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運動の相対性について

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運動の相対性について
運動の相対性について
伊東由文 (徳島大学名誉教授)
序
本論文においては, アインシュタインの相対性理論の意味について考察する.
ここで, 現実の物理空間が 3 次元ユークリッド空間であるという事実が大切である.
それ故に, ニュートンの運動方程式を書き表すために用いる座標系は直交座標系でなければなら
ない. したがって, 二つの座標系が直交座標系である場合に, 運動の相対性について考察する.
運動の相対性ということは, 一つの物体の運動を二つの異なる座標系を用いて観測するときの見
かけの運動の違いを理解するものであることを例を用いて考察する.
ボールの運動の見かけの違いについては, NHK が実証実験をしている.
ここで, 妻ムツ子には原稿の TEX ファイルの作成に協力してもらったことに感謝の意を表明し
たい.
1 運動の相対性
本節においては, 運動の相対性についての一般的考察をする.
1.1 現象世界と理論世界
数学や物理学の問題について考察するときには, 主観的, 直観的に考えるだけでは正しい理解は
得られない. 考える現象に対応して理論の枠組や理論モデルを正しく設定して, 与えられた条件に
基づいて考察することが大切である.
いま, 現象世界における現象を現象世界における事象という. 一般に現象世界における事象とい
うのは空間座標や時刻とは無関係である. 人間がその事象を観測するときには, ある座標系を決め
て, ある時刻に, どの位置で起こった事象であるかを記述する. このような事象の観測は現象世界
における事象である. このとき, 物体の位置を表す空間座標と時刻は独立に変動していて, それぞ
れ独立に決められると考える.
理論的研究においては, 理論世界において現象世界の事象に対応する正しい理論モデルを作って,
現象世界の事象に対応する理論モデルの概念についてその理論の枠組みのなかで研究する. これ
は観念世界の事象である観念的存在としての理論モデルの解析を行うのである.
理論モデルにおいては, 運動する物体の位置を決める二つの座標系に対して同一の時間パラメー
ターを用いることができる. 空間の座標系と時刻を表す時間軸は独立に定める.
それに対し, アインシュタインの相対性理論においては, 空間の座標系と時間座標を同列に扱う.
このような空間座標と時間変数の扱いが問題である.
1
アインシュタインの特殊相対性理論において考えているように, 二つの異なる座標系に取り付け
た二つの時計が同時刻を示すかどうかを光を使ってきめるということは観測の問題である. この
ように, 理論モデルの中に, 観測によって同時刻を決めるという現象世界の事象が持ち込まれてい
るところに混乱の因があると考えられる.
観測によって同時刻を決めるということは, 対応する理論モデルにおいて同時刻を決めるという
ことと同じことではない.
本項についての考察に関連する事項に関して, 伊東 [3] を参照してもらいたい.
1.2 絶対空間と物体の運動
物理現象としての物体の運動は人間による観測とは無関係に現象している. このとき, 物体の運
動している空間は座標系のとり方には無関係な存在である. そういう意味で物理空間は「絶対空
間」であると考えられる. そのような物理空間における物体の運動を研究するためには, 一つの座
標系を固定して物体の位置ベクトルの時間的変動として物体の運動を表現する. ニュートンは, 慣
性系を考えた上で, 力学の法則がどう表されるかを調べている.
このとき, ニュートンは一つの物体の運動に対して慣性系と考える直交座標系の一つを基準系と
して定めたときの物理空間を「絶対空間」といっている. これは一つの物体に依存して「絶対空
間」を考えているということであるから, このような「絶対空間」の概念は無意味である. そのよ
うな考えは, 特定の基準の座標系をとって, それを特別扱いしているだけである. それに対し, 人間
の観測とは無関係に現象する物体の運動が現象している空間というのは「絶対空間」としか考え
