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血液透析患者および一般成人の血清脳由来神経栄養因子と

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血液透析患者および一般成人の血清脳由来神経栄養因子と
2015 年度博士論文
血液透析患者および一般成人の血清脳由来神経栄養因子と
精神的健康度との関連性に関する研究
(2006 年度入学)
西地
令子
略語表記一覧(アルファベット順)
AD (Alzheimer disease) : アルツハイマー病
ADL (activities of daily living) : 日常生活機能動作
AMP (adenosine monophosphate) : アデノシン一リン酸
AMPK (AMP-activated protein kinase) : AMP 活性化プロテインキナーゼ
BDI (Beck Depression Index) : ベックうつ評価票
BDNF(brain-derived neurotrophic factor) : 脳由来神経栄養因子
BMI (body Mass Index) : 肥満度
BUN (blood urea nitrogen) : 尿素窒素
CAD(coronary artery disease) : 冠状動脈心疾患
CBC (complete blood count) : 全血球算定
CESD (center for epidemiologic studies depression scale) : うつ尺度スコア
CKD( chronic kidney disease) :
慢性腎臓病
CNS( central nervous system) : 中枢神経システム
Cr (creatinine) : クレアチニン
CREB(cyclic-AMP response-element binding protein): CAMP 応答配列結合タンパク要素
CRP (C-reactive protein) : C-反応性蛋白
CTR(cardiothoracic ratio) :心胸郭比(%)
CVD( cardiovascular disease)
: 心血管疾患
DBP(daistolic blood pressure)
: 拡張期血圧
DM(diabetes mellitus)
: 糖尿病
DW (dry weight) : 適正水分量での目標体重
ESRD(end stage renal disease) : 末期慢性腎臓病
FFA (free fatty acid) : 遊離脂肪酸
FBG(fasting blood glucose) : 空腹時血糖
GC (Glucocorticoid) : グルココルチコイド
GFR(glomerular filtration rate) : GFR 糸球体濾過率
GHQ(General Health Questionnaire) : 精神的健康度質問票
GLUT4 (Glucose transport 4) : グルコース輸送体
Hb(hemoglobin) : ヘモグロビン
HbA1c(hemoglobin A1c)
: ヘモグロビン A1c
HD(hemodialysis) : 血液透析
HDL-C (high-density lipoprotein- cholesterol) : 高比重リポ蛋白コレステロール
HOMA-IR (homeostatic model assessment-Insulin Resistance) : インスリン抵抗性指標
HPA (hypothalamic-pituitary-adrenal)axis : 視床下部-下垂体-副腎皮質系[軸]
hs-CRP:(high-sensitivity C-reactive protein) : 高感度 C-反応性蛋白
HT (Hypertension) : 高血圧
IL-6 (interleukin) : インターロイキン 6
LDL-C (low-density lipoprotein- cholesterol) : 低比重リポ蛋白コレステロール
LRS(Leg restless syndrome) : 不穏性下肢症候群
LTM (long-term potentiation) : 長期記憶増強
MetS(metabolic syndrome)
: メタボリックシンドローム
MMSE (Mini-Mental State Examination) :ミニメンタルステート検査(認知症診断評価票)
MRI (magnetic resonance imaging) : 核磁気共鳴画像法
mRNA(messenger RNA) : 伝達・転写 RNA
NREM 睡眠 :ノンレム睡眠
OSAS (obstructive sleep apnoea syndrome) : 肥満性睡眠時無呼吸症候群
PD (psychogenic distress) : うつ症状,不安,睡眠異常等の有する状態
PlatC (platelet count)
: 血小板数
PTSD (posttraumatic stress disorder) : 心的外傷後ストレス障害
PSQI (Pittsburgh Sleep Quality Index) : ピッツバーグ睡眠評価票
PTH (parathyroid hormone) : 副甲状腺ホルモン
QOL (quality of life) : 生活の質
RBC (red blood cell count) : 赤血球数
REM(rapid eye movement)睡眠 : レム睡眠
SAS (sleep apnoea syndrome) : 睡眠時無呼吸症候群
SBP (systolic blood pressure) : 収縮期血圧
SWA (slow-wave activity) : 徐波の出現
TC (total cholesterol) : 総コレステロール
TG (triglyceride) : 中性脂肪
TNF-α (tumor necrosis factor-α) : 腫瘍壊死因子アルファ
TP (total protein)
: 血中総蛋白
TrkB (tropomyosin receptor kinase B) : 脳由来神経栄養因子の受容体キナーゼ B
UA (uremic acid) : 尿酸
WBC (white blood cell count) : 白血球数
目次
Ⅰ章
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅱ章
文献研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
1節
脳由来神経栄養因子の生理的作用と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.脳由来神経栄養因子の生理作用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
2.脳由来神経栄養因子の糖・脂質代謝等の調整因子としての生理作用・・・・・・ 7
2節
精神疾患,精神的健康度および睡眠異常と脳由来神経栄養因子との関連性・
9
1.脳由来神経栄養因子と精神疾患との関連性・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
2.精神的健康度と脳由来神経栄養因子の関連性・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
3.脳由来神経栄養因子と睡眠との関連性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
3節
血液透析患者の精神的健康度とその要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
1.血液透析患者の健康課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
2.血液透析患者の精神的健康度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
3.血液透析患者の精神的健康度と合併症および死亡率との関連・・・・・・・・・ 16
4.血液透析患者における精神疾患および精神的健康度不良の要因・・・・・・・・ 17
Ⅲ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性(研究Ⅰ)・・・ 20
1.研究背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
4.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
Ⅳ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子および精神的健康度における運動の効果(研究
Ⅱ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
1.研究背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
4.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
Ⅴ章
一般成人の血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度および睡眠異常との関連性(研究
Ⅲ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
1.研究背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
2.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
4.考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
Ⅵ章
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64
1.血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性に関する総括・・・・・
65
2.脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性の今後の展望・・・・・・・・・ 66
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
採択論文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86
Ⅰ章
序論
1
Ⅰ章
序論
わが国の高齢化率は 25%を超え,厚生労働省の第 1 の健康施策である健康日本 21(2 次)では,
「健康寿命の延伸」が中心であり,疾病の発症予防と共に重症化予防が施策の根幹とされている(厚
生科学審議会地域保健健康増進栄養部会,2014).さらに,同施策では,高血圧,脂質異常症などの
循環器疾患や糖尿病などの生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底,自殺者の減少,気分障害・
不安障害に相当する心理的苦痛者の割合の減少などが目標にあげられている(厚生科学審議会地域
保健健康増進栄養部会,2014).また,内閣府による「経済財政運営と改革の基本方針 2014」では,
財源の確保に向けて,生活習慣病の早期治療等による重症化予防,公的保険外サービスの活用を含
む予防・健康管理の取組を進める中で,医療費の効率化の効果等を指標とした評価を含めた
Plan-Do-Check-Action (PDCA)サイクルの取組を促すことが提唱されている(内閣府, 2014).
厚生労働省の人口動態統計によれば,わが国の精神的健康度の現状として,自殺死亡数の推移は
戦後増減を繰り返しながらも増加傾向を示し,平成 10 年に 3 万人を超えた(一般社団法人厚生労働
統計協会, 2014).その後ほぼ同水準で推移し,平成 22 年より減少に転じ,平成 24 年では 26,433 人,
死亡率(10 万対)21.0 と漸減している(一般社団法人厚生労働統計協会, 2014).一方,同省の患者推
計調査では,精神および行動障害の医療機関の受診は,平成 23 年の受療率(人口 10 万対)は入院
225,外来 176 であり,前回の平成 20 年調査より低下したものの,平成 11 年に比較すると気分障害
が約 2 倍,アルツハイマー病は十数倍であり,これらの増加が特に目立っている(一般社団法人厚生
労働統計協会, 2014).さらに,平成 25 年に 12 歳以上(入院者を除く)で悩みやストレスのある者は
48.1%と約半数を占め,年齢階級別では 40~49 歳が最も多い(一般社団法人厚生労働統計協会, 2014).
また,こころの状態では,12 歳以上(入院者を除く)の約 3 割が米国のうつ・不安障害のスクリーニ
ング検査である Kessler 6 のスコアが 5 点以上と高いことが報告されている(一般社団法人厚生労働
統計協会, 2014).その上,厚生労働省の労働者状況調査によると,職場生活でのストレス等を感じ
る割合は平成 4 年から毎年約 6 割で,ストレスを感じている労働者の割合が高いことを示している.
平成 22 年に公表された「脳・心臓血管疾患および精神障害等に関する労災補償状況について」では,
労働保障の精神障害の認定者は 308 人 (自殺者)で年々増加傾向にあり,労働者のメンタルヘルス問
題は深刻な状況である.
2
一方,末期慢性腎臓病(end stage renal disease: ESRD)である血液透析(hemodialysis: HD)患者数は 30
万人を超えている.平成 24 年に新規に透析導入された患者数は 38,165 人であり,透析導入の原因
疾患として糖尿病性腎症は第 1 位(44.1%)であった(一般社団法人厚生労働統計協会, 2014).また,
HD の長期化等により 65 歳以上の高齢者が占める割合が非常に大きい.さらに,HD 患者では,う
つ病などの精神疾患やうつや不安,睡眠異常の症状,いわゆる psychogenic distress (PD)が一般的な
兆候となっている.つまり,HD 患者の生活の質(quality of life: QOL)は,高齢化や HD 治療の長期化
による生活機能動作(activities of daily living: ADL)低下のリスクに加え,精神的健康度の不良によっ
て一層深刻化している.
以上のように,わが国では自殺や精神障害での受療率には表面化していない潜在的な精神的健康
度の不良者も少なくないと考えられる.したがって,精神的健康度に関連する研究により,その早
期発見,改善・予防策を講ずることが必要である.また,HD 患者は重篤なインスリン抵抗性を有
し,腎疾患だけでなく今や糖尿病や高血圧患者の最終ステージでもある.さらに,HD 患者の増加
と長期化は個人の問題だけでなく,医療費の高騰,介護保険財政を圧迫する要因になり,社会保障
費の増大に繋がっている.その精神的健康度に関連するメカニズムの解明によって,重症化予防の
知見が得られる可能性がある.
脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)は,神経の可塑性において重要な役割
を有し,うつ病,アルツハイマー病(Alzheimer disease: AD)のメカニズムに関与している考えられて
いる.さらに近年の研究では,BDNF が糖・脂質代謝の調整因子 (metabotropic action) として生理
作用に関与していることも実証されつつある.つまり,BDNF はうつ病などの精神疾患のみならず,
糖尿病などの生活習慣病と関連性を有することが多数の研究により明らかになっている.それでも,
精神的健康度と BDNF との関連性については不明な点が多い.このため,精神疾患の前駆症状と考
えられる精神的健康度の不良と BDNF との関連性を検証することは,わが国の疾病発症および重症
化予防戦略の一助になると考える.
そこで,研究Ⅰとして,ESRD である HD 患者を対象に血清 BDNF と精神的健康度の関連を検討
した.一般成人では,糖・脂質代謝および血圧異常等は個体によって差が大きく,BDNF の
metabotropic action 作用が精神的健康度と BDNF に交絡する可能性が考えられる.しかし,全ての
HD 患者はインスリン抵抗性を有し,糖・脂質代謝,血圧異常などを併発している.したがって,
BDNF の metabotropic action の影響は同程度であると考えられるため,研究Ⅰの対象とした.さらに
3
研究Ⅱでは,HD 患者の血清 BDNF と精神的健康度への運動効果を検証した.最後に,研究Ⅰの研
究結果を踏まえ,研究Ⅲで一般成人の血清 BDNF と精神的健康度および睡眠異常との関連性を検証
した.これらの3つの研究結果によって,新しい知見を得たのでここに報告する.
4
Ⅱ章
文献研究
5
Ⅱ章
1節
文献研究
脳由来神経栄養因子の生理的作用と特徴
1.脳由来神経栄養因子の生理作用
1)神経細胞における生理作用
BDNF は,神経成長因子(nerve growth factor : NGF)やニューロトロフィン(neurotrophins: NT)1-4
(NT-1,NT-3,NT-3,NT-4) などの神経栄養因子ファミリーの1つであり,脳の大部分に広く存在し,
成体脳では最も多いとされる(Humpel et al., 1995).その中でも BDNF は,神経細胞(以下「ニューロ
ン」)の成長,分化および生存や保護など,神経の可塑性において重要な生理作用を有している
(Thoenen, 1995; Ma et al., 1998).
BDNF は主に海馬や大脳皮質のニューロンから産生され,シナプスのコード化や容量の調整を行
う(Thoenen et al., 1995; Aloe & Iannitelli, 2001).神経伝達活動すなわち情報を転写している間,BDNF
転写遺伝子を刺激して樹状突起棘に BDNF mRNA を輸送し,BDNF タンパクがシナプス間隙に放出
される(Tyler et al., 2002).また,BDNF はその受容体キナーゼ B(tropomyosin receptor kinase B: TrkB)
との結合によって,ニューロンの前シナプスと後シナプス部位の双方において活動し,シグナル伝
達複合物 BDNF-TrkB エンドソーム(エンドサイトーシスで形成されるリソソームへの運搬小胞)に内
部化される(Nibuya et al., 1995; Lu, 2003).さらに,BDNF は強められたシナプス伝達と神経の興奮性
により,シナプス変化を調整する働きも有する(Katoh-Semba et al., 1999; Lu, 2003).BDNF 欠損マウ
スの実験研究では,マウスのシナプス神経支配が減少し,シナプス小胞タンパクの減少が観察され
ている(Martínez et al., 1998).
以上のように,BDNF は正常なシナプス伝達には重要であり,シナプスの機能,神経新生および
可塑性に影響を与えている.このため,BDNF は学習や記憶機能において重要な役割を担っている
と考えられている(Korte et al., 1995; Yamada et al.,2002).
2)脳由来神経栄養因子の産生・分泌,脳内および血中濃度
BDNF の発見当初は,その大部分が神経細胞から由来しているものと考えられていた.その後,
この概念は,多発性硬化症(Kerschensteiner et al.,1999) やアレルギー性気管支喘息(Renz,2001 ),リウ
マチ性関節炎(Weidler et al., 2005)などの自己免疫疾患の炎症性細胞における産生の発見により修正
6
された.BDNF は炎症細胞の T 細胞や単球からも分泌され(Kerschensteiner et al.,1999; Renz,2001),
単球での BDNF は腫瘍壊死因子アルファ(tumor necrosis factor-α: TNF-α)やインターロイキン-6
(interleukin: IL -6)などのサイトカインにも影響される(Schulte-Herbruggen, 2005).また,血小板から
の放出も示されている(Fujimura et al., 2002; Lommatzsch, 2007).さらに,Matthews ら(2009)の研究は,
運動によって骨格筋肉組織からの産生および分泌が促進され,AMP 活性化プロテインキナーゼ
(AMP-activated protein kinase: AMPK)の活動を活性化させることが示されている.
脳 内 あ る い は 血 中 BDNF は , 食 事 (Lee et al.,1999) , 身 体 活 動 や 運 動 (Neeper et al.,1995,
Russo-Neustadt et al.,1999),BMI (Suwa et al., 2006),さらにはグルココルチコイド(Glucocorticoid:
GC) (Smith et al., 1995; McEwen, 2008),エストロゲン (Scharfman & MacLusky,2006)などのステロイ
ドホルモンなど,多様な生体内因子に影響を受けることが報告されている.また,血中 BDNF は日
内変動が確認されている(Begliuomini et al., 2008).また,BDNF mRNA の発現(Angelucci et al., 2000)
や BDNF の生体内反応に性差があることも示されている(Begliuomini et al., 2007).
以上のことから,脳内あるいは血中 BDNF レベルは多様な生体内因子の影響を受け,常に変動し
ていると考えられる.それでも,BDNF は脳関門を通過し(Pan et al.,1998),血清 BDNF と脳内 BDNF
との間には強い相関 (r=0.81, p<0.01) が確認され(Karege et al.,2002),両者に関連性があることが示
されている.
2.脳由来神経栄養因子の糖・脂質代謝等の調整因子としての生理作用
BDNF は,糖代謝および脂質代謝の調整因子としての生理作用( metabotropic action)を有すること
が示され,注目されている.
動物を用いた BDNF 投与実験で BDNF には摂食行動の調節および糖代謝の改善・調整作用がある
ことが報告されている(Ono et al., 1997; Nagasawa et al.,2000).また,BDNF 遺伝子損傷マウスは,食
行動異常,運動量の減少が観察され,通常マウスに比較して体重増加,体脂肪率,レプチン,イン
スリンレベルが高いことが報告がされている(Lyons, 1999; Kernie, 2000).動物実験では,脳内 BDNF
の強化によってインスリン非依存性の糖の取り込みだけでなく,脂質代謝の改善作用があることが
実証されている(Tsuchida et al., 2002; Xu et al., 2003).
ヒトにおいても,早期の糖尿病患者は,健常者と比較して血清 BDNF が有意に高いだけでなく,
血清 BDNF は body Mass Index (BMI),空腹時血糖(fasting blood glucose: FBS),総コレステロール(total
7
cholesterol: TC),インスリン抵抗性指標(homeostatic model assessment-Insulin Resistance: HOMA-IR)
と正の相関を示すことが報告されている(Suwa et al., 2006).一方,Hristova ら(2006)の研究では,重
症のメタボリックシンドローム(metabolic syndrome: MetS)患者では,血清 BDNF が有意に低いこと
が報告されている.さらに,Krabbe ら (2007)の研究によって,血漿 BDNF 値は肥満と独立して 2
型糖尿病では低く,FBG レベルの重症度と関連があることが示唆されている.同研究では,脳内で
も高血糖によって BDNF 産生が抑制されることも示されている(Krabbe et al., 2007).BDNF と脂質代
謝の関連では,高脂肪食や血中高遊離脂肪酸(free fatty acid: FFA)によって,血中 BDNF が減弱され
ることが報告されている(Karczewska-Kupczewska et al., 2012).
近年の研究では,BDNF は TNF-αや IL-6 などのサイトカイン(Schulte-Herbruggen, 2005; del Porto et
al., 2006)だけでなく,C-反応性蛋白(C-reactive protein: CRP)などの炎症反応との関連性も示されてい
る(Swardfager et al.,2011; Numakawa et al., 2014).そのうえ,糖尿病ラットの網膜神経変性が確認さ
れ(Wan et al., 2010),微小血管においてニューロン蛋白の進行的枯渇が生じ,ニューロン傷害のリス
クが上昇し,脳卒中や神経変性などの中枢神経システム(central nervous system: CNS)の疾患に繋がる
(Navaratna, et al., 2011).さらに,BDNF はレプチンによって誘導され,レプチンを介して摂食行動
に関与している(Komori et al., 2006; Kim et al., 2014; Liu et al., 2014).
以上のことから,BDNF はエネルギー代謝や食行動を調整する役割,つまり,エネルギーバラン
スの調整作用を有する(Noble et al., 2011; Numakawa et al., 2014).要するに,BDNF は metabotropic
action を有し,エネルギーバランスを保ち,生体内のサイトカインらによる炎症を制御するという
ホメオスタシスの役割があることが示唆されている(Fargali et al., 2012; Noren et al., 2015).
8
2節
精神疾患,精神的健康度および睡眠異常と脳由来神経栄養因子との関連性
1.脳由来神経栄養因子と精神疾患との関連性
1)うつ病との関連性
動物実験,うつ患者や自殺者死亡解剖,大うつ病患者および抗うつ剤の効果などの脳内 BDNF 含
有量,血中 BDNF レベルなどに関する多くの研究による知見の蓄積により,BDNF とうつ病との関
連性が明らかになっている.
