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石油に関わる中東情勢 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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石油に関わる中東情勢 - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
石油に関わる中東情勢
-サウディとイランを中心に(2016年6月)
2016年6月23日
調査部
増野伊登
1
本日お話しすること
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
2
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
3
OPEC総会で合意に至らず
第169回OPEC総会の結果(2016年6月2日)
 生産調整に関する協議は決裂
• OPEC全体の原油生産上限の再設定(2015年12月以降適用停止)
に賛同するサウディアラビアほか加盟国に対し、イランは国別
生産枠でなければ意味なしとの姿勢崩さず、合意に至らず。
 世界の石油市場の展望について、安定に向かっていることを確認
• 需給がバランスに向かうという兆しが見え始めた今、生産調整
の必然性自体も薄れてきた。
 新事務局長としてナイジェリアのバーキンド元NNPC総裁を選出
 次回開催は11月30日(ウィーン)、9月にアルジェリアで別途会合?
4
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
5
サウディアラビアの石油担当大臣が交代
サルマーン国王(2015年1月~)新体制作りに向けた動き
 2016年5月の勅令に基づき、省庁再編と内閣改造を実施
➝ 石油・鉱物資源省はエネルギー・工業・鉱物資源省に
➝ ヌアイミ石油・鉱物資源大臣を解任、ファリハ保健大臣兼サウ
ディ・アラムコ会長をエネルギー・工業・鉱物資源大臣に任命
 石油大臣は一テクノクラート。エネルギー資源の権益を国王が保
有するサウード王家体制が変わらない限り、石油政策の根本が大
きく転換する可能性は低い。
6
サウディアラビアの石油政策①
(OPEC総会時のファリハ大臣発言から)
一貫した生産方針
出典:エネルギー・工業・鉱物資源省公式HP
 「過剰な生産で石油市場にショックを与える意図はない」
 「需給のバランスを考えた生産」
 余剰生産能力:「国営サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)は、
余剰能力維持の原則を変えることにはならない。現在の生産能力
(1,250万b/d)を当面維持」
 「このように長期に続く状況(=低油価)において、OPECはスウィン
グ・プロデューサーにはなり得ない。それは、自らの市場シェアを犠
牲にして、高コストの石油に市場を明け渡すことに他ならない。
OPECは、財政危機などの例外的で一時的な状況においてのみス
ウィング・プロデューサーとしての役割を果たし得る」
7
サウディアラビアの石油政策②
(OPEC総会時のファリハ大臣発言から)
低油価は投資縮小には繋がらない
 「我々は投資を続けていく。自然減退を食い止め、現在の生産能
力を維持していくためには投資し続けていくことが必要。今後もプ
ロジェクトは立ち上がっていき、精力的に掘削を実施」
サウディアラビアで
は、油価低迷による
財政悪化を受けても、
投資・生産活動は停
滞せず。
 低コスト(耐久力)
 民間企業とは判
断基準が異なる
8
イランの石油政策と生産動向
 国営石油会社NIOCの再編
ジャヴァディ総裁が辞任、カルドール副総裁が総裁に就任
 ただし、イランの石油政策は一貫しており、変化なし。制裁前のレ
ベル(400万b/d)に回復した後に生産調整に応じる姿勢を維持。
 「原油生産量を制裁解除後直ちに50万b/d、半年後に更に50万b/d
増加」は叶わなかったが、制裁前のレベルに戻りつつある
(イランによれば、5月の生産量は360万b/d、6月は380万b/d)
400
万b/d
イランの原油生産量
 イラン西部のザグロス堆積盆
に林立する10弱の主力陸上油
田が同国原油生産量の75%以
上を産出(次頁参照)
380
360
340
320
300
280
260
2016
1月
2月
3月
4月
5月
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
240
