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外国人が住みたいと思う 魅力ある日本をめざして

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外国人が住みたいと思う 魅力ある日本をめざして
V i t a l i t é
インタ ビュ ー 新 春 ス ペ シャル
外国人
外国人が住みたいと思う
魅力
魅力ある日本をめざして
−アレックス・カー氏を囲み、
その著書『犬と鬼』をめぐる対話−
『犬と鬼』 講談社 本体 2500円
2002年10月11日
(金)、六本木・国際文化会館において「アレッ
でもあります。
クス・カー氏を囲んで」の会が開催されました。様々な分野の皆様に
M r . 崎 山: 著 書 の 中で電 話 線や 電 線を地 下に埋めていない先 進
ご参 加いただき、現 在の危 機に陥った日本の問 題を我がこととして
国は日本だけであることや、コンクリートばかりの日本について厳しく
捉え、カー氏の近 著『 犬と鬼 −知られざる日本の肖像−』
(講談社
ご指摘されていますが、実は今まで全く意識していませんでした。これ
刊 原題:Dogs and Demons)をめぐってカー氏と対話の機会を
は私だけでなく、多くの日本 人に電 線やコンクリートを気にする視
持とうと、弊社が主催したものです。
点が欠けているような気がします。
アレックス・カー氏とは以 前からお 親しくさせていただいており、
Ms.山浦: 私は千葉大学の園芸学部を卒業したのですが、農家に
当ヴィタリテにおいても2 4 号 巻 頭インタビューの中で、日本の美に
研 修に行って以 来 農 家 の 方々と親しくおつき合いさせていただい
ついてお話をしていただいたことがあります。カー氏は、父君の仕事
ています。そこで感じるのは、農村の崩壊が現代のコンクリート社会
の関係で12歳のときに来日し、その後エール大学、オックスフォード
を生み出してしまった大きな原因であるということです。農家の方々
大 学で日本と中 国について学ばれ、京 都の亀 岡 市にしばし居を構
は、サラリーマンはなんとなくきれいで立 派な生 活をしているように
えておられたこともありました。東洋の古美術についても造詣が深く、
感じ、都会人に対してコンプレックスを抱いています。農家の人間と
日本の伝 統 文 化に対しても並々ならぬ慧 眼をお持ちです。9 4 年に
しての誇りや自信を失ってしまっているのです。それが若 者の離 農
『美しき日本の残像』
( 新潮社刊)で新潮学芸賞を受賞し、その中で
を促し、てっとり早くコンクリート事 業に手を出すきっかけとなってい
失われゆく日本の美について記され、大きな反 響を呼びました。
るように思います。
ヴィタリテ4 1 号で徳 山 二 郎 氏の著 書をご紹 介させていただいた
M s . 剛: 農 家 の 方々だけでなく、日本 国 民 全 体が日本 人としての
折に、カー氏 の 著 書『 犬と鬼 』についても軽く触れさせていただき
誇りを失っているように思えます。そして子 供にそれを与えることの
ました。アメリカ本国にて刊行後、
『News Week』誌でも取り上げ
できなかった私たち世代の責任をとても感じます。
られ、氏の日本に対する鋭い視点を軸に展開される新しい日本論が
Mr.伊藤:日本の教育、特に小学校教育にも問題があると思います。
高い評 価を得ています。この 誌 上では、カー氏と参 加 者 の 皆 様が
戦 前は、ちょっと郊 外に出れば美しい風 景が広がっていて、農 家の
交わされた対話のごく一部しかご紹介することができませんが、
『犬
人も自分の生 活を楽しんでいました。戦 後の日本の教 育 現 場では、
と鬼』はカー氏が完成までに6年という歳月を費やされた力作ですの
「個」の価 値 観の確 立が疎かにされ、小 学 校の子 供までもが権 威
で、ぜひ多くの皆 様にご購 入いただければ、ご本 人も大いに喜ばれ
の 刷り込 みのように 校 長 先 生は偉いと信じてしまっているような
ることと思います。
状 況があります。個 人としての 価 値 観や 誇り、自信といったものが
また、今 回ご参 加いただいた皆 様にも、この場をお借りして改め
育たない環境にあるのです。
て感謝の言葉を申し上げます。
M r .カー: プライドは大きな問 題 の1つであり、日本だけでなくアジ
