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平成16年度
研究主題
実践報告書
マルチメディアの基本操作で進める教科指導
実践研究員
水戸
直和
(新潟県立阿賀黎明中学校・高等学校教諭)
パソコンを用いた授業実践はこれまで一部の指導者に限られていたが、多くの教師がパソ
コンで教材を作成する現在、そのプリントの文字データを他ソフトに応用することで、授
業に立体感を生むことができる。提示画面を見やすくする工夫をすれば、パソコンの基本
操作による準備のみで、中学と高校間の指導法に連続性を持たせる活動が日常的にできる。
又、従来、単発的に利用されてきた Web 上のコンテンツも、中心的な教材へと加工できる。
キーワード
情報の統合 ・ 中高間の連続性のある指導 ・ 普通教室 ・ 基本操作 ・ 必要に応じた使用
1 研究主題設定の理由
1. 1
わが国における現状
以前、ある研究会で香港・韓国の小学校で行われている英語授業の様子を目にした。教師が指導し
ている児童数は決して少なくないが、授業をテンポよく進行する上で大きな力を発揮していたのが教
師の脇に設置された大型プロジェクターとパソコンであった。一方、日本の現場では普通教室へのパ
ソコン普及にはまだ多くの時間を要するもので、ソフトウェアに関しても小学校や中学校での一斉指
導を用途とした教科書をディジタル化した教材がようやく発売されたばかりである。いくつかの教科
へとその対象範囲を広げてはいるものの、広く利用されているとは未だいい難く、我々が指導する高
校生を対象としたものは教科書の多種性のためかごくわずかで、発展途上と言わざるを得ない(1)。
1. 2
中学―高校間の連続性のある指導法の確立を目指して
ところで私は現在、中高一貫教育校に勤務しているが、中学生に指導をするまで、これほどまでに
も中学と高校での指導法に大きな違いがあることに気がつかなかった。高校の教室ではほとんど利用
されていない教具が中学校では頻繁に利用され授業が展開されているのである。中学校を卒業し、高
校に入学したばかりの生徒の多くは、新しい環境の変化に対応するに大きな抵抗を感じているのでは
ないだろうか。そこで、今回の実践では、ディジタルの特性を活かしながら、中学と高校での連続性
のある指導を目指した。また「ディジタルの力を借りた授業」というと、パソコンの得意な指導者の
みが行えるもので、どこかイベント的な印象があったが、本実践では代表的なソフトを用い、しかも
(1)一斉指導用に教科書をディジタル化した教材は、中学英語のほか、小学校、中学校を中心に国語・数学・算数・理科・社会・
技術家庭科用のものが既に開発、販売されている。しかし高校生を対象としたものは理科や地歴公民科用の映像教材はいくつ
かあるが、教科書準拠教材はごくまれである。英語については、教科書の種類数にもかかわらず、私が確認したところ、1社
のみの発売である(平成17年2月現在)
。英文の拡大表示と音声提示がその主な仕様である。
1
「貼り付け」
「コピー」といった基本的な操作のみで進める教科指導を目指した。また、いわゆる「パ
ソコン教室」ではなく「普通教室」で導入することで、さまざまな課題を見出し、考察を深めていく
のが本実践の目的である。本実践の目標を以下に示す。
目標1:普段作成する「配布プリント」用データを他のソフトで活用し、時間をかけずにわずかな
操作で準備が出来、授業に立体感とバリエーションを持たせる活動例を考えること。
目標2:中学校で有効とされている指導法を高校入学後もディジタルの力を借りながら取り入れ、
中学校と高校での指導法に効果ある連続性を持たせること。
目標3:単発でイベント的なものではなく、普通教室で普段活用できる活動例を考察すること。
2 研究の日程
第1回
実践研究
平成16年
7月
5日(月)
県立教育センター
9月16日(木)
県立教育センター
趣旨説明、研究計画の立案
第2回
実践研究
平成16年
研究授業指導計画案の検討
第3回
実践研究
平成16年10月21日(木)
県立阿賀黎明高等学校・中学校
研究授業の実施
3 本
3. 1
論
なぜディジタルなのか
3. 1. 1
ディジタルの性質とその利便性
パソコンで取り扱われる情報はすべてディジタル化されたものに限る。ディジタルはアナログに相
反するものだが、これにより①情報の正確な再生・再現
②情報の圧縮
る(岡本・山極)。また、ディジタル化することで、情報の
①記録
③情報の統合化が可能とな
②検索
③伝達
が容易に可能
になるとの利便性を指摘するものもある(坂村・清水・越塚)。
3. 1. 2
情報の統合
英語科の授業に目を向けた場合、中学校では基本文型のパターン練習や新教材の導入に、教科書付
属のピクチャーカードやフラッシュカード(2)などの印刷メディアが用いられることが一般的であり、
しかも、それらの有益性は多くの場で証明されている。一方、高等学校で同様の展開を試みる場合、
ソフトが充実しているとは言えない状況にあり、導入しようとする場合には教師が自作する必要があ
る。また学習進度も中学校と比べすこぶるはやく、準備には教師側に多くの時間と労力が必要とされ
