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NAFTA10年間による、メキシコ農業の構造変化について

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NAFTA10年間による、メキシコ農業の構造変化について
NAFTA10年間による、メキシコ農業の構造変化について
中部大学国際関係学部国際関係学科
田中
教授
高
頁
はじめに ······················································································· 62
1 最近のメキシコ農業の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
1)GDP に占める農林牧畜水産業の割合
2)農業の雇用部門に占める重要性
3)堅調な農業生産
4)農業金融の動向
5)農産品の貿易の推移
2 依然として解消しない農村の貧困問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
1)メキシコの貧困の実態
2)「農村のための国民合意」を巡るその後の動き
3 NFATA の10年間の実績についての世界銀行の報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
70
1)NAFTAによるメキシコ農業へのマイナス効果は軽微
2)メキシコの農業保護政策の動向
3)評価されるPROCAMPO
4 NAFTAによる農産品貿易自由化の動きの経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
73
5 日本・メキシコEPAの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
74
1)合意内容の概略
2)農産品自由化の主要点
3)メキシコ側の反応
結びに代えて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
76
NAFTA10年間による、メキシコ農業の構造変化について
田中
委員
はじめに
2004年9月17日、小泉総理とフォックス メキシコ大統領の間で、「経済上の連携
の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定」
(略称
日墨EPA)が調印された。
日本にとってはシンガポールに続き2番目の貿易自由化協定が結ばれたこととなり、今後
の推移が注目されている。本稿ではこうした状況を踏まえた上で、NAFTA(北米自由
貿易協定)におけるメキシコの農業の変化を考察することで、今後の日墨EPAの動向を
見ていく際の手がかりとなることにしたい。
94年にスタートしたNAFTAは昨年10周年を迎え、この間メキシコ、米国、カナ
ダの貿易に大きな影響を及ぼした。特に農産品の貿易自由化は、NAFTA加盟国の利害
が複雑に絡み合い、現在でも最も論争の多いテーマのひとつである。
本稿では、まず最近のメキシコ農業の実績を概観した上で、NAFTAによる農業構造
の変化を検討する。その際、特に94年にスタートした農業部門への直接支援プログラム
であるPROCAMPOについて解説する。世界銀行の報告書では、NAFTA発足時に
危惧されたような、メキシコ農業への大打撃を回避できた主な理由のひとつは、このPR
OCAMPOの成功によるものであったと分析している。PROCAMPOは伝統的な国
内消費向けの作物から、輸出競争力のあるメキシコ農産品(果物・野菜)への転換をスム
ーズにもたらせたと指摘されている。
最後に、日墨EPAの農産物の貿易自由化に関係するテーマについて、事実関係の確認
をしたうえで、若干のコメントを加えることにしたい。
1 最近のメキシコ農業の概要
1)GDP に占める農林牧畜水産業の割合
ここ数年間のメキシコ農業の概要は次のようである。まず国内総生産(GDP)に占め
る農林牧畜水産業の割合は、2001年から04年にかけてほぼ横ばいの4%である。こ
の数字は同部門が国全体の経済活動に占める割合を示すものであるが、サービス部門の占
める割合が約65%、製造業(建設業を含む)の約20%強と比較して、かなり低いとい
える。
62
さらに農林牧畜水産業の中で、農業、牧畜業、林業、水産業がそれぞれ対GDPに占め
る割合は、過去4年間の傾向としては、林業、水産業が若干減少し、その分、農業が増加
している。なお、牧畜業はほとんど変化が見られない。水産業は農林牧畜水産業全体の僅
か2%を占めるまでに減少している(表1参照)。
表1 農林牧畜水産業が各部門に占める割合、国内総生産、雇用、対外部門、金融
2001年 2002
2003
2004
国内総生産に占める農林牧畜水産業の割合(%)
4.1
3.9
4.0
4.0
農林牧畜水産業の構成(%)
100.0 100.0
100.0
100.0
農業
62.6
63.4
64.1
65.4
牧畜
28.8
28.4
27.6
28.2
林業
5.5
5.1
5.0
4.3
水産業
3.1
3.1
3.3
2.1
雇用
全雇用人口に占める農林牧畜水産業(%)
対外部門
輸出総額に占める農林牧畜水産品(%)
輸入総額に占める農林牧畜水産品(%)
金融
農林牧畜水産業の国内生産額に対するSAGARPA
の財政支出の割合
SAGARPAの支出の割合
・RROCAMPO
・アリアンサ パラ エル カンポ
17.9
17.9
16.8
16.3
2.5
3.0
2.4
2.8
2.8
2.8
3.6
2.7
14.9
15.4
16.2
16.3
34.0
12.5
37.5
18.8
32.6
16.3
34.2
18.4
出所 Cuarto Informe de Gobierno del Presidente Vicente Fox Quesada http://cuarto.informe.presidencia.gob.mx./
2)農業の雇用部門に占める重要性
GDPに占める農業部門の比率が低レベルであるにもかかわらず、メキシコにおいて農
業部門が重要な役割を果たしているのは、以下見ていくように、同部門が全雇用人口に占