出所:IEA
油田名
アフワズ
マスジェデ・スレイマン油田群
マルーン油田群
アガジャリ
ガチサラン
ビビ・ハキメ
カランジ
パルシ
サルマン(洋上)
9
(単位:万b/d)
石油埋蔵量
石油生産量
石油生産量
(推定)
(2011年推定) (2015年推定)
50億bbl
70
40
7~8億bbl
10~15
10
40億bbl
50
40
10億bbl
10
10
30億bbl
40
30
6億bbl
80~90
60
10億bbl
15
15
4億bbl
6~7
7~8
3億bbl
6~7
5~7
各種情報からJOGMEC調査部推定
イランの主力油田
 アフワズ
 マスジェデ・スレイマン
 ハフト・ゲル
 マルーン
 アガジャリ
 ガチサラン
 ビビ・ハキメ
 カランジ
 パルシ
 サルマン(洋上)
10
イランの石油生産目標
 第6次五カ年計画(2016年3月~2021年3月)に基づき、イランは
2021年度の終わりまでに原油生産量を470万b/d、コンデンセート
生産量を100万b/dまで増加させる計画。
イランの原油・コンデンセート生産目標
590
570
550
530
510
490
470
450
430
410
390
370
350
330
310
290
270
250
230
万b/d
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
コンデンセート
2016
2017
2018
2019
2020
2021
原油
2015年までの生産量はIEA統計、2016年~2021年はイラン政府が発表した生産目標に基づく。
11
(参考)日本の原油調達におけるサウディとイラン
2015年、日本への原油供給量で
サウディアラビアは1位、イランは6位。
地域
サウディアラビア
数量(万b/d)
113
シェア
33.6%
その他アラブ(中東)
146
43.2%
イラン
アジア圏
ロシア圏
米圏
アフリカ
合計
17
16
31
11
4
337
5.1%
4.6%
9.1%
3.3%
1.1%
100.0%
日本の原油輸入実績(2015年)
ロシア圏
9.6%
米圏
3.5%
アフリカ
1.2%
イラン
5.3%
アジア圏
4.9%
その他アラブ(中東)
45.5%
サウディアラビア
35.4%
出典:石油連盟統計
12
(参考)原油輸送の拠点ホルムズ海峡
 世界の原油流通の約4割がホルムズ
海峡を通過。
 日本が輸入する原油の8割以上が同
海峡の内側の国から来る。
 サウディには半島横断パイプライン、
UAEにはフジャイラ・パイプラインが
あるが、カタルとクウェートは代替
ルートを持たない。
出典:各種資料よりJOGMEC作成
13
(参考)もう一つの拠点バーブ・ル・マンデブ(海峡)
出典:各種資料よりJOGMEC作成
バーブ ル・マンデブの原油・石油製品の通航量(出典:EIA)
2009
2010
2011
2012
2013
290万b/d 270万b/d 340万b/d 370万b/d 380万b/d
 スエズ運河を介して湾
岸産油国と米・欧州市
場を結ぶ海峡
 原油・石油製品の通航
量は300~400万b/d
 イエメンをめぐるサウ
ディとイランの対立
14
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
15
政治理念の異なるサウディアラビアとイラン
サウディアラビア王国
 サウード家のアラブ王国
 1902年建国の君主制国家(サウー
ド王家)
 ワッハーブ思想(スンナ派)を王国
の根幹に据えて、建国・運営。
出典:サウディ国営アル・ジャジーラ紙、1月16日
イラン・イスラーム共和国
 1979年のイラン・イスラーム革命
で親欧米王朝を打倒
 ペルシア民族による共和国
 国教:十二イマーム派(シーア派)
 イスラーム法学者による統治
 最高指導者職は世襲制ではなく、
法学者間の協議で決定。
出典:イラン国営IRIB、3月31日
16
サウディとイランをめぐる最近の動き
9月の大巡礼(Hajj)をめぐる協議がまとまらず、両国間で続く応酬
イラン側:
 ジャンナティ・イスラム文化指導大臣:「合意できていない。もう遅い。怠
慢はサウディの側にある」(国営通信IRNA)
 外務省:サウディ当局が、ビザの発給をはじめとするイラン人巡礼者へ
の支援提供や、巡礼の安全保証を拒否している。
 政府は大巡礼への同国民の参加を禁止(昨年のイランからの参加者は6万人)
サウディアラビア側:
 巡礼担当省庁の声明:イランの代表団が今年の巡礼のための協定調
印を拒否(国営通信SABQ)
 メディナ裁判所長:イランは意図的にこの問題を政治化している
