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災害時の不安計量と リスク・コミュニケーションに関する研究

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災害時の不安計量と リスク・コミュニケーションに関する研究
京都大学大学院工学研究科
都市社会工学専攻修士論文
平 成 25 年 2 月 15 日
Master’s Thesis
Department of Urban Management
Graduate School of Engineering
Kyoto University
February 15, 2013
災害時の不安計量と
リ ス ク・コ ミュニ ケ ー ション に 関 す る 研 究
京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻
都市社会計画学講座 計画マネジメント論分野
白 承志
要 旨
将 来 起 こ り う る 巨 大 災 害 に 備 え て 、非 常 時 に お け る ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ショ
ンの内容と構造を明確化することはリスクマネジメントにおいて重要な課題で
あ る 。東 日 本 大 震 災 で は 、ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション に 関 す る 一 つ の 情 報 共
有 手 段 と し て 、ミ ク ロ・ブ ロ グ が 広 く 活 用 さ れ た 。本 研 究 で は 、コ ー パ ス を 用 い
た 不 安 計 量 手 法 を 開 発 す る と 共 に 、政 府 と 国 民 の リ ス ク に 対 す る 評 価 、そ し て そ
の 評 価 と 不 安 と の 関 係 を 考 察 す る こ と を 目 的 と す る 。そ の た め 、ま ず、災 害 時 の
コ ミュニ ケ ー ション・ディバ イ ド 問 題 と そ れ に 伴 う 不 安 の 概 念 を 整 理 す る と 共 に 、
コ ー パ ス を 用 い た 不 安 計 量 の 意 義 に つ い て 議 論 す る 。そ し て 、ク ラ イ シ ス・コ ミュ
ニ ケ ー ション の 内 容 と 構 造 を 明 確 に す る と 共 に 、ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・
コ ー パ ス と し て 東 日 本 大 震 災 時 の ミ ク ロ・ブ ロ グ と 政 府 発 表 情 報 を 用 い て あ る リ
ス ク に 対 す る 評 価 の 極 性 を 判 断 す る こ と で 不 安 計 量 を 試 み る 。本 手 法 は 、コ ー
パ ス 言 語 学 に 基 づ き 、自 然 言 語 処 理 、テ キ ス ト・マ イ ニ ン グ 技 術 を 適 用 す る こ と
に よって 再 現 可 能 性 と 客 観 性 を 確 保 す る 長 点 が あ る 。最 後 に 、リ ス ク・マ ネ ジ メ
ントにおいて本手法の適用意義と有効性について論じる。
目次
第1章 序論
1
1.1
本研究の背景
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
本研究の目的
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.3
本論文の構成
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
第2章 本研究の基本的な考え方
3
2.1
災 害 時 の コ ミュニ ケ ー ション・ディバ イ ド と 不 安 . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.2
不安とは. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2.3
信 頼 の コ ミュニ ケ ー ション:行 政 の 限 界 と ソ ー シャル・メ ディア の 役 割 の
重要性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.4
8
コ ー パ ス を 用 い た 不 安 計 量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.4.1
コ ー パ ス 言 語 学 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
2.4.2
ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス . . . . . . . . . . . . . . . 13
2.4.3
コ ー パ ス に 基 づ く 不 安 計 量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
第 3 章 災 害 時 の ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション に 関 す る 基 本 分 析
19
3.1
ミ ク ロ・ブ ロ グ を 活 用 し た ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション . . . . . . . . 19
3.2
東 日 本 大 震 災 の 時 間 軸 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
3.3
政 府 機 関 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ の ト ピック 比 較 . . . . . . . . . . . . . . . . 23
3.4
ミ ク ロ・ブ ロ グ を 用 い た リ ス ク に 関 す る 時 系 列 分 析 . . . . . . . . . . . . 28
第 4 章 政 府 提 供 情 報 と ミ ク ロ・ブ ロ グ コ ー パ ス を 用 い た 内 容 分 析
32
4.1
分 析 に 用 い る デ ー タ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
4.2
コ ー パ ス 言 語 学 に 基 づ く 分 析 の 手 順 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
4.3
政 府 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ の リ ス ク に 対 す る 評 価 に 関 す る 時 系 列 空
間 配 置 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
1
4.4
政 府 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ・コ ー パ ス の リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティ
ブ 度 分 析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42
第5章 分析の考察
45
第6章 結論
46
参考文献
48
第1章
1.1
序論
本研究の背景
将 来 起 こ り う る 巨 大 災 害 に 備 え て 、非 常 時 に お け る ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー
ション の 内 容 と 構 造 を 明 確 化 す る こ と は リ ス ク・マ ネ ジ メ ン ト に お い て 重 要 な 課
題 で あ る 。災 害 時 に お い て は 、被 災 者 や 非 被 災 者 の 住 民 は も ち ろ ん 政 府 や 企 業 な
ど 多 様 な 立 場 に 置 か れ た 人々に よ る 情 報 共 有 、す な わ ち ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー
ション が 行 わ れ る 。ど の よ う な リ ス ク が 生 じ て い る か 、そ れ に ど う 対 応 す べ き な
の か 等 、リ ス ク に 対 応 す る た め の マ ネ ジ メ ン ト に つ い て 意 見 交 換 を す る 。近 年
の モ バ イ ル 通 信 技 術 や ソ ー シャル・メ ディア の 急 速 な 進 歩 に よ り、い つ で も・ど こ
で も・だ れ と も 手 軽 に 携 帯 電 子 機 器 を 用 い て コ ミュニ ケ ー ション が で き る よ う に
なった 。す な わ ち 、地 域 内 だ け で な く 全 世 界 へ と 広 い 範 囲 の コ ミュニ ケ ー ション が
可 能 と なった と 言 え る 。こ れ は 、巨 大 災 害 に よって 断 絶 し が ち な 実 世 界 の 人 的 ネッ
ト ワ ー ク を 補 強 し 、様々な レ ベ ル で の 災 害 救 援・復 興 協 力 を 強 化 す る も の と し て
注目を浴びている。
3 月 1 1 日 の 東 日 本 大 震 災 で は 、携 帯 電 話 や イ ン タ ー ネット な ど を 通 じ た 情 報
交 換 が 大 き な 役 割 を 果 た し た 。こ れ ら の 媒 体 は こ れ ま で の 災 害 と は 異 な る 形 態
の ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション を 導 い た と 言 え る 。具 体 的 に は 、災 害 直 後 の 支
援 物 資 の 調 達 、緊 急 患 者 存 否 確 認 、非 難 出 来 ず 孤 立 し た 人 た ち の 位 置 情 報 な ど
が 瞬 時 に モ バ イ ル 通 信 機 器 や ソ ー シャル・メ ディア を 通 じ て 世 界 に 広 がった 。災 害
地 に い る 人 が 自 分 の 状 況 を イ ン タ ー ネット 上 に 発 信 し 、そ れ を 見 た 非 災 害 地 に い
る 人 が 伝 達 し 、こ の よ う な 過 程 が 繰 り 返 さ れ 、災 害 地 の 内 側 と 外 側 の 間 に ネット
ワ ー ク が で き た の で あ る 。一 方 、テ レ ビ・新 聞・ブ ロ グ な ど ソ ー シャル・メ ディア の
多 様 化 に よ り、あ る 災 害 に 関 す る 様々な リ ス ク 評 価 情 報 が 瞬 時 に 生 産 さ れ 大 量 に
流 れ る よ う に なった 。し か し 、中 に は 、嘘 や デ マ な ど の 情 報 が 含 ま れ る こ と も 多
く、適 切 な コ ミュニ ケ ー ション が 行 わ れ て い る と は 言 い 難 い 。信 頼 性 の 低 い 情 報 で
あって も 、そ れ が 自 分 の 身 に 危 険 を も た ら す 可 能 性 が あ る と 判 断 し た 場 合 は 、人
は 不 安 に 陥 り や す く、や が て は 社 会 全 体 の シ ス テ ム が う ま く 起 動・運 営 で き な く
1
なる恐れがある。
1.2
本研究の目的
本 研 究 で は 、災 害 時 の ク ラ イ シ ス コ ミュニ ケ ー ション に お け る リ ス ク 評 価 と 不 安
の 影 響 と の 関 係 を 明 ら か に す る と と も に 、コ ー パ ス を 用 い た 不 安 計 量 手 法 を 開
発 す る こ と を 目 的 と す る 。そ の た め に 3 月 11 日 東 日 本 大 震 災 に 関 す る 、政 府 発 表
と ミ ク ロ・ブ ロ グ の コ ー パ ス を 用 い て 、政 府 と 国 民 の リ ス ク「 放 射 能( 放 射 線 )」
に 対 す る 評 価 の 相 違 を 検 討 す る 。そ の 際 、リ ス ク に 対 す る 評 価 の 極 性 を 適 用 し
た 不 安 計 量 指 標 を 提 案 し 、不 安 の 時 系 列 変 動 を 解 釈 し 立 場 に よ る 違 い を 明 ら か
にする。
1.3
本論文の構成
本 論 文 は 5 章 か ら 構 成 さ れ る 。第 2 章 で は 、災 害 時 の コ ミュニ ケ ー ション・ディバ
イ ド と 不 安 と の 関 係 や 、災 害 時 に お け る 不 安 の 概 念 を 整 理 し 、不 安 計 量 に 必 要
な 不 安 評 価 指 標 を 検 討 す る 。そ し て 本 研 究 で 提 案 す る コ ー パ ス 言 語 学 を 用 い た
不 安 計 量 手 法 の 意 義 に つ い て 述 べ る 。第 3 章 で は 、東 日 本 大 震 災 に 、ク ラ イ シ ス・
コ ミュニ ケ ー ション に お い て の ミ ク ロ ブ ロ グ の 活 用 例 を 紹 介 す る 。そ し て ミ ク ロ・
ブ ロ グ に お け る リ ス ク 評 価 内 容 や 構 造 に つ い て 基 礎 分 析 を 行 う。第 4 章 で は 、ク
ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス を 用 い て 政 府 と 国 民 の リ ス ク に 対 す る 評
価 内 容 と 構 造 の 違 い を 明 確 化 す る 。そ し て リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 極
性 を 適 用 し た 不 安 計 量 指 標 を 提 案 し 、不 安 の 時 系 列 変 化 を 解 釈 し 、不 安 計 量 を
試 み る 。第 5 章 で は 、こ れ ま で の 分 析 結 果 に つ い て 考 察 し 、最 後 に 、第 6 章 に て 、
ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション に 関 し て 分 析 を 通 じ て 得 ら れ た 知 見 に 基 づ い て 、
今後の研究課題をまとめる。
2
第2章
2.1
本研究の基本的な考え方
災 害 時 の コ ミュニ ケ ー ション・ディバ イ ド と 不 安
大 震 災 は 様々な「 壁 」を 作 る .地 震 の 発 生 と と も に ,国 土 は 被 災 地 と 非 被 災 地 に
分 か れ る .被 災 地 内 に お い て も ,さ ら に 被 災 し た 人 と そ う で な い 人 に 分 か れ る .
被 災 地 の 外 側 に い る 人 間 に は ,被 災 地 で 何 が 起 こって い る か が わ か ら な い .被 災
地 の 人 間 は ,被 災 地 の 外 側 に い る 人 間 が ,自 分 た ち の 被 災 状 況 を ど の 程 度 知って
お り,ど の よ う な 救 援 活 動 が 開 始 さ れ た が わ か ら な い .被 災 地 と 非 被 災 地 の 間
に ,情 報 伝 達 に 対 し て 壁 が あ る .こ の よ う な 壁 は ,日 本 国 内 と 国 外 の 間 に も 存 在
し た .ニュー オ ー リ ン ズ の 水 害 や ハ イ チ の 地 震 の 例 で も わ か る よ う に ,こ の よ う
な 壁 の 存 在 が 人々の 不 安 を か り た て ,犯 罪 や 暴 動 が 発 生 し た と い う 事 例 は 少 な く
な い .し か し ,東 日 本 大 震 災 で は ,被 災 者 は や が て 救 援 が く る こ と を ,非 被 災 者
は 被 災 者 が 救 援 を 待って い る と 信 じ た .信 頼 の 存 在 に よ り,人々は 情 報 の 壁 を 乗 り
越 え る こ と が で き た .こ の よ う な 助 け 合 い の ネット ワ ー ク が な ぜ 生 ま れ た の か?
将 来 ,わ れ わ れ に は 想 定 で き な い よ う な 災 害 が 発 生 す る 可 能 性 が あ る .そ の 原
因 の 一 つ は ,リ ス ク の 複 雑 化 で あ る .原 子 力 発 電 や 遺 伝 子 工 学 が 生 み 出 し た 生
物・化 学 物 質 等 へ の 依 存 度 が 高 く な る に つ れ ,ひ と び と は 新 し い タ イ プ の リ ス ク
に 直 面 す る .さ ら に ,少 子 高 齢 化 の 進 展 や 伝 統 的 な 家 族 パ タ ー ン の 崩 壊 に 伴って ,
社 会 的 な 靭 帯 が 薄 れ て い く.個 人 や 家 族 ,あ る い は 地 域 社 会 も リ ス ク を マ ネ ジ メ
ン ト で き な い .わ れ わ れ は ,
「 ど の よ う な リ ス ク に 直 面 し て い る の か 」に つ い て 十
分 な 知 識 を 持って い る と は 限 ら な い .