*
ア全 体の問 題としても広がっています。そこには文 化ショックという
M r .カー: 今 回『 犬と鬼 』の 中で色々書かせていただきましたが、
ものがありました。西洋社会では、ゆっくりと産業革命が進んだため、
出だしは自然 環 境 の 破 壊です。以 前『 美しき日本 の 残 像 』を出 版
古いものと新しいものを融和させていく知恵を身につける時間的余
していただきましたが、
どこかで疑問が残ったままだったのです。自然
裕がありました。しかし、アジアではあまりに突 然 産 業 革 命が起こり、
環境の破壊というものは、近代化をめざしたどこの先進国でもやって
その知 恵を身につける時 間がありませんでした。衣 服にしても建 物
きたことであり、私は単に昔の日本を懐かしむロマンチストなのでは
の 様 式 にしても全てが 西 洋からきたものであり、そこに 文 化 的な
ないかと。そこで日本をじっくり研 究しようと考えました。そのとっか
断絶感が生じたのです。アジア全体で、自分たち本来の文化にはど
かりが自然環境の破壊であり、また今でも私が一番憂いている問題
んな価 値があったのか、もしかしたら西 洋 文 化の方が勝っているの
1
■
参加者氏名(敬称略・順不同) * ○ は第二部夕食会のみご参加の方々です。
青野 恵子 / あおの・けいこ ざくろ坂ギャラリー 一穂堂 社長
石田 民雄 / いしだ・たみお 有限会社石田ライティング 代表取締役
伊藤 朗 / いとう・あきら 日本ハンドベル連盟理事長(元青山学院初等部部長)
内田 洋志 / うちだ・ひろし 中央大学総合政策学部
小野 隆彦 / おの・たかひこ 早稲田大学空間科学研究所客員教授
木原 晋一 / きはら・しんいち 経済産業省
剛 のゆり / こう・のゆり 主婦(伊藤朗先生御令嬢)
崎山 浩司 / さきやま・ひろし ニスコンサービス株式会社役員
尺田 可規 / しゃくた・よしき 株式会社SQUARE 代表取締役・一級建築士
日野 晋 / ひの・すすむ 国土交通省 住宅局住環境整備室室長
日原 行隆 / ひはら・ゆきたか 有限会社エス・エフ・プラン 代表取締役
広中 和歌子 / ひろなか・わかこ 参議院議員
本田 眞美 / ほんだ・まみ 財団法人 日本腎臓財団
本田 文子 / ほんだ・ふみこ ピアノ講師(横山サト子様御友人)
ではないかというコンプレックスが 生まれてしまいました。特に日本
松田 正允 / まつだ・まさみつ 東京不動産ネット株式会社 顧問
は戦 後すぐに産 業 革 命が起こり、製 造 業が国の第 一目標となった
松原 仁 / まつばら・じん 衆議院議員
ために、行 政 、教 育 、文 化 、果ては街 並みまで、全てがそのために
武藤 正 / むとう・あきら 株式会社東栄 常務取締役
山浦 晶 / やまうら・あきら 千葉大学医学部脳神経外科教授(元院長)
犠 牲になりました。その結 果、古いものを汚い、恥ずかしいと感じる
山浦 牧子 / やまうら・まきこ 主婦(山浦晶先生御奥様)
ようになってしまったのです。東 京オリンピック開 催の年に、京 都の
横山 紘一 / よこやま・こういつ 立教大学日本文学科教授
街が「近代的」であることを証明するために京都タワーができたこと
などは、典 型 的な例だと言えるでしょう。そして、古いものは汚いまま
残しておくか、あるいは壊して工 場のような街 並みを造るか、極 端な
選択肢しか残らなくなってしまったのです。
日本は観光産業という産業においては失敗したと言われています。
京 都は経 済 発 展の名の下に京 都を破 壊しましたが、結 局それが観
横山 サト子 / よこやま・さとこ 主婦(横山紘一先生御奥様)
○
Nils Hornmark / ニルス・ホーヌマルク ホーヌマルク株式会社 社長
○
江戸 京子 / えど・きょうこ 財団法人 アリオン音楽財団 理事長
○
加藤 且行 / かとう・そゆき 公認会計士・税理士
○
佐々波 楊子 / さざなみ・ようこ 慶応義塾大学名誉教授
○
西川 高幹 / にしかわ・たかみき アンダーソン・毛利法律事務所
○
三國 五百枝 / みくに・いおえ エヌ・シー・ジャパン株式会社
(計27名)
■
モデレーター: 佐多 保彦 株式会社東機貿 代表取締役社長
光産業という大きな産業をだめにすることになりました。中国などの
