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肺がん - 日総研
200 2———呼吸器 章 2 呼吸器 肺がん (lung cancer) 1.肺がんとは 気管支や肺胞から発生する悪性腫瘍である。比較的生存率が低く,悪性腫瘍によ る死亡率では男性1位となっている。罹患率は男性の方が多く,女性の3倍となっ ている。 2.分類 1)組織分類 (1)非小細胞肺がん(NSCLC) ①扁平上皮がん 発生率 肺がん全体の20 ~30%を占める。男性では40%,女性では15%。 発生部位 肺門型(主気管支から区域気管支) 特徴 喫煙者に多く発症する。早期に咳,血痰などの症状が出やすい。 ②腺がん 発生率 肺がん全体の50 ~60%を占める。男性では40%,女性では70%。 発生部位 末梢型(末梢の細い気管支や細気管支,肺胞) 特徴 非喫煙者にも発生し,女性での頻度が増加傾向にある。 ③大細胞がん 発生率 肺がん全体の5~10%を占める。 発生部位 肺野型 特徴 一般的に増殖が速く,原発巣は圧排性に発育することが多い。早期に リンパ性や血行性の転移を来しやすい。 (2)小細胞肺がん(SCLC) 発生率 肺がん全体の10 ~15%を占める。 発生部位 肺門型 特徴 増殖が極めて速く,早期から脳,リンパ節,肝臓,副腎,骨などに転 移しやすい。化学療法,放射線療法への感受性が高い。 表1 TNM分類(病期分類) ⅠA期 ⅠB期 ⅡA期 N0 M0 T1aまたはT1b N0 M0 M0 肺がん 0期 201 TX 2節 潜伏がん Tis T2a T1aまたはT1b T2a T2b T2b ⅡB期 T3 T1aまたはT1b T2a T2b T3 ⅢA期 T3 T4 T4 AnyT ⅢB期 T4 AnyT Ⅳ期 N0 N0 N1 N1 N0 N1 N0 N2 N2 N2 N2 N1 N0 N1 N3 N2 AnyN M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M0 M1aまたはM1b 日本肺癌学会編:肺癌取扱い規約 第7版,P.5,金原出版,2010. 2)TNM分類 がんの進展度の正確な記載および分類であり,治療計画の設定,予後の示唆,治 療効果の評価などの目的がある。TNM因子に基づく病期分類が広く用いられてい る。肺癌TNM分類は2010年より第7版が運用され,T因子の細分化,腫瘍結節の 扱い,遠隔転移の定義の明確化が大きな変更点である(表1) 。 また,表2に要約を示す。 3)限局型/進展型 小細胞がんの場合,TNM分類による病期分類よりも,限局型と進展型に大別す る分類が用いられることが一般的である。 ①限局型(LD) 病巣が片側胸壁に限局し,原則として根治的な放射線治療が可能と考えられる範 囲に腫瘍が限局している。 両側縦隔リンパ節・両側鎖骨上窩リンパ節・両側肺門リンパ節のみに病巣が見ら れる。 ②進展型(ED) 限局型の範囲を越えて病巣が広がっている。 202 T:原発腫瘍 N:所属リンパ節 M:遠隔転移 表2 要約(臨床分類) TX 潜伏がん Tis 上皮内がん(carcinoma in situ) 章 T1 腫瘍の最大径 3cm 呼吸器 T1a 腫瘍の最大径 2cm T1b 腫瘍の最大径>2cmかつ 3cm 2 T2 腫瘍の最大径 7cm,気管支分岐部 2cm,臓側胸膜浸潤,部分的無気肺 T2a 腫瘍の最大径>3cmかつ 5cmあるいは腫瘍の最大径 3cmで臓側胸膜浸潤 T2b 腫瘍の最大径>5cmかつ 7cm T3 腫瘍の最大径>7cm,胸壁,横隔膜,心膜,縦隔胸壁への浸潤,気管分岐 部<2cm,一側全肺の無気肺,一側全肺の閉塞性肺炎,同一肺葉内の不連 続な腫瘍結節 T4 縦隔,心臓,大血管,気管,反回神経,食道,椎体,気管分岐部,同側の異なっ た肺葉内の服腫瘍結節 N1 同側肺門リンパ節転移 N2 同側縦隔リンパ節転移 N3 対側肺門,対側縦隔,前斜角筋または鎖骨上窩リンパ節転移 M1 対側肺内の副腫瘍結節,胸膜結節,悪性胸水,悪性心嚢水,遠隔転移 M1a 対側肺内の副腫瘍結節,胸膜結節,悪性胸水(同側,対側),悪性心嚢水 M1b 他臓器への遠隔転移 日本肺癌学会編:肺癌取扱い規約 第7版,P.6,金原出版,2010. 