るためか、この手法がとられていない現場が多い。換言すれば、中学と高校での指導形態に大きな隔
たりがあることとなる。確かに生徒の発達段階に違いはある。しかし、生徒が安心した環境の中で学
習し、その効果を確かなものとするためにも、中学―高校とで、効果的な連続性ある一貫した指導法
を持つ必要があるだろう。そこで、ディジタルの「情報の統合」という利便性に着目し、利用するこ
とで、私たち、高校教師が展開できる活動例とその準備方法について考えてみたい。
2
プリントデータを活動用教具に作り変えるための流れ
教師による作業の流れ
①
原文データを用意する
②
原文データを Word に
ソフト
使用する機能
指導書付属のCD−ROM等を利用。
Web 上のテキストも利用できる。
Word
貼り付ける。また画像を
【導
貼り付け
挿
②を画面上に表示し、生
入
挿入した図とともに表示させオーラル
イントロダクションを行う。
Word
改
【展
行
る。またその根拠を話し合わせ、意味の
行させる。
③を Excel に貼り付け
開】
生徒にセンスグループごとに改行させ
徒に意味の 切 れ目で改
④
入】
原文を拡大表示する
挿入する。
③
授業内の活動の流れ
切れ目に対する認識を深めさせる。
Excel
貼り付け
④を Power Point に貼
Power
貼り付け
り付け、アニメーション
Point
アニメー
作成したプリントを利用する。
配布用プリ ン トを作成
する。
⑤
機能で『フラッシュカー
ション
(2)
ド』
を作成する。
⑥
④のデータに「コメン
Excel
【展
コメント
「コメント」を必要に応じて表示させな
ト」を挿入し、板書用デ
がら本文の解釈を行う。教師の板書時間
ータを完成させる。
⑦
⑥にオートシェイプで
開】
が短縮でき効率よく授業が展開できる。
Excel
画像を加え、マスクを作
【整
オートシ
理】
アニメーションを用いて作成した『フラ
ェイプ
ッシュカード』でマスク読みなどの音読
成する。
活動を行う。
【図1】本実践を行うための作業と利用機能
(2)フラッシュカード(Flashcard)
語彙の導入と練習に用いられる単語カード。短時間提示されるカードを素早く読みと
り、文字と音声の関連性を自動化することを意図する(米山 p.105)
。右の写真は実際
に本校で使用しているもの。本稿では、印刷メディアによる従来のフラッシュカード
と今回の実践におけるパソコンによって作成するフラッシュカード(3. 2. 3. 4)と
を区別するために、後者を『フラッシュカード』と、二重括弧にくくって表現するこ
ととする。
3
②原文データを拡大表示。画像を併用すれば中学校で
③原文データをそのまま示し、センスグループご
多用されるピクチャーカードの代用になる。
とに改行させて、意見交換させる。意味の切れ
(3.2.1 および 3.2.2.1 参照)
目へ意識を向けるのが狙い。(3.2.2.2 参照)
⑤④のデータを Power Point に貼り付け。アニメーショ
④③をそのまま Excel や Word に貼り付ければ
プリントが簡単にできる。(3.2.3.1 参照)
ンを設定し、『フラッシュカード』を作成。(3.2.3.4)
⑦最後は⑥にオートシェイプの図形を貼り付ける。数を増
⑥さらに③をそのまま画面上に表示すれば板書する手間
やしたり形を変えたりすることで、印刷メディアを利用
も省ける。「コメントの編集」をクリックし、挿入すれ
した時以上に簡単な準備で、かつ多様な音読活動が展開
ば、ポイントを瞬時に提示できる。(3.2.3.2 参照)
【図2】本実践を行うための作業の流れ
できる。(3.2.3.3 参照)
②の画面画像作成にあたり、米国、Microsoft Corporation の Design
Gallery Live 上の画像、および外務省のサイト上の画像を利用しています。
4
3. 1. 3
ディジタルで教材を提示することの意味
先に示したように、情報を統合し、活用できることがディジタルの強みである。しかも品質の劣化
を心配することなく、データを保存できるため、授業後にその反省をもとに、修正し、再び利用する
こともできる。したがってディジタルの力を借り教材を作成、提示することで、教師は学習者に学習
項目を繰り返し提示できる。学習項目の定着を促進させる活動とその準備がディジタルなら手軽に行
える。
3. 2
基本的操作で行う活動例
普段、自作プリントをもとに指導する教師は多い。そのデータをもとに、情報を「統合」
「活用」す
ること、すなわちデータを他のソフトへ「貼り付け」るなどの簡単な操作で可能な活動例を次に示す。
3. 2. 1
画像を拡大表示
すべての授業は導入から始まる。しかし英語教育の場合、この時点ですでに中学―高校間で大きな
指導法の違いがあることを認めざるを得ない。中学校では、新教材の導入にピクチャーカードが用い
られることが多いが、高校の場合、教科書準拠のピクチャーカードは全く完備されていない。そこで、
同様の教具を作り出すために、教材の内容と関連ある画像をパソコンのワープロソフト上などに貼り