大 国が 徐々に豊かになり、何 千 万 人という人 間が 旅 行を開 始した
現在では、外貨稼ぎという基準で計ると、実はコンピューターや自動
金 銭 的な面でもどちらが 恵まれているのかというと、やはりアメリカ
車よりも大きな産業なのです。アメリカやフランスなど多くの先進国
です。それは国の施策として、日本では地方で豊かに暮らせるような
が、観 光 産 業で潤っているのです。残 念ながら、観 光 資 源をだめに
仕 組みが作られてこなかったということがあります。その上、日本で
してしまった京都は現在経済的に非常に停滞している状態です。
はお 金を持っていても慎み深く生きていかなくてはならないという
せ い ほう
Mr.伊藤: 私は京都で生まれ育ちました。竹内栖鳳(*1)は私の祖父
風潮が未だに根強い。これは都会でも同じです。その結果、文化的
にあたるのですが、京都の嵐山にある竹内栖鳳記念館が現在経営
なものにお金が流れないという矛盾が生じます。
危 機に陥っており、競 売にかけられています。なんとかしようと娘と
M r .日野: 日本 人はプライドを持ったり持たなかったりと揺れている
ともに色々対策を考えたのですが、法的な面でなんの措置も講ずる
ところがあって、場 合によっては変な自信を持ってしまう傾 向があり
ことができないのです。全てお金の問 題だけで動いていってしまい
ますね 。自分たちは非 常に優 秀な民 族であり、美しさについても他
ます。京 都 市や 京 都 観 光 局に相 談しても関 係ないと言うだけです。
の国と比べて優れた感 受 性を持っているというように。だた現 実を
家 内 の 祖 父 が 都 ホテル の 初 代 社 長だったのですが 、現 在 都
見ますと、先ほどお 話 にも出た 電 話 線 や 電 線 のように、私たちは
ホテルは近 鉄グループの 傘 下に入り、今 の 形 へと改 装されました。
普 段その 存 在を意 識せずに生 活しています。指 摘されるまで誰も
カーさんも随 分と都ホテルを批 判されていますが、以 前の都ホテル
気づかない。
はとても京都の街並みに馴染んだ建物でした。そして家内の実家は、
私は国 土 交 通 省で住 宅 関 係の仕 事をしているのですが、街 並み
この都ホテルを模して造られた洋館だったのですが、結局相続税で
に関しても、まず日本 人は街 並みを無 視した家 造りをする傾 向が
どうにもならなくなり売 却しました。それをまた不 動 産 業 者がつまら
あると実 感しています。1 0 年 先、あるいは自分が 死んでしまった後
ないものに変えてしまったのです。古いものをどうやって新しくして
の5 0 年 先のことまで考えて家を造ってくださいと呼びかけなくては
いくのかという技 術を身につけられなかったことは、まさに京 都 人の
いけないと思うし、またそれをチェックするようなシステムが必 要だと
失敗だったと思います。
感じています。
M r . 尺 田: 日本 の 田 舎とアメリカの 田 舎を比 較しても、アメリカの
また役 人の1 人として発 言させてもらえば、役 人は一 生 懸 命やろ
田舎は明るくてみな生き生きと暮らしているような印象を受けますね。
うと思って仕 事をしていることは事 実です。ただ、
「和をもって尊し」
2
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インタ ビュ ー 新 春 ス ペ シャル
の精神といいますか、それが結局様々な利害関係をうまくごまかして
社 会 的 仕 組みや 女 性 教 育 の 面で古いシステムがそのまま残って
なんとか1つに収めようという姿 勢でやってきたところがあることは
しまっているため、女 性を幼 稚にしてしまった部 分も大きいでしょう。
否定できません。
女 性 問 題も日本が 抱える課 題 の 1 つと言えます。私は現 在 1 年 の
Ms.青野: 私の自宅の近くでも、幼稚園児が1人通園するので車が
半 分をタイで過ごしているのですが、タイの女 性は銀 行や大 企 業の
通る場 合の危 険を考えてポールを立てたいと、役 所から電 話があり
社 長など、とても高い社 会 的 地 位にある方が大 勢いらっしゃいます。
ました。街の景 観などを考えずに、
「安 全のため」と言われると行 政
M r .日原: バブル時 代について少々触れさせていただきます。私は