ラットやげっ歯類などでは,不朽化ストレスの負荷により,ラット脳内の GC レベルが上昇する
ことによって,海馬の神経可塑性に重要な役割を果たす BDNF の産生低下が報告されている(Smith
et al., 1995).うつモデルラットの脳内 BDNF 含有量が低値に加え,BDNFmRNA 発現の低下も実証
されている(Cosi et al., 1993, Karikó et al., 1998).さらに,うつ治療後のラットの脳において BDNF
産生増加することも報告されている(Nibuya et al.,1995; Siuciak et al., 1997).
ヒトでも,うつ病患者の脳内 BDNF 濃度および BDNF mRNA 発現が低下していることが報告され
ている(Fossati et al., 2004).また,自殺者やうつ患者の脳領域,特に海馬での遺伝子転写因子である
CREB および BDNF-TrkB 受容体が減少することが確認されている(Dwivedi et al.,2003; Yamada et al.,
2003).さらに,うつ病治療後の脳内 BDNF 濃度および BDNF mRNA 発現低下の回復が示されてい
る(Gratacòs et al., 2008).
うつ病患者は脳内 BDNF mRNA の発現やその受容体である TrkB 受容体の低下だけでなく,血中
BDNF も健常者に比較して有意に低いとの報告がある(Kargeet al.,2002; Gonul et al., 2005). Karge ら
(2002)の研究では,血清 BDNF とうつスコア(Montgomery-Asberg-Depression rating Scale: MADRS)と
の間に有意な負の相関(r=-0.49, P=0.007)が示され,同様に Shimizu ら(2003)の研究では,血清 BDNF
とうつスコア(Hamilton Rating Scale for Depression: HAM-D)との間に負の相関(r=-.350, p =.045) が追
認されている.また,大うつ病患者の血清 BDNF が抗うつ剤などの治療後に増加することが報告さ
れている(Aydemir et al., 2005; Laske et al., 2007).
2)アルツハイマー病との関連性
BDNF は神経の可塑性にとって重要で,記憶機能において重要な役割を担っていることから,
BDNF と AD との関連については多数の報告があり,AD 発症のメカニズムの1つとして考えられて
いる.
9
AD 患者の脳内の BDNF だけでなく NGF,NT-3 などの神経栄養因子のハイブリッド形成はすべて
減少しており,特に海馬の BDNF mRNA の減弱が報告されている(Phillips et al., 1991; Narisawa-Sait
et al., 1996).また,AD のステージにより血清 BDNF レベルが変化し,早期 AD では血清 BDNF レ
ベルは高く,重症 AD 患者では低レベルになることが示されている(Laske et al., 2006).一方,70 歳
以上の高齢者を対象とした大規模研究では,認知症の血清 BDNF と正常者との間で有意な差はなか
ったが,血清 BDNF と年齢との間には有意で弱い負の相関が報告されている(Ziegenhorn et al., 2007).
さらに近年の動物実験では, AD のβ-Amyloid (Aβ) oligomers が BDNF の伝達を減じ,ubiquitin
C-terminal hydrolase L1 (UCH-L1)のダウンレギュレートが BDNF/TrkB の神経可塑性の調整を阻害す
ことが報告されている(Poon et al., 2007; 2013).このように,AD 発症に BDNF が関与するメカニズ
ムが少しずつ解明されつつある.
3)精神疾患と脳由来神経栄養因子の遺伝子と性差
BDNF は統合失調症(Toyooka et al., 2002; Huang & Lee, 2006),双極性障害(Sklar et al., 2002; Piccinni
et al., 2013),摂食障害(Monteleone et al., 2004)などの精神疾患との関連性が報告されている.しかし,
統合失調症,双極性障害および摂食障害などの精神疾患と血中 BDNF との関連性の研究結果は一致
していない.
ところで,遺伝因子と環境因子の双方が精神疾患の発症に関与することは周知の事実である.う
つ病の発症は,胎児期や発達期におけるストレスが BDNF 発現や BDNF 遺伝子の減弱に関連がある
ことが指摘されている(Fujioka et al.,2003; Savitz et al., 2007).さらに,妊娠期の運動により BDNF
mRNA が増加するとの報告もある(Parnpiansil et al., 2003).BDNF 発現に関連する遺伝子多型が存在
し,その中でも Val66Met 型はエピソード記憶や海馬機能と関連しているとされる(Egan et al., 2003;
Hariri et al., 2003).動物実験では Val66Met 型が BDNF の分泌を減弱させるとの報告がある(Chen et al.,
2004).ヒト Val66Met 多型とうつ病との関連性については,一致した見解は得られていない(Strauss
et al., 2005; Surtees et al., 2007).しかし,近年の研究によって,Val/Met 遺伝子多型はうつ病だけで
なく,統合失調症や双極性障害との関連性も報告されている(Bonaccorso,2015; Legge et al., 2015).
さらに,AD 患者の Val/Met 遺伝子多型と AD のアポリポ蛋白 E(apolipoprotein E: ApoE)の対立遺伝
子 ApoE ε4 の保有率を検証したところ,ApoE ε4 を保有しない Val/Met 遺伝子タイプにおいて AD
のリスクが観察されている(Huang et al., 2007).つまり,BDNF 関連の Val/Met 遺伝子多型には,多
数のバリエーションがあることが示されている(Honea et al., 2013).統合失調症や双極性障害は,う
10
つ病よりも遺伝的関与が強いと考えられている.今日では,精神疾患の遺伝子関与は単一ではなく,
多数の遺伝子の関与が通説であり,BDNF 関与の Val/Met 遺伝子多型もその1つである可能性があ
る.
動物実験では BDNF mRNA 発現でも性差が確認され(Angelucci et al.,2000; Chen et al., 2005),ヒト
研究においても Val/Met 遺伝子の性差が確認されている(Wei et al., 2012).これらと精神疾患の有病
率の性差との関連性は不明であるが,BDNF が精神疾患の発症やメカニズムにおいて,遺伝子関与
を含め重要な役割を有することは事実であろう.
2.精神的健康度と脳由来神経栄養因子との関連性
BDNF と精神疾患の診断のない精神的健康度の不良(PD)状態との関連性が一部の研究によって示
唆されている.Lang ら(2004)の研究では,精神疾患の診断のない者における血清 BDNF と Revised
NEO Personality Inventory(NEO-FFI)で評価された人格検査の神経症スコアとの間に負の相関を報告
している(r=-0.212, p=0.022).また,血中 BDNF レベルとストレスとの関連研究では,覚醒感覚チェ
ック(Stress and Arousal Check List:s-SACL) との間に負の相関が観察されている(Mitoma et al.,2008;
Okuno et al., 2011).Okuno ら(2011)の研究では業務ストレスが血中 BDNF や性格特性に関連するこ
とが示されている.また,Onen ら(2008)の研究ではバーンアウト群は,そうでない群に比較し,血
清 BDNF が有意に低く,血清 BDNF レベルは 情緒疲労(emotional exhaustion)(r=-,268, p=0.026), 自己
同一不一致感(depersonalization)(r=-,333, p=0.005)と負の相関,バーンアウトの下位項目の コンピタ
ンス(competence)(r=0.293, p=0.015)とは 正の相関が観察されている.さらに,血清 BDNF と血中コ
ルチゾールレベルとの間に強い正の相関(r=0.80, p<0.001)があることも報告している(Onen et al.,
2008).
興味深いことに,Lang ら(2005)の研究では,精神疾患のない者の特性不安(State-Trait Anxiety
Inventory: STAI における Trait Anxiety)と NEO-Five Factor Inventory: NEO-FFI スコアおよび Val 遺伝
子型:Val/Val,Val/Met,Met/Met との関連性を検証し,有意ではないが特性不安が高い者と高くな
い者の間で遺伝子の差異を確認している.
以上のことから,精神疾患の患者以外でも,血清 BDNF と精神的健康度との間の関連性が見られ
る可能性はある.だが,BDNF と精神疾患の診断のない精神的健康度不良との関連性をみた研究は
非常に少なく,その関連性およびメカニズムは明らかになっていない.
11
3.脳由来神経栄養因子と睡眠との関連性
BDNF と睡眠との関連では,レム(rapid eye movement: REM) 睡眠(Kushikata et al., 1999; Sei et al.,
2000),あるいは NREM 睡眠(Fujihara et al., 2003)の剥奪がラットの脳内の BDNF の産生・分泌の低
下や,BDNF mRNA の発現を減弱させることが示されている(Cirelli & Tononi, 2000).特に,REM 睡
眠の剥奪によりラット等の小脳と脳幹の BDNF が減少することが報告されている(Sei et al., 2000;
Fujihara, 2003).また,ラットの BDNF mRNA および CAMP 応答配列結合タンパク要素(cyclic-AMP
response-element binding protein: CREB)の発現が活動中に高く,睡眠中に低下することが報告されて
いる(Gillberg, 1997; Cirelli & Tononi, 2000; Taishi et al., 2001).さらに,ラットの睡眠中の BDNF の発
現は神経可塑性に重要であることから,睡眠はホメオスタシス反応とされ,そのメカニズムには
BDNF の関与が示唆されている(Hairston et al., 2004; Guzman-Marin et al., 2006).Faraguna ら(2008)
は,断眠中の BDNF の発現が,その後の休息時の徐波の出現(slow-wave activity: SWA)の程度と関連
することを報告している.近年の研究では,ラットの BDNF 発現を遺伝子操作によって抑制すると,
睡 眠 の 調 節 が 損 な わ れ , BDNF の 発 現 が マ ウ ス の 睡 眠 行 動 を 調 整 す る こ と が 示 さ れ て い る
(Martinowich et al.,2011). また,ラットの臨界期における REM 睡眠の剥奪がその後の神経発達を阻
害し,長期記憶増強 (long-term potentiation: LTM) を減弱させることが報告されている(Shaffery et al.,
2012).さらに,REM 睡眠中にはシナプス可塑性の関連遺伝子が海馬での体験に依存して再導入さ
れることが報告され,REM 睡眠と学習との関連性の強化が示されている(Calais et al., 2015).以上の
ことから,BDNF は睡眠行動等を調整してホメオスタシスの役割を担い,さらには学習機能にも関
与していることが示唆されている.
一方,ヒトの BDNF と睡眠の研究は少なく,対象者は肥満性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep
apnoea syndrome: OSAS)やうつ病の患者に限定される傾向がある.OSAS 患者を対象とした研究では,
血清・血漿 BDNF は治療前後で差がなく,睡眠状態と血中 BDNF との間には関連がなかったことが
報告されている(Staats et al., 2005).一方,うつ病患者の内服群とそれに不眠治療を追加した群およ
び健常群の各血清 BDNF レベルを比較した研究では,ベースラインで内服群および不眠治療群の双
方の血清 BDNF レベルは,健常者に比較して有意に低かった.血清 BDNF レベルは 1 週間後に不眠
治療群で有意に上昇したが,内服群では有意な上昇は観察されなかった(Gorgulu et al., 2009). 2 週
間後の内服群および不眠治療群の血清 BDNF はベースラインに比較して有意に上昇していたが,両
者には有意な差は観察されなかった(Gorgulu et al., 2009).この研究は,不眠治療が血清 BDNF に急
12
性的な影響があるが,うつ治療後は内服薬のみと同等レベルになったことを示している(Gorgulu et
al., 2009).興味深いことに,子どもの OSAS を対象とした研究では,術前の患児の認知能力は健常
児に比較して有意に低く,睡眠ポリグラフ計でも異常を示したにもかかわらず,血中 BDNF には有
意な差は観察されなかった(Wang et al., 2010).しかし,術後 3 ヵ月後には血中 BDNF は一旦減少し,
1 年後には認知能力の改善や睡眠ポリグラフ計の正常化と共に健常児と同じレベルになった経過が
報告されている(Wang et al., 2010).さらに,うつ病患者の睡眠状態によって脳内 BDNF 発現に差が
あることも報告されている(Utge et.al 2010)
これらの研究は,ヒトにおいても,睡眠異常が脳内あるいは血中 BDNF レベルに作用するが,睡
眠状態の改善によって BDNF レベルが正常化するというホメオスタシス反応を有することがを示唆
されている.
13
3節
血液透析患者の精神的健康度とその要因
1.血液透析患者の健康課題
わが国の透析患者数は,2013 年末の慢性透析患者に関する基礎集計によると,2005 年までは毎年
約 1 万人ずつ増加し,その後は漸増傾向になったが,2011 年末では 30 万人を超え 2013 年末では
314,180 人に至っている(日本透析医学会, 2014).透析患者の治療別では,腹膜透析( peritoneal dialysis:
PD )は 3%未満であり,その殆どが HD 治療を受け,治療スケジュール別では,約 8 割強が昼間,1
割強が夜間に HD 治療を受けている(一般社団法人日本透析医学会統計調査委員会, 2014; Imai et
al.,2009).
透析治療導入の原因は,様々な疾患による慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の病態の悪化で
ある.日本腎臓内科学会は,CKD を「尿蛋白陽性などの腎疾患の存在を示す所見」,もしくは「腎
機能低下(糸球体濾過量が 60ml/min 未満)が 3 ヶ月以上続く状態」と定義している(日本腎臓学学会,
2007, Imai et al., 2008).CKD 診療ガイドライン(日本腎臓学学会,2007)では,CKD はハイリスク群
および進行度の糸球体濾過率(GFR)値によって,5 つのステージに分けられる.透析導入は,CKD
のステージや他の病態や症状等によって導入され,その状態は ESRD と呼称されている(Imai et al.,
2007).ESRD の原疾患として以前は慢性糸球体腎炎が首位を占めていたが,1998 年に 2 位だった糖
尿病性腎症と首位が逆転し,2013 年末統計の各割合は,糖尿病性腎症が 4 割強,慢性糸球体腎炎が
2 割弱とその差が開きつつある(Tsukamoto, 2008).つまり,透析患者の増加は,糖尿病性腎症による
透析患者の増加の一因になっている(Tsukamoto, 2008).
近年のわが国の十数年の医療の進歩は著しく,透析治療や技術において世界でもトップクラスの
高度医療を提供している(Iseki et al.,2004; Furumatsu, 2010).また,検査機器,精度や治療薬の開発
等により CKD の治療による透析導入平均年齢は年々高くなっている(Hatakeyama et al.,2013).この
ため,透析患者の治療期間は延長し 20 年以上の透析歴をもつ患者が一貫して増加している.1992
年1%に満たなかった 20 年以上の透析患者は 2013 年では 7.9%に至り,10 年以上では 27.6%にも
上る(一般社団法人日本透析医学会統計調査委員会, 2014).これに伴い,透析患者の高齢化も進み,
65 歳未満の患者数は,過去約 15 年間にわたりほぼ一定であるのに対して,65 歳以上の患者数およ
び全患者に占める割合は一貫して増加傾向にある(Hatakeyama et al.,2013).80 歳以上でも,2004 年
では 14%であったものが 2012 年には 22%にまでに至っている(Hatakeyama et al.,2013).
これらの透析患者の現状は,透析患者の健康課題に影響している.ESRD である HD 患者は,腎
14
機能低下だけでなく,糖・脂質代謝異常,高血圧,体液過重,炎症反応等の動脈硬化リスク因子や
合併症を有し,死因に繋がる心血管疾患(CVD) ,脳血管障害や感染症などの重篤な疾患のリスクが
高いことは多くの研究によって報告されている(Iseki et al., 2008 Watanabe et al.,2012).しかも,ESRD
は重篤なインスリン抵抗性群であるだけでなく(Stenvinkel et al., 1995; Shinohara et al., 2002),糖耐能
に独立したレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が関与するインスリン抵抗性を有するこ
とが示されている(El-Atat et al.,2004; Hornum et al.,2010).さらに,HD 治療の長期化は,CKD の進
行や身体不活動などによる骨関連疾患(Lindberg & Moe,1999; Ouzouni et al.,2009)の発症リスクを高
める.HD 患者の腎機能低下やインスリン抵抗性も骨粗しょう症のリスクであることが報告されて
いる(Siew et al.,2007),その結果,ADL や QOL の低下に繋がることが報告されている(Ouzouni et
al.,2009).
2.血液透析患者の精神的健康度
ESRD 患者の精神的健康度に関する研究は多く,うつ病などの精神疾患,うつや不安,睡眠異常
の症状など,いわゆる PD を有する精神的健康度の不良が一般的な兆候である.
Kimmel ら(2007)の研究では,ESRD 患者の 20~30%がうつ症状を呈すると見積られたが,Chilcot
ら (2008)は 15%から 61%の範囲で,概ね 38.8%程度と推測している.さらに,ESRD のうつ症状あ
るいはうつ病を有する率は,健常者のみならず PD 患者に比較しても高いことが示されている
(Kalender et al.,2007; Chilcot et al., 2008).うつ症状は,Beck Depression Index(BDI)スコアや CES-D
(center for epidemiologic studies depression scale)などの多様なうつ尺度で評価され,有訴者に幅があ
る(Chilcot et al., 2008).一方, DSM-Ⅳの診断を用いた研究によると,うつ病と診断された者は HD
患者の 20%から 30%範囲内であり,うつ症状に比較して低いことが示されている(Alsuwaida &
Alwahhabi, 2006; Chilcot et al., 2008).
睡眠異常では,不眠や睡眠時無呼吸症候群(SAS)が報告され(Daly & Hassall, 1970; Kimmel et al.,
1989; Fletcher, 1993),その後も多数の研究によって ESRD の睡眠異常に関するエビデンスが得られ
ている.HD 患者の睡眠異常の有訴者率は約 50%~70%と推測されている(Fukunishi et al., 2002; Iseki
et al., 2008).HD 患者 11,351 人対象の self-reported Sleep Quality (SQ) スケールによる国際的な大規
模研究では,約半数の患者は睡眠の質が低く,SQ スコア平均はドイツ 4.9 から日本の 6.5 までの国
による差異も示されている(Elder et al., 2008).
15
HD 患者の不安症状は,27%~35%と見積もられ(Feroze et al., 2010),PD 患者に比較しても高いこ
とが示されている(Ginieri-Coccossis et al., 2008).さらに,健常者に比較して不安症状だけでなく自
己コントロール感が低いことが報告されている (Kohli et al., 2010).また,HD の不安の多くはうつ
症状やうつ病との関連が示されている(Cukor et al.,2007; Feroze et al., 2010).さらに,HD 維持患者で
は睡眠異常とうつ症状および不安症状は相互に関連があることが示唆されている(Sabbatini et al.,
2002; Pai et al.,2007).
これらに加えて,高齢の ESRD 患者は,一般高齢者に比較して認知機能の低下が早いことが報告
されている(Sithinamsuwan et al., 2005; Murray, 2008).わが国の HD 患者 852 人を対象とした研究で
も,HD 患者の 18.8%が MMSE によって認知機能低下と評価され,そのリスクは一般高齢者に比較
して 2 倍であることが報告されている(Odagiri et al.,2011).さらに,HD 患者の認知機能低下は睡眠
異常やうつ症状と関連があることが示されている.(Pai et al.,2007; Burrowes et,al, 2012; Rodriguez et
al., 2013),
以上のことから,HD 患者の精神的健康度の不良は非常に深刻な状況にある.その上,HD 患者の
うつ症状,睡眠異常.不安症状および認知機能低下は相互に関連していると考えられる.
3.血液透析患者の精神的健康度と合併症および死亡率との関連
ESRD 患者のうつ病,うつ症状や睡眠異常などの精神的健康度の不良は,死亡の予兆であること
が報告されている(Peterson, 1991).その後の多くの研究によって,ESRD 患者のうつ病,睡眠異常あ
るいはうつ症状や睡眠異常は,重篤な冠状動脈心疾患(coronary artery disease: CAD),脳血管疾患の
合併症のリスクのみならず,死亡率のリスクであることが示されている(Kimmel et al., 2000).