ようがない.
1.3 空間と時間
物体の運動を考えるとき, 空間の位置と時間についての明確な規定が必要である. このとき, 空
間と時間の概念については著しい相異点があることに注目する必要がある.
実際に実在の物理空間は 3 次元ユークリッド空間であることが実証されている. これについて
は, 伊東 [2], [3] を参照してもらいたい. それ故に, 物体の運動について考察するとき, 理論モデル
において, 空間は数学概念としての 3 次元ユークリッド空間であると考える. これと独立に 1 次元
の時間軸を考える.
このとき, 3 次元ユークリッド空間において xyz 軸が互いに直交するということはいえるが, 時
間軸がこれらと直交するということは意味がない.
さらに, 空間においては幾何学的な形を考えることができるが, 時間軸に関しては, このような
形を考えることはできない. 特に, 空間においては真っ直ぐな直線を考えることができるが, 時間
軸が真っ直ぐな形をしているということを考えることはできない.
3 次元ユークリッド空間において, 点の位置座標は一つの直交座標系を定めることによって決め
られる.
ニュートンの運動法則は, 理論モデルに対して表現されているから, 当然考える座標系に依存し
ている. 物理空間は 3 次元ユークリッド空間であるから, 考える座標系は直交座標系に限られる. 3
次元空間における直交座標系を簡略にして単に座標系ということにする.
現実の物理空間が 3 次元ユークリッド空間であることから, 物体の運動の観測に用いることので
きる座標系は直交座標系に限られる. それ故に, 二つの直交座標系が相対運動できるのは原点の移
2
動と直交座標軸の回転運動に限られる. 現実に行われる観測において用いる直交座標系もこのよ
うなものに限定されている. それ故, 全く自由に座標系を変えられるわけではない. このことから
考えると, ニュートンの運動方程式に従う物体の運動の相対性は二つの直交座標系の相対運動によ
る見かけの運動について考えることになる.
物体の運動に対応する理論モデルは, 数学的概念としての 3 次元ユークリッド空間において, 質
点として表された点の位置ベクトルの時間に依存する変動として表される. その運動法則はニュー
トンの運動方程式として定立される. このとき, 3 次元ユークリッド空間において一つの直交座標
系を定めて考える. 現象世界において観測に用いる座標系のとり方を変えることは, 理論モデルと
しては, 二つの座標系の間の座標変換として表される. このとき, 二つの座標系は等速度で相対運
動をしているか, 加速度によって相対運動をしているかの二つの場合が考えられる. 理論的には,
同一の時刻において空間の点の位置座標を二つの座標系に対して同時に決めることができる.
1.4 運動の相対性
物体の運動を観測するとき, 原理的には直交座標系のとり方は任意である. しかし, 二つの座標
系の相対運動の様相に応じて, 二つの座標系による物体の運動の見かけの様相は一般に異なってい
る. このような座標系によって見かけの運動は違っていることを理解する理論が相対性理論である.
「慣性の法則が成り立つ座標系を慣性座標系, または慣性系である」という表現は正確ではない.
一つの座標系を決めてニュートンの運動方程式を表現するのであるから, 座標系のとり方とニュー
トンの運動の三法則の表現は互いに無関係ではあり得ない. ニュートンの運動方程式において力
の項が 0 になるような座標系が「慣性系」ということである.
慣性系であるかどうかは考える現象の運動方程式との関連によって決められるべき概念である.
したがって, ある座標系をとって, ニュートンの運動法則を表現するとき, 見かけの運動として,
慣性の法則によって運動しているかどうかということが考えられるのである. それ故に, 「慣性の
法則」が成り立つということも考えている座標系に依存することである.
一つの座標系において慣性の法則が成り立っているとき, それに対し, 等速度相対運動をしてい
る他の座標系を用いて見たときにもやはり慣性の法則が成り立っている.
それ故に, ある座標系が「慣性系」であるということは, ニュートンの運動方程式に従って運動