はただそのまま動いてしまうのです。今は地 方に行ってもどこもかし
長 年 静 岡 銀 行に勤 務していましたが、静 岡 銀 行はアメリカのムー
こもフェンスが張ってあり、
とても汚く感じます。
ディーズの財 務 格 付けで、現 在日本でトップの銀 行となっています。
主 人の仕 事の都 合でアメリカに住んでいたことがあり、時々日本
静岡銀行の礎を築かれたのが平野繁太郎氏ですが、在職中は「役
人のご家庭にご招待されてお伺いする機会がありましたが、折鶴が
人の言うことは一 切 聞いてはいけない」という姿 勢を貫いた方です。
ぶらさがっていたり、五円玉で作った亀の置物があったり、全く無秩
田 中角栄 氏が大 蔵 大 臣だったころ、静 岡 銀 行には未だ1 人も大 蔵
序なのです 。日本を代 表するような方 々が 、あまりに日本 の 文 化
省から人が入っていないということで、2 度にわたって直々にお話が
に無 頓 着という気がします。むしろ、日本に来ている貧しい外 国 人
あったそうです。しかし2度とも平野氏は拒否されました。しまいには、
留 学 生 の 方が、お 金をかけずに上 手 に部 屋 の 中を日本 のもので
田中大臣から握手を求められたそうです( 笑 )。
コーディネートして楽しんでいます。
また、既 に会 長 職 にあられたときに、バブル 真っ只 中 の 時 代で
M r .カー: ごみごみ、ごちゃごちゃしている街に住んでいると、感 受
あったにもかかわらず、都 内 のノンバンクに貸し付けていた資 金を
性も麻 痺してくるのですね 。私はやはり日本 人ほど感 性が 豊かな
回収しなさいと指示しました。平野氏は昭和の大恐慌を経験されて
民族はないと信じているのですが、感受性の麻痺というのは現代の
いたので、そろそろバブルもはじけるかもしれないと危 機 感を抱かれ
深 刻な問 題です。ただ、意 識 的には麻 痺していますが、どこか心の
ていたようです。そして回収した資金を地元静岡の中小企業に注ぎ
中では文化的なものに餓えているのだなと感じることが多々あります。
込みました。誰がなんと言おうと自分の信じた道を行くという、明 治
M s . 青 野: 日本 人 の 言 葉も乱れてきていて、語 彙も少なくなって
時 代の人 間の気 概というものを感じました。そして同 時に、自分の
いますよね 。カーさんの著 書の中でも、
『「かわいい」漬けの日本 』
足 元を常に見 据えた経 営のあり方というものが、最も大 切なのだと
という記 述がありましたが、私が経 営しているギャラリーでも、スタッ
感じました。
フが展 示する作 品を手にとるたびに「かわいい」を連 発するのです。
M r . 松 田: バブルがはじけて日本がなぜこのようになってしまった
若い子だけでなく年 配 の 人までがそうです。しかし、先 生が 丹 誠を
のかと考えると、やはり経 営 者に責 任 感というものがなくなってしま
込めて作られた作品を「かわいい」と表現することは、貧しい発想だ
ったことがあると思います。いわゆる護 送 船 団 方 式の下に、失 敗し
と思うのです。そこで、私のギャラリーでは「かわいい」という言 葉は
ても表 沙 汰になることなく、経 営 者も責 任を追 及されずに済む銀 行
禁止し、他の言葉で感性を表現するように指導しています。
の仕 組みというものが出 来 上がってしまいました。これは他の業 界
最 近 の 若い女 性を見ていても、エステに行ってネイルアートをし
にも言えることです 。戦 後日本らしさを破 壊していくことで日本は
て、お 昼は高いものを食 べに行って、そしてしまいにはデパ 地 下で
発展しましたが、そのつけが回ってきているのだと思います。
お 惣 菜を買って帰るということになります 。そのような女 性たちが
私は第 二 次 世 界 大 戦のときに小 学 校 3 年 生だったので、戦 中も
母親になったときに、
どんな子供たちが育つのだろうと心配になりま
戦後の記憶もあります。終戦の年の日記を見ますと、既に「公用語は
す。カーさんの目には日本の女性はどのように映っているのでしょうか。
英 語にしよう」という意 見が出されていたことが分かります。日本は
Mr.カー: 日本女性は両極端ですね。ある意味で男性がしばられて
過去のものを全て捨てなくてはいけないということで、まず形あるもの
いるしきたりから自由な社 会 的 立 場にあるので、柔 軟 性があります。
