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テロリズムの系譜学 テロリズムの系譜学
2012/11/19 立命館大学国際関係学部オープンゼミナール選考会 未来予想図Ⅲ~ポ・ス・ド・クのサイン~(山本健介、中井大介、菊池朋之) テロリズムの系譜学 ―これまでのテロリズム、これからのテロリズム― ―これまでのテロリズム、これからのテロリズム ― 研究の意義・ 研究の意義・目的 意義・目的 テロリズム――同時多発テロ以降多用されるようになったこの言葉について、私たちはどの程度理解し ているのだろうか。非国家アクターによる「脅威」が増え続けている今日、テロリズムの本質的考察は国 際関係に欠かせない問題となっている。本報告は、現代的意味での「テロリズム」の変容を政治学的・歴 史学的に考察することによって、その概念整理とポスト 9.11 時代における安全保障政策に新たな視座 を提供することを目的とする。 目次 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ テロリズムとは―起源と定義― マルクスとレーニン―現代的テロリズムの萌芽― 国際テロリズム(前期)―国際テロリズムの発展― 国際テロリズム(後期)―ポスト冷戦期のテロリズム― ポスト 9.11 時代のテロリズムへの対応―テロリズムの展望― Ⅰ テロリズムとは―起源と定義― ・テロリズムの語源 フランス革命末期のジャコバン派「恐怖政治(regime de la Terreur)」がその語源 ・テロリズムの定義(猪口孝ほか『政治学事典』弘文堂より) 「テロリズムとは殺人を通して、政敵を抑制・無力化・抹殺しようとする行動である。抑圧的な政府に対し て集団的行動がなかなか思うように取れない時に、政府指導者個人を暗殺することで、レジーム自体を 震動させ、崩壊させるきっかけをつくろうと企図することをテロリズムという。19 世紀のロシアの無政府主 義者のなかにはこのようなテロ戦術が有効であると考えて行動するものがいた。逆に、国家が政府を転 覆しかねない反対勢力に対して殺人をおこなうことを国家テロリズムという。[…]」 ・フランス革命末期における ・フランス革命末期におけるテロリズムの誕生 (1)恐怖政治 ロベスピエール:民主的社会獲得のためにはある程度の恐怖(テロ)が必要 「平時の人民政府の特性が徳であるならば、革命時の人民政府の特性は同時に徳とテロの両者である。 徳なきテロは破滅であり、テロなき徳は無力である。テロとは正義、敏速、峻厳、不屈の謂に外ならず、 かくてそれは徳の発露である。」(カー[1967:130]『ロベスピエール演説報告集』より) (2)ジャコバン派のテロリズムと現代のテロリズムとの共通点(ホフマン[1999]) ①組織的で計画的なもので、無計画でも無差別でもなかった ②目的と動機は付帯した非民主的な政治機構に代わって「新しい、よりよい社会」を作ること Ⅱ マルクスとレーニン―現代的テロリズムの萌芽― ・マルクスによるテロリズムの分類 テロリズムを「白色/赤色テロ」に区別 →白色テロ=ジャコバン的、体制側による恐怖政治 赤色テロ=共産主義革命的、体制側に対する反体制側(革命勢力)の暴力行使 「1848 年の秋にマルクスは、「反革命の残忍な行為」の後には、旧い社会の血の断末魔と新しい社会の 血の陣痛とを短縮し、簡単にし、局部的にするには唯一の方法――「革命的テロ」があるだけであると宣 言した。そしてその後、彼はハンガリーを「反革命の卑劣な暴威に対する革命的情熱をもって、白色テロ 1 2012/11/19 立命館大学国際関係学部オープンゼミナール選考会 未来予想図Ⅲ~ポ・ス・ド・クのサイン~(山本健介、中井大介、菊池朋之) に対する赤色テロをもって」勇敢に立ち向かった 1793 年以来最初の国家であると賞賛した。ブルジョア 社会は、「今でこそ殆ど英雄的には見えないにせよ」、当時は「自らこの世に生まれるために英雄心、自 己犠牲、テロ、内乱、血なまぐさい戦場を必要とした」のであった。」(カー[1967:131]) cf.赤色テロ正当化に用いられたフランス革命 ・レーニンと赤色テロ 特徴:ボリシェヴィキ政権(1)の確立と安定のためテロリズムを採用(ジャコバン派からの継受) 「赤色/白色テロ」というマルクスの革命理論の採用(マルクスからの継受) 「レーニンは、すべてのマルクス主義者と同様に孤立的なテロリスト行為は無益なものと非難したけれど も、ジャコバンおよびマルクス派の革命理論に立って、原則的にテロを受け入れた。」(Ibid.:132) 「反革命主義者およびその鼓吹者はすべて、ソヴィエト政府の労働者ならびに社会主義革命思想の支 持者に対するあらゆる企てについて責任を取らされるであろう。