3.原因 ①喫煙 肺がん患者の80 ~85%は喫煙者である。喫煙開始年齢が若いほど,喫煙量が多 いほど,肺がんのリスクは高くなる。 ブリンクマン指数とは,禁煙が体に与える影響を数字で表したもので,次の式で 求められる。 1日の喫煙本数×喫煙年数=ブリンクマン指数 400 ~600で肺がんが発生しやすいといわれ,1,200以上で危険性が極めて高く なるといわれている。 ②アスベスト ③大気汚染 4.症状 1)咳嗽(痰・血痰) 肺がん特有の症状はなく,ほかの呼吸器疾患でも見られる。肺組織の壊死や破壊 により,血痰を生じる。壊死や破壊の程度によっては,多量の血痰や喀血を伴い, 203 気道閉塞を起こす可能性もあるため,気道確保などの緊急の対処が必要である。 持続する胸痛で体重減少などを伴う場合は,肺がんの症状であることがある。胸 3)呼吸困難 疾患の進行により出現する。気管支の閉塞,両側肺の血行性転移,がん性リンパ 管炎症(腫瘍細胞がリンパ管を閉塞) ,肋膜への浸潤による無気肺や胸水貯留によ り現れる。 4)嗄声 縦隔リンパ節転移による反回神経麻痺により起こる。 5)体重減少 諸症状の出現や治療により,食欲低下や食事摂取困難な状況が持続して起こる。 6)全身倦怠感 7)パンコースト症候群 肺尖部にできた腫瘍が周囲の胸壁に達し,その部位の神経(上腕神経叢・肋間神 経など)を侵すことにより,腕の痛みや痺れなどの様々な症状が起こる。 8)上大静脈症候群(SVCS) 縦隔へ進展し,上大静脈や腕頭静脈を圧迫して閉塞し,顔面や上肢の腫脹,チア ノーゼ,胸壁の静脈の怒張などが生じる。 9)脊髄圧迫症候群 脊髄・硬膜外へのがん転移や浸潤により,脊髄が圧迫されるために起こる。疼痛 部位は限局化しており,運動麻痺や知覚障害の下肢より上行性に進行する。 10)腫瘍随伴症候群 (1)異所性ホルモン産生症候群 ①ACTH産生 クッシング症候群:低カリウム血症,高血糖,高血圧,浮腫 ②ADH産生 ADH不適切分泌症候群:低ナトリウム血症の症状としては無症状のことが多い。 初期症状は倦怠感,悪心,嘔吐,頭痛,軽度の精神障害があり,重症化すると傾眠, 痙攣,意識障害が起こる。 (2)高カルシウム血症 骨転移により起こる。副甲状腺ホルモン関連タンパク(PTHrP)が産生されて骨 吸収が促進し,腎尿細管のリン排泄とカルシウム再吸収が促進する。 肺がん 膜,横隔膜,縦隔,肋骨,脊椎への浸潤が胸痛として現れる。 2節 2)胸痛 204 5.検査・診断 1)画像診断 (1)胸部単純X-P 章 2 肺門部の早期肺がんの場合は,無所見のことがある。 呼吸器 (2)胸部CT 直径1cm以下の微小陰影が発見できる。縦隔リンパ節転移の診断や縦隔浸潤の 程度を知る上で有用である。 (3)その他の部位のCT,MRI,シンチグラフィー 転移や浸潤の検索に用いられる。 2)喀痰細胞診 喀痰中の悪性細胞を調べる検査で,肺門部の早期肺がんでは有用である。陽性率 を高めるため,3日間連続法が行われるが,患者に苦痛を与えることなく行うこと ができる。 3)気管支鏡検査 画像診断で肺の異常陰影が疑われた場合や,喀痰細胞診陽性の場合,また,喀血 などの症状がある場合に行われる。確定診断,組織診断,病期診断などの目的で行 われる。 出血などの合併症のリスクがあるため,バイタルサインのチェック,呼吸困難感 の有無,胸痛の有無,血痰の有無などを観察する。 4)経皮針生検(CTガイド下生検) 気管支鏡による困難な肺野結節や気管支鏡で診断が得られなかった病変の組織診 断の目的で行われる。 