める割合が減少傾向にあるものの、約16%と依然として高いためである。これを200
1年からの経年で見ていくと、雇用人口全体に占める農業人口は17.9%から減少して
おり、同部門からサービス産業など他の部門に労働力が移動している(表1参照)。さらに、
このことは農林牧畜水産業において生産性が上昇している可能性のあることを示している。
ここで農業の中心的な役割を担っている、基礎穀物と採油穀物、果物、野菜、食肉、牛
乳、鶏卵の国内生産および消費の動きを見ておくことにする。表2によると、それぞれの
産品の生産、国内消費、一人当たりの消費量が示されている。
63
表2 主要基礎穀物の生産、輸出入、国内消費(単位 千㌧)
2001年
2002
2003
2004(1)
米
生産
226,639
227,194
273,300
302,500
輸入
700,765
750,501
363,780
675,192
輸出
742
502
434
1,213
国内消費
900,618
927,217
1,022,899
474,736
一人当たり消費(㎏)
8.8
9.0
9.8
4.5
フリホル
生産
1,062,629 1,549,091
1,414,900
1,297,200
輸入
134,117
102,958
80,903
52,915
輸出
8,643
12,756
7,826
3,439
国内消費
1,481,847
1,294,822
1,193,306 1,643,406
一人当たり消費(㎏)
11.7
15.9
14.2
12.3
トウモロコシ
生産
20,134,312 19,297,755
20,701,400
22,019,300
輸入
6,141,856 5,497,160
5,764,149
2,842,499
輸出
164,430
6,630
48,952
7,441
国内消費
25,606,619
22,643,571
26,268,727 24,630,485
一人当たり消費(㎏)
258.0
239.0
245.7
214.9
小麦
生産
2,715,800
2,476,700
3,275,459 3,236,183
輸入
3,436,901 3,139,786
3,499,911
1,573,930
輸出
439,623
565,078
218,609
513,001
国内消費
5,767,533
3,350,074
6,199,359 5,936,346
一人当たり消費(㎏)
60.9
57.6
55.3
31.8
胡麻
生産
20,210
31,000
21,000
42,879
輸入
12,965
14,287
8,425
20,056
輸出
16,878
11,580
11,401
9,323
国内消費
21,595
31,286
25,690
46,057
一人当たり消費(㎏)
0.5
0.2
0.3
0.2
カルダモン
生産
111,480
52,855
200,600
307,400
輸入
1
282
196
466
輸出
1,924
7,061
1,113
1,937
国内消費
109,523
51,213
193,945
307,691
一人当たり消費(㎏)
1.1
0.5
1.9
2.9
綿花
生産
152,259
67,800
115,300
162,600
輸入
270,103
225,290
116,835
303,749
輸出
1,137
594
72
1,682
国内消費
455,414
405,630
342,463
226,972
一人当たり消費(㎏)
4.5
3.9
3.3
2.2
大豆
生産
121,671
86,500
126,000
46,900
輸入
4,473,815 4,382,507
4,175,876
2,288,527
輸出
2,788
157
328
2,059
国内消費
4,299,817
1,001,022
4,595,330 4,468,679
一人当たり消費(㎏)
45.1
43.4
41.3
9.5
大麦
生産
736,567
1,081,600
964,600
761,626
輸入
148,148
149,664
102,656
253,894
輸出
23
10
17
47
国内消費
1,015,497
884,705
1,237,147
1,011,271
一人当たり消費(㎏)
10.0
8.6
11.9
9.6
ソルガム
生産
6,759,100
7,011,500
6,566,525 5,205,943
輸入
3,381,351
2,389,751
5,032,147 4,716,753
輸出
7
0
10
2
国内消費
11,598,675 9,922,696
10,086,541
7,831,736
(1) 推定値
出所 表1に同じ
64
3)堅調な農業生産
興味深いことに、過去4年間の生産量はいずれの作物も増加している。しかし果物と野
菜を除いて、一人当たりの消費量は減少している。これはメキシコの人口増加率が1.6%
程度と比較的高いこと。さらに食生活の変化や上級財と考えられる食肉の消費が01年か
ら04年に51.9㌔から47.9㌔に減少していることから、可処分所得(あるいはエ
ンゲル係数)の変化にも影響を受けていると思われる。また、伝統的な農作物から、果物
と野菜への転換の進んでいることも影響していると見られる。
いわゆる食料の自給率については、04年にはいずれの農産品についてもかなりの改善
=自給率の向上が見られる。特に主食の原料であるトウモロコシや米、カルダモン、ソル
ガムなど基礎穀物の国内消費向けの国内生産は、04年には増加している。この傾向は、
食肉、牛乳、鶏卵などの基礎食料品についても当てはまる。このようなメキシコ農業の良
好なパフォーマンスの要因については、次節にて世界銀行の報告書を参考にして説明する
ことにしたい。
漁業部門は不振で、2002年の漁獲高は160万㌧であり、01年の150万㌧を若
干上回った。03年は政府の漁獲抑制策もあり、前年比7%減になる見込である。
4)農業金融の動向
なお、行論上、ここで政府の農業金融の増加について指摘しておきたい。財政上の支出
額は01年から04年の間に、14.9%から16.3%へ、さらに農家向けの直接補助プ
ログラムのひとつであるアリアンサ・パラ・エル・カンポ(後述参照)は、同期間に12.