から失っていきました。例えば、お正月もそうですね 。現 在は神 社に
NPO団体のリーダーは女性の方が多いのですよ。また芸術の世界
お参りに行って、そしてあとは寝正月です。昔ならこんなことは考えら
で活 躍されている方もたくさんいらっしゃいます。ただ、残 念ながら
れませんでした。しかしそのような動きを助 長し、むしろリードしたの
3
が行 政だったと思うのです。今の日本の問 題というのは、歴 史 的な
いる金融界のやり方などは実は歪んだ形であって、例えば静岡銀行
流れの中に必然としてあったのではないでしょうか。
の 平 野 氏が 行った経 営 のように、純 粋な日本 人 のやり方を取り戻
Mr.横山:ここまでの話し合いを見てみますと、日本のどこが悪かった
せば日本は再生するかもしれません。
のかということを論じることに終 始していますが、未 来に向かってど
M r . 内 田: この 中では唯 一 の 学 生ですので、学 生という立 場から
うしていくべきなのかを話し合うことも必 要なのではないでしょうか。
お話しさせていただきます。現 在 所 属しているゼミの 仲 間に、カー
まず、カーさんにお 伺いしたい のですが 、日本 の 文 化を「よい 」と
さんの 著 書を読んでもらって意 見を聞きました 。やはりほとんどが
おっしゃいますが、具 体 的にどこが「よい」のでしょうか。言 葉で表
ここに書かれている日本 の 現 状について知りませんでした。そして
現することは簡 単なのですが、実 際それを本 当に分かっている方が
一 番 問 題だと感じたのが、そのような現 状をどう思うかと聞いたとき
どれだけいるのか疑問に感じているのです。
に「 関 心がない」という返 事があったことです。授 業 の 中でもまず
M r .カー: 日本に限らずあらゆる国 の 伝 統 文 化を「よい」と考えて
「グローバリゼーション」という言葉が取り上げられ、世界のスーパー
います。なぜなら、文 化には何 百、何 千 年と磨き上げてきた精 神 的
パワーであるアメリカに追いつけ追い越せということで、どうしても
な知恵があります。それこそ、哲学、人との相互関係、霊界に対して
学生も海外に目が向きがちです。
の 思いまで全てが 文 化 の 中 に潜んでいます 。なぜ文 化や 伝 統と
M r .カー: それは非 常 に 逆 説 的な 意 味を含 んでいると言えます 。
いうものを学ぶのかといえば、そういうものに触れることで、人 間 性
日本は長い間 国 際 化、国 際 化と言いながら結 局そうはなりませんで
や高貴な心というものが身につくと考えているからです。
した。京 都の街 並みを現 代 的にしたから国 際 的になったかといえば、
Mr.武藤: 平野繁太郎氏のお話を伺って思い出したのですが、先日
そうではなかったですね 。つまり、京 都らしさを失ったことで、逆 に
ある人と話をしていて、
「どうも最 近 の日本にはリーダーとなるべき
国際的には価値のないものになってしまったわけです。日本の伝統
大 人 物がいなくなってしまった。日本 人の心から『 卑 怯 』とか『やま
文 化や自然 破 壊 の 問 題について興 味があるというのが 真 の 国 際
しい』といった言 葉がなくなってしまったからではないか」と聞いて
人です。それらのものに無 関 心な人 間がいくら勉 強をしたところで、
はっとしました。カーさんがおっしゃったように、やはり文 化には高 貴
世 界に出たときに国 際 人としては認めてもらえません。日本の大 学
な心というものが根 幹にあるのだと思うのですが、結 局 今ある様々
の誤解はここにもあるのではないかと思います。
な問 題というのが文 化の喪 失に起 因しているのではないでしょうか。
Mr.山浦: 私は横山さんに同感なのですが、やはり確認作業ばかり
をしていたのでは、将 来の展 望へとつながりません。私は病 院 長と
して長くやってきましたが、院 内でもヒューマンエラーというものが
絶えず起きています。しかし人 間である限り必ず犯してしまうミスと
いうものがある以上、エラーを犯した人間ではなく、エラーがそのまま
突っ走ってしまった環 境を問 題にすべきです。環 境 破 壊が日本 人
が犯したエラーの1つであるならば、誰がエラーを犯したのかを追 及
するよりも、エラーがそのまま突っ走ってしまったシステムそのものを
