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3. 中国 IN-OUT の実情と展望
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
M&Aディール部門 シニアマネージャー 小黒 健三
(1)はじめに
日本が中国に行く場合の中国への In-Out の視点、特にミクロから見た場合にどう見えるか
という観点で私の経験を述べてみたい。セクションを3つに分けた。1番目は個別の企業が置
かれている市場の状況や、マーケットの調査等の経験から見える市場の状況を簡単にまとめ
た。2番目は、現場の憂鬱として記載したが、これは私の憂鬱である。私は中国駐在中の 3 年
半は日本企業の中国投資の調査だけをやっていたと言っていいと思うが、そのときの悔しい
思いについて述べてみたい。これはミクロの議論である。3番目は展望で、現状を踏まえ中国
の In-Out 投資についてどんな展開が想定されるかを最後に述べてみたい。
(2)調査現場から見える中国 IN-OUT 市場~ミクロからみたマクロ
中国というと可能性が強調されるが、私が見たところ、一言で言えば中国の産業は苛烈な
ほどに厳しい。個別の企業を見ていくと、最初は儲かるように見えても、すぐ価格競争が起こ
っていく。あっという間に利益が淘汰されていくという状況が起こりやすい。常に競争が起こり
やすいというところが最初の特徴である。
また、これは日本の立場の変化に伴うものと想定されるが、進出する日本企業の業態が拡
大し、変わってきていると思われる。製造業以外の、日本が強みを持っているか不明な業界
も中国に入ってきている。そのなかには、中国側では産業や市場そのものすらまだ意識して
いないものもあるだろう。サービス産業は何なのか。コンペティターが何なのか分からない分
野にも近年進出している傾向がある。
それから、日本の中国への In-Out の厳しさを増している要素として、中国自体が、日本に
対して期待していないところがあると思われる。中国が外資そのものに期待するなという方向
性にあり、日本企業にとってはますます厳しい進出環境になっているのが1点目である。2つ
目は案件価格である。これについては後述する。中国関係は価格の交渉が最大の懸案にな
ると思われる。これは競争と表裏一体の中で厳しさを増幅させる2番目の要素である。3番目
は、まとめのようなものでもあるが、中国の環境はハイリスクであって、しかも投資家がリスク
を取らないと案件が成立しないという点で、中国のM&Aの沸騰そのものが投資家にとって
厳しい要素があるという点である。
個別に見ていく。まず1つ目は、全土を包括する中国企業というのはまずないというふうに
見えること。例えば上海企業の多くは上海だけで事業を行い、北京企業は北京からあまり出
ていかない。中国全体を包括している事業を私は見たことがない。領域を超えて事業を運営
しようと思っても移動コストや文化の差がある。また、民族も異なる。そういうところでかなり障
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壁は激しい。その領域の中で、ある会社で利益が出ると2番目が入ってくる。価格競争が起こ
りやすい。
中国のコマーシャル調査をやってまず出てくる項目は、1つは市場が分断されているという
結果である。コマーシャル調査で他にでやすいポイントは、繰り返しだが競争が激しいという
点かと思われる。これは日本の激しいというレベルではない激しさである。最近は、確かに中
国の企業も利益の出ている企業は増えている。ただし利益は直近のみという状況が典型的
である。
図表 I-2-3-1 は、私から見た中国案件、日本が中国案件をやるときの特徴を、感覚的なも
のを含めまとめたものである。まず、欧米案件は、日本から見た場合は入札で呼ばれること
が多いが、中国は相対が多い。
中国の案件は、中小規模で、かつ専門家も多い。弁護士も会計士もフィナンシャル・アドバ
イザーの数もかなり多い。そのなかで、先述したようにハイリスクの状況が避けにくい。そもそ
も情報がなく、リスクが高く見える。これが特徴である。
中国の検討の中では技術的にはいろいろなスキームが採用できる。ただし、合併や会社分
割などいろいろ選択肢はあるが、スキーム自体はかなり限られた中でやらなければいけない
という厳しさは本質的にあると思われる。
図表 I-2-3-1 他の地域と比較した中国案件の特性(筆者作成)