労農政府の敵による白色テロに対して は、労働者農民は、ブルジョアジーおよびその手先に対する大量赤色テロをもって応えるであろう。」 (1918 年 9 月 12 日、ロシア中央委員会声明) →1819 年 9 月の「赤色テロ」政令によって、これ以降「テロリズム=赤色テロ」に認識が変化 Ⅲ 国際テロリズム(前期)―グローバル化黎明期― ・国際テロリズムの定義 曖昧な「国際テロリズム」の定義 国際社会という「観客」への意識の芽生え ・国際テロリズムの誕生 PFLP(2)(パレスチナ人民解放戦線):エルアル航空ハイジャック事件(1968 年) 「テロリストは、ある国からほかの国へごくあたりまえに移動し、テロ攻撃を行うようになる。また、(彼らは) テロリストの大義や不満には無関係の他国の民間人を標的にしはじめたが、(それは)彼らの名ざしの敵、 もしくは公然の敵を攻撃したのでは、さほど世間の注目は集まらず、宣伝にならないからである。彼らの 意図は、人々にショックをあたえることと、そのショックによって、世界中に恐怖と動揺を引きおこすことに あった。」(ホフマン[1999:90]※括弧内は山本) ・国際テロリズム(前期)の目的 1970 年代半ばから、PFLP、黒い九月(3)を傘下とする PLO(パレスチナ解放機構)は、 「非イスラエルを目標にした、ある種の作戦をきっぱり放棄したことがたびたびあった。」(Ibid.:114) →目的:国際連合のオブザーバー地位のため出来る限り多くの国々と外交関係を樹立すること 【国際テロリズムは、あくまでも政治的な目的を達成するための手段 手段にとどまる】 手段 (1) 「多数派」の意。ロシア社会民主労働党分裂に際しレーニンが率いた勢力。11 月革命を主導しソヴィ エト政権を樹立。のちのロシア共産党。 (2) PFLP は、1967 年にギリシア正教徒のジョルジュ・ハバシュを中心に結成された PLO 内反主流派の 中心的組織で、マルクス・レーニン主義を掲げる左派の代表的組織である。 (3) 黒い九月は、1970 年にファタハ内で創設されたグループであるとされるが、その関係の詳細は明ら かになっていない。黒い九月は、1972 年に行われたミュンヘン・オリンピックにおいてイスラエル選手団 を襲撃し、その事件が世界中に報じられたことで一躍有名となった。 2 2012/11/19 立命館大学国際関係学部オープンゼミナール選考会 未来予想図Ⅲ~ポ・ス・ド・クのサイン~(山本健介、中井大介、菊池朋之) Ⅳ 国際テロリズム(後期)―グローバル化円熟期― ・国際テロリズムの深化(以下、 ・国際テロリズムの深化(以下、保坂 以下、保坂[2011] 保坂[2011]の議論を参考 [2011]の議論を参考) の議論を参考) アル・カーイダ(al アル・カーイダ(al(al-Qaeda)(4):9.11 アメリカ同時多発テロ(2001 年) ダールルハルブ(異教徒の地)とダールルイスラーム(イスラームの地)の境界は「断層線」となり「衝突の 場」となり、彼らの前線は永遠にループしながら尽きることは無い →ビンラーディンの活動はマッカ、マディーナの防衛というローカルな問題から始まった。しかし、グロー バル化の権化であるアメリカが敵として強調されることで、その活動はグローバルにならざるを得なかっ た ・国際テロリズム(後期)の目的 9.11 の目的、アル・カーイダの最終的な政治目的について、ビンラーディンは明確な言及をしていない →ビンラーディンは、敵/味方、ムスリム/非ムスリム、こちら/あちら(them and us)に代表されるような 二分法を用いる。それに加え、漠然とした反米イデオロギーによって「浮動する」若者を自爆へと動員 「怠惰な人生のなかで、刺激のない人生のなかで、怒りや不満、不安に満ちた人生のなかで、彼らは死 に近接することではじめて自分が生きていることをヒリヒリと実感できる。また、大義のために死ぬことによ って、自分が生きていた証を残し、自分の生きていたことが無駄ではなかった、意味のあるものであった ことを伝える必要があったのである。」(Ibid.:247) 【国際テロリズムは、手段であると同時に自己目的 自己目的となる】 自己目的 [図]テロリズムの系譜 フランス革命 レーニン グローバル化 グローバル化黎明期 グローバル化 グローバル化円熟期 主体 体制側 反体制側 非国家アクター 非国家アクター 動機 政治目的 政治目的 政治目的 手段の自己目的化 範囲 ローカル ローカル グローバル グローバル 恐怖政治 白色/赤色の区別 ↓ ↓ 脱共産主義化 脱政治化 政治目的が内在 共産主義への組み込み 概念 Ⅴ ポスト 9.11 テロリズムへの対応―テロリズムの展望― ・国際テロリズム(後期)による国家安全保障への影響 「グローバル化による最も広範な安全保障上の影響は、国際関係の『脅威』の基本概念を複雑化させる ことである。