付け投影する。複数のページに貼り付け、タイミングを踏まえ、表示すれば臨場感を生むこともでき
る。なお、著作権法には、「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)
において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的
とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。」(部
分.教育機関における複製、第35条)とあり、Web 上の画像を利用することを法が認めている。
3. 2. 2. 1
原文データを拡大表示
3. 2. 1 では画像を提示したが、これと同じくらい単純な活用法として、指導書付属の原文データを
パソコン上に拡大表示し、新教材を提示する方法も考えられる。教材を提示する方法として OHP が
用いられていた時代もあり、当時からテキストや図を部分的・段階的に表示するなど単に板書以上の
提示方法が開発されてきたが、パソコンをモニタに接続し投影するという単純な操作だけで、OHP
をしのぐ方法で教材が提示できる。つまり、OHPがすでに作られた原稿を投影するだけの装置に対
し、パソコンを用いた提示では生徒の反応を見ながら「動き」をも示すことができる。
3. 2. 2. 2
改行を利用する
この動きを利用した提示方法として、画面に投影された英文データを「生徒」が実際にセンスグル
ープ(3)ごとに英文を「改行」させてみる作業が考えられる。本格的な読解作業に入る前のプリ・リ
ーディング(pre-reading)活動と位置づけることができるだろう。生徒が効果的な読み手となるため
に、指導者は直読直解の方法を指導する必要性があるが、これまではテキストを教師がセンスグルー
プやチャンク(4)で区切って提示することが一般的であった。しかし、これについては黒板を用いて
(3)センスグループ(Sense Group)
数語から成り立つ意味群を言う。優れた読み手はテキストをセンスグループにチャンクしながら読むと言われる(Nuttall)。
(4)チャンク(Chunk)
一つのまとまった意味単位として一時的に記憶し処理される項目をいう。人間が一度に区別して記憶できる量、すなわちチャ
ンクの数は7±2、つまり最大9、最小5、平均7であると言われており(天満 1989)、4語以下のチャンクは読み手にとっ
て障害となることが多い(水戸)
。センスグループと同義と考えていいだろう。phrase reading, word-combining strategies,
reading in phrase などとも呼ばれ(金谷)
、アメリカでは大量の文書を読む弁護士などが使う方法でもある(国井・橋本)
。
5
指導することが多く、英文を板書する時間や手間も軽視できなかった。そこで、授業をスムーズに進
行するためにも、画面に投影された英文を実際に複数の「生徒」にあれこれ改行させることにより、
なぜその箇所でセンスグループとして区切られるのかを意見交換させる活動を行う。これによりセン
スグループへの意識を高めることができ、英語を本来の語順のまま理解させる手助けとなる。
3. 2. 3. 1
表計算ソフトでプリントを
生徒によって改行されたデータ(3. 2. 2. 2)は、そのまま準備室に持ち帰って、プリントデータとし
て利用できる。プリント作成といえばワープロソフトを用いることが一般的であるが、表計算ソフト
で作成することにより、さらに活用方法に多様性を生むことができる。
3. 2. 3. 2
プリントデータを板書データに
小学生・中学生用には既にディジタル化された教科書が開発、販売されている一方で、高校生向け
には開発が遅れている現状は先に述べた。しかし、3. 2. 3. 1 で作成したプリントデータをもとに、表
計算ソフトの「コメント」機能を用いると同様の活動が可能である。提示させたいセル上で「コメン
ト」を挿入し、設定しておけば、マウスをそこに近づけたときのみ、そのコメントを表示させること
ができる。英語科の場合、キーワードや構文などを入力しておけば、学習者の反応によって、ヒント
やポイントとして表示可能だ。現在、市販されている語学用パソコンソフトにも学習者が未知の単語
に遭遇した時、それにマウスを近づけるとその意味などが表示されるポップアップ機能があるが、表
計算ソフトでも同様の働きが設定できる。ワープロソフトにも「コメント」機能は完備されているが、
3. 2. 3. 3 で述べるように『フラッシュカード』を作成するためにも、表計算ソフトの方が便利である。
利用ソフト
表計算ソフト(本例では Excel )
準
備
キーワードや構文などを「コメント」で挿入する。
順
Excel の場合、表示させたいセルの上にマウスをおいた状態で「挿入」から「コメント」
を選択する。吹き出しが自動的に表示されるので必要な情報を入力する。その後、吹き出
しは画面上なくなるが、再度、その部分にマウスをあてると、入力した情報が再表示され
る。授業時は三角の小さな印にマウスをあて、情報を表示すればよい。
手
①ポイントを表示させたい部
