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都市部トンネル掘削における環境影響予測と変位制御型施工に関する研究
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 都市部トンネル掘削における環境影響予測と変位制御型施工に関す る研究 Author(s) 佐々木, 郁夫 Citation (2004-03-31) Issue Date 2004-03-31 URL http://hdl.handle.net/10069/6903 Right This document is downloaded at: 2017-03-29T10:11:47Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 7章 結論 都市化した地域でトンネルを施工する場合,山岳工法が多く採用されるようになっ た理由の一つに補助工法の発達が挙げられる.本論文は,山岳工法による都市トンネ ルの合理的設計施工の提案を目的として,補助工法の中でも多く採用されている長尺 鋼管先受け工法の解析に基づく効果評価を行うとともに,同工法を用いたオランダ坂 トンネルを対象に地表面沈下を予測し,計測を主体とした情報化施工により環境影響 を最小限とした内容について論じた.そのなかで,解析については可能な限り実際の 現場に近いモデル化を行い全体の基幹を示すとともに,地質・計測情報については直 ちに施工にフィードバックできるような管理を行った.一さらに,採用した対策工につ いてその効果評価を行った. 以下に各章ごとのまとめを要約し,今後の研究課題について述べる. 第1章は序論で,・都市部で増加する山岳工法の現状について述べ,増加の社会的背 景とトンネル工事に,即した環境影響について述べた.また,都市トンネルを山岳工法 で施工する場合の困難さを示し,補助工法が都市トンネルに必要不可欠であるにもか かわらず,その採用には設計者や施工者の経験と判断に負うところが大きいことを示 した.また,解析手法や現場計測データおよび設計手法による既往の研究と課題を整 理するとともに,本論文の位置付けを行っている. 第2章では,過去の施工事例を地質,土被り,補助工法について分類を行い,都市 トンネルを山岳工法で施工した場合の特徴を整理している.その結果,大部分が未固 結地山を対象としており,最大土被りは20m以下のものが多いことを示した.また, 都市トンネルの特徴として挙げられる「低土被り」,「未固結地山」を対象に採用され た補助工法について,先受け工を採用している工事が多く全体の74%を占め,その場 合,鏡面脚部補強を併用している比率は77%を占めた.さらに,長尺先受け工を採用 した場合の挙動評価方法は,地表面沈下や地中傾斜計などの周辺地山の挙動を測定し ているものが66%あり,鋼管の応力やたわみを測定する方法は26%であった. 地表面沈下対策にはいくつかの先受け工が開発されているが,長尺鋼管先受け工は 適用地山の種類が多いことからその採用数は非常に多い.しかしながら,長尺鋼管先 受け工以外の工法は,長尺での噴射改良による補強が困難なことから適用事例数は比 148 較的少ない. また,都市トンネルにおける補助工法の選定については,解析的予測と情報化施工 が重要な役割を担うことを示した. 第3章ではジ長尺鋼管先受け工の設計において,現状でよく用いられる二次元断面 の評価手法との比較を行い検討課題を明らかにした.また,長尺鋼管先受け工は, ト ンネル掘削による地山の挙動が三次元的に変化するなかでその機能を発揮するため』 変位抑制効果を評価するには三次元解析が必要であることを示した. 第4章では,都市トンネルの代表として長崎県オランダ坂トンネルの工事概要と補 助工法の一次選定について概説した.特に,本トンネルは都市部住宅密集地下に低土 被りで構築されることから,環境影響を把握するために土地利用状況や地下埋設物の 把握および井戸の利用状況の周辺環境調査を実施し,その結果を示した.これに基づ き,振動・騒音対策を考慮した掘削工法と地表面沈下の影響を把握するための計測計 画が策定され,その検討結果と現場での管理・運用方法について述べた.そのなかで, 低土被り区間では各種対策工の評価を行うにあたり先行変位の把握が重要となること から,トンネル天端部に先行ボーリ『ングを行い,約40mを一測線とした坑内水平傾斜 計を低土被り区間の全延長450m間に計画し1その評価方法を示した.