見直すことも必要なのではないかと思います。
M r . 小 野: 私は昨 年の4月から早 稲 田 大 学の客員教 授をしていま
Mr.カー: 私は『犬と鬼』の中では、あえてこれからどうしたらよいの
すが、現在早稲田大学の中では改革が進められています。その1つ
かという具体的な提案を一切していません。外国人が日本に関する
に社 会 人 学 生の受け入れがあります。私が所 属している研 究 所は
記 事や本を出すと、えてして「あーしろ、こーしろ」という押しつけ論
学 部と全く関 係のない、いわゆるプロジェクト研 究 所で、独 立 採 算
になりがちです。今の日本をそのまま鏡のように映し出し、その現 状
制 の 形をとっています。そのため、あらゆる学 部から学 生や 社 会 人
を認識していただくことで、自然と日本の中から解決策が出てくるの
学 生 が 集まってきます 。社 会 人 学 生は様 々な目的 意 識を持って
ではないかと期 待しているのです 。今とても日本 的だと思われて
集まってきますので、そこから学 内 の 意 識も変わってきます 。また、
4
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インタ ビュ ー 新 春 ス ペ シャル
研究所も独立採算制ということで、スポンサーに対して責任を持って
M r .カー: 確かに、日本 文 化を教 育の場に取り入れる方 法につい
研究を行いますし、
また私たちも真剣に取り組んでいます。このように、
ては、難しいところもたくさんあると思います。でも私は何十年ぶりか
少しずつではあるものの、大 学のあり方にも変 化が出てきています。
で最 近日本 に 希 望を持ち始めているのです 。そもそも、
“ 邦 楽を
Mr.横山: 私は立教大学で教授をしていますが、私の授業に出てく
取り入れよう”という発想自体が、今までの日本を考えると大変画期
る学 生は非 常に熱 心です。人 間は落ち始めると、もっと深いところ
的なことなのですから。
にある普 遍 的・潜 在 的な意 識が目覚めてくるのです。それをいかに
Mr.尺田:とてもゆっくりではあるものの、やっと日本にも新しい風が
問 答で語り合い、一 緒に実 行していくかということが 重 要なのだと
吹き始めているように感じています。ただ、電 線を地 下に埋めよう
思います。4 年ほど前から、
「タバコのポイ捨て絶 滅 運 動」と称して、
という話は私が 学 生だった3 0 年 前からあったのに、実 際に動きが
キャンパス内のタバコの吸い殻を拾って歩いているのですが、どん
始まったのはやっと最近です。日本は既に後がない状況にあるので、
どん学 生が 集まってきて彼らが 率 先して動きます。私が 教えられる
できるだけ速やかに対 応 策を実 行していく方 法を考えるべきだと
ことの方が多いくらいです。むしろ、教 授たちの方が「先 生、大 変で
思います。例えば、8 0 年 代 初 頭 のアメリカが 一 番 元 気がなかった
すね 。ありがとうございます」なんて言っている。私は今 の日本 の
時 代、当 時のカーター大 統 領が、古い建 物を再 利 用した場 合には
若 者は信 用してよいと思います。そして、彼らが「 私とは?」
「この
むこう5 年間固定資産税をなくすといった政策を行っています。京都
世界とは?」ということを静かに眺め考えることができるような、ゆとり
の街並みの問題でも、ただ京都の街を守れというのではなくて、京都
ある時間を持った大学教育をめざしたいと考えています。
を守ることでどのような効果があるのか、そしてそのことで京都の人々
Mr.伊藤:もう一度京都の話をさせていただきます。今CMで京都に
が 具 体 的 にどのような恩 恵を受けることができるのか、それらをは
行こうとしきりに言っていますが、では京都に来られてなにを見ている
っきりさせたシステムを作ってしまえば、かなりのスピードで日本も
のでしょうか。例えば大 文 字 焼がありますね、あれを京 都 人は“ 送り
再 生していけるような気がします。
火 ”と呼んでいます。仏さまが 帰ってこられて、また戻って行くため
M r . 木 原: 私も官 僚という立 場からあえて反 論させていただければ、
の道を迷わないようにという意 味で、とても宗 教 的な行 事なのです。
お役所と聞くとみなさん規制の上にあぐらをかいているという構図を