5%から18.4%へとかなりの増加を見せている(表1)。
このようにメキシコ政府は農業部門への財政上の支援を強化しつつあるが、この背景に
は「農村のための国民合意= Acuerdo Nacional para el Campo」
(03年フォックス政
権と国内の主要な農業組合の連合組織との間で調印された。合意では、零細農家向けの融
資など総額2億9000万ドルに上る財政支出を約束している。なお、背景には、NAF
TAによる農産品貿易の自由化で経済的な被害を受けている、地方農民の激しい反政府デ
モがあった。詳細は田中高
2004
参照)に象徴される、農民を中心とする強い要求
運動のあったことを指摘できよう。また、02年には、民間部門の金融機関では対応でき
ない、零細農家の生産性向上のための、機械設備の購入資金を融資する目的で農村金融
(Financiera Rural)が設立された。
65
5)農産品の貿易の推移
(1) メキシコ貿易に占める農産品の動向
農林牧畜水産品の貿易の動きは次のようである。2001年から04年の変化としては、
メキシコの総輸出額に占める割合は2.5%から3.6%へと1.4倍も増加した。他方、
輸入については3%から2.7%へと若干ではあるが減少している。農産品の貿易収支は
改善している。
表2は、主要基礎穀物の輸出入量を示している。主要な穀物であるトウモロコシや小麦
は輸入量が大幅に減っている。輸出が増加している品目もある(例えばトウモロコシ、大
豆、大麦など)。この点、NAFTA発足時に危惧されたような、廉価な米国産の農産品の
急激な流入という事態は起きずに、むしろ、メキシコの基礎穀物の国内自給率は高くなっ
ている(トウモロコシについては飼料・加工用のデントコーンと、食用のフラワーコーン
に大別される。メキシコは、後者について潜在的な輸出余力を有している。輸入の大半は
デントコーンである)。
魚類の輸出額は04年には推定で7700万㌦となり、03年の2億㌦を大きく下回っ
ている。この主因はエビの輸出額減少であり、価格下落などのため同期間に2600万㌦
㌦から500万㌦に落ち込んだ。
(2) 日本とメキシコの貿易動向
日本との貿易の概要は次のようである。2001年から03年の間の、両国間の貿易は、
日本の対メキシコ輸入額が2,436億6,300万円から2,061億8,700万円
へと約15%減少した。同様に、対メキシコ輸出も4,969億9,500万円から4,2
08億8,000万円へと約15%減少している。
なお、参考のために日本側の対メキシコ輸入品の中で、主要な農産品で今回のEPA交
渉の中でも注目された、豚肉の輸入額の推移は、248億3,699万7,000円(01
年)から04年には164億5,637万円にまで減少している。EPAの発足により、こ
うした傾向にどのような変化がおきるのか注目したいところである注1。
注1
なお補足的に説明すると、日本とメキシコの貿易額は、メキシコ政府側の対日輸出額の数値が日
本に直接輸出する貿易財のみを統計上処理しているのに対し、日本側の対メキシコ輸入額はメキシコ
を原産地とする財を計上している。これには米国西海岸のロングビーチ港を経由するものが含まれる。
例えば、03年の数字では、日本側の発表では対メキシコ輸入額が2,061億8700万円=約
17億9293万㌦であるのに対して、メキシコ側の数字は6億580万㌦にとどまっている。要す
るに、メキシコ産であるにもかかわらず、米国の港を経由する財について、メキシコは対日輸出額に
66
カウントしていない。その分、メキシコ産品の対日輸出額は過少申告されている。この結果、メキシ
コ側の貿易数字だけを見ると、日本との貿易が大幅に不均衡(日本の出超=黒字)となっている。ちな
みに、世界銀行などの国際機関は、メキシコ政府(貿易数字の実務担当はメキシコ国立貿易銀行
BANCOMEX)が公表している過少申告の数字を掲載しており、実態とのギャップのあることを
認識する必要がある。
(3) メキシコ石油産業の動向
もう一点、メキシコ経済の特徴である、産油国であることについて述べておきたい。
メキシコは世界第4位の産油国であると同時に、世界第8位の石油輸出国である(但し、
OPECには加盟していない)。03年には原油だけで140億400万㌦を輸出した。天
然ガスの埋蔵量も約100億㌭弱と推定されている。しかし、近年財政上の事情と海外企
業とのベンチャービジネスが法律上制約されていることなどから、新規の油田探査が不十
分となっている。あと19年で、現在の埋蔵量は枯渇するという指摘もある。
メキシコの石油産業の特徴は、国営企業であるPEMEX(メキシコ石油公社)が、石
油関連の事業をほぼ独占していることである。また、PEMEXはその石油収入の約3分
の1を国庫に納めなければならないという、義務を負わせされている。メキシコ政府の財
政収入の約4分の1は、PEMEXからの上納金でまかなわれており、いわばメキシコ財
政の「屋台骨」的な存在である。PEMEXはこれまで長年にわたり政府与党の立場にあ
ったPRI政権時代に、政治的な影響を強く受けた経営を続けてきた。人事面や政治献金
のスキャンダルがあとを絶たなかった。
注目すべきは、近年の原油価格の上昇というプラス環境にもかかわらず、PEMEX自