Lopes ら(2000)の約 15,000 人の ESRD 患者を対象とした大規模研究では,うつ病と診断された
ESRD 患者は約 20%で,そうでない患者に比較して関連項目調整後のオッズ比(odds ratio : OR)は,
CAD が 1.22,うっ血性心疾患 1.30,脳血管疾患 1.58,末梢血管障害 1.31,糖尿病 1.35,神経障害
1.61 で,死亡リスクも OR=1.42 であった(Lopes et al., 2000).Edmondson ら(2013)の研究は,ESRD
患者の慢性的心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder: PTSD)とうつ症状の両者を有す
る HD 患者は,そうでない者に比較して心血管疾患(cardiovascular disease: CVD)のリスクは 1.4 倍と
同等の値を示している.一方,Tsai ら(2012)の 2,312 人の ESRD 患者を対象とした 7 年間の追跡研究
では,ESRD の死亡率に関連するのはうつ病の保有ではなく,抗うつ薬の影響であると報告されて
16
いる.
同様に,HD 患者の睡眠異常と ESRD の重症度,CVD などの合併症,死亡率との関連性について
多くのエビデンスが蓄積されている.Mucsi ら(2004)の研究では,ESRD Severity Index (ESRD-SI)と
不眠や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnoea syndrome: SAS)のハイリスク者との関連を検討し,両者の関
連性を示した.さらに,不眠症と SAS の両方を有している者は,そうでない者に比べ合併症のリス
クの上昇が示唆された(Mucsi et al., 2004).Elder ら(2008)は,睡眠の質と合併症のリスクとの関連性
を示している.Kutner ら(2013)の 1,440 人の HD 患者を対象とした研究では,9 時間以上の睡眠の
HD 患者は,6-7 時間群に比較して,死亡率のリスクが 1.5 倍になることを報告している.ESRD 患
者の不安症状はうつ症状や睡眠異常に関連し,これらに不安症状が加わることで CVD などの合併
率や死亡率のリスクが高くなることが示されている(Kimmel, 2000).
以上のように,HD 患者の精神的健康度の不良は,精神疾患だけでなく合併症や死亡率とも関連
し,患者の QOL を脅かしている(Khalil et al., 2010).
4.血液透析患者における精神疾患および精神的健康度不良の要因
うつ病などの精神疾患や精神的健康度の不良は,ストレッサー,それを受ける個人の性,年齢,
遺伝子などの要因に加え,身体・神経・心理・社会・環境的要因などの多様な因子が複雑に絡みあ
っていると考えられる.HD 患者の精神的健康度不良の要因は,HD 治療に関連した行動的要因,
ESRD の病態に関連した身体的要因および神経的要因に分類される(Khalil et al., 2010).
1)治療に関連した行動・社会的要因
HD 患者は,週 3 回あるいは週 2 回の HD 治療のため,治療のための食事制限や体重管理が必要
で,社会活動の制限等,ライフスタイルに様々な影響を受ける.Kimmel ら(1998)の研究は,これら
のコンプライアンスの行動時間やソーシャルサポートの存在が HD 患者の死亡率のリスクを軽減す
ることを示している.また,HD 期間が比較的短い壮年期の HD 患者は,疾患に関する心配事とし
て,
「健康,食事,仕事,経済」などをあげ,その中で患者のライフスタイルに影響するものは「仕
事」であった(Bapat et al., 2009).同様に,Karakan ら(2011)は,HD 患者の治療苦の程度はうつ症状
と関連し,その治療苦は雇用状況および年齢と関連することを報告している.
また,睡眠異常と HD の治療期間および治療開始時刻との関連が示されている(Sabbatini et al.,
2002).さらに,不眠のリスクは HD 期間が 1 年未満と比較して,それ以上の期間の者は約 1.7 倍,
17
午後と比較して,午前の HD 治療は 1.6 倍であることが報告されている(Sabbatini et al., 2002).
2)身体的要因
身体的要因は,低栄養状態 (Kalender et. al; 2006, Cukor et al., 2009),貧血(Pai et al., 2007; Sakaguchi
et al.,2011) , CKD の 進 行 (Iliescu et al.,2004; Molnar et al., 2007) , 炎 症 反 応 (Kalender,2006;
Koehnlein,2009),高血圧 (Kalender,2006; Fan et al., 2006),糖尿病(Araujo et al., 2011; Harris et al., 2012),
高カルシウム血症(Tanaka et al.,2007)など,ESRD に関連した多様な病態との関連性が報告されてい
る.さらに,睡眠異常の要因には,不穏性下肢症候群 (Leg restless syndrome: LRS) (Mucsi et al., 2004;
Anand et al., 2013),掻痒感(Narita et al.,2006)および痛み(Unruh & Cohen, 2012; Harris et al., 2012)など
の症状もあげられている.
Ko ら(2010)の研究では,うつ症状を有する HD 患者はそうでない者に比較して,血清アルブミン
値が有意に低く,血糖値,hs-CRP,IL-10,TNF-α レベルが有意に高いことを報告している.さらに,
BDI スコアは血中アルブミン値と有意な負の関連,高感度 C-反応性蛋白(high-sensitivity C-reactive
protein :hs-CRP)および TNF-α と有意な正の関連も示されている(Ko et al., 2010).Lopes ら(2002)の大
規模研究では高血圧の有意なリスクは観察されなかった.一方,Fan ら (2006)の研究では,うつ等
と性,身体的,心理的,社会的,神経的要因等との仮説モデルを検証し,他の因子に比較して高血
圧との関連性が強いことを示している.
Burrowes ら(2012)研究は,睡眠の質のスコアとクレアチニン(creatinine: Cr)レベルとの関連性を報
告した(β = 0.49, P = .0004).さらに,代謝障害や高血圧など生活習慣病の疾患とうつ病や睡眠異常と
の関連性も報告されている(Burrowes et al., 2012).さらに,近年の研究は,HD 患者における PD と
高血圧,糖尿病,脂質代謝異常の多重症候群の MetS との関連が注目されている(Iseki, 2008; Porrini
et al., 2010; dos Reis Santos et al., 2013).
以上のことから,HD 患者の PD における ESRD の病態に関連した身体的関連要因では,CKD の
進行度やインスリン抵抗性との関連性が示唆された.
3)神経的要因
ESRD 患者の中枢神経(CNS)と末梢神経の両方で合併症が報告されている(Brouns & De Deyn,
2004; Bansal & Bansal, 2014).CNS の合併症として,尿毒性脳症,平衡感覚障害症候群,認知症ある
いは認知機能低下,可逆性後頭葉白質脳症,ウェルニッケ脳症,脳圧低下性高血圧,運動障害,LRS,
睡眠障害,末梢神経においては,モノニューロパシー,多発神経障害があげられている (Brouns & De
18
Deyn, 2004; Bansal & Bansal, 2014).
LRS は 1950 年代初期より不眠の要因として報告され,一般的には有病率は約 6%と見積もられて
いるが(Mabew et al., 2001),CKD 患者は健常者に比較して高く,CKD の重症度によってリスクが高
くなることが示されている(Aritake-Okada et al., 2011).さらに,近年の文献研究によって ESRD 患者
の 42.9%が LRS を有していることが報告されている(Yazdi et al., 2015).また,Chavoshi ら(2015)の
研究では,LRS の性差(男<女)が確認されており,糖尿病以外の内分泌腺疾患,降圧剤の服用が
ないことがリスクとしてあげられている.同研究は,LRS が睡眠時間,睡眠の質,不眠のすべてに
関連があることも示されている(Noda et al.,2006; Chavoshi et al., 2015).さらに,腎機能低下と血圧上
昇および CNS との交感神経系の作用モデルでは,腎機能低下がさらに悪化することが示されている
(Schiaich et al., 2009).このように CKD の悪化や ERDS の多様な CNS 合併症は,ESRD の病態から
の影響が強いとされるが(Brouns & De Deyn, 2004; Bansal & Bansal, 2014),その確定的な原因解明に
は至っていない.
近年の研究によって,ESRD 患者の脳細胞の破壊部位は,同年代の健常者に比較して多く(Chou et
al.,2013),CNS 合併症を有する患者だけでなく,その診断のない HD 患者においても健常者に比較
して脳の損傷部位が多いことが MRI 検査を導入した研究で確認されている(Liang et al., 2013).これ
らのことは,HD 患者の高齢者は一般高齢者に比較して認知機能低下が早いことと関連があるかも
しれない.しかしながら,ESRD の精神的健康度不良と CNS の合併症や神経損傷を検証した研究は
非常に少なく,その関連性やメカニズムは明らかになっていない.
19
Ⅲ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子と
精神的健康度との関連性(研究Ⅰ)
20
Ⅱ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性
(研究Ⅰ)
1.研究背景と目的
ESRD の HD 患者は重篤なインスリン抵抗群であるだけでなく,うつ症状や睡眠異常,不安な
どの PD などの兆候を有し,それらは HD 患者の心疾患や認知症などの重篤な合併症の発症や死亡
のリスクを高めることが示唆されている.その要因として,ESRD の病態に関連した身体的要因,
神経的要因,行動的要因は複雑・多様であり,相互に関連があるとされる.しかしながら,HD 患
者の PD の病態模式と分子メカニズムは明らかになっていない.
一方,BDNF はうつ病や AD 発症メカニズムの 1 つであることに加え,糖・脂質代謝の調整因子
であることも示されている.このため,HD 患者の精神的健康度と BDNF が関連している可能性が
あるものの,HD 患者における精神的健康度と BDNF との関連性についての研究は少ない.
そこで,研究1では,HD 患者における血清 BDNF と精神的健康度との関連性を検証した.
2.方法
1)対象者
2006 年 11 月 1 日時点で,聖マリア病院で HD 通院治療を受けている 50 歳以上の患者 173 人のう
ち,除外基準を有さない 114 人を研究対象とした.除外者は,精神疾患治療や感染症,急性あるい
は重症の腎不全の治療者,抗うつ剤等の薬剤投与者,認知症,ADL 低下の重症な者および血液透析
治療が 6 ヶ月未満の者とした.対象者のうち 88 人が研究の参加に同意した.同意した者の中で,精
神的健康度質問票(General Health Questionnaire: GHQ)検査,認知機能検査を拒否した者 5 人,入院に
より検査が不可能な者 4 人を分析から除外した.最終的には,79 人 (年齢 62.8±8.3,男性 52 人,
女性 27 人)が質問紙および血液検査を完了した.さらに, BMI が 25 未満,糖・脂質代謝指標,血
圧値に異常を認められない 50 歳以上の 13 人(年齢 55.9±4.1,男性 9 人,女性 4 人)をコントロール
群として血清 BDNF および心理検査の比較を行った.
倫理的配慮として,対象者すべてに研究主旨,方法,個人情報の保護等を口頭および書面にて説
明して調査を行った.本研究は,聖マリア学院大学および聖マリア病院の倫理委員会の承認を得て,
その監視の下で行った.
21
2)身体検査,血液検査
BMI は,身長と 11 月 CTR から算出したドライウエイト(dry weight:DW)を使用し算出した.血液
検査は,2006 年 12 月 1 日および 12 月 2 日に透析直前に採取した血液を使用し,全血球算定(complete
blood count: CBC),一般生化学検査(糖・脂質代謝等),随時血糖値(blood glucose: BG),ヘモグロビ
ン(hemoglobin: Hb)A1c 等の検査を聖マリア病院検査部にて測定を依頼した.さらに,HD 患者にお
いては IL-6,レプチン,血中コルチゾール,hs-CRP 検査を追加し,臨床検査機関 SRL (株式会社エ
スアールエル,東京)に委託し分析した.コントロール群の血液検査については,健診検査項目を使
用し,血清 BDNF 以外の追加検査は実施しなかった
採取した対象者血液は,その血清を-50℃以下に保存し,血清 BDNF,血清アディポネクチンを
測定した.血清 BDNF 検査は,Human brain-derived neurotrophic factor (BDNF30) ELISA Kit (R&D
Systems, USA)を使用し,対象者とコントロールの血液を同時に検査した.同様に,血清アディポネ
クチン検査も Human Adiponectin (Acrp30) ELISA Kit (R&D Systems, USA)を使用して検査を実施した.
3)精神的健康度評価および認知機能評価
精神的健康度の評価には,日本版 GHQ30 項目検査を使用して評価した.GHQ は,WHO 世界保
健機関版に準拠し,主として神経症患者の症状把握を目的として作成されているが,PD および精
神疾患の早期発見に有効なスクリーニングテストである(Iwata et al., 1994; Ohta et al., 1995).GHQ は
質問内容が身近なものに限られているので,人種,宗教,文化,社会を問わず,国際比較研究も可
能とされ広く使用されている(Iwata et al., 1994; Ohta et al., 1995).
GHQ30 では,A.一般的疾患傾向,B.身体症状,C.睡眠異常,D.社会的活動障害,E.不安
と気分変調,F.希死念慮とうつ傾向の 6 つの下位項目,30 問から構成される.被験者は,各項目
について,「そうでない」「まれにそうである」「時々そうである」「いつもそうである」の4つの 選
択肢から答え,スコアはそれぞれ 0 - 0 - 1 - 1 で算出される(Iwata et al., 1994; Ohta et al., 1995).GHQ30
は,総スコア(GHQ 総スコア)7 点以上は PD があると判断され,スコアが高いほど症状が強いとさ
れている(Iwata et al., 1994; Ohta et al., 1995).
認知機機能の評価は MMSE を用いて行った.MMSE は,認知機能尺度として最も多く使用され
ている.MMSE は,AD 型認知症などの疑いがある被験者スクリーニングのために作成された簡便
な検査方法で,被験者に対し口頭等による質問形式 (30 点満点で判定)で行われる.MMSE 検査は,
この検査に熟練した看護職によって行われた.
22
4)統計手法
データの比率の差はχ 2 検定を使用し分析した.平均値の比較は分散分析を行い,3 群間以上の比
較はその後に Tamhane 検定で多重比較を行った.相関分析はスピアマンの順位相関係数を求めた.
GHQ 検査ではカットオフ値 7 を基準にし,7 以上を「PD 群」,6 以下を「non-PD 群」とした.
さらに,血清 BDNF レベルを 3 等分し,「高レベル群」「中レベル群」「低レベル群」の 3 つの群に
分けて分析を行い,OR は多重ロジスティック回帰分析を使用し,調整因子1として,性,年齢,
BMI,HD 時刻,収縮期血圧(systolic blood pressure: SBP),拡張期血圧(daistolic blood pressure: DBP),
高比重リポ蛋白コレステロール(high-density lipoprotein- cholesterol: HDL-C),低比重リポ蛋白コレス
テロール(low-density lipoprotein- cholesterol: LDL-C),BG,調整因子 2 として性,年齢,BMI,白血
球数(white blood cell count :WBC),血小板数(platelet count: PLtC),TC,リン(P)値,尿酸(uremic acid UA),
hs-CRP とし,これらの変数を強制投入して多変量調整を行った.
すべての分析には SPSS version15.0(Statistical Package for Social Sciences, version 15.0, SPSS Inc,
Chicago, IL, USA)を使用した.統計的有意水準は 0.05 とした.
3.結果
1)対象者の特性(表 2-1)
対象者の特性とコントロール群との比較を表Ⅲ-1 に示す.HD 対象者 79 人のうち,2 名の血清
BDNF レベルが検査の基準以下( < 500 pg/ml)であった.そこで,対象者から除外し 77 人( 年齢 62.8
±8.3,男性 51,女性 26 )で統計解析を行った.対象者の平均 HD 期間は,14.8 (±15.2)年で,ESRD
の原疾患は,慢性糸球体腎炎が最も多く (57.1%),次いで糖尿病性腎症 (23.3%)であった.HD 群
の年齢は,コントロール群に比較して有意に高かったが(p<0.001),男女比に有意な差はなかった.
2)HD 患者群とコントロール群の血清 BDNF および関連項目の比較
HD 患者群はコントロール群に比較して,年齢,尿素窒素((blood urea nitrogen: BUN),Cr,UA の
平均値が有意に高く(p<0.001),赤血球数(red blood cell count: RBC), WBC,Hb 値,TC,LDL-C,
HDL-C の値が有意に低かった(p<0.001).さらに,HD 患者群の血清 BDNF はコントロール群に比較
して有意に低値であった(12.43 ±5.44 vs. 26.42 ±5.42 ng/ml, p < 0.001).この血清 BDNF の差は,年
齢,性,BMI,SBP,DBP,HDL-C, LDL-C,HbA1c,Cr,UA を調整した後(p< 0.001),およびこ
れらの項目に RBC ,WBC,Hb を加えて調整した後も変わらなかった (p< 0.001).
23
表Ⅲ-1. 対象者の特性とコントロール群との比較
HD 群
n=77
62.8 ± 8.3
年齢 (歳)
(%)
性
(n)
51
(66.2%)
男性
26
(33.8%)
女性
(%)
ERSD の原疾患
(n)
44
(57.1%)
慢性糸球体腎炎
21
(27.3%)
糖尿病性腎症
9
(11.7%)
その他腎疾患
3
(3.9%)
腎疾患以外
14.8 ± 15.2
HD 期間 (年)
(%)
現疾患
(n)
diabetes mellitus (DM)
26
(33.8%)
Hypertension(HT)
46
(59.7%)
cardiovascular disease(CVD)
9
(11.7%)
stroke
6
(6.5%)
BMI (kg/m2)
21.3 ± 3.4
WBC (102/µl)
55.92 ± 16.92
RBC (104/µl)
328.4 ± 48.8
Hb(g/dl)
10.2 ± 1.1
Plat(104/μl)
16.68 ± 5.56
TC (mg/dl)
147.5 ± 31.5
TG (mg/dl)
96.1 ± 48.5
HDL-C (mg/dl)
47.1 ± 13.2
LDL-C (mg/dl)
75.1 ± 25.2
BG (mg/dl)
117.7 ± 36.3
HbA1C (%)
5.1 ± 0.9
Cr (mg/dl)
10.95 ± 1.80
UA(mg/dl)
7.78 ± 1.07
12.43 ± 5.44
血清 BDNF(ng/ml)
6.70 ± 5.40
GHQ-30 総スコア
1.51 ± 1.47
A 一般疾患傾向
0.95 ± 1.04
B 身体症状
2.18 ± 1.80
C 睡眠異常
0.56 ± 0.98
D 社会的活動障害
0.99 ± 1.50
E 不安と気分変調
0.55 ± 1.25
F 希死念慮とうつ傾向
psychogenic distress:PD
39
(50.6%)
コントロール群
n=13
55.9 ± 4.1
(%)
(n)
9
(69.2%)
4
(30.8%)
-
23.2
58.39
487.8
15.3
222.3
110.7
66.3
128.1
95.9
4.8
0.80
5.02
26.22
2.30
0.85
0.38
0.77
0.15
0.08
0.00
0
※データは平均値±標準偏差(SD)と率(%),
※1 HD 患者は随時血糖,健常者は空腹時血糖のため比較していない.
24
p値
0.03
0.83
±
±
±
±
2.5
13.88
49.5
1.4
0.12
0.62
<0.001
<0.001
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
17.8
87.5
15.8
12.7
10.6
0.3
0.14
0.92
5.42
1.70
1.07
0.65
0.93
0.38
0.28
0.00
(0.0%)
<0.001
0.52
<0.001
<0.001
※1)
0.23
<0.001
<0.001
<0.001
<0.01
0.12
0.06
<0.01
0.15
<0.05
0.62
-
また,図Ⅲ-1 のコントロール群の中で
外れ値と推測できる値を除外しても有意
な 差 は 不 変 で あ っ た (12.43 ± 5.44 vs.
25.40 ±4.74 ng/ml, p < 0.001).
HD 患者群の GHQ 総スコアはコントロ
ール群に比較して有意に高く,PD を有
する率は 50.6%と高かった.さらに,
GHQ 下位項目の「C 睡眠異常」および「E
n=77
図Ⅲ-1
不安と気分変調」のスコアがコントロー
n=13
ル群に比較して有意に高かった.その他
HD 患者群とコントロール群の
の項目に有意な差は認められなかった.
