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一般財団法人 地域創造基金みやぎ
常務理事/事務局長/チーフ・プログラムオフィサー 鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)氏
PRオフィサー 志賀 恭子(しが・きょうこ)氏
地域創造基金みやぎの常務理事・事務局長の鈴木祐司さんと、PRオフィ
サーの志賀恭子さん。おふたりとも震災を機に関東から仙台へと移り住ん
だ
震災復興に取り組むNPOや団体が直面する最大の課題。それは活動資金
だろう。国内外の資金の受け皿となり、被災地の復興支援活動を加速する
ために設立された「一般財団法人 地域創造基金みやぎ」は、企業や団体、個人からの寄付を支援団体へとつなぐ重要な役割を担っ
ている。
国内外の支援金の受け皿として
たとえば、あなたが会社を設立するとしよう。開業のために銀行から資金を借り入れた
り、事業計画に関するアドバイスを中小企業診断士に仰いだりするだろう。人脈を活かして
営業活動もするはずだ。いろいろな人の協力を得て、会社と事業は立ち上がっていく。
起業とNPO。この両者は非常によく似ている。
被災地では復興を支援するさまざまなNPOや団体が生まれている。行政がコミットし、
地域にネットワークが構築されていればサポートを受けることはできるが、孤立無援ならば
活動は前進しない。NPO・団体の状況を見極めて適切かつ効果的に資金を提供し、さらに
活動を後押しするために必要なリソース(無形資産)も提供しているのが「一般財団法人
地域創造基金みやぎ(通称:さなぶりファンド)」である。
資金がどのように活用されているのかを紹介する『助成先レポート』(左)
と、さなぶりファンドが拠出者とともに作成した募集要項(中、右)
1997年から宮城県を中心に全国で活動している特定非営利活動法人 せんだい・みや
ぎNPOセンターを母体として、2011年6月20日に設立された。せんだい・みやぎNPOセンターも助成事業は行なっていたが、被害が大きいゆえ復興は5
年から10年かかると考えた。そこで、国内外の資金の受け皿となり、被災地の復興支援活動を加速するために設立されたのだ。
ちなみに、さなぶりとは東北地方で田植えの後に開かれる宴のこと。「早苗饗」と書く。手植えだったころ、自分の家族だけでは無理なのでみんなで
助け合っていた。終わると酒を酌み交わして労をねぎらい、五穀豊穣を願った。さなぶりファンドの常務理事・事務局長の鈴木祐司さんは「私たちの仕
事は、資金を提供することで五穀豊穣をもたらすことを祈るものです。結や講といった助け合いも不可欠である早苗饗は、そのイメージが重なります」と
語る。
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立体パズルのような助成事業
資金を仲介して支援団体の成長と地域の活性化を実現するためにつくられたさなぶり
ファンドは、継続が決まっている事業を含めて設立からの5年間で6億5,000万円の助成を
予定している。
寄付・資金の提供方法は大きく分けて2つある。(A)仲介型モデルと、(B)協働資金調達
モデルだ。
(A)仲介型モデルとは、寄付を希望する企業・団体(拠出者)とともにプログラムを開発し
て審査や資金の拠出を行なうもの。ごく簡単にいうと、拠出者と一緒に寄付・資金の使途を
決めたり、企業・団体の事務作業を代行する。審査も当然それに含まれる。
企業が社会貢献活動でNPOと協働する場面は増えているものの、寄付となると話は別
タコのカゴ漁を再開した南三陸町志津川の漁師を支援するために寄付を
募った「志津川タコ復興プロジェクト」
だ。「被災地を資金面で応援したい」と考えても、ノウハウがないのでどうにもならない。そ
こでさなぶりファンドが助成事業の要項づくりから手伝っている。
資金規模は比較的大きなものとなるが、無限にあるわけではないので、限られた資金をいかに分配するかが難しい。鈴木さんは「仮に5,000万円あ
るとすれば、50万円を100団体に分けるのか、それとも500万円を10団体に助成するのかは大きな違いです」と語る。
