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非造影MRAの最新トピックス - 東芝メディカルシステムズ株式会社
119 2008年 3 月27日 (第 3 種郵便物認可) 第 2 部 2008年 3 月27日 特別企画 提供●東芝メディカルシステムズ株式会社 非造影MRAの最新トピックス MRI検査は被ばくがなく,患者の負担が少ないことが特徴として挙げられるが,MRIによ る血管撮影(MR Angiography:MRA)においてはガドリニウム(Gd)造影剤を使用した造 影MRAが主流であった。しかし2006年に腎性全身性線維症(NSF)の発症とGd造影剤との 因果関係が示唆され,FDAによりGd造影剤に対する警告が出されたことを受けて,造影剤 を使用しない非造影MRAに対する期待が急速に高まりつつある。 非造影MRAについては,画質や血行状態の評価などの点において,造影MRAよりも劣る のではないかという声もある。だが,近年の研究・開発の進展により,非造影MRAでも高 度な情報が得られるようになっている。本企画では,頭頸部と肝部における非造影MRAの 最新の研究成果についてレポートする。 第66回日本脳神経外科学会ランチョンセミナー 座 長 3D-FASE法を用いた 頸動脈プラークの Vulnerability評価 防衛医科大学校 脳神経外科教授 島 克司氏 非造影プラークイメージングで プラークの安定度を測定し, 頸動脈ステント留置術の 適応を判断 る評価が重ねられてきた。CTでは は東芝メディカルシステムズ社製1.5 造影剤を用いた3D-CT angiography テスラMRIシステムで,撮 像には が試みられてきたが,造影剤を用い 3D-FASE法によるプラークイメージ ても必要なコントラストが不足で, ングに加えて脂肪抑制T1短軸像,造 プラークの質的な診断に供するもの 影MRAを加えている。得られた画像 とは言い難い。さらにCTには被ばく 所見に対応して,CEA摘出標本の病 という患者デメリットもある。 理組織像を得て比較検討を行った。 社会福祉法人恩賜財団済生会熊 社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院 画像診断センター 放射線科医長 長の西春泰司氏は,頸動脈プラーク 西春 泰司氏 の安定度を非造影のMRIによって評 本病院画像診断センター放射線科医 脂肪抑制T1強調画像と 3D-FASE法の低信号領域は プラークの安定成分を示す 価する試みを行った。 74歳,男性の症例では,コレステ り,ついには内膜に血栓が形成され 今回用いられた撮像手法 (シーケ ロールを多く含むLipid Rich Plaque る可能性が高いものを言う。 ンス) は3D-FASE (Fast asymmetric の診断 が 得られた (図 1) 。従 来の 頸動脈プラークの治療としては, spin echo) 法と呼ばれるspin echo系 MRI 手法である造影 T1強調画像や 狭窄部分を血管の内膜とともに摘出 高速化シーケンスで,T2値の長い 造影 MRA では,不安定領域を評価 する頸 動 脈内膜 剝離 術 (Carotid 水成分や血液信号をより強調しやす することは困難である。それに対し 脳塞栓症の塞栓源として重視され Endarterectomy:CEA) が知られて いという特徴がある。3D-FASE法を て, 3D-FASE 法では,尾側に高信 る頸動脈プラークは大きく「安定プ いるが,近年,患者への身体的負担 用いたプラークイメージングでは, 号のLipid Rich Core が明瞭に描出 ラーク」 と「不安定プラーク」 に分類 が比較的少ないとされる頸動脈ステ 造影剤を用いなくても,安定性の指 されている。CEAの術中所見に見 される。安定プラークとは,線維性 ント留置術 (Carotid Artery Stenting: 標となる線維化成分は低信号 (黒) を られるコレステロールによる粥腫状 皮膜 (Fibrous Cap) が厚く,このた が注目されている。CASの適 CAS) 呈し,それ以外の不安定な成分は高 成分 (図 2) が,高信号の部分に対応 めプラークの脂質成分 (Lipid Core) 応が可能かどうかの判断には,プラ 信号 (白) を呈する。この性質を利用 していると考えられる。さらに病理 が破裂しにくいものを指す。