体は04年第1四半期には8,670万ドルの赤字を計上しているということである(0
3年は黒字であった)。PEMEXの雇用人員は13万9000人に上る。若干少ない量の
原油を輸出しているベネズエラの石油公社(PDVSA)のそれが約4万人であるのと比
較して、いかにも過剰雇用であるという印象を拭いきれない。
なお、今回の日墨EPAでは、「付属書8 国家に留保された活動」において、メキシコ
は「石油その他の炭化水素および基礎石油化学物質」の活動を排他的に行う権利及びこれ
らの活動における投資財産の設立を許可することを拒否する権利を留保する、と明記して
いる。このように、メキシコは石油産業の貿易と投資の自由化については、慎重な姿勢を
崩していない。
67
2 依然として解消しない農村の貧困問題
1)メキシコの貧困の実態
米州開発銀行(IDB)の調査によると、メキシコの貧困状況は次のようである(表3参
照)。1989年には貧困層は世帯数の約40%、人口の47.7%を占めていた。この状
況は96年に悪化するが、その後は改善傾向にあり、02年にはそれぞれ31.8%、3
9.4%となっている。また極貧層も減少し02年には世帯数で9.1%、人口では12.
6%に推移した。これをラテンアメリカ全体の数字と比較すると、ラテンアメリカ諸国が
01年から02年にかけて数値が悪化しているのと対照的に、メキシコは改善している。
しかし、貧困層の絶対数は、92年の4450万人から02年には5240万人へと増加
している。
メキシコの貧困状況が改善傾向にあるとはいえ、依然として全世帯の3分の1強が貧困
状況に置かれていることは、解決を迫られている重要な課題であることは明白である。さ
らに、農村における貧困(あるいは国内の地域間格差)が大きいことも、見逃してはなら
ない。北東部では32%の人口が貧困状態にあるのに対して、南部ではこの数字は70%
に上昇している。
年
1989
1996
2000
2002
表3 メキシコの貧困状況(%)
極貧層(2)
貧困層(1)
世帯
人口
世帯
39.0
47.7
14.0
43.4
52.9
15.6
33.3
41.1
10.7
31.8
39.4
9.1
人口
18.7
22.0
15.2
12.6
1990
1997
1999
2000
2001
2002
ラテンアメリカ全体の貧困状況(%)(3)
貧困層(1)
極貧層(2)
世帯
人口
世帯
41.0
48.3
17.7
35.4
43.5
14.4
35.4
43.9
14.1
34.5
42.5
13.8
35.0
43.2
13.9
36.1
44.0
14.6
人口
22.5
19.0
18.7
18.1
18.5
19.4
(1)必要最低限の食糧・社会的なサービスを受ける収入に満たない層。極貧層を含む。
(2)必要最低限の食糧を得る収入に満たない層。
(3)ハイチを含む18カ国の平均値
出所 IDB(Inter-American Development Bank), Panorama social de América Latina 2004 .
前述の「農村のための国民合意」の成立の背景には、地方農民の不満の増加しているこ
とが挙げられ、そうした政府への要求が数十万人規模の反政府デモとなって顕在化した。
メキシコでは06年7月の大統領選挙を控え、政治の季節に入っている。農民票をいかに
68
取り込むかということが、優れてセンシティブな政治的イッシューになっており、農村の
貧困問題はこうした観点からも、見逃すことはできない。
2)「農村のための国民合意」を巡るその後の動き
先に触れたように、「農村のための国民合意」は、NAFTAがスタートして以来の、政
府と農業セクターとの間の、重要な政策合意であった。メキシコの農業政策を見る際に、
考慮すべき内容を含んでいる。そこで以下、合意内容の履行状況などについて述べること
にしたい。
「農村のための国民合意」では、政府がNAFTA締結国との間で、即時にトウモロコ
シ、フリホルの自由化の貿易措置について見直すこと。農産物の輸入やそれに類似するこ
とで、国内の生産者、国益、食料安全保障が脅かされることから保護するための恒久的な
メカニズムを設置することに、締結国間で合意すること。農業部門への融資を増大するこ
と、などを約束している。
メキシコ国内の有力日刊紙であるレフォルマ紙は、合意の履行状況について、常設農業
議会(Congreso Agrario Permanente)のメンバーとなっている農業諸団体の評価を基に調
査したところ、次のような結果であった。まず、農業金融については、農業部門の開発銀
行として農業金融開発銀行(Nacional Financiera)が創設されたが、前政権時代の同種の
農業開発銀行で、すでに解散されたBANRURALの融資額実績の約3分の1に減少し
ていると指摘されている。また、トウモロコシ、フリホル、養豚部門の代表は、政府金融
機関からの融資状況が悪化していると感じていると報告している。
他方、米国からの穀物輸入が増加しており、USDA(米国農務省)の数値では04年
1月から2月ですでに4億1000万㌦輸入している。また、PROCAMPOの援助対