「 こ れ か ら 起 こ る か も し れ な い こ と 」と「 私
達 が 知って い る こ と 」の 間 に は ,乗 り 越 え が た い 壁 が 存 在 し て い る .ま さ に ,想
定 外 の こ と が 起 こ り え る こ と を 想 定 す る こ と が 必 要 で あ る .こ の よ う な 問 題 に
対 し て ,わ れ わ れ は ど の よ う に 準 備 し て お け ば い い の か?以 上 の 問 題 に 答 え る こ
と は 難 し い .本 研 究 で は ,こ れ ら の 問 題 意 識 を もって ,ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー
ション と 不 安 に つ い て 考 察 す る 。
3
2.2
不安とは
不 安(Anxiety)の 学 術 的 定 義 は ま だ 明 瞭 で は な い が 、一 般 的 に は 、あ る 状 況 や 物
事に対してそれがどのような結果をもたらすか判断ができずその結果の良さに
対 す る 確 認 を 持 た な い 場 合 生 じ る 様々な 懸 念・悩 み・心 配 な ど と いった 否 定 的 な 感
情 を 言 う。災 害 に よ る 不 安 は 、様々な 要 因 と の 関 係 の 中 で 生 じ る が 、本 研 究 で は 、
災 害 リ ス ク に 関 す る コ ミュニ ケ ー ション と の 関 係 の 中 で 不 安 の 概 念 を 考 察 す る こ
とにする。
Beck ら 2) は 、不 安 は 、危 険 情 報 の 選 択 処 理 (selective processing of threat) に 伴 う も の
で あ る と 主 張 す る 。あ る 情 報 が 自 分 の 安 全 や 安 心 を 脅 か す 又 は 危 険 に す る こ と
を 意 味 す る と 認 識 さ れ る 時 、そ れ を 危 険 情 報 と し て 選 択 す る 認 知 処 理 に 関 連 す
る と い う。危 険 情 報 の 認 知 処 理 に は 、選 択 的 バ イ ア ス (selective bias) が 存 在 す る 。
こ れ は 、我々の 注 意・解 釈・記 憶 の 中 で そ れ が 不 安(anxious) な 状 態 か 、不 安 で な い
(non-anxious)状 態 か の 判 断 に よって 区 別 さ れ る 特 徴 が あ る と 指 摘 す る 。危 険 情 報
の 選 択 処 理 は 、1 )一 次 認 知 (initial registration)、2 )即 時 準 備(immediate preparation)、
3 )二 次 加 工(secondary elaboration)の 3 段 階 で 成 り 立 つ と い う。第 1 に 、一 次 認 知
は 、素 早 く 無 意 識 に 自 動 的 に 反 射 的 に 情 報 を 理 解 し 記 憶 す る 段 階 と し て 、生 存 に
必 要 不 可 欠 な プ ロ セ ス で あ る 。例 え ば 、津 波 を 見 て「 危 険 、逃 げ な きゃ」と 即 時 に
危 険 だ と 察 知 す る こ と で 、死 を 招 く 危 険 な 状 況 に 落 ち る こ と を 防 ぐ こ と が で き
る 。第 2 に 、即 時 準 備 は 、危 険 の 最 小 化 と 安 全 の 最 大 化 を 図 る た め の 制 御 的 戦 略
的 処 置 と し て 行 う 本 能 的 な 反 応(primal response) を 指 す。本 能 的 な 反 応 に は 、a)戦
い な ど 防 衛 的 な 行 為 の た め の 準 備 と し て の 自 律 喚 起(autonomic arousal)、b)リ ス ク
や 危 険 を 免 れ る た め の 避 難・回 避 行 為 と し て の 行 動 の 動 員 お よ び 抑 制 (behavioral
mobilization and inhibition) c)脅 威 刺 激 に 対 す る 認 知 処 理 の 狭 窄 ま た は 収 縮 、か つ 、
可能性のある脅威と危険への無意識な自動思考やイメージの反復的生産に関す
る 原 始 的 思 考 (primal thinking)、d) 人々の 行 動 を 動 機 付 け る 恐 怖 感 (a feeling of fear)、
e) 危 険 シ グ ナ ル に 対 す る 過 覚 醒 的 警 戒 状 態 (hypervigilance for threat cues) の 5 つ に 区
別 す る 。5 つ の 即 時 準 備 は 、危 険 に 対 す る 初 期 の 意 味 解 析 (initial semantic analysis)
に 大 き く 依 存 す る 。第 3 に 、二 次 加 工 は 、一 次 認 知 に 比 べ よ り 精 巧 な 意 味 解 析
(elaborative semantic analysis)を 行 う 段 階 で あ る 。こ の 段 階 で は 、情 報 を ゆっく り、一
生 懸 命 、概 略 的 に 処 理 す る 特 徴 が あ る 。そ し て 、認 知 し た 危 険 に 対 応 す る た め
4
に 、自 分 が 持って い る 対 応 資 源(coping resource)の 可 用 性 と 有 効 性 へ の 評 価 を 行 う。
こ の 二 次 加 工 が 不 安 に 大 き く 関 係 す る と Rachman 3) , 4) は 主 張 す る 。二 次 加 工 に は
1 )心 配(worry)と 2 )安 全 シ グ ナ ル (safety signal) の 2 つ の 側 面 を 持 つ と い う。心
配 は 、危 険 だ と 認 知 し た 情 報 に 対 す る 二 次 加 工 の 一 つ の 結 果 物 で あ り、不 安 の 拡
大 を 促 す る 。一 方 、二 次 加 工 は 、危 険 の 回 避 と 安 全 シ グ ナ ル を 探 索 行 為 の 間 の 相
互 作 用 も 含 む と い う。こ の 考 え 方 は 、危 険 の 量 は 、安 全 な 状 態 へ 戻 れ る ス ピ ー ド
や そ の 可 能 性 に 関 す る 認 知 関 数 に よって 緩 和 さ れ る と い う 仮 説 に 基 づ い て い る 。
例 え ば 、不 安 を 抱 い て い る 人 は 、非 常 口 の 近 く に 座 る こ と や 友 達 や 家 族 と 同 行
す る な ど 、安 全 を 維 持 す る た め の 行 動 を 取 る 。不 安 を 効 果 的 に 減 ら す た め に 安
全 シ グ ナ ル を 開 発 す る 際 、人々の 高 次 の 概 略 処 理 な ど 複 雑 な 行 動 パ タ ー ン を 理 解
す る こ と が 重 要 で あ る 。そ し て 、安 心 感(a sense of safety)を 得 る 一 番 い い 方 法 は 、
危険に対する対処技術と自分の対処能力に対する強固な信念を持つことである
と主張する。
Wind ら 1) も ス ト レ ス の 取 引 モ デ ル(Transactional Stress Model)を 提 案 し 、災 害 に よ
る 不 安 が 、人々の 災 害 に 対 す る 主 観 的 評 価 に 依 存 す る も の で あ る と 主 張 す る 。そ
の 主 観 的 評 価 を 大 き く 二 つ に 分 け、当 該 の 災 害 が ス ト レ ス の 多 い も の か ど う か
と い う「 一 次 評 価 」 と 、当 該 の 災 害 を 自 分 で コ ン ト ロ ー ル で き る か ど う か と い
う「 二 次 評 価 」に よって 決 ま る と 説 明 す る 。そ し て 、災 害 に よ る 不 安 の 軽 減 に は 、
人々の 対 処 行 動(coping behavior)と 社 会 的 支 援(social support)に 左 右 し 、1 )回 避
(avoidance)、2 )再 評 価(reappraisal)、3 )宗 教 的 信 念 (religion)、4 )積 極 的 認 知 対 処
(active cognitive coping)、5 )積 極 的 行 動 対 処(active behavioral coping)、6 )社 会 的 支 援
(social support) の 6 つ の 対 処 行 動 と 社 会 的 支 援 の 項 目 に 分 類 し 不 安 を 評 価 し た 。こ
の 際 、リ ス ク そ の も の で は な く、社 会 的 支 援 へ の 認 識 、す な わ ち 、結 束 感 、信 頼 、
相 互 扶 助 な ど の ソ ー シャル・キャピ タ ル へ の 認 識 の 影 響 を 検 討 し 、災 害 の 状 況 に お
い て 1 つ の ネット ワ ー ク 内 の 親 密 な 社 会 的 な 関 与 が 、ス ト レ ス の 伝 染 (contagion of
stress) を よ り 簡 易 的 な も の に す る こ と で 、対 処 強 度 と 精 神 的 問 題( 不 安 )と の 負
の相関を減少させる結果を示した。
Slovic 5) な ど 、多 く の 研 究 者 が 、リ ス ク の 認 識 問 題 の 重 要 性 を 指 摘 し 、リ ス ク 情
報 の 組 み 立 て(risk information framing)が リ ス ク 回 避 行 動 に 関 す る 意 思 決 定 に 及 ぼ
す 影 響 を 明 示 し た 。例 え ば 、McNeil ら 7) は 、実 験 を 通 じ て 、癌 に 関 す る リ ス ク 情 報
の 組 み 立 て を 異 な る こ と に よって 、手 術 と 放 射 線 療 法 の 二 つ の 選 択 肢 に 対 す る 選
5
択 確 率 が 異 な る 結 果 を 得 た 。Tversky 8) も 、同 様 の 実 験 で 、「 命 が 救 わ れ た 」と「 命
が 失 わ れ た 」と いった 情 報 フ レ ー ミ ン グ の 違 い に よって 、意 思 決 定 の 結 果 が 大 き
く 異 な る こ と を し ま し た 。Gregory ら 9) も 、川 の 水 質 の 改 善 に 関 し て「 失 わ れ た 水
質 の 修 復 」と「 現 状 の レ ベ ル よ り よ く す る 」と の 情 報 フ レ ー ミ ン グ の 違 い に よっ
て そ の 選 好 結 果 が 異 な る こ と を 示 し た 。つ ま り、同 じ リ ス ク 情 報 で あって も 、そ
の 提 示 の 仕 方 が 異 な る 場 合 、そ れ が 論 理 的 に は 対 等 で あって も 異 な る 評 価 や 意 思
決 定 を も た ら す。リ ス ク を ど う 捕 ら え る か 、ど う 評 価 す る か 、そ の 評 価 手 段 や 基
準 の 選 択 に よって 、リ ス ク 認 識 に 大 き な 違 い が 生 じ 、そ れ が 意 思 決 定 に 大 き く 影
響 す る と い う。そ の 理 由 に つ い て Slovic 5) は 、リ ス ク を 認 識 す る 上 で 注 目 す る 情 報
の 違 い を 挙 げ る 。例 え ば 、政 府 や 専 門 家 は「 マ グ ニ チュー 9.0」、「 国 際 原 子 力 事 象
評 価 尺 度 (INES) レ ベ ル 7 」、「 死 者・行 方 不 明 者 2 万 8 千 人 以 上 」な ど 客 観 的・分 析
的・具 体 的・合 理 的 な 言 葉 を 用 い て リ ス ク を 理 解 す る こ と が 多 い 。一 方 、被 災 者
は 、「 食 料 が 全 く な い 」、「 子 供 や 家 族 の 安 否 確 認 で き て い な い 」、「 避 難 し た い が
行 く 宛 が な い 」、
「 ペット が い て 避 難 で き な い 」、
「 放 射 能 か ら 、赤 ちゃん を 救 え 」な
ど 主 観 的・仮 説 的・直 感 的・感 情 的・非 合 理 的( = 規 範 的 )な 言 葉 を 用 い て リ ス ク
を 理 解 す る 傾 向 が 強 い 。ま た 、リ ス ク を 評 価 す る 尺 度 も 様々で あ る 。た と え ば 、
専 門 か は 放 射 能 汚 染 よ り 室 内 の 空 気 汚 染 の 有 害 性( ハ ザ ー ド )を もっと 心 配 す る
が 、一 般 市 民 は そ う 考 え な い 。統 計 的 な 観 点 か ら 見 る と 、放 射 能 や 化 学 物 質 の 影
響 で 死 ぬ 人 の 割 合 は 、交 通 事 故 で 死 ぬ 人 の 割 合 よ り 少 な い 。両 方 と も 実 際 の リ
ス ク(real risks)を 説 明 す る 重 要 な リ ス ク 情 報 で あ る 。し か し 、リ ス ク 情 報 に お け
る 偏 向 し た 見 方 、論 争 、顕 在 的 対 立 は 、リ ス ク 評 価・マ ネ ジ メ ン ト に お い て ま ん
延 し て い る 。Slovic 5) は 、こ の 問 題 に 対 し て 、リ ス ク 認 識 と リ ス ク 承 認 の 社 会 的 価
値 が 重 要 で あ る と 主 張 す る 。そ の 際 、信 頼 (trust) が リ ス ク 認 識 に 重 要 な 役 割 を 果
た し 、信 頼 は リ ス ク を 減 ら す こ と に 対 す る 責 任 感 や 活 動 に 参 加 す る と いった も の
につながると主張する。
3 月 11 日 の 東 日 本 大 震 災 で は 、中 国 人 留 学 生 の 帰 国 が 多 かった 。な ぜ な の か 。こ
の 理 由 を 尋 ね た と こ ろ 、あ る 中 国 人 留 学 生 は「 そ の 理 由 と し て 二 つ 考 え ら れ る 。
一 つ 目 は 、震 度 7 度 と い う 地 震 レ ベ ル に 対 し て 、中 国 人 は 日 本 人 よ り は る か に
高 く 危 険 と 感 じ る こ と 、二 つ 目 は 、家 族 が 帰 国 を 強 く 勧 誘 す る こ と に 対 し て 断
る こ と は 難 し い 。我々は 家 族 に 強 く 属 し て い る (Stick to Family) た め で あ る 。」と 答
え た 。一 方 、あ る イ ン ド ネ シ ア 人 留 学 生 は 、
「 私 の 実 家 は 、西 海 岸 沿 い に あ る 。普
6
段 7 − 8 度 ぐ ら い の 地 震 は 多 い 発 生 す る 地 域 で あ る 。建 物 の 中 の ほ う が 安 全 と
考 え る た め 、今 回 日 本 の 地 震 に つ い て は あ ま り 不 安 は 無 かった 。し か し 、原 子 力
発 電 所 の 事 件 に つ い て は か な り 心 配 し 、帰 国 を 勧 め た 。親 の 情 報 源 は 、主 に 英 語
圏 の BBC や CNN ニュー ス が イ ン ド ネ シ ア 語 で 訳 さ れ た も の だった の で 、日 本 全 体
に 被 害 が あ る と 勘 違 い さ れ る 場 合 が 多 かった 。」こ の よ う に 、あ る リ ス ク に 対 す
る 認 識 は 人々の 立 場 や リ ス ク に 対 す る 経 験 に よって は 大 き く 異 な る 。
Ekberg 6) は 、リ ス ク 社 会 に お け る 6 つ の パ ラ メ ー タ を 定 義 し た 。詳 細 は 、1 )集
団 の リ ス ク 意 識 と リ ス ク の 偏 在(omnipresence)、2 )自 然 リ ス ク か ら 技 術 的 リ ス ク
へ の 移 転 、現 実 の リ ス ク と 社 会 的 に 構 築 さ れ た リ ス ク の 間 の 緊 張 関 係 、実 際 の
リ ス ク と 認 識 さ れ た リ ス ク と の 間 の ギャップ の 増 加 、目 に 見 え な い 仮 想 リ ス ク が
目 に 見 え る 形 に 変 換 、リ ス ク の 空 間 的 に 時 間 的 に 人 口 分 布 的 に 広 が り 国 境 無 き
リ ス ク 化 、3 )競 合・矛 盾・対 立 す る リ ス ク の 定 義 が 急 増 す る こ と で 効 果 的 な リ
ス ク コ ミュニ ケ ー ション を 妨 害 、4 )リ ス ク 問 題 や リ ス ク 事 象 に 対 す る 個 人 的・制
度 的 反 応 と し て 反 射 性 の 出 現 、5 )な ぜ 科 学 や 技 術 が 現 代 社 会 に お い て 拡 散 し
た か 、そ し て 、な ぜ 国 民 は 、科 学 の 内 容 、科 学 者 の 処 置 、科 学 を 管 理 す る 機 関 に
対 す る 信 頼 を 失って し まった の か 、そ の パ ラ ドック ス を 説 明 す る「 リ ス ク と 信 頼 の
逆 相 関 (inverse relationship)」、6 )リ ス ク を 力 や 知 識 は も ち ろ ん 、平 等 、正 義 、人 権 、
民 主 主 義 な ど の 政 治 的 価 値 に 関 連 付 け る「 リ ス ク の 政 治 」で あ る 。
架 空 の リ ス ク (imaginary risk) な ど を 含 む 不 安 の 集 合 意 識 を 考 慮 し た 防 災 計 画 が
必 要 で あ る 。Beck 10) は 、も し 保 険 会 社 が あ る リ ス ク に 対 し て 保 険 を 適 用 し て く れ
る の で ば れ ば 、そ の リ ス ク は リ ス ク (risk) で 終 わ る が 、そ う で な い 場 合 は そ の リ
ス ク は 危 険 な 存 在(threat)と 認 識 さ れ 、不 安 を 招 く こ と に な る 。中 谷 11) と 福 井 12)
は ,人々は 現 実 的 に は「 ゼ ロ リ ス ク 」の 達 成 が 困 難 で あ り 漸 次 的 な プ ロ セ ス し か
な く,繰 り 返 す こ と で 大 き な コ ス ト を 要 す る こ と を 理 解 し て い る と 指 摘 す る .ま
た ,た と え ゼ ロ リ ス ク の 達 成 が 不 可 能 で あ る と 告 げ ら れ た と し て も ,リ ス ク 管 理
主 体 に 対 す る 直 接 的 な 信 頼 を 低 下 さ せ る こ と は な い と さ れ ,い わ ゆ る「 あ く ま
で ゼ ロ リ ス ク に 固 執 す る 」不 合 理 な 公 衆 の イ メ ー ジ は 払 拭 さ れ つ つ あ り,行 政 や
企 業 ,専 門 家 は そ の メ タ モ デ ル を 捨 象 し て コ ミュニ ケ ー ション す る こ と が 必 要 で
あ る と 指 摘 す る .そ し て ,主 観 的 な 価 値 を 含 む こ と が リ ス ク 評 価 に 不 可 欠 で あ
る と 指 摘 し ,非 専 門 家 や 市 民 の リ ス ク 評 価 情 報 の 重 要 性 を 主 張 し た .そ れ は ,市
民 の リ ス ク 評 価 情 報 は ,完 全 に 主 観 的 な も の で は な く,長 年 の 経 験 や 生 活 空 間 に
7
蓄 積 さ れ た 知 恵 や 土 着 の 技 術 環 境 な ど を 背 後 に 形 成 さ れ て い る も の で あ り,ど
の よ う に 生 活 環 境 を 認 識 し て い る か と いった ,間 主 観 的 な 認 識 に 根 ざ し た も の で
あ る か ら だ と 説 明 す る. 災 害 時 に 生 じ る 不 安 材 料 は 何 か 、政 府 や 住 民 同 士 の リ ス
クの情報の共有のあり方を議論することが重要である。
2.3
信 頼 の コ ミュニ ケ ー ション:行 政 の 限 界 と ソ ー シャル・メ ディ
アの役割の重要性
災 害 が 起 き る と 、国 の 安 全 対 策 情 報 、家 族・知 人 の 安 否 情 報 、避 難 情 報 な ど 、様々
な 情 報 が 必 要 と な る 。こ れ に 対 し て 政 府 の 責 任 は 大 き い 。し か し 、道 路 や 通 信 手
段 の 断 絶 に よ り、行 政 の 情 報 共 有 が 用 意 で は な く、ま た 個 別 対 応 が 難 し く、瞬 時
に コ ミュニ ケ ー ション で き な い 問 題 が あ る 。行 政 は 、あ く ま で も 普 遍 主 義 原 理 に
従って 、
「 復 旧・復 興 活 動 が 順 調 に 進 ん で い る か 」、
「問題となるような隘路が存在
し な い か 」、に つ い て 評 価 し 、必 要 と あ れ ば ボ ラ ン タ リ ー 組 織 の 活 動 を 支 援 し た
り、組 織 間 の コ ー ディネ ー ション を 行 う こ と が 必 要 と な る 。こ の 国 の 限 界 を 補 う べ
く 住 民 同 士 、又 は 被 災 者 と 非 被 災 者 同 士 の リ ス ク 情 報 共 有 が 重 要 と な る 。実 際
に 災 害 が 起 き る と ,見 知 ら ぬ 人 同 士 が 友 達 に な り,力 を 合 わ せ ,惜 し げ な く 物 を
分 け 合 い ,自 分 に 求 め ら れ る 新 し い 役 割 を 見 出 す.個 人 と グ ル ー プ の 価 値 観 ,目
的 が 一 時 的 に 合 致 し ,被 災 者 の 間 に ,正 常 な 状 況 の も と で は めった に 得 ら れ な い
帰 属 感 と 一 体 感 が 生 ま れ る .ソ ル ニット 23) は ,災 害 後 に 現 れ る ひ と び と が 助 け あ
う よ う な 共 同 体 を 災 害 ユ ー ト ピ ア と 呼 ん だ .ク ラ イ ス・コ ミュニ ケ ー ション が 働 く
た め に は ,平 常 時 の リ ス ク・コ ミュニ ケ ー ション と あ ら ゆ る「 壁 」を 乗 り 越 え る た
め の 新 し い リ ス ク・コ ミュニ ケ ー ション・ネット ワ ー ク が 必 要 と な る .