②入力後、この吹き出しはいったん画面から消える。コメ
分にマウスをおき、「挿入」→「コメント」を選択。する
ントが挿入されている部分には赤の三角形の印がつくの
と右上のような吹き出しが出る。ここに情報を入力する。 で、この部分にマウスを当てるとコメントが表示される。
【図3】表計算ソフトによる「コメント」機能利用例
6
3. 2. 3. 3
プリントデータで多様性を
また、3. 2. 3. 2 で提示した英文に、図形を書き込むことで、音読活動用の教材となる。
「理解」のた
めの音読の目的は究極的には学習者が文字情報を正確に入力することであり、言語学習には不可欠な
学習形態である(高梨・高橋)。しかし実際には、教師のあとに音読させるものの、飾りづけのような
もので終始するケースも多いようだ(高梨・卯城)。これを充実させる方法として、いくつかの単語が
消され印刷された英文を、空欄を補充しながら音読させる「マスク読み」(5)があるが、これも実際行
って見ると、教師が修正液を用い単語を消し、印刷するなど、準備の割には活動が瞬時に終わり、繰
り返しが効かないという弱点があった。しかし、ディジタルデータを活用すれば、消された部分が異
なる複数のパターンがその場で提示できる。それをそのままコピーし、マスクの異なるものを二つ同
時に投影すればペアでインフォメーションギャップ活動(6)も可能となる。また、等間隔にマスクを
作ればクローズテスト(7)としても利用できる。図形を加えるという極めて簡単な操作なため、数人
の生徒にマスクを作らせてもよい。数多くのバリエーションを示し、継続的に練習させることができ
るので、レシテーション(8)をめざし、生徒を飽きさせることなく徹底的に音読練習が行える。
利用ソフト
表計算ソフト(本例では Excel )
準
備
英文を拡大表示し、スクリーン上に投影し(3. 2. 3. 2)図形を加える。
手
順
「オートシェイプ」機能を用いて、適当な大きさの図形(形を問わない)を作成し、テキ
ストが見えなくなるほどの濃さに塗りつぶしておく。これをコピーし、数個作成しテキス
ト上の任意の場所に配置する。生徒は隠れた部分を補い音読する(
【図2】
)。
足
音読するたびに生徒に操作させ、マスクする場所を変えさせてもよい。そのまま印刷すれ
ばクローズテストとなる。またあらかじめ画面を二つ用意すればインフォメーションギャ
ップ活動が可能となる。音読することが難しいようであれば、マスクする部分を最初は薄
くし、徐々に濃い色にするとよい。またマスクを大きくし、キーワードのみを提示すれば
レシテーションの練習にもなる。書かれたテキストを音声化する効果的な練習となる。
補
3. 2. 3. 4
『フラッシュカード』の作り方
中学校に入学し、本格的に英語を学習する生徒が多いが、中学校の教室では一般的にフラッシュカ
ード(註2参照)と呼ばれる教具を用いて語彙が提示されている。このフラッシュカードは画用紙を
半分に切ったほどのもので表に英語、裏にそれに相当する日本語が記載されており、教師が瞬時に提
示することで、生徒は発音を練習したり、日本語を英語に直したりする作業を行う。英語とそれに呼
応する日本語を学習することが必ずしも語彙を学ぶことにはならないとの議論も多くなされているが、
現在一般に広く広まっている学習法である「リスト形式」(9)を私も採用している。学習させたい英語
と日本語が書かれた単純なプリントを配布しての指導だが、これを表計算ソフトで作成しておくと、
一斉指導用ディジタル『フラッシュカード』を簡単に作成することができる。
次の【図4】では、英文をチャンクで区切ったものを提示する方法を示している。
(5)本文をスクリーンに投影し、一部分を紙片などで覆い、見えない部分を再生しながら読む活動を Masked Reading と言うが
(米山 pp.222-223)、本稿では便宜上、「マスク読み」という言葉を用いる。Cloze Reading と呼ぶ場合もある(佐野他)
。
(6)インフォメーションギャップ活動(Information Gap Filling Activity)
現実的な情報差を作り、それを解消するための活動(米山 pp. 132-133)
。
(7)クローズテスト(Cloze Test)テキストの一部を5∼7語の等間隔で抜き取り、その部分を復元させ、復元率でリーディング
の能力を測定するもの(米山 p.40)。削除する空所が意図的な「空所補充テスト」とは異なる(土屋・齋藤を参考)
。
(8)レシテーション(Recitation)
音読を発展させた発表活動。自分で作った原稿を暗誦して発表するのがスピーチであるのに対し、他の人が書いた文を暗誦し
て発表するのがレシテーションにあたる(土屋を参考)
。
(9)リストを用いた語彙の指導・学習を本稿でこう呼ぶものとする。その効果を認める声も多くある(投野を参考)
。
7
セ ン ス グル ープ で
示 さ れ たこ の部 分
のデータを用いる。
①
Excel で作成したプリントデータ。左に英語、右に日本語が書かれている。
セルごとにコピーし貼り付け
すべての英文が重なって見える
②
Power Point を起動。Excel のデータをコピーし、貼り付け。 ③