図表 I-2-3-2 は、中国事業の歴史的な系譜を、私の感覚と統計を合わせて示したものであ
る。私が中国にいたのは 2004 年の秋から 2008 年はじめまでだが、統計から見ても利益は拡
大している。これは確かに正しいと思う。ただし、私の感触では個別の会社を詳細に調査す
ればほとんど赤字だったと思われる。外資、国内に限らずほとんどが赤字の状態というのが
むしろ正しいのではないだろうか。
2009 年、今年になって利益が出ている会社があるが、概括すれば個別の企業は依然かな
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り厳しい。私の感触だが、中外合弁というと外国企業が苦労した話しか聞かないが、中国企
業も中外合弁は失敗だった、モデル自体が失敗だったと思っている節がある。もともと中外合
弁は、外資の技術を吸収して中国ブランドを育てましょう、技術を学びましょう、というところが
あったが、これ自体が成功しなかった。ブランドの市場浸透は外資ばかりで、中国側はほとん
どロイヤリティも入らず、技術も取れずで、2007、2008 年ぐらいから方向を変えてきている。更
に輸出不況もあって中国も自力でやる、そのかわり民間というよりは国有企業を大きくしてや
るという流れがそのころから出始めていると思われる。
図表 I-2-3-2 中国の利益の推移:国有企業と全産業比較 1998-2008
2007 年の後半から国有企業の集約が始まっている。政府主導で強い企業を作る流れであ
る。今、Fortune500 のうち 37 社は中国企業であり、この中には香港企業が2社ほどあるが、
原則は国有企業である。
こういう巨大化した企業がどういう行動に出たかというと、資源・技術・ブランドを買いに行っ
た。原則は国内市場で勝つための資源ないしブランドないし技術を取りにいくためである。原
則、これは外資と組んだり外国の市場を狙ったというより、海外の工場そのものを中国に持ち
帰って分解し、自分達で中国市場の展開を考えるための手段、というイメージに近い。
図表 I-2-3-3 は案件価格である。私が支援していたのは主には戦略投資家だったので、戦
略投資家が多いのは感覚的には合っている。案件の規模は 50 億もいけばかなり大きな案件
で、日本案件では数十億円でもまあまあ大き目の案件で、10 億円でも普通の案件である。案
件規模からいうとやりやすい部類、あまり大きくはない案件が多い。それもあってフィナンシャ
ル・アドバイザー、特に外資が入っていくにはあまりにも小さすぎるという状況であったので、
私が中国に居たときはいわゆる純粋な外資のフィナンシャルアドバイザーとは1回も会ってい
ない。ただし、地場のコンサルティングがやっているようなアドバイザーとは何回も会ってい
る。
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図表 I-2-3-3 案件価格、2007 年度から
ディールサイズが数十億円なので比較的取り組みやすいのだが、価格交渉面で大変であ
る、ということを示したのが図表 I-2-3-4 である。このマルチプル、これは市場データなので参
考だが、EBITDA乗数で高いと 20 倍を超えているような市場に見えると思う。実際に、価格
交渉の場では乗数 30 倍ぐらいから交渉がスタートするようなイメージがある。日本の案件の
場合は多くて4、5倍なので相当なギャップがあるというイメージを持っている。
ただ、それでも中国を勉強しに行くという要素もあって、2006、7年ぐらいは日本の企業も最
低十何倍というようなマルチプルを払っても投資をやっているはずである。ただ 2008、9になっ
て中国の投資に対する減損がかなり発生した現実もある。
ただ1つ、これは参考までだが、もともと中国に国有企業の場合には国有財産を外資に不
当に安く売らせないための規制がある。そのために法定評価の認可手続きがある。その評価
実務のガイドラインがあり、その中では類似会社比準法、乗数法は記載がないので、乗数法
という言葉自体は中国の会社でもあまり知らないという状態である。ただし感覚では乗数法
は頭の中に入っている。中国企業の視点からみた乗数法は、そういうイメージでとらえる必要
があると思われる。
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図表 I-2-3-4 2009 年度のEBITDA乗数