血清 BDNF の比較
3)HD 患者における PD 群と非 PD 状群の関連項目の比較(表 2-2)
HD 患者群では,関連項目および GHQ 総スコアに男女間で有意な差は観察されなかった(12.16 ±
5.60 vs 12.97±5.17, p=0.54).そこで,男女合わせて「PD 群」37 人(50.6%)と「non-PD 群」38 人(49.4%)
で関連項目の比較を行った結果を表Ⅲ-2 に示す.
PD 群は,non-PD 群に比較して血清 BDNF レベルが有意に低かった(10.78 ± 5.01 vs.14.12 ± 5.41
ng/ml, p <0.01)(図Ⅲ-2 参照).しかしながら,この血清 BDNF の有意な差は,年齢,性,BMI,HDL-C,
LDL-C,HbA1c,Cr,UA を調整した後
には消失した.他の関連項目すべてに
おいて,PD 群と non-PD 群との間に有
意な差は観察されなかった.
n=39
図Ⅲ-2
n=38
HD 患者における PD 群と non-PD 群の血清
BDNF の比較(n=77)
25
表Ⅲ-2
血液透析患者の PD 群と non-PD 群の関連項目の比較(n=77)
PD 群 (GHQ≧7)
non-PD 群 (GHQ≦6)
n=39
n=38
62.7 ±
8.7
62.8 ±
8.04
年齢 (歳)
25
64.1%
26
68.4%
性(男性)
13.3 ±
12.3
16.2 ±
17.63
HD 期間(年)
BMI (kg/m2)
21.4 ±
3.9
21.2 ±
2.92
CTR (%)
52.2 ±
5.1
50.8 ±
4.76
SBP(mmHg)
129.1 ±
18.1
126.0 ±
14.2
DBP(mmHg)
67.8 ±
6.2
67.2 ±
6.1
WBC (102/µl)
54.0 ±
14.4
57.8 ±
19.2
RBC (104/µl)
324.7 ±
39.3
332.2 ±
57.3
Hb (mg/dl)
10.1 ±
1.1
10.3 ±
1.1
4
Plat (10 /µl)
15.7 ±
4.9
17.6 ±
6.1
TP (mg/dl)
6.83 ±
0.47
6.88 ±
0.46
Albumin (mg/dl)
3.72 ±
0.30
3.84 ±
0.27
TC (mg/dl)
145.9 ±
28.7
149.1 ±
34.5
TG (mg/dl)
97.8 ±
44.0
94.3 ±
52.3
HDL-C (mg/dl)
46.3 ±
14.1
47.9 ±
12.3
LDL-C (mg/dl)
74.1 ±
23.8
77.1 ±
26.9
BG (mg/dl)
119.8 ±
40.6
115.5 ±
31.7
HbA1C (%)
5.1 ±
0.8
5.1 ±
1.0
BUN (mg/dl)
67.9 ±
14.8
68.0 ±
12.6
Cr (mg/dl)
10.84 ±
1.93
11.07 ±
1.68
UA(mg/dl)
7.60 ±
1.06
7.97 ±
1.06
Na(mEq/dl)
139.74 ±
3.35
139.98 ±
2.74
K(mEq/dl)
5.04 ±
0.67
5.09 ±
0.74
Cl(mEq/dl)
104.44 ±
2.99
104.76 ±
2.73
9.14
±
0.62
9.07
±
0.58
Ca 補正(mEq/dl)
P(mEq/dl)
5.04 ±
0.88
4.95 ±
0.96
intact PTH(pg/mL)
335.41 ±
461.14
225.18 ±
255.82
cortisol (ug/mL)
12.49 ±
3.30
11.93 ±
3.82
IL-6 (ng/mL)
6.45 ±
4.97
6.92 ±
9.15
leptin (ng/mL)
14.02 ±
43.15
11.74 ±
21.21
hs-CRP (ng/mL)
3.92 ±
6.26
2.13 ±
3.30
16.41 ±
8.66
13.30 ±
7.58
血清 adiponectin (ng/mL)
10.78 ±
5.00
14.12 ±
5.41
血清 BDNF (ng/mL)
5
12.8%
2
5.3%0
肥満 (BMI≧25)
diabetes mellitus (DM)
14
35.9%
12
31.6%
Hypertension(HT)
24
61.5%
22
57.9%
Dyslipidemia
15
38.5%
11
28.9%
cardiovascular disease (CVD)
5
12.8%
4
10.5%
stroke
4
10.3%
1
2.6%
26
66.7%
24
63.2%
HD 治療 午前
26.0 ±
4.7
26.3 ±
2.5
MMSE スコア
p値
0.97
0.44
0.40
0.74
0.24
0.41
0.65
0.33
0.51
0.49
0.14
0.63
0.08
0.66
0.76
0.60
0.73
0.61
0.79
0.96
0.57
0.13
0.73
0.76
0.63
0.60
0.56
0.20
0.49
0.78
0.77
0.12
0.10
<0.01
0.23
0.44
0.46
0.26
0.52
0.19
0.81
0.72
※データは平均値±標準偏差を表示,データの比率の差は,χ 2 検定を使用し分析した.平均値の比較分析で
は,分散分析検定を使用して p 値を算出.
26
表Ⅲ-3
HD 患者群の血清 BDNF と関連項
目および GHQ 総スコアとの関連(n=77)
係数
p値
(r)
年齢
-0.02 0.89
BMI
0.25 <0.05
HD 暦
-0.05 0.67
SBP
-0.16 0.16
DBP
-0.86 0.46
WBC
0.38 <0.001
RBC
0.16 0.16
Hb
0.14 0.23
PlatC
0.76 <0.001
TC
0.35 <0.01
TG
0.14 0.24
HDLC
0.15 0.18
LDL-C
0.26 <0.05
BG
0.19 0.09
HbA1c
0.15 0.18
UA
0.09 0.46
BUN
0.06 0.60
Cr
0.13 0.27
Na
0.09 0.46
K
0.05 0.67
Cl
0.02 0.85
Ca 補正
-0.04 0.60
P
-0.05 0.68
intact PTH
0.05 0.65
コルチゾール
-0.22 0.60
hs-CRP
-0.23 <0.05
IL-6
-0.27 <0.05
レプチン
0.25 <0.05
血清アディポネクチン
-0.11 0.35
GHQ 総スコア
-0.23 <0.05
A 一般疾患傾向
-0.19 0.09
B 身体症状
-0.12 0.30
C 睡眠異常
-0.12 0.29
D 社会的活動障害
-0.16 0.17
E 不安と気分変調
-0.37 <0.01
F 希死念慮とうつ傾向
-0.06 0.62
4)HD 患者群の血清 BDNF と関連項目および
GHQ スコアとの関連
表Ⅲ-3 に HD 患者群の血清 BDNF と関連項目お
よび GHQ 総スコアとの関連を示す.さらに,図
Ⅲ-3 で血清 BDNF との相関図を示す.
HD 患者の血清 BDNF は,血小板数と正の強い
相関が見られた( r = 0.76, p<0.001).また,HD 患
者の血清 BDNF は,BMI (r = 0.25, p<0.05),WBC (r
= 0.38, p<0.01),TC
(r = 0.34, p<0.01), LDL-C
(r =.26, p<0.05),レプチン (r = 0.25,p<0.05)と有
意な正の相関が見られた.また,HD 患者では,
血清 BDNF と IL-6 (r = - 0.27,p<0.05),hs-CRP (r =
- 0.23,p<0.05)との間に有意な負の相関が見られ
た.
HD 患者の血清 BDNF は,GHQ 総スコアと有意
な負の弱い相関が見られた(r = - 0.23, p <0.05).ま
た,GHQ30 の下位項目「E.不安と気分変調」ス
コアと間でも有意な負の相関が観察された(r = 0.37,p<0.01).他の GHQ 下位項目スコアとは有
意な相関は見られなかった.
27
a
b
r=0.38, p<0.001
r=0.76, p<0.001
d
r=-0.23, p<0.05
c
図Ⅲ-3
r=-0.23, p<0.05
血清 BDNF と GHQ 総スコアおよび関連項目(WBC,血小板数)との関連
a:HD 患者の血清 BDNF と白血球数の散布図,b:血清 BDNF と血小板数との散布図,c:HD 患者の血清
BDNF と log[hs-CRP]の散布図,d:血清 BDNF と GHQ 総スコアとの散布図
5)HD 患者の血清 BDNF レベルにおける関連項目の比較
血清 BDNF と病態の関係は直線的でない可能性を考慮し(Laske et al., 2006),HD 患者の血清 BDNF
レベルにより 3 区分し,関連項目を比較した(表Ⅲ-4). BMI,SBP,DBP,WBC,血小板数,TC,
UA,P 値,hs-CRP は 3 群間で有意差が見られた.低レベル群の BMI,WBC,PlatC,TC は高レベ
ル群に比較して有意に値が低く,逆に hs-CRP では有意に値が高かった.一方,中レベル群の SBP,
DBP は,高レベルに比較して有意に値が高く,逆に UA は高レベル群に比較して有意に値が低かっ
た.P(リン)は中レベル群が高レベルおよび低レベル群に比較して有意に値が低かった.また,疾患
の比較では,CVD を有病率は高レベル群(7.7%),中レベル群(3.8%)に比較して低レベル群(24.0%)が
高い傾向が見られた(p=0.07).また,レプチンは,高レベルで低・中レベルに比較して高い傾向が
28
見られた (p=0.09).レプチンのヒストグラムが対数分布であったことから,対数化して 3 レベルを
比較すると 3 レベル間で有意な差が見られた(p<0.05).
表Ⅲ-4 血液透析患者における血清 BDNF3 レベルにおける関連項目の比較(n=77)
年齢 (歳)
性(男性)
HD 期間(年)
BMI (kg/m2)
CTR (%)
SBP(mmHg)
DBP(mmHg)
WBC (10 2/µl)
RBC (10 4/µl)
Hb (g/dl)
Plat (10 4/µl)
TP (g/dl)
Albumin (mg/dl)
TC (mg/dl)
TG (mg/dl)
HDL-C (mg/dl)
LDL-C (mg/dl)
BG (mg/dl)
HbA1C (%)
BUN (mg/dl)
Cr (mg/dl)
UA (mg/dl)
Na(natrium)(mEq/dl)
K (kalium)(mEq/dl)
C l(塩素)(mEq/dl)
Ca(calcium)補正(mEq/dl)
P (mEq/dl)
intact PTH(pg/ml)
cortisol (ug/ml)
IL-6 (ng/ml)
leptin (ng/ml)
log leptin
hs-CRP (ng/ml)
血清 adiponectin (ng/ml)
肥満 (BMI≧25)
diabetes mellitus (DM)
Hypertension(HT)
Dyslipidemia
cardiovascular disease(CVD)
stroke
HD 時間帯 午前治療
MMSE スコア
高レベル群
>9.15(ng/ml)
n=25
62.5
8.1
16
61.5%
12.8 ± 13.2
22.76 ± 4.38
50.86 ± 3.73
121.4
13.3
65.0
5.7
62.47 ± 16.67
338.23 ± 55.66
10.32 ± 0.96
21.27 ± 4.75
6.81 ± 0.33
3.79 ± 0.20
157.4 ± 33.3
111.12 ± 62.18
49.04 ± 14.08
79.62 ± 27.46
123.23 ± 29.43
5.27 ± 1.09
71.52 ± 13.09
11.22 ± 1.86
8.12 ± 0.99
140.12 ± 2.94
5.11 ± 0.68
105.03 ± 2.82
9.32 ± 0.58
5.13 ± 0.74
295.58
±
342.44
12.27
±
4.74
4.56
24.43
0.91
1.54
±
±
±
±
3.06
56.29
0.57
1.63
13.97
4
8
18
11
2
2
21
26.2
±
10.22
15.4%
30.8%
69.2%
42.3%
7.7%
7.7%
80.8%
4.5
±
中レベル群
9.15-16.0(ng/ml)
n=26
65.4
9.1
19
73.1%
14.9 ± 14.3
20.95 ± 2.34
51.34 ± 4.62
132.2
12.8 a
70.3
5.3 b
53.34 ± 12.46
330.42 ± 43.64
10.31 ± 1.07
16.04 ± 3.06 cd
6.83 ± 0.48
3.80 ± 0.29
150.7 ± 32.4
85.85 ± 34.98
47.65 ± 12.91
78.96 ± 26.25
117.00 ± 45.64
4.90 ± 0.59
64.68 ± 14.72
11.01 ± 1.69
7.33 ± 0.81 b
139.64 ± 2.84
5.03 ± 0.71
103.95 ± 2.79
9.35 ± 0.67
4.54 ± 0.91 ad
低レベル群
<16.0(ng/ml)
n=26
60.4
7.0
16
64.0%
16.6 ± 18.0 a
20.12 ± 2.79
52.22 ± 5.53
129.2
20.5
67.2
6.3
51.79 ± 19.59
316.00 ± 45.52
9.89 ± 1.18
12.57 ± 4.88 c
6.91 ± 0.55
3.75 ± 0.36
133.8 ± 24.2 a
91.08 ± 42.02
44.40 ± 12.60
66.32 ± 19.85
112.68 ± 32.20
5.06 ± 1.02
67.63 ± 12.74
10.62 ± 1.87
7.91 ± 1.25
139.82 ± 3.44
5.06 ± 0.74
104.82 ± 2.94
9.33 ± 0.57
5.32 ± 0.94
238.23
±
287.55
310.36
±
485.73
11.47
±
3.11
12.92
±
2.33
7.07
5.71
0.59
2.33
±
±
±
±
6.90
6.62
0.35
4.17
8.50
8.37
0.68
5.32
±
±
±
±
10.03
8.82
0.48
7.22 a
16.39
1
11
15
5
1
1
13
25.3
±
8.09
3.8%
42.3%
57.7%
19.2%
3.8%
3.8%
50.0%
3.8
14.25
2
7
13
10
6
2
16
27.1
±
5.86
8.0%
28.0%
52.0%
40.0%
24.0%
8.0%
64.0%
2.7
±
±
p値
0.09
0.65
0.68
<0.05
0.58
<0.05
<0.01
<0.05
0.26
0.28
<0.001
0.71
0.79
<0.05
0.14
0.44
0.11
0.56
0.37
0.20
0.49
<0.05
0.85
0.92
0.35
0.98
<0.01
0.77
0.35
0.15
0.09
<0.05
<0.05
0.52
0.34
0.52
0.44
0.14
0.07
0.78
0.07
0.23
2
※分散分析後その後の検定で各レベルを比較率の比較は χ 検定で p 値を算出(5 未満は尤度比で検定)
a
高レベルとの比較 p<0.05,b: 高レベルとの比較 p<0.01,c:高レベルとの比較 p<0.001,
較 p<0.05
29
d:
低レベルとの比
6)HD 患者の血清 BDNF3群における GHQ 総スコアおよび下位項目の比較
HD 患者の GHQ 総スコアと下位スコアを血清 BDNF の「高レベル群」
「 中レベル群」
「 低レベル群」
の 3 群別に比較した結果を表Ⅲ-5 に示す.「低レベル群」は「高レベル群」に比較して,GHQ 総ス
コアおよび下位項目の「E 不安と気分変調」のスコアが有意に低い値を示した(9.00 ± 6.60 vs. 5.04 ±
4.19, p < 0.05;1.73 ± 1.85 vs. 0.40 ± 0.82,p < 0.01).
表Ⅲ-5
HD 患者の血清 BDNF3群における GHQ 総スコアおよび下位項目の比較(n=77)
GHQ 総スコア
A 一般疾患傾向
B 身体症状
C 睡眠異常
D 社会的活動障害
E 不安と気分変調
F 希死念慮とうつ傾向
高レベル群
(n=25)
5.04 ± 4.19
1.32 ± 1.28
0.80 ± 1.00
1.76 ± 1.51
0.32 ± 0.69
0.40 ± 0.82
0.44 ± 1.08
中レベル群
(n=26)
6.08 ± 4.62
1.15 ± 1.35
0.88 ± 0.91
2.42 ± 1.90
0.62 ± 0.98
0.81 ± 1.36
0.19 ± 0.49
低レベル群
(n=26)
9.00 ± 6.60*
2.04 ± 1.64
1.15 ± 1.19
2.35 ± 1.96
0.73 ± 1.19
1.73 ± 1.85**
1.00 ± 1.74
※データは平均値±標準偏差を表示 *p<0.05, **p<0.01
7)HD 患者の血清 BDNF レベル別の PD のリスク
血清 BDNF の 3 群別の PD のリスクを表Ⅲ-6 に示す.低レベル群の PD の粗 OR は,高レベル群
と比較して有意に大きかった(OR=4.78 (95%信頼区間(confidence interval: CI): 1.46-15.61]).次に,
BDNF の関連因子と考えられる性,年齢,HD 時間帯, BMI,SBP,DBP,
HDL-C,LDL-C,BG 調
整後も有意に大きな値が観察された(OR: 9.26 [95% CI: 2.19-39.22]).さらに,性,年齢に加え,3 群
で有意の差があった BMI,WBC,PLtC,TC,P 値,UA, hs-CRP を調整した後も同様の結果であっ
た(OR: 21.35 [95% CI: 2.49-183.31]).しかし,中レベル群の OR は有意ではなかった.
30
表Ⅲ-6
HD 患者の血清 BDNF レベルよる PD のリスク(n=77)
高レベル群
(n=25)
psychogenic distress
odds ratio (OR)
PD 人数(%)
粗 odds rate
多変量調整
多変量調整
中レベル群
(n=26)
OR
8
OR
(30.8%)
13
[95%Cl]
(50.0%)
低レベル群
(n=26)
OR
18
[95%Cl]
(72.0%)
1.00
2.25
[0.72-6.99]
4.78
[1.46-15.61]
OR
※1
1.00
2.86
[0.76-10.25]
9.26
[2.19-39.22]
OR
※2
1.00
3.03
[0.71-12.94]
21.35
[2.49-183.31]
※1
多変量ロジスティック回帰分析に,性,年齢,BMI,HD 時間帯,SBP,DBP, HDL-C,LDL-C,
BG を強制投入後,オッズ比を算出した.
※2
多変量ロジスティック回帰分析に,※1に加え WBC,PLtC,TC,P 値,UA, hs-CRP を強制投入
後,オッズ比を算出した.
4.考察
本研究では,HD 患者の血清 BDNF がコントロール群に比較して有意に低く,血清 BDNF の関連
因子を調整後も有意な差は変わらなかった.また,HD 患者群間では,PD を有する者はそうでない
者に比較して血清 BDNF 有意に低かったが,この差は,年齢,性,BMI,TC,LDL-C などの因子を
調整後は消失した.しかしながら,血清 BDNF 低レベルの HD 患者は高レベルに比較して,PD を
有するリスクが約 5 倍で,性,年齢,BMI 等を調整した後も変わらなかった.さらに,HD 患者の
血清 BDNF 低レベルは,高レベルに比較して,hs-CRP が有意に高かった.以上の結果は HD 患者で
は血清 BDNF 低レベルが PD と関連するだけでなく,炎症反応にも関連している可能性を示唆する
ものである.これらの結果は初めての知見である.