する物体の見かけの運動が慣性の法則に従って運動していることであると定義することができる.
ニュートンの運動方程式を用いないで物体の運動が等速直線運動をしているということは直観的な
考え方である. 物体の運動についての考察は, 物体の運動法則であるニュートンの運動方程式に基
づいて議論しなければならないから, ニュートンの運動方程式と無関係に慣性系を考えることは意
味がない. 物体に力が作用していないときにも, 二つの座標系の一つは慣性系であるとして, もう
一つの座標系がその慣性系に対して加速度運動をしていれば, そのような座標系に対してはニュー
トンの運動方程式は力の作用の因子が加わることになって, その座標系は慣性系にはならないとい
うことである. それ故に, 同じ物体の運動に対してであっても座標系のとり方によってニュートン
の運動方程式の形がかわる. したがって, 物体の見かけの運動が変わる. すなわち, 物体の運動の
軌道を表す曲線の形が変わるのである. それにもかかわらず, その物体の運動そのものは, 見かけ
の運動の形の違いにもかかわらず同一の物体の同一の運動である. このことを数理モデルを用い
て考える理論が相対性理論である.
このように, 従来の研究においては, 現象世界の事象と理論世界における観念的事象との区別が
明確にされていなかったのでわかりにくいことが多かった.
二つの座標系が等速度相対運動をしているときの運動の相対性は「ガリレイの相対性原理」と
して知られている.
3
二つの座標系が加速度相対運動をしているときの運動の相対性は「アインシュタインの一般相
対性原理」として知られている, という言い方は正確ではないかもしれない. アインシュタインに
は一般座標変換という数学的視点しかなかったと考えられる.
アインシュタインが一般相対性理論において, 一般座標変換を考えているということは, 現実の
物理空間が 3 次元ユークリッド空間であるということの認識がないためである. 一般座標変換を考
えることによって, 物理空間が一般の多様体の一種であるといっているのである. 明らかに, 物理
空間についての認識の間違いがあるのである.
したがって, 物理空間が 3 次元ユークリッド空間であることと, 時間軸が 1 次元であることを既
定の事実として運動の相対性を考察することが大切である. 基本的には 3 次元ユークリッド空間
の直交座標系のとり方は任意であるから, 座標系のとり方によって運動の見かけの様相が変わるだ
けである. 特に, ローレンツ変換に対する不変性の要請は特別な座標系のとり方を規定する条件で
あって, 運動そのものを規定する条件ではない. アインシュタインは空間・時間の概念についての
規定なしに経験則として座標変換を扱っている.
物体の運動はニュートンの運動方程式によって決まるのであって, 光速には無関係である. ロー
レンツ変換のように光速に依存する変換は何を意味するのかよく検討する必要がある.
物体の運動は人間による観測とは無関係に現象する. それ故に観測に用いる座標系にも無関係
である. ニュートンの運動方程式は一つの直交座標を用いて表されるということは, ニュートンの
運動方程式はその直交座標系を用いたときの物体の運動の見かけの様相を表していることになる.
理論的研究では, 3 次元ユークリッド空間を考えて, 一つの直交座標系を定めた上でそのその直
交座標を用いて運動法則を表現する. そこで, 用いる直交座標系は任意でよいから, 二つの直交座
標系の相対運動と運動法則の関係を明らかにしておくことが必要である. 時間の変動と直交座標
系の相対運動は独立であると考えるから, 理論的には二つの直交座標系に対して同一の時間変数を
用いる. このような理論モデルを用いて考察する.
物体の運動はニュートンの運動方程式によって決まる. そこには, 観測に用いる光速や音速に依
存する変数は含まれていない. それ故に, 光速や音速は物体の運動に何も影響を及ぼしていない.
物体の運動は運動方程式によって理解するものであるから, それを光速や音速と関連付ける理由は
ない. 二つの座標系相互の関係にも相互に等速度運動をしているか, 加速度運動をしているかとい
うことだけであって, 光速や音速を考える理由は何もない.
二つの座標系は単なる抽象的存在ではなく, 現象としては何かの物体に固定されて物体と共に運
