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がん微 小環境を標的とした新しいがん治療療
がん微⼩小環境を標的とした新しいがん治療療 近年年の研究から、腫瘍組織に特徴的な微⼩小環境要因(図1) が新たな治療療標的 として注⽬目されている1,2。例例えば、固形腫瘍に形成される低酸素環境はがんの 悪性化に関わり、最も有望な”環境標的治療療”のターゲットである3,4。 がん細胞 免疫細胞 線維芽細胞 低酸素 低pH 低栄養 壁細胞 リンパ管 ⾎血管 (⽂文献2を改変) 図1 がん微⼩小環境の構成要素の概略略図。 腫瘍内低酸素環境とがんの悪性化 ほぼ全ての固形腫瘍には、細胞増殖と⾎血管新⽣生の不不均衡に起因する低酸素 環境が存在する(図2)5。⼀一部のがん細胞は低酸素環境に適応し、抗がん剤や 放射線に抵抗性を⽰示すうえに、浸潤・転移・再発の原因となる。 壊死領領域 低酸素領領域 1 mm 図2 固形腫瘍内の低酸素環境。腫瘍の中央部は酸素・栄養不不⾜足で壊死しており、壊死 領領域周辺の茶茶⾊色く染⾊色された領領域が酸素分圧10 mmHg(酸素濃度度約1.3%)以下の低酸素 環境である。 低酸素誘導因⼦子とがんの悪性化 腫瘍組織を顕微鏡観察すると、酸素の拡散が乏しい⾎血管から離離れた場所に 低酸素領領域が形成されていることがわかる(図3A)。がん細胞の低酸素環境へ の適応には低酸素誘導因⼦子(HIF)の活性化が重要な役割を果たす。HIFは細胞 の低酸素環境への適応応答を司る転写因⼦子であり、多くのがん種で悪性化と の関連が報告されている(図3B)。 A B ⾎血管 有酸素 低酸素 HIF 壊死 ⾎血管:CD31, 低酸素:ピモニダゾール 悪性化がん細胞 図3 (A) 免疫蛍光染⾊色した腫瘍組織の顕微鏡イメージ。(B) 腫瘍内の低酸素環境 の⽣生成とHIF活性化の模式図。 低酸素誘導因⼦子と予後不不良良 臨臨床検体を⽤用いた検証によって、HIFの⾼高発現は患者の予後を悪化させる ことが、乳がん、頭頸部がん、膀胱がん、前⽴立立腺がん、膵臓がんなど多数の がん種で報告されている6-9。 HIFの⾼高発現によって予後不不良良が引き起こされるメカニズムは、細胞や腫 瘍マウスモデルを⽤用いて様々な観点から説明されてきた10,11。例例えば、⾎血管 内⽪皮細胞増殖因⼦子の産⽣生上昇に伴う⾎血管新⽣生や、細胞外基質分解酵素が活性 化することでがん細胞が積極的に浸潤し、転移が促進される。また、HIFの 活性化はがん細胞の代謝様式の変化、抗アポトーシスを誘導し、放射線や化 学療療法への耐性を増⻑⾧長する (図4)12。 ⾎血管新⽣生 HIF VEGFs, ANGPT2, PDGFB, CXCL12, 浸潤・転移 TWIST1, LOX, MET, MMPs, CTDS 代謝シフト PDK1, PKM2, BNIP3, LDHA, SLC2A1 薬剤耐性 ABCB1,IGF2, EPO, SNAl1, ADM 図4 HIFによって発現が制御される遺伝⼦子群の例例 低酸素誘導因⼦子の機能制御機構 HIFはヘテロダイマーとして機能する転写因⼦子であり、αサブユニットであ るHIF-αは酸素濃度度依存的に分解制御されている(図5A)。有酸素下では、酸 素依存的分解ドメイン(ODD)が⽔水酸化され、ユビキチン-プロテアソーム機構 で分解されることで転写因⼦子として機能しない(図5B)。⼀一⽅方、低酸素下では ODDは⽔水酸化されずHIF-αは安定化し、核内移⾏行行した後、HIF-βとダイマーを 形成して転写因⼦子として機能する12。HIFによって発現制御される遺伝⼦子は 200以上報告されており、その中にがん細胞の悪性化を促す遺伝⼦子が多く含 まれている12,14。 A B 酸素濃度度 (%) 1 PHD 3 5 10 21 HIF-1α O2 OH OH ODD HIF-α ODDの⽔水酸化 pVHL OH OH ODD HIF-αUb Ub Ub プロテアソーム分解 図5 (A) 各酸素濃度度下で培養したヒト乳がん細胞MDA-MB-231におけるHIF-1αの 発現をウェスタンブロットで検出した。(B) PHDによるODDの⽔水酸化、pVHLに よるユビキチン化を介したHIF-αの分解制御機構の模式図。 融合タンパク質製剤による低酸素がん細胞の標的 我々は、HIFが活性化した低酸素がん細胞に特異異的に細胞死を誘導する新 規治療療薬TOP3、POP33の開発を進めてきた15-‐‑‒18。これらの薬剤は、薬剤の 細胞内への輸送を担う細胞膜透過ドメイン(TAT or PTD3)、HIF-αの制御機構 を模倣する酸素依存的分解ドメイン(ODD)と細胞死を誘導するProcaspase-3 の3つの機能ドメインを融合した⼈人⼯工的に設計されたタンパク質製剤である (図6A)。TATによって細胞内に輸送されたTOP3は有酸素化ではHIF-αと同様 の機構で分解されるが、低酸素環境下では安定化し、ProCaspase3が活性さ れることで細胞死を誘導する(図6B)。 A B 正常細胞 毒性なし TOP3 TAT ODD Procaspase-3 ユビキチン化 分解 低酸素がん細胞 POP33PTD3ODD Procaspase-3 細胞死 プロセシング 活性化 図6 (A) 融合タンパク質製剤TOP3, POP33の模式図。(B) TOP3, POP33の低酸 素がん細胞標的メカニズムの模式図。 融合タンパク質製剤TOP3の臨臨床応⽤用に向けて これまでにTOP3、POP33の投与によって、様々な腫瘍モデルマウスにお いて抗腫瘍効果が得られることを確認している15-19。その中でも、有効な治 療療⼿手法が存在しない膵臓がんに対して、がん細胞の増殖・転移を抑制し、顕 著な延命効果が得られることを確認している(図7)18。現在、⽇日本医療療研究開 発機構 (AMED)の⽀支援の元、TOP3の前臨臨床研究のため、GMPレベルでの製 剤調整を進めると共に、特に膵臓がんを対象として、既存の抗がん剤との併 ⽤用療療法の治療療効果について調査している。 未治療療 POP33 1 3 治療療開始後⽇日数 5 7 9 11 13 15 17 B POP33 未治療療 100 ⽣生存率率率 [%] A 80 POP33 60 40 未治療療 20 0 治療療開始後⽇日数 図7 POP33による膵臓がんの治療療効果。(A) 光イメージングによって治療療群と未 治療療群のがん細胞の増殖、転移を可視化した。(B) POP33による延命効果。 参考⽂文献 1. 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