「 津 波 て ん で ん こ 」と い う 言 い 伝 え が あ る 。「 津 波 の 時 は 親 子 で あって も 構 う
な 。一 人 一 人 が て ん で ば ら ば ら に なって も 早 く 高 台 へ 行 け 」と い う 意 味 で あ る 。
た び た び 津 波 に 襲 わ れ た 三 陸 の 歴 史 か ら 生 ま れ た 言 い 伝 え で あ る 。東 日 本 大 震
災 に お い て も 、家 族 や 家 が 心 配 だった け ど 、無 意 識 に 高 い 方 に 逃 げ た と い う 人 が
少 な く な い 。生 き 残 る こ と が 何 よ り も 重 要 で あ る 。そ れ は 単 に 一 人 の 問 題 だ け
で は な く、家 族 や 友 人 ま た は 社 会 全 体 の 問 題 で あ る 。私 だ け 生 き 残って い い と い
う 気 持 ち が よ ぎ る か も し れ な い 。「 て ん で ん こ 」は 、相 手 が 必 ず 避 難 し て く れ て
いるという家族の信頼があることを前提に成立している。
8
大 震 災 の 直 後 に 孤 立 し た 人々や コ ミュニ ティが 存 在 し た 。災 害 の 内 側 に い る 人々
と 外 側 に い る 人々の 間 に 情 報 の 壁 が 現 れ た 。 宮 崎 県 石 巻 市 雄 勝 町( 人 口 約 4 千
人 )は 津 波 で 沿 岸 道 路 が 寸 断 さ れ 孤 立 し て し まった 。電 気 ,ガ ス ,水 道 ,電 話 す べ
て が 通 じ な い .人々は ス ト ー ブ が あ る と こ ろ で ラ ジ オ を 囲 ん で い た 。そ の 内 一 人
の 名 前 が 放 送 さ れ た .東 京 の 娘 が 安 否 を た ず ね て い た .
「 こ こ に い る 」と 思 わ ず
声を上げた.
「 家 族 に 私 は 生 き て い る と 伝 え た い 」( 朝 日 新 聞 3 月 1 8 日 1 4 版
3 0 ペ ー ジ )。内 側 に い る 人々は 、「 外 側 に い る 人々が 助 け に 来 て く れ る 」こ と を
信 じ た 。さ ら に 、外 側 の 人々は 、
「 内 側 に い る 人々が 助 け を 待って い る 」こ と を 信 じ
た 。信 頼 の コ ミュニ ケ ー ション は 、以 上 の 1 次 的 な 関 係 に と ど ま ら な い 。信 頼 の コ
ミュニ ケ ー ション は 、さ ら に 高 次 の コ ミュニ ケ ー ション に よって 補 強 さ れ て い く。す
な わ ち 、内 部 に い る 人々は 、
「 外 部 に い る 人々が『 内 側 に い る 人々が 助 け を 待って い
る 』と い う こ と を 信 じ て い る 」と い う こ と を 信 じ た 。ま た 、外 部 の 人々は 、「 内 部
に い る 人々が『 外 部 に い る 人々が 助 け に 来 て く れ る 』と 信 じ て い る こ と 」を 信 じ た
の で あ る 。こ の よ う な 相 互 関 係 は 、さ ら に 高 次 に 深 化 し 、無 限 に 発 展 し て い く。
こ の よ う な 信 頼 関 係 の 無 限 の 繰 り 返 し の 構 造 は 、ゲ ー ム 理 論 で い う 共 通 知 識 の
構 造 に ほ か な ら な い 。内 側 の 人々と 外 側 の 人々は 、直 接 の コ ミュニ ケ ー ション は 遮
断 さ れ て い た に も か か わ ら ず、信 頼 関 係 を 通 じ た コ ミュニ ケ ー ション が 成 立 し て
い た わ け で あ る 。信 頼 関 係 の コ ミュニ ケ ー ション を 通 じ て 、ひ と び と は 内 側 と 外
側 の 間 に あ る 災 害 の 壁 を 乗 り 越 え る こ と が で き た 。内 側 の 人々と 外 側 の 人々は 、
直 接 面 識 が な い か も し れ な い 。そ れ に も 関 わ ら ず、ど の よ う に し て 信 頼 の 関 係 を
築 く こ と が で き た の だ ろ う か?
信 頼 と は 、広 義 に は「 自 分 が 抱 い て い る 諸々の( 他 者 あ る い は 社 会 へ の )期 待
を あ て に す る こ と 」を 表 す。こ の よ う な 信 頼 関 係 は 、基 本 的 に 信 頼 す る 側( 信 頼
者 )と 信 頼 さ れ る 側( 被 信 頼 者 )間 の 2 者 関 係 と し て 捉 え る こ と が で き る 。両
者 の 信 頼 関 係 は 信 頼 と 信 頼 性 と い う 2 つ の 特 性 に 基 づ い て 形 成 さ れ る 。信 頼 性
(trustworthy)と は 、相 手 が 信 頼 に 足 る 行 動 を と る か 否 か を 表 す 被 信 頼 者 の 特 性 で
あ る 。一 方 、信 頼(trust)は 相 手 の 信 頼 性 に 対 す る 評 価 を 表 し て い る 。山 岸 は 、能
力 に 対 す る 信 頼 は 、相 手 が 当 該 の 行 動 を 遂 行 す る 能 力 を 有 し て い る か に 関 わ る
信 頼( 能 力 に 対 す る 信 頼 )と 、相 手 が 自 分 を 搾 取 す る 意 図 を 有 し て い な い と い う
信 頼( 意 図 に 対 す る 信 頼 )を 区 別 し て い る 。信 頼 者 と 被 信 頼 者 と の 間 の 信 頼 形 成
は 、単 に 被 信 頼 者 が 信 頼 性 を 有 し て い る だ け で は 実 現 し な い 。か り に 、被 信 頼 者
9
が 信 頼 特 性 を 身 に つ け て い た と し て も 、信 頼 者 が そ の 点 を 理 解 で き な け れ ば 、両
者 の 間 で 信 頼 関 係 を 形 成 す る こ と は 難 し い 。被 信 頼 者 が 信 頼 者 の 自 分 に 対 す る
信 頼 を 理 解 し た 上 で 、信 頼 に 足 る 行 動 を 選 択 す る と と も に 、信 頼 者 が 被 信 頼 者
の 信 頼 性 を 理 解 す る こ と に よって 、被 信 頼 者 を 信 頼 す る と い う 両 者 の 期 待 と 行 動
と の 間 で 整 合 性 が 満 た さ れ る 状 況 の 下 で 、信 頼 者 − 被 信 頼 者 間 の 信 頼 関 係 が 形
成される。
現 代 社 会 に お い て は 、不 特 定 多 数 の 人 間 が お 互 い に 関 わ り 合 い を 持 つ 中 で 、相
手 を 信 頼 す る か 否 か を 決 定 し て い る 。こ の よ う な 状 況 の 下 で は 、個 人 は 相 手 が 信
頼 性 を 有 し て い る か 否 か を 知 る こ と は 困 難 で あ る 。さ ら に 、地 域 住 民 、企 業 、そ
の 他 の 組 織 の 有 す る 知 識 や 情 報 が 分 散 化 さ れ 、そ の 内 容 も 著 し く 多 様 化 、複 雑
化 、専 門 化 し て い る 。こ の よ う な 状 況 に お い て は 、個 人 に とって 起 こ り 得 る あ ら
ゆ る 事 態 を 事 前 に 予 期 す る こ と は 実 質 的 に 不 可 能 で あ ろ う。社 会 学 者 ル ー マ ン
は 、社 会 に お け る 可 能 な 事 態 の 多 様 度 を「 複 雑 性 」と 定 義 す る 。人々は 、複 雑 な 社
会 の 中 に 何 ら か の 秩 序・規 則 性 を 見 出 し 、信 頼 は 社 会 的 な 複 雑 性 を 縮 減 す る 働 き
を す る と 指 摘 し て い る 。信 頼 は 、個 人 が 潜 在 的 に 未 規 定 な 事 態 の 複 雑 性 を 抱 え
つ つ も 、社 会 生 活 を 営 む こ と を 可 能 に す る の で あ る 。信 頼 と は 将 来 の 不 確 定 性
を 内 包 し つ つ 、そ れ に も か か わ ら ず 他 者 に 対 す る 期 待 を あ て に す る 行 為 で あ る 。
人々は 、限 ら れ た 情 報 を 手 が か り と し つ つ も 、相 手 を 信 頼 に た る 人 間 か ど う か を
判 断 し て い る 。不 確 実 な 情 報 の 下 で 、「 被 信 頼 者 が 信 頼 性 を 有 し て い る こ と 」を
信 頼 し な け れ ば な ら な い 。同 様 に 、被 信 頼 者 も 、信 頼 者 が 自 分 の こ と を 信 頼 す る
か 否 か を 完 全 に 把 握 で き な い よ う な 状 況 に お い て 、信 頼 者 に 対 し て 信 頼 に 値 す
る 行 動 を 選 択 し な け れ ば な ら な い 。し た がって 、信 頼 者 と 被 信 頼 者 と の 間 で 信 頼
が 形 成 さ れ る た め に は 、信 頼 者 と 被 信 頼 者 の そ れ ぞ れ が 、被 信 頼 者 を 信 頼 す る 、
信 頼 者 の 信 頼 を 引 き 受 け る こ と に 対 し て 、双 方 が 互 い に リ ス ク を 引 き 受 け る こ
とにより初めて実現する。
こ の よ う な 相 互 依 存 関 係 は 、信 頼 者 と 被 信 頼 者 と の 間 で「 期 待 の 相 補 性 」が 成
立 す る 場 合 に は じ め て 実 現 す る 。期 待 の 相 補 性 と は 、
「2人の行為者のそれぞれ
の 行 為 が 、相 手 の 抱 く 期 待 に 対 し て 志 向 し て い る 」状 況 を 表 し て い る 。期 待 の 相
補 性 原 則 が 成 立 す る 場 合 、信 頼 者 と 被 信 頼 者 は そ れ ぞ れ 相 手 の 行 為 を 予 想 し た
上 で 、自 分 の 行 為 を 決 定 す る 。し か し 、期 待 の 相 補 性 は 、相 手 の 行 為 に 関 す る 予
想 だ け で は 終 了 せ ず、さ ら に 、自 分 の 行 為 に 関 す る 相 手 の 予 想 に 関 す る 自 分 の 予
10
想 と い う 新 た な 次 元 の 推 論 過 程 を 伴 う も の で あ る 。こ の 結 果 、期 待 の 相 補 性 が 存
在 す る 場 合 、両 者 の 推 論 過 程 は よ り 高 次 元 の 推 論 へ と 無 限 に 後 退 し 、信 頼 者 と 被
信 頼 者 は 自 分 の 予 想 に 対 す る 相 手 の 予 想 を 内 包 し た 反 省 的 な 推 論 を 行 う。こ の
よ う な 反 省 的 な 推 論 が な さ れ る 場 合 、信 頼 者 に よ る 信 頼 す る と い う 行 為 、あ る
い は 被 信 頼 者 に よ る 信 頼 性 を 担 う と い う 行 為 そ の も の に よって 、そ の 行 為 を 再 帰
的 に 根 拠 付 け る こ と が 可 能 と な る 。信 頼 者 と 被 信 頼 者 の 信 頼 関 係 は 、期 待 の 相
補 性 に 基 づ く 反 省 的 な 推 論 過 程 を 経 て 再 帰 的 に 形 成 さ れ る 。言 い 換 え れ ば 、期
待 の 相 補 性 原 則 は 、信 頼 者 に とって は「 自 分 の 信 頼 に よって 、被 信 頼 者 の 信 頼 性 を
動 機 付 け る こ と が 出 来 る 時 の み 、相 手 を 信 頼 す る 」と い う 行 動 ル ー ル を 、被 信 頼
者 に とって は 、
「 自 分 の 信 頼 性 に よって 、信 頼 者 の 信 頼 を 動 機 付 け る こ と が 出 来 る
時 の み 、相 手 に 対 し て 信 頼 性 を 示 す 」と い う 行 動 ル ー ル を 与 え る も の で あ る 。
信 頼 者 と 被 信 頼 者 間 の 期 待 の 相 補 性 原 則 は 、必 ず し も 明 示 的 に 確 証 さ れ る 必
要 は な い 。む し ろ 、信 頼 者 と 被 信 頼 者 が そ れ ぞ れ 、他 者 を 自 分 の 予 期 に 応 じ て 反
応 す る も の と 潜 在 的 に 認 識 す る か が 重 要 で あ る 。こ の よ う に 、自 分 の 意 識 の 中 に
取 り 込 ま れ た 他 者 の 認 識 、す な わ ち 、他 我 の 意 識 が 、他 者 と 対 峙 す る 際 に 生 じ る
複 雑 性 を 縮 減 す る 上 で 不 可 欠 と な る 。前 述 し た よ う に 、社 会 的 な 複 雑 性 が 存 在 す
る 時 、個 人 に とって 、社 会 は 他 者 の 行 為 に 関 す る 多 様 な 可 能 性 に 常 に 開 か れ て い
る 。こ の よ う な 社 会 に お い て 、一 定 の 秩 序 が 形 成 さ れ る た め に は 、他 者 が 自 分 の
予 期 に 応 じ て 拘 束 さ れ た 存 在 で あ る こ と が 認 識 さ れ な け れ ば な ら な い 。期 待 の
相 補 性 原 則 と は 、個 人 の 自 由 と 社 会 の 生 存 と い う コ ン フ リ ク ト に 対 し て 、人 び と
が互いの行動を相互規制するような一定の倫理的ルールであると考えることが
で き る 。社 会 シ ス テ ム に は 複 数 の 自 由 が 混 在 し 、混 乱 と 自 由 の 侵 害 の 危 険 が 生
じ て い る 場 で あ る と 同 時 に 、人々が そ れ を 自 生 的 に 解 決 す る こ と に よって 、よ り
広 い 見 方 、社 会 的 枠 組 み の も と で 人々が 自 由 を 享 受 で き る 貴 重 な 機 会 を 提 供 す る
場 で あ る 。こ の 場 合 、倫 理 的 ル ー ル は わ れ わ れ の 日 常 生 活 を 制 限 す る 方 向 に 働
く の で は な い 。む し ろ 、わ れ わ れ は 倫 理 的 ル ー ル を 用 い る こ と に よ り 多 種 多 様
な 自 由 を 実 現 す る こ と が で き る の で あ る 。ル ー ル 遵 守 は わ れ わ れ の 多 様 な 生 の
共 存 を 可 能 に す る 。カ ー ル・ポ パ ー は「 開 か れ た 社 会 と そ の 敵 」の 中 で 外 に 対 し
て 開 い て い る が ゆ え に 不 完 全 な 社 会 と し て 自 由 社 会 を 擁 護 し た 。彼 は 知 識 と 無
知 の 根 源 に つ い て 考 察 し 、「 わ れ わ れ の 知 識 が 人 間 の 知 識 で あ る と い う こ と を 、
同時にそれらが必ずしも個人の気まぐれや恣意ではないことを認めるというこ
11
と が い か に 可 能 か 」と い う 問 題 提 起 を 行った 。こ の こ と は 、個 人 の 気 ま ぐ れ や 恣
意 を 許 容 し 、そ こ か ら 生 じ る 意 見 の 相 違 や 論 争 、部 分 的 混 乱 や 試 行 錯 誤 を 許 容
しつつ同時にそうした個人の意図を超えたところに全体として最小限の秩序と
して成立する規範的枠組みが存在することができるかという問いでもある。
2.4
2.4.1
コーパスを用いた不安計量
コーパス言語学
本 研 究 で は 、コ ー パ ス 言 語 学 に 基 づ く 不 安 計 量 手 法 を 提 案 す る 。コ ー パ ス と
は 集 成 テ キ ス ト (text collection) を 表 し 、人々が 言 語 を ど の よ う に 使 用 し た か を 表 す
大 規 模 な サ ン プ ル を 意 味 す る 。そ し て 、コ ー パ ス 言 語 学 (corpus linguistics) は 、大 規
模 な 集 成 テ キ ス ト か ら 得 ら れ た 観 測 デ ー タ を 主 な 根 拠 と し て 活 用 し 、語 や 句 の
用 法 や 意 味 を 説 明 し よ う と す る 言 語 研 究 の ひ と つ の 方 法 論 で あ る 。実 際 に 使 用
さ れ た 言 語 デ ー タ を 分 析 対 象 と し て 、コ ン ピュー タ を 利 用 し た 再 現 可 能 な 計 算
手 法 を 用 い る こ と が 特 徴 で あ り、そ の 点 に お い て 、コ ー パ ス 言 語 学 は 経 験 主 義 的
な 観 察 手 法 で あ る と 言 わ れ る 27) 。Stubbs 29) に よ れ ば 、コ ー パ ス 言 語 学 は 、Saussure、
Wittgenstein、Austin に よって 発 展 さ れ た 意 味 論 の 2 つ の 大 原 則 す な わ ち 、1 )意 味
は 使 用 で あ る (meaning is use)、2 )意 味 は 関 係 的 で あ る (meaning is realational) と い う
原 則 に 基 づ く。第 一 は 、現 実 の 文 脈 で 用 い ら れ て 初 め て 成 立 す る こ と を 意 味 す
る 。第 二 は 、そ の 語 が 共 起 す る 他 の 語 と の 関 係 性 か ら 意 味 を 取 得 す る と 言 う 意
