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子どもが家を離れた後の母親の生活変化について - TeaPot

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子どもが家を離れた後の母親の生活変化について - TeaPot
PROCEEDINGS 08 143-150
July 2009
子どもが家を離れた後の母親の生活変化について
―イベントに対する変化とその対応についてのヒアリング調査を通して―
花 形 美 緒
(ジェンダー学際研究専攻)
婚をせずに暮らし続け、不満のままエンプティネストを迎
1.研究背景と目的
えるカップルも多く、子どもの離家が婚姻崩壊のリスクを
高くする影響があった(Olga,1998)という報告もある。
中年期という時期は子どもの自立や離家、親の介護や更
子どもが家を離れるということは、家族、特に夫婦にとっ
年期など従来の生活様式が維持できない危機的状況が発生
て、大きなイベントであることは明らかであるが、前者と
しやすい(長津・濱田,1999)。その状況は、多くの人が
後者の違いはどこから生じるのであろうか。
経験するイベントであり、危機(crisis)のなかでもノー
中年危機理論は 1960 年代と 1970 年代に、ほとんどが男
マルクライシスと言えるが、ときに大きなストレスを引き
性のものとして語られた(Stanley.D.,1999)なかで、危
起こす要因(ストレッサー)として位置付けられる。様々
機的移行とは社会生活におけるストレスなど、社会的要因
なイベントを危機的状況ととらえるか否か、あるいは危機
を中心に説明されることが多かった。しかし人生の心理的
であったときにどのように対応するかを明らかにすること
転 機 は、 男 性 よ り も 女 性 が 経 験 す る 傾 向 に あ り
で、中年期以降の夫婦の生活満足度を向上させ、Well-
(Wethington et al.,1997)、そのようなターニングポイント
Being を高めることへの示唆になると考えられる。
はネガティブなライフイベントと関連していた(Wethingt
そこで本研究においては、中年期特有の役割喪失イベン
on,Brown,&Kessler,1995)。とくに日本においては、母親
ト(子の離家)を経験した母親へヒアリング調査を行い、
と子どもの関係が密接で、家族の中で「母子関係+父親」
子どもの離家後の生活変化や意識変化について尋ね、どの
という構造があるとも言われる(中野,1992)ことから、
ように変化を自覚しているのかを明らかにする。またそれ
子どもの離家において変化を感じやすいのは母親であるこ
ら変化にどのような対応をしたのか、あるいは必要として
とが考えられる。これらのことから、子どもの離家という
いたのか、その対応(サポート)は人的資源の有無、ジェ
大きなイベントを母親が危機ととらえるかどうか、どのよ
ンダー意識としての「親役割意識(母親だから、という意
うな移行とその対応がなされているのかを明らかにする必
識)」に影響を受けているのではないか、という視点も含
要がある。
めて明らかにすることを目的とする。
(2)中年期のサポートについて
2.先行研究
中年期夫婦の情緒的ケアについて質問紙調査を行った平
山(2002)は、妻は、自分が夫を情緒的にケアしているが
(1)危機的移行について
夫から妻へのケアはあまりされていないと認知しているこ
子どもが成長し、離家独立したあとに夫婦が残されるこ
とを明らかにした。キャンベラ(オーストラリア)で家族
とを、ひな鳥がすべて巣立ったあとの巣になぞらえて「エ
周期とサポートについての調査を行った野辺(1992)は、
ンプティ・ネスト」という。子ども数の減少や寿命の伸び
家族周期が排出期(子どもが家を離れて生活し始める時期
などが加わり日本の家族にもエンプティ・ネストの期間が
であり、森岡によるライフサイクルの 8 段階説で示すとこ
出現しているという(藤崎,1993)。
ろのⅤ;第一排出期、Ⅵ;第二排出期にあたる)にあると
子どもの離家は、ストレスフルな親役割を減少させ、婚
き、すなわち子ども離家の時期には、両親はあまり資源を
姻における親の生活満足度としての Well-being を増加さ
有しておらず、この時期の女性は親族にはあまりサポート