図表 I-2-3-5 は私の感覚を図に示しただけものである。全般的にはIPOや株価が加熱する
とおそらく向こうの対価も加熱した。そうなると価格交渉が厳しくなってディールブレイクが多く
なった。これは日本案件のみならず欧米でもそういうことが起こっている。リスクを取るために
は複雑なスキームを取らずに株式買収をやらざるを得なかったという状況がある。多分 2006
年から 2007 年ぐらいはかなり続いたというのが私の感触である。以上が私から見たマーケッ
トである。
図表 I-2-3-5 IPO・株価と案件対価
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(3)日本の中国 IN-OUT 行動の考察~現場の憂鬱
ここでは現場の話をしたい。図表 I-2-3-6 前節の続きのようなもので、特に科学的なもので
はなく、あくまでも私の感触である。中国に駐在したはじめの頃、私が日本企業の依頼で調査
に行ったころはメーカーが多かった。このときはまだ独資で工場をつくるという単純な下請工
場の設立の案件もかなり多かった。途中からは日本企業も市場を確保しなければいけないと
いうところがあった。販路を取りにいく案件が増えたのが 2005、2006 年である。直近は確かに
サービス業が増えており、小売りも含めてサービス業が多くなっている。この増加傾向は、向
こうにニーズがあるというよりは、個人的には日本の事情が大きいと考えている。日本の成熟
があまりにも明らかになってしまって、中国に行くしかないと考える日本企業がとても増えた
感じがする。特に最近は今まで海外に行ったことがない企業、M&Aをしたことがないような
企業、地方の企業が非常に多いという印象を持っている。今までは日本の中でもかなり大き
な企業で、名の知れているところが多かったが、最近は比較的地方の企業が多くなったという
印象を持っている。
図表 I-2-3-6 日本企業にとっての中国投資 6 年間
出所:筆者作成(筆者の主観に基づく)
細かいところを見ていくと、中国案件では、中国そのものの問題も確かにあるが、日本のや
り方にも問題があると思われるところがあった。1つは、これは仕方がない面もあるが、日本
の案件担当者を見る限りは受け身の案件がかなりあった。そもそも投資目的かも分からない
というものもあった。国内の再編の中で起きてしまった中国案件、日本の企業がかなり中国に
出てしまった。何かが起こると必ず中国というのがついて回ってくるというのもあるのだと思う
が、こういう目的意識が曖昧なものがかなりある。
そもそも本当にやる気があってやっているのか分からないので、何か問題が起こると混乱
する。チームが混乱するとディールブレイクが起こりやすいというのが1番目である。
2番目は、昔から中国に入っている企業ではやはり M&A の洗練度は上がったと思う。かなり
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勉強もしていると思うが、中国案件では色々な問題の発生は避けにくく、そのときにどうする
かという解決に関してはかなり手間どっている、という印象がいまだにある。
3番目は、日本企業はコミュニケーション不足ではないかと思うことがかなりあるというのが
私の素直な印象である。日本の良さはあるが、それが中国側、政府に伝わっていないので、
中国側は日本を意外に知らない。私たちはこういう素晴らしい会社だということすら中国側が
知らないまま話が進んでいて、それが交渉を難しくしている場面があるのではないかというの
が3番目である。
次に中国の調査での特徴である。心証の域をでないが、まず、簡単に言ってしまえば情報
が少ない。これは避けられない。中国企業の多くにとって、利益という概念も比較的最近の話
だと思われる。国有企業はもともと従業員の確保を重視し、売上を確保するというものである。
民間企業も先にパイをとる、価格は後でいいという視点がかなり強くあったので、分析情報自
体のニーズも社内にあまりなかった、というのが中国企業の状態だったと思われる。
文化的な面もあると思われるが、自分に有利にならないものは出さないというマインドがあ
り、そもそも情報が少ない中で検討しなければいけないというところから始まっている。その点
を十分認識していない日本の会社もいるという感じを持っていた。
関連する点として、デューデリジェンスについて述べてみたい。デューデリジェンスに限らず
情報量があれば会社の理解が深まって、少しずつ自信がついてくるものだと思うが、日本の