気胸,出血,空気塞栓などの合併症のリスクがあるため,バイタルサインの チェック,咳嗽・血痰の有無,呼吸困難感の有無,胸痛の有無などを観察する。 5)リンパ節生検 縦隔,鎖骨上窩リンパ節へと転移し,病期診断のために行う。 6)胸腔鏡検査 肺野結節・縦隔病変の組織診断に有用である。 7)腫瘍マーカー 診断,治療効果,再発の検出などに有用性がある。 腫瘍マーカーには,以下のものがある。 ・CEA ・SCC ・SLX ・CYFRA21-1 ・NSE ・Pro-GRP 6.適応・治療 205 肺がんの治療法は,非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)で大別 1)適応 ①臨床病期Ⅰ期からⅢA期 Ⅰ期・Ⅱ期は原則手術適応となる。ⅢA期は検討が必要であり,手術可能であっ ても術前に化学療法+放射線療法が行われることが多い。また,手術で腫瘍が完全 に摘出できた場合でも,再発,転移を考慮して,術後補助化学療法が行われること が多い。 ②臨床病期Ⅲb期 化学療法+放射線療法が行われるが,患者の状態(年齢,PSなど)によっては, 放射線療法単独あるいは化学療法を先行して行った後に放射線療法を行うこともあ る。また,悪性胸水を認める場合は,化学療法単独の治療となる。 ③臨床病期Ⅳ期 化学療法で症状・進行を緩和する。骨・脳など遠隔転移がある場合は,その部位 に対して放射線療法が行われる。 (2)小細胞肺がん ①限局型(臨床病期Ⅰ期) 手術と術後化学療法の併用が行われる。 ②限局型(臨床病期Ⅰ期以外) 化学療法+放射線療法が行われる。全身状態が良好であれば,早期に同時併用 する。 ③進展型 化学療法が行われる。 2)治療 (1)外科的治療 肺がん(外科的治療)の項参照 (2)放射線療法 ①胸部放射線照射 通常,分割照射で60Gyを最低合計線量として行う。 ②脳照射 ・全脳照射 ・予防的全脳照射(PCI) SCLCでCRとなった症例に行う。 肺がん (1)非小細胞肺がん 2節 されている。 表3 PSの指標 206 Score 章 2 定義 呼吸器 0 全く問題なく活動できる。 発病前と同じ日常生活が制限なく行える。 1 肉体的に激しい活動は制限されるが,歩行可 能で,軽作業や座っての作業は行うことがで きる。 例:軽い家事,事務作業 2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可 能だが作業はできない。 日中の50%以上はベッド外で過ごす。 3 限られた自分の身の回りのことしかできない。 日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。 4 全く動けない。 自分の身の回りのことは全くできない。 完全にベッドか椅子で過ごす。 西條長宏,下田正徳,福田治彦他:NCI-CTC日本語訳JCOG版第2版, 癌と化学療法,Vol.28,No.13,P.59,60,2001. ・定位放射線照射 NSCLCで転移巣が4個以内の場合に行う。 ③骨照射 骨転移による疼痛や病的骨折の危険性がある場合に行う。 (3)化学療法 肺がんの種類,進行度,患者の年齢,合併症,全身状態,PS(performance status, 表3)などを考慮して,使用薬剤を決定していく。 ①非小細胞肺がんの標準的な化学療法 ・CDDP+VNR シスプラチン 80mg/m2 day1 主な副作用 腎機能障害,悪心,嘔吐,聴力障害,難聴 ※聴力障害は,投与量の増加に伴い発現頻度が高くなる。 ※腎機能障害予防のため,大量輸液が行われる。 ビノレルビン 25mg/m2 day1, 8 主な副作用 血管炎,便秘 ・CBCDA+PTX カルボプラチン AUC6 day1 パクリタキセル 200mg/m2 day1 主な副作用 アナフィラキシー,末梢神経障害,関節痛 ※アナフィラキシー予防のために抗アレルギー薬を,抗がん剤の前に与薬する。 ※PTX使用時の点滴ルートはPVCフリーのルートを使用する(ポリ塩化ビニール製 207 のルートは可溶化剤であるDEHPが溶出するため,DEHPを含まないものを使用 ・CDDP+CP-11 イリノテカン 60mg/m2 day1, 8,15 主な副作用 下痢 ※下痢の持続により,脱水や電解質異常を来すことがあるので注意する。特に白血 球減少時に併発する場合は,慎重に対応する必要がある。 また,止痢剤の内服によりかえって便秘になることもあるため,排便コント ロールが必要となる。 ・CDDP+S-1 シスプラチン 80mg/m2 day1 S-1 80mg/m2 day1~14 主な副作用 口内炎,下痢 ※S-1は1日2回朝食後・夕食後に服用する。空腹時は抗腫瘍作用が減弱するの で避けるようにする。 ・CDDP+GEM シスプラチン 80mg/m2 day1 ゲムシタビン 1,000mg/m2 day1, 8 主な副作用 好中球減少 ※ゲムシタビンは週1回,30分間点滴静注を行う。週2回以上あるいは60分以上 かけて行うと,副作用が増強するといわれている。 ※放射線療法と併用して行うと,重篤な食道炎・肺臓炎が発現し,死亡に至った例 が報告されているため,原則禁忌となっている。 ②小細胞肺がんの標準的な化学療法 ・CDDP+VP-16 シスプラチン 80mg/m2 day1 エトポシド 100mg/m2 day1~3 主な副作用 白血球減少 ・CDDP+CPT-11 シスプラチン 80mg/m2 day1 イリノテカン 60mg/m2 day1, 8,15 (4)分子標的治療 がん細胞の表面に発現した上皮成長因子受容体(EGFR)のチロキシナーゼ活性 肺がん シスプラチン 80mg/m2 day1 2節 する) 。 208 を選択的に阻害する。抗がん剤が効きにくいとされる非小細胞肺がんに,腫瘍縮小 効果を示す。 腺がん・非喫煙者・アジア人女性に効果があるとされている。 章 2 ・ゲフィチニブ 呼吸器 250mg 1日1回時間を決めて内服 ※胃酸の少ない状態が続くと吸収が低下する可能性があるため,食後の服用が望ま しい。 主な副作用 間質性肺炎,下痢,皮疹 ※発熱,喀痰を伴わない咳嗽,呼吸困難感が出現した時は,早期に医師に報告する。 ※皮膚障害の発現率が高いが,保湿剤やステロイド外用剤などで症状をコントロー ルできる。 ・エルロチニブ 150mg 1日1回時間を決めて内服 ※高脂肪,高カロリー食後の投与では副作用が強く出る可能性があるため,食事の 1時間以上前,または食後2時間以降に服用する。 主な副作用 ゲフィチニブと同様であるが,比較すると下痢・皮疹の症状が強く 出る。 ※25mg,100mg,150mgの用量があり,患者の状態により適宜減量する。 3)効果判定 ①完全奏功(CR) すべての標的病変の消失 ②部分奏功(PR) ベースライン(治療前)長径和と比較して,標的病変の最長径の和が30%以上 の減少 ③進行(PD) 治療開始以降に記録された最小の最長径和と比較して,標的病変の最長径の和が 20%以上増加,または1つ以上の新病変の出現 ④安定(SD) PRとするには腫瘍の縮小が不十分,かつPDとするには腫瘍の増大が不十分 肺がんの成り行き 胸部X-P,胸部または全身CT,MRI, シンチグラフィー,喀痰細胞診, 気管支鏡検査 2節 検査 209 肺がん 病期確定 治療 分子標的治療 化学療法 非小細胞肺がんで臨床病期Ⅰ∼ⅢA期 皮膚統合性の障害 放射線療法 外科療法 状態安定 再発 病状の進行 ターミナルケア 肺がんの関連図 210 喫煙 大気汚染 肺がん 章 2 呼吸器 肺組織の破壊,壊死 周囲組織の破壊,壊死,圧迫 胸水貯留 咳嗽 喀痰 肺炎 無気肺 血痰 肺換気の低下 転移 浸潤 低酸素血症 胸痛 気管支壁,胸壁 がん性疼痛 呼吸困難 気管内分泌物の増加 咳嗽,喀痰量の増加 気道狭窄・閉塞 喀痰喀出困難 頭痛 脳 頭蓋内圧亢進 嘔気・嘔吐 意識障害 骨 疼痛 がん性疼痛 病的骨折 リンパ節転移 反回神経麻痺 嗄声 上肢の腫脹 縦隔 上大静脈と腕頭静脈の 圧迫,閉塞 チアノーゼ 胸壁静脈の怒張 限局した疼痛 脊髄硬膜外 脊髄の圧迫 運動麻痺 知覚障害(下肢より上行性進行) 胸膜,心膜 胸水,心嚢液の貯留 肺がんの看護 #1 感染リスク状態 看護目標 1.