味 で あ る 。す な わ ち 、語 の 意 味 は 、辞 書 に 記 載 さ れ た 固 定 的 な も の で は な く、使
わ れ る 文 脈 に 応 じ て 、社 会 的 、言 語 的 に 意 味 を 取 得 し 、あ る い は 意 味 が 変 化 す る
の で あ る 。こ れ ら の 原 則 に 基 づ い て 、コ ー パ ス 言 語 学 は 、言 語 使 用 の デ ー タ に お
け る 語 の 使 わ れ 方 を 調 べ る こ と に よって 、語 が 持 つ 意 味 や そ の 含 意 を 調 べ る こ と
が 可 能 で あ る と 考 え る 。コ ー パ ス は ト ピック 抽 出 (TFIDF)、共 起 頻 度(co-occurrence
frequency) な ど テ キ ス ト・マ イ ニ ン グ 技 術 を 可 能 と し 、土 木 分 野 に お い て は 、公 的
討 議 の の 内 容 分 析 や 構 造 分 析 に よ く 使 わ れ て き た 27) 。本 研 究 で は 、不 安 の 対 象 と
な り う る リ ス ク が 何 か 、ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション の 内 容 分 析 と 構 造 を 明 ら
かにするためにコーパス言語学を応用することにする。
12
2.4.2
ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス
ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス に は 様々な も の が あ る 。専 門 家 に よっ
て 作 成 さ れ た「 新 聞 や テ レ ビ を 通 じ た マ ス・メ ディア 情 報 」や「 政 府 に よ る 発 表 情
報 」、そ し て 一 般 の 人々に よって 交 わ さ れ た メ ー ル や 携 帯 電 話 な ど が そ れ に あ た
る 。中 で も 、メ ー ル や 携 帯 電 話 な ど を 通 じ た Twitter な ど の コ ー パ ス は 場 所 や 時 間
な ど が 明 示 さ れ て お り、被 災 し た 現 場 の 状 況 を 把 握 す る 貴 重 な も の で あ る 。そ し
て 、各 ユ ー ザ ー の 文 脈 に 沿った 主 観 的 情 報 源 で あ る こ と が 特 徴 で あ る 。そ し て 、
東 日 本 大 震 災 に お い て ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション の 手 段 と し て メ ー ル や 携
帯 電 話 が 大 き く 活 用 さ れ た 。こ れ ら の 個 人 レ ベ ル で の コ ミュニ ケ ー ション 手 段 を
ミ ク ロ・ブ ロ グ と 呼 ぶ 。ミ ク ロ・ブ ロ グ と は 、最 大 200 字 程 度 の 短 い 文 章 の ソ ー シャ
ル・メ デ イ ア で あ り、誰 で も が 自 由 に 気 楽 に 書 き 込 む こ と が で き る .書 き 込 み の
内 容 は 、ソ ー シャル ネット ワ ー キ ン グ サ ー ビ ス よ り 手 軽 に「 一 般 に 」或 い は「 限 ら
れ た ユ ー ザ ー グ ル ー プ の み に 」公 開 す る も の で あ る 。さ ら に 、コ ン ピュー タ ー を
通 じ た チャット の 新 し い 形 態 の 一 つ で あ り、ユ ー ザ ー の ソ ー シャル 関 係 を ベ ー ス に
生 産 さ れ る 膨 大 な 情 報 を 厳 格 な 仕 組 み の 選 別 を 行 わ な い リ ア ル タ イ ム・プ ラット
フォー ム で あ る 16) 17) 。特 徴 と し て は コ ン テ ン ツ の 流 れ が 速 い た め 、討 議 さ れ た り、
検 証 さ れ た り、編 集 さ れ る こ と が 不 可 能 で あ り、他 の ソ ー シャル メ ディア は 相 互 作
用 を す る 場 が 設 け ら れ て い る が 、ミ ク ロ ブ ロ グ の 場 合 は ミ ク ロ ブ ロ グ の デ ー タ
そ れ 自 身 が 場 に な る 特 徴 を 持 つ 。こ の よ う な ユ ニ ー ク な 相 互 作 用 の 方 法 を と る
こ と は 、そ れ だ け が 持 つ 仕 組 み の 選 別 方 法 を 使 う こ と に な り、そ れ に よって 、ユ ー
ザ ー 自 身 が 、自 分 に 必 要 な 情 報 か ど う か を 判 断 す る こ と に な る 。情 報 は 情 報 の
空 間 を 作 る た め に 必 要 に な り、情 報 を 創 造 し 、由 来 し 、総 合・合 成 し 、革 新 す る ラ
イ フ サ イ ク ル の 一 つ の 部 分 に な る と 述 べ る 。こ の よ う な 媒 体 は 災 害 の よ う な 非
常 時 や 様々な 危 機 的 状 況 に お い て 、場 の 状 況 を 即 時 に 判 断 す る た め の 情 報 源 に も
な り 得 る 20) 22) 。
文 が 短 い 特 徴 を 持 ち 、単 位 情 報 の 情 報 量 が 制 限 さ れ て い る た め 、、従 来 の テ キ
ス ト・マ イ イ ニ ン グ で 使 わ れ る 手 法 を そ の ま ま 適 用 す る こ と は 困 難 で あ る 。ま
た 、複 数 の ユ ー ザ ー が 討 議 や 検 証 で き る 場 の 不 在 の た め 、自 然 と そ れ を 乱 用 す
る 人々も 現 れ 、嘘 や 未 確 認 情 報 の よ う な 非 合 法 な 情 報 の 大 量 生 産 す る 問 題 も あ る
19) 。上
記 の 研 究 か ら 本 研 究 で は ミ ク ロ・ブ ロ グ の 特 徴 を 以 下 の よ う に ま と め る こ
13
と が 出 来 る だ ろ う。
• 文 が 短 く、文 の 語 彙 情 報 の 貧 弱 で あ る
• 情報の流れが速い
• ユ ー ザ ー の ソ ー シャル 関 係 に 基 づ い た 情 報 の 伝 達
• ユーザー間で相互検証をする機会の欠如
• 嘘や未確認情報の大量生産
す な わ ち 、相 互 検 証 を 得 て 公 開 さ れ る 新 聞 や ウィキ ペ ディア な ど の よ う な 間 主 観
的 ソ ー シャル・メ ディア と は 異 な り、個 人 の 自 由 に よ り 作 成 さ れ・公 開 さ れ る 主 観
的 ソ ー シャル・メ ディア で あ る 。
2.4.3
コーパスに基づく不安計量
こ こ で は 、コ ー パ ス を 用 い た 不 安 計 量 の た め の 指 標 を い く つ か 紹 介 す る 。ま
ず、注 目 行 為(Attention) を 紹 介 す る 。災 害 時 に 人々は ど の よ う な リ ス ク 情 報 に 注 目
し て い る か を 考 察 す る こ と で 、不 安 の 対 象 と な り う る リ ス ク を 確 認 す る こ と が
出 来 る 。人々は 限 ら れ た 情 報 を 使って 複 雑 な 推 理 が 可 能 で あ る(connectionism) 14) 。
学 習 に は「 努 力 の 水 準 」と「 時 間 」と い う 限 ら れ た 制 約 が あ る 。人々は 常 に‘ 何 を ’
‘ い つ ’学 習 す る か を 決 め な け れ ば な ら な い .そ の た め に 、注 目 行 為(Attention)が
必 修 不 可 欠 で あ る .人々が あ る 環 境 の 中 で 生 き 残 る た め に は 、注 目 行 為 を 有 効 に
活 用 す る 必 要 が あ る .我々の 理 解 力 に 比 べ て ,人々の 周 り の 環 境 は 非 常 に 複 雑 で
あ る .我々は 同 時 に す べ て の こ と に 注 意 を 払 う こ と は 不 可 能 で あ り,様々な 刺 激 の
中 か ら「 選 択 」と い う 行 為 を す る こ と に よって 、努 力 の 水 準 と 時 間 と い う 限 ら れ
た 制 約 を 乗 り 越 え る こ と が で き る 。情 報 の 選 択 を 前 提 と し た 注 目 行 為 は 、快 楽
の 追 求 と 苦 痛 の 回 避 を 行 う と いった 人 間 行 動 の 合 理 性 に 基 づ い て い る 。注 目 行 為
を 介 し て 不 安 を 理 解 す る と い う 考 え も あ る だ ろ う。東 日 本 大 震 災 の 際 、人々は ど
のようなリスクに注目していただろうか。
本 分 析 で は 、コ ー パ ス を 用 い た 簡 単 な 注 目 度 分 析 を 行った 。図 2.1 は 震 災 直 後 1ヶ
月 間 に お け る 地 震 、津 波 、原 発 事 故 に 関 す る 世 界 の 情 報 発 信 状 況 を 示 し た も の
で あ る 28) 。米 国 で 生 産 さ れ た 記 事 数 が 、他 の 国 に 比 べ 、は る か に 多 い こ と が 分 か
14
記事数
120,000,000
100,000,000
80,000,000
60,000,000
40,000,000
20,000,000
0
日本
地震
図–2.1
アメリカ
津波
中国
韓国
イギリス
福島、原子力、放射能、セシウム
地 震 ,津 波 ,原 発 事 故 に 関 す る 世 界 の 情 報 発 信 状 況( 3 月 1 1 日-4 月 1
0 日 間 の 記 事 で Google が 確 認 で き た 数
15
る 。こ れ は 人々の 立 場 の 違 い に よ る も の と し て 、そ の リ ス ク に 対 す る 注 目 度 が 異
な る こ と を 意 味 し て い る と 解 釈 で き る 。し か し 、こ の 指 標 を 不 安 の 度 合 い と 考 え
る こ と に は 理 論 的 検 討 が 必 要 で あ る 。一 例 と し て 、図 2.1 で は 米 国 の 地 震 に 関 連
す る 記 事 数 が 日 本 よ り 多 く、全 て の リ ス ク に 対 し て 日 本 の 接 近 国( 韓 国 や 中 国 )
よ り 多 い 。こ れ は 日 本 の 接 近 国 よ り 米 国 に お け る 不 安 が 高 い と い う よ う な 解 釈
を 招 く 恐 れ が あ り、こ の 結 果 に 対 す る 妥 当 性 は 低 い 。
次 に 、災 害 時 に お け る Twitter の 情 報 フ ロ ー(flow)や ネット ワ ー ク を 応 用 し た 指 標 を
紹 介 す る 。既 往 の 研 究 の 中 で 、Twitter を 用 い た 情 報 の 広 が り や ネット ワ ー ク の 影 響
力 を 分 析 し た 研 究 が あ る 。Kwak ら 13) は 多 く リ ツ イ ー ト さ れ る 能 力 を”ReTweetability”
と 定 義 し 、ネット ワ ー ク 上 の 影 響 力 を 分 析 し よ う と し た 。そ し て 以 下 の よ う に 定
式化した。
R
ln(T ) × ln(F )
(2.1)
R: 一 日 平 均 繰 り 返 し つ ぶ や き 回 数 T: 一 日 平 均 つ ぶ や き 回 数 F:フォロ ワ ー の 数
こ の よ う な 方 法 は 、情 報 の 流 れ や 広 が り 安 さ を 分 析 す る 上 で 有 効 で あ る 。不 安
の 対 象 で あ る リ ス ク は 、情 報 の 流 れ や 広 が り が 相 対 的 に 早 く て 広 範 囲 で あ る と
考 え ら れ る 。”ReTweetability”の よ う な 情 報 の ネット ワ ー ク 上 の 影 響 力 を 確 認 す る こ
と に よって 、リ ス ク 情 報 に 対 す る 不 安 度 を 推 測 す る こ と が 可 能 で あ る 。し か し 、
リ ス ク 情 報 の や り 取 り に よ る 因 果 関 係 が 不 明 で あ る こ と か ら 、不 安 と の 関 連 性
を究明することには限界がある。
そこで本研究ではリスクに対する評価情報を用いた不安計量手法を提案する。
リスク評価情報を用いた不安計量にはどのような方法が考えられるのだろうか。
計 量 の た め に は 推 計 で き る 基 準 が 必 要 で あ る 。高 村 ら は ス ピ ン モ デ ル を 用 い て
単 語 の 感 情 極 性 を 判 断 す る 方 法 を 提 案 し た 33) 。テ キ ス ト の 中 の 感 情( 評 価 意 見 や
態 度 も 含 む )を 同 定 す る こ と は 膨 大 な コ ー パ ス の 極 性 の 判 断 を 行 う 際 に 大 事 で
あ る と い う。あ る も の に 対 す る 評 価 が 肯 定 的 (positive) か 否 定 的 (negative) か と い う
極 性 判 断 を 用 い る こ と で 、対 象 の 対 す る 人々の 評 価 極 性 を 機 械 的 な 判 断 し 、こ れ
ま で は 不 可 能 だった 大 規 模 デ ー タ の 感 情 極 性 判 断 の 処 理 を 可 能 に す る 。高 村 ら 33)
に よって 開 発 さ れ た 単 語 感 情 極 性 対 応 表( 図 2.2)の 用 い る と 、リ ス ク に 対 す る 評
価 の 感 情 極 性 判 断 を す る こ と で 、不 安 の 対 象 で あ る 、リ ス ク に 対 す る( 感 情 )評
16
価行う際の指標として使うことが出来る。
図–2.2
単語感情極性対応表
そ こ で 、本 研 究 で は 人々の 不 安 を 抱 く 対 象 で あ る「 リ ス ク 」を 選 別 し 、高 村 ら 33)
に よって 開 発 さ れ た 単 語 感 情 極 性 対 応 表( 図 2.2)の 用 い て 、リ ス ク に 対 す る 推 論
の 極 性 を 判 断 し 、そ れ ら を 集 計 す る こ と で 不 安 計 量 を 試 み る 。本 研 究 で は 、ク ラ
イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション で 観 測 し た リ ス ク に 対 す る 推 論 、す な わ ち リ ス ク を 表
す 単 語 と の そ れ と 一 緒 に 出 現 し た 単 語( 以 下 、共 起 語 )を 用 い る こ と に す る 。そ
し て 共 起 語 を 単 語 感 情 極 性 対 応 表 を 用 い て 極 性 判 断 を 行 い 、極 性 判 断 の 結 果 か
ら ネ ガ ティブ 度 と 判 断 さ れ た も の を 集 計 す る 。さ ら に 、集 計 し た も の と リ ス ク を
表 す 単 語 の 比 率 を 求 め 、そ れ を「 リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 」と し 、不 安
の 定 量 的 計 測 の た め の 指 標 の 一 つ と 提 案 す る 。も し 、ミ ク ロ・ブ ロ グ に お い て 、
リ ス ク に 対 す る 人々の 感 情 極 性 す な わ ち 、評 価 の ネ ガ ティブ 度 が 大 き な 変 化 す る
こ と を 見 せ る こ と が 示 せ る の で あ れ ば 、そ れ は 災 害 時 と 平 常 時 を 決 定 し 、そ れ
ら を 区 別 す る 指 標 に も な り う る 。こ れ を 明 示 化 で き る こ と は 不 安 が 広 が る 度 合
17
いやタイミングをコーパスを用いた統計的な集計で判断することが可能になる
こ と を 意 味 す る 。実 際 の デ ー タ を 用 い た 分 析 方 法 に つ い て は 第 4 章 で 詳 し く 説
明する。
18
第3章
災 害 時 の ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション に 関
する基本分析
3.1
ミ ク ロ・ブ ロ グ を 活 用 し た ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション
こ こ で は 、東 日 本 大 震 災 に お け る Twitter な ど の ミ ク ロ・ブ ロ グ の 活 用 事 例 を 説 明
す る 。宮 城 県 気 仙 沼 市 の 危 機 管 理 課 (ツ イッタ ー の ア カ ウ ン ト 名:bosai kesennuma)
は 1 1 日 、最 初 の 揺 れ が あった 14 時 46 分 か ら わ ず か 9 分 後 の 14 時 55 分 頃 、大 津 波
警 報 を ツ イ ー ト( つ ぶ や き )し た 。
「 高 台 へ 避 難 」、
「 火 災 発 生 」、
「 身 を 守って 」、
「避
難 所 か ら 離 れ な い で 」な ど と お よ そ 1 分 お き に 情 報 発 信 を 繰 り 返 し た (表 3.1).