案件は、通常は調査の前からある程度相手のことが分かっている。また業界のプレーヤーも
知っている。そういう点が分かっている状況から始まる。中国の案件に関してはおそらくほと
んど分からない状況から始まる。その分からない状態から始まっているところをかなり無視し
た依頼があったように私は見ている。
例えば、「この案件はデューデリジェンスをやる必要がありますか?」と顧客に聞かれたとき
にいつも説明するのは、図表 I-2-3-7 である。リスクを把握することは確かに調査の目的であ
る。相手を見ることも、評価、契約条件もそうである。それ以上に重要なのは、そもそも相手を
理解することである。その辺の基本の感覚がなかなか分からないで始まっているので、実際
に調査をしても、それがうまく使いきれていないという状態が見られる。これは日本企業の特
徴としてあるのではないかと思う。
図表 I-2-3-7 デューデリジェンスの目的
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体制の問題をみると、日本は組織型のフォーメーションになっている。中国は個人のワント
ップである。組織と個人では通常は組織が強いが、日本の場合には中国のワントップの意思
決定の速さに対して、意思決定が混乱してしまう傾向がある。中国のリスクも良いところも個
人に帰着してしまうところがあるので、そこで日本側が困惑してしまう、その処理に困ってしま
うというところが見受けられる。これは良い悪いではなくて、1人とか2人というリーダーシップ
に対する日本組織の対応の難しさがある。この辺のところで、中国案件に強い日本企業は、
実はオーナー企業だったりする。個対個で話をできないとなかなか厳しいところである、という
イメージである(図表 I-2-3-8)。
図表 I-2-3-8 日中の体制の違い
出所:筆者作成
欧米企業と日本企業の調査スタンスについて見ていて思う印象としては、どちらが良いとは
言えないが、欧米企業の場合には交渉材料をとるための調査をする。事業を見る、という意
識を強くもった調査が欧米企業のデューデリジェンス、調査の意識だと思う。日本の場合はど
ちらかというと頑張ってちゃんと見ましたというプロセスがおそらく意識の多くを占めている。も
う1つは、メーカー中心というのも従来はあったと思われるが、日本企業は目に見えるものを
重視する。資産を見たい、という意識がつよい。損益を見なくていいという依頼はかなりある。
一概にはいえないが、結果としては日本企業のアプローチはそもそもリスクを見ないようにし
ていた、とさえ見える案件も見受けられる。
欧米企業の場合には、例えば損益が分かり、サプライチェーンが分かり、取引先が分かり、
会社の強さ・弱さが分かりました。となれば、何をすればいいか分かりました、というのが調査
の流れで、それでほぼ調査も完結するが、日本の場合にはその中で価格はいくらですかとい
うところをさらに外部に依頼するというところがあったと思う。PwC中国全体でうけた外国企業
からのデューデリジェンスでの依頼のうち日本企業は、10 分の1程度である。ただしバリエー
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ションになると外国企業からの依頼のうちの2分の1ぐらいが日本企業になってしまう。この割
合から、日本企業のなかに、何かお墨付きがほしい、プロセスを満たしたい、という意識が見
え隠れするときがあり、私としてはすこし不安に感じている。
プロセス重視はある程度いいと思うが、そこで苦労しているところが日本ではあった。欧米
の場合には逆にそれはそれでプロセスをきちんとやっていないという部分はあるのかもしれ
ないが、数字に関しては判断が早い。そういうところは、欧米の方が中国側の感覚には合っ
ていた部分があると思われる。
それを投資意識で見たものが、図表 I-2-3-9 である。これも一般論は言えないが、日本企業
投資には予算というのがある。失敗したくない、コンプライアンスがすごく重要である、絶対に
問題が起こらないようというところをすごく重要視している。
欧米企業はどちらかというとコントロールを失いたくない。やりたいことをやるために投資を
やっているので、それに関してできるような感じにしなければならないという意識が強かったよ
うには見える。その違いはかなり大きかった。したがって中国企業から見ると、日本企業は真
面目だが、なぜあんなに怖がっているのかというところはおそらくあったのではないかという