せ る 関 連 が あ る(McLanahan,S., &Sorensen,A.B., 1985)
を期待できなかったと述べている。このような時期の精神
という研究がある一方、子どもの生活や利益のためにと離
面に被る影響は、仕事や家族、多数の友人等、他の要因の
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PROCEEDINGS 08
July 2009
存在によって緩和される(田畑,2001)とされるため、危
ちょうど、3 つずつ離れてますでしょ、中学・ 機的移行の時期において、どのようなサポートを必要とし、
高校・大学が上二人と、入試が一緒だったんで
誰から、どのように得られたと感じているのか明らかにす
すよ。大変だったと思いますよ。
る必要がある。
大学の入学式には、私行きましたので、女の子(の
入学式)は全部出てます。入学式っていうのは、
3.調査方法
自分のときを思い出しましてね。(中略)私自身、
実家から他県の高校に通いましたでしょ、それ
前回の調査(2005 年実施)では 245 世帯の中年期の父
で大学は東京に行って、その後ここに来たもん
母を対象に量的調査を行なったが、その際に「インタビュー
ですから。(娘たちも同じく)東京の大学に、っ
調査可能」と回答のあった対象者に、再度インタビュー依
ていうのかな。
頼をし、了承の得られた対象者に 1 対 1 の半構造化インタ
子どもとの受験期の関わり方として、何としても合格し
ビューを行った。調査時期は 2008 年 10 月~ 2009 年 3 月
てほしい、という気持ちは強く覚えているが、合格後の離
でインタビューは協力者の自宅や喫茶店などで行われ、所
れるときの感情に関しては語られないこともあった。とに
要時間は 50 分~ 1 時間 30 分程度であった。
かく大変だった受験のことが思い出されるという。この母
調査は、お茶の水女子大学グローバル COE 倫理規定に
親の場合は自身が家を離れた経験が思い出され、子どもも
基づき、主旨説明後、調査協力者の同意のもと行われた。
同様に何とか生活はできるだろう、と考えられるために、
子どもが家を離れたときの事、またそれ以前ことなどを思
心配ごとは少ないようであった。
い出しながら現在に至るまでの自分の生活、家族の生活な
どを中心に自由に語ってもらった。インタビュー内容は同
[母親 D]家から駅まで遠いもんですからね、(高校時代は
意を得て IC レコーダーに録音し、その後テープ起こしを
車で)送り迎えしていたんですよ。だから、決まっ
して文字データとし、データのコーディングを行い分析し
たときは、ホッとしましたね。もう送り迎えし
た。
なくていいんだって。頑張ってたからね。無事
対象者の属性は、表 1 に示す通りである。就業形態は、
に決まったんだって。
フルタイム勤務、パートタイム勤務、主婦と多様であり、
母親として、自分が子どものためにしてあげていたこと
子どもの性別も男女、また現在同居している子どもがいる
の区切りを感じていた。それが親として、子どもが離れる
場合と全員離家独立している場合とがあった。居住地域も
寂しさよりも、子どもの選択の成功を祝い肩の荷がおりる
さまざまであり、本研究のわずかなインタビューデータか
ような気持ちにつながっていた。
ら結果の一般化をすることはできないが、様々な立場の母
親の気持ちとして捉えられることができるデータであると
B「さびしいんだろうな」― 子どもの気持ちを考えて生じ
いえる。
る感情変化
[母親 E]
(長男の出発当日)男の子だったので、東京まで
4.結果
付いてくるな、ということだったので、主人と、
妹と 3 人で飛行場まで送りました。見送って、
ここでは対象となった母親から語られた、子どもの離家
家に帰ってから、涙が出ました。にぎやかなこ
というイベントへの変化と対応について、(1)子どもの離
とが好きな子だし、私もにぎやかなのが好きだ
家が引き起こした感情について、(2)子どもとの連絡頻度
し、あぁ、寂しいだろうなというのが第一で、
や現在までの関わり方について、(3)自分自身の生活の変
生活とか食事とかできるのかな、とそういう生
化について、(4)家族からのサポートについて、の 4 つの
活のことが心配でしたね。今でも思い出したら
視点からの語りをまとめていく。
涙が出ますね。
遠いっていうのと、最初の子どもっていうのも