2015年の大巡礼での死亡事故を受け、今年こそは絶対に失敗でき
ないサウディアラビア。イランは同国の地位低下を狙うのか。
17
両国の相違点=対立の原因 ではない
 多様な民族、宗教、国民意識、言語が入り乱れる陸続きの中東地
域において、国民国家という枠組みを維持するためには何らかの
「装置」が必要。
 サウディアラビアにとっての「装置」はワッハーブ思想であり、イラ
ンにとっての「装置」はヴェラーヤテ・ファギーフ(イスラーム法学者
による統治)。
 両国が依って立つところのこれら政治理念は、それぞれに異なる
宗派を土台にしている。それゆえ、聖者崇拝や王政(統治者の世
襲)に対する価値感も異なる。
 しかし、多種多様な民族や言語が共存する中東において、サウデ
ィアラビアとイランは互いに折り合いをつけながら、直接対決(戦
争)に陥らないように政治的努力を払ってきた。
 昨今の両国間の対立において注目すべきは、なぜ今対立するの
か?互いに何を守るために闘っているのか?ということ。
18
サウディアラビアが抱く危機感
(1979年~2003年)
イランの影響下にある共和制国家が
次第に増え、王制を敷くサウディアラビ
アを取り囲みつつあるという構図
(現在)
出典:各種資料よりJOGMEC作成
19
サウディとイランをめぐる政治情勢
 権力基盤の安定と強化
を目指すサウディアラビ
アと、国際社会への復帰
と自由な経済活動の確
保を目指すイランの利害
は対立。
 現在のところ断交による
経済的影響は限定的な
がらも、種々の問題をめ
ぐって両国の意見の相違
が表面化。
イランと周辺諸国の外交関係
出典:各種資料よりJOGMEC作成
20
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
21
「ビジョン2030」に見るサウディのエネルギー
産業の展望
 「ビジョン2030」が提唱しているのは「脱石油」ではなく、非石油収
入の引き上げによる相対的な石油への依存度の低下
(経済多角化の土台となるのはサウディ・アラムコのIPOであり、石油産業の
重要性自体が下がるわけではない)
 サウディ・アラムコのアミーン・ナーセルCEOの発言(4月26日):
「王国改革のビジョンに基づき、革新、テクノロジー、R&D分野が、産業
が成長する新時代に向け拍車をかけるよう求める。当社は、上流部門
の投資と下流拡張における新規投資に、引き続きリーダーシップを発揮
して、幅広くかつ急速な王国の発展をけん引していくことに寄与する」
「ビジョン2030」におけるエネルギー戦略
原油生産
生産能力1,250万b/dを維持
ガス生産
現在の12bcf/dから2020年までに17.8bcf/dへ増大
再生可能エネルギー 2020年までに3.5GW、2030年までに9.5GWへ増大
製油業
国内原油処理能力を現在の290万b/dから330万b/dへ増強
22
サウディアラビアの「ビジョン2030」とは
 4月25日、ムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子が提出、国王が承認。
基本コンセプト:
• イスラーム世界における地理的最優位性を活用
• 世界的な投資活動の中心となる決意を持つ
• 3大陸の結節点として、貿易・物流のハブに
出典:サウディ国営アル・ジャジーラ紙、1月16日
豊富な鉱物資源と人口の多数を占める若い国民の潜在力を発揮し、
経済を多角化することで世界をリードする国へと生まれ変わる
 ムハンマド副皇太子:「このビジョンは、未来のための現在からの見通し
であり、明日のために、今日から仕事を始めたい。ここには我々の大望を
全て表わしており、我々の国の力を反映させている。」
 サルマーン国王:「目的の第1は、成功し、開拓する国として世界のモデ
ルになること。これを実現するため、貴方方と共に私は働く。」
内容自体は突飛なものではないが、「変化」への強い意気込み。
サウディアラビアとしては近年初となる国家戦略の対外発表を30歳
の新リーダーが担ったことの意味は大きい。
23
1. 活き活きした社会
(参考)「ビジョン2030」の内容
① イスラームに深く根差した価値:小巡礼の受入許容者数を年間800万人(2015年)から3000万人に
増加。ユネスコの世界遺産登録数を2倍以上に(2016年現在4件)。
② その環境は活動的:国内3都市を世界の都市トップ100にランクインさせる。王国内の文化・娯楽活動へ
個人消費を2.9%から6%に上げる。少なくとも週に1回スポーツする人の割合を13%から40%に上げる。