HD 患者の血清 BDNF に関する研究は極めて少ない.それでも,近年の研究によって HD 患者の
血清 BDNF が健常者に比較して低いことが確認され(Zoladz et al., 2012),本結果を支持している.し
かしながら,Shin ら(2012)の研究では,HD 患者の血漿 BDNF が健常者に比較して高いことが報告
されている.両者の BDNF レベルには血清と血漿の違いはあるが,本研究結果と相反している.血
漿は血液細胞成分のみが分離されており,血清はそれに凝固因子が除かれ,血清の方が血小板内の
成分が凝固反応過程で漏出しやすい.通常は,血漿の方が生体内の状態を反映しているとされるが,
HD 患者では血小板機能異常を有する脆弱性により,血漿検査でも遠心分離器などの物理的操作な
どによって血小板内成分やその代謝物が流出した可能性が考えられる.一方,健常者では,通常で
は血漿に血小板内成分等が混入することは殆どない.このため,Shin ら(2012)の研究では HD 患者
の血漿 BDNF レベルが健常者に比べて高くなったのかもしれない.しかも,この研究では健常者と
31
の比較において,糖・脂質代謝を調整していない(Shin et al., 2012).したがって, HD 患者の血清
BDNF が健常者に比較して低い本研究結果を否定できないと考える.
HD 患者の血清 BDNF が低レベルであった背景として次のことが考えられる.第 1 に,HD 患者の
病態に関連した身体的要因である.HD 患者はインスリン抵抗性を有し,高血圧,糖尿病,脂質代
謝異常などの要因が考えられる.ESRD である HD 患者は MetS のリスクが高く,特に OSAS との関
連性が示唆されている (Iseki,2008; Porrini et al., 2010).重症の MetS の血漿 BDNF は健常者に比較
して低レベルであることが報告され(Hristova et al., 2006),本研究結果を支持している.さらに,肥
満や糖尿病が BDNF の脳内産生,血中 BDNF を減弱させることが動物実験やヒト研究の両者におい
て確認され,BDNF が糖・脂質代謝の調整因子であることを示す多数のエビデンスが得られている
(Cosi et al., 1993, Karikó et al., 1998).一方,Suwa ら (2006)の研究では,血清 BDNF は BMI,TC,
TG,BG などと有意な正の相関が示されている.本研究結果でも,血清 BDNF と BMI,TC,LDL-C
とでは正の弱い相関が見られ,HD 患者はコントロール群に比較して TC,HDL-C,LDL-C レベルが
有意に低かった.これらのことから,HD 患者の血清 BDNF 低レベルの要因として,糖・脂質代謝
異常の関与が考えられる.しかしながら,血清 BDNF と BG および HbA1c との間には関連はみられ
なかった.これらの結果から,HD 患者の血清 BDNF レベルの低下には,糖・脂質代謝異常以外に
も生体内要因が介在している可能性が考えられる.
第 2 に,HD 患者の血液細胞成分などの影響である.本研究結果では,HD 患者の血清 BDNF は
PlatC や WBC とも有意な相関が見られた.血小板から BDNF が放出されることが確認され(Fujimura
et al., 2002),高齢者を対象とした大規模研究では血清 BDNF と PlatC との間に正の相関(r=0.344,
p<0.01)が報告されている(Ziegenhorn et al., 2007).一方,本研究では HD 患者の血小板と BDNF との
間には強い相関が見られた(r=0.76, p<0.001).HD 患者では,腎機能低下による出血時間の延長やヘ
パリンの使用などのため,血小板数は正常範囲でも血小板機能異常があるとされる(Wanaka et al.,
2010).これは,HD 患者は腎機能異常からの PTH やエリスロポエチンの不足等による造血作用の低
下が要因であるが,貧血状態も血小板機能異常に関与していることが報告されている(Wanaka et al.,
2010; Songdej & Rao, 2015).そのうえ,HD 患者の Hb の寿命は通常よりも短く(Eckardt, 2000),Hb
レベルは死亡率に関連があることが示唆されている(Coric et al., 2015).これらのことから,HD の血
清 BDNF レベルは,健常者に比べ PlatC,WBC などの血液細胞成分により強く影響される可能性は
否定できない.
32
最後に,HD 患者における PD 要因である.本研究結果は,HD 患者はコントロール群に比べて
GHQ 総スコアが有意に高く,PD を有する割合は約半分であった.さらに,HD 患者の下位項目の
「睡眠異常」と「不安と気分変調」スコアは非 HD 患者に比較して有意に高かった.多くの研究に
よって,HD 患者はうつ病などの精神疾患の有病率だけでなく(Chilcot et al., 2008; Cukor et al.,2007),
うつ症状や睡眠異常などの PD の有訴率が健常者に比較して高いことが報告されている(Kalenderet
al.,2007; Iliescu et al., 2004; Feroze et al., 2010).うつ病などの精神疾患者の血清 BDNF は健常者に比
較して低レベルであることが多数の研究で示されている(Karege et al.,2002; Shimizu et al., 2003).さ
らに,精神疾患の診断のない者でも,バーンアウト症状や神経症状がある者はそうでない者に比べ
て,血清 BDNF レベルが低値であることが報告されている(Onen Sertoz et al., 2003; Lang et al.,2004).
これらの研究は,本研究の HD 患者の PD によって,血清 BDNF レベルが有意に低かった可能性を
支持するものである.
興味深いことに,HD 患者の睡眠異常スコアはコントロール群に比較して非常に高値であったが,
HD 患者の血清 BDNF レベルの 3 群の比較において,睡眠異常スコアは有意差が見られなかった.
つまり,HD 患者とコントロール群との血清 BDNF レベルの差には不安と気分変調よりもむしろ睡
眠異常が影響した可能性が推測される.
HD 患者のうつ症状あるいはうつ病を有する率は 15%から 61%の範囲で,概ね 38.8%程度に対し
(Kalenderet al.,2007; Chilcot et al., 2008),睡眠異常の有訴者率は約 50%~70%と推測され(Iliescu et al.,
2004; Iseki et al., 2008),非常に高いことが分かっている.一方,BDNF と睡眠との関連性は,動物
実験によって,REM 睡眠や NREM 睡眠の剥奪がラットの脳内の BDNF 産生・分泌の低下,BDNF
mRNA の発現の減弱が生ずることが確認され(Kushikata et al., 1999; Sei et al., 2000;Fujihara et al.,
2003),BDNF もまた睡眠行動を調整することが示されている(Martinowich et al.,2011).すなわち,
HD 患者の睡眠異常と低血清 BDNF との関係は相互に関連している可能性が考えられる.
これらに加えて,HD 患者は,多様な神経合併症が報告されている(Brouns & De Deyn, 2004; Bansal
& Bansal, 2014).HD 患者の神経合併症は身体的状態と関連があるとされながらも,その多くの原因
は明らかにされていない.HD 患者のCNS合併症の中でも,比較的多い LRS は約 4 割強と見積も
られ(Yazdi et al., 2015),一般の約 6%(Mabew et al., 2001)をはるかに上回っている.LRS は,睡眠異
常の睡眠時間,睡眠の質,不眠のいずれにも関連していることは多くの研究によって示唆されてい
る(Noda et al.,2006; Chavoshi et al., 2015).さらに,CKD 患者の腎機能低下と高血圧との関連におい
33
て,交感神経系の作用を介して CNS が関連していることが報告されている(Schiaich et al., 2009).ま
た,CNS 合併症を有しない HD 患者でも健常者に比較して神経損傷部位が多いことを示している
(Liang et al., 2013).本研究の対象者においても精神疾患や認知症と診断されている患者は対象外と
したが,神経的損傷がないとは断定できない.これらのことは,BDNF と AD に関する研究は多数
の報告があり(Phillips et al., 1991; Narisawa-Sait et al., 1996; Poon et al., 2007; 2013),HD 患者は一般高
齢者に比較して認知機能低下が早いこと(Sithinamsuwan et al., 2005; Murray, 2008; Odagiri et al., 2010)
にも関連があるかもしれない.
以上のことから,本研究では神経学検査を実施していないため,HD 患者の血清 BDNF 低レベル
および PD や睡眠異常への神経的要因の関与については推測の域を超えない.それでも,HD 患者の
PD には,神経的要因が影響している可能性は否定できない.すなわち,HD 患者の睡眠異常による
CNS への影響が BDNF の発現を低下させ,その低下がさらに睡眠異常を悪化させるネガティブサイ
クルが考えられる.
一方,HD 患者のうち PD 群は非 PD 群に比べて血清 BDNF が有意に低かったが,BDNF 関連因子
を調整後にはこの有意差は消失した.それでも,HD 患者の血清 BDNF と GHQ 総スコア(r = - 0.23, p
<0.05) および下位項目の不安と気分変調スコア(r = - 0.37,p<0.01)との間には有意な負の相関が見ら
れた.血清 BDNF と不安と気分変調スコアとの関係は,Shimizu ら(2003)の血清 BDNF とうつスコ
ア(HAM-D)との間の負の相関(r=-.350, p =.045)と類似している.一方,血清 BDNF と GHQ 総スコア
との関連では,Lang ら(2004)の血清 BDNF と NEO-FFI(人格検査)の神経症スコアとの間の負の相
関(r=-0.212, p=0.022)と同様であった.
これらの関連をさらに検証するため,血清 BDNF レベル 3 群を比較したところ,HD 患者の低レ
ベル群は高レベル群に比較して,GHQ 総スコアと不安と気分変調スコアが有意に低く,PD を有す
るリスクとして約 5 倍が観察され,関連項目を調整後はさらに高リスクが観察された.中レベル群
は有意な値ではなかったが,血清レベルの低下によって PD のリスクが増加する傾向が示された.
したがって,本研究結果は,HD 患者における血清 BDNF と PD の関連性を示唆している.
これらに加えて,本研究結果は,血清 BDNF と hs-CRP および IL-6 との間には有意な負の相関,
WBC,PlatC およびレプチンとの間には有意な正の相関が見られた.さらに,血清 BDNF 低レベル
群の hS-CRP は高レベル群に比較して有意に高く,WBC や PlatC が有意に低かった.また,本研究
34
対象から重篤な CVD 患者を除外したにもかかわらず,有意ではないものの,血清 BDNF 低レベル
の CVD の保有率は高い傾向を示した.
CRP と CVD の関連性については,多数の報告がある(Lagrand et al., 1999; Ong et al., 2013).最近
の研究では,血小板機能異常と炎症反応との関連性が報告され(Forget et al., 2015),それが CVD の
発症に関連していることも示唆されている(Altas et al., 2015).さらに,CRP のレベルで死亡率のリ
スクが上昇することが示されている(Coric et al., 2015).一方,BDNF は,TNF-αや IL-6 などのサイ
トカイン(Schulte-Herbruggen, 2005; del Porto et al., 2006)だけでなく,CRP (Swardfager et al.,2011)など
炎症マーカーとの関連性も示唆されている.さらに,BDNF 発現はレプチンによっても誘導され,
それが摂食行動に関与していることも示唆されている(Kim et al., 2014; Liu et al., 2014; Sahin et
al.,2014, Wosiski-Kuhn et al.,2014).
HD 患者の PD と炎症反応との関連性においては,掻痒感の重症者(Narita et al., 2006)の不眠者や
OSAS 患者(Koehnlein et al., 2009)は,そうでない者と比較して,有意に CRP が有意に高いことが報
告されている.さらに,HD 患者の BDI スコアと hs-CRP および TNF-αとの間には有意な正の相関
が確認され,うつ症状の有訴者はそうでない者に比較して血清アルブミン値が有意に低く,hs-CRP,
身体的要因








悪化
CKDの重症度
低栄養状態
貧血
血小板機能異常
高血圧
糖尿病
脂質異常
高カルシウム血症
CVD↑・脳血管疾患↑
死亡率のリスク↑
低血清
BDNF
不安
27-35%
神経的要因
HD治療に関連した行動要因
HD治療期間
治療時刻
仕事の有無
ソーシャルサポートの有無
図Ⅲ-4
(本研究結果:50.6%)
うつ
症状
15-61%
 炎症状態(CRP↑、IL-6↑TNF-α↑)
 掻痒感,疼痛などの症状




精神的健康度の低下
睡眠異常
50-70%
脳内BDNF
発現↓?





Encephalopathy
認知機能低下・認知症
RLS
神経損傷
器質的・機能的神経異常
精神疾患
20-30%
うつ病・睡眠障害
・不安障害など
先行研究
血中BDNF↓
脳内BDNF発現↓
HD 患者における精神的健康度の不良と各要因との関連(仮説)
黒:先行研究,赤:今回の研究成果,青:今後の研究
35
TNF-αレベルが有意に高いことが示されている(Ko et al., 2010).また,多くの研究によって,HD
患者のうつ症状や睡眠異常などの PD が CVD などの合併症のリスクであることが示唆されている
(Kimmel et al., 2000; Lopes et al., 2000;Mucsi et al., 2004; Elder et al.,2008).
したがって,これらの研究は血清 BDNF 低レベルが PD に関連するだけでなく,炎症反応を介し
て CVD のリスクにもなる可能性を支持している.すなわち,本研究結果は,HD 患者の血清 BDNF
低レベルと精神的健康度の不良とは関連し,その関連性には炎症反応が関与することで CVD のリ
スクになる可能性が示唆された( 図Ⅲ- 4 参照).
研究の限界として,第 1 に横断的研究であり,血清 BDNF と精神的健康度の因果関係は不明のま
まである.第 2 として,対象者が,一病院内の少人数の HD 患者であるため,対象者の選択にバイ
アスがある可能性も否定できない.第 3 に血清 BDNF に影響する項目の検査が不足しているため,
その影響を調整することができなった.最後に,GHQ30 は一般的な精神的健康度評価であるため,
うつ症状と睡眠異常の厳密な評価ができなかったと考えられる.
今後は,血清 BDNF が精神的健康との関連性を確定するために,コホート研究あるいは介入研究
の必要性に加え,うつ症状や睡眠異常の尺度を用いた研究が必要である.
本研究は,HD 患者の血清 BDNF 低レベルはインスリン抵抗性を有する ESRD である HD 患者の
病態の影響を受けているが,それとは独立して血清 BDNF レベルと精神的健康度の不良,特に睡眠
異常との関連性が示唆された.さらに,HD 患者の血清 BDNF レベルは CRP などの炎症反応にも影
響され,それが CVD とも関連することが示唆された.
36
Ⅳ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子および
精神的健康度における運動の効果(研究Ⅱ)
37
Ⅳ章
血液透析患者の血清脳由来神経栄養因子および精神的健康度における運動の効
果(研究Ⅱ)
1.研究背景と目的
HD 患者への身体活動の増加や運動効果として, CVD のリスクの軽減や QOL の改善だけでなく
(Mustata et al.,2004; Sakkas et al., 2008),一部の研究ではあるが,精神的健康度の改善効果が報告さ
れている(Goldberg et al., 1980; Ouzouni et al.,2009).さらに,急性あるいは慢性運動は,脳内 BDNF
および血中 BDNF を変化させることが示されている(Oliff et al.,1998; Castellano et al., 2008; Nofuji et
al., 2012).
第 1 の研究によっては,HD 患者の血清 BDNF はコントロール群に比較して低く,精神的健康度
の低下との関連性が示唆された.したがって,HD 患者に運動介入を行うことによって,体力の向
上による身体活動の増加が期待でき,血清 BDNF が上昇するという仮説を立てた.このため,運動
介入前後の血清 BDNF および関連項目を調査し,血清 BDNF および精神的健康度の観点から運動効
果を検証することを目的とした.
2.方法
1)対象者
本研究では,2008 年 8 月 F 県 K 市に開設された M クリニック内の透析センターに HD 治療のた
め通院している慢性 HD 患者を対象とした.そのうち,精神的疾患,感染症,急性の心疾患などの
合併症,認知機能低下および重い ADL 低下を有する者は対象から除外した.さらに,HD 導入期は
DW の設定等や患者の病態によっては,血圧等が不安定で運動介入に適さないため,血液透析期間
が 6 ヶ月未満の者も対象から除外した. 21 人の HD 患者が本研究の参加に同意したが,そのうち 4
人が調査を中止し,16 人の患者が血液検査,GHQ 検査および体力測定を実施した.対象者は,平
均年齢 60.8(±9.5)歳,男性 6 人,女性 10 人,HD 期間の平均は 10.6 (±9.1) 年であった.ESRD の
原疾患は慢性糸球体腎炎 9 人(56.3%)で最も多く,糖尿病腎症 1 人(6.3)%,その他の腎疾患 4 人(25.0%),
腎疾患以外 1 人(6.3%)であった.
本研究は 2008 年 8 月 1 日から 12 月 31 日まで調査を行い,データを収集した.血液検査,心理検
査,体力測定のすべての調査は,運動指導の前後に測定を行った.
倫理的配慮として,対象者すべてに研究主旨,研究方法,個人情報の保護等を口頭および書面に
38
て説明した.本研究は,聖マリア学院大学の倫理委員会の承認を得てその監視の下で行った.
2)身体測定および血液検査
BMI は,身長と CTR から算出した DW(kg)と使用して算出した.血液検査は,2008 年 8 月の初旬
と 12 月初旬の定期検査時に血液透析を行う直前に採取した血液を使用し,CBC,一般生化学検査,
TC,TG,BUN,Cr,随時 BG および HbA1c 等の検査を臨床検査機関 SRL (株式会社エスアールエ
ル,東京) に委託し測定した.
採取した残存血液は,その血清を-50℃以下に保存し,血清 BDNF,血清アディポネクチンを測
定した.血清 BDNF 検査は,Human brain-derived neurotrophic factor (BDNF30) ELISA Kit
(R&D
Systems,USA) を使用した.血清アディポネクチン検査も同様に処理し,Human Adiponectin (Acrp30)
ELISA Kit (R&D Systems,USA) を使用した.両者の検査は,すべてのデータ終了後,介入前後血液
を同時に検査した.
3)精神的健康度評価
精神的健康度の評価は,日本版 GHQ-30 を使用し評価を行った.GHQ30 は,総スコア 7 点以上
は PD があると判断され,スコアが高いほど症状が強いとされている(Iwata et al., 1994; Ota et al.,
1995).
4)体力測定および身体活動量の測定
体力測定は,①膝関節伸展力(kg),②握力(kg),③体幹前屈測定(cm),④1 分間立ち上がりテスト
(回数),⑤ステッピング(回数),⑥開眼片足立ち(秒)の 6 つの項目によって評価した(Singh et al., 2006;
Arai et al., 2006).①の測定は,測定機器の抵抗力に対して膝関節の伸展力を測定し,主として大腿
四頭筋群の筋力を評価した.②の握力は,通常使用する握力計を使用して測定し評価を行った.③
の体幹前屈測定は,膝を伸ばして床に体幹が直角になるように座り,測定機器によって膝を伸ばし
たままでの前屈のリーチを測定し,柔軟性の評価として使用した.④の立ち上がりテストは,1 分
間に椅子から立ち上がりと座る繰り返しをするテストであり,筋の持久力や伸展力,屈筋力を総合
した体力の評価である(Singh et al., 2006; Arai et al., 2006).⑤のステッピングでは,椅子に座って 10
秒内に両方の足を交互にできるだけ早くステップを踏む回数を測定 (T.K.K.5301)し,敏捷性の評価
とした(Singh et al., 2006; Arai et al., 2006).⑥の開眼片足立ちは,開眼のまま,片足で立つ秒数を測
定するもので,主としてバランス能力の評価した(Singh et al., 2006; Arai et al., 2006).
身体活動量は 3 軸加速度センサを搭載した活動量計( Active style Pro,オムロンヘルスケア社製
39
HJA-350IT )を用いて身体活動量の測定を行った.初回の血液検査,体力測定後,被験者は介入前の
8 月の 2 週間と運動介入後の 9 月から 12 月の間の原則毎日,睡眠以外には活動計を装着するように
依頼し,身体活動量を測定した.
5)運動指導の介入方法
運動指導の介入方法として,9 月から 12 月までの 3 か月間,HD 治療でない日の 9 月,10 月は週
3 回,11 月は週 2 回,30 分間のストレッチおよびレジスタンストレーニングの集団指導を実施した.
さらに,ホームトレーニングプログラムを作成して指導の強化を図った.対象者は運動習慣がなく,
介入前の体力測定において一般的な高齢者に比較してやや劣っていたため,対象者の状態や安全性
を考慮し,運動プログラムはストレッチおよびレジスタンス運動を採用した.