象の対象地を拡大するための予算措置として6億5000万㌷(約5726万㌦)を計上
しているが、SAGARPA(農業・牧畜・農村開発・漁業・食品省)はその使途を公表
していない。農業ベンチャー企業への融資資金として3億㌷を計上しているが、使途が公
開されていない。
このように「農村のための国民合意」が成立した後の、政府と農業セクターとの間には、
依然としてかなりの対立がある。農業部門は、政府が主張するような、農業金融の拡充が
不十分であるとし、さらに米国からの穀物輸入の増加に対して、神経を尖らせている。合
意では、メキシコの農業政策の問題点を専門学術機関に依頼し調査するという内容の約束
も、盛り込まれてあった。これに従い、メキシコ政府は農業関連の地域国際機関であるI
ICA(米州農業協力機構)に調査を依頼し、その一部はすでに公表されている。これに
69
よると、米国と比較した場合、メキシコの農業政策には、かなりの数の行政機関が介入す
るため、非効率かつ煩雑になっていると指摘している。
3 NFATA の10年間の実績についての世界銀行の報告
1)NAFTAによるメキシコ農業へのマイナス効果は軽微
2004年は94年に発足したNAFTAが10周年を迎えた、節目の年であった。こ
うしたこともあり、いくつかの国際機関、シンクタンク、研究機関は、この間に発生した
さまざまな経済的な利益と不利益について調査し、公表している。世界銀行も報告書「N
AFTAの教訓」(Lessons from NAFATA 以下、世銀報告書と略)を公刊した。執筆し
たのは3人の世銀エコノミストである。おそらく、この種の調査としてはもっとも包括的
で影響力もあると思われるので、以下その概要を紹介する。
世銀報告書では、NAFTAがメキシコ経済に与えた影響を積極的に評価している。こ
れによると、メキシコの輸出はNAFTA効果により25%増加したこと。同様に、直接
投資も40%増加したとしている。さらに、農業部門への影響については、「NAFTAは
当初予想されていたような、マイナス効果を与えることはなく、NAFTA締結後、反対
に国内生産も貿易も増加した。なぜNAFTAがメキシコ農業にマイナスの影響を与えな
かったのか、という質問のほうがかえって返答に窮する」と述べている。
この疑問に対して、同報告書は次のように説明している。1996年から2000年の
間に、メキシコと米国の両国で比較的高い経済成長が達成されたこと。メキシコ農村部な
どの潅漑が改善されたことで、農業の生産性が上昇したこと。後述するPROCAMPO
やアリアンサ・パラ・エル・カンポなどの農業部門への直接所得支援プログラムが有効に
機能したこと。農村の底辺層は従来から市場向けではない、自給用のトウモロコシやその
他の生存維持農業に従事しているために、NAFTAの影響をあまり受けないからである、
と指摘している。さらに、こうした底辺農民は、NAFTAによる自由化で、国内消費向
けの基礎食糧の価格が下落したことで、むしろ恩恵を受けたとしている。
2) メキシコの農業保護政策の動向
(1) 農業保護政策の変遷
上記の疑問を解く鍵のひとつは、NAFTAスタートと歩調を合わせて大幅な改革が実
施された、農業保護政策の進捗状況であった。そこで、以下この点について述べることに
する。
メキシコの農業保護政策は、次のような変遷を辿っている。1980年代にメキシコを
襲った債務危機の影響を受け、農業補助政策が大幅に変更された。基礎穀物などの需給を
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コントロールしていた公社であるCONASUPOの活動が縮小し、これに代置するもの
として農産品の流通委員会であるASERCAが設立され、ソルガムや小麦の買い入れ価
格が、国際価格水準を配慮したより実勢に近いもになった。
95年の通貨危機注2を経て、CONASUPOのトウモロコシと大豆の買入価格の決定
権が喪失し、この2品目への政府の国内価格支持政策が解消した。その後も、CONAS
UPOの市場介入は減少し続け、99年には廃止されたのである。その後、メキシコの主
食であるトルティーリャの原料であるトウモロコシの価格は、以下紹介する農民への直接
支援プログラムであるPROCAMPO(Programa de Apoyos Directos al Campo) に変
更することとなる。
注2
1994年末から95年初にかけて起きた、通貨ペソの大幅な切り下げとそれに伴う経済危機。
この間のペソの切り下げ幅は65%に達し、米国の500億ドルにのぼる金融支援を仰いだ。テキ
ーラショックとも呼ばれている。
(2) PROCAMPOの概要
PROCAMPOは94年のNAFTAスタート直前に、当時のサリーナス・デ・ゴル
タリ
メキシコ大統領(在任期間1988年―94年。ハーバードで農業経済学の博士号
を取得した気鋭のエコノミストであると同時に、学生時代から頭角を現した政治家でもあ
ったが、大統領の任期終了後さまざまなスキャンダルに巻き込まれ、現在アイルランドに
在住し、帰国できない=事実上の国外逃亡状態が続いている)の強力なリーダーシップの
もとで実施された、大規模な農業支援プログラムであった。
メキシコ政府によるPROCAMPOの説明では、同プログラムはいかなる政治的な影