一方, ークの安定度についての評価が重要 しプラーク全体における低信号の部 所見と比較してみると,分葉状を呈 不安定プラークはLipid Coreの増大 となる。 分の比率を同定することで安定度を しているFibrous Capは3D-FASE画 によってFibrous Capが薄くなり,や これまで頸動脈プラークの診断 評価するという戦略である。 像における低信号部分に,コレステ がて内膜破裂 (Plaque Rapture) に至 は,1980年代の後半から超音波によ 図1. コレステロールを多く含むLipid Rich PlaqueのMRA画像 同氏はこの手法の有効性を検証す リン結晶を含む Lipid Rich Core の るために脳梗塞が疑われる患者10例 部分は高信号部分に対応すること を対象として,検討を行った。撮像 が判明した (図 3) 。 西 春 氏は「不安 図2. 術中所見に見られる粥腫部分 定プラークは,内 部に泡沫細胞のほ か炎症や出血な ど,複雑多岐な成 分であることが多 2D-SE+脂肪抑制 造影なし く,このためシー ケンスによって高 信号になったり低 信号になったりと dynamic MRA Plaque image (3D-FASE) 信号変化が一義的 ではない。よって 2D-SE+脂肪抑制 造影あり 74歳男性 脳梗塞 TOSHIBA_A Sec1:1 ○がコレステロールを多く含む部分。 3D-FASE法の高信号部分に対応 不安定プラークそ のもののMRIによ る診断は,安定性 08.4.23 4:55:09 PM 120 2008年 3 月27日 (第 3 種郵便物認可) ることができる (図 1 B) 。 ている」 と述べた。 信号 (黒) で描出していくことで,新 し,線維化あるいは器質化した成分 さらに同氏は「3D-FASE法はプラ たな情報が得られるのではと考え ま た,FSBBに よ る 右 前 頭 葉 の安定プラークは一義的に低信号を ークの安定性評価やプラーク内出血 た」 と説明した。 glioblastoma患者の画像 (図 2) では, 示す。この低信号の安定領域全体 の診断が可能であるというメリット の客観的な指標にはなり難い。しか との割合を描出することで全体の不 がある半面,空間分解能が低い,撮 安定性が評価できる。当施設では脂 像 時 間 が 長 い,ICA-ECA bifur- 肪 成 分 を 抑 制した T1強 調 画 像と cation 付近の描出能が低いなどの課 3D-FASE 法を撮像し,両者の低信 題もある。しかし,めざましい技術 腫瘍内の拡張した血管は線状に,出 動脈の閉塞・開存状況を 把握し, tPA治療の予後を判定 磁化率強調画像では,信号強度の 血成分と考えられるものは点状に, それぞれ描出されており,病変が血 行豊富な悪性腫瘍であるとの診断が 可能となっている。 号領域が一致した部分を安定領域 の進歩によって状況は前向きであ 不均一や血流信号による画質低下を そのほかの臨床活用例として,虚 と判断している。このようにして得 る。例えば,コイルによる診断能の 防ぐためフローコンペンセーション 血域に側副血行が作られているよう られた画像所見は病理組織像との 改善という点では,従来のネックコ と呼ばれる手法が施されており,動 なケースがある。土屋氏は「TOF 法 関連性も高い。従来の造影MRIシー イルに替わり両側同時撮像可能なフ 脈の信号が消去されている。これに MRAでは,狭窄,閉塞部より遠位 ケンスでは,まれに安定成分が高信 レキシブル表面コイルが開発され 対し,FSBBでは血流の信号を低下 の動脈部分はまったく血流がない画 号に描出されるなど,プラークイメ た。これによって検査時間が短縮さ (ディフェーズ) させるパルスを加え 像として描出される。一方,FSBB ージングに関して,造影検査は必ず れた上,コイルを患部に密着させる て動脈,静脈にかかわらず血管を黒 では側副血行が形成され,狭窄,閉 しも必要ではないという印象を持っ ことができるので解像度が大幅に向 く描出する。 塞部より遠位の細かい分枝レベルの 図3. MRA画像と病理所見との比較 Fibrous tissue (cap) 3D-FASE Lipid 2D-SE 造影あり 病理所見 (×100) 上し,細 部まで 一般的な動脈描出法であるMRA 血管に血液が供給されている状態を 明瞭に描出でき の3D-TOF 法は,造影剤を使わず低 描出できる。これは,主幹動脈の閉 るようになった。 