のが私の印象である。
図表 I-2-3-9 進出企業別の投資意識の相違
中国はハイリスクだと言ったが、実際にどうであろうか。一般論では言えないが、日本側の
想定は中国のことは変革しない、そのまま事業をやるというものである。事業は中国に任せ
る前提なので、事業はハイリスクですと言われたときにどういうことになるかというと、一定の
予算の中でリスクを減らしましょう、という話になる。例えば持ち分を減らす、または怖いので
対価を減らす、という方向になるという印象を私個人としては持っていた。これは日本側から
考えるリスクの対応である。
欧米側が考えているリスクは、もともと中国企業はハイリスクだと分かっている。だから変え
ないと儲からないという感覚がどこかにあったと思う。支配権をまず取らないとそもそも案件
が成立しない。今は変わっているが、少なくとも少し前まではあったと思う。したがって例えば
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ハイリスクと言われたときにどうするかというと、もともと 51%の持分の想定だったのを 70%に
上げる。もっとお金を出してでも 100%に変える。そういった行動に出るような印象がある。全
部ではないが、日本とは行動が反対の印象があった。拒否権もないような中途半端な 10%、
15%を嫌った。33%は最悪だ、という印象を持っているように私は感じていた。
ただ目的が違うので、必ずしもどちらがいいとは言えない。それから欧米も今、お金が付か
ないのでこういう状態になってはいない。私がいたときにはこういう印象があったということで
ある。
欧米企業は以前こうだった印象があるが、今実際はどうなのかという話が、図表 I-2-3-10
である。実際にこれがそんなに単純なのかというと単純ではなくて、まず 34%とは何でなのか
という話を聞いていくと、もともと新会社法では株主会の3分の2以上の決議で重要事項が決
められる。実施条例に関しては董事会の全員一致決議である。どちらなのかという話になると、
実施条例を特別法と見るのか、ガイドラインと見るのかもあるが、原則は従来の弊害等を払
拭する趣旨もある新会社法なので、一応実施条例はガイドラインという扱いが最近はすう勢、
という意見が多く会社法が優先する、とする。そう考えると出資割合3分の1以上の決議であ
る程度の大きな決定ができる。逆に言うと3分の1以下は何もできませんからねと、いう議論
が欧米の中にはあった。ただ例えば会社法と実施条例の間に中外合弁法というのがある。こ
れは完全に特別法である。この中で董事会イコール最高意思決定機関と決められているの
で、これが残っている。そのため、特別事項を決める決議としては、中外合弁ではまだ董事会
の全員一致決議が原則となっているのが現状でしょう。
更に言うと、こういうものがなくても 100%だったら事業コントロールされるかというと、確かに
事業はそれなりにコントロールしているかもしれないが、欧米企業もそれで事業に成功してい
るというわけでもない。そもそも持ち分議論自体が成功していないというような現状はあると
は思う。
図表 I-2-3-10 会社法等における選択権
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私がデューデリジェンス段階で案件概要を聞き始めるという事情もあるとは思うが、何をや
りたいのか調査目的が見えにくいような日本企業からの依頼が非常に多かったというのが私
の印象である。会社の中の戦略の中でどう位置づけて中国なのかというところが非常に分か
りづらい。最近減ったが、少なくとも 2005 年、2006 年のあたりはすごくそういうものが多かっ
た。
中国の会計制度はどうかというと、理想は高い。これはIFRSの Copy &Paste とも言われて
いる。ほぼ国際会計基準そのもので、月次決算が原則で理想は高い。監査も原則必要で、例
えば融資でも税務でも監査が求められる。つまり理想は高い。しかし運用面は別である。例え
ばデューデリジェンスをやって、上場企業であっても数字の間違いや改ざんなどがないという
案件はほとんどあり得ない。売上さえも違うことが多い。あとは国際的な会計事務所の監査を
受けるところが少ない。そういうところがあるので制度とは別にそもそも数字自体が全く違うも
のという印象がある。
中国の統計自体もよく分からない。こういう前提で財務数字が登録されて集計されているわ