(1)子どもの離家というイベントが引き起こした感情
あったし、距離も全ても寂しいっていうのになっ
A.「ホッとしました」― イベントが済んだことへの安堵
たのかもしれないですね。
[母親 F]
(長男の大学合格には)ホッとしました。あ、やっ
母親の語りには、「自分が」というよりも「子どもが」
と入ってくれたわって感じで。お勉強も全然し
寂しいだろうから寂しい、という語りがしばしばみられた。
なかったもんですから、2 年浪人してるんですよ。
しかしそれは子どもの性格や距離感によっても違うよう
忘れたから、笑って言えますけどね。
で、同じ母親は以下のように語った。
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子どもが家を離れた後の母親の生活変化について
せる要因でもあるようだ。子どもが、慌てて「来なくてい
[母親 E]女の子やから、頑張るだろうと。大阪は(実家
いから」という意味で「元気だから」という返事すらも、
から)近いし、そんな不安もなくて、そんなに、
楽しみに待っているような語りであった。
と思ったんやけど。主人の方がショックだった
みたいですね。帰りのバスで泣くし。「何で泣く
(2)子どもとの連絡頻度や現在までの関わり方について
ん。近いのに」私は主人を見てたから、泣かず
多くの母親が、携帯電話を使いこなしており、子どもが
にすんだのかな、とは思いますね。
家を離れた当時は電話で、今は携帯メールなどでも連絡を
家にいるときから、一人暮らしをしても大丈夫だろうと
とっていた。子どものところに行く回数は、末子ほど多い
感じられる子どもかどうか、ということも関係しているよ
ようだが、距離や母親の生活によっても異なっていた。子
うだ。また、生活面における心配ごとは多くの母親から語
どもは学校が長期の休みのときに帰ってくるというのがほ
られていた。
とんどであった。
C「大丈夫かな」― 生活を心配する気持ち
A「お金と家族が集まることとどっちが大切なのか考えな
[母親 D]一度(長女は)中学のときにおばあちゃんちに行っ
さい」― 伝えたい家族の絆
てますので、そんなに、大学に行くからって、
[母親 E]いつ帰る、とか、何かがいる、とか、そういう
なかったんですけど。性格も、しっかりしてる
ときはよく連絡をしてきましたね。たいていお
から。でも、二番目の子はね、初めてだし、大
金とかなんですけど。それでも、親としては。
丈夫かな、って。ありましたね、やっぱり。ご
…必ず、夏と冬の休みには帰ってきなさい、と
飯とか、ちゃんとできると思ってはいても、寂
言って。お金がかかるいうんですけど、何言う
しく食べてるんじゃないかなって。
てんの、お金と、家族が皆集まることとどっち
食事面は一番気にかけるところでもあるようだ。母親 B
が大切なのか考えなさい、いうて。
は、子どもたちの生活を知るために、仕送りをする条件と
休みには帰ってくる、そのために子どもの部屋をそのま
して、買ったもの、食べた物のレシートを母親に見せるよ
まに残しているという語りは多かった。母親 A は、受験
うに、とし、そのレシートを並べて、どんな時間に、どん
時に使った赤本(過去問題集)もそのままで、子どもがい
なものを買って食べているのかを知ることで、子どもたち
たときのまま変わっていないと語り、「いつ帰って来ても
の生活を見守っていた。
いいように」、と加えた。
D「寂しくて」― 自分自身の感情変化
B「一緒にいるのは、楽だからだと思うんですよね」― 生
[母親 C]すっごい寂しくて。そうね、子育てはまだ下の子
活の負担軽減と甘えの需要
がいるんで、まだ手がかかるんですけど。長男
[母親 F]一番上の子と、長女は、入学が一緒ですから、二
だったんで。あの、長男は、やっとできた子ど
人一緒に住んで。どちらからか話がくるから、
もだったんですよ、子どもがなかなかできなく
わかるし。1 年に 1 回くらいですかね、東京に行
て、この子、結婚して 5 年できなくて、出来な
くのは。電話すれば声が聞けるし。3 番目の子が
いと思ってた矢先にできた息子だったんで、すっ
東京に行ったときは、向こうも 3 人。こちらも 3
ごい可愛がって育ててたんですね、長男。それ
人で。まとめてだから、生活もね、いろいろ揃
が(家を離れて大学へ)行くってことで、すっ
えるのも人数分ではないし。楽ですよね。特に、
ごい寂しくて。できれば私も付いて行きたい!