[…]科学技術と情報のグローバル化によって、国境を越えて組織化され、仮想空間で会議 を開き、テロリストの戦術を利用する非国家の過激派あるいは原理主義集団の力が相当強化された。」 (Cha[2000:392]) →グローバル化の過程の副作用としてテロリズムは生起する。また主体の特定が困難であり、自己目的 化した国際テロリズム(後期)の根絶は難しいため、テロリズムの抑制と被害管理が最重要となる アル・カーイダは 1979 年のソ連によるアフガニスタン進行に際してアラブ諸国から結集した義勇兵 (ムジャーヒディーン)によって 1989 年に結成された。組織の指導者はオサーマ・ビンラーディンであっ たが、2011 年 5 月 2 日(米国現地時間 5 月 1 日)、アメリカ海軍の特殊部隊によって殺害された。(保 坂[2012:4-5]) (4) 3 2012/11/19 立命館大学国際関係学部オープンゼミナール選考会 未来予想図Ⅲ~ポ・ス・ド・クのサイン~(山本健介、中井大介、菊池朋之) cf.グローバリゼーションとは、「技術敵発展に支えられ、ヒト・モノ・マネー・情報が素早くかつ容易に国境 を越えた移動の拡大する過程」である(関下[2010:41-42]) ・国際テロリズム(後期)への対応 「今現在、そしてさほど遠くない将来にわたり、国民国家は、自国の市民とその周辺部に対して、政治、 経済、文化の領域で確固たる支配力を保つであろう。とはいえこうした権力を行使するには国家間の各 国自治体との、そして国境を越えた組織や自治体との積極的な協力がかかせない。」(ギデンズ [1998:32]) (1)国際社会 ①9.11 への対応として行われた対テロ戦争(伝統的安全保障による対応) →対外的軍事力行使による対応の限界露呈=「テロリズム根絶」の不可能性 ②国際協力によるテロリズムの「封じ込め」 ex.グローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)(5)、テロ資金供与防止条約、テロ対処能力向上支援 →国際的なテロ行為の容疑者を最終的にはいずれかの国で処罰し得るように、国際的な協力の枠組 みを構築することを目的としている (2)国内社会 国際的枠組みによる対テロ対策の義務化→国内統治、領域管理の強化、被害管理 ex.米国愛国者法 →体制維持のための自由の制限が民主政体維持の論理によって正当化される cf.体制側による政治目的(秩序維持)をもった暴力行為=ジャコバン的テロリズム ⇒2000 年代中期以降のテロ対策は、体制によって正当化されるが、行為の性質はテロリズムの起源 (ジャコバン的)への回帰である 【ポスト 9.11 の時代は国際テロリズムと国家テロリズムの並存状態 国際テロリズムと国家テロリズムの並存状態になると言えるのではないか】 国際テロリズムと国家テロリズムの並存状態 参考文献・資料 イーグルトン[2011]『テロリズム』岩波書店 猪口孝ほか[2000]『政治学事典』弘文堂 E.H.カー[1967]『ボリシェヴィキ革命(一)』みすず書房 ギデンズ[1999]『第三の道』日本経済新聞社 関下稔[2010]『国際政治経済学要論』晃洋書房 保坂修司[2011]『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』朝日新聞出版 ――――[2012]『イラク戦争と変貌する中東世界』山川出版社 ホフマン[1999]『テロリズム』原書房 宮坂直史[2006]「テロリズムとテロ対策」『平和政策』有斐閣 ユルゲンスマイアー[2004]『グローバル時代の宗教とテロリズム』明石書店 Cha, Victor D[2000] ‘Globalization and the Study of International Security’, Journal of Peace Research 37/3, 391-403. Dalacoura, Katerina[2011] Islamist terrorism and democracy in the Middle East, New York: Cambridge University Press 外務省 HP「日本の国際テロ対策協力」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/index.html (最終閲覧日 11 月 10 日) GCTF は米国主導のテロ対策に係る多国間の枠組みであり、1)実務者間の経験・知見・ベストプラク ティスの共有、2)法の支配、国境管理、暴力的過激主義対策等の分野におけるキャパシティ・ビルディ ングの実施等を目的に、テロ対策の政策決定者・実務者が一堂に会して知見を共有する場を提供する もの。組織として調整委員会、テーマ別・地域別の作業部会、事務局を設置。 (5) 4