インフラ(電力、道路、空港、建設)=PPP
•
経済状況の変化に応じた再交渉がなされず、受注業者に多
大なリスク負担
•
–
–
土地取得、環境規制許認可取得に難航
生産指数
製造(鉄鋼、セメント、製薬、衣服、食品加工)
•
需要低迷により生産能力が過剰に
•
価格低迷(鉄鋼)
鉱業(石炭、鉄鉱石)
•
石炭: 海外での資源権益獲得→資源価格低迷とルピー安に
より採算割れ
•
鉄鉱石:不法採掘問題により一時、採掘停止
16
銀行部門-「問題債権の仕分け」のデッドラインは17年3月
•
景気回復が先か?不良債権処理が先か?
– 景気回復に伴う投資プロジェクトの再開をひたすら待つのか?
– 企業と銀行のバランスシートの改善なくしては、投資および景気回復は進まない。。。
•
問題債権の仕分けと損失処理のデッドライン
– 15年12月1日のラジャン総裁(当時)の記者会見
•
•
問題債権の洗い出しと仕分けを実施し、17年3月までに債権の状況に応じた適切な引当金の積み立てによる損失処理
を指示
「債権価値の見直し(AQR:Asset Quality Review)」
– 貸出条件緩和をすることにより健全化が可能な債権と回収不能な債権を仕分け
– 「見て見ぬふり extend and pretend」してきた問題資産の洗い出し
•
利払いのための融資、返済を先伸ばしするための借り換え(エバー・グリーン・ローン)など
– 計150社に対する債権について不良債権として処理するように中銀が指示
•
•
銀行間でばらつきのあった債権の分類を統一
16年3月:貸出条件緩和債権が減少→不良債権が増加
– 条件緩和債権比率:15年3月6.4%→16年3月3.9%
– 不良債権比率:同4.6%→7.6%
•
16年6月の問題債権残高:9.2兆ルピー(GDP比6.8%)(1,380億ドル)
– うち不良債権6.3兆ルピー(GDP比4.6%)(1,010億ドル)
17
銀行部門-バーゼルIII規制
– バーゼルIII規制
• ティア1比率:
6.0% → 7.0%(15年3月31日~)
– 普通株等(CET1)
4.5% → 5.5%以上(15年3月31日~)
– その他ティア1(AT1債)
1.5%以下
• 自己資本最低比率(ティア1+ティア2):
9%
• ティア1(普通株等)資本保全バッファー比率:
– 0%→2.5%(19年3月31日~)
• 自己資本最低比率+資本保全バッファー比率:
– 9.625%(16年3月末)→10.25%(17年3月末)→10.875%(18年3月末)→11.5%(19年3月
末)
– 16年3月現在、ティア1は6.8%、ティア2を合わせた自己資本比率は
13.2%。
• 16年3月、ティア1の基準を緩和
– 外貨準備金、繰延税金資産、不動産評価差額金
» 国営銀行では計3,000~3,500億ルピー、民間銀行では計500億ルピー相当
18
銀行部門-不十分な政府による増資計画
•
政府推計(15年7月発表:Indradhanush)
– 15年度から18年度末(19年3月)までに計最低
2.4兆ルピー(360億ドル、GDP比1.9%)の資本
増強が必要
– 貸出残高増加率の想定:15年度+12%、16~18年度+12~15%
• 政府予算による増資引き受け:7,000億ルピー(100
億ドル、GDP比0.55%)
– 15年度に13行に対し既に2,500億ルピーを実施済み
– 16年度7月、13行に対し2.290億ルピーの実施を発表
» 16年度に1,000億~1,200億ルピーを追加計上する
との報道あり(6月22日付)
• 市場調達:1.1兆ルピー(170億ドル)
• この間の利益分の内部留保:6,000億ルピー
•
貸出(分母)を絞ることで、自己資本(分子)の
不足分を補うことは必至
• 貸出残高の伸び低迷で、経済成長の足かせに
19
銀行部門ー中銀のパテル新総裁のもとでアプローチの変化は必至
•
10月4日の政策決定会合後の記者会見でのパテル総裁の発言
– 銀行の不良債権問題には
•
•
「断固として(firmness)」ながらも、
経済成長を支える銀行貸出が経済に欠乏しないように「現実(pragmatism)的」に取
り組む
– 問題債権を抱える5産業(インフラ、鉄鋼、衣料、電力、通信)はそれぞれ重
要
•
•
•
5日、財務省アショック・ラヴァサ事務次官の発言
•
•
問題債権処理は「スキル」と「創造性」が必要
こうした状況に対処できるように銀行を助けることが国にとって最も重要
銀行貸し出しの硬直状態から抜け出すための「現実的アプローチ」が必要
債務一部減免を促進
– 問題債権持続可能再編スキーム(S4A)
•
債務一部減免の場合、残りの債務は正常債務に分類
20
4.見通し
• 短期的見通し: 景気回復の動向
• 中長期的見通し: モディ政権の諸政策の有効性
21
短期的見通し
•
投資回復が先か、消費拡大が先か?
– 投資回復→雇用創出→消費拡大?
• 銀行の不良債権処理と増資が終了するまでは、投資の回復は遅々としたもの
にとどまる見込み
– 消費拡大→投資回復→雇用創出?
• 農産物の豊作と公務員給与引き上げにより消費拡大が見込まれる
•
先行きのプラス要因:
– GST導入による企業マインドの改善
•
先行きのリスク要因:
– 原油価格が上昇に転じると、インフレ上昇と経常収支赤字拡大は必至
22
中長期的見通し
• 政策の有効性:競争力強化に貢献するか?
– Make In India
• 雇用創出と輸入削減
• 国内生産を強いることによるコスト上昇
– GST
• 税の簡素化、単一市場の形成によりビジネスコスト削減
– インフレターゲット
• 低インフレは価格競争力の点から必須
• 新総裁に対する市場の関心が高い今こそ、中銀のクレディビリティの確立
に注力する必要
– 銀行の不良債権処理
• 経済に資金を供給していくために銀行の健全化は必須
23
ご清聴ありがとうございました
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