1 ヶ月に一回くらいは、主人に連絡しろと言われ
みたいな。最初のうちは、しょっちゅう、電話。
て、連絡したかな。寂しい事はなかったですね。
毎日、電話。しょっちゅう、「何してんの?」っ
(長男が地元で就職、結婚したことについて)取
て感じで。でも息子の反応はいまいちで、電話
られた気がするっていう人がいますけど、私は
しても出てくれない、メールしても返信がない、
どうぞーって気持ちでしたね。長男が同居した
そのうち「お母さん行くわ!」っていうと、よ
いと言ったとき、やだなと思ったんですよ。私
うやく、「元気だから」って。
自身、可愛がってはもらったけど、やっぱり大
親自身の寂しい気持ちは、子どもと同居していたときか
変だったときもあったから。…(長男が同居を
らの関係性にも影響されているようである。親が連絡をす
選択したことについて)一緒にいるのは、楽だ
るのに連絡はこない、ということも心配や寂しさをつのら
からだと思うんですよね。
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長男が別居後、結婚して再度同居という形を経験してい
忙しく、自分のしたいことをしている母親 F は、フル
る母親 F は、
「楽」という言葉を使用した。多くの母親が、
タイムの仕事をしている友人を羨ましがりながらも自分自
一人暮らしは大変なもので、子どもにとって実家は楽な居
身の生活を楽しんでおり、子どもが家を離れて自分の時間
場所と捉えているようだ。母親 E は、子どもが家を離れ
があること、自分がやりたいことをできる喜びは寂しいと
る前に夫が単身赴任をして、自分が一人になるのかなと
いう気持ちよりも大きかったことを語った。
思った時に、一人でいられるほど自分が強いかと不安に
なったが、息子に「僕たちの帰るところがなくなったよう
B「自分の時間ができた」― 時間のゆとり
な気がする」から、と夫の単身赴任について行かないでく
[母親 F]時間はできましたね、ずっとお弁当作ってまし
れ、「僕たちがいつでも帰れるようにいてほしい」と言わ
たから、それがなくなって。こども 4 人でしょ、
れたという。一方母親 C は、息子の部屋をいつでも帰っ
それがずっとだから。作らなくなったときはも
てきて使えるようにとそのまま残してある。
う、ね。
[母親 C]地元はつまんないからって、帰って来てもすぐ
[母親 C]自分の時間はできましたよね、食事作りも楽に
東京に戻っちゃうんです。手料理とか、作るじゃ
なりました、朝からおにく、おにくで、男の子
ないですか、息子が帰ってきたらね、いっぱい。
二人でしょ。あとお弁当ありましたよね、高校で。
でも夜は友達と遊びに行っちゃって、それで私
それがなくなって(二男は同居だがほとんど出
が仕事に行くでしょう、朝。それで帰ってくると、
かけて家にいないため)食事は楽になりました。
もう東京帰っちゃってるから。
洗濯の量も減ったし、私の仕事は楽になりまし
自分の居場所に、羽を休めに帰って来た子どもは、あま
たよね。
り長居をしないこともあるようである。
ほとんどの母親が、洗濯と食事の準備(お弁当づくり)
の時間の短縮を挙げ、その分を自分の時間として使える、
(3)自分自身の生活の変化について
と語った。自分の時間といっても、特に新しいことを始め
A「したいことがあるから」― 社会参加活動を通しての
るための時間ではなく、生活に追われないゆとりと捉えて
生きがい
いることもあった。
[母親 F]この歳になると、仕事、やめるんじゃなかった、
と思いますよ。ずっと続けている人みると羨ま
C「張り合いは、なくなったかもしれないけど」― 愛情を
しいなあとおもうんですよ。子どもがいました
かける相手不在の寂しさ
のでね、それと介護っていうんじゃないけど、
[母親 D]食事は、楽になりましたよね、やっぱり子ども
大きいおじいちゃん(子どもからみて曽祖父)
がいるときはなんだかんだで栄養とかね、考え
も小さいおじいちゃん(子どもからみて祖父)
ていたんだけど。もうそういうのも考えなくっ
もいて。明治の人は、主婦が外にいるのが嫌で
て。楽だけど、そうね、張り合いは、なくなっ
すよ、心配だと。だから子どもの運動会だって
たかもしれないけど。作り甲斐っていうかな、
いったって、途中で戻ってきてお茶を入れたり
そういうのはないのも寂しいかなとは思うけど。
とかね。(私が)里帰りすると、具合が悪くなっ
時間ができたということの一方で、今までかけてきた時
たりするんですよ。そんな調子でしたから。
間と手間と愛情の分、時間があいたと寂しく思う複雑な感
…今、自己啓発クラブの活動が月 1 あって。そ
情があった。その時間と気持ちを埋める術を語った母親も
の準備とかあって、もう 12、13 年になるかな。