Excel 終了。データを全て貼り付けると重なって見える。
アニメーショ
ンを選択する
とチェック印
が入る
④
グループ化をし、右クリック。設定で色を塗る。
⑤ 再度グループ化でアニメーションを設定。チェックが入る。
ドラッグしながら大
きさを拡大する
⑥
グループ化をし、拡大し、大きさを整える。
⑦
できあがり。スライドショーを実行する。
【図4】プリントデータから『フラッシュカード』
(チャンク表示)の作り方
8
利用ソフト
表計算ソフト(本例では Excel)・プレゼンテーションソフト(本例では Power Point)
準
備
表計算ソフトの各セルにセンスグループ別に区切った英語を入力しておく。
順
①表計算ソフトとプレゼンテーションソフトを同時に起動する。②表計算ソフト上にある
英語データをコピーし、プレゼンテーションソフト上に貼り付ける。③セルごとに②の作
業を繰り返す。すべてのデータがテキストボックス内に入っていることを確認。英語が重
なっているが気にする必要はない。④表計算ソフトを終了。⑤プレゼンテーションソフト
上にコピーしたデータをグループ化する。⑤テキストボックスの色を塗りつぶし、大きさ
を拡大し、見やすく調整をする。
足
Power Point では幸いなことに、貼り付け作業を行うと、自動的にデータが画面の中心部
に貼り付けられる。プレゼンテーションソフト上のアニメーションはあまり凝らないほう
がよい。こってしまうと動きがぎこちなくなってしまう。フラッシュさせることにこの活
動の意義がある。「ディソルブ」を選択するとよい。
手
補
3. 2. 3. 5
データ整理とマスクでより立体的に
英語と日本語を『フラッシュカード』で示すには若干のデータ整理が必要となる。私のプリントで
は、左側に英語の語句が書かれているが、このリストで、左右に提示された英語と日本語を、プレゼ
ンテーションソフトでは上下に提示したほうが画面を有効に使え、活動しやすい。マスクを作ってお
けば日本語を隠して英語のみを表示させたり、表記を部分的に示すことが可能となる。ある程度、こ
の形式になれてきたら、簡単な語義を英語で提示し、その語を連想し言わせる活動へと応用すればよ
り効果的だ。Hubbard は印刷メディアであるフラッシュカードの問題点として、その整理のしにくさ
や再利用が難しいことを挙げているが、ディジタルの力を借りることでこれらの点も解決される。
利用ソフト
表計算ソフト(本例では Excel)
・プレゼンテーションソフト(この例では Power Point)
準
備
表計算ソフトの各セルの左側に語(句)別に区切った英語を、右側に日本語を入力。
手
順
①表計算ソフトとプレゼンテーションソフトを同時に起動する。②表計算ソフト上にある
英語データと日本語のデータの縦軸と横軸の入れ替えをする(
【図5】参照)
。③②で並び
替えたデータをコピーし、プレゼンテーションソフト上に貼り付ける。
補
足
英訳する練習 ②
3. 2. 3. 4 と同様。オートシェイプでマスクをつくれば、①日本語を隠し、
英語を隠し日本語訳する練習、また③定義文から目標とする語彙の再生練習などが可能。
①
もととなる単語リスト。Excel で作成する。
③
データが上下に入れ替わった。これを加工する。
②
コピーし、縦軸と横軸のデータを入れ替える。
【図5】英語・日本語・英語の定義を表示できる『フラッシュカード』の作成法
9
4
授業展開例
以上の活動を実際に取り込んだ授業案を以下に示す。
学習指導案(リーディング)
1 指 導 日
平成 16 年 10 月 21 日(木)
2 教
Lesson 23 Soap’s Mini-history, New Stage English Reading, 池田書店
材
3時限
阿賀黎明高等学校3学年(B2クラス)(10)
3 時間配当
1時間目:全文のオーラルイントロダクション・第1段落、第2段落の導入(本時)
2時間目:第1段落、第2段落の復習・第3段落、第4段落の導入
3時間目:第3段落、第4段落の練習・練習問題
4 テキスト
Soap can be traced back to ancient times. It was probably first made in
ancient Egypt and then brought to southern France by Phoenician seamen in
600 B.C. From there it found its way to Germany. Soap was not used by the
ancients to cleanse the body. The prophet Jeremiah called soap a clensing
agent for clothes only. The Gauls used soap as pomade for their hair to give it
an extra shine. In A.D. 385 a physician said that soap was good for
shampooing.