侵襲ではあるものの細かい動脈の描 塞,狭窄病変の診断に有望であるこ 今後,非造影の 出には向かない。造影剤を使った とを示す」 と述べている。 プラークイメー MRAや,CT,脳血流シンチグラフ FSBBのこのような特性を活かし, ジングはCASの ィーなどは,X 線や造影剤を使うた 脳梗塞の急性期におけるtPA 治療 適応判定から高 め,患者に負担を強いるという弱点 の予後を事前に評価するという試み 脂血症の投薬治 がある。 もなされている。血栓より末梢の血 療 効 果 の 判 定, 磁 化 率 強 調 画 像とblack blood 管が完全に閉塞していれば,効果 さらには冠動脈 MRA 法を組み合わせた撮像法の特 はあまり期待できないが,開存して プラークの性 状 徴は,末梢の動脈まで,無侵襲に描 いれば機能の回復が期待できる,と 同氏は推測している。 診断に至るまで, 出することができる点である。空間 幅広い診療領域 分解能が高く鉄や石灰化の描出に優 で有用な臨床応 れるという磁化率強調画像の基本的 穿通枝をすばやく検査し, 脳卒中リスクの 判定につなげる 用が期待できる 性格は保持しつつ,急性期,慢性期 のではないか」 と の別なく,動脈の開存状況が把握で 結論した。 きる。高度の情報が,患者に大きな 現在,土屋氏らは脳卒中専門の臨 負担をかけずに収集できるユニーク 床グループと共同で,FSBBによる な方法であると言える。 穿通枝の描出に取り組んでいる。 FSBBの臨床活用の一例に,梗塞 中大脳動脈から直接分岐して脳内 や腫瘍の性状あるいは鑑別診断があ へ入っていく穿通枝は,高血圧の影 る。新鮮梗塞患者の画像で比較する 響を受けて脳出血やラクナ梗塞を引 と,拡散強調画像では梗塞の性状判 き起こしやすい 微 細な血 管だ が, 断までは難しいが (図 1 A) ,FSBB FSBBを用いることで低侵襲に,数分 の画像では左中大脳動脈領域の梗 の検査で描出が可能となる (図 3) 。 塞巣内に出血の存在を明瞭に読み取 そこで同氏らは,脳虚血の症状を持 インタビュー black blood MRA法による 血流情報を加えた 磁化率強調画像の臨床応用 杏林大学 放射線科准教授 図1. 土屋 一洋氏 A. 脳の拡散強調画像 微細な構造物の描出を 可能にする磁化率強調画像 また,磁化率強調画像は静脈異常 の描出にも有用である。虚血に陥っ た領域では,血中のヘモグロビン分 脳血管疾患の診療の現場におい 解物であるデオキシヘモグロビンの ては,カテーテルや造影剤を使用し 濃度が高まるが,磁化率強調画像で ない,低侵襲な検査方法として拡散 はこれを静脈からの信号の増強とし 強調画像やMRAが不可欠なものと てとらえ,その部分を低信号に描出 なっている。しかし,これらの検査 する。描出過程で動脈からの信号を は,微細な構造物や,急性期の出血 消す操作が加わるため,動脈の描出 性梗塞で見られる微量出血などの描 は軽度である。 出には限界があった。 杏林大学放射線科准教授の土屋 このような点を補う撮像法として, 一洋氏らは,磁化率強調画像の発展 近年,学会や論文等で注目を集めて 型として動脈も併せて描出する方法 いるのが磁化率強調画像である。磁 を検討し,磁化率強調画像とblack 化率強調画像は組織の磁化率の違 blood MRAを組み合わせた新しい いを強調したMR 画像で,血液の分 撮像法であるFSBB (flow sensitive 解産物や鉄,石灰化の描出に優れ, black blood MRA) 法を考案した。 かつ高い空間分解能を持っており, 同氏は,今回の開発に至った背景を, 出血性脳梗塞の初期段階における極 「特に脳の虚血病変について有用性 微量の出血成分,中大脳動脈レベル が言われている磁化率強調画像の検 の血管内にある血栓といった従来の 討を重ねていく中で,磁化率のみな 手法ではとらえきれない微細な構造 らず流れの効果も積極的に用いるこ 物の描出を可能にする。 とにより動静脈の信号を積極的に低 TOSHIBA_A Sec1:2 B. 脳のFSBB画像 図2. 右前頭葉glioblastomaの画像 図3. FSBBによる穿通枝の描出 線状部分 (矢印) が腫瘍内の拡張した血管 08.4.23 4:55:11 PM つ患者と正常群,それぞれの穿通枝 121 2008年 3 月27日 (第 3 種郵便物認可) 関し,さらに検証を続けたい。