響をも受けない、公共的な性格を有し、その資金は政府財政支出によるものであるとして
いる。プログラムの実施にはSAGARPAがあたり、主目的は農村の生存維持農業を行
う農民に対する直接保護である。これは、従来のメキシコ農業の価格支持政策からの大き
な転換を意味していた。特定作物の価格支持政策から、作物の品種に関係なく耕作面積に
応じた補助金を現金(銀行の指定口座への振込み)で支給することで、農作物の転換を促
進するという、競争力強化の役割も同時に担っていた。農業保護政策の抜本的な見直しは、
伝統的な農作物(トウモロコシ、小麦、大麦、大豆、フリホル、綿花など)への価格支持
政策が既得権化し、政治的にも利用され、農作物品種の固定化を増していたことへの反省
や、さらにテキーラショックなどのメキシコを取り巻く経済環境の激変が、不可避的に招
来した事態でもあった。
PROCAMPOは94年7月25日付けの官報公布により正式にスタートするが、プ
ログラムの実施そのものは農地の登録確認が開始された93年末であった。PROCAM
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POの条文では、「220万人の地方農民が、生存維持部門の農業に従事しており、農作物
を市場に供給することのできる農家との間に、著しい所得不均衡を生んでいる。そこで、
本法(PROCAMPO)では、作物の如何にかかわらず、耕作している農民に直接補助
金を払うことで、零細農民の生活向上を目指すこととする。また、直接補助は、森林の保
全、土壌劣化の抑制、水質の向上に寄与するであろう」と述べている。
同法の適用の対象となるのは、93年8月以前の、秋−夏、もしくは春−夏のサイクル
で、トウモロコシ、フリホル、小麦、米、ソルガム、大豆、綿花、カルダモン、大麦を、
面積にかかわらず、土地登記のなされている農地で耕作していた農家を対象とする(従っ
て、この時限以後に新規に耕作を行っても、原則として補助支給の対象からは除外される)。
また常緑樹、サトウキビの耕作地はプログラムの実施対象から除外される。PROCAM
POの施行期間は15年間で、08年には終了することになっている。
PROCAMPO以外の主要な農業支援策としては、1993年に創設されたアリアン
サ・パラ・エル・カンポ=農村のための同盟(Alianza para el Campo)がある。このプロ
グラムの主目的は、農産物の生産性を向上させること。農産品の加工業に農家を統合させ
る形で、投資と公衆衛生プロジェクトへの資金を拠出することで、農業活動を促進するこ
とである。より利益の望める果物や野菜への転作も意図されている。また、このプログラ
ムの特徴は、実施面での地方分権化が進んでいることで、各州レベルの意思決定が尊重さ
れている。
(3) 農業金融の動向
農業金融の分野でも、90年代以降大きな変化があった。農家への公的金融機関(中心
的な機関はBANRURAL)からの融資及び融資助成が急減したが、背景には、逼迫し
た政府の財政事情、融資の焦げ付き(=債務不履行)の増加あるとされている。政府によ
る農家への融資減のマイナスの影響は、当初、民間金融機関が補完的に融資を増やすこと
で緩和すると見込まれていた。しかし、民間からの農業金融は必ずしも伸長しなかったの
で、フォックス政権は融資補助の簡易化を目指した法律(「農村の資本への組み入れ」)を
成立させて、伝統的な作物からより利益の見込める作物に転作している、PROCAMP
Oの対象農家に、融資を行う方針を採っている。
3)評価されるPROCAMPO
世銀報告書は、NAFTA施行後のメキシコ農業の比較的良好なパフォーマンスを、も
っぱらPROCAMPOによる農家への直接支援が有効であったからであるとしている。
OECD(経済協力開発機構)の資料でも、1980年代から90年代後半にかけて、メ
キシコ農業に対する政府の補助金の支出割合は、全体ではほぼ横ばいであるにもかかわら
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ず、PROCAMPOに対する支援が増加していることを示している。
さらに、PROCAMPOの特色である、補助の支出と、現在の作物と将来の作物を結
び付けないという方針(背景には、より輸出競争力の見込める、非伝統的作物への転換を
促進する意図がある)を、従来の価格支持政策と対比的に考察している。農業生産者に対
する補助の割合は、1999年から01年の年間平均で、米国では23%、カナダでは1
8%、メキシコでは18%と推計されている。長年にわたり実施されてきた農産物の価格
支持政策から、生産者への直接支援という大幅な軌道修正に、メキシコはかなりスムーズ
に転換することに成功した。OECDによると、メキシコの伝統的な農産品への補助はそ
れでも依然として高い水準にあり、カナダが9%であるのに対して、メキシコは20%で
あると指摘している。
PROCAMPOが従来の価格支持政策から、農家への直接所得補償への大きな転換で
あること。さらに、補償対象者は作物の種類にかかわらず、単位あたり一定の基準額を、
実際に耕作している面積でかけ合わせた金額を現金で受け取ることとなり、農家の転作が