京 都 観 光 局は一 切 関 与しておらず、あくまで生 活として行っている
思い浮かべることが多いのでしょうが、経 済 産 業 省ではむしろ規 制
ものです。文化喪失の話がありましたが、文化というのはこのように
緩 和 の 方 向で様々なことが 検 討されています。例えば、現 在 電力
生 活ですから、結 局日本 人から生 活というものがなくなってしまった
市場の規制緩和を推し進めていますが、むしろ事業者がそれに反対
のだと思います。生 活をしてみて初めて文 化はその人のものになり
しているといった実状があります。また、カーさんの著書の中に、お役
ます。教えてどうにかなるものではありません。
所 の 経 費 水 増しや 空 出 張などの 記 述もありましたが 、少なくとも
私は現 在日本 伝 統 芸 術 振 興 会 の 理 事をさせていただいている
私自身や 私 の 周 囲ではそのような話は聞きません 。経 済 産 業 省
のですが 、今 年から小 学 校 に 邦 楽 が 導 入されることになりました。
は通称“ 通常残業省 ”などと言われていまして( 笑 )、みな朝の 2 時、
文部科学省もよくこういうことを思いついたなあと思っています。こう
3 時まで働いています 。タクシーで帰る場 合も当 然 相 乗りですし、
いうことをメディアを通して、もっと提 議し取り上げていただきたいと
残業代も予算の制約から正規の残業代の一部しか支払われていま
思います。
せん。このような実 態があることも知っていただきたいと思います。
Ms.青野: 邦楽を取り入れるお話ですが、安易に邦楽を取り入れる
しかし、これから日本が大きな方 向 転 換をしていくには、行 政でも
ことについて懸 念しています。邦 楽というのは五 線で表わせないの
経 済 界でも、決 定したものを覆すくらいの柔 軟な考え方を持つこと
ですが、学校ではそれを無理やり五線に置き換えてドレミファソラシド
がさらに必 要になってくるのではと思います。日本はすぐにアメリカ
で教えているわけですね 。でもそれではあくまで“ 邦 楽もどき”です。
はどうだ、イギリスはどうだと考えてしまいがちですが、イギリス人 の
日本 の 文 化を真 剣に考えるのならば、ブームのようにして終わらせ
官 僚と話をしていると、彼らは今まで前 例のないところで仕 事をして
てしまうのではなく、一人一人が日本文化を深く掘り下げて、その上
きたせいか、納得すればすぐに方向転換できる柔軟性があります。
で実行に移していただきたいと願っています。
Mr.松原: 政治の面から日本を考えれば、大きな問題は日本の税制
5
―「アレックス・カー氏を囲んで」―
日時:2002年10月11日(金)
場所:国際文化会館 第一会議室
■
第一部 セミナー 14:00
∼ 18:00
参加者の皆様にカー氏の著書『犬と鬼』をめぐって議論を交わしていただきました。討論は
白熱し、18時半を過ぎて終了となりました。本文内容として抜粋させていただいたものです。
■
第二部 夕食会 18:30
∼ 20:30
第一部にご参加されたほとんどの方が残られ、さらに新たな参加者をお迎えして夕食会とな
(*1 )
「 東 の 大 観 、西 の 栖 鳳 」と並び 称された日本 画 の 巨 匠 。明 治 、大 正 、昭 和 の 三 代に
わたって活躍し、多くの俊秀を指導、京都画壇の総帥として君臨した。
りました。その間、アレックス・カー氏よりスライド写真を見ながら日本の風景についてお話
(*2 )参考書籍:
『大リストラ時代・サラリーマン卒業宣言!』
(田中真澄著・PHP文庫)
をしていただきました。その後も積極的に議論が交わされ、21時を回って会は終了となり
(*3 )これが197 9 年の松 下 政 経 塾の旗 揚げ へとつながりました。現 在 同 塾の卒 業 生の中
ました。
から21名の国会議員が誕生しています。
( 2002年11月現在 )
にあると思います。私の持 論ですが、税 制は国民誰もが理 解できる
ようにあるべきです。今の消費税を2倍、3倍にして他の税制は廃止
するというくらいでもよいと思います。特に相 続 税は色々な意 味で
問 題が 多い 。佐 多さんにお 聞きしたのですが、イタリア の ベ ルル
スコーニ内 閣では、今 年から相 続 税をゼロにしたそうですね 。
それから文 化 のことですが、カーさんが 再 三おっしゃられている