③ 確固たる骨格:社会関係資本指数(SCI)で26位から10位になる。平均寿命を74歳から80歳に伸ばす。
2. 繁栄した経済
① 実りある機会:失業率を11.6%から7%へ下げる。GDPに占める中小企業の貢献の割合を20%から35%
に上げる。労働市場における女性の参入率を22%から30%へ上げる。
② 効果的な投資:経済規模を世界第19位から15位に上げる。石油・ガス産業の就業者を(外国人から)国民
化していき、現在の40%から70%へ増やす。公的投資基金(PIF)の資産を6000億リヤルから7兆リヤル(約1.9兆
ドル)に増加。
③ 魅力的な競争:国際競争力指数(GCI)で世界25位から10位に上がる。GDPに占める海外直接投資の割合
を3.8%から5.7%に増やす。GDPに占める民間部門の割合を40%から65%に拡大する。
④ 利益のある位置:物流効率指数で世界49位から25位に向上させ、地域では第1位となる。GDPにおける
非石油製品の輸出の割合を16%から50%に上げる。
3. 大望ある祖国
① 実効性ある政府:非石油政府歳入を1630億リヤルから1兆リヤル(約2700億ドル)に増やす。世界ガバ
ナンス指標(WGI)で80位から20位になる。電子政府開発指数(EGDI)で第36位から5位以内に入る。
② 国民が責任者:世帯収入(フロー)からの貯蓄率を6%から10%へ増加。GDPに占める非営利部門の割合
を1%未満から5%に上げる。非営利部門で従事するボランティアを現在の1.1万人/年から100万人/年に増加。
24
(参考)「ビジョン2030」達成のためのプログラム
ビジョン実現のため、次の13の計画・手順を発表予定。(祖国変革プログラムが6月6日に発表済)













政府機構再編プログラム:国家的優先事項に傾注するために政府機構を再編。
(戦略的)指針プログラム:政府機関が決定し、包括的業績評価に基づく指針。既に承認済。
財政均衡プログラム:資本支出、その承認手続き、測定可能な経済影響を精査し始めた。
規制見直しプログラム:2015年来、多数の現法規制を見直し、また新規の法規制を定めた。
プロジェクト管理プログラム:経済開発評議会および他の政府機関内に専門家によるプロジェクト
管理室(PMO)を設ける。
業績測定プログラム:業績測定の理論を採用し、全ての機関、プログラム、イニシアティブ及びエ
6月6日閣議承認
グゼクティブの評価において適切に使用されるかを確認。
祖国変革プログラム:行政府の機関が、優先順位に従い、必要な提案を実行させていく。
サウディ・アラムコ戦略的変革プログラム:サウディ・アラムコを石油以外の新部門でも世界を主
導できる企業にする。
公的投資ファンド再編プログラム:公的投資基金(PIF)を世界最大のソブリン・ウェルス・ファンドに
変換する。この目的を成功させるために包括的計画を発表。
人的資本プログラム:人的資本はいかなる事業を成功させる上で重要なファクター。
戦略的協働プログラム:世界の経済体が参画する戦略的パートナーシップを形成。
民営化プログラム:民営化に適した追加部門決定にあたり、包括的な民営化プログラムを策定。
政府部門の統治強化プログラム:政府機関で、不必要な機能を切り、手続きを簡素化し、責任を
明確化するため、引き続き、弾力的に再編。
これらのプログラムに加えて、実行過程で必要となれば、追加のプログラムも発表していくとのこと。
25
(参考)祖国変革プログラム(NTP)2020
 6月1日、ムハンマド副皇太子が経済開発評議会を開催して承
認、閣議に上程。ラマダン初日(6日)の閣議で承認。
 「ビジョン2030」の目標を実現していくために、行政機構を対象と
して、期間5年間で変革していくためのより詳細かつ具体的な行
政改革計画。
全体の提案数は543件
• 45万人の新規雇用を民間部門で創出
• 非石油部門からの政府歳入を1,630億リヤルから5,300億リ
ヤルまで約3倍に増加
• 行政府職員の給与を260億リヤル減らして4,580億リヤルとさ
せ、政府支出の中での割合も45%から40%まで減少
• 成長させようとしている分野:情報通信技術、旅行、非石油
鉱業および製造業など
26
「ビジョン2030」発表の背景
 外的要因
• イランに対する脅威感増大:イエメンとシリアにおける代理戦争
 内的要因
• 国内の世代間乖離:前国王政権はベテラン揃い、一方人口の
多数を占めるのは若年層 若者の疎外感を解消
• 新政権の権威基盤固め 微妙な王家内バランス
• 戦費増加と油価低落による財政圧迫
• 高まる武力闘争の懸念
「ビジョン2030」はなぜ必要だったのか?これがなかったら一体どうい
うことになっていたか?