5 指 導 案
指導手順
1.定着活動
マスク読み
時間
3.導
入
備
考
①教師の後に続き音読練習。
1
②プリントへのマスク追加を指示
②マスクを追加し、ペア練習。 マーカーを利用。
Word
③マスクの一例を画面に表示。 ③画面上を見てマスク読み。
2
④各単語を音読。
④教師の後に続き音読練習。
2
⑤ペアでの暗唱活動を指示。
⑤ペアで暗記活動
2
Power
Point
⑥『フラッシュカード』を提示。
⑥『フラッシュカード』で音
読練習。
2
Word
⑦図を提示し、本時、指導する
英文の概要を読み上げる。
⑦図を見ながら音読練習。
⑧新出語と定義(11)を読み上げる。
⑧定義を完成させる。
3
Excel
2
5.コラムナー・
5.リーディング
生徒の活動
①前時指導した英文を音読。
5
4.ワード・
マッチング
教師の行動
2
3
2.復
習
前時の語彙
利用ソフト
10
6.音読活動
4
7.通訳練習
4
8.定着活動
マスク読み
3
⑨英文を完成させるよう指示。 ⑨英文を完成させる。
⑩各単語を音読。
⑩教師の後に続き音読練習。
Excel
⑪英文を画面に表示。必要に応
じて「コメント」を表示。
⑪和訳を完成させる。
Excel
⑫本日学習した英文を音読。
⑫教師の後に続き音読練習。
Power
Point
Power
Point
Excel
何種類か変化
を持たせる。
ピクチャーカー
ドの代用となる
Excel で 解 答
を表示。
必要に応じて
黒板を利用。
⑬『フラッシュカード』を提示。 ⑬表示された英文を音読。
⑭『フラッシュカード』を提示。 ⑭表示された英文を通訳。
⑮マスクの一例を画面に表示。 ⑮画面上を見てマスク読み。
【図6】実際の指導例
(10)本校では3学年の2クラスを習熟度別にC(上)−B2(中の上)−B1(中の下)−A(基礎)の4つに展開している。
(11)語彙指導において「英単語1語=日本語1語」といった印象を生徒に持たせないために、
“ancient = very old”のような英
語による定義も加えている。英単語のイメージを把握させること、又、語彙力の増大がねらいである(【図5】を参照)
。
10
生徒の反応
5
本実践の後、生徒にアンケートを行った。その設問と回答の結果を以下に示す(調査対象21名)。
問1では中学校におけるコンピュータ使用状況
1
あなたが中学生の時、パソコンを用いた授業はあ
りましたか。あった場合はどの科目でどのように
使われていたかを教えてください。
技術家庭・理科・社会・数学で、クイズ、調べ学
習、インターネット、資料作成・タイピング
2
あなたが中学生の時、英語の授業で次のような教
具は用いられていましたか。(Y=Yes, N=No)
ピクチャーカード:Y=24%、N= 73%
フラッシュカード:Y=52%、N= 48%
マスクシートード:Y= 0%、N=100%
3
あなたが高校生の時、パソコンを用いた授業はあ
りましたか。ある場合はどのような科目でどのよ
うに使われていたかを教えてください。
を聞いてみた。全ての生徒が中学時にパソコンを
操作した経験がある。その多くが技術家庭科にお
ける指導を受けていることから、マウスやエンタ
ーキー等は多くの生徒が操作できるものと思われ
る。今回の実践では実際に操作をした生徒数は限
られたが大部分の生徒が英文を改行させる操作を
抵抗なくできるものと思われる。
問2では中学における英語の補助教材の使用頻
度について聞いた。これは私の予想から大きな隔
たりがあり意外にも使用頻度が低い結果となった。
しかし複数の中学校教諭や出版社に問い合わせて
みると、ほとんどの学校に購入されているものだ
社会・英語・情報・数学・生物で、レポート作成、
メール・基本ソフトの操作
という。アンケートの対象となった生徒の出身中
学校においても完備してはいるものの実際に使用
4
英語の授業の進め方や教え方で中学と高校とで大
きなギャップがありましたか。あったと思う場合
はその例を教えてください。
あった
あった
あった
あった
な い
5
:
:
:
:
プリントが中学校ではなかった。
ペアで活動することがなかった。
高校は進度が速い。
何度も何度も繰り返さなかった。
カードやピクチャーカードの有用性は既に多くの
現場で認識されている。高校におけるこれら教具