感染徴候がない。 ・白血球減少・好中球減少の時期は抗がん剤の種類・与薬量などの影響を受ける が,ほとんどの抗がん剤に認められる副作用である。 ・好中球数1,000/mm3未満では免疫能が低下し,感染のリスクが高くなる。 看護計画 (1)観察項目 ①血液データ(WBC,NEU,CRP) ②バイタルサインのチェック 37.5℃以上の発熱を伴う好中球減少は,発熱性好中球減少症と呼ばれ,抗 菌薬与薬など早期に治療を開始する必要があるため注意する。 38℃以上の高熱が1時間以上続く場合や呼吸困難感の出現,SpO2の低下 が見られた場合は感染を疑い,医師に報告する。定期的に解熱鎮痛剤やス テロイドなどを内服している場合,発熱を伴わない場合があるため,患者 の使用薬剤も考慮する。 ③口腔内チェック ④呼吸状態(呼吸音,air入り,SpO2,呼吸困難感) ⑤排便状況 便秘や下痢などにより,肛門周囲の皮膚トラブルが起こるため,排便コン トロールする。 (2)ケア項目 ①血液データの説明 ②日常生活の自立度に合わせた清潔ケアを行う。 副作用の出現によりPSが低下する場合があるため,患者の状態をアセス メントしてケアを行う。 好中球が500以下の場合は,シャワー浴よりも清拭や部分浴などを行う。 ③口腔ケア ④患者の排便状況を確認し,薬剤の使用を検討する。 肺がん 看護問題 2節 化学療法の看護 211 212 (3)教育項目 ①血液データの意味を指導する。 患者自身にも自己の状態を把握してもらうことで,感染予防行動への動機 章 2 づけとする。 呼吸器 ②適切な感染予防行動(マスクの着用,うがい,手洗い)を指導する。特に人ごみ への外出は避けるようにし,外出時は必ずマスクを着用する。 ③歯ブラシは柔らかいものを使用し,口腔内を傷つけないようにしてもらう。 ④食事は加熱したものへ変更し,生ものの摂取を控える。 看護問題 #2 腎毒性 看護目標 1.尿量が維持される。 シスプラチンを使用するレジメンが多く,腎障害を来すリスクがある。また,繰 り返し使用することで,腎機能が徐々に低下していることも考えられるため,症状 の観察が必要である。 看護計画 (1)観察項目 ①血液検査データ(24時間CCr,Cr,BUN) 治療前の腎機能データから把握し,治療後腎機能低下がないか確認する。 ②排尿回数,尿量,尿比重,IN/OUTバランス 大量輸液により尿量が増加することで,尿中のプラチナ濃度が低下し,尿 細管におけるプラチナの接触時間が短縮され,腎機能障害が軽減される。 異常の早期発見のためにも,尿量が確保されているかどうか把握する。 12時間以上排尿がない,尿量がIn量に比べて非常に少ない,尿の 色が濃いなどの症状が現れた時は,腎障害を考え,医師に報告する。 ③浮腫の有無,体重の変化,動悸,頻脈,喘鳴,呼吸困難感の有無 腎機能低下が起こったために代謝されず,循環血液量が増加して,急性心 不全や呼吸不全を引き起こす。また,短時間に大量の輸液が行われるため, 心肺機能に負担が生じる。 ④バイタルサイン,SpO2 急激な血圧低下,心拍数の上昇,SpO2の低下,呼吸困難感などの 症状が現れた時は,患者へ安静を促し,医師に報告をする。医師が 来るまでは患者の側から離れず,他のスタッフに協力を要請する。 (2)ケア項目 213 ①日常生活に応じた排泄介助を行う。 が生じると共に,身体的疲労が増加することも考えられる。また,嘔気の 程度に合わせてアセスメントする。 ②点滴管理 点滴挿入部位により滴下の変動が起こるため,頻回に滴下を確認する。特 に,トイレ後などは滴下の変動が起こりやすいため注意する。できる限り, 滴下の変動が起こりにくい部位に静脈を確保する。 ③急性心不全,呼吸不全の症状が出現した場合は,直ちに医師に報告する。 ・医師の指示があるまでは安静保持とする。 (3)教育項目 ①蓄尿の必要性を説明する。 ②水分摂取の必要性を説明し,飲水量をチェックしてもらう。 ③浮腫の出現などの症状が見られたら,すぐに報告してもらう。 放射線療法の看護(胸部) 看護問題 #1 皮膚統合性の障害:放射線照射による皮膚粘膜の障害が起こる 看護目標 1.皮膚障害が起きない。 看護計画 (1)観察項目 ①照射部位の皮膚の発赤,びらん,灼熱感,疼痛,掻痒感の有無と程度 照射開始直後には見られないが,照射の回数を重ねることで症状が出現し てくる。個人差があるため,毎日観察し,早期に発見する。 胸部への照射の場合,背部にも皮膚障害が出現してくる。背部は患者自身 では観察が難しいため,忘れずに観察する。 ②咽頭痛や嚥下時痛,嚥下困難感の有無と程度 照射による皮膚や粘膜への影響は内部にまで起こる。胸部照射の場合,咽 頭から食道周囲にかけて2~3週間後より粘膜障害を引き起こすこともあ る。そのため,咽頭から食道にかけての疼痛を訴える。 肺がん 出現により移動が苦痛になる可能性があるため,患者の自立度・副作用の 2節 大量の輸液により排尿回数が増える。点滴をしながらの移動は転倒リスク 食事摂取だけでなく水分摂取も困難になってくるため,栄養状態の 214 低下,脱水などが考えられる。体力の低下は治療への妨げにもなる 章 2 ため,医師に報告し,点滴などを考慮してもらう。 ③食事摂取量 呼吸器 粘膜障害の出現により,固形物が飲み込みにくくなるため,食事量が低下 する。 ④嘔気・嘔吐・倦怠感・頭痛・発熱(放射線宿酔症状) ⑤咳嗽・発熱・呼吸困難感・SpO2 照射開始後2~3ヵ月後に出現することがある。 放射線療法が終了した後に症状が出現することが多いため,患者の治療歴 を踏まえながらアセスメントする必要がある。 (2)ケア項目 ①照射部位の皮膚への摩擦は避ける。 ・清拭時は強くこすらない。入浴やシャワー時は,照射部位に石けんを使わない。 ・体を締め付けるような下着は着用しない。 ②症状が出現した場合は,医師に報告する。 ③外用剤(ステロイド軟膏)を塗布する。 照射前に照射部位へ外用剤を塗布すると照射に影響を与えてしまうため, できる限り照射が終了した後に塗布する。 ④咽頭痛が出現した時は,食事内容を患者と相談し,変更する。 ・軟らかい食物,刺激物を避ける食事内容に変更する。 ⑤食事前に粘膜保護薬(アルロイドG,アルサルミン)を内服する。 (3)教育項目 ①入浴や清拭時は照射部位を強くこすらず,マーキングは消さないように指導する。 ・正確な部位への照射を行うために,マーキングは消さないようにする。 ②照射部位の皮膚の違和感や火傷をしたような感じが現れた時は,報告するように 指導する。 呼吸困難の看護(ガス交換の障害) 症状の進行により,腫瘍が肺や気管を圧迫したり,胸水の貯留によりガス交換面 積が減少したりするため,呼吸困難感が生じてくる。呼吸困難感が生じるとADLの 低下を招くだけでなく,苦痛から精神的不安が増強してくる。 看護問題 215 #1 ガス交換障害 1.呼吸困難感によるADLの低下がない。 肺がん 看護計画 2節 看護目標 (1)観察項目 ①呼吸困難感の有無・程度 日常生活においてどんな場面で症状が増強するかを確認し,ケアが必要な 場面をアセスメントする。 ②食事摂取量 呼吸困難感により,食事量が低下してくることがある。 ③睡眠状況 呼吸困難感により,睡眠時間が確保できないことがある。 ④バイタルサイン,SpO2 胸水の貯留,病状の進行によりSpO2の低下や呼吸回数の増加などが見ら れる。 ⑤呼吸音,air入り,呼吸状態 ⑥薬剤の使用の有無・使用後の効果 病状の進行に伴う呼吸困難感の場合,モルヒネを使用することで呼吸困難 感の緩和を図っていく。 モルヒネ開始後に呼吸状態が変化した場合は,モルヒネによる呼吸 抑制の副作用も考え,医師に報告する。 ⑦精神状態・不安言動の有無 呼吸困難感が増強することで,病期の進行を実感したり,パニックになっ たりすることがあり,不安が生じやすくなる。 呼吸困難感は死への恐怖を感じやすく,パニックになりやすいため精神的 なフォローが必要となる。また,パニック時はルートトラブルなども起き やすいため注意する。 呼吸困難感の出現により,患者はパニックになったり身の置き所が なかったりする。パニックに陥ることで,ルートトラブルや転倒・ 転落のリスクが高くなるため,医師に報告し,鎮静剤の与薬なども 考慮してもらう。 216 (2)ケア項目 ①日常生活の自立度に応じてADL介助を行う。 食事:セッティングし,休憩を入れながらゆっくり食べられるよう環境を整える。 章 清潔:呼吸困難感の程度に合わせ,清拭・シャワー浴など選択する。 呼吸器 2 排泄:車いすでの誘導や床上排泄など選択する。 活動:労作時に症状が増強するため,できる限り安静にする。 仰臥位よりも起座位の方が,安楽な場合が多い。 特に夜間入眠する時などは,ベッドアップした方が安楽感が得られやすい。 ②SpO2が低い場合,医師の指示により酸素投与を開始する。 ③呼吸困難感が強い時は薬剤を使用し,与薬後の評価を確認する。 薬剤の評価を行い,評価が良ければ継続して薬剤を使用する。 薬剤の効果がある場合は,呼吸困難感が増強すると予測される活動の前 に,薬剤を使用する。しかし,モルヒネが使われるため,患者によって抵 抗感を示す場合がある。薬に対する説明をしながら使用を促す。 ④苦痛や不安を傾聴する。 ⑤パニックの時は側に付き添う。 (3)教育項目 ①安楽な呼吸方法を指導する(口すぼめ呼吸など) 。 ②薬の使用方法を指導する。 転移や浸潤によるがん性疼痛の看護 胸膜,横隔膜,縦隔,肋骨,脊椎への浸潤が胸痛として現れる。また,骨への転 移による骨痛が現れ,痛みと共存しながらの生活を送らなければならない。 看護問題 #1 がん性疼痛 看護目標 1.夜間睡眠がとれる。 2.安静時痛が軽減する。 3.体動時痛が軽減する。 看護計画 (1)観察項目 ①疼痛の部位と程度・疼痛出現時間・疼痛緩和因子 ●VAS(10cmの直線) 217 最悪の痛み* 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 ●VRS(Verbal rating scale) :簡易表現スケール 痛みなし 軽度 中等度 強度 最悪の痛み ●フェイススケール(Wong-Baker Face Scale) 0 1 2 3 4 5 *VAS10「最悪の痛み」:患者が主観的に「耐えることの できない痛み」を現したもの。客観的尺度は含まれない。 図1 主なペインスケール 疼痛の閾値は個人差があるため,患者からの情報収集を十分に行い,疼痛 コントロールが図れるようにする。疼痛の程度に関しては,医療者間でも 統一できるようにペインスケール(図1)を使用する(疼痛のとらえ方に 。 誤差が出ないように) ②食事摂取量 疼痛により食欲の低下が起きたり,食事摂取行動がとれなくなったりする ことがある。また,オピオイド使用により嘔気・嘔吐の副作用が出現し, 食事がとれなくなる。 ③睡眠時間 疼痛により,患者に必要な睡眠時間が確保できない。 中途覚醒がある場合,疼痛により覚醒したのかなど,入眠できない要因を アセスメントすることで,使用薬剤などが変わることがある。 ④日常生活動作 疼痛により,活動が制限される。 