6)統計分析手法
データは,平均±標準偏差,率は%で表示した.両者の比率の差はχ 2 検定を使用し分析を行った.
平均値の比較は Wilcoxon 検定を行った.相関分析はスピアマンの順位相関係数を算出した.GHQ
検査ではカットポイント 7 を基準にし,7 以上を「神経症状有」とした.全ての分析は,PASW Statistics
version18.0 (IBM,USA)を使用して分析を行った.統計的有意水準は 0.05 とした.
3.結果
1)ベースラインと運動介入後の血液検査項目等の比較
運動介入期間において,対象者に新たな身体的変化や合併症の発症はなかった.対象者のベース
ラインと運動介入 3 か月後( 以下「運動介入後」 )の関連項目の比較を表Ⅳ-1 に示す.対象者の運
動介入 3 ヵ月後の BUN と Cr の平均値はベースラインに比較して有意な増加(p<0.001),Hb,TG,
随時血糖の平均値は減少傾向を示したが,有意な差ではなかった.また,運動介入 3 ヵ月後の血清
BDNF は,ベースラインに比較してやや増加傾向を示したが有意な差ではなかった.他の項目では,
運動介入前後で有意な差は見られなかった.運動介入 3 ヵ月後の対象者の BG の平均値は減少傾向
が見られたが,有意な変化ではなかった(図Ⅳ-1b 参照).また,ベースラインでの随時血糖値は個体
差が大きかったが,運動介入 3 ヵ月後では正常範囲へ収斂する傾向が観察された(図Ⅳ-1a 参照).一
方,血清 BDNF には有意な変化は認められなかった(図Ⅳ-1c, d 参照).
40
表Ⅳ-1 対象者のベースラインと運動介入 3 か月後との血液等関連項目の比較
ベースライン
運動介入 3 か月後
BMI
(kg/m2)
20.2
±
2.7
20.3
±
2.7
4
)
RBC
(10 /µl
349.6
±
31.3
340.9
±
37.4
2
WBC
(10 /µl)
52.44
±
17.21
56.88
±
20.45
Hb
(g/dl)
11.0
±
0.7
10.6
±
0.9
Ht
%
10.6
±
2.7
0.9
±
2.7
4
Plt
(10 /µl)
16.58
±
3.77
17.44
±
3.11
6.59
0.32
6.63
0.32
TP
(g/dl)
±
±
3.78
0.31
3.79
0.37
(mg/dl)
ALB
±
±
0.31
0.11
0.29
0.10
(mg/dl)
TB
±
±
13.2
5.4
16.3
9.8
(mg/dl)
GOT
±
±
11.3
5.9
13.9
9.0
(mg/dl)
GPT
±
±
150.8
25.8
165.8
29.5
(mg/dl)
LDH
±
±
271.9
128.5
321.0
181.4
(mg/dl)
ALP
±
±
TC
HDL-C
TG
BG
HbA1c
BUN
Cr
UA
CRP
血清 BDNF
血清 Adiponectin
(mg/dl)
(mg/dl)
(mg/dl)
(mg/dl)
%
(mg/d)
(mg/dl)
(mg/dl)
151.9
59.1
122.1
122.3
4.9
51.7
9.4
6.53
0.11
(ng/ml)
(ng/ml)
10.0
126.9
(mg/dl)
※データは平均値±標準偏差を表示
a
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
25.7
29.9
69.9
49.8
0.7
9.8
1.4
0.87
0.15
154.9
54.8
111.9
105.8
4.8
64.6
10.4
7.36
0.45
2.9
80.0
10.4
133.5
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
±
p値
0.23
0.23
0.09
0.23
0.23
0.11
0.65
0.63
0.26
<0.05
<0.05
<0.01
<0.001
0.12
0.43
0.20
0.12
0.20
<0.001
<0.001
19.2
21.9
78.1
19.2
0.6
9.9
1.5
1.06
1.08
<0.01
<0.05
0.23
0.40
2.7
68.5
平均値の検定は Wilcoxon の検定,率はχ 2 検定で分析
b
図 Ⅳ -1
ベースライ
ンと運動介入 3 か月後
の比較
a: 血漿グルコースの個
別変化,
b:血 漿 グ ル コ ー ス の 平
c
均値の変化,
d
c:血清 BDNF の個別変
化,
d: 血清 BDNF の平均
値の変化
41
2)ベースラインと運動介入後の PD の比較
ベースラインと運動介入後の GHQ 総スコア,PD の比較を表Ⅳ-2 に示す.ベースラインと運動介
入後の間には,GHQ 総スコアおよびすべての下位項目で有意な変化は観察されなかった.同様に,
PD の保有率も有意な変化は見られなかった.
表Ⅳ-2 対象者のベースラインと運動介入後との GHQ 総スコアと下位項目の比較
ベースライン
運動介入 3 か月後
p値
6.5 ± 4.5
5.4
± 4.7
0.36
GHQ 総スコア
1.46 ± 0.86
1.24
± 0.89
0.21
A 一般疾患傾向
0.92 ± 0.54
0.8
± 0.59
0.36
B 身体症状
2.10 ± 1.18
1.81
± 1.25
0.36
C 睡眠異常
0.56 ± 0.49
0.43
± 0.50
0.21
D 社会的活動障害
1.02 ± 0.89
0.79
± 0.88
0.21
E 不安と気分変調
0.48 ± 0.59
0.33
± 0.63
0.36
F 希死念慮とうつ傾向
psychogenic distress: PD
6
37.5%
4
25.0%
0.41
※データは平均値±標準偏差を表示 平均値の検定は Wilcoxon の検定,率はχ 2 検定で分析
3)ベースラインと運動介入後の体力測定および身体活動量の比較
対象者のベースラインおよび運動介入 3 か月後の体力の比較を図Ⅳ-2 に示す.体力は運動介入 3
か月では,有意な上昇が観察された.運動介入後の膝関節伸展力,握力,1 分間立ち上がりテスト,
開眼片足立ちでは,ベースラインに比較して有意に上昇した.
図Ⅳ-2
ベースラインおよび運動介入 3 か月後の体力の比較
42
また,身体活動量は,運動介入開始後の身体活動量を表Ⅳ-3 に示す.身体活動量は,ベースラ
インに比較して,1 ヵ月目の身体活動エネルギー消費量および総エネルギー消費量が有意に増加し
た.しかし,2 ヶ月以降では有意な変化はなかった.
表Ⅳ-3
運動介入開始後3か月間の身体活動量の比較
n=16
ベースライン
身体活動消費エネ
ルギー量
(kcal/日)
総消費エネルギー
量 (kcal/日)
運 動 強 度 (EX)
(EX/日)
総歩数平均
*p<0.05
1 ヵ月目
2 ヶ月目
3 ヵ月目
379.2
±
193.1
440.4
±
216.3 *
412.4
±
209.1
361.4 ±
194.3
1671.3
±
487.2
1832.4
±
185.7 *
1804.4
±
172.6
1640.6 ±
493.4
2.0
±
1.4
2.3
±
1.7
2.5
±
1.7
3784.6
±
2149.5
4239.9
±
2544.4
4554.6
±
2715.8
2.0 ±
3364.0 ±
1.7
2927.6
4)運動介入前後の血清 BDNF と他の検査項目との関連
運動介入前後の血清 BDNF と他の検査項目との関連を表Ⅳ-4 に示す.ベースラインでの血清
BDNF は,血小板数,HbA1 と有意な正の相関が見られた(r=0.72, p<0.01; r=-0.57, p<0.05).さらに,
血清 BDNF は,ステッピング回数と有意な負の相関が見られた( (r= - 0.65, p<0.05).
一方,運動介入 3 ヵ月後の血清 BDNF は,Hb と GHQ 総スコアと有意な正の相関が観察された
(r=0.51, p<0.05; r=-0.53, p<0.05).さらに,血清 BDNF は,ステッピング回数と有意な負の相関が見
られた( (r= - 0.59, p<0.05).他の項目では,有意な相関は認められなかったが,運動介入前後では,
血清 BDNF と Hb,PltC との関連性に変化が観察された(図Ⅳ-3).
43
表Ⅳ-4
ベースラインと運動介入後別の血清 BDNF
r=0.57, p<0.05
r=0.27,ns
(104/dl)
r=0.72, p<0.01
r=0.46,ns
(104/dl)
図Ⅳ-3
ベースラインと運動介入後
の血清 BDNF と Hb および PlatC と
の関連性
※点線はベースライン,実践は運動介
入後3ヵ月を表す
年齢
BMI
と各項目との関連
ベースライ
ン
血清 BDNF
-0.19
運動介入 3 ヵ
月後
血清 BDNF
-0.05
0.20
0.12
WBC
0.37
0.26
RBC
0.40
0.48
Hb
0.27
0.51
Plt
0.72
TC
-0.21
-0.40
TG
-0.02
-0.23
HDLC
-0.20
-0.12
BG
0.35
-0.17
HbA1c
0.57
BUN
0.26
0.17
Cr
-0.30
-0.29
血清 adiponectin
0.14
0.19
血清高分子 adiponectin
0.17
0.25
GHQ 総スコア
0.18
0.53
活動エネルギー消費量
-0.03
0.15
総エネルギー消費量
-0.12
0.02
活動強さ EX
-0.20
0.00
歩数平均 8 月
-0.10
0.13
膝伸展力右
0.11
0.05
膝伸展力左
-0.12
-0.31
握力右
-0.40
-0.32
握力左
-0.21
-0.19
ステッピング
-0.65
長座体前屈
-0.11
-0.04
開眼片足立ち
-0.38
-0.59
連続立ち上がり
-0.24
0.00
*p<0.05, **p<0.01
44
**
*
*
*
0.46
0.41
*
-0.29
*
4.考察
本研究では,HD 患者への運動効果として,血清 BDNF レベルおよび精神的健康度の改善は観察
されなかった.身体活動量の増加を介入効果として想定し,血清 BDNF が上昇するという仮説を立
てた.運動介入 3 ヵ月後には体力(主として筋力)の有意な改善効果がみられた.しかし,身体活
動量では運動介入 1 ヵ月後にベースラインと比べて有意な増加があったものの,介入 2 ヵ月以降に
は有意な変化はなかった.血清 BDNF が観察されなかった要因として,身体活動量の増加が得られ
なかったことが第1に考えられる.
次に,本研究の対象者は介入前では体力レベルが低く運動習慣もないため,運動プログラムにレ
ジスタンス運動を採用した.しかしながら,最近の血清 BDNF への運動効果を検証した研究では,
エアロビクス運動では血清 BDNF は有意な上昇効果があるものの(Castellano & White, 2008.;Nofuji et
al., 2012),ストレッチやレジスタンス運動では変化がないことが報告されている(Goekint et al., 2010;
Rojas Vega et al., 2010).したがって,本研究で血清 BDNF の有意な変化が見られなかったことの要
因として,介入がレジスタンス運動であったことがあげられる.
それでも,レジスタンス運動はインスリン抵抗性だけでなく認知機能の低下の改善には有効であ
ることが報告されている(Oliff et. al, 1998; Molteni et al., 2004; Yanamoto et al., 2008).また,運動の
急性効果が AMP 活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated Protein Kinase: AMPK)によるグルコース
輸送体(Glucose transport 4: GLUT4)活性化の非インスリン性効果であることは,今日では周知の事実
となっている.この非インスリン性の糖代謝がインスリン抵抗性の改善を促進させることも知られ
ている.さらに,継続的な運動はミトコンドリアの増加による酸素供給量の増加と GLUT4 のさら
なる増加によって,糖・脂質代謝の改善につながることが知られている(Röckl et al.,2008).
本研究結果の運動介入後の有意な体力の向上と Cr の有意な増加は,対象者の骨格筋の増加が推測
される.これらの結果から,運動が骨格筋の増加を介して糖代謝の改善に寄与した可能性も否定で
きない.また,運動介入後の BG 平均値の変化は減少傾向を示し,運動介入前に個々のバラツキが
みられた血糖レベルが,介入後には正常範囲へ収斂する傾向が観察された.それでも,Mustata ら
(2004)の研究でもインスリン抵抗性の有意な改善はなかったことを報告している.これらのことは,
ESRD 患 者 は 糖 耐 能 に 独 立 し た イ ン ス リ ン 抵 抗 性 を 有 す る た め (El-Atat et al.,2004; Hornum et
al.,2010),糖代謝の改善だけでは変化が起こりにくい可能性を示唆している.同様に,ESRD の病態
に関連して HD 患者の血清 BDNF は,運動の影響を受けにくいのかもしれない.
45
その上,精神的健康度についても,GHQ 総スコア,下位項目のスコアおよび PD 保有率にも有意
な変化は全くなかった.HD 患者への運動介入効果として PD 等の改善を報告した研究によると,平
均年齢が 30 代と 40 代を対象とし,運動介入期間は 8 ヵ月ないし 10 ヵ月間,エアロビクス運動を実
施した後に検証されている(Goldberg et al., 1980; Ouzouni et al.,2009).一方,本研究での対象者の平
均年齢は 60 代であり,一般的に運動効果が表れやすい Hb サイクルの 3 ヵ月の短期間にレジスタン
ス運動による介入を実施し,その効果の検討を行った.したがって,運動方法,介入期間等の運動
プログラムと対象者の年齢などが影響し,PD の改善にも及ばなかったと推測できる.
それでも,血清 BDNF と血小板数との関連では,研究Ⅰと研究Ⅱの HD 患者の対象者は全く異な
るにもかかわらず,同等の強い相関が観察された(研究Ⅰ: r=0.73, p<0.001 vs. 研究Ⅱ: r=072, p<0.01).
その上,介入前後の血清 BDNF と Hb レベルおよび血小板数との関連に変化が見られた.前述のと
おり,HD 患者の Hb の寿命は通常よりも短く脆弱であり(Eckardt, 2000),血小板数は正常範囲で
も血小板機能異常があるとされる(Wanaka et al., 2010).貧血状態も血小板機能異常に関与が示され
ている(Wanaka et al., 2010; Songdej & Rao, 2015).運動介入期間,身体的合併症や追加治療はなか
ったことから,今回の Hb や血小板の変化は運動の影響を受けた可能性があり,運動による効果が
なかったとも言えない.しかしながら,本研究結果ではこの推論を示すデータが少なく,憶測の域
を超えない.
以上のことから,HD 患者の運動効果として,血清 BDNF および精神的健康度では,有意な変化
がみられなかったことは事実であり,本研究では運動介入によるこれらの改善効果は証明されなか
った.
本研究の限界としては,第1にコントロール群がなく,運動介入とそうでない者の比較ができな
かったこと,第2に対象者が非常に少人数で限定された対象者であったこと,第3に血清 BDNF に
影響を与える運動介入でなかったこと等の多くの限界を有する.今後は,多数の HD 透析患者にお
ける無作為化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) 研究等による調査研究の実施によって,さ
らなる運動効果の検証が必要である.さらに,運動期間および運動頻度,身体活動量の増加を図る
運動介入プログラムの検討も必要である.
本研究結果は,運動介入による血清 BDNF の変化および精神的健康度の改善効果も得られなかっ
46
た.これは,血清 BDNF に影響を与える運動プログラムでなく身体活動量の有意な増加がなかった
ことが主な要因である.しかし,HD 患者は糖代謝に独立したインスリン抵抗性を有するなどの
ESRD 病態が血清 BDNF への運動効果を妨げている可能性もある.それでも,運動介入は体力の向
上としては有効であったことから,HD 患者の ADL および QOL 維持・向上においては必要である.
したがって,今後も HD 患者への身体活動や運動を推奨する必要性は示唆された.
47
Ⅴ章
一般成人における血清脳由来神経栄養因子と
精神的健康度および睡眠異常との関連性(研究Ⅲ)
48
第Ⅴ章
一般成人における血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度および
睡眠異常との関連性(研究Ⅲ)
1.研究背景と目的
第 1 の HD 患者の研究では,HD 患者の血清 BDNF は非 HD 患者に比較して低く,精神的健康度
との関連,特に睡眠異常および不安と気分変調との関連性が示唆された.血清 BDNF とうつ病など
の関連性については,多くの研究によるエビデンスが蓄積されている. ESRD である HD 患者は,
腎機能低下や重篤なインスリン抵抗性群のため,高血圧,糖・脂質代謝異常だけでなく CVD や神
経疾患などの合併症を有していることが多い.これらのことから,HD 患者の研究知見は一般的な
兆候ではない可能性があり,外的妥当性の検討が必要である.
動物の断眠実験では,BDNF の減弱が確認され,神経可塑性や記憶へ影響が示されているが,ヒ
ト研究は極めて少なく,血清 BDNF と睡眠異常との関連性については不明なままである.したがっ
て,本研究の目的として,対象者を一般成人とし,血清 BDNF と精神的健康度および睡眠異常との
関連性を検討することとした.
2.方法
1)対象者
2009 年 1 月 4 日~3 月 31 日において,C 企業に勤務する 20 歳以上の職員 400 人を対象者として
調査を行った.対象者の中で 347 人(90.7%)が研究参加に同意し,そのうち,すべての検査が完了で
きなかった 3 人除き,344 人(age :40.1±10.5, 男性 :244,女性:140)を解析対象とした.
倫理的配慮として,本研究は聖マリア学院大学倫理委員会の承認を得て,口頭および書面で説明
し同意を得た者を対象とした.
2)身体および血液検査
身体的調査においては,既往歴,身体計測,血圧測定および血液検査を実施した.血液検査とし
て, TC, HDL-C, LDL-C, FBG,HbA1C,血漿インスリン濃度を CRC 検査機関に委託して測
定した.血清 BDNF は,CRC 機関の検査用とは別に採血し,その血清をマイナス 50℃以下に保存
し,後日同時に九州大学健康科学センターの実験研究室にて検査を実施した.血清 BDNF は BDNF
49
Emax Immunoassay System kit (Promega, Madison, WI) を使用して検査を行った.
3)精神的健康度および睡眠評価
心理的評価は前回まで使用した GHQ30 に加え,睡眠異常検査およびうつ尺度検査を加えて評価
を行った.
睡眠異常の評価は,ピッツバーグの睡眠質問表((Pittsburgh Sleep Quality Index: PSQI)を用いて調査
を行った.PSQI は,睡眠とその質を評価するために開発された自記式質問票である(内山,2002;
Uchiyama, 2009).リカート尺度で評価される 18 の質問項目は,睡眠の質,入眠困難,睡眠時間,睡
眠効率,睡眠困難,眠剤の常用,日中覚醒困難の7つの要素で構成され,PSQI 総スコアと各構成要
素の得点(0~3 点)を加算し PSQI の総スコア(0~21 点)が算出される(内山,2002).得点が高いほど
睡眠が障害されていると判定する(内山,2002).質問睡眠障害の対応と治療ガイドラインによると,
PSQI 総スコアは 5.5 点がカットオフ値とされ,それ以上のスコアが睡眠異常であるとされスコアが
高いほど重症であるとされている(内山,2002).
うつ傾向の評価として,Radloff (1977)がうつ尺度として開発した CESD の日本版 質問紙表を使
用した.CESD は,20 項目の質問において自記式質問紙,リカート 5 段階で評価するものであり,
16 点をカットオフ値としてうつ傾向を評価するものである(Radloff, 1977).
4)統計解析手法
HOMA-IR は FBS と空腹時血漿インスリン値から算出した.さらに,我が国の MeTS の診断基準
に準じて,BMI を使用し BMI≧25 を肥満,糖代謝異常では FBS ≧110 または HbA1C ≧5.5 あるい
は糖尿病治療,脂質代謝異常 TG≧150 または HDL<40 あるいは脂質異常治療に加え,血圧異常は
SBP≧140 または DBP≧85 または高血圧治療として各因子の判定を行った.