いた。
結構忙しいですね。年一回のスピーチコンテス
トがあって、お友だちに誘われて始めたんです
D「犬を飼ったんです」― 新しい家族と趣味
けどね。…あとこの地区の民生委員があって、
[母親 C]男の子二人でしょ、子どもからいざ手が離れて、
それが 2 年かな。あとは塾の講師ですね。
寂しくって。それで、私結局犬を飼ったんです。
子どもがいなくなっても、寂しくなかったのは、
3 番目の息子っていうことにして。主人は動物嫌
したいことがあるからかな、っておもいますね。
いなんですよ、でも息子はいないし、主人を相
寂しいっていうのは、子どもを私物化している
手にするしかないんですよね。お父さんは、今
ような気がしますよ、うちは、自分の思い通り
まで自分が自由にしていて、子どもが出たからっ
に動いてくれなかったから、もうそういうのな
て「ハイ、お父さん」てなったら、次は自分かと、
いですよ。
これは大変だということで。私の気持ちが犬に
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子どもが家を離れた後の母親の生活変化について
向けば自分は助かるってもんで、また俺は自由
ことしかしない、おしゃれなことは何もない、と遠慮がち
になるってもんで(飼うことにしたんです)。
に語りながらも、親の介護をしていたころのことを振り返
母親たちの中には、家族が抜けたところに新しい家族を
り、「私も、それ(介護)が仕事だと思って、自分でいう
迎えて、自分の中の寂しさを埋めるための作業をすること
のもあれですが、一生懸命やってましたから、主人がそれ
もあるようだ。またこの母親は、積極的に新しい習い事や
を最後までちゃんと見てくれて。夫婦でうまくいってるか
趣味を探していたが、その理由として「暇だと、
(子どもが)
ら、子どものことにしても、親のことにしても、突発的な
今何してるかな、とか、ちょっと電話したら、迷惑かな、
ことがあっても、二人でって。」と、夫婦の絆の強さを感
とか考えちゃうんで。積極的に(外に)出るようにして」
じさせる口調で語った。
いたと語った。
[母親 D]私が「(料理)今日も手抜きでごめんね!」って
E「介護が必要になったので」― 一息つく暇もない生活変
いうと夫は口に出しては言いませんけどね、何
化
か思ってるのかもしれないけど、言わないで。
「給
[母親 B]3 人目が出たとき、実家の父が介護が必要になっ
食でちゃんと食べてるから大丈夫」って。
たので、(それまでは子どもの所にいくことも
母親の生活変化に対して、口に出して文句を言う夫は少
あったが)今度は土日は実家のほうに。母が一
ないようだ。母親自身の生活や意識が変化したことによる
人で介護していたので、兄がいるんですけど、
「申し訳なさ」に対して、ユーモアたっぷりで返答する夫
兄のほうは子どもが小さいので、私が、土日は
のあたたかなまなざしが浮かぶようであった。
母と一緒に用事に一緒に出かけて。だから(子
どもが家をでたことは)ホッとしたんだけど、
時間はそっちにとられたかな。
B 子どもからのサポート
[母親 E]私が病気したときは、母親と娘が逆、という感
この時期の独特のイベント、子の離家と親の介護が重な
じでしたね。私の体の様子によって、親子の関
る例であった。子どもが家を離れてようやく自分の時間、
係が逆になったり、戻ったりでしたね。相談事
と一息つく暇もなく、親の介護が始まることも少なくない。
とか、そういうのは親としてきちんと今でも関
そのことが「寂しい」という気持ちを感じさせる暇がない
わってますけど。子どもは、何かがあったとき
一方で、変化がめまぐるしく、自分のことはあとまわしに
には、電話をするたびに、逆に私を勇気づけよ
なってしまうという状況が語られた。
うとして、「友達がいっぱいいるから心配する
な」って言ってましたね。
(4)家族からのサポートについて
子どもからのサポートとは、自分は心配いらないと自立
さまざまな生活変化が語られる中で、家族からどのよう
した姿を見せてもらうことであるようだ。同じように、心
にサポートを得られたかを尋ねた。
配する母親に対し、「手紙」という残る形で言葉を贈る子
調査対象者全員にはフルタイムで働いている夫がおり、
どももおり、母親はそれを大事に持っていた。
夫の生活リズムは変わらず、子どもが家を出ることで生活
[母親 C]手紙、これは誕生日のときに送ってきてくれた
時間などが変わったのは自分のほうであると語る母親が多
んですけど、これは初めてもらったから、嬉し
かった。
くって。こんないい子にそだってくれて。私、
子育て成功!!って思いましたよ。
A 夫からのサポート
その手紙には多くの感謝の気持ちが綴られ、「僕はずっ
[母親 F]主人は仕事が忙しいですからね、それでもマウ