こ の 切 迫 し た 被 災 地 の 状 況 は 、他 の ツ イッタ ー 利 用 者 に よって リ ツ イ ー ト( 繰 り
返 し つ ぶ や き )さ れ た 。さ ら に 、イ ン タ ー ネット を 基 盤 と し た 大 規 模 な ソ ー シャー
ル・ネット ワ ー ク を 通 じ て リ ツ イ ー ト、リ ツ イ ー ト、
・
・
・、と いった コ ミュニ ケ ー ション の
連 鎖 が 起 こ り、被 災 地 域 の 状 況 に 関 す る 情 報 が 瞬 時 の う ち に 多 く の 人々に 広 がっ
た 。ブ ロ グ の よ う な 個 人 メ ディア は も ち ろ ん の こ と 、T V や 新 聞 の マ ス メ ディア
に お い て も 、ツ イ ー ト 内 容 が 紹 介 さ れ る な ど 、多 く の 人 の 自 発 的 な コ ミュニ ケ ー
ション に よって 被 災 地 の 状 況 が リ ア ル タ イ ム で 伝 達 さ れ 、多 く の 被 災 者 を 救 う こ
と に 役 に 立った 。こ の 日 の 書 き 込 み は 、3 0 人 に よって 3 8 回 リ ツ イ ー ト さ れ 、被
災 地 の 実 態 に 関 す る 情 報 共 有 に 大 き く 役 立った 。表 2 は 、仙 沼 市 の 危 機 管 理 課 の
情 報 を 伝 達 し た 人 と そ の リ ツ イ ー ト 頻 度 を ま と め た も の で あ る が 、3 月 1 1 日
か ら 4 月 1 0 日 ま で 、時 間 が 経 過 す る ほ ど ネット ワ ー ク の 規 模 が よ り 大 き く 拡 大
し て いった こ と が わ か る 。こ の よ う な 情 報 は 、震 災 直 後 だ け で は な く 震 災 後 の 復
旧 過 程 に お い て も 有 用 な 支 援 情 報 を 与 え て い る 。「 書 き た い こ と いっぱ い 。ノ ー
ト が ほ し い 。」、「 友 達 と バ ラ バ ラ に なった 時 に 、将 来 へ の 不 安 も 幕 る の で は な い
か 。」、「 避 難 所 で は 慣 れ な い 生 活 に よ る 不 眠 や 疲 労 に 悩 ま さ れ て い る 」、「 人 の 絆
が あ る 限 り、街 は きっと 復 興 で き る と 確 信 し た 。」、「 仕 事 が あ れ ば 、い き が い が 生
ま れ 、街 に 活 気 が で る 。震 災 後 の 解 雇 、お 店 破 壊 」、「 住 居 の 確 保 、先 祖 の 墓 も あ
る し 、こ の 土 地 に 愛 着 が あ る の で 、集 団 移 住 の 提 案 を 受 け る つ も り は 無 い 。仮 設
住 宅 に 入 居 で き て も 、そ の 先 の 住 居 が 確 保 で き る の か も 心 配 だ 。住 宅 再 建 の 支
19
表–3.1
宮城県気仙沼市の危機管理課の3月11日のツイート内容
14:55:18
宮城県沿岸に大津波警報高台に避
難
15:02:21
大津波警報発令 高台へ避難
15:03:10
大津波警報 予想される津波高6
mすぐに高台へ避難
15:04:37
大津波警報6m すぐに高台へ避難
15:05:25
津波は八日町まで来ていますすぐ
に避難
…
16:23: 18
第2波は大きいという情報があり
ま す。
すぐに避難してください
…
17:53:22
市内各所で火災発生中 すぐに避
難
…
19:37:08
福 島 県 沖 で 地 震 発 生 身 を 守って く だ
さい
…
22:24:30
ま た 津 波 が き て ま す。避 難 所 か ら 離
れないでください (後略)
20
図–3.1
宮 城 県 気 仙 沼 市 の 危 機 管 理 課 の つ ぶ や き に 対 す る リ ツ イ ー ト( 繰 り 返 し
つ ぶ や き )状 況
援 と 情 報 が ほ し い 。」、「 避 難 所 で 暮 ら す よ う に なって 、以 前 よ り 人 の 優 し さ や 心
配 り が 心 に 響 く よ う に なった 。」と いった 被 災 者 の 生 声 が 瞬 時 に 広 が り、孤 児 支 援 、
医 療 支 援 、住 宅 支 援 な ど 様々な 被 災 支 援 策 に 生 か さ れ て い る 。
警 察 庁 と 内 閣 府 の 6 月 末 の 発 表 に よ る と ,震 災 か ら 5,344 人 が 行 方 不 明 で ,99,236
人 が 避 難 所 で 生 活 を 続 け て い る と い う.道 路 や 通 信 の 途 絶 に よって 被 災 地 に い る
家 族 ,親 戚 ,知 人 な ど と の 連 絡 が と れ な く なった た め ,安 否 確 認 が で き ず 不 安 を
抱 く 人 が 大 勢 い た .不 通 に なった 交 通 手 段 や 電 話 の 代 わ り に ツ イッタ ー は 被 災 地
内 と 外 を 結 び 付 け る 重 要 な コ ミュニ ケ ー ション 手 段 と し て 震 災 の 行 方 不 明 者 捜 査
や 安 否 確 認 に お い て も 大 き く 活 用 さ れ た .図 3.2 は 3 月 1 1 日 か ら 4 月 1 0 日 ま
21
で の 一ヶ月 間 を 対 象 と し て ,”安 否 確 認”を 含 む ツ イ ー ト 及 び リ ツ イ ー ト の 発 信 状
況 を 示 し た も の で あ る .こ の 期 間 中 に ,総 23,132 件 の ツ イ ー ト と 16,910 件 の リ ツ
イ ー ト が あった .”安 否 確 認”を 含 む ツ イ ー ト は ,3 月 1 6 日 の 時 点 で 1 ,0 0 0 件
を 越 え て い る .類 似 語 や 外 国 語 に 書 か れ た ツ イ ー ト 及 び リ ツ イ ー ト を 含 む と 膨
大 な 数 に の ぼ る .世 界 中 の 人々が 今 ま で に な かった 連 鎖 的・爆 発 的 な 情 報 の 広 り に
驚 き ,新 た な コ ミュニ ケ ー ション の 視 点 を 得 た と 言 え る .
安否確認に関するツイート・リツイート状況
7000
6000
件数
5000
ツイート
リツイート
4000
3000
2000
1000
4月10日
4月8日
4月6日
4月4日
4月2日
3月31日
3月29日
3月27日
3月25日
3月23日
3月21日
3月19日
3月17日
3月15日
3月13日
3月11日
0
日付
図–3.2
安 否 確 認 に 関 す る ツ イ ー ト と リ ツ イ ー ト( 繰 り 返 し つ ぶ や き )状 況
さ ら に 、災 害 時 の リ ツ イ ー ト 情 報 を 用 い て 災 害 時 に お け る ソ ー シャル ネット ワ ー
ク の 立 ち 上 が り 構 造 を 確 認 す る こ と が 出 来 る 。本 研 究 で は 図 3.3 を 用 い て 、あ る
リ ー ダ ー の リ ス ク 評 価 情 報 が フォロ ワ ー に よって ど の よ う に 伝 達・共 有 さ れ て い
る か を 確 認 し た 。そ の 結 果 、リ ー ダ ー と フォロ ワ ー の 間 の 情 報 共 有 の ネット ワ ー
ク の 変 化 を 観 察 す る こ と が 出 来 た 。図 3.3( 右 )は 、2 0 1 2 年 5 月 6 日 に 、茨 城
地 域 で 発 生 し た 竜 巻 に よ る 被 害 を 受 け た 直 後 に 成 り 立った ネット ワ ー ク を 可 視 化
し た も の で あ る 。図 3.3( 右 )を 基 に 、東 日 本 大 震 災 後 の 一ヶ月 間( 図 3.3( 左 ))と
茨 城 地 域 竜 巻 発 生 前 の 約 九ヶ月 間( 図 3.3( 中 ))の 2 視 点 に お け る ネット ワ ー ク を
図 式 化 し た 。そ の 結 果 、平 常 時 と 災 害 時 に は 異 な る ネット ワ ー ク が 成 り 立 つ こ と
が 分 か る 。ま た 、あ る 災 害 を 経 験 し ネット ワ ー ク を 通 じ て リ ス ク 情 報 を 共 有 し た
22
経 験 の あ る 人 は 、似 た よ う な 災 害 が も う 一 度 起 き る と 、す ぐ に ク ラ イ シ ス・ネッ
トワークが再び復活する傾向が強いことが分かる。
図–3.3
3.2
災 害 時 と 通 常 時 に お け る ソ ー シャル ネット ワ ー ク の 変 化
東日本大震災の時間軸
表 3.2 は 東 日 本 大 震 災 直 後 一 週 間 の 福 島 第 一 原 子 力 発 電 事 故 に 関 す る 出 来 事 の
一覧である。
3.3
政 府 機 関 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ の ト ピック 比 較
震 災 直 後 、ど の よ う な 内 容 が Twitter 上 で 交 わ さ れ て い た の だ ろ う か 。そ の 具 体
的 な 内 容 を 示 す た め に 、TFIDF を 用 い て 、日 別 に Twitter コ ー パ ス を 集 計 し 、そ れ
ら の ト ピック を 抽 出 す る 。TFIDF は 、コ ー パ ス を 用 い た 話 題 抽 出 の 方 法 と し て 、
Salton ら が 提 案 し た 手 法 で あ る 。土 木 計 画 の 分 野 に お い て 人々の 関 心 事 を 抽 出 す
23
表–3.2
東日本大震災の地震や原発事故に関する出来事の一覧
日
時間
出来事
3月11日
1 4:4 6
震災発生
1 5:4 5
オ イ ル タ ン ク が 大 津 波 に よって 流 出
1 6:3 6
1号機冷却装置注水不能
0:4 9
1号機原子炉格納容器圧力異常上昇
1 4:0 0
1号機核燃料の一部が溶け出た可能性
1 5:3 6
1 号 機 建 屋 で 水 素 爆 発 。上 部 の 壁 材 の み 爆 砕
2:4 4
3号機高圧注水系が停止
4:1 5
3号機燃料棒が露出
1 2:5 5
1 号 機 、3 号 機 燃 料 棒 露 出 海 水 注 入 後 も 水 位 が 上 が ら な い
1 1:0 1
3号機爆発
1 3:2 5
2号機冷却機能喪失
1 9:4 5
2号機燃料棒全露出
2 3:3 9
2号機格納容器圧力異常上昇
1:1 1
2 号 機 原 子 炉 圧 力:1.44 MPa ⇒ 0.92 Mpa
3:0 0
2号機格納容器圧力が設計圧力を超えた
6:1 0
2 号 機 異 音 発 生 、圧 力 抑 制 室 の 圧 力 低 下
6:1 4
3 号 機 煙 発 生 、4 号 機 音 が し て 壁 の 一 部 破 損
8:2 5
2号機白煙確認
9:3 8
4号機 火災確認
1 0:2 2
3 号 機 周 辺 で 400 mSv/h
5:4 5
4号機再出火
1 0:0 0
放 射 線 量 の 上 昇 、原 因 は 2 号 機 と 発 表
9:4 8
3 号 機 に ヘ リ コ プ タ ー で 30 ト ン 放 水
1 9:0 5
3 号 機 に 地 上 か ら 12 ト ン 放 水
3月12日
3月13日
3月14日
3月15日
3月16日
3月17日
24
る 上 で 使 わ れ て い る 25) 26) 。TFIDF 法 は 、分 析 対 象 テ キ ス ト と 参 照 コ ー パ ス を 比 較
し 、分 析 対 象 テ キ ス ト の ト ピック を 抽 出 す る 方 法 で 、参 照 コ ー パ ス で の 生 起 よ り
も 高 頻 度 で 生 起 す る 単 語 を 、分 析 対 象 テ キ ス ト の 中 の 重 要 度 の 高 い 語 と し て 抽
出 す る 。こ こ で は 、Twitter コ ー パ ス を 分 析 対 象 テ キ ス ト と し 、TFIDF 値 が 高 い 3
0 個 の ト ピック を 抽 出 し た 結 果 を 図 3.4 に 示 す。さ ら に 、こ れ ら の ト ピック を 6 つ
の カ テ ゴ リ ー( リ ス ク、被 災 者 、感 情 表 現 、安 否 確 認 、場 所 、情 報 源 )に 分 け て 色
づ け し た 。上 位 5 位 ま で を 見 る と「 地 震 」、「 停 電 」、「 原 発 」、「 被 災 」、「 節 電 」と
いった リ ス ク 対 象 が 共 通 的 に ト ピック と し て ラ ン ク し て い る こ と が 分 か る 。ま た 、
「 人 」、「 日 本 」の よ う な 被 災 を 受 け た 対 象 や「 心 配 」、「 大 丈 夫 」、「 お 願 い 」と いっ
た 感 情 表 現 は リ ス ク と 共 に 常 に 現 れ て い る 。そ し て 、原 発 事 故 の 結 果 、大 変 な リ
ス ク と し て 認 識 さ れ る よ う に なった「 放 射 能 」お よ び「 放 射 線 」は 1 5 日 、1 6 日
で 、初 め て 上 位 3 0 位 以 内 に ラ ン ク さ れ て い る こ と も 読 み 取 れ る 。こ れ は 立 て
続 け に 原 発 事 故 が 発 生 し た 後 、Twitter 上 で こ れ ら が 話 題 に なって い る こ と を 意 味
す る 。以 上 か ら 災 害 直 後 、Twitter 上 の 人々は 災 害( リ ス ク )に 対 し て 発 言 す る と と
も に 、そ の 被 害 を 受 け る 可 能 性 が あ る 人 や す で に 受 け た 人( 自 分 も 含 め )に 対 し
て 、安 否 確 認 お よ び 感 情 表 現 を 表 し て い る と 言 え る 。さ れ に 、そ れ ら の つ ぶ や き
は 場 所 や 情 報 源 な ど を 含 め た 内 容 と なって い る 。
一 方 、災 害 直 後 の 政 府 機 関 の 発 表 情 報 は ど の よ う な 内 容 を なって い る だ ろ う か 。
図 3.5 に 震 災 直 後 、経 済 産 業 省 が ウェブ ホ ー ム ペ ー ジ を 通 じ て 発 表 し た 内 容 を 用
い て ト ピック 抽 出 し た 結 果 を 示 す。上 位 5 位 ま で の ト ピック は「 停 止 」、
「 原 子 力 」、
「 供 給 」、「 発 電 」、「 ガ ス 」、「 福 島 」な ど Twitter と 同 じ く リ ク ス が 上 位 を 占 め て い
る 。さ ら に 、1 1 日 か ら 1 7 日 に か け て 最 上 位 の ト ピック は「 停 止 」、
「 原 子 力 」か
ら あ ま り 変 化 が 見 ら れ な く、Twitter で は 常 に 現 れ た 、人( 被 災 者 )に 直 接 関 わ る
ような情報はあまり見当たらない。
一 方 、厚 生 労 働 省 の 場 合 は( 図 3.6)日 に よって ト ピック が 変 化 し て お り、特 に 1
7 日 は 放 射 能 や 放 射 線 に よ る 健 康 へ の 影 響 に 関 わ り が あ る ト ピック が 目 立 つ 。ま
た 1 1 日 に は 場 所 を 示 す 単 語 が 多 く、経 済 産 業 省 と 比 べ 、場 所 を 明 示 し た 発 表 が
行われたことが読み取れる。
25
図–3.4
Twitter に お け る 日 別 ト ピック 比 較
26
図–3.5
経 済 産 業 省 の 日 別 ト ピック 比 較
図–3.6
厚 生 労 働 省 の 日 別 ト ピック 比 較
27
3.4
ミ ク ロ・ブ ロ グ を 用 い た リ ス ク に 関 す る 時 系 列 分 析
震 災 直 後 、日 本 を 始 め 全 世 界 Twitter で は 震 災 に 関 連 す る つ ぶ や き が 爆 発 的 に 増
加 し た 。こ こ で は 日 本 語 の Twitter だ け を 対 象 と し 、震 災 直 後 の Twitter 全 体 の つ ぶ
や き の 数 と「 放 射 能( 放 射 線 )」を 含 む つ ぶ や き の 数 の 日 別 変 化 を 図 3.7 に 示 す。1
1 日 、1 2 日 は 総 つ ぶ や き の 増 加 に 伴 い「 放 射 能( 放 射 線 )」を 含 む つ ぶ や き 数
が 急 激 に 増 加 し た 。1 2 日 は 福 島 第 一 原 発 か ら 初 め て 爆 発 が あった 日 で あ る 。一
方 、1 4 日 、1 5 日 は 総 つ ぶ や き 数 は 変 化 が 見 ら れ な い が 、「 放 射 能( 放 射 線 )」
を 含 む つ ぶ や き 数 は 急 激 に 増 加 し た こ と が 分 か る 。1 5 日 は 福 島 第 一 原 発 の 2
号 、3 号 、4 号 か ら 立 て 続 け に 事 故 が 発 生 し た( 図 3.2)日 で あ り、人々は あ る リ ス
クを認知したときにそれについてつぶやくという傾向を見せると言える。
図–3.7 「 放 射 能( 放 射 線 )」を 含 む つ ぶ や き 数 の 時 系 列 変 動( 2 0 1 1 年 3 月 1
1日∼17日)
災 害 が 起 こ る と 、人々は 限 ら れ た 情 報 を 知 識( 正 確 な 予 測 を 行 う 能 力 )と し て
加 工 し 、理 性 的 選 択 の 元 に 現 在 の 問 題 を 解 決 し よ う と す る と Lupia 14) は 言 う。し か