肺がん ●0-10・NRSスケール 2節 痛みなし 218 章 2 ①経口投与を基本とする 日本医師会監修:がん緩和ケアガイドブック, P.21,青海社,2010. ②時間を決めて定期的に投与する ・ 「疼痛時」のみに使用しない ・毎食後ではなく,8時間ごと,12時間ごとなど一定の間隔で投与する 呼吸器 ③WHOラダーに沿って痛みの強さに応じた薬剤を選択する ・原則として非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs,またはアセトアミノフェン)をまず投与し, 効果が不十分な場合はオピオイドを追加する ・オピオイドは疼痛の強さによって投与 し,予測される生命予後によって選択す るものではない 強オピオイド 非オピオイド鎮痛薬 ④患者に見合った個別的な量を投与する 鎮痛補助薬 ・適切な量は鎮痛効果と副作用とのバラン 痛みの残存ないし増強 スが最もとれている量であり, 「常用量」 や「投与量の上限」があるわけではない 弱オピオイド 非オピオイド鎮痛薬 ⑤患者に見合った細かい配慮をする 鎮痛補助薬 ・オピオイドについての誤解をとく 痛みの残存ないし増強 ・定期投与の他にレスキューを指示し,説 明する 非オピオイド鎮痛薬 WHO ・副作用について説明し,適切な予防およ 鎮痛補助薬 ラダー び対処を行う 図2 WHO方式がん疼痛治療法の5原則 ⑤排便の有無 疼痛緩和のため,オピオイドが使用される。オピオイドの副作用により便 秘になる可能性が高いため,緩下剤が同時に処方される。そのため,排便 パターンが乱れることが多く,オピオイド内服中は排便コントロールが重 要となる。 オピオイド内服前の排便パターンを確認しておき,内服前と同じパターン になるように調節する。 ⑥鎮痛薬の使用状況 定期鎮痛薬とレスキューの内服があるが,突出痛に対してはレスキューに て対応する。レスキューの使用状況に応じて,定期鎮痛薬の増減などの調 整が行われる。 痛みを我慢している患者も多く,レスキューの使用方法が分からない患者 もいるため,疼痛の程度と鎮痛薬の使用状況を合わせて確認しておく。 (2)ケア項目 ①疼痛の状況に応じて鎮痛薬を使用する。 ・「WHO方式がん疼痛治療法」 (図2)に沿って,薬剤を使用する。 病状の進行により経口摂取が困難になったり,痛みが増強したりす 219 ることがある。与薬方法など変更が必要と考えられる時は,医師に ②食事形態などは患者と相談して決める。 できるようにする。 ③睡眠導入剤を使用する。 体勢などで疼痛が出現する場合は,クッションなども取り入れながら安楽 な体位を整える。患者によっては同一体位でいる方が安楽な場合も多いが, 同一体位により褥瘡発生のリスクも出てくるため注意する。 ④疼痛の状況に合わせて,ADLへの介入をする。 ⑤排便状況を確認し,便秘であれば薬剤の調整・水分摂取・マッサージなどのケア を行う。下痢であれば,薬剤の調整,水分摂取を促す。 オピオイドの増減やオピオイドローテーションを行った場合には,排便パ ターンが崩れやすいため,注意が必要である。 (3)教育項目 ①疼痛は我慢しないで報告するようにする。 ②ペインスケールの使用方法を指導する。 ③薬剤の使用方法を指導する。 引用・参考文献 1)日本肺癌学会編:肺癌取扱い規約 第7版,P.5,6,金原出版,2010. 2)西條長宏,下田正徳,福田治彦他:NCI-CTC日本語訳JCOG版第2版,癌と化学療法,Vol.28, No.13,P.59,60,2001. 3)日本医師会監修:がん緩和ケアガイドブック,P.21,青海社,2010. 4)山本信之監修,山本信之他編,静岡県立静岡がんセンター呼吸器グループ著:肺癌内科 診療 マニュアル―EBMと静岡がんセンターの臨床から,医薬ジャーナル社,2011. 5)山本信之編:やさしい肺がん外来化学療法へのアプローチ,医薬ジャーナル社,2010. 6)河野桜,白尾国昭:化学療法の薬 速習覚え書き①シスプラチン②カルボプラチン,プロ フェッショナルがんナーシング,Vol.1,No.1,P.32 ~35,メディカ出版,2011. 7)梅田恵他編:新版 よくわかるがん疼痛の治療とケアQ&A,照林社,2008. 8)池田進一:肺がん,市川幾恵監修:「意味づけ」「経験知」でわかる病態生理看護過程 上巻, P.162 ~178,日総研出版,2007. 肺がん 病院食が合わない場合などもあるため,家族にも協力を得ながら経口摂取 2節 相談する。