けだから、中国の市場の状況は本来全く違うものかもしれないとさえ思っているというのが私
の印象である。
次にデューデリジェンスをやったときにどういう問題が起こるかという点について述べてみ
たい。特に国有資本も含めたオーナーシップから生じるような問題点はまず見ないといけない。
2番目はコンプライアンス・イシュー、これは法令順守の部分もあれば、税務の問題もある。3
番目は利益が出にくいところである。それから撤退自体が難しいので、それを考えながやらな
ければならないということである。
オーナーシップ・イシューを具体的にみたものが、図表 I-2-3-11 である。オーナーシップ・イ
シューで一番典型なのは、左上の入り組んだ資本である。中国の中で一番気味が悪いと思う
のは、この歴史をひもとくと、例えば国有が右上にあるというような背景である。この図は国有
の再編の中でできた会社である。個人と国と歴史、これは日本のオーナー企業も同じかもし
れないが、こういうところを繙くと非常にいろいろなことが起こっている。構造から見ても既に
気持ちが悪いというのがオーナーシップ・イシューの典型である。これに規制が更に絡まって
くる。国有が入ると規制が絡まってくるということは注意していい。
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図表 I-2-3-11
オーナーシップ・イシューの典型
出所:筆者作成
図表 I-2-3-12 は、2番目の部分のイシューとして挙げたコンプライアンス・イシューについて
である。ここで挙げた以外のものもいろいろあるが、1つこのポイントはコンプライアンスに違
反してやっとキャッシュフローを出している企業が多いということである。債権を払わない、売
上は税金対策で過小申告しているとか、コンプライアンスを本来の形でみたさないことによっ
てキャッシュフロー利益を得ている、と判明する会社が非常に多いということ。それからこれを
解決するのは非常に難しい。利益が出ないということもあるが、取引先との関係もあるから、
そもそも解決が難しい項目が多いのがポイントである。
コンプライアンス・イシューに対する日本企業の対応もいろいろある。そんな案件やりません
という場合もあるし、ひとつひとつ問題がないことを確認していく場合もある。改善してください
と中国企業に言っていく場合もある。いろいろあるが、A、B、Cをやっていくと結構ディールは
潰れる可能性がある。
最近はEで、想定して、それでも利益が出るというプランを描くというものである。そうなると
高い対価を払わなければいけないので、それはそれで問題が起きている。コンプライアンス・
イシューというのはおそらく日本企業にとっては最も頭の痛い問題である。どうしましょうかと
いうことが一番多い部分がコンプライアンス・イシューで、これは中国にはどうしても付きまとう
ような部分だと思っている。
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図表 I-2-3-12 中国のコンプライアンス・イシューの典型
では、こうした問題も含めてディール・キラーは何であろうか。やはり価格である。先ほど言
った価格、例えば乗数で言えば数十倍の価格である。半分以上はこれが理由のディールブレ
イクだと思われる。
それから、日本企業特有な点としては、法令違反、管理不足などのコンプライアンス問題が
意外に多い。コンプライアンス・イシュー、例えば脱税していましたと判明した場合、日本では
投資申請は下りません、というのが多い。良いか悪いかは別にしてそうした場面は多い。
以下、私が関わった案件を紹介していく。
これはフランスのある企業の買収であり、私が駐在に行く前からのもので、私の駐在中に4
年ぐらいかけて続いていた案件である。私としては、日本企業の中国 M&A の方式との違いに
びっくりした案件で、セミナーをやっているときによく使っている案件なので紹介したい。
図表 I-2-3-13 ある外国企業の中国投資案件(ケーススタディ①)
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図表 I-2-3-13 にあるように、会社としては製造業、化粧品の製造をやっている会社である。
業界で5位とかなり大きな会社だった。ただし販売会社は別出しされている。そういう案件に
対して、もともとはマジョリティを取りましょうという想定でフランス企業が打診をしていた。相対
での条件交渉のなかでで、調査を行っていった。