無侵 で,Time-SLIP 法 に よ る 非 造 影 優位なのかという問題について検討 の状況を,FSBBを用いて撮像・比 襲に末梢の動脈,静脈まで描出可 MRAで撮像すると,順行性に描出 した結果,食前はSpVの血流が優位 較評価し,高血圧症患者等,脳卒中 能なFSBBは,特に脳血管障害の診 される。非造影 MRAでは造影剤の であるのに対して,食後はSMVの血 リスクの度合いの判定につなげよう 断,治療に大いに活用できる可能性 圧がかからないために,生理的な血 流が優位となりSpVの血流が低下す と検討を続けている。 を秘めている」 と述べ, 「将来的に 行動態を表す所見が得られるとい ることが明らかになったという。 同氏は「今後は,末梢の閉塞や狭 は,脳の機能画像への応用などにも う。 窄,腫瘍に関連する血管の描出に 取り組みたい」 と結んだ。 このような血行動態の描出能を応 用して,胃静脈瘤がどの血管の血流 によって供給されているかの判断に 現在,FSE法に代わる新たな撮像 も有用だという。 第49回日本消化器病学会大会ランチョンセミナー 法としてTrueSSFP (True steady- 座 長 選択的 Tagging pulseを 用いた 非造影MRAによる 門脈血流分布の評価 造影剤を用いずに門脈系を 明瞭に描出する非造影MRA 門脈正切画像を 描出することで, 門脈内渦状流の把握が可能に サブトラクションの 位置ずれをなくすことで, 描出精度が向上 昭和大学 藤が丘病院 消化器内科教授 川崎医科大学 放射線科 (画像診断)教授 与芝 真彰氏 伊東 克能氏 state free precession) 法を用いた非 造影門脈 MRAが注目されている。 この手法であれば,S/N 比と空間分 従来のTime-SLIP法では,Tagging 解能,時間分解能を高いレベルで両 pulseを血流に印加した画像と,印加 立することが可能になる。門脈の信 しない画像を別々に撮像し,両者を 号をより強調し,血管の辺縁もクリ 重ねサブトラクションして明瞭に血 アに描出できるという (図 2) 。また 流を浮かび上がらせる方法が取られ TrueSSFP法では信号低下のない連 ていたが,これでは 2 度撮像する手 続スキャンが可能なため,血流の経 間がかかる上,サブトラクションの 時的動態を連続的に把握することも pulse) 法を併用することで対象とす 際に位置ずれが起こる。このため腹 できる。このTrueSSFP 法とTime- る血管からの血流を選択的に描出す 部領域の臨床応用には精度が不十 SLIP法の組み合わせによって,鮮明 ることができるようになった。Time- 分という問題点があった。 な門脈の正切画像を得ることができ 従来,門脈系の描出には,血管造 SLIP法とは,特殊なパルス(Tagging この問題点を解決するために,伊 る。 影,CT,MRIのいずれにおいても pulse) を特定の血流に印加し,その 東氏は呼吸停止下Tag onの撮像と これによって得られた門脈正切画 造影剤を用いた撮像が行われてき 血流を低信号あるいは高信号に描出 Tag off の撮像を 1 度に行う手法を 像では,門脈内の血流が必ずしも順 た。しかし,造影剤の負荷は血流状 する手法である。この手法により血 導入し,描出精度を高めることに成 行性に流れる層流ばかりではなく, 態に大きな影響をおよぼすことから, 流方向の同定,さらにはSMVとSpV 功した。同氏は「この手法を用いるこ 少なからず渦状流を呈していること 得られた画像は生理的な状態を反映 の分離が可能となった。 とで,サブトラクションの位置ずれ が明らかになった (図~3) 。 し て い な い。また 上 腸 間 膜 静 脈 川崎医科大学放射線 科 (画像診 の問題は解消された。その結果,門 伊東氏は「門脈内の血流が渦状ある (SMV) と脾静脈 (SpV) の血流の分離 断) 教授の伊東克能氏はこの手法を 脈の生理現象の解明も進展した」 と いは揺れを呈する原因としては腸管蠕 も困難であるため,両者の門脈内あ 用いて,健常者20人以上に門脈系の 述べた。 動の影響が考えられる。そのほかに るいは肝実質内での分布状況には, 撮像を行った。SpV,SMV,それぞ 1 例として,一般に食後には,門 も,心臓あるいは動脈の拍動の影響 不明確な点が多かった。 れの血流を色分けして表示したとこ 脈血流全体が増加することが知られ が門脈内の血行動態を左右している これに対し,近年ではFast Spin ろ,多くの健常例ではSMV血流は門 ているが,同氏はこの際にSMVから ことが示唆される」 と結論した。 