ように、文 化というものは様々な付 加 価 値があります。永 田 町を見
回すと、非 常に下 品な人 間が 多い( 笑 )。しかし、経 済を再 生する
ためには、政 治 家もまた文 化を重んじるということを率 先してやって
いかなければと思います。
M r .カー: 日本 の 街をだめにした要 因 の 1つは確かに相 続 税です。
起こしたりする前に、まず感じて欲しいと思います。
『 犬と鬼 』は非
国で一 律 同じ税 制というのも問 題があると思います。例えば、京 都
常に気 落ちし絶 望を感じる本だと言われます。でも、
「だから日本は
の場合であれば、古い建物を残すのなら税の面で優遇するなど、そう
こうなってしまったのだ」ということが分かってほっとしたという意 見
いった対策が必要ではないでしょうか。
をいただいたこともあります。私見ですが、日本は欧米諸国と違って
Ms.横山: 文化ということでは、身近なところでは伝統行事がなくな
理 屈だとか 理 論だとか 政 治 上での 討 論などではなかなか 結 論 が
ってしまったということもあります。お正月にしても今はお節 料 理を
出ない国です。しかし、国民の 気 持ちの 部 分がぐっと一 致したとき、
つくる家庭が随分減ってしまいました。確かにお正月の準備は女性
日本は動きが速くなり力を発 揮します。だから、多くの人にまず感じ
にとっては大変な重労働です。しかし、いざ自分がやらなくなってから、
て欲しい、思って欲しい、それが私の願いなのです。
あのなにもかもを一 新して迎えるお正月の爽 快さが忘れられなくて、
Mr.佐多:今回、私はあくまで場の進行役として参加させていただき
とても寂しい思いをしました。大変だから止めてしまおうというのでは、
ました。議 論をさらに掘り下げていくにはもっともっと時 間が必 要だ
日本の文 化はどんどん下 向きになっていってしまいます。伝 統 行 事
と感じましたが、いつもは書きっぱなし、言いっぱなしのカーさんに
を家 庭 の 中で復 活させていくことも、文 化というものを次 世 代 に
とってもこのような対話形式の会は大変有意義なものであったので
伝えていく有効な方法なのではないでしょうか。
はないでしょうか( 笑 )。
Mr.石田: 戦前の産業構造を見てみますと、日本では農業も含めて
あまり知られていないのですが、松下幸之助氏が1974年に『崩れ
自営 業が 5 0 %を占めていました 。それが 戦 後 国 民 の 大 半がサラ
ゆく日本をどう救うか』という憂国の書を発刊されており、カーさんが
リーマンになり、農 家でも苦 労して子 供たちを学 校 にやり都 会 に
指摘されているような日本の問題点のいくつかを当時既に記されて
出すということをしてきました。しかし彼らが定 年を迎えたとき、帰る
いました(*3)。驚くべき先見性だと思います。国内でも日本を見つめ
ところがない、やることがないということになるわけです。農業を衰退
直す機 会が実は何 度もあったのです。しかし、今 回 新たにカーさん
させた要因はここにもあるでしょう。
がこのような本を書かれ、結 局日本 の 文 化を守ってくれるのはよい
私は脱サラして2 0 年になりますが、サラリーマンの管 理システム
外 国 人であると、逆 説 的ですが 真 理であると思うようになりました。
(*2)
という言葉
というものに馴染めなかった1人です。最近、
「個業」
私たちが 意 外と見 過ごしてしまうものを、外 国 人 の目からきちんと
が出てきましたが、もう一 度みんなが「個 業」に戻ってみたらどうか
見ている方は見ているのです。その意味でも、今後日本はよい外国
と思うのです。不 況になると、みなさんなんだか不 安になってやれ
人が大 勢 住んでくれるような魅力的な日本にならなければならない
経 済 政 策が悪いだのとおっしゃいますが、その前になにか自分でや
と強く感じています。
ってみようと考えてもよいのではないでしょうか。敗 戦 後 私たちの祖
それでは、これでカーさん( 母さん)と、私トーさん( 父さん)の会を
父母がやってきたことなのですから、やれないことはないはずです。
終えることにいたします( 笑 )。
M r .カー: 今 後の日本についてですが、なにかを提 案したり運 動を
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