図表 I-2-3-14 にあるように、販売会社が利益の調整弁に使われていました、という検出事
項がある。それから販売会社の下に、卸やら販売店の系列がある。それがかなり重層構造に
なっていたというところが1つのポイントである。また売上に関してある程度問題がある。そう
いうところで販売会社が1つのキーになった。
図表 I-2-3-14 事業構造(ケーススタディ②)
図表 I-2-3-15 は会社が考えた戦略である。左側が中国の対象会社である。販売会社は今
対象外である。卸も物流会社も対象外である。こうした産業構造のなかで、この企業の対象
会社は、製造を担っている会社であり、これは問題だとこのフランス企業はとらえたようである。
なぜ問題か。この外資の成功モデルは外部販売店や卸が少なくて、顧客情報がダイレクトに
入るからこそ良い商品がすぐに開発できる。これはそもそもマージンも多い。中国の対象会社
はそもそもモデルに合っていない。それがもともとの考えだったそうである。
図表 I-2-3-15 商流の論点(ケーススタディ③)
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その中で損益はどうかというのが図表 I-2-3-16 である。そこからは、コンプライアンスを満
たさないことで何とか利益が出ているのではないかと見えた。
図表 I-2-3-16 損益調整(ケーススタディ④)
このままではどうしても難しい、とフランス企業はそう見た。そのときにどうしたか。「しょうが
ないね、でもこのままやろう」という投資判断が1番目。2 番目はフランスのブランド力は強い
のでフランス製品を中国の商流に入れればいいだろう、というもの。あとはいっそのこと販売
会社を買収対象に入れてしまおうというのが3番目である。完全に変えてしまえ、というのが4
番目である。日本の企業は多分1番目と2番目はあると思うが3番目と4番目はないのではな
いかと思う。
この外資はどうしたかというと、なんと全部やった。これに私は驚いた。図表 I-2-3-17 の右
下、販売支店は移管範囲に入れてください、待ちますから、というのである。全部ではないが、
卸も一部入れるという前提でやりましょう。一部やって系列は切ってしまいましょう。地場の取
引先をたくさん切って、ダイレクトな販売網を作り、それで買収後に事業をやります、という条
件を持ちかけた。ただしお金はもっと払いますという条件でやろうとしたようである。
更に過半数では足りない。リスクが高すぎるので 100%にする方向ででた。何回か交渉中断
になっているが、それで始めた。
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図表 I-2-3-17 スキーム変更(ケーススタディ⑤)
私が聞いただけでも2回ぐらいは交渉決裂になっているが、4年間で似たような形をモデル
として成立させた。この案件を成立させた点から言うとかなり成功した案件とそのときは言わ
れた。それがまず第1段である。その後どうかというところは、図表 I-2-3-18 である。
図表 I-2-3-18 その後の展開(ケーススタディ⑥)
実際にはどうだったか。実は、フランス企業の成功モデルを適用したはずが、卸はあまり移
管できなかった。従ってそもそも販売の流通網が止まってしまったというのが大きな問題の一
つである。当然、多くの卸はそのフランス製品など扱わない。地場の反発があったということ
である。想定していた契約が満たされず、流通も流れない。後から考えると大失敗だった。ネ
ットで見るとこの案件の分析が方々で載っている。「外資による中国投資の歴史的な大失敗」
などと散々に言われている。
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これが良いか悪いはともかくとして、こういうようなことを考えたこと自体、私はすごくびっくり
した。考えたことにびっくりしたということと失敗したのにもびっくりした。
確かに失敗だったが、今はどうかというと、今はそんなに悪くない、ということでもあるようだ。
かなり早い段階に地盤を確立できた状態で、今は全く別のものをやっているので悪くない。昔
のオーナーからいろいろな紹介も受けているので、今はそれなりに回っている。今見ると失敗
とも言えない。
要するに何をもって成功とするかという判断もなかなか難しい、というのを感じた案件であ
る。
(4)日本企業の中国 IN-OUT はどこに向かうのか?