Echo (FSE) 法による非造影 MRAが 脈の右側を,SpV 血流は門脈の左側 の血流とSpVからの血流のどちらが さらに,同氏は今後の展望として 門脈系の描出に使用されるようにな を,互いに層を成して流れているこ った。非造影 MRAは造影剤による とが観察された (図 1) 。一方で肝硬 副作用のリスクなしで繰り返し撮像 変症例では,これらの流入血流の分 できること,撮像条件の設定によっ 布域が健常例と逆転し,SMV血流が 「portal flow dynamic 図2. TrueSSFP法を用いた非造影門脈MRA画像 imagingの症例検討を進 めるとともに,肝実質 HV レベルでのSMV,SpV て門脈のみならず肝静脈・胆管も描 門脈の左側を,SpV 血流は門脈の右 血流分布評価,さらに 出可能であること,3D撮像による立 側を流れているケースが多いという は 体視によって詳細な解剖学的評価が 結果が出た。 可能になること,側副血行路の評価 同氏は「区域性の脂肪肝が右葉に HA に有用であることなど,多くのメリッ 起こる場合と左葉に起こる場合があ トがある。 るが,その原因はこのような門脈内 究や症例蓄積を,患者 にリスクや負担を与え SMA Time-SLIP 法による非造影 MRA はそのほかさまざまな診断に有用で あるという。例えば,X 線造影アン SLIP (Time-spatial labeling inversion ギオではSpVの逆流と診断された例 図1. Time-SLIP法を使った非造影MRAにおける典型的な門脈内血流分布パターン imaging,門脈血流の定 定である。これらの研 MPV 現象にあるのではないか」 と述べた。 さらに近年は,このFSE法にTime- 脈 pe r f u s i o n 量化を検討していく予 のSMV,SpVの流入血流分布の逆転 門脈血行動態を描出する 選択的非造影MRA: Time-SLIP法 門 ない非造影MRAを使っ て臨床現場で平易に行 えることは,意義深い TrueSSFP法によって,腹部脈管系がより高い空間分解 能,時間分解能で描出できるようになった ことである」 と述べた。 図3. TrueSSFP法とTime-SLIP法との組み合わせによる門脈正切画像 TAG on SMV SMVにTagging pulseを印加し TrueSSFP法で撮影 合成画像 (3D-FASE) TAG on SpV Tagging pulseを付加された血流は,低信号 (黒) で描出される。合成画像では,SMVから の血流が門脈右側を,SpVからの血流は門脈左側を層状に流れていることが観察される TOSHIBA_A Sec1:3 SMVからの血流 (矢印の低信号部分) が門脈内で渦状流を形成している様子が可視化されて いる 08.4.23 4:55:11 PM 122 2008年 3 月27日 (第 3 種郵便物認可) 図1. 健常者の肝静脈流入部画像①(IRパルス変更前) インタビュー Time-SLIP法による 肝静脈非造影MRAの 有用性 CTA以上の精細な画像を 安全に撮像可能 医療法人社団朝菊会昭和病院は 医療法人社団 朝菊会昭和病院 院長 医療法人社団 朝菊会昭和病院 画像診断部 緑川 武正氏 奥之薗 輝也氏 IRパルス IRパルスを肝下縁に沿うように設定 経済的にもメリットは大きい」 と語る。 腫瘍と血管の位置関係を 術前に明確に把握可能 消化器科領域を中心に,内科,外科, 奥之薗氏らはまず,肝静脈の評価 整形外科全般を診る地域の救急医 に適した撮像条件を探るべく,健常 療病院としての役割を担っている。 ボランティアを対象に,Time-SLIP法 65床の規模であるが,外科医 6 人を 併用TrueSSFP法による撮像を試み 有し,そのうち 3 人は外科指導医・ た。まず,門脈を消去するためのIR 消化器外科指導医,内 1 人は臨床 パルスを肝下縁に沿うように設定し, 研修指導医という体制を整えており, 撮像を行った (図 1) 。肝静脈および 消化器外科に関しては,福岡県内で 動脈系が描出されるも,下大静脈の も屈指の技術力を誇っている。 肝静脈流入部は描出されず,右肝静 これまでも画像診断に力を入れて 脈と中肝静脈は離れて描出された。 きた同病院は最新型MRIの可能性 そこで,パルスを加える位置を下大 下大静脈の流入部は不明瞭である 図2. 