と母さんの息子だから」と、母親に育ててもらったこと、
ンテンバイクで 30km くらい出掛けたりしたこと
母親を誇らしく思うことなどが記されていた。子どもから
もありますけど、土日は家の、庭のこととかし
の感謝の気持ちを母親は大切に受けとめ、その手紙を大事
たりしてます。
に持っていることで自分を勇気づけ、自分への支えとしな
専業主婦である母親 F は、家のことをするのが自分の
がら日々の生活を送っていた。
仕事、とはっきりとした口調で語り、それでも土日は二人
5.考察
で過ごすことができると顔をほころばせた。夫婦で、ゆっ
くりと過ごす時間。それだけでもサポートとなり得るのか
もしれない。同様に専業主婦である母親 A は、自分たち
子どもが家を離れるということは、母親に大きな感情の
夫婦は二人とも大人しく、特に遠出などはしない、普通の
変化を引き起こすが、その後の時間や自分の生活の変化に
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July 2009
表 1:インタビュー対象者の属性
居住地
母親 A
母親 B
福岡県
山梨県
母親 C
茨城県
母親 D
群馬県
母親 E
香川県
母親 F
島根県
子どもの性別と同居・別居
同居家族
職業
両親(同居・別居、介護経験の有無)
夫
主婦
義理両親介護経験有
夫
フルタイム
男
別居
女
別居
女
別居
女
別居
女
別居
男
別居
男
別居
夫
男
同居
息子
女
別居
女
別居
母親は別居、介護不要
義両親は別居、介護不要
フルタイム
夫
フルタイム
男
別居
女
別居
男
別居 後 同居
女
別居
夫
女
別居
長男家族
女
別居
義父別居、介護不要
両親は隣居、介護不要
両親は近居、介護不要
義母は別居、介護不要
パート後
夫
現在主婦
主婦
義両親、介護経験有
は徐々に慣れていくものであり、親としては予測していた
場合はより子育てに区切りが感じられていることが明らか
イベントであるほどその変化への対応はしやすいことが明
になった。
らかになった。
本研究のインタビュー調査を通じて、母親は自分の生活
また、家を離れた子どもの性格や一人暮らしを初めて住
変化よりも家族の、とくに子どもの生活変化を心配しサ
む地域などによっても、親としての離家に対する感情は異
ポートしようとする気持ちが強いことが明示された。また、
なり、下の子どもであるほど、息子より娘であるほど、親
自分の生活意識の変化には子ども離家前からの家族関係や
とよく話をする子どもであるほど、実家から行きやすい地
趣味・仕事などの資源が影響していた。家族に求めるサポー
域に住むほど、親は子どもと頻繁に連絡をとっており、心
トとしては、夫からは自分の仕事を認めることや時間を大
配する気持ちも多かったということが明らかになった。
切に共有することなどの精神的サポートが、子どもからは
本研究では、子の離家というイベント後の母親に焦点を
心配や負担感を減少させるようなサポートなどをあげてい
当てたが、母親のフルタイム・パートタイム・専業主婦な
た。これらの結果は今後の質問紙調査における生活変化、
ど多様な就業形態に関わらず、子どもに対する心配は皆同
空虚感を表す尺度作成への糸口が見出せたといえる。
様の語りがみられた。子ども離家後の生活時間の変化とし
今後の課題としては、子どもの離家直前後の親の生活変
て、洗濯物が減ったことは全ての母親から語られた。日々
化に焦点を当て、今回と同様の聞き取りをすることで、さ
の家事時間が短縮になることが、自分の時間の増加へとつ
らに親の Well-being や子どもの離家というイベントに伴
ながり、子どもに手がかからなくなったので、新しいこと
う変化への周りからのサポートとの関係性を浮き彫りにす
を始めようと考えたり行動し始めたりすることもあった。
ることができると考えられる。
子どもが家を離れたことで、「寂しい」「これから何をし
たらいいのだろう」と感じている場合に、特に新しい趣味
(文献)
藤崎宏子,1993,『新社会学辞典』森岡清美(他)編
やお稽古事を始めた、色々やってみたがいまいちしっくり
平山順子,2002,「中年期夫婦の情緒的関係 妻から見た情緒的
こないという語りがあった。離家以前に趣味を持っている
場合はそのような語りはあまりみられなかったことから、
生活変化後の対応として新しいものを求めるよりも、以前
ケアの夫婦間対称性」『家族心理学研究』16,81-94
McLanahan,S.,&Sorensen,A.B.,1985,Life events and psychological
well-being. In G.H.Elder,Jr.(Ed.), Life course dynamics.
