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マルチプレイにより一人用ゲームの楽しさを引き出す演出法
情報処理学会第 75 回全国大会 6P-3 マルチプレイにより一人用ゲームの楽しさを引き出す演出法∗ 樋口朱理 (法政大学 情報科学部), 伊藤克亘 (法政大学 情報科学部) 1 序論 現代のゲームは戦略性、ルール、目的よりも補助的 要素の“ 演出 ”で評価される傾向にある。ゲームは本来 のルールの拡張、戦略の多角化、ゲーム性の向上といっ た本質的要素より、デザインやアニメーション、新たな 操作方法などの多彩な演出で差別化されてきた。現在 ではこの演出に依存するゲームが多く存在する。従っ て簡素なゲームの評価向上には主要素を引き立てる演 出が必須と考えられる。 本研究では、本来持つゲーム性を引き立てる新たな ルール、操作方法、インタフェース、視覚効果、聴覚 効果を導入し、プレイヤーが感じる各要素の重要度を 調査する。開発したパーティー対戦型と既存型との有 意差を検定し、簡素なゲームの楽しさを引き出す一般 的な演出法としての提案を目指す。 2 解決方法 先行研究 [1,2] を参考に、ゲームの楽しさを演出する 以下の 4 項目について考慮する。 ・フロー状態 ・感覚的な楽しさ ・挑戦の楽しさ ・想像性の楽しさ それぞれスキルレベルが競り合うときの集中力、感覚 的刺激に対する注意の喚起、不確かなゴールへの依存、 イメージからくる感動を示す。それぞれの楽しさに対 して、具体的な演出を追加して、それぞれの効果を明 らかにする。 3 マインスイーパのマルチプレイ化 本研究では一人用で演出が簡素なマインスイーパを マルチプレイ化する。マインスイーパは地雷原から地 雷を取り除くことを目的とするゲームであり、プレイ ヤーが地雷のマスを指定した際、ゲームオーバーとな る。 このマインスイーパにゲームの楽しさに関連させた 演出法を導入する。 「フロー状態」に「勝機が平等に与 えられた対戦」、「挑戦的な楽しさ」に「適切な課題の 設定」、「想像性の楽しさ」に「視覚効果・聴覚効果」、 「好奇心の楽しさ」に「操作による知覚」をそれぞれ対 応させる。またプレイ人数が 3 人以上のゲームと想定 して手法を施す。競い合うことで、フロー体験を誘発 するために、マルチプレイ形式は対戦型とする。プレ イヤーの順番を決めて、一つのマスを開くごとにマス の選択者を入れ替えていくゲームとする。 3.1 マインスイーパの基本的機能の構築 全体の枠組み、効果音の出力、マスを開く機能、数 字の出力、地雷数の設定、地雷のランダム配置、地雷 ∗ Performance method to attract the fun of personal type games by multi-play by Aketada Higuchi. (Faculty of Computer and Information Science, Hosei University) et. al. 2-95 情報表示、周囲地雷情報表示、周囲地雷探索、ゲーム クリア判定、ゲームオーバー判定、フラッグ機能を実 装した。 3.2 音声インタフェースによるマルチプレイ化 対戦型のゲームでは、複数人による操作をスムーズ に行う必要があるため、そこで音声インターフェース を用いる。音声インターフェースは不特定多数の話者・ 連続音声が認識できるので多人数のコントローラーの 役割を果たせる。プレイヤーが発する数字を認識して、 マスを指定する。 音声認識を用いることで、操作による知覚を実現す る。プレイヤーに正しい入力を試みさせることで、感 覚的な楽しさを促す。 3.3 適切な課題設定 勝敗のハンディーキャップのつけ方として、各プレ イヤーに指定制限時間を設ける。村田らは作業効率は、 より時間的制約を与えたときには解答時間と正答率に 影響を及ぼす [3] ことを示した。従って設けた制限時間 によって難易度が変化し、個々の作業レベルが平等に なることが期待される。適切な制約の設定によって作 業スキルからくる勝率の偏りをなくす。 またいずれかのプレイヤーが地雷を踏んだとき、他プ レイヤーはそれまでの指定制限時間の使用率によって 順位をつける。同じようにゲームクリアの場合も、与 えられた時間の使用率の低い順に好成績とする。 3.4 視覚効果・聴覚効果 視覚効果と聴覚効果を組み合わせることで、想像性 の楽しさを誘発する。 プレイヤーの視線を注目させるために、予測困難な 視覚効果を取り入れる。潜在的なモチベーションを保 つために、余韻まで注目できる花火のアニメーション を追加する。また音声入力の操作時に、声に反応する 波形を出力させる。音量によって波形が揺れ、プレイ ヤーが入力を知覚できる。この 2 点のアニメーション でプレイヤーの目を惹き、視覚的興奮を促す。 また聴覚効果として、プレイヤーを興奮させるため に、音声入力に連動した BGM と効果音を加える。聴 覚的刺激でプレイヤーを緊張状態にし、想像を掻き立 てる。BGM は様々な聴覚的刺激を与えるために 7 種 類用意し、設定画面を設ける。また BGM はランダム に再生する。 4 評価実験 演出法が有効か検証するために、評価実験を行った。 評価方法に階層分析法 (AHP) を用いた。山下はゲーム を構成している諸要因をより構造的に捉え、それらが 楽しさにどのように寄与しているかをより定量的に把 握することが重要である [2] と述べた。AHP は問題全 体を「問題」→「評価項目」→「選択肢」という階層 的構造に分割し、 「問題」からみた各「評価項目」の重 Copyright 2013 Information Processing Society of Japan. All Rights Reserved. 