管理目標値の 設定については, ①一軸圧縮試験から求められる限界ひずみによる管理基準の検討 ②数値解析(FEM)結果を用いた管理基準の検討 ③坑内水平傾斜計を用いた管理基準の検討 ④近接工事における管理基準の検討 を行い,低土被りトンネルの計測管理について着目点を示した. 第5章では,周辺環境影響を可能なかぎり詳細に把握するために施工過程を忠実に モデル化し,三次元数値解析を用いた周辺地山挙動の解析を行った.ごこでは,解析 対象とする軟岩の特徴について記述し,合理的な設計を行うためにはひずみ軟化およ びダイレイタンシーを考慮する必要があることを述べ,そのモデル化を示した.また, 掘削解析の現状と問題点を明確にするとともに,施工過程を忠実に再現する必要性を 示し三次元差分解析法の手法について記述した.つぎに,実際に施工されるオランダ 坂トンネルについて施工過程を考慮した三次元モデルを示し,一部の計測結果から解 析結果との比較を行い解析モデルの妥当性を検証できたことから,未掘削区間につい 149 て地表面沈下の予測を行った.その結果,坑口付近では地表面沈下が40mmに達する ことが明らかになった. 一方,DIクラス程度の軟岩を対象とした地山で,本トンネルで採用された長尺鋼 管先受け工の変位抑制効果について解析と評価を行った.その結果,変位抑制効果は 地山の変形係数が小さいほど,また,地山強度比が小さいほど効果があることを示し た.しかしながら,その効果は大きくて10%程度であることがわかった. さらに,鋼 管のラップ長の違いによる沈下抑制率の差について解析を行った.その結果,鋼管ラ ップ長が長いほど沈下抑制率が高いということはなく,むしろ必要とされるのは切羽 の安定を確保するための十分な先受け残長であることが示された. 以上のことから,長尺鋼管先受け工の変位抑制を効率的に機能させるためには,掘 削後の支保の構造が重要であることを示した.そのためには,脚部沈下対策工,トン ネルの早期閉合,支保の強度増加を目的とした対策工が必要であることを提案した. 第6章では,第5章で行った解析結果と地表面沈下の予測を考慮し,一次選定で計 画された補助工法の検討を行うとともに修正設計の提案を行った. 施工中の調査は,事前調査に比較して詳細な地質情報が得られるため,工学的評価 を行うことにより,補助工法の選定や機械の選定に役立つことを示した.さらに,種々 の計測情報をもとに最適補助工法の選定と実施時期の検討を行い,採用された対策工 について効果の評価を行った.そのなかで,坑内変位計測では計測値の傾向を十分に 把握しながら施工にフィードバックし,対策工の効果を評価した.坑内水平傾斜計で は,本トンネルのように土被りが小さい場合,掘削以前の先行変位を把握することが 重要で,これにより効果的な対策工の選定を可能となることを示した.このように, 効果的な対策工を選定するには,施工中の調査・計測結果を現場に絶えずフィードバ ックすることが重要であることを述べた. 長尺鋼管先受け工の施工そのものによる先行変位の増加について,本トンネルでは 坑内水平傾斜計からその変位量が明らかになった.そのため先行地山の緩み防止を目 的としたビットシステムの改良について記述した. 対策工の採用により変位の減少がみられたが,これをみかけ弾性係数を用いた効果 率により採用した対策工の効果を評価した.その結果,インバート吹付けによる早期 閉合,サイ望ドパイル打設による脚部沈下対策の効果が,坑内水平傾斜計による計測結 果から確認できた.また,地表面沈下測定結果からは,同対策工の効果は確認できな 150 いが,収束時の地表面沈下量は,解析上得た予測沈下量と比較して小さくなっている ことから,この差が追加対策工の効果と考えられることを明らかにした. 結論の最後に,都市部トンネル掘削に部け・る環境影響予測と変位制御型施工に関す る研究について今後の課題について述べる.本論文では,都市部に構築される『トンネ ルの掘削における環境影響を評価するにあたり,実際に施工されている長崎県オラン ダ坂トンネルを対象に検討を行った.補助工法の変位抑制効果については,後行する 上り線のトンネルを対象に長尺鋼管先受け工を主体に評価した.沈下予測解析では上 下線の離隔を設定し,できるだけ現状に近い形で行った.今後,近接トンネルの影響 を考慮し,補助工法の効果を評価するためには,更なる三次元解析の充実が必要と考 える.また,低土被りトンネルにおいて,塑性領域の拡大にともなう緩み荷重の増大 と土被りが徐々に小さくなる中で上戴荷重が減少する過程が不明確で,今後,緩み荷 重の発生状況の解明が課題となる, 151