促進された。これには、同じトウモロコシでも、輸入競合財である飼料・加工用のデント・
コーンから、食用のフラワーコーンへの生産のシフトなど、同一作物間の転換も含まれて
いると推測される(小麦についても、パン粉用からスパゲッティの原料となるデュラム小
麦への転換が進んだ)。かくして、自給用の伝統的な農作物の生産性も上昇したのである。
世銀報告書は、当初予想されたような、貿易自由化によるメキシコ農業の大打撃は回避さ
れた、と指摘している。それでは次に、NAFTAによる農産品貿易の推移について、世
銀報告書の内容に沿って紹介する。
4 NAFTAによる農産品貿易自由化の動きの経緯
NAFTA発効後、いくつかの農産品は即座に自由化された。米国とカナダからのソル
ガム、ゴマ、ひまわりの関税が撤廃された。98年1月からは、大麦、ソラマメ、トウモ
ロコシ、綿花、大豆などが自由化された。
NAFTAは輸入量制限を関税割り当てに転換した最初の貿易協定となった。関税割り
当ての対象になったのは、NAFTAに参加する3カ国が、センシィティブと認めた産品
である。トウモロコシと乾燥豆の輸入については15年間の経過措置が定められている。
関税割り当ては穀物と大麦についても設定された。割り当て量は89年から91年までの、
メキシコと相手二カ国との貿易量の実績をもとに算出された。これにより、94年のトウ
モロコシの割り当て量は、米国が250万㌧、カナダは1000㌧であった。関税率はト
ン当たり206.4米㌦に決められた。95年以降、割り当て量は拡大されることになり、
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07年12月までには、完全な自由化が実現される見通しである。
95年1月にメキシコはウルグァイラウンド合意に従い、WTO加盟国に対する農業保
護の枠組みを変更した。メキシコのNAFTAとWTO加盟国との、貿易上の履行条件の
相違点は次のようである。
第一に、カナダと米国に対してはこれ以外の国よりも、より多くの割り当て量とより低
い関税率を適用すること。第二に、商品に応じて03年あるいは08年までに、カナダと
米国からの輸入に対しての、あらゆる貿易上の障壁を撤廃する一方で、WTOメンバーに
ついては、95年の割り当て量と関税率を維持しつつ、95年から2000年の最恵国待
遇の関税率を平均で24%引き下げること。なお、メキシコはNAFTAで定められてい
るセーフガード措置実施の権利を保留している。
NAFTAにより、メキシコが潜在的な競争力を有すると見られる、果物と野菜の貿易
が自由化されたが、米国はこうした品目についての自由化措置を即座に施行したわけでは
ない。94年の段階で、ぶどう、マンゴ、パイナップルの貿易制限が撤廃されたのみであ
る。全ての果物と野菜の関税が撤廃されるのは、08年の予定である。
5 日本・メキシコEPAの概要
1)合意内容の概略
2004年9月17日、小泉総理とフォックス大統領の間で、「経済上の連携の強化に関
する日本国とメキシコ合衆国との間の協定」(略称 日墨EPA)が調印された。ここでは
事実関係に絞って、農業部門の自由化の概要などを紹介する。まず、従来しばしば使用さ
れてきた、「自由貿易協定=FTA」が「経済連携協定=EPA」となっている点に留意す
る必要があろう。FTAは「物品の関税やサービス貿易の障壁などを削減・撤廃」するこ
とを目的としているのに対して、EPAは「水際及び国内の規制の撤廃や各種経済制度の
調和」を含んだものであるとされる。FTAはEPAの「主要な内容のひとつ」であると
説明されている注3。
注3
農林水産省、経済産業省の各ホームページ参照。
2)農産品自由化の主要点
農林水産品約1200品目について関税の撤廃・削減などを盛り込む。メキシコからの
農林水産品輸入の97%をカバーしている。焦点となったのは、次の農産品5品目の扱い
である。
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豚肉:
従価税率を半減(4.3%から2.2%)し、特恵輸入枠を初年度3万800
0㌧、5年目に8万㌧とする。
オレンジジュース:
関税率を半減(25.5%から12.7%)し、特恵輸入枠を初
年度4、000㌧から5年目に6,500㌧(濃縮換算)とする。
牛肉、鶏肉、オレンジ生果:
市場開拓期間を設ける。鶏肉は1年間、牛肉、オレンジ
生果は2年間。市場開拓枠はそれぞれ10㌧(無税扱い)
。市場開拓期間後、牛肉
は3,000㌧から6,000㌧(5年目)、鶏肉は2,500㌧から8,500
㌧(5年目)、オレンジ生果は2,000㌧から4,000㌧(5年目)に拡大。
なお、いずれの品目についても、関税水準は市場開拓期間満了までに再協議する
ことで決着した。
その他の品目で、関税の即時撤廃されるのは、アスパラ、かぼちゃ、パパイア、マンゴ、
アボカド、丸太、エビなど。3−5年で関税撤廃するのは、メロン、グレープフルーツ、
ぶどうジュース、コーヒー豆、サンフラワー油、単板、ウニ等。7−10年で撤廃する品
目は、ナシ、サクランボ、モモ、グレープフルーツジュース等。無税枠を設定するのは、
はちみつ、トマト加工品等。関税削減の対象となる品目は、いわし、いか等である。