し 、情 報 を 取 得 す る た め に は 注 目 と い う 行 為 が 先 行 さ れ 、人々の 注 目 す る 能 力 は
常 に 限 ら れ て い る 。す な わ ち 不 足 は 人 間 生 活 に 偏 在 す る 特 徴 で あ り、こ の こ と は
人 間 は 常 に 選 択 を す る 必 要 が あ る こ と を 意 味 す る 。ま た 、苦 痛 と 快 楽 を 経 験 す る
28
可 能 性 も 人 間 生 活 に 偏 在 し て お り、生 き 残 る た め に は 限 ら れ た 注 目 能 力 を 有 効
に 活 用 す る 必 要 が あ る 。つ ま り 注 目 す る 行 為 の 目 的 は 未 来 の 苦 痛 の リ ス ク を 避
け る た め 、そ し て 未 来 の 快 楽 の 可 能 性 を 広 げ る た め で あ る 。問 題 を 解 決 す る た
め に は 道 理 に 基 づ い た 選 択 を す る こ と が 必 要 で あ り、こ れ に は 知 識 が 必 要 と な
る 。ま た こ の 知 識 は 情 報 に 依 存 し て お り、情 報 の 取 得 に は 限 ら れ た 能 力 を 有 効 に
使った「 注 目 行 為 」が 必 要 に な る 。災 害 時 の 人々の リ ス ク に 対 す る「 注 目 行 為 」は
ど の よ う に 変 化 し た の だ ろ う か 。図 3.8 は 震 災 直 後 日 本 ユ ー ザ ー に お け る 検 索 語
の 検 索 回 数 を 示 す も の で あ る 。Google Trends は Google の web 検 索 機 能 に お い て 、あ
る キ ー ワ ー ド が ユ ー ザ ー た ち に よって ど れ ぐ ら い 検 索 さ れ た か を 時 系 列 に 沿った
検 索 ボ リュー ム の 変 動 で 参 照 で き る リ ア ル タ イ ム サ ー ビ ス で あ る 。ユ ー ザ ー 検 索
語 の ボ リュー ム は 、指 定 し た 期 間 と 指 定 し た 地 域 に お い て 、検 索 回 数 が 最 多 の 検
索 語 の ボ リュー ム を 1 0 0 と し て 正 規 化 し た デ ー タ で あ る 34) 。我々は 検 索 語 と し
て「 放 射 能 」と「 放 射 線 」の み を 対 象 と し 、そ れ ぞ れ の 値 を 合 計 し 、時 間 軸 と も に
グ ラ フ 化 し た( た だ し 、「 放 射 線 」の 値 は 、「 放 射 能 」の 最 多 検 索 ボ リュー ム を 1
0 0 と し て 時 の 正 規 化 し た 値 で あ る )。検 索 数 は 1 1 日 が 最 低 で 、1 2 日 は 増 加
し 、原 発 事 故 が 集 中 的 に 起 こった 1 5 日 に 再 び 増 加 す る 。こ れ は「 放 射 能( 放 射
線 )」を 含 む ツ イ ー ト 数( 図 3.7)と 同 じ 傾 向 が 見 せ て い る 。す な わ ち 、何 か に 対 し
て つ ぶ や く と い う 行 為 は「 注 目 行 為 」と 深 い 相 関 関 係 を 持 つ と 言 え る 。ま た 、図
3.7 お よ び 図 3.8 と も 1 3 日 、1 4 日 は あ ま り 変 化 が 見 ら れ ず、1 5 日 の 連 続 的 に
原 発 事 故 が 起 こ る ま で は あ ま り 注 目 さ れ て い な い こ と が 分 か る 。一 方 、図 3.9 は
人々の「 停 電 」お よ び「 節 電 」に 対 す る 注 目 度 の 時 系 列 変 動 を 見 せ て い る 。こ れ は
1 3 日 、1 4 日 に 人々の「 停 電 」お よ び「 節 電 」に 対 す る 注 目 が 急 上 し た こ と を 意
味 す る 。以 上 よ り、自 分 の 未 来 の 効 用 を 高 め る こ と は 、現 在 の 限 ら れ た 能 力 に 深
く 関 係 し て い る こ と か ら 、人々の 注 目 は 、災 害 時 に お け る 、時々刻々変 化 す る 様々
なリスクに対する瞬時的な知識判断を測る一つの指標となると考えられる。
以 上 、こ こ で は 、東 日 本 大 震 災 の ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション に お け る ミ ク
ロ・ブ ロ グ の 活 用 事 例 を 紹 介 す る と 共 に 、政 府 発 表 情 報 と ミ ク ロ・ブ ロ グ の 内 容
を ト ピック を 用 い て 比 較 を 行った 。そ の 結 果 、政 府 発 表 情 報 は「 リ ス ク 」や 震 災 し
た「 場 所 」、「 健 康 へ 影 響 」な ど に 焦 点 を 絞 り、限 ら れ た 情 報 を 提 供 し て い た 。一
方 、ミ ク ロ・ブ ロ グ の 場 合 は「 リ ス ク 」、「 人 」( 被 災 者 、自 分 )、人 の「 安 否 確 認 」、
不 安 、心 配 、大 丈 夫 と いった「 感 情 表 現 」、
「 場 所 」、
「 情 報 源 」が 常 に 同 時 に 現 れ て
29
図–3.8 「 放 射 能 」と「 放 射 線 」の 検 索 回 数 ト レ ン ド(Google Trends)( 2 0 1 1 年 3
月11日∼17日)
図–3.9 「 停 電 」と「 節 電 」の 検 索 回 数 ト レ ン ド(Google Trends)( 2 0 1 1 年 3 月 1
1日∼17日)
30
お り、二 つ の 内 容 に は ズ レ が あ る こ と を 確 認 し た 。さ ら に 、「 放 射 能 」と い う リ
ス ク の み に に 注 目 し た 結 果 、人々は 災 害 時 に お い て 限 ら れ た 注 目 能 力 を 有 効 に 活
用 し 、事 故 の 発 生 有 無 や 発 生 頻 度 に よって 注 目 す る 度 合 い が 変 化 す る こ と を 確 認
した。
31
第4章
政 府 提 供 情 報 と ミ ク ロ・ブ ロ グ コ ー パ ス を 用 い
た内容分析
こ こ で は 、リ ス ク に 関 す る 人々の 評 価 内 容(「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 共 起
語 )を 用 い て 震 災 直 後 の リ ス ク(「 放 射 能( 放 射 線 )」)に 対 す る 人々の 評 価 や 心 理
的 変 動 お よ び 政 府 提 供 情 報 と の 類 似 度 を 測 る 。最 後 に 、評 価 内 容 と 単 語 感 情 極
性度を用いて不安計量を試みる。
4.1
分析に用いるデータ
本 研 究 で は 、政 府 の 提 供 情 報 と し て 、日 本 の 国 家 機 関 の 中 、東 日 本 大 震 災 に 関
し て 報 道 発 表 が あった 27 個 の 行 政 機 関( 首 相 官 邸 、原 子 力 安 全 委 員 会 、防 災 情 報
ペ ー ジ 、警 察 庁 、金 融 庁 、総 務 省 、消 防 庁 、法 務 省 、外 務 省 、財 務 省 、文 部 科 学 省 、
放 射 線 モ ニ タ リ ン グ 情 報 、文 化 庁 、厚 生 労 働 省 、農 林 水 産 省 、林 野 庁 、水 産 庁 、経
済 産 業 省 、原 子 力 安 全・保 安 院 、国 土 交 通 省 、気 象 庁 、海 上 保 安 庁 、国 土 地 理 院 、
防 衛 省 、東 京 電 力 )の ウェブ ホ ー ム ペ ー ジ の 国 民 向 け の 発 表 資 料 を 分 析 に 用 い る 。
具 体 的 に は 、東 日 本 大 震 災 発 生 後 約 一 週 間( 2 0 1 1 年 3 月 1 1 日 か ら 3 月 1 7
日 ま で )の 各 機 関 の 報 道 発 表 資 料 の ウェブ ペ ー ジ お よ び そ の ペ ー ジ に 添 付 さ れ た
資 料 を テ キ ス ト ファイ ル 化 し 、震 災 後 の 政 府 発 表 内 容 と し て 分 析 に 用 い る 。特 に
内 閣 府 と 総 務 省 に 関 し て は 、ウェブ サ イ ト 内 の 検 索 機 能 を 使 い’ 震 災??’ の 単 語 を
含 む 全 て の 関 連 資 料 の 収 集 も 行った 。そ れ 以 外 の 報 道 発 表 資 料 を 公 開 し て い る 政
府 機 関(http : //www.e − gov.go.jp/link/pressr elease.html 参 考 )は 3 月 1 1 日 か ら 3 月
1 7 日 ま で に 発 表 さ れ た 災 害 関 連 情 報 は 該 当 す る も の は 見 当 た ら な かった. 次 に 、
twitter の つ ぶ や き デ ー タ は Twitter Japan 株 式 会 社 が 東 日 本 大 震 災 ビック デ ー タ ワ ー
ク ショップ(Project 311 32) )を 通 じ て 提 供 し た も の を 用 い る 。Project 311 は 東 日 本 大 震
災 発 生 時 、ソ ー シャル メ ディア や マ ス メ ディア を 通 じ て 大 量 の 情 報 が 広 がった こ と か
ら 、こ う し た 情 報 は いった い ど の よ う に 伝 え ら れ た の か?ま た 、本 当 に 伝 え た かっ
た 情 報 が な ぜ 伝 え ら れ な かった の か? 当 時 を デ ー タ で 振 り 返った 時 に 、本 当 に 必 要
な サ ー ビ ス は 何 だった の か 、次 の 災 害 に 備 え る た め に 、今 我々は ど ん な 準 備 を す れ
32
ば よ い の か?と いった 問 題 意 識 の 元 で 震 災 発 生 か ら 一 週 間 の 間 に 実 際 に 発 生 し た
Twitter デ ー タ を 参 加 者 に 提 供 す る 。そ し て 、参 加 者 は そ の デ ー タ を 改 め て 分 析 す
る こ と に よって 、今 後 起 こ り う る 災 害 に 備 え て 、ど の よ う な こ と が 出 来 る か を 議
論 し 、サ ー ビ ス を 開 発 す る こ と が 可 能 な ワ ー ク ショップ で あ る 。提 供 デ ー タ の 内 容
は 3 月 1 1 日 か ら 7 日 分 の 日 本 語 の ツ イ ー ト の デ ー タ で あ り、デ ー タ は つ ぶ や き
の「ID」,「 ユ ー ザ ー ID」,「 時 間 」,「 つ ぶ や き 本 文 」と いった フォー マット で 構 成 さ れ て
い る 。そ の 内 容 は 、
「46132211950436352214369610 < 2011 − 03 − 11 > 17 : 55 : 51@reon04724
心 配 あ り が と う ご ざ い ま す。余 震 が 来 な い う ち に 急 い で 入って き ま し た 」の よ う
な 形 式 と なって い る 。
4.2
コーパス言語学に基づく分析の手順
こ れ ら の デ ー タ を 用 い た 分 析 手 順 に つ い て 説 明 す る 。本 章 で 提 案 す る コ ー パ ス
分 析 手 法 は 、土 木 分 野 の 公 的 討 議 の 談 話 分 析 手 法 と し て 使 わ れ る 手 法 27) を 応 用
し 、デ ー タ マ イ ニ ン グ ツ ー ル を 応 用 し た 災 害 時 の 政 府 機 関 発 表 お よ び Twitter の
つ ぶ や き の 不 安 計 量 手 法 で あ る 。図 4.1 は 、本 章 で 提 案 す る 手 法 の 手 順 を 示 し た
も の で あ る 。第 一 に 、取 得 し た 政 府 発 表 情 報 と Twitter の つ ぶ や き デ ー タ( テ キ ス
ト )か ら 言 語 分 析 が 可 能 と な る よ う に の 全 て の テ キ ス ト に 言 語 情 報 を 付 与 し( ア
ノ テ ー ション )、テ キ ス ト に お け る 文 章 構 造 を 細 分 化 す る 。第 二 に 、Salton ら に よ
る 手 法 30) 31) を 用 い て テ キ ス ト に お け る ト ピック を 抽 出 し 、政 府 機 関 お よ び Twitter
の 中 心 論 話( ト ピック )を 抽 出 し 、人々の 関 心 の 高 い 問 題 を 調 べ る 。我々は こ の 段 階
で 抽 出 し た ト ピック の 中 で 、福 島 第 一 原 発 事 故 に 関 係 の あ る「 放 射 能( 放 射 線 )」
の み に 注 目 し 、第 三 に 、テ キ ス ト デ ー タ か ら「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 共 起 語
(co-occur terms)お よ び 共 起 頻 度(co-occurrence frequency)を 求 め る 。こ れ に よって 、リ
ス ク(「 放 射 能( 放 射 線 )」)に 対 す る 人々の 意 味 解 釈 す な わ ち 、評 価 を 推 定 す る こ
と が 可 能 に な る 。第 四 に 、各 政 府 機 関 ご と の デ ー タ を 日 別 に 集 計 し た 共 起 語 と
日 別 に 集 計 し た Twitter の 共 起 語 デ ー タ か ら 、共 起 デ ー タ ベ ク ト ル を 求 め る 。そ
し て 、コ サ イ ン 距 離 を 求 め る こ と に よって 共 起 デ ー タ ベ ク ト ル 間 の 類 似 度 を 算 出
し 、最 後 に 、こ の 変 数 間 の 類 似 度 デ ー タ か ら 多 次 元 尺 度 構 成 方( M D S )を 用 い
て 、各 政 府 機 関 あ る い は 日 別 Twitter 間 の リ ス ク「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 評
価 の 類 似 関 係 を 視 覚 的 に 明 示 化 し 、政 府 機 関 間 お よ び 政 府 機 関 と 国 民 の リ ス ク
33
「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 評 価 の 相 違 を 検 討 す る 。
図–4.1
4.3
コーパス言語学に基づく政府と国民の不安計量手順
政 府 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ の リ ス ク に 対 す る 評 価 に 関 す る
時系列空間配置
ま ず、
「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 し て ど の よ う な 評 価 が 行 わ れ 、政 府 発 表 と Twitter
の つ ぶ や き と の リ ス ク に 対 す る 評 価 内 容 の 違 い を 視 覚 的 に 表 現 す る た め に 、多
次 元 尺 度 構 成 法( M D S )を 用 い る 。多 次 元 尺 度 構 成 法( M D S )と は 26) 、複 数 の
変 数 間 の 相 関( 類 似 度 デ ー タ )に 基 づ い て 、2 次 元 あ る い は 3 次 元 空 間 に 、類 似 し
た も の を 近 く、そ う で な い も の を 遠 く 配 置 す る 方 法 で あ る 。す な わ ち 、変 数 間 の
関 係 を 空 間 上 の 距 離 に よって 表 現 す る 方 法 で あ る 。多 次 元 尺 度 構 成 法 は 非 計 量 多
次 元 尺 度 構 成 法 に 属 し 、政 府 発 表 と 国 民 間 の リ ス ク に 対 す る 評 価 の 非 類 似 度 を
用 い て 配 置 を 決 定 す る 。デ ー タ セット( 変 数 )と し て は 、日 別 お よ び 機 関 別 に 集 計
し た 各 政 府 機 関 発 表 と 日 別 に 集 計 し た Twitter の つ ぶ や き を 用 い る 。あ る 日 の あ
る 政 府 機 関 pi と あ る 日 の Twitter pj の リ ス ク に 対 す る 評 価 の 非 類 似 度 dsim(pi , pj ) を 、
2 次 元 の 空 間 に お け る pi ,pj の 距 離 dis(pi , pj ) と し て 表 す。MDS は, 非 類 似 度 dsim(pi , pj )
と 距 離 dis(pi , pj ) と の 間 に 弱 単 調 関 係 が
dsim(pi , pj ) ≤ dsim(pi , pl ) な ら ば 、dis(pi , pj ) ≤ dis(pi , pl )
34
(4.1)
成 立 す る よ う に 配 置 を 決 定 す る 。具 体 的 に は ま ず、Wnpk は 各 政 府 発 表 お よ び Twitter
の つ ぶ や き を 日 別 に 集 計 し た も の か ら「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 共 起 語 ベ ク
ト ル W = 1, ..., n ∈ 1, 0 が 出 現 し た か し て い な い か を 表 す も の(binary index)と し て 定
義 し 、こ れ を 元 に 共 起 語 行 列 S を



S=


W1p1
..