健常者の肝静脈流入部画像②(IRパルス変更後) IRパルス 下大静脈の肝静脈流入部が 明瞭に描出されている パルス位置を下大静脈から離れるように設定 に着目し,2006年 7 月に1.5テスラ 静脈から離れるように変更したとこ の中を貫通しているのが確認され, ケースもあるが,肝静脈は亜定型な MRIを導入した。主として脳血管や ろ,下大静脈の肝静脈流入部が鮮明 腫瘍と血管との位置関係も明瞭に見 ものもあり,手術の際には十分な注 下肢血管の血流評価に非造影 MRA に描出されるようになった (図 2) 。 て取ることができる。 意が必要である。術前に肝静脈の形 を活用。その導入は,検査効率と診 さらに脂肪抑制法として,水と脂 同氏らが開発した撮像法は他科の 状や,腫瘍との位置関係を把握でき 断精度を大きく向上させたのみなら 肪の周波数の差を利用したFatSat 医師からの評価も高い。消化器外科 ることは,手術の安全性の向上に役 ず, 「高性能のMRIによる検査がで (CHESS) 法とIRの反転時間を短くす の医師でもある緑川氏は,肝静脈描 立っている。 きる病院」 との評判を呼び, 「病院経 ることで 脂 肪 の 信 号 を 抑 制 す る 出 の メリットに つ い て, 「肝 静 脈 また,肝臓移植手術の場合は,静 STIR 法を比較した。広い範囲の脂 MRAは肝臓癌の切除手術やラジオ 脈の再建は,高度な技術を必要とす 肪抑制効果は STIR 法が優れていた 波焼 療法の術前ガイドとして有用 るが,その際の肝移植ドナーの血管 そこで同病院画像診断部の奥之薗 が,血管と実質のコントラストに関 である。肝臓上部に位置する癌の場 評価にも大きく貢献すると考えられ 輝也氏らは,看板科目である消化器 してはFatSat法が優れているという 合,肝静脈に接する血管を切除する る」 と述べた。 営面でも大きなメリットとなった」 (院長の緑川武正氏) という。 さらに奥之薗氏によれば, 科領域でも非造影MRAを活用すべ 結果が出た。 く,上腹部血管系の撮像に取り組ん 次 に,BBTI 値 (TI of the black できた。その結果,肝静脈のみを分 blood method;IRパルスからスピン で撮像でき,X 線被ばくがな 離選択して描出する手法を開発した。 励起パルスまでのinversion時間。こ いことと合わせて,患者の負 同 氏 ら が 用 い た 方 法 は, れを変化させることにより,画像の 担の少ない検 査であるとい TrueSSFP法にTime-SLIP法を併用 コントラストを変えることができる) う。 したものである。TrueSSFP 法は血 を600,800,1,000,1,200msecと変化 Time-SLIP法は速い流れか 図3. 転移性肝腫瘍症例の非造影MRA元画像 非造影 MRAは比較的短時間 液などを強調した水強調画像であ させて撮像し,信号値の変化を比較 ら遅い流れまで, 「流れ」 の情 り,脂肪抑制法と組み合わせること したところ,800∼1,000msecの範囲 報を描出できる方法であるた で血管や胆管などを高い信号値で描 でコントラストが良好となることが め,血液に限らず体内のあら 出する。また,T2の延長した腫瘍な 確認された。 ゆる液体に応用できる可能性 ども描出されるため血管との位置関 上記の条件を踏まえて転移性肝腫 がある。同氏は「今後は骨盤 係を把握するのに有用であるとされ 瘍症例 (53歳,女性) の撮像を行った 腔や上肢の血管の描出,胆管 る。さらに心拍に依存せず,流れの (図 3) 。腫瘍は高信号に描出されて 内の胆汁の流れなど,応用の 描出や動きの影響に強いので,血管 いる。非造影MRAの元画像をペー 可能性を探っていきたい」 と や胸腹部の描出に適しているという ジング表示させると,肝静脈が腫瘍 述べた。 特徴がある。 今回,同氏らが対象とした肝静脈 119∼122ページは東芝メディカルシステムズ株式会社の提供です は,血流がかなり緩やかであり,末 梢から中枢へ流れているため,動脈 のように血液を励起させて描出する ことはできない。そこで同氏らは, 逆にTime-SLIP法を用いて門脈を消 去することにより,肝静脈を描出し ようと試みた。同氏は「従来のCTA では造影剤の希釈によりコントラス トが不十分な画像しか得ることがで きなかったが,肝静脈MRAでは造影 剤を使用しないにもかかわらず,コ ントラストの高い血管像を得ること ができた。造影剤を使用しないため に,検査費用も安くなるため,医療 TOSHIBA_A 4 08.4.23 4:55:07 PM