動している. 抽象概念としての座標系が等速度運動あるいは加速度運動をするということは力学
的に考えて意味がない. 実際には, 地球上に固定した観測装置, 人工衛星に載せられた観測装置, 自
動車, 飛行機, 船など様々な運動をする物体に載せられた観測装置などが考えられる. これを理論
モデルとして表現することが問題である.
運動の相対性ということは, 一つの物体の運動を二つの異なる座標系を用いて観測するときの見
かけの運動の違いを理解するものである.
問題は二つの座標系が互いに等速度運動をしているか加速度運動をしているかということだけ
である. したがって,
(1) 二つの座標系が互いに等速度運動をしている場合,
(2) 二つの座標系が互いに加速度運動をしている場合
の二つの場合について考えればよい.
二つの座標系に対して時間座標を共通に定めることが理論モデルにおける同時刻の決め方である.
このようにして, 理論モデルとしての相対性理論があって, それを観測によって実証するという
問題がある. このとき, 観測によって実証することは近似データの範囲でのみ有効である.
4
このとき, 二つの座標系に取り付けられた二つの時計の針が同時刻を示していることを観測に
よって決めるということが問題になる. すなわち, 光速が関係してくるのは光を用いて二つの座標
系に取り付けられた時計の同時刻を決定するためである. このように, 光を用いるのは観測によっ
て得られる現象世界の観測データの扱いに関係している. 観測に用いる信号は光の他に音波を用
いることもできる. それによって観測できる運動の種類が異なるだけである.
現象世界においては, 二つの座標系はそれぞれ別の物体に附属していると考えているから, 二つ
の座標系の相対運動はそれぞれの物体の相対運動と同一視できる. このとき, それぞれの物体上の
座標系に取り付けられた二つの時計による時刻が同一であるかどうかを観測によって決定しよう
とするとき, 光や音による信号を用いて同時刻であることの調整が行われる. このように, 観測に
よって同時刻であることを決めるということは現象世界の事象である. アインシュタインの相対性
理論においては, このような現象世界の事象を理論に持ち込んでしまったのである. しかし, 物理
空間における物体の運動そのものはそのような観測に用いる信号としての光の速さや音の速さに
は無関係である.
それ故に, 運動の相対性という立場で考えるとアインシュタインの特殊相対性理論のように光速
不変の原理を仮定する必要はない. アインシュタインの一般相対性理論においては一般の座標変
換を考えているのに, 特殊相対性理論においては, なぜ光速を一定としてローレンツ変換を考える
のであろうか.
それ故に, アインシュタインの特殊相対性理論におけるローレンツ変換に対する共変性原理は無
用である. ローレンツ変換による共変性は何を意味するのか, よく考える必要がある.
一般相対性理論と特殊相対性理論は, 条件の違いだけであって同じく運動の相対性に関する理論
である.
運動をしている物体を観測するときには, 光や音波などの信号を用いる. このときに, 観測デー
タと理論値の比較において, 観測に用いた信号である光や音波の速さが問題になる.
1.5 電磁場と慣性系
一般に, 座標系を取り換えると運動方程式の形が変わり, 見かけの運動の様相が変わる. このこ
とは, マクスウェルの方程式に対しても同様である. 一般には, 座標変換に対するマクスウェルの
方程式の不変性を考える必要は必ずしもない.
しかし, マクスウェルの方程式を不変にするような座標系の取り換えを考えるということはでき
る. このことは, マクスウェルの方程式に従う電磁波の運動に対する「慣性系」を考えるというこ
とである. 当然, ニュートンの運動方程式とマクスウェルの方程式は考える物理現象が異なるので
あるから, 「慣性系」となるような座標系の種類が異なるのは当然である. ニュートンの運動方程
式と同様に, 「電磁現象もすべての慣性系で同じようになるべき」という要請については, 物体の
運動の現象と電磁現象とでは「慣性系」となり得る座標系が異なるのは当然である.
光が電磁波であるから, 当然他のものから電磁気的な影響を受けるはずである. それが光速の変