.
· · · Wnp1
..
..
.
.
W1pt
· · · Wnpt






(4.2)
と 定 義 す る 。そ の 上 で 、変 数 間 の ベ ク ト ル の 類 似 度 sim(pi , pj )を 、コ サ イ ン 角 度 距
離 を 用 い て 定 義 す る 26) 。変 数 を 空 間 上 に 配 置 す る 際 に 、非 類 似 度 が 高 い ほ ど 遠 く
に 、小 さ い ほ ど 近 く に 位 値 さ せ る た め に 、逆 余 弦 ア ー ク コ サ イ ン 角 度 距 離 を 用
いて非類似度を
dsim(pi , pj ) = cos−1 {sim(pi , pj )}
(4.3)
と 定 義 す る 。さ ら に 、MDS を 用 い て 2 次 元 空 間 上 に 配 置 し た 変 数 間 の 空 間 距 離
をマトリクスD



D=


dis(p1 , p1 ) · · · dis(p1 , pt )
..
..
..
.
.
.
dis(pt , p1 ) · · · dis(pt , pt )






(4.4)
を 用 い て 定 義 す る 。MDS で は 、各 変 数 の 距 離 dis(gi , gj ) と 非 類 似 度 dsim(pi , pj ) の 差 の
2 乗 和 を 最 小 化 す る よ う に 2 次 元 空 間 上 に 参 加 者 の 配 置 を 決 定 す る 。す な わ ち 、
こ れ ら の 不 適 合 度 を あ ら わ す ス ト レ ス (stress) を 用 い て 2 乗 和 を 最 小 化 す る 座 標
地 を 決 定 す る( 詳 細 に つ い て は 26) 参 照 )。
MDS を 用 い て 、「 放 射 能 」を 取 り 巻 く 政 府 と Twitter ユ ー ザ ー 間 の 評 価 類 似 度 分
析 を 行った 結 果 を 図 4.2、4.3 に 示 す。図 4.2 を 見 る と 政 府 情 報 間 は 近 く 集 まって 配 置
し て お り、Twitter の は 日 別 に 変 化 し な が ら 、配 置 さ れ て い る 。こ れ は 政 府 は リ ス
ク に 評 価 に お い て 、一 般 の 人々に 比 べ 、限 ら れ た 単 語 を 用 い て 評 価 し て い る こ と
を 意 味 す る 。3 章 で 、
「リスクに対する評価量」
( 図 4.4)や「 注 目 行 為 」
( 図 3.8)で
は 変 動 は あ ま り 見 ら れ な かった 1 3 日 と 1 4 日 が 、評 価 類 似 度 分 析 で も 、近 く 配
置 さ れ て い る 。ま た 、原 発 事 故 が 立 て 続 け に 起 こ り 深 刻 な 状 態 に なった 1 4 日 と
35
1 5 日 は「 評 価 行 為 」分 析 も 離 れ て 配 置 さ れ て い る こ と が 分 か る 。す な わ ち 、
「注
目 行 為 」や「 評 価 行 為 」は 評 価 類 似 度 分 析 に 対 し て 相 関 を も つ と い う こ と が 出 来
る 。一 方 、前 半 の 1 1 日 、1 2 日 、1 3 日 、1 4 日 は 政 府 情 報 と 比 較 的 近 く 配 置
さ れ て お り、後 半 の 1 5 日 、1 6 日 、1 7 日 は 遠 く 配 置 さ れ る 傾 向 が 読 み 取 れ る
が 、こ れ は 地 震 発 生 直 後 は リ ス ク に 対 し て 政 府 情 報 と 類 似 す る 評 価 を す る が 、時
間 が 経 つ に 連 れ 、そ の 評 価 内 容 に 差 が 生 じ る 傾 向 を 見 せ て お り、リ ス ク に 対 す る
評 価 が 時 間 が 経 つ に 連 れ 、政 府 と 国 民 の 間 に 乖 離 が 生 ま れ て い る と 考 え る こ と
が出来る。
図–4.2 「 放 射 能 」を 取 り 巻 く 政 府 と Twitter ユ ー ザ ー 間 の 評 価 類 似 度( M D S 分 析 )
さ ら に 、政 府 発 表 情 報 だ け を 用 い て 、政 府 機 関 別 の 評 価 類 似 度 分 析 を 行った 結
果 を 図 4.3 に 示 す。デ ー タ 量 が 多 かった 経 済 産 業 省 は 日 が 変 わ る こ と に よって リ ス
36
ク に 対 す る 評 価 内 容 が 変 化 し た が 、他 の ほ と ん ど の 機 関 は 変 化 が 見 ら れ な かっ
た 。こ れ は 経 済 産 業 省 で「 放 射 能( 放 射 能 )」関 連 の 報 道 が 多 かった こ と も あ り、時
間 別 変 化 が はっき り 現 れ た の で は な い か と 考 え ら れ る 。一 方 、原 発 事 故 に 関 す る
情 報 量 が 多 かった 東 京 電 力 は「 放 射 線( 放 射 能 )」に 対 す る 評 価 で は あ ま り 変 化 が
見 ら れ な く、内 閣 府 や 防 衛 省 な ど と 近 く 配 置 さ れ て い る 。1 7 日 の 厚 生 労 働 省 は
経 済 産 業 省 や 他 の 政 府 機 関 と 対 称 し て 離 れ て 配 置 さ れ て お り、リ ス ク に 対 す る
評 価 が 機 関 と 日 に よって 異 な る こ と が 分 か る 。
図–4.3
「 放 射 能 」を 取 り 巻 く 政 府 機 関 間 の 評 価 類 似 度( M D S )
具 体 的 に ど の よ う な 評 価 が 行 わ れ た の だ ろ う か 。表 4.1 は 、図 4.2 の 、1 3 日 、1
5 日 お よ び 1 6 日 の Twitter の 共 起 頻 度 の 多 い 順 に 共 起 語 、共 起 頻 度 お よ び 単 語
感 情 極 性 度 を 並 べ た も の 上 位 一 部 を 示 し て い る 。ほ と ん ど の 共 記 語 は 単 語 感 情
極 性 度 が ネ ガ ティブ で あ る こ と が 読 み 取 れ る( 単 語 感 情 極 性 度 の 表 示 が な い 共 起
語 は 単 語 感 情 極 性 表 に な い も の で あ る )。そ し て 、
‘ 人 ’、
‘ い る ’、
‘ で き る ’な ど が
37
共 通 的 に 共 起 し て い る 。特 に 1 3 日 は‘ 必 死 ’、
‘ 努 力 ’な ど が 含 ま れ て お り、自 分
自 身 を 含 め た 人々の 能 力 へ の 評 価 が 行 わ れ た こ と が 分 か る 。こ れ は 以 下 で 説 明 す
る政府機関の共起語と異なる点である。
同 じ よ う に 、図 4.2 は 、図 4.3 の 3 月 1 7 日 厚 生 労 働 省 と 3 月 1 3 日 経 済 産 業 省
の 共 起 語 、共 起 頻 度 お よ び 単 語 感 情 極 性 度 の 一 部 を 取 り 出 し た も の と そ れ ぞ れ
の ト ピック を 抽 出 し た も の を 示 す。3 月 1 7 日 の 厚 生 労 働 省 の 共 起 語 は‘ 測 定 ’、
‘ 食 品 ’、
‘ 衛 星 ’、
‘ 採 取 ’、
‘ 采 ’、
‘ 保 健 ’な ど が あ り、
「 放 射 線( 放 射 能 )」に 対 す る 食
品 安 全 に 関 す る 評 価 が 行 わ れ た 。一 方 、3 月 1 3 日 の 経 済 産 業 省 の 共 起 語 は‘ 原
子 力 ’、
‘ 停 止 ’、
‘ 福 島 ’、
‘ 双 葉‘
’避 難 ’、
‘ 区 域 ’、
‘ 住 民 ’、
‘ 県 内 ’な ど と なって お り、
「 放 射 線( 放 射 能 )」に 対 す る 福 島 原 発 事 故 と そ れ に 伴 う 住 民 避 難 対 策 に 関 す る
評価が行われたことが分かる。
次に、
「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 共 起 語 数 を 3 時 間 ご と に 集 計 し た も の を 図
4.4 に 示 す。単 語 感 情 極 性 度( 図 2.2)を 用 い て 共 起 語 の 極 性 度 を 判 断 し 、ポ ジ ティ
ブ な 共 起 語 、ネ ガ ティブ な 共 起 語 、極 性 判 断 の で き な い 共 起 語 に 分 け、そ の 中 の
ネ ガ ティブ な 共 起 語 数 も と も に グ ラ フ に 示 し た 。こ こ で 共 起 語 数 と は あ る つ ぶ や
き に「 放 射 能( 放 射 線 )」と い う 単 語 が 含 ま れ て い る 場 合 、そ の つ ぶ や き に 含 ま れ
る「 放 射 能( 放 射 線 )」以 外 の 全 て の 単 語 を 意 味 す る 。こ れ は リ ス ク に 対 す る 人々
の「 評 価 行 為 」を 考 え る こ と が 出 来 る 。3 月 1 1 日 1 4 時 4 6 分 ご ろ 地 震 が 発 生
し 、1 6 時 3 6 分 頃 に は 1 号 機 冷 却 装 置 の 注 水 が 不 能 に なった 。し か し 、「 放 射
能 」に 対 す る 共 起 語 数 が 急 激 に 増 え た の は そ の 直 後 で は な く、6 時 間 後 の 2 1 時
ご ろ で あった こ と が 読 み 取 れ る 。分 析 期 間 の 他 の 日 で は 事 故 が 発 生 す る と 約 3 時
間 以 内 に 共 起 語 の 数 か 増 加 す る 傾 向 が あ る こ と か ら 、地 震 発 生 直 後 は 、地 震 や
津 波 が 直 面 す る リ ス ク と し て 判 断 さ れ 、放 射 能 と い う リ ス ク に は 注 目 が 集 ま ら
な かった と い え る 。時 間 が 経 つ に 連 れ 、放 射 能 が リ ス ク と し て 認 知 さ れ る こ と に
よって 放 射 能 に 対 す る 共 起 語 の 数 も 増 加 し た が( 3 月 1 1 日 2 1 時 )、3 時 間 後
の 1 2 日 0 0 時 に は 急 激 に 低 下 し た 。こ れ は 他 の 日 の 同 じ 時 間 帯 に 比 べ て も 最
低 の 数 で あ る 。さ ら に 、1 2 日 0 0 時 の ネ ガ ティブ な 単 語 が 占 め る 割 合 は 全 て の
区 間 で 唯 一 、3 0 % を 超 え 、分 析 対 象 期 間 の 中 で 最 高 で あ る( 全 て の 区 間 に お い
て ネ ガ ティブ な 共 起 語 が 占 め る 割 合 は 約 3 0 % で あ り、時 間 に よ る 変 動 は あ ま り
見 ら れ な かった )。こ れ は 人々が 放 射 能( リ ス ク )に 対 し て 様々な 推 論 を 行った 後 、
Beck 2) ら が い う 二 次 加 工 の 段 階 に 入った と い え る 。そ し て 3 時 間 後 の 1 2 日 3 時
38
表–4.1
3 月 1 3 日 、1 5 日 、1 6 日 の Twitter の 共 起 語 、共 起 頻 度 お よ び 単 語 感
情 極 性 度( 単 語 感 情 極 性 度 の 表 示 が な い 共 起 語 は 単 語 感 情 極 性 表 に な い も の で
ある)
39
表–4.2
3 月 1 7 日 厚 生 労 働 省 (左 )と 3 月 1 3 日 経 済 産 業 省( 右 )の 共 起 語 、共
起頻度および単語感情極性度
40
は 共 起 語 数 が 小 幅 上 昇 し 、0 0 時 か ら 3 時 の 間 は 数 が 減 少 す る 通 常 の 傾 向 に 反
す る 動 き を 見 せ て い る 。Beck 2) ら に 二 次 加 工 の 一 つ の 面 で あ る 心 配(worry)は 最
初 の 脅 迫 と そ の 後 か ら 構 造 的 で 黙 想 的 な 考 え が 活 性 化 し た 結 果 、生 ま れ た 加 工
プ ロ セ ス の で あ る と 言 う。1 2 日 0 0 時 は 最 初 の リ ス ク に 対 す る 一 次 認 識 後 の
黙 想 的 な 考 え が 活 性 化 さ れ 、リ ス ク に 対 し て 評 価 す る こ と を 控 え て い た こ と を
示すと言える。
図–4.4
「 放 射 能 」に 対 す る 共 起 語 数 の 時 系 列 変 動
41
4.4
政 府 発 表 と ミ ク ロ・ブ ロ グ・コ ー パ ス の リ ス ク に 対 す る 評 価
の ネ ガ ティブ 度 分 析
前 節 で 確 認 し た よ う に 、ネ ガ ティブ の 割 合 だ け で は 、
「 放 射 能 」に 対 す る 評 価 が
ネ ガ ティブ だった と は 言 い 難 い 。そ こ で 本 研 究 で は「 リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ
ティブ 度 」を 提 案 し 、そ れ を 日 別 に 集 計 す る こ と で リ ス ク に 対 す る 共 起 語 の 感 情
極 性 の 時 間 的 変 化 を 観 察 す る 。「 リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 」と は 、ま
ず、ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス か ら「 放 射 能( 放 射 線 )」の 出 現 頻 度
(T放 射 能 ) を 抽 出 す る 。次 に 、単 語 感 情 極 性 度 を 用 い て「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す
る 共 起 語 の 極 性 を 判 断 し 、そ の 中 か ら ネ ガ ティブ な 共 起 語 の 出 現 頻 度(CTN放 射 能 )を
抽 出 す る 。そ し て 、そ れ ら 日 別 に 集 計 し 、以 下 の 比 率 を 用 い 、
ratio =
CF(N放 射 能)
T F(放 射 能)
(4.5)
一 日 中 の「 リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 」と 定 義 す る 。こ れ は 、放 射 能 に
つ い て ど れ だ け ネ ガ ティブ に 評 価 し た か を 表 す 指 標 で あ る 。図 4.5 は 経 済 産 業 省
と 東 京 電 力 お よ び Twitter の「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 の 時
系列変化を表したものである。
経 済 産 業 省 は 1 4 日 と 1 6 日 に 増 加 し て お り、こ れ は リ ス ク に 対 す る 評 価 類 似
度 の 分 析( 図 4.3)で 他 の 政 府 機 関 と 離 れ て 配 置 し て い る 日 と 重 な り、日 に よって
リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ な 度 合 い が 変 化 す る こ と を 見 せ る 。東 京 電 力 は
経 済 産 業 省 よ り ネ ガ ティブ な 評 価 は し て い な い が 、1 7 日 は 特 に 上 昇 し て い る 。
ま た 、経 済 産 業 省 に お い て 、最 も ネ ガ ティブ な 評 価 が 行 わ れ た 1 4 日 に 東 京 電 力
は 最 も 低 い ネ ガ ティブ 度 を 見 せ て お り、政 府 機 関 に よって「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対
す る 評 価 が 相 違 を 見 せ て い る 。し か し 、東 京 電 力 と 経 済 産 業 省 と も 時 間 が 経 つ
に 連 れ 、ネ ガ ティブ 度 が 増 加 す る こ と が 読 み 取 れ る こ と か ら 、政 府 機 関 発 表 情 報
は 不 安 が 増 加 す る 傾 向 に あ る と い え る 。一 方 、Twitter は 政 府 機 関 の よ う な 大 き な
変 化 は 見 ら れ な い 。1 3 日 、1 4 日 、1 5 日 に 比 較 的 ネ ガ ティブ な 評 価 が 行 わ れ
た 。1 3 日 、1 4 日 は「 放 射 能( 放 射 線 )」を 含 む つ ぶ や き 数 が 減 少 し た 日 で あ り、
1 5 日 は 複 数 の 事 故 が 発 生 し 、「 放 射 能( 放 射 線 )」を 含 む つ ぶ や き 数 が 増 加 し
た 日 で あ る( 図 3.7)。す な わ ち 、国 民 の「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る ネ ガ ティブ な
42
図–4.5
「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 の 時 系 列 変 化
43
評 価 程 度 は 事 故 の 有 無 や 事 故 の 状 態 と あ ま り 相 関 を 持 た な い 傾 向 を 見 せ る 。こ
れ は 不 安 は 変 動 し な い こ と を 示 し て お り、こ の 結 果 に 対 し て は 、今 後 、検 討 が 必
要 で あ る 。ま た 、リ ス ク が 明 示 さ れ て い な い 場 合 、例 え ば 、主 語 が な い 場 合 は 、
コーパス言語学で潜在している主語を抽出するう手法を応用することで本研究
で 提 案 す る 不 安 計 量 に 適 用 可 能 で あ る 。さ ら に 、リ ス ク に 対 す る 感 情 評 価 が な
い場合においては共起語の頻度が急激に増加又は減少するような変化を観察す
る こ と に よって 、不 安 を 間 接 的 に 計 量 す る こ と が 可 能 に な る と 考 え ら れ る 。
44
第5章
分析の考察
災 害 時 に は 様々な「 壁 」が 出 来 上 が る 。将 来 、想 定 出 来 な い よ う な 災 害 が 起 こっ
た 場 合 、こ の「 壁 」に よ る コ ミュニ ケ ー ション・ディバ イ ド は 社 会 全 体 に 不 安 を も
た ら し 、リ ス ク・マ ネ ジ メ ン ト に お い て 大 き な 問 題 と な る 。ま た 、災 害 時 に は メ
ディア や 政 府 に よって 様々な 情 報 が 流 れ る が 、人々が 必 要 と す る 情 報 と 一 致 し て い
な い 場 合 が 多 く、流 れ る 情 報 と 人々の 必 要 と す る 情 報 に は 乖 離 が 生 じ る 。災 害 時
の 不 安 は こ の よ う な こ と が 原 因 と な る と 考 え ら れ る 。災 害 時 に お い て 人々が ど の
よ う な リ ス ク に 注 目 し た か を 表 す 注 目 度 分 析 に お い て は 、事 故 の 有 無 や 事 故 の
深 刻 さ に よって 注 目 す る リ ス ク が 変 わ る と と も に 、注 目 す る 度 合 い も 変 わ る こ と
が 分 かった 。リ ツ イ ー ト 情 報 を 用 い た 分 析 か ら は 、災 害 時 ソ ー シャル ネット ワ ー ク
は 、通 常 時 の ネット ワ ー ク に 大 き く 影 響 を 受 け て お り、過 去 に 同 じ よ う な 災 害 が
起 こった と き の ネット ワ ー ク を す ぐ に 再 利 用 す る こ と を 確 認 し た 。リ ス ク に 対 す
る 評 価 を 用 い た 分 析 で は 、事 故 が 起 こった 直 後 、人々は リ ス ク に 対 し て 評 価 す る こ
と を 控 え て い る が 、少 し 時 間 が 過 ぎ る と 、リ ス ク に 対 す る 評 価 が 急 増 し 、事 故 が
深 刻 な 状 況 で あ る ほ ど 、こ の 上 昇 は 激 し い こ と が 読 み 取 れ た 。ま た 、政 府 発 表 と
ミ ク ロ・ブ ロ グ の リ ス ク に 対 す る 評 価 類 似 度 を 調 べ る 分 析 で は 、時 間 が 経 つ に 連
れ 、ミ ク ロ・ブ ロ グ と 政 府 発 表 情 報 の 評 価 内 容 に ズ レ が 発 生 し て い く こ と を 確 認
し た 。最 後 に 、「 放 射 能( 放 射 線 )」に 対 す る 評 価 に 注 目 し た「 リ ス ク に 対 す る 評
価 の ネ ガ ティブ 度 」分 析 で は 、人々は 事 故 の 有 無 や 事 故 の 深 刻 さ に よって 、リ ス ク
を 認 識 し 、注 目 す る 度 合 い は 変 わ る が 、リ ス ク に 対 し て ど れ だ け ネ ガ ティブ に 評