また,血清 BDNF は全体,男女別のグループ毎に 3 等分し,それぞれを「高レベル」
「中レベル」
「低
レベル」として比較して分析を行った.
データは平均±標準偏差(SD),率は%で表示している.統計分析として,出現率の差はχ 2 検定を
行い,平均値の差は分散分析を使用し,3 群以上の多重比較は Tamhane 検定を行った.相関はスピ
アマンの順位相関分析で係数を算出した.OR の算出は多変量ロジスティック回帰分析に因子を強
制投入し,年齢調整および多変量調整オッズ比を算出した.
すべての解析は,PASW Statistics version18.0 (IBM, USA)を使用した.統計的有意水準は 0.05 とし
た.
50
3.結果
1)対象者の特性,男女の身体検査等の比較
対象者の特性,身体検査等の比較を男女別に表Ⅴ-1 に示す.HDL-C および血清アディポネクチン
は,女性が男性よりも高い値を示した(p<0.001).運動習慣および TC 以外のすべての項目で女性に
比較して男性が有意に高かった.
血清 BDNF は女性が男性よりも有意に低い値を示した(11.13±3.28 vs12.72±4.08,p<0.001)(図Ⅴ-1).
これらのすべての有意な差は年齢調整後も変わらなかった(11.92±0.39 vs12.17±0.47,p<0.001).
表Ⅴ-1
項目(単位)
age
対象者の特性および身体検査等の男女別の比較
全体
男性
女性
n=344
n=204
n=140
40.1 ± 10.5
42.5 ± 10.8
36.6 ± 8.9
喫煙
運動習慣
2
P値
<0.001
29.9%
41.7%
12.9%
<0.001
38.4%
42.1%
34.3%
0.15
BMI
(kg/m )
22.6
±
3.6
23.7
±
3.4
20.9
±
3.1
<0.001
SBP
(mmHg)
128.8
±
17.6
135.1
±
17.4
119.5
±
13.4
<0.001
DBP
(mmHg)
79.6
±
13.0
82.9
±
13.9
74.8
±
9.6
<0.001
4
)
66.00
17.10
69.46
17.67
61.02
14.95
<0.001
486.83
44.62
509.02
37.35
454.81
33.46
<0.001
1.57
15.76
0.99
13.49
1.25
<0.001
WBC
(10 /µl
RBC
2
(10 /µl)
Hb
(g/dl)
14.83
TC
(mg/dl)
211.5
±
33.4
214.2
±
33.2
207.2
±
33.4
0.06
HDL-C
(mg/dl)
66.4
±
15.9
60.4
±
13.8
75.1
±
14.7
<0.001
LDL-C
(mg/dl)
119.5
±
28.5
124.5
±
28.9
112.2
±
26.3
<0.001
TG
(mg/dl)
105.2
±
75.5
128.1
±
84.6
72.1
±
41.9
<0.001
AST (GOT)
(mg/dl)
23.5
9.9
25.3
10.9
20.9
7.5
<0.001
ALT (GPT)
(mg/dl)
25.2
19.3
30.1
21.5
18.0
12.6
<0.001
ALP
(mg/dl)
206.3
59.0
223.3
55.5
179.9
54.5
<0.001
FBG
(mg/dl)
96.8
±
18.4
100.4
±
20.7
91.6
±
12.7
<0.001
HbA1C
%
4.8
±
0.59
4.9
±
0.67
4.7
±
0.41
<0.001
BUN
(mg/dl)
12.4
3.1
13.3
3.4
11.8
2.8
<0.01
Cr
(mg/dl)
0.83
0.78
0.95
0.98
0.63
0.08
<0.001
UA
(mg/dl)
5.0
1.3
5.6
1.1
3.9
1.0
<0.001
血清 Adiponectin
(ng/ml)
10.21
±
7.30
7.66
±
5.72
13.90
±
7.76
<0.001
血清 BDNF
(ng/ml)
12.07
±
3.85
12.72
±
4.08
11.13
±
3.28
<0.001
1.83
±
1.98
2.16
±
2.38
1.34
±
1.02
<0.001
HOMA-IR
2
※p 値は男女の平均値の差は分散分析で検定し,比率はχ 検定で算出した.
51
p<0.001
図Ⅴ-1
血清 BDNF レベルの男女の比較
2)精神的健康度および睡眠評価
心理検査の結果を男女別に表Ⅴ-2 に示す.全体の GHQ 総スコアの平均値は,4.9(±4.9)で,PD を
有する者は,105 人(30.5%) であった.また,GHQ 総スコアおよび下位項目に有意な差ではなかっ
たが,下位項目の「睡眠異常」スコアでは男性が女性に比較して高い傾向が見られた.
PSQI 総スコアの平均値は,4.9 (±2.4),PSQI 判定における睡眠異常は 114 人 (33.1%) であった.
また,PSQI 総スコア平均値は,男性が女性に比較して高い傾向であったが有意な差ではなかった.
睡眠異常を有する割合でも男女に有意な差は観察されなかった.さらに,下位項目では,日中覚醒
困難で男性が女性より有意に高い値を示したが,それ以外には有意な差は見られなかった.
CESD スコアの平均値は,10.8(±7.1)で,CESD 判定におけるうつ傾向は全体で 71 人(20.6%),CESD
スコア平均値およびうつ傾向の割合でも有意な差は見られなかった.
52
表Ⅴ-2 心理検査の男女比較
女性
全体
男性
n=344
n=204
n=140
4.9 ± 4.9
5.0 ± 5.2
4.8 ± 4.5
GHQ 総スコア
1.3 ± 1.4
1.2 ± 1.4
1.3 ± 1.4
A 一般疾患傾向
1.0 ± 1.2
0.9 ± 1.1
1.1 ± 1.2
B 身体症状
1.1 ± 1.3
1.2 ± 1.4
1.0 ± 1.1
C 睡眠異常
0.4 ± 0.9
0.4 ± 0.9
0.4 ± 0.9
D 社会的活動障害
0.8 ± 1.3
0.8 ± 1.3
0.8 ± 1.3
E 不安と気分変調
0.4 ± 1.0
0.4 ± 1.0
0.3 ± 0.9
F 希死念慮とうつ傾向
psychogenic distress
105
(30.5%)
59
(28.9%)
140
(32.9%)
4.9 ± 2.4
5.1 ± 2.4
4.6 ± 2.4
PSQI 総スコア
1.1 ± 0.6
1.1 ± 0.6
1.0 ± 0.6
睡眠の質
0.6 ± 0.8
0.6 ± 0.7
0.6 ± 0.8
入眠困難
1.5 ± 0.8
1.5 ± 0.8
1.4 ± 0.8
睡眠時間
0.1 ± 0.4
0.1 ± 0.5
0.1 ± 0.3
睡眠効率
0.6 ± 0.5
0.6 ± 0.5
0.6 ± 0.5
睡眠困難
0.1 ± 0.6
0.2 ± 0.6
0.1 ± 0.4
眠剤の常用
0.8 ± 0.8
0.9 ± 0.8
0.7 ± 0.8
日中覚醒困難
114
(33.1%)
72
(35.3%)
42
(30.0%)
睡眠異常
10.8 ± 7.1
11.1 ± 6.7
10.3 ± 7.7
CESD スコア
71
(20.6%)
42
(20.6%)
29
(20.7%)
うつ症状あり
※p 値は男女の平均値の差は分散分析で検定し,比率は χ2 検定にて算出した.
p値
0.74
0.87
0.10
0.06
0.64
0.80
0.42
0.25
0.07
0.15
0.96
0.66
0.21
0.64
0.11
<0.05
0.18
0.30
0.54
3)血清 BDNF と検査項目の関連
血清 BDNF と関連項目との相関を表Ⅴ-3 に示す.全体では,血清 BDNF は,BMI, SBP, DBP, TC,
LDL-C, TG, FBG, HOMA-IR との間に正の弱い相関を示した.一方,HDL-C および血清アディポネ
クチンとの間には負の弱い相関が認められた.血清 BDNF は,心理スコア,GHQ 総スコア,PSQI
総スコア,CESD スコアのすべてで有意な相関は見られなかったが,下位項目の「睡眠異常」と非
常に弱い負の相関が見られた.
また,男性の血清 BDNF は BMI, TC, LDL-C, TG, HOMA-IR と正の弱い相関が見られたが,女性の
血清 BDNF では,SBP 以外に,BMI や血液検査項目との間には有意な相関は見られなかった.
一方,血清 BDNF と心理スコアとの関連では,女性の血清 BDNF は GHQ 総スコアと PSQI 総ス
コアと有意な弱い負の相関があったが,男性においては関連がなかった.また,GHQ 総スコアの下
位項目において,女性の BDNF は一般疾患傾向,身体症状,睡眠異常および社会的活動障害と有意
な負の相関が見られたが,男性では有意な関連はなかった.
53
表Ⅴ-3 血清 BDNF と関連項目および GHQ 下位項目スコアとの相関
血清 BDNF
全体
男性
女性
n=344
n=204
n=140
age
0.12
0.07
0.07
*
*
BMI
0.13
0.14
-0.12
SBP
0.16 **
0.03
0.19 *
**
DBP
0.17
0.11
0.13
TC
0.20 ***
0.21 **
0.12
*
HDLC
-0.11
-0.05
0.04
**
*
LDLC
0.18
0.16
0.08
***
*
TG
0.20
0.17
0.06
FBG
0.13 *
0.04
0.19
HbA1C
0.08
0.06
0.05
***
**
-0.21
-0.22
-0.04
血清 Adiponectin
HOMA-IR
0.17 ***
0.18 **
-0.02
-0.04
0.04
-0.24 **
GHQ 総スコア
-0.06
0.05
-0.23 **
A 一般疾患傾向
0.01
0.05
-0.05
B 身体症状
-0.13 *
-0.09
-0.24 **
C 睡眠異常
-0.01
0.08
-0.19 *
D 社会的活動障害
-0.03
0.06
-0.15
E 不安と気分変調
F 希死念慮とうつ傾向
-0.01
0.05
-0.06
-0.01
0.08
-0.23 **
PSQI 総スコア
-0.03
0.07
-0.14
CESD スコア
*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.01
相関係数は Spearman の相関分析を使用し,算出した.
4)血清 BDNF レベルによる項目間の男女別の比較
男女別の血清 BDNF レベルによる年齢,喫煙,運動習慣,BMI,収縮期血圧,拡張期血圧,TC,
TG,HDL-C,LDL-C,FBS,HbA1C,HOMA-IR 等の項目および PSQI 総スコア,CESD スコアの平
均値および各出現率の差を検証した(表Ⅴ-4,表Ⅴ-5 参照).
男性では,運動習慣有の割合が低レベル群は高レベル群に比較して有意に高かった.また,TG
は低レベル群が高レベル群に比べて高い値を示したが,有意な差ではなかった.その他の項目にお
いては,3 レベル間で有意な差は観察されなかった.
一方,女性では, PSQI 総スコアおよび睡眠異常の割合が高レベル群に比較して低レベル群で有
意に高かった.有意な差は年齢・関連項目調整後も変わらなかった.その他の項目については 3 レ
ベル間で有意な差ではなかった.
54
表Ⅴ-4
男性の血清 BDNF レベルによる比較(n=204)
血清 BDNF レベル
高レベル(n=69)
ηg/mL
中レベル(n=69)
>13.82ng/mL
低レベル(n=66)
10.92-13.82ng/mL
p値
<10.92ng/mL
43
±
12
0.78
24.0
±
3.2
0.11
22
(
33.2%
17
136
±
16
0.65
±
12
82
±
12
0.69
30
(
43.5%
30
(
45.5%
33
217
±
32
207
±
33
0.10
±
14
62
±
62
60
±
11
0.56
126
±
30
126
±
29
121
±
27
0.41
mg/dL
147
±
111
123
±
68
112
±
63
0.05
脂質異常
人(%)
33
(
47.8%
34
(
49.3%
26
(
39.4%
FBG
mg/dL
103
±
26
98
±
15
101
±
20
0.40
HbA1c
%
5.0
±
0.8
4.8
±
0.5
4.9
±
0.7
0.32
2.62
±
3.16
1.71
±
1.19
2.16
±
2.28
0.08
11
(
15.9%
6
(
8.7%
4.8
±
4.8
19
(
27.5%
10.1
±
6.3
年齢
歳
BMI
43
±
10
42
±
11
kg/m2
24.1
±
4.0
23.0
±
2.7
肥満
人(%)
26
(
37.7%
16
(
23.2%
SBP
mmHg
135
±
19
134
±
DBP
mmHg
84
±
17
83
血圧高値
人(%)
29
(
42.0%
TC
mg/dL
219
±
HDL-C
mg/dL
59
LDL-C
mg/dL
TG
HOMA-IR
)
)
)
高血糖
人(%)
PSQI score
点
5.4
±
2.4
睡眠異常
人(%)
29
(
43.3%
CESD score
点
12.0
±
6.5
うつ症状
人(%)
16
(
23.5%
)
11
(
15.9%
喫煙
人(%)
27
(
39.7%
)
30
(
飲酒あり
人(%)
41
(
60.2%
)
43
運動習慣あり
人(%)
25
(
36.8%
)
日勤のみ
人(%)
52
(
77.6%
シフト・夜間勤務
人(%)
15
(
22.4%
)
)
)
)
)
16
24.2%
)
)
)
)
0.17
0.92
0.46
0.05
0.32
5.0
±
5.0
23
(
34.8%
11.2
±
7.1
)
15
(
22.7%
)
0.49
43.5%
)
28
(
42.4%
)
0.90
(
62.3%
)
50
(
75.7%
)
0.12
22
(
32.4%
)
37
(
55.4%
)
0.02
)
55
(
80.9%
)
55
(
84.6%
)
)
13
(
19.1%
)
10
(
15.4%
)
)
)
)
0.73
0.25
0.59
※p 値は 3 レベルの比較,比率の検定はχ 2 検定,平均値の差は分散分析を使用し,その後の検
定で,2 者の平均値を検定した.
55
表Ⅴ-5
女性の血清 BDNF レベルによる比較
血清 BDNF レベル
ηg/mL
高レベル(n=47)
中レベル(n=47)
低レベル(n=46)
>12.12g/mL
9.33-12.12ng/mL
<9.33ng/mL
p値
年齢
歳
37.1
±
8.8
36.0
±
8.5
36.6
±
9.6
0.82
BMI
kg/m2
20.6
±
2.8
20.9
±
3.8
21.2
±
2.5
0.69
肥満(BMI≧25)
人(%)
2
(
4
(
4
(
SBP
mmHg
122
±
15
118
±
11
118
±
118
0.21
DBP
mmHg
76
±
11
75
±
9
74
±
9
0.74
血圧高値
人(%)
7
(
14.9%
4
(
6
(
13.0%
TC
mg/dL
212
±
34
206
±
39
203
±
26
0.49
HDL-C
mg/dL
75
±
16
77
±
15
75
±
14
0.37
LDL-C
mg/dL
114
±
29
112
±
27
110
±
23
0.76
TG
mg/dL
77
±
50
64
±
64
75
±
45
0.26
脂質代謝異常
人(%)
10
(
21.3%
11
(
23.4%
6
(
13.0%
FBG
mg/dL
93
±
15
91
±
14
90
±
7
0.54
HbA1c
%
4.7
±
0.3
4.7
±
0.6
4.6
±
0.2
0.66
1.25
±
0.73
1.40
±
1.36
1.37
±
0.86
0.75
3
(
4
(
1
(
4.3
±
2.2
3.9
±
2.2
5.6
±
2.4
6
(
12.8%
11
(
23.4%
25
(
54.3%
9.7
±
7.7
9.6
±
7.2
11.5
±
8.2
HOMA-IR
4.3%
)
)
)
8.5%
8.5%
)
)
)
8.7%
)
)
)
)
0.64
0.62
0.41
高血糖
人(%)
PSQI score
点
睡眠異常
人(%)
CESD score
点
うつ症状
人(%)
6
(
12.8%
)
10
(
21.3%
)
13
(
28.3%
)
0.18
喫煙
人(%)
8
(
17.0%
)
6
(
13.0%
)
4
(
8.7%
)
0.49
飲酒あり
人(%)
21
(
44.7%
)
22
(
46.8%
)
28
(
60.9%
)
0.24
運動習慣あり
人(%)
16
(
34.0%
)
15
(
32.6%
)
16
(
36.4%
)
0.93
日勤のみ
人(%)
39
(
83.0%
)
42
(
91.3%
)
39
(
84.8%
)
シフト・夜間勤務
人(%)
8
(
17.0%
)
4
(
8.7%
)
7
(
15.2%
)
6.4%
)
)
8.5%
)
)
2.2%
0.41
<0.001
)
<0.001
0.41
0.47
※p 値は 3 レベルの比較,比率の検定はχ 2 検定,平均値の差は分散分析を使用し,その後の検
定で,2者の平均値を検定した.
56
5)PD および睡眠異常を有するリスク
血清 BDNF レベル別の PD と睡眠異常のリスクを表Ⅴ-6 に示す.女性の血清 BDNF 低レベル群は,
高レベル群に比べて PD の高い年齢調整オッズ比が観察された(OR=2.51,95%CI [1.02-6.14]).さら
に,年齢,BMI,脂質代謝異常,糖代謝異常,喫煙,運動習慣,飲酒,勤務形態を調整した後も変
わらなかった(OR=2.71,95%CI [1.02-7.22]).
そのうえ,女性の血清 BDNF 低レベル群は,高レベル群に比べて睡眠異常の高い年齢調整オッズ
比が観察された(OR=8.18,95%CI [2.89-23.13]).さらに,年齢,BMI,脂質代謝異常,糖代謝異常,
喫煙,運動習慣,飲酒,勤務形態およびうつ傾向調整した後も変わらなかった(OR=8.77,95%CI
[2.71-28.38]).また,女性では,血清 BDNF が低くなるに従い,睡眠異常のリスクが高くなる傾向
が見られた.
一方,男性では PD および睡眠異常の年齢調整および多変量調整オッズ比は有意ではなかった.
表Ⅴ-6 血清 BDNF レベルによる PD および睡眠異常を有するリスク(男女別)
男性
女性
psychogenic
distress
高レベル
中レベル
低レベル
高レベル
中レベル
低レベル
odds ratio (OR)
n=69
n=69
n=66
n=47
n=47
n=46
人数(n)
年齢調整 OR
[95%CI]
多変量調整 OR※ 1
[95%CI]
睡眠異常
odds ratio (OR)
21
21
17
0.77
[0.34-1.64]
0.97
[0.43-2.17]
高レベル
n=69
0.95
[0.46-1.98]
0.91
[0.41-1.99]
男性
中レベル
n=69
29
19
23
0.67
[0.33-1.36]
0.51
[0.23-1.12]
0.47
[0.23-0.97]
0.58
[0.23-1.28]
1.00
1.00
人数 (n)
年齢調整 OR
[95%CI]
多変量調整 OR※ 2
[95%CI]
1.00
1.00
低レベル
n=66
※1
11
1.00
1.00
高レベル
n=47
6
1.00
1.00
15
1.50
[0.60-3.74]
1.56
[0.58-4.19]
女性
中レベル
n=47
11
2.04
[0.68-6.09]
1.73
[0.51-5.90]
20
2.51
[1.02-6.14]
2.71
[1.02-7.22]
低レベル
n=46
25
8.18
[2.89-23.13]
8.77
[2.71-28.38]
多変量 OR は,ロジスティック回帰モデルで,血圧,年齢,BMI,脂質代謝異常,糖代謝異常,
喫煙,運動習慣,飲酒,勤務形態(昼夜)を調整後算出.
※2
多変量 OR は,ロジスティック回帰モデルで,血圧,年齢,BMI,脂質代謝異常,糖代謝異常,
うつ傾向,喫煙,運動習慣,飲酒,勤務形態(昼夜)を調整後算出.