化をもたらすとしても実際に観測の精度の範囲で識別できるかどうかということである.
マクスウェルの方程式に対する慣性系をマクスウェルの方程式を不変にするような座標変換で
移るような座標系であるとすれば, 確かに意味付けはできる. そのような変換がローレンツ変換と
いうことである. これがアインシュタインの特殊相対性理論である. しかし, 光速 c が普遍定数で
あると仮定しなくてもよいことがわかっている. マクスウェルの方程式との関係から考えると, 光
速 c と考えられている定数 c は, 実際にマクスウェルの方程式に従って運動している電磁場の伝播
速度であると考えるべきである.
5
実際に, 光速 c は電磁場のポテンシャルの伝播速度に等しい. ローレンツ変換がマクスウェルの
方程式を不変にするように決められていることはローレンツ変換で相対運動している二つの座標
系がマクスウェルの方程式に対する「慣性系」の意味をもっている. このとき, ローレンツ変換に
含まれる光速 c は電磁ポテンシャルの伝播速度と一致していることによって, 二つの座標系から見
た電磁場は同じ形をしていることになる. すなわち, 二つの座標系からみたとき, 電磁現象が同じ
ような現象として観測されるということである. それ故に, 波長の異なる電磁波の種類によって定
数 c の値が変わる可能性は排除できない. 故に, アインシュタインの光速度不変の原理が普遍的原
理であるかどうかについて疑問が残っている.
座標系の取り換えによって物体の運動の様相や電磁現象の様相が変わる. すなわち, 見かけの運
動の様相が変わる. 当然, ニュートンの運動方程式とマクスウェルの方程式は異なる物理現象を表
しているのであるから, ニュートンの運動方程式とマクスウェルの方程式を同時に不変にする座標
変換を考える必要はない. 考えてもよいが, 物理現象の見え方が変わるだけであるから, そこまで
要求して何を知りたいのかという問題がある. どのように物理現象をコントロールするかという
視点が問題である.
運動方程式をローレンツ変換に関して不変な形式に書き換えるということは単に数学的要請で
あって, 実証された物理学的原理や法則に基づくものではないから, そのようにして得られた方程
式は物理学的には無意味である.
物体の運動と電磁場の運動は現象の実相と様相が異なるものである. 原理的に異なる運動を統
一的な理論に統合するのには無理がある. 具体的な物理現象の一つ一つには固有の物理法則が適
合するだけであるから, 無理に異なる理論を統一しようとしても無意味である. 相対性理論におい
ても, ニュートンの運動方程式に従う運動とマクスウェルの方程式に従う運動は原理的に異なるも
のであるから統一理論としての相対論を考えることは無意味である.
2 等速度運動
本節においては, ボールを投げたとき, 互いに等速度運動をしている二つの座標系から見たボー
ルの見かけの運動の様相の違いについて考察する.
ボールを投げたとき, ボールの軌道は 3 次元空間の中の平面的軌道として表される場合を考える.
このボールの軌道が含まれる平面を xy 平面であるとし, x 軸は水平方向に向いていて, y 軸は垂
直方向に向いていると考える. 重力加速度は y 軸方向に垂直に働いているとする.
これについて, 理論モデルを用いて考察する. いま, 一つの直交座標系を固定して考える.
xy 座標系の原点 (0, 0) から, 速度 v = t (v1 , v2 ) の方向へボールを投げるとする. ここでは,
v1 > 0, v2 > 0 であると仮定する. ボールの質量は m > 0 であるとすると, 重力加速度 −g が働い
ているから, ボールに働く力は f = t (0, −mg) である. このとき, xy 座標系で見たときのボールの
軌道がボールの見かけの運動の様相である. 以下に, このボールの軌道は何かについて考察する.
時刻 t におけるボールの位置ベクトルを r = t (x, y) であるとすると, ボールの運動方程式は
m
dr
=f
dt2
と表される. 初期条件は
r(0) = t (0, 0), r ′ (0) = t (v1 , v2 )
である.
6
いま, xy 座標表示において, 運動の方程式は