価 し て い る か を 表 す 本 分 析 で は 事 故 に 対 す る 相 関 は あ ま り 見 ら れ な かった 。こ の
こ と か ら 、潜 在 し て い る 不 安 を 導 く た め に は こ れ ま で 紹 介 し た コ ー パ ス 言 語 学
に 基 づ く 様々な 評 価 計 量 手 法 を 総 合 的 に 用 い る こ と が 必 要 で あ る こ と が 言 え る 。
45
第6章
結論
本 研 究 で は 、東 日 本 大 震 災 際 の ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション を 研 究 対 象 と し 、
そ の 内 容 と 構 造 を 明 確 化 す る と 共 に 、コ ー パ ス を 用 い た 不 安 計 量 手 法 の 開 発 を
試 み た 。そ の 手 法 に 基 づ き 、様々な ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ション・コ ー パ ス か ら
政 府 と 国 民 の リ ス ク に 対 す る 評 価 に 焦 点 を し ぼ り、災 害 時 の 政 府 と 国 民 の リ ス
ク に 対 す る 評 価 と 、そ の 評 価 と 不 安 と の 関 係 に つ い て 考 察 し た 。本 研 究 は コ ー
パ ス 言 語 学 に 基 づ く 計 算 論 的 ア プ ロ ー チ を 採 用 し 、情 報 学 分 野 で 蓄 積 さ れ て い
る 自 然 言 語 処 理 技 術 を 活 用 す る こ と で 災 害 時 の ミ ク ロ・ブ ロ グ や 政 府 発 表 情 報
を 統 計 的 に 解 釈 す る こ と を 試 み た 。国 民 の 不 安 を 計 量 し 、国 民 の 不 安 変 動 の 要
因 を 洗 い 出 す こ と は 次 の 災 害 に 備 え る べ く、前 述 の 安 全 シ グ ナ ル を 政 府 発 表 内
容 に う ま く 取 り 入 れ る こ と で 急 激 な 社 会 全 体 へ の 不 安 の 広 が り を 制 御 で き 、こ
れ は リ ス ク・コ ミュニ ケ ー ション や リ ス ク・マ ネ ジ メ ン ト に お い て 重 要 で あ る 。
分析ではコーパスの出現頻度や共起頻度を用いて不安を計量する一つの指標
を 提 案 し た が 、ミ ク ロ・ブ ロ グ・コ ー パ ス の 分 析 す る こ と に 当 たって は 、こ の 指 標
は 不 安 を 表 し て い る と は 今 後 も 検 討 が 必 要 で あ る 。そ こ で 、本 研 究 の 今 後 の 課
題 と し て い く つ か の 問 題 点 を こ こ に 示 す。第 一 に 、本 研 究 で 用 い た 高 村 ら の 単 語
感 情 極 性 対 応 表 は 、現 実 上 、全 て の 単 語 を 包 括 し て い な い こ と か ら 、造 語 、省 略
語 、固 有 名 詞 、方 言 な ど が 多 く 含 ま れ る ミ ク ロ・ブ ロ グ の 評 価 語 の 極 性 を 判 断 す
る こ と に は 限 界 が 生 じ る 。さ ら に 、こ の 対 応 表 は 災 害 時 を 想 定 し た 構 造 に は なっ
ていないことから災害時を考慮した適切な判断基準を用いることが望まれる。
第 二 に 、災 害 時 に お け る 不 安 を 計 量 す る た め に は ク ラ イ シ ス・コ ミュニ ケ ー ショ
ン の 内 容 を 分 析 対 象 と す る だ け で な く、ミ ク ロ・ブ ロ グ か ら 取 得 で き る ユ ー ザ ー
の 位 置 情 報 、ユ ー ザ ー 間 ネット ワ ー ク 構 造 、情 報 伝 達 の 流 れ な ど 分 析 対 象 範 囲 を
広 げ る 必 要 が あ る 。こ れ に よって 災 害 時 に お け る 既 存 の ソ ー シャル ネット ワ ー ク を
活 用 す る こ と が で き る 。例 え ば 、既 存 の ネット ワ ー ク で ハ ー ブ( ネット ワ ー ク の 中
心 )と な る キ ー パ ー ソ ン を 選 別 し 、そ の ネット ワ ー ク 構 造 を 明 ら か に す る こ と は
次 の リ ス ク コ ミュニ ケ ー ション に お い て 重 要 で あ る 。さ ら に 、政 府 と 国 民 間 の リ
ス ク 情 報 の 共 有 に お い て 、ネット ワ ー ク が 十 分 に 形 成 さ れ て い る か を 確 認 す る こ
46
と が で き 、十 分 で な い 場 合 に お い て は そ れ を 補 強 す る 試 み が 必 要 に な る 。最 後
に 、本 分 析 は「 リ ス ク に 対 す る 評 価 の ネ ガ ティブ 度 」を 用 い て 不 安 計 量 を 試 み た
が 、こ の 手 法 は 統 計 的 な 検 討 が 十 分 に な さ れ て い な い こ と か ら 、今 後 、不 安 の 原
因 を 明 ら か に し 、計 量 を 行 う た め に は ベ イ ジ ア ン ネット ワ ー ク な ど を 用 い た 統 計
的な手法に発展させていく必要があると考えられる。
47
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謝 辞
本 論 文 を 進 め る に あ た り、小 林 研 究 室 の 方 を は じ め 多 数 は 方々に ご 指 導・ご 協 力
を 頂 き ま し た 。こ こ に 記 し て 、心 よ り 感 謝 の 意 を 表 し ま す。京 都 大 学 工 学 研 究 科
小 林 潔 司 教 授 に は 、筆 者 が 京 都 大 学 の 修 士 過 程 に 入 学 し 、研 究 を 行 う 機 会 を 与 え
て い た だ き ま す と と も に 、大 変 御 多 忙 な 中 、終 始 情 熱 的 な 御 指 導 と 御 助 言 を 頂 き
ま し た 。心 か ら 感 謝 申 し 上 げ ま す。京 都 大 学 工 学 研 究 科 松 島 格 也 准 教 授 に は 、御
多 忙 の 中 、大 変 有 益 な 御 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し た 。厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す。京
都 大 学 工 学 研 究 科 大 西 正 光 助 教 授 に は 、御 多 忙 の 中 、研 究 に 対 す る ご 指 導 に 加
え 、日 常 生 活 に お い て も 多 く の 支 援 を 頂 き ま し た 。厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す。京 都
大 学 工 学 研 究 科 吉 田 護 特 定 助 教 に は 、研 究 に 対 す る ご 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し
た 。厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す。京 都 大 学 工 学 研 究 科 鄭 蝦 榮 研 究 院 に は 、研 究 に 関 す
る 御 指 導 に 加 え 、研 究 者 と し て 研 究 に 取 り 込 む 姿 勢 に つ い て 御 助 言 い た だ き ま
し た 。ま た 、日 頃 の 日 常 生 活 で も 留 学 生 活 の 先 輩 と し て 励 ま し の 言 葉 を 頂 き 、筆
者 の 研 究 活 動 を 支 援 し て 頂 き ま し た 。心 か ら 厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す。京 都 大 学 工
学 研 究 科 横 松 宗 太 准 教 授 に は 、研 究 に 対 す る ご 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し た 。厚 く
御 礼 申 し 上 げ ま す。名 古 屋 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 白 松 俊 准 教 授 に は 、コ ー パ
ス を 用 い た 研 究 に 取 り 組 む 上 、貴 重 な ご 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し た 。厚 く 御 礼
申 し 上 げ ま す。名 古 屋 工 業 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 秀 島 栄 三 教 授 に は 、研 究 に 対 す
る ご 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し た 。厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す。愛 媛 大 学 大 学 院 理 工 学
研 究 科 羽 鳥 剛 史 准 教 授 に は 、研 究 に 対 す る ご 指 導 と 御 助 言 を 頂 き ま し た 。厚 く
御 礼 申 し 上 げ ま す。秘 書 の 藤 本 彩 氏 に は 、研 究 生 活 に あ た り 多 く の 事 務 作 業 等 、
様々な 場 面 で 心 温 か い 御 支 援 を 頂 き ま し た 。心 よ り 感 謝 致 し ま す。同 学 年 の 佐 倉
影 昭 氏 、松 村 泰 典 氏 、籾 山 嵩 氏 、榊 原 稔 基 氏 、王 充 氏 に は 、2 年 間 研 究 室 生 活 で
様々な 場 面 に お い て 助 け て 頂 き ま し た 。深 い 感 謝 の 意 を 表 し ま す。計 画 マ ネ ジ メ
ン ト 論 研 究 室 の 諸 兄 姉 に は 、本 研 究 を 取 り ま と め る 上 で の 多 大 な ご 協 力 を 頂 き
ま し た 。感 謝 の 意 を 表 し ま す。最 後 に 、日 頃 か ら 暖 か く 見 守 り、惜 し み な い 支 援
と 、勉 学 に 勤 し む 環 境 を 提 供 し て く だ さ い ま し た 家 族 へ 、多 大 な る 感 謝 の 意 を
表 し ま す。
Summary
Anxiety Measure and Risk Communication
in Disasters
Abstract: The aim of this study is to develop a methodology to evaluate public anxiety which
created by the event of disaster and to clarify the crisis communication between government and
citizen. Preparing for catastrophe that may happen in the future is an important issue in risk
management. In the Great East Japan Earthquake micro-blogging has been widely used as one
means of sharing information about disaster. First, we discuss the communication divided problem
using corpus, as well as redefine the concept of anxiety associated with risk. And we will try to
weighing anxiety by determining the polarity of the evaluation of the risks as well as to clarify
contents and structure of the crisis communications, by using corpus of government announcement
and micro-blogging during the Great East Japan Earthquake. This method, there is a point to
ensure long and objectivity can be reproduced by applying based on corpus linguistics, natural
language processing, text mining techniques.
In the disaster, people share various information who have been placed in various situation such
as disaster area, non-disaster area, government and also business sector. In recent years, social
network media using mobile communication technologies have been advanced and these are now
makes it possible to communicate easily with anyone, anywhere, anytime. In other words, it became
possible to communicate to the world as well as within the region without any barrier. This kind
of means to exchange information, such as mobile phones and the internet had played a major role
in the Great East Japan Earthquake of March 11, 2011, as aspects of crisis communication. The
people who are in the disaster area are updating on the internet about their situation, and people
who are not in the disaster transmitted, and this kind of process is repeated, finally, the network
between the inside and outside of the disaster area had been made. We call this communication
’crisis communication’ which takes place in the aftermath of disasters. However, it is hard to say
that the proper communication had being carried out, since the information contain contents such
as unconfirmed facts, lying or hoaxes. It is dangerous that many people experience extreme anxiety,
even if the information is determined unreliable, and it could make the entire system of society
cannot be operated well. The aim of this study is to develop a methodology to evaluate public
anxiety which created by the event of disaster and to clarify the crisis communication between
government and citizen by using corpus of government announcement and micro-blogging during
the Great East Japan Earthquake based on corpus linguistics. In this study, the concept of anxiety
in the emergency situation is as follow; when we face unknown risks such as earthquake, we tend to
use the information that has been completed already with the framing which we hold, and then we
make the selection process of hazard information. A result of structural and thoughts meditation is
activated from the first and subsequent intimidation, anxiety has been caused. In order to evaluate
this anxiety, this study was aim to develop anxiety measuring method using crisis communication
corpus. Here is procedure of this research. First, obtaining linguistic information of corpus data and
extracting the topic by using TFIDF (Topic Frequency Inverse Document Frequency). Next, finding
the frequency of co-occurrence of words and topics related to risk, to create a word ’co-occurrence
vector’ for the topic. With this vector, clarifying the structure of crisis communication (MDS:
multi-dimensional scaling). Finally, analyzing the time series change of negativity of evaluation
about the risks. In this study, negativity of risk evaluation was proposed. This is available to
be used as one of indicators to measuring anxiety of people who are facing risks. Negativity of
evaluation about the risks (negativity of risk evaluation) is defined as the ratio of term-frequency
of the word which imply risk (radiation) and co-occurrence word frequency of the word (radiation)
(we only focused on radiation as a risk in this study). This indicator means how much ’radiation
(risk)’ was evaluated as negative way by people and government. The results showed that negativity
of government was getting higher as time passed, while the citizen’s negativity was not showing
significant change. At last, for improving the accuracy of measuring methods, the consideration
such as subdividing the corpus or grouping the players will be need.
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