サウディ王国存立の根本にワッハーブ思想があるという事実は変わ
らないが、その枠組みを維持・強化するための更なる「装置」として、
国民意識を一つにするような国の指針を「示す」ことが必要だった。
27
サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
 「ビジョン2030」では言及されず。詳細は2~3か月以内に発表予定。
 ムハンマド副皇太子の、英エコノミスト誌(2016年1月)とブルーム
バーグ(同年4月)に対するインタビューでの発言:
• サウディ・アラムコを持ち株会社に転換、株式の5%未満を売却
(企業価値は1~2兆ドルと算定)
• IPOで売却しない残りのアラムコ株は、同国の政府系ファンドに移管
(これらファンドはアラムコ株以外に3,000億ドル相当の資産を保有)
• サウディ・アラムコの子会社の上場は第2段階で実施
株式の上場先 サウディ国内の証券取引所「Tadawul」
上場時期
2018年頃
引き受け手
主に国内の投資家だが、外国の投資家にも開放
 史上最大規模になるIPOに世界の注目が集まる。
 イランとの利害対立を抱えるサウディアラビアにとって、IPOは切り
札になり得るか。
28
IPOに対する懸念
 あまりに規模の大きいサウディ・アラムコのIPOによって、サウディ
国内の民間セクターに対する投資が縮小してしまうのではない
か。
 上場予定先のサウディ証券市場「Tadawul」はジョイント・ストック会
社として2001年10月に設立されたばかりであり、現在139社が上
場する規模の比較的小さい市場。サウディ・アラムコのIPOによっ
て流動性リスクが高まるのではないか。
 未だ詳細情報が発表されていないため、リスク評価は今後の課
題。
29
1.OPEC総会(6月2日)の結果
2.サウディアラビアとイランの石油政策
3.サウディアラビアとイランの関係
4.サウディアラビアの長期的展望
 「ビジョン2030」
 サウディ・アラムコの新規株式公開(IPO)
5.制裁解除後のイラン
 「第6次五カ年計画」
 課題:「制裁解除」の恩恵はどこに?
6.まとめ
30
イランの長期的展望
第6次五カ年計画(2016年3月~2021年3月)
 2015年6月末、ハメネイ最高指導者がアウトラインを発表。
 「抵抗経済」(注)、「科学・技術の開拓」、「文化の高揚と強化」の3本
柱から成る。
(注) ロウハニ大統領によれば、「抵抗経済」とは、制裁下にあるイランが、国内生産力の向
上および製品の輸出促進によって、「敵国が経済面での圧力を加えようとしても、それを決し
 関係者発言によれば、 て実行できないよう、自国の経済を耐久力のあるものにすべきだ」ということを意味する。
• 年率8%の成長
• 民間部門の強化(民営化の推進)
• 国防費の拡大(国家予算の最低5%を充当)
• 原油・コンデンセート生産量を其々470万b/d、100万b/dに増加
• 年間の石化収入を180億ドルから410億ドルに増加…
などを目指す。
国内ポテンシャルの引き上げと経済の更なる多角化を進めつつ、
制裁解除後の外国からの直接投資呼び込みで経済発展を目指す。
31
長期的展望における石油の位置づけと現状
「石油を単に主要な収入源としてではなく、経済発展の原動力とする
ようなアプローチへの転換が必要」(ザンギャネ石油大臣、2015年11月28日)
→石油産業の強化を、持続可能な経済発展に繋げていく
<必要なステップ>
 「不公平な」制裁によって失った市場シェアを回復
 対外開放によって石油産業を近代化
• 制裁解除が契約締結に繋がらない焦り
国内への示しもつかず
• 新契約方式IPC(Iranian Petroleum Contract)の完成と発
表→公開入札というプロセスはもはや非現実的
• 水面下で進む相対契約交渉(Totalが一歩リードか)
• 米国大統領選が終わった後に、契約締結に向けた何らか
の動きがある可能性
32
イラン国政選挙とその後の議長選の影響
 2016年2月、国政選挙を実施。
国会(イスラーム諮問評議会)
専門家会議
・議員数290名
・立法機関(ただし権限は限定的)
・イスラーム法学者約90名で編成
・権限:最高指導者の選出・監察・罷免
ロウハニ政権支持派(穏健保守派+改革派)が躍進し、過半数を占めて
いた強硬保守派(現政権批判派)が議席を大幅に失う。
***********************
 一方、5月24日の議長選では両機関ともに保守派が選出される。