情報処理学会第 75 回全国大会 制限時間 視覚聴覚 プレイ 表 A × × 単 重み 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 全体平均 幾何平均 1. 要素対とゲーム型 B C D E F ○ × ○ × ○ × ○ × ○ × 複 単 単 複 複 表 2. 要素対の重み 制限時間 視覚聴覚 0.14 0.71 0.26 0.63 0.25 0.09 0.16 0.66 0.11 0.48 0.12 0.33 0.66 0.16 0.09 0.61 0.10 0.21 0.19 0.31 0.21 0.42 0.177 0.436 G × ○ 単 表 3. 型 A D B C F E G H H ○ ○ 複 プレイ 0.14 0.11 0.66 0.19 0.41 0.55 0.19 0.30 0.69 0.50 0.37 0.387 4.3 み、各「評価項目」からみた各「選択肢」の重みを順次 求め、最後に「問題」からみた各「選択肢」の総合得 点を求める。この方法を踏まえて山下は AHP をゲー ムの楽しさの要因を構造的、定量的に捉えるのに有効 である [2] と述べた。本評価実験では「問題」を「ゲー ムの選択」、「評価項目」を「楽しくさせる要素」、「選 択肢」を「ゲーム型」と置き、適用した。 4.1 実験の手順 表1は実験で扱う評価項目であり、各パラメータか らA型を既存型、H型を対戦式パーティー型とする。全 てのゲーム型を対象に AHP を用いて、各評価項目に おいて一対比較した。一対比較は、すべての項目の中 から 2 つの項目を選択して比較した。評価項目の要素 対として、 「制限時間の設定」、 「視覚・聴覚効果」、 「プ レイ形式」の 3 つを置く。要素対の一対比較を行った 後、8 つのゲーム対の一対比較をさせる。 比較方法は 5 件法を用いる。5 件法は、1/5、1/3、 1、3、5 の 5 段階評価で、1/5 ほど軽視され、5 に近い ほど重要とする。例として「挑戦の楽しさが視覚的な 楽しさに対して絶対的に重要である」ときは、挑戦の 楽しさの評価 5、視覚的な楽しさの評価 1/5 が与えら れる。 4.2 実験結果 AHP 法を適用した結果は以下の通りである。表2の 要素対は被験者毎に一対比較値から算出した重みであ る。被験者によってそれぞれゲームを面白くする要素 の重みは大きく個人差があることが示された。被験者 1は視覚効果・聴覚効果を重視しているのに対し、被 験者3はマルチプレイを重視し、被験者7は制限時間 の設定を重視した。 2-96 クラスター分析の結果 平均 0.06 a 0.07 a 0.08 a 0.12 b 0.12 b 0.14 b c 0.17 c 0.25 d ゲーム対の総合得点 表3に各被験者に AHP を適用した後、得られた全被 験者の算術平均値と Ryan 法により多重分析した値を クラスター分析した結果を示す。A、D、B を第1群、 C、F、E を第2群、E、G を第3群、G、H を第4群と する。E は第2群と第3群とで有意差がないため、どち らにも属する結果となった。第1群と第4群より各演 出を加えた H 型と既存型である A 型との間に5%水準 で有意差が認められた。表2の最下段に示したように、 10 名の被験者の要素項目の重みの平均値は、制限時間 の設定が 0.177, 視覚と聴覚的興奮が 0.436, 「競い合う 楽しさ」が 0.387 となった。よって「視覚効果・聴覚 効果からの刺激的興奮よって得られる想像する楽しさ」 が最も高く、次いで「音声認識を用いたマルチプレイ による競い合う楽しさが楽しさ」が高かった。 「制限時 間の設定による適切な課題の設定から得られる挑戦の 楽しさ」が最も低かった。一元配置分散分析の結果、主 効果に有意差が認められた (F (2, 27) = 4.71, p < 0.05). Tukey 法による下位検定の結果、本研究の演出を加え たゲーム型と既存型の間に5%の水準で有意差が認め られた。また視覚的・聴覚的効果はゲームの演出にお いてプレイヤーに最も影響を与えるものとなった。ま た、図 2 のゲーム対の総合得点から,「制限時間の設定」 の評価は「プレイ形式」に影響していることがわかっ た。相手との適切なハンディーキャップを設定すること により、勝利の機会がどちらにも同等に与えられるた め、プレイヤーはフロー状態となり、2 点の相乗効果か ら競い合う楽しさが与えられることが示された。 5 結論 「制限時間の設定」、「視覚・聴覚効果」、「マルチプ レイ」の演出は、プレイヤーが感じるゲームの楽しさ に影響を与えることが示された。今後の課題としては マルチプレイ化において影響する要素の追加による検 証が重要とある。また協力式と対戦式の相違によるプ レイヤーの感じる楽しさへの影響を検証する必要があ る。また、協力式を検証する上で、プレイヤー同士の 役割を分割して行う演出を加える必要があると考えら れる。 参考文献 [1] 山下翼 大久保雅史 “競争相手の能力の違いが作業者に 及ぼす影響” 情報処理学会第 73 回全国大会 [2] 山下利之 “AHP によるコンピュータゲームにおける楽 しさの分析” 人間工学 35(2),79-86,1999-04-15 日本人間 工学会 [3] 村 田 和 也 笠 松 慶 子 “時 間 的 制 約 が 作 業 効 率 と 精 神 状 態 に 及 ぼ す 影 響” 人 間 工 学 Vol.42(2006) ,No.Supplement,P92-93 日本人間工学会 Copyright 2013 Information Processing Society of Japan. All Rights Reserved.