最後に今の中国 In-Out の流れについて私なりの考えを述べて終わりにしたい。ここで述べ
るようなことは、日本の会社もよく分かっている。情報の限界、強引な投資で減損した、相手
がコントロールできなかったというのは、多分いやというほど経験していると思われる。私が見
ると最近かなり変わってきた。例えばデューデリジェンス以前の産業調査や周辺調査である。
どうせ出ないのだから、周辺の関係者に当たって、そもそもこの会社の評判を聞いてください
という依頼が非常に増えた。将来性を検証する上で真っ当な流れではないかと私は思ってい
る。
図表 I-2-3-19 最近の流れ
それから、そもそも来た案件をやっていってうまくいくかは、最後まで分からない。戦略に合
うかも分からないので、パートナー探しから始めるという方向が増えた。やり方が分からない
というのもあるかもしれないが、方向としてはあり得るべき方向なのだろうと思っている。
アウトプットのされ方はかなり洗練さてきたと思う。以前は一般的なプロセスでスケジュール
はいつ終わるのか、とか、そういう質問が多かったが、それに関しては、この部分はこうなって
いるけれども、変わりますよねというコメントも増えたので、スケジュールに関して柔軟化が必
要だ、というのもある程度理解されてきたのではないかと思う。
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それから、台湾企業との連携がある。これが成功するかどうかはともかくとして、中国対応
に習熟しているところと一緒にやっていきましょうというのは最近増えている。この点でも、あ
る程度洗練度は上がっていると思う。
欧米の企業はどうなっているかだが、まず背景として欧米企業も中国案件はすごく苦労した。
価格の問題もあるし、中国企業はそもそも欧米企業をそんなに求めていないということもある
ので、実現しなかった案件も多い。
それから、実際に欧米企業はマジョリティを取った。でもうまくいったかというと、そうでもない。
必ずしもそうでもないという経験をしてしまった。
失敗してもその後に続く場合もある。売り手から紹介を受けたり、中国に地場ができて、違う
結果が出たというのも出ている。
今の流れとしては、以前のような過半数絶対だとか、必ずこうするとか、そういうのはあまり
考えていないようである。以前は戦略投資 51%とあったのが、今は 20%以上だったら検討す
るとか、そもそもM&A実行だけで成功と見なさない。評価として見なさないという状態も出て
きている。これは日本に近づいたなという感じもするが、関係強化のための投資検討、M&A
部隊の役割もM&Aというよりは、中国を開拓するための一つの手段として検討しているとい
うような位置づけが強くなったような印象がある。
中国企業の海外進出を支援するというのが結構はやりである。例えば欧米企業に行くとき
に助ける。うちに投資してください、そのかわり我々にも投資先を紹介してください、これが一
つの流行なのだろうと思う。
このときどう思うかという点が図表 I-2-3-20 である。明確な解答はないが、私が見た客観的
な中でどう見えるかというところである。本質的に中国はハイリスクというのは変わっていない
と思う。その中で日本企業の強さは中国企業には分からない部分がある。日本で強いことが
中国で強いとは限らないが、ただ伝えてもいないという感じはしている。会社の強さ自体を完
全に分かっているかどうか分からない。私から見ると、何をしたいかが分からない。案件はそ
ういうところで増えているような気がする。何をしたいか分からない。特に今まで海外案件をや
ったことはない企業に関してはあるように思う。
分かっていないかもしれないし、もしかすると単に言っていないのかもしれない。それでも、
中国側は日本側が言わないと多分分からない。中国側もこちららが思うほどは日本のことは
分かっていない。会議の場などでも、この中国企業は日本のことを分かっていない、もしかし
たら日本側は実際に中国側に何も説明していないのではないかと思うことがある。日本企業
も今後はそうしたことをもっと積極的にやっていくのではないかと期待している。
それから、単に準備不足とか経験不足というのはあると思われるが、担当者の意思があい
まいだと、日本のチームの士気は瓦解しがちで、この部分のところは気になるところである。
自由貿易協定などの考慮もあるが、もともと利益あっての企業なので、そもそも無意味なと
ころは避けていく方向になるのではないか、と期待はしている。中国案件は複雑な策を考えて
も、それが容易にうまくいく場所ではなく、日本側もやりたければまっすぐやるしかない、そう
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いう方向にいずれなるのではないかと思う。
最後に、中国 In-Out は難しいと思う。今の状況下で、1回ですませようと思うとかなり厳し
い。最後どうなるのか、ある程度長期戦で考えないと厳しいと思われる。そういう方向に欧米
もなっているし、日本企業もそういうふうになっていくと思われる。それから中国だけなのか、
日本全体の再編の中で中国をどうとらえるかというところが今後出てくるのではないだろう
か。
図表 I-2-3-20 展望
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