の導入の遅れが教師側の準備段階の大きな負担だ
とすれば、ディジタルの力を借り効果的な指導を
目指したいものである。
今回のパソコンを用いた授業では画面を投影した
方法で進めました。受けやすいですか。受けにく
いですか。その理由も教えてください。
Y=24%
N=76%
していない可能性が大きい。しかし、フラッシュ
問5では、本実践における課題点を聞いてみた。
この調査では7割を超える生徒が否定的な意見を
述べている。しかし、否定派のすべての生徒が画
面の見にくさをその理由としてあげていることか
:
画面が見にくい
らこの点を克服すれば十分生徒にも受け入れられ
今回のパソコンを用いた授業で、あなたがよいと
思う点を具体的に教えてください。
るものと思われる。今回は、普通教室での実践と
・
・
・
・
・
プリントと同じものが画面に出ていること。
黒板に書く手間が省けて時間が有効に使える。
文字とかがいろいろ隠せていい。
いろいろな方法がその場でできて楽しかった。
マスクがいろいろできていい。
せず、直接黒板に投影し、必要に応じてチョーク
7
今回のパソコンを用いた授業で、あなたが改善し
たらよいと思う点を具体的に教えてください。
6
・
・
・
・
画面を大きくし、文字を濃くして欲しい。
視力の弱い人にはキツイ。
映像を写すスクリーンの用意。
先生の準備が大変そうです。
いうことで、あえて大型のスクリーンなどは利用
で書き込みを行ったことがその根拠と考えられる。
黒板では見にくく、スクリーンやホワイトボード
では準備の負担が大きいという矛盾が生じてしま
う。これは黒板に磁石で貼付でき、ホワイトボー
ド用のペンなどで書き込むことができる「マグネ
ットスクリーン」の使用で解決できる。
問6ではパソコンを用いる長所について聞いて
みたが、活動に多様性を生むという目的が生徒に
よって受け入れられたものと認識してよいだろう。
【図7】生徒によるアンケート結果
11
6
教師の反応
生徒同様、教職員にもアンケートを行った。その設問と回答の結果を次に示す(調査対象者8名)
。
1
今回の実践ではコンピュータ画面を投影し、板
書の代用としました。将来、導入されてみたい
でしょうか。したくないでしょうか。理由も教
えてください。
本調査では、準備と実際の活用という点を中心に、
教職員に対し尋ねてみた。実践してみたいか否かと
いう問いに関しては、すべての問いに対し、調査に
協力してくれた8名の教員が実践してみたいとの回
導入したい
=100%
・ 生徒が頭を上げた状態で音読できるの
で生徒の様子を見ながら速さなどを変
えられる。
・ 板書時間の短縮になりその時間を生徒
観察や支援にあてることができる。
・ 黒板だと一度消してしまうと授業後に
確認したくてもできないが、パソコン
だと何度でも繰り返し表示できる。
・ プロジェクタを用いることにより板書
もでき、アンダーラインも引けるので
便利。
導入したくない
=
0%
答が寄せられた。
問1の回答からは、パソコンで画面を表示するこ
とが、単にOHPなどで投影するものとは異なり、
ディジタルの「保存性の便利さ」や「情報の統合化
が可能」であるという点が教員から受け入れられて
いる様子が伺える。
問3の回答も、問1の利便性に目に向けたものが
あげられているが、
「カードの保存が便利」と記録性
に目を向けたものもあった。一方、私が現在担当し
ている1学年分の紙製のピクチャーカードは200
2
3
今回の実践でのマスク読みを将来導入してみた
いでしょうか。その理由も教えてください。
枚、またフラッシュカードにおいては600枚にも
導入したい
=100%
・ 簡単に、様々な種類のマスク読みが可
能となるため。
・ 生徒の注目を一手に集めることができ
一度作れば長く使える。変更も楽。
困難な作業であるが、これらのデータをデータベー
今回の実践ではプリントのデータを他のソフト
に貼り変えることでフラッシュカードを作成し
ました。将来導入してみたいですか。理由も教
えてください。
左の設問の他に、今後の課題についても聞いてみ
導入したい
=100%
・ 文字を短時間見せて発音させることで
は紙のフラッシュカードと同様である
が、PCのほうが動きがありよい。
・ ①生徒の視線を前に受けることができ
る②集中させることができる③短時間