57
6)血清 BDNF と睡眠異常症状別との関連性
血清 BDNF と睡眠異常の症状別の関連を表Ⅴ-7 に示す.女性の血清 BDNF と PSQI 総スコア,下
位項目の「睡眠時間」,「睡眠困難(中途覚醒)」および「日中覚醒困難」との間に有意な負の相関が
見られた.しかし,男性では両者の間に関連はみられなかった.
表Ⅴ-7
血清 BDNF と睡眠異常の症状別の関連
全体
男性
n=344
n=204
女性
n=140
睡眠の質
0.038
0.111
-0.138
入眠困難
-0.043
-0.014
-0.106
睡眠時間
-0.019
0.072
-0.191 *
睡眠効率
0.000
0.005
-0.049
睡眠困難
-0.044
0.063
-0.179 *
眠剤の常用
-0.031
-0.030
-0.089
日中覚醒困難
0.001
0.125
-0.270 **
PSQI 総スコア
-0.044
0.079
*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001
相関係数は Spearman の相関分析を使用し算出した.
-0.295 ***
58
4.考察
本研究の結果により,血清 BDNF は女性が男性よりも有意に低く,女性の血清 BDNF は GHQ 総
スコアおよび PSQI 総スコアと弱い負の相関を示すことが分かった.さらに,女性の血清 BDNF の
低レベル群は,高レベル群に比較して PD のリスクとして約 2.5 倍,このリスクは,年齢,BMI,糖,
脂質代謝,運動習慣,喫煙等を調整後も変わらなかった.さらに,睡眠異常を有するリスクでは約
8 倍で,年齢,BMI,糖,脂質代謝,運動習慣,喫煙等に加え,うつ傾向を調整後も変わらなかっ
た.男性においては,血清 BDNF と PD および睡眠異常との間にこのような関連は見られなかった.
これらの結果は,初めての知見である.
本研究では,女性のみではあったが,血清 BDNF と GHQ 総スコアの間に有意な負の相関が見ら
れた.これらは,HD 患者の研究Ⅰの結果を支持し,PD と血清 BDNF の関連性によって支持される.
しかも,血清 BDNF と GHQ スコアとの両者の相関は,弱いながらもほぼ同じあった.さらに,血
清 BDNF 低レベルにおける PD のリスクは,年齢,BMI,血圧値,糖・脂質代謝異常,運動習慣,
喫煙等も有意な値は変わらなかった.これらの結果は,第 1 の HD 患者の研究と同様であった.し
たがって,一般者でも,糖・脂質代謝異常とは独立して,血清 BDNF レベルと精神的健康度との関
連性が示された.
しかしながら,HD 患者では低血清 BDNF の PD のリスクは約 5 倍と高く,関連因子調整後はさ
らに高リスクであった.GHQ の下位項目「睡眠異常」のスコアは,HD 患者内では差がなかったも
のの,健常者に比べて有意に高かった.逆に,血清 BDNF は健常者に比較して有意に低かった
(p<0.001).それで,研究Ⅰの HD 患者の血清 BDNF 低レベルは,精神的健康度の不良,特に睡眠
異常との関連に加えて,ESRD の病態に関連した糖・脂質代謝異常や炎症反応に関連していると結
論づけられた.
一方,本研究結果の女性の低血清 BDNF における PD リスクは約 2.5 倍であり,関連因子を調整
後も同程度であった.しかしながら,血清 BDNF と GHQ 下位項目の「睡眠異常」の間にも負の相
関が見られた.さらに,本研究の対象者である女性の平均年齢は 36.6(±8.9)歳であり,その殆どが
BMI,血圧,糖・脂質代謝の指標レベルは正常であった.したがって,HD 患者と一般女性では,
糖・脂質代謝異常の関与は異なると考えられる.それでも,血清 BDNF レベルと睡眠異常との間に
関連があることが示された.
59
そのうえ,本研究結果による血清 BDNF と睡眠異常との関連については,睡眠異常のリスクは約
8 倍と高く,年齢,BMI,糖,脂質代謝等の因子に加え,うつ傾向を調整後も変わらなかった.さ
らに,血清 BDNF と PSQI 総スコアおよび下位項目の睡眠時間,睡眠困難,日中覚醒困難との間で
も有意な負の相関が見られた.血中 BDNF と睡眠異常との関連性に関する研究は極めて少ないが,
うつ病と睡眠異常との関連性については多数の研究によって報告されている(Breslau et al., 1996;
Pearson et al., 2006; Wallander et al., 2007).したがって,糖・脂質代謝異常およびうつ傾向とは独立
して,血清 BDNF と睡眠異常との関連性を示唆している.
BDNF と睡眠との関連においては,動物実験では REM 睡眠あるいは NREM 睡眠の剥奪がラット
の脳内 BDNF の産生・分泌の低下が確認され,BDNF mRNA の発現を減弱させることが示されてい
る(Kushikata et al., 1999, Fujihara et al., 2003; Cirelli & Tononi, 2000).これらの研究は,断眠により脳
内の BDNF 産生が変化するということである.ヒト研究でのこのような研究は殆どないが,うつ病
患者の血中 BDNF と睡眠との研究では,患者の睡眠治療に急性効果があり(Gorgulu et al., 2009),う
つ病の患者の睡眠状況によって脳内 BDNF 発現に差があることが報告されている(Utge et.al 2010).
これらは,うつ病患者の BDNF と睡眠との研究であるが,本研究の結果を支持している.
精神疾患の発症
環境因子
遺伝因子
うつ病・睡眠障害・・不安障害など
精神的健康度の不良(PD)
うつ症状・不安
ストレス
GC↑
睡眠異常[不眠・中途覚醒・日中
関
覚醒困難]
関
連
な
し
?
連
+
血清BDNF↓
BMI↑ >BMI
血清
BDNF↑
エストロゲンレベル
血糖レベル↑ >血糖レベル
血中脂質レベル↑ >血中脂質レベル
インスリン抵抗性↑ >インスリン抵抗性
男性
女性
図Ⅴ-2 一般成人における血清 BDNF と睡眠異常の関連性
60
これらに加えて,ヒトの急性の睡眠不足が,血中コルチゾールの増加させることが報告されてい
る(von Treuer et al.,1996;Leproult et al.,1997 ).さらに,血中コルチゾールの増加は血中 BDNF の減弱
に関与していることが示されている(Cosi et al., 1993; Mackin et al., 2007).また,急性あるいは慢性
の睡眠不足によるコルチゾール分泌の増加に伴い,視床下部-下垂体-副腎皮質系
(hypothalamic-pituitary-adrenal axis: HPA)システムの変化をもたらすことがヒトでも確認されている
(Vgontzas et al.,2001; Buckley et al., 2008).さらに,コルチゾールの増加に伴い海馬等での BDNF の
産生が減少することが報告されている(Marshall & Born, 2002).つまり,慢性的あるいは一時的な睡
眠異常がコルチゾールの上昇に伴う HPA システムの変化をもたらし,血清 BDNF の低レベルと関
連していることが示されている.
また,BDNF が睡眠物質の1つであることが分かっている(Krueger et al., 2007; Oishi et al., 2008).
徐波の出現(SWA)は,NREM 睡眠時に発生し睡眠の質を判断するものであるが(Dijk et al., 1995),ラ
ットの断眠中の BDNF 発現が,その後の休息時の SWA 程度に影響することが報告されている
(Faraguna et al., 2008).近年の研究では,ラットの遺伝子的操作によって BDNF 発現を抑制すると,
睡 眠 の 調 節 が 損 な わ れ , BDNF の 発 現 が マ ウ ス の 睡 眠 行 動 を 調 整 す る こ と が 示 さ れ て い る
(Martinowich et al.,2011).これらの研究は,BDNF と睡眠行動や睡眠の質との生物学的な関連性を示
し,BDNF が睡眠の調整にかかわるだけでなく,ホメオスタシスの役割を担っていることを示唆し
ている.
以上のことから,本研究結果の女性の血清 BDNF と PSQI 総スコアとの間に負の相関示し,血清
BDNF 低レベルが睡眠異常において高リスクであることは,睡眠異常が CNS や HPA システムに影
響を与え,脳内 BDNF の減弱から血中 BDNF の低下に繋がった可能性が考えられる.一方,男性の
睡眠異常の割合は高いにもかかわらず,血清 BDNF との関連は見られなかった.この性差の原因は
不明であるが,女性の血清 BDNF が低レベルである要因として次の点があげられる.
第 1 として年齢や BMI や糖・脂質代謝異常や血小板数などの性差が関与した可能性が考えられる.
本研究の対象者は,BMI,糖・脂質代謝だけでなく,年齢,血小板数,HOMA-IR などは男性が有意
に高かった.さらに,男性の血清 BDNF は BMI,血圧値,TC,HOMA-IR などの身体的因子との有
意な相関が見られた.一方,女性では精神的健康度および睡眠異常との有意な相関は見られたが,
身体因子との有意な相関は SBP との間以外にはなかった.逆に,女性の血清アディポネクチンは男
性に比較して有意に高く,男性では血清 BDNF との間に有意な相関が見られたが,女性ではなかっ
61
た(r=-0.22, p<0.001 vs r=-0.04, ns).
多くの研究によって BDNF が糖代謝だけでなく脂質代謝の調整因子としての metabotropic action
有することが示されている.血清 BDNF と BMI, FBS, TC,HOMA-IR との有意な正の相関が報
告されている(Suwa et al., 2006).これらのから,男性の血清 BDNF レベルは,metabotropic action と
睡眠異常の作用が相反するため,睡眠異常との関連性が相殺された可能性がある.なぜなら,Nofuji
ら(2008)の研究は,トレーニング者は非トレーニング者に比較して,血清 BDNF が有意に低いこと
報告している.また,OSAS の患者のでは,治療前後の血清・血漿 BDNF の両者で差異がなく関連
がなかったこと報告されている(Staats et al., 2005).それでも,OSAS 患児の術前と術後の比較研究
では,術前の OSAS 患児の血清 BDNF は健常児と有意な差は観察されず,術後の 3 ヵ月後には BDNF
は一旦減少しながらも,1 年後には睡眠ポリグラフ計の正常化と共に健常児と同レベルになった経
過が報告されている(Wang et al., 2010).つまり,この研究は,OSAS 患児の糖・脂質代謝異常の影
響を受けた血清 BDNF とそれが正常化した血清 BDNF が同レベルであることを示している.要する
に,これら研究は,糖・脂質代謝異常と睡眠異常を有する血清 BDNF レベルは,これらの影響が表
面化しない可能性を示唆している.
第 2 に BDNF の発現および食事摂取による BDNF の反応等の性差,あるいは性ホルモンの影響が
考えられる.BDNF mRNA の発現(Angelucci et,al, 2000),さらに BDNF の生体内反応に性差があるこ
とが報告されている(Begliuomini, 2007).近年の研究によって,ラット発情期のピークではエストラ
ジオールの影響により,雌ラットの BDNF は雄に比較して低いことが示されている.また,食事摂
取の反応では雌ラットと雄では BDNF の発現に差があることが報告されている(Liu et al., 2013).雌
ラットは雄に比較して食物摂取の影響を受けやすく,視床下部腹外側核(ventrorolmedial nucleus of
the hypothalamus: VMH)での BDNFmRNA は,雄ラットに比較して雌が非常に高く,日内変動も両者
には差があることが報告されている(Zhu et al., 2013;Liu et al., 2014).これら BDNF 発現や反応の性
差が血清 BDNF に影響した可能性も考えられる.
これらに加えて,本研究の対象者の多くが閉経前の女性であったことが性ホルモンの影響を受け
た可能性も考えられる.それでも,エストロゲンは脳内で BDNF の発現を促進させることが報告さ
れている(Scharfman & MacLusky,2006).また,の血漿 BDNF と女性ホルモンの関連性を検証した研
究では,月経周期のエストロゲンレベルと血漿 BDNF レベルが同様のサイクルであり,年齢と共に
低下するエストロゲンと血漿 BDNF レベルとの関連性を示されている(Begliuomini et al., 2007).さ
62
らに,閉経前の女性はエストロゲンなどの性ホルモンの影響を受けやすく,血中アディポネクチン
レベルにも影響することが報告されている(Kleiblová et,al, 2006; Takemura et,al, 2007).これらのこと
から,閉経前の女性は,性ホルモンの間接的な影響によるアディポネクチン作用によって,糖・脂
質代謝の影響が少ない可能性がある.
以上のことから,本研究の血清 BDNF と睡眠異常の関連の性差は,年齢差と BMI や糖・脂質代
謝異常や血小板数などの影響,さらに食物摂取による BDNF の発現の差が血清 BDNF に関与したと
考えられる.この性差は,睡眠異常の有病率の差,つまり,睡眠障害は女性が高率にもかかわらず,
OSAS では男性の有病率が高いなどの性差に関連があるかもしれない.しかしながら,この性差の
要因については,その論証する情報が少ないため推論の域を超えない.
研究の限界として,第1に本研究は横断的研究であるため,その因果関係は明らかにできない.
また,今回の対象者は一企業の勤労者が対象であるため,バイアスがかかった可能性も否定できな
い.したがって,今後は大規模なコホート研究や介入研究よって,精神的健康度および睡眠異常と
血清 BDNF との関連性をさらに明確にし,そのメカニズムを検証することが必要である.
本研究は,女性の血清 BDNF と精神的健康度との関連性が示された.さらに,肥満,高血圧,糖・
脂質代謝およびうつ傾向とは独立して,血清 BDNF と睡眠異常との関連性を示唆された.一方,男
性ではこのような関連はなかった.この差は,睡眠異常の有病率の性差に関連があるのかもしれな
い.
63
Ⅵ章
総括
64
Ⅵ章
総括
1.血清脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性に関する総括
今回の HD 患者および一般成人を対象にした血清 BDNF と精神的健康度との関連性の2つ研究
から,初めての知見が得られた.
研究Ⅰの結果で,HD 患者は血清 BDNF が非 HD 者に比べて有意に低値であった.また,HD 間
でも精神的健康度の不良者はそうでない者に比べて血清 BDNF が有意に低かったが,関連因子の調
整後はその差は消失した.それでも,HD 患者の血清 BDNF 低レベル群の CRP などの炎症指標が
有意に高く, CVD の有病率が高い傾向が示された.これらの結果は,HD 患者のうつ症状や睡眠
異常などの保有が CVD 発症や死亡のリスクの上昇,あるいは予兆であるという先行研究によって
支持される.さらに,睡眠異常スコアが非 HD 者に比べて有意に高いことも,HD 患者の睡眠異常
が高率であることと整合性を得ており,この睡眠異常が HD 患者の血清 BDNF の低レベルに関与
していると考えられた.
研究Ⅱでは,HD 患者における血清 BDNF および精神的健康度の変化の運動効果を検討した.し
かし,両者に有意な変化は見られなかった.これは,血清 BDNF を上昇させるには効果的な運動プ
ログラムでなかったことが一因であるが,寧ろ HD 患者の糖代謝に独立したインスリン抵抗性など
の ESRD 病態に関連すると考えられる.
HD 患者の血清 BDNF と精神的健康度および睡眠異常との関連性については,外的妥当性は限定
的である.そこで,研究Ⅲでは一般成人における血清 BDNF と精神的健康度および睡眠異常との関
連性を検証した.その結果,女性では血清 BDNF と睡眠異常スコアとに有意な相関が見られた.こ
のように,一般女性でも血清 BDNF と精神的健康度および睡眠異常との関連性が示唆された.一方,
男性ではそのような関連はなかった.この要因として, BDNF は metabotropic action を有するた
め,BMI や糖・脂質代謝異常等を有する割合が高い男性では,血清 BDNF と睡眠異常との関連性
が相殺された可能性が考えられる.事実,男性の血清 BDNF は女性に比較して有意に高かった.さ
らに,OSAS やうつ病の血中 BDNF と睡眠との関連研究でもこの推論を支持する結果が報告されて
いる.
血清 BDNF と GHQ 総スコアと相関は,HD 患者と一般成人の女性において,同程度の関係であ
った.しかも,両者の PD のリスクは,年齢,BMI,血圧,糖・脂質代謝指標等を調整後も有意な
65
値は変わらなかった.しかしながら,2 つのリスクには差があり,HD 患者の調整後のリスクはさら
に上昇したが,一般成人は同じ程度に留まった.これは,HD 患者はインスリン抵抗性を有する ESRD
という特有の病態であり,一般成人の女性は,糖・脂質代謝異常を有していないことがその差の要
因であると考えられる.つまり,糖・脂質代謝の影響は異なっているが,HD 患者および一般成人
の女性の血清 BDNF と精神的健康度との関連性があることが示唆された.さらに,一般成人の女性
のみであるが,糖・脂質代謝やうつ症状とは独立して血清 BDNF と睡眠異常との関連があり,低血
清 BDNF レベルは睡眠異常の高リスクが示された.これは,HD 患者の血清 BDNF 低レベルと睡
眠異常との関連性も支持する結果となっている.
しかしながら,両者の研究は横断的な研究であり,その因果関係を解明することはできない. そ
れでも,これまでの BDNF と睡眠との関連研究から,睡眠異常が血清 BDNF レベルに影響したと
考えられる.
2.脳由来神経栄養因子と精神的健康度との関連性の今後の展望
わが国の 20 歳以上 3,030 人を対象とした睡眠問題を調査した研究では,21.4%が不眠,入眠困
難 8.3%,中途覚醒 15.0%,早朝覚醒 8.0%など抱えていることが報告されている(Kim et al., 2000).
しかも,睡眠異常は精神疾患の引き金となるだけでなく(Black, 1994; Pearson et al., 2006),多様な疾
患との関連性や発症の要因になることが示唆されている(Wallander et al., 2007).肥満,高血圧,
糖尿病および心疾患などの生活習慣病との関連性は多数の研究よるエビデンスが蓄積されている
(Newman et al., 2001; Nilsson et al., 2002; Wallander et al., 2007).特に,CKD 原疾患の首位で
ある 2 型糖尿病では,不眠や睡眠不足が糖代謝異常,インスリン抵抗性および摂食行動と関連し,
発症のメカニズムの1つであることが示されている(Gottlieb et al., 2005 ;
Bounhoure et al.,
2005; Mallon et al., 2005; Tuomilehto et al.,2008).
したがって,睡眠異常と糖・脂質代謝異常などの生活習慣病との関連性に BDNF が関与している
という本知見は,BDNF と睡眠のメカニズムの解明だけでなく,CKD などの生活習慣病の発症・
重症化予防に寄与することが期待できる.
66
謝辞
本論文の執筆にあたり,九州大学基幹教育院主指導教員熊谷秋三教授におかれましては,大学院
人間環境学府に在学中だけでなく,その後も終始懇切丁寧なご指導を賜りましたこと,心から感謝
の意を表します.また,ご多忙にもかかわらず副指導教員をお引き受け下さいました九州大学大学
院人間環境学研究院杉山佳生准教授,ならびに九州大学大学院医学研究院萩原明人教授にも深く感
謝しております.
第1の血液透析患者の研究では,聖マリア病院および聖マリア学院大学の財政的支援を頂き実施
できました.また,聖マリア透析センターの東尚道腎内科部長をはじめ,スタッフおよび九州大学
健康科学センター運動疫学研究員の方々には多大なご協力を賜りました.第2の研究では,科学研
究費基盤(C)および聖マリア学院大学の財政的支援を頂き,株式会社シーアールシ―センターの職
員および九州大学健康科学センターの運動疫学研究員には多大なご協力を賜りました.さらに,論
文投稿における討論の際には,島根大学医学部足立経一教授,聖マリア学院大学大学院鷲尾昌一教
授の方々に多大なご指導・支援を賜りました.
これらの研究にご協力頂いたすべての皆様に深く感謝を申しあげます.
67
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