d2 x


 m 2 =0
dt
2

d

 m y = −mg
dt2
と表される. これを解いて, 時刻 t におけるボールの位置座標 x と y は
{
x = at + b,
g
y = − t2 + ct + d
2
となる. これは初期条件を満たしているから,
{
x(0) = b = 0
y(0) = d = 0,
{
x′ (0) = a = v1
y ′ (0) = c = v2
が成り立つ. ゆえに, xy 座標系では, ボールの軌道は

 x = v1 t
 y = − g t2 + v 2 t
2
となる. ベクトル表示で表すと, ボールの軌道は


( )
0
v1
2


t
t +
r(t) =
g
v2
−
2
と表される. したがって, このボールは, x 方向に等速度 v1 で動き, y 方向には加速度 −g の運動を
している.
ゆえに, ボールの軌道は xy 平面の放物線
y=−
g 2 v2
x + x
v1
2v12
である.
ボールの最高点は放物線の頂点の位置である. このボールの最高点の xy 座標は次のようにして
求められる. まず, 最高点の x 座標を求める. y ′ = 0 より,
y′ = −
v2
g
x+
=0
2
v1
v1
となる. したがって,
x=
v1 v2
g
となる. このとき, y 座標は
y=−
g ( v 1 v 2 )2 v 2 ( v 1 v 2 )
+
g
v1
g
2v12
=−
v22
2v 2
v2
+ 2 = 2
2g
g
2g
となる. ゆえに, ボールの最高点は, x =
v2
v1 v2
の所で, 高さ y = 2 の位置である.
g
2g
7
次に, xy 座標系の原点 (0, 0) から出発してボールの横移動と同じ速さで同じ方向に等速度運動
している ξη 座標系を考える. t = 0 のとき, ξη 座標系は xy 座標系と一致しているとする. ここで,
ξη 座標系で考えたときのボールの軌道について考察する. ξη 座標系のとり方から, 時刻 t におけ
るボールの位置座標 ξ と η は座標変換
{
ξ = x − v1 t,
η=y
によって定められる. このとき,

dξ
dx


=
− v1 = 0

dt
dt
2
2


 d ξ = d x,
dt2
dt2

dη
dy


=

dt
dt
2
2


 d η =d y
dt2
dt2
であるから, ξη 座標を用いて, 運動方程式は
)
( ) (
d2 ξ
0
m 2
=
dt η
−mg
に書き換えられる. 初期条件は
{
と表される. すなわち,
(
ξ(0) = 0
ξ ′ (0) = 0,
ξ(0)
η(0)
)
{
η(0) = 0
η ′ (0) = v2
( ) ( ′ ) ( )
0
ξ (0)
0
=
,
=
′
0
η (0)
v2
となる. したがって, ξη 座標系で見たとき, ボールの軌道は
{
ξ(t) = 0
g
η(t) = − t2 + v2 t
2
である. したがって, ボールは, 原点 (0, 0) から, 最高点 (0,
v22
) まで上昇した後で原点 (0, 0) まで
2g
下降するような垂直運動をする.
このように, 原点をボールの始点に固定した座標系では放物線運動をしているボールの運動は
ボールの水平方向の運動と等しい速度でボールと同じ速さで水平方向に移動している座標系 ξη で
v2
見るときボールの運動は原点 (0, 0) から最高点 (0, 2 ) までの垂直往復運動に見える. これがボー
2g
ルの運動の相対性である. 同じボールの運動がボールの始点に原点を固定した xy 座標系で見ると
放物線を描いて飛ぶ運動に見えるのに対し, ボールと同じ速さで横移動する座標系から見るとボー
v2
ルの運動は原点 (0, 0) から最高点 (0, 2 ) までの垂直往復運動に見える.
2g
同じボールの運動が観測に用いる座標系のとり方に依存して, 放物線運動に見えたり, 垂直直線
運動に見えたりする. このように, 同じボールの運動が互いに等速度運動をしている二つの座標系
を用いて観測したとき, 見かけの運動の様相が異なって見えるということが運動の相対性というこ
とである. これは「ガリレイの相対性原理」といわれるものの一つの例である.
8
3 加速度運動
本節においては, 二つの座標系が互いに加速度運動をしている場合に, ボールの運動の見かけの
運動の相異について考察する.
いま, 高さ h の点から自由落下するボールを考える. ただし, h > 0 であるとする. ボールの質
量は m > 0 であるとする. ボールの最初の位置が点 (0, 0, h) にあるように, xyz 座標系を定める.
このとき, xyz 座標系から見たボールの軌道は何かについて考察する. この xyz 座標系で考えると,
時刻 t におけるボールの位置ベクトル r = t (x, y, z) は運動方程式