からの資源(家族や仲間などの人的つながり、自分の趣味
Ithaca,NY:Cornell, 217-238
長津美代子,濱田由紀子,1999,
「中年期における女性の夫婦間ディ
など)の蓄積が Well-being に関係するのではないかと考
ストレス」『日本家政学会誌』50(8),793-805
えられる。専業主婦の対象者からは、仕事をしていればよ
中野収,1992,『「家族」する家族 父親不在の時代というが…』
かったと、自分の子育て期は肯定しつつも他の可能性や選
有斐閣
択肢もあったのだろうかということも語られ、専業主婦の
野辺政雄,1992,「家族周期と社会的ネットワーク ‐ キャンベラ
148
子どもが家を離れた後の母親の生活変化について
会学研究』東京国際大学大学院社会学研究科,43-60
における検証 ‐ 」『家族社会学研究』4,79-91
Olga Suhomlinova & Angela M.O’Rand, 1998, Economic
Wethington,E.,Brown,G.W.,&Kessler,R.C., 1995, ”Interview
Independence,Economic Status, and Empty Nest in Midlife
measurement of stressful life events.” In S. Cohen,R.
Marital Disruption, Journal of Marriage and the Family 60,
C.Kessler,&L.U.Gordon,Measuring stress:A guide for health
219-231
and social scientists, New York:Oxford University Press, 59-79
Stanley,D.Rosenberg and Harriet,J.Rosenberg and Michael P.
Wethington,E., Cooper, H.,&Holmes,C., 1997, ”Turning Points in
Farrell, 1999, ”The Midlife Crisis Revisited”, Life in the Middle,
midlife.” In I.Gotlib & Wheaton, Stress and adversity across
Academic Press, 47-77
the life course: Trajectories and turning points, 215-231
田畑紀美江,2001,「青年期と中年期における喪失体験」『応用社
149
PROCEEDINGS 08
July 2009
Changing Mother’s Life after Their Children Leave Home:
Interview about the Event and Its Correspondence
Mio HANAGATA
(Interdisciplinary Gender Studies)
The purpose of this study is to reveal mother’s life after children leave their family home, and to show
take action or support for changing mother’s consciousness from their family. Then, explain whether the
support is affected by human resources and gender consciousness or not.
In this study, I conducted the semi-structured interview. A total of 6 mothers were interviewed about 4
contents such as changing life, their family’s support ― especially their husband, children’s leave home
event, and their feeling.
The interview gave from on October 2008 to March 2009, and there were in their house or the café
near their house. It took about 50minutes – 90 minutes. I asked them, the feeling of their children get
away, leave home, and changing their life before or after the event followed the interview guide steps.
As a result, this study got knowledge from five viewpoints. First: they thought mother’s life changed
especially between washing and cooking. They felt shortening of hours. Second: they had more free time
and they challenged their new hobby or do own thing. Third: husband supported to wife by sight, and
children’s support was saying such as the words “Don’t worry, mother. I’m O.K.” Four: The event which
the children leave home was very big event, but mother gradually got accustomed to empty nest family.
The more they predicted this event, the more they were able to correspond to it. Five: they said various
feelings. For example, pass the entrance exam brought relief to mothers, they worried about children’s
health and eating habit, they were lonely for the child, and empty. They said that they get a mobile and
use e-mail to correspond with their children. And they think they have more frequent contact with
daughter than son.
Future issues, I must explore the relationship between parental well-being and many empty feelings.
Then the study needs many perspectives such as their crisis events invite role loss and reconstruct their
own identity.
Keywords: empty feeling, changing consciousness, middle life, support, leave home
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