で行える④一斉に練習できる⑤興味を
ひかせることができる。
・ 手作業で作成する手間が省ける。
・ ランダム表示でテストとして使える。
・ 視覚に訴えることは非常に重要だと考
えるから。
4
及ぶ。現行の紙によるカードの整理と保存は、相当
ス化することで、仮に大量のデータが蓄積されたと
しても、容易に検索することも可能となるだろう。
その方法については今後の課題としたい。
た。その多くがパソコンの起動時間やプロジェクタ
との接続の手間について指摘している。生徒からも
「先生の準備が大変そう」という声があったが、こ
れは私も十分納得している部分である。授業で提示
するソフト面については、情報の統合化により活動
に多様性を生むことができたが、ハード面について
は授業開始までに10分間の休み時間をまるまると
必要としてしまった。この実践に至るまで合計5回
の授業をパソコンを用いて行ったが、授業を開始す
るまでの準備時間を大幅に短縮するのは難しかった。
また普通教室では機器を盗難や破損から守る必要が
今回の実践の「コメント」を将来導入してみた
いですか。理由も教えてください。
あり、機器の管理の困難性を指摘する意見もあった。
導入したい
=100%
・ 短時間で的確にポイントを提示できる。
・ 必要に応じ提示できる。
保存性や応用の広さを重視したいとの声が多数あっ
しかし、手間がかかるのは初めだけで、データの
た。何よりも、投げ込み教材として利用されてきた
Web 上のコンテンツにも教科書と同じ存在感を与
【図8】英語科教員によるアンケート結果
えることができるのはこれからの時代やはり魅力だ。
12
おわりに
7
数年前、ある大学での講習会で、私たち受講生に出された課題は大変印象的なものであった。
「図書
館法をレポートにまとめよ」との内容であったが、受講生の多くが講義後、図書館に駆け込み必死に
3,000文字は下らない図書館法を書き写している姿を目にしながら、私は教授の意図を考えてみた。
視聴覚教材について講義し続けてきた教授が受講生に求めていたのは、インターネット上でそのデー
タを見つけ、コピー&ペーストしてまとめることだったのではないかとの結論に達した私は、わずか
数分でそれを仕上げることができたが、その時、始めてディジタルの利便性を痛感したものだ。
今回の実践ではパソコン基本ソフトの一部の機能を「こんなふうに使えないだろうか」という視点
から各活動を考えてみた。一連の実践を通じて、①生徒の活動にバリエーションを生むこと②中学と
高校での指導法に連続性を持たせること③普通教室で行える活動を考察すること、という当初の目標
を達成できたものと思う。ハード面については、①画面の見やすさ②パソコンの起動時間・機器間の
接続時間の短縮等についての課題が見出せた。ソフト面については「情報の統合化」
「記録・検索・伝
達の利便性」に優れているディジタルの力を活用することが日常的に可能なことが確認できた。特に
単発的に利用されがちだった Web 上のコンテンツを授業の中心的存在として応用できる点は魅力だ。
しかし、その優れた特性を持ちながらもコンピュータは指導を私たちに代わって行うものではない。
又、教師が自分の好みに膠着し、コンピュータを行いて「形式重視」の授業を行うべきものでもない。
今回はプロジェクタによる投影を中心とした実践であったが、場合によっては黒板による提示の方
が効果的な場合も当然ありうる。ディジタル的な部分の活用だけでなくアナログ的な部分にも配慮を
忘れない視点を持ち続け、
「その教材をどのような方法で提示すれば、学習効果があがるか」という点
にこだわることが教員の使命であると考える。
本研究の実践にあたり、新潟県立教育センター太田洋一指導主事(情報科)、同高橋直彦指導主事(英
語科)より貴重な機会と助言をいただいた。生徒は私の慣れないパソコン操作にも関わらず、積極的
に活動に取り組み、かつ建設的な意見を述べてくれた。また校務多忙の中、本校の吉田博校長、及び
英語科職員からは私の研究授業に足を運んでいただき、温かい声を頂戴した。草稿に目を通していた
だいた恩師、松原知子先生、そして調査に協力して頂いた他校の英語科の先生方にも心から謝辞を述
べたい。
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