 専門家会議の新議長ジャンナティ氏は強硬保守派を代表する一人。
 両選挙の結果は、2017年の大統領選挙と次期最高指導者の選出に
も影響を及ぼす。外資開放に向けた歩みが停滞するとの懸念も。
 一方で、保守派の議長就任は、むしろ政権支持派の大躍進によって
起こり得るイラン政治の不安定化を未然に防いだとも考えられる。
33
(参考)イランの政治体制
ハメネイ最高指導者
(任期なし)
任命
任命
選挙
(済)
選出・監察・罷免
体制利益判別評議会
監督者評議会
専門家会議
護憲評議会と国会間の
調停役として機能
ラフサンジャニ議長
国会が憲法とイスラーム法に抵
触していないかを審議する機関
ジャンナティ議長
88名(法学者のみ)
(任期8年)
ジャンナティ議長
任命
国軍
時に対立
立法
フィールズアーバー
ディ統合参謀本部長
選挙
(済)
イスラーム諮問評議会
国会議員290名
(任期4年)
選挙
革命防衛隊
ジャアファリ―
革命防衛隊総司令官
調停
任命
(アリー・)ラリジャニ
国会議長
任命
認証・罷免
行政
司法
ロウハニ大統領
(任期4年)
(サーデグ・)
選挙
選挙
ラリジャニ
司法長官
2017年
選挙
国民
約8,000万人(うち有権者数約5,500万人)
34
石油戦略の実現に向けた課題
短期的課題
 サウディアラビアをはじめとする周辺産油国との市場シェア争奪
競合する中・重質の高硫黄原油(次頁参照)
長期的課題
 生産能力増強の必要性
 油層管理の最適化(EORの導入など)
• 主力油田はいずれも生産開始から60年以上が経過
• イランの原油生産量は年間7~8%の割合で自然減退
• 2021年までに減少見込まれる150万b/dを埋め合わせる必要
 開発の迅速化
• 隣国との国境にまたがる開発中・未開発油田
 外国からの投資と最新技術の導入が要だが、そのためには米国
制裁の透明性確保とイラン国内の金融セクターの改革がネック。
 サウディアラビアとの対立も投資意欲の減退に繋がりかねない?
35
(参考)イラン原油と競合する他産油国の原油
国内生産量に占
める割合
生産量
(万b/d)
80%
260~280
(1.5~3.0)
-
-
23~36゜
1.8~2.0
63%
723
ガワール、カティーフ、クライス
29~32゜
2.4~2.6
13%
145
ズルフ、マルジャーン
~29゜
2.9~3.0
10%
120
サファーニーヤ, マニーファ
33~34゜
1.8~1.9
20%
60
上部ザクム
30~30.5゜
2.5~2.7
84%
230
ブルガン
29~34゜
3.19
45~50%
220~250
23.5~24゜
4.12
10~15%
50~70
API゜
硫黄分
(wt%)
33~33.5゜
1.3~1.5
29~30゜
1.8~1.9
(24~30゜)
Arab Light
Arab Medium
油種
主要な油田
イラン
Iran Light
Iran Heavy
West of Karun
(販売開始予定)
アフワズ、カランジ、アガジャリ
ガチサラン、マルーン
南北アザデガン、マンスーリ、ヤラ
ン、ヤダバラン
サウジアラビア
Arab Heavy
UAE
Upper Zakum
クウェート
Kuwait Blend
イラク
Basrah Light
Basrah Heavy
ルメイラ、ズベイル、西クルナ1
西クルナ2、ハルファヤ、ミサン、ア
フダブ
(注)いずれもおおよその目安となる数字であり、変動の可能性があ
る。
36
出所:各種情報を基に筆者作成
まとめ
 共に新たな段階へと歩を進めつつあるサウディとイラン
 サウディアラビアの安定的な政権運営においては、今後のイエ
メンおよびシリアの内戦状況と、「ビジョン2030」に対する国民か
らの協力を獲得できるかどうかが鍵を握る。
 イランは今後の経済成長に期待が集まる一方、米制裁の不透
明性と国内の金融改革の遅れが外国からの投資の障害に。国
内に対し、目に見える形で「制裁解除の恩恵」を示す必要。
 「ビジョン2030」 VS 「第6次五カ年計画」
サウディのIPO(株式公開)か、はたまたイランのIPC(新契約方
式)か。
 両国共に投資の呼び込みを国策に据える今、投資する側は、両
国を取り巻く情勢を念頭に置いた上で投資決定を行う必要あり。
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