以上が農産品のみに絞った、自由化品目の概要である。なお、日墨EPA文書の第14
5条では、農業分野における両国間の協力について定めてある。これによると、
「農村開発
の経験、農業者に対する資金援助のノウハウ及び農業協同組合の制度に関する情報及びデ
ータの交換」、「農業の分野における科学技術に関する共同研究の奨励」をすることとなっ
ており、今後、この方面での両国間の協力が推進されることが期待されている。
3)メキシコ側の反応
メキシコ側では今回の協定合意に敏感に反応し、対日輸出の拡大に向けた取り組みをす
でに開始している。例えば、メキシコの特産品である蒸留酒のテキーラがそうである。テ
キーラはリュウゼツラン科の植物であるアガベが原料である。ハリスコ州など限定された
土地で生産されたものにしか、テキーラ表示が認められておらず、原産地表示が厳格に規
定されている。
協定発効後には、現行の1㍑当たり25.2円の関税が即時撤廃されることになる。0
3年の日本のメキシコ産テキーラ輸入額は6億8000万円であるが、日本でテキーラが
静かなブームになっていることから、輸入の増加が見込まれている。テキーラ産業会議所
の代表は「EUとのFTA発効で、テキーラの輸出量が倍増した。日本市場にも100%
自信を持っている」と強気の姿勢を見せている。
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結びに代えて
本報告書は、昨年9月に調印された日墨EPAの重要性に配慮して、まず、メキシコの
農業セクターの現況を概観した上で、日・メキシコ間の貿易のあらましについて述べた。
その上で、世界銀行の報告書を参考にしつつ、NAFTA後のメキシコ農業の実績につい
て検討し、それが当初危惧されたような大打撃を受けなかった理由のひとつが、PROC
AMPOなどの農業支援政策が有効に機能したことである点を紹介した。
しかしながら、一方では、「農村のための国民合意」に象徴されるような、NAFTAの
もたらせた農産品などの貿易自由化により、マイナスの影響を受けた農業関係者の不満も
依然として大きいことも紹介した。貧困層の割合は若干減少しているが、絶対数では増加
しているし、特に農村における極貧層の存在が、政治的にも不安定な要因となっている。
メキシコは06年に大統領選挙を控え、政治の季節を迎えている。
最後に、今般署名された日墨EPAのなかで、農産品の取り扱いを巡る主要な内容につ
いて紹介した。なお、同協定では、両国間の農業セクターに関連する共同研究を奨励する
ことを明記している。今後、この方面での活発な交流を期待したい。特にこのことを強調
するのは、NAFTAの場合、10年を節目として、複数の研究機関がその成果について
のかなり大規模な研究プロジェクトを立ち上げ、掘り下げた内容の報告書を提出している
からである。
日墨EPAが10周年を迎えるであろう2015年に、両国間の貿易、投資などにどの
ようなプラス(あるいはマイナス)効果が現れているのであろうか。今後の推移について、
継続的に注視する必要があると思われる。
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主要参考文献
小西大輔(2004)「メヒコ 万華鏡」 『日墨協会会報』 2004年11月号
田中高(2004)「NAFTAを巡るメキシコ農業の環境変化について」『海外情報分析
米州地域食料農業情報調査分析検討事業実施報告書』 ㈳ 国際農業交流・食糧支援基金
谷 洋之(1995)「サリーナス政権の農業政策」『ラテンアメリカ・レポート』第12
巻 第12号
経済産業省ホームページ(http://www.merti..go.jp) 対外経済政策の項。
農林水産省ホームページ(http://www.maff.go.jp) 海外農業情報トピックスの項。
CEPAL (2004), México: Evolución Económica durante 2003 y Perspectivas para 2004.
Lederman D., Maloney W.F., Serven L,(2003), Lessons From NAFTA for Latin America and the Caribbean
Countries: A Summary of Research Findings, The World Bank (www.worldbank.org./laceconomist)
EIU, Country Report: Mexico
各号
Audley J., Papademetrios D.G., Polaski,(2003), NAFTA’s Promise and Reality: Lessons from Mexico
for the hemisphere, Carnegie Endowment for International Peace (www.ceip.org/pubs)
SAGARPA ホームページ (http://www.procampo.gob.mx/procampo)
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