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第 27 号(2008 年 10 月 5 日発行)
なぎさ 通 信 葛西臨海水族園 周辺の海から 第 27 号 October 2008 珍発見! 幸せの白いコメツキガニ 9 月 15 日に行った「西なぎさ」での生物調査中、 とても珍しいカニを見つけました。それは白いコメ ツキガニ。コメツキガニ自体は「西なぎさ」で最も 多いカニなのですが、白色の個体はこれまで水族園 の誰も見た事がありません。巣穴に潜ったところを スコップで砂ごと掘り上げ、じっくりと観察してみ ました。 なぜ白くなってしまったのか、はっきりした原因 は分かりません。しかし、生き物にはまれに、必要 な色素が体の中で作られない、白色の個体がうまれ ることがあります。時にはその珍しさから、シロヘ ビや琵琶湖の弁天ナマズのように神様の使いとさ れ、ニュースに取り上げられたりしますが、その生 き物自身にとっては中々不便なものです。本来コメ ツキガニは敵から身を守るため砂とそっくりの灰色 っぽい色をしているので、白い個体は砂の上で非常 に目立ちます。 「西なぎさ」の砂浜には多くのカニ が生息しているので、それを狙って水鳥たちも集ま ります。砂浜で目立つということは、鳥たちから見 上:白いコメツキガニ 下:普通のコメツキガニ つかりやすいわ け で、 カ ニ に と ってはまさに命 取 り。 こ の 白 い コメツキガニが 生き残れたのは、 逃げるのがうま か っ た の か、 た またま食べられ な か っ た の か、 非常に幸運な結果だと思われます。 このカニ、よく観察すると脚が何本か欠けていま した。外敵に襲われ、命からがら逃げ延びてきたの はらんばんじょう かもしれません。波 瀾万丈であったろう人生、いや、 かにせい 蟹生にそっと涙しながら写真を撮り、これからも生 き残れる事を願いながら砂浜にかえしました。あな たも「西なぎさ」で白いカニを見つけたら非常にラ ッキー!いいことあるかも?しれません。 (調査係 堀田桃子) トビハゼ通信 ⑦ 西なぎさでトビハゼ発見! 9月の初め頃、 「西なぎさ」の 波打ち際を歩いていると、自分の 足元で一瞬何かがジャンプしたの が見えました。何だろうと周囲を 見渡すと、小さな魚が水面を飛び はねながら逃げていきます。大き さこそ3cm ほどと小さいものの、 ピョンンピョン飛びはねて逃げる 姿はまぎれもなく「トビハゼ」で した。本当にトビハゼならば大発 見!興奮気味に周辺を探しまわっ て、合計7回トビハゼを発見しま したが、残念ながら捕まえること はできませんでした。 トビハゼは、すぐお隣の「東な ぎさ」では繁殖も確認されていま すが、 「西なぎさ」では一度も見 つかっていません。なぜ、 「東なぎ さ」にはトビハゼがいて、 「西なぎ さ」では見つからないのでしょう? 考えられる一番の理由は、底質 の違いです。 「東なぎさ」の水底は まさに泥という感じですが、 「西な ぎさ」のほとんどの場所では小さ な砂粒です。トビハゼは干潟の泥 の中に掘った巣穴で身を隠し、産 卵もその中で行います。きっと、 砂粒では上手に巣穴が掘れないた め、 「西なぎさ」にはトビハゼがい ないのかもしれません。 今回トビハゼを見つけたのは、 「西なぎさ」で唯一、水底がやや 泥状になっている場所でした。恐 らく東京湾岸で生まれたトビハゼ の赤ちゃんが、海中を漂いながら 暮らせる場所を探して、 「西なぎさ」 水族園生まれのトビハゼ稚魚 にたどり着いたのでしょう。この トビハゼの子たちが「西なぎさ」 に定着して、可愛らしい姿がいつ でもみられるようになって欲しい ものですね。 ちなみに、水族園では水槽生ま れのトビハゼを9月から展示して います( 「東京の海」エリア2階の 水槽) 。まだ3cm ほどの稚魚が水 槽内をピョンピョン飛び跳ねる姿 を、ぜひこの機会にごらんくださ い。 (動物解説員 今井啓介) なぎさの小さなサカナ便り ⑫ 性転換する「高級魚」 ・マゴチ 8〜9月の水温の高い時期、 葛西臨海公園の沖にはマゴチの 稚魚がやってきます。今年も9 月下旬、「西なぎさ」の波打ち 際で6〜8cm のマゴチの稚魚 3匹を捕らえ、水族園周辺の生 きものを来園者の方に見ていた だくイベント「ボトルウォッチ ング」に登場させました。 マゴチは成魚も夏になると浅 い海にやってきて、この時期が 旬とされています。その白身の 味は、刺身でも鍋物でもフグに 匹敵すると言われる「高級魚」 で、漁獲の多くは高級飲食店な どに送られます。このため、ス ーパーの店頭などではあまり見 かけることはありませんが、釣 りをする方にはなじみのある魚 のようです。先日のボトルウォ ッチングでも、マゴチの稚魚を 見ながら「三浦半島で大きなも のを釣ったよ」と教えてくだ さった方がいらっしゃいました。 マゴチは1m 近くなることもあ り、何よりおもしろいのは、大 きい魚はみんなメスだというこ と。ベラの仲間など性転換をす る魚は意外に多いのですが、マ ゴチの場合は 30 〜 40cm 位まで はすべてオス、それ以上の大き さになるとメスに変わります。 マゴチの体は砂底での生活に 適応していて、全身が押しつぶ されたように平たく、頭部分は まるでスコップのような三角形 をしています。上から見た姿が 平安貴族の持つ「笏(しゃく)」 に似ているので、笏の別の呼び 方 で あ る「 こ つ 」 か ら「 コ チ 」 の名前がついたという説もあり ます。その平たい体を砂底に隠 して、獲物となる小さな魚や甲 殻類等が目の前を通ると、大き な口をあけてパクッと飛びかか る肉食の魚です。水槽の中で目 だ け を 出 し て 砂 に ひ そ む 姿 は、 いると分かっていても簡単には 見つけられません。 多くの方にマゴチを知ってい ただくためには、水族園の「東 京の海」エリアで展示すると良 いのですが、同じ水槽に入って いる他の魚を片っ端から食べて 入口 しまうおそれがあるため、現在 は非公開エリアの水槽で飼育さ れています。次回 10 月 25 日の ボトルウォッチングにも登場の 予定ですので、ぜひ、忍者のよ うに砂に身を隠すマゴチを見に きてください! (調査係 打越聡子) 秋の水族園周辺生き物マップ 旧江戸川 三日月干潟 水上バス 発着所 今年生まれのコメツキ ガニをさがしてみよう。 このあたりでトビ ハゼの稚魚を発見 (生物保護のため立入禁止) 木の間に張られた巣の中央には、 メスのジョロウグモ。小さなオス は片隅にいる。どちらも今年の春 生まれで、冬の前に寿命を迎える。 トビハゼは、「東なぎさ」と鳥類園の 「下の池」で繁殖が確認されている。 そろそろ、スズガモなど海ガモ類が 渡ってきている ●●●秋の西なぎさ●●● 春から夏にかけて卵からかえり、浮遊生活の幼生期を経て、秋になると親と同じような場所に帰ってくる海の 生物は少なくありません。初めて西なぎさで確認されたトビハゼ稚魚のほかにも、干潟の砂の上には数ミリく らいの小さなコメツキガニの子供たちが歩いています。大人のコメツキガニが作る砂ダンゴは直径 5 ミリ〜 1 センチくらいですが、今年生まれの子供たちが作るダンゴは 1 ミリくらい。西なぎさでさがしてみましょう。 編集後記 :葛西臨海公園には、 「陸の節足動物」もたくさんいます。この季節になると目立つのは、木々の間に立派な網を張るジョロウグモと、 エンマコオロギなど秋の鳴く虫。樹上からかん高い声で鳴く外来種アオマツムシのやかましさも、都心の公園や街路樹ほどではないようです。 なぎさ通信 第 27 号(2008 年 10 月 5 日発行) 編集・発行 / 東京都葛西臨海水族園 /Tel : 03(3869)5152 (動物取扱業登録:第 002150 号 東京都葛西臨海水族園)