0
d2 r 

m 2 =
0 
dt
−mg
を満たす. 初期条件は


 
0
0
 
  ′
r(0) =  0  , r (0) =  0 
h
0
である. このとき, xyz 座標で表すと, 運動方程式は
d2 x
d2 y
d2 z
=
0,
=
0,
= −g
dt2
dt2
dt2
となる. したがって, 時刻 t におけるボールの位置座標 x, y, z は,
g
x = 0, y = 0, z = − t2 + at + b
2
と表される. このとき, 初期条件 z(0) = h, z ′ (0) = 0 によって, z(0) = b = h, z ′ (0) = a = 0 と
なる.
ゆえに, ボール運動の軌道は


 x(t) = 0
y(t) = 0

 z(t) = h − g t2
2
によって与えられる.
次に, xyz 座標系において, xyz 座標系の原点から加速度 −g で自由落下している ξηζ 座標系を
考える. t = 0 のとき, ξηζ 座標系は xyz 座標系と一致しているとする. この ξηζ 座標系から見た
ボールの運動の軌道について考察する.
ξηζ 座標系において, 時刻 t におけるボールの座標 ξ, η, ζ は


 ξ=x
η=y

 ζ = z + g t2 = h
2
と表される. 座標系 ξηζ は xyz 座標系に対し, 加速度 −g の運動をしている. このとき,
ξ ′ = x′ , η ′ = y ′ , ζ ′ = z ′ + gt, ξ ′′ = x′′ , ξ ′′ = y ′′ , ζ ′′ = z ′′ + g = −g + g = 0
であるから, ξηζ 座標系において, ボールの運動方程式は
 
ξ
d2  
m 2 η =0
dt
ζ
9
と表される. このとき, 初期条件は

   
  
ξ(0)
0
ξ ′ (0)
0

    ′
  
 η(0)  =  0  ,  η (0)  =  0 
ζ(0)
h
ζ ′ (0)
0
となる. したがって, xyz 座標系において高さ h の点から加速度 −g で自由落下しているボールは
ξηζ 座標系では高さ h の点に静止しているように見える.
したがって, xyz 座標系に対し, ξηζ 座標系が加速度 −g で自由落下運動しているボールと同じ運
動をしているとする. このとき, xyz 座標系において加速度 −g で自由落下しているボールは ξηζ
座標系から見たとき高さ h の点に静止しているように見える.
このように, 運動の相対性ということは, 座標系のとり方に依存して一見異なって見えるボール
の運動が同じボールの同じ運動の見え方の違いに過ぎないということを示すことである.
また, 地球上に立っている一人の人間と地球の相対運動について考察してみよう. 地球上のその
人の立っている点を原点として地球に固定された xyz 座標系でみると, その人は地球上の一点に静
止しているように見える. しかし, 地球外の一つの星に固定された ξηζ 座標系から見たとき, その
人は地球と共に猛スピードで宇宙空間を運動していることが見える.
このように, 同じ物体の運動がニュートンの運動方程式に従って現象しているとき, ある二つの
座標系を適当にとったとき, それぞれの座標系から観測されるその物体の運動の様相は一般に異
なって見えることがわかる. これが運動の相対性ということである.
このような考察によって, 相対性理論はニュートン力学と異なる運動の原理を与えるものではな
く, ニュートンの運動方程式に従って運動する物体の運動状態を観測するときに, その運動の様相
が観測に用いる座標系に依存しているということをいっている. それ故に相対性理論は運動の理
論ではなく観測の理論であることがわかる.
それ故に, アインシュタインの相対性理論は物体の運動の観測の理論であると考えれば, 正しい
理論であるとわかる.
参考文献
[1]
伊東由文, 算術の公理, サイエンスハウス, 1999.
[2]
——— , 自然哲学原論, プレプリント, 2012.
[3]
——— , 空間・時間・物質, 物理現象の新しい理解に向けて, 実解析学シンポジウム 2013 岡
山, pp.41-44.
[4]
多田政忠編, 物理学概説 (下巻), 改訂版, 学術図書出版株式会社, 1959.
[5]
三尾典克, 相対性理論, 基礎から実験的検証まで, サイエンス社, 2007.
(2014.10.25)
—————————————
伊東由文 (徳島大学名誉教授, 理学博士)
住所: 770-8073 徳島市八万町上福万 209-15
e-mail address : [email protected]
URL : http://wwwa.pikara.ne.jp/yoshifumi
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