50万円を100団体に「広く薄く」助成するのか。それともNPOとしては多額となる500万円を重点的に助成するのか。その配分は極めて困難だ。「助成
事業の対象となる団体の規模や状況を鑑みて決めていくのですが、立体パズルのような難しさがあります」と鈴木さんは語る。
仲介型モデルの助成事業は4つ進行中だ。被災3県(岩手・宮城・福島・一部山形)を対象とする「ローズファンド」(拠出者=英国・ジャパンソサエ
ティ)、被災3県の親子を支援する「こども☆はぐくみファンド」(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)、福島県と福島県から県外避難している
親子を支援する、サントリー・SCJ福島子ども支援NPO助成プロジェクト「フクシマ ススム ファンド」(サントリーホールディングス株式会社×同セーブ・
ザ・チルドレン・ジャパン)、宮城県南三陸町・気仙沼市の自立的復興を支援する「三菱重工・みやぎミニファンド」(三菱重工業株式会社)。これらはさな
ぶりファンド設立から累計で2億円以上の助成を行なっている。
「顔の見える支援」を促す独自のプログラム
さなぶりファンドのもう1つの寄付・資金の提供方法は、(B)協働資金調達モデル。先に
支援する団体を決めて、一般から広く寄付を募るという財団独自の寄付プログラムだ。
「主流になりつつあるのは『顔の見える支援』です。どういう団体のどのような活動にお
金が使われるのかをきちんとお伝えして寄付を募ります」と鈴木さん。
今は「寄付を募っています」と呼びかけただけでは集まらない。そこで鈴木さんたちは、
さなぶりファンドとつながりのある企業に声をかけたり、メディアに紹介したりする。被災地
で活動している団体の代わりに、パブリシティも行なうのだ。
それが実ったのは「志津川タコ復興プロジェクト(タコプロ)」。これは南三陸町志津川で
タコのカゴ漁を再開した漁師を支援するために、エサ代の寄付を呼びかけたもの。日本経
NPOなどの団体がさなぶりファンドのサポートを受けながら共同で活動資
金を集める「あづめっちゃ」。その研修を終えた参加団体の皆さんとさなぶ
りファンドのスタッフ
済新聞の夕刊で記事の最後に電話番号を記載してもらったため、年配の方からの電話が
たくさんかかってきたという。
「世代によって情報の入手経路が違うのです。『なにかしたいと思っていたけど、やっと支援ができる。ありがとう』とご高齢の方々から言われました」
と鈴木さんは振り返る。多くの高齢者に支えられ「タコプロ」には134件/235万円が集まった。
また、被災地にどのようなニーズがあるのかを考えて行なったのが「東北のお正月を応援プロジェクト」である。2012年1月は震災のいわば喪中。
2013年1月は震災後はじめて迎える正月だった。ところが、年末年始は寂しさがより際立つ時期なのだ。
「東京で暮らしている家族や親戚が遊びに来る方がいる一方で、震災でご家族を失った方には訪ねてくる人はいない。そのうえ支援団体も活動を休
むことが多い。そこで年末年始を少しでも楽しく過ごすために資金を集めようと考えました」
2012年7月から「お年玉寄付」を募った。ポイントは「住民同士の交流が生まれること」。交流には、場所や飲食がキーになるが、それらに関わる費用
は助成がつきにくい。かといって誰かが立て替えるわけにもいかない「数万円のお金は、実は難しいのです」と鈴木さん。
「東北のお正月を応援プロジェクト」は69件/108万円を集め、8つの事業に助成。お雑煮や餅つき、鎮魂花火大会などさまざまな活動が生まれた。
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寄付は復興支援の「入り口」
2013年3月から3か月間、さなぶりファンドは「事業指定助成プログラム(通称:あづめっちゃ)」のキャンペーンを行なっている。「あづめっちゃ」とは、
NPOなど5団体がさなぶりファンドのサポートを受けながら共同で活動資金を集めるもの。被災地が抱えている課題を解決するための事業を各々が提
示して、寄付を募るのだ。「未就学児」「子ども」「若者」「中高年」「高齢者」とテーマを設定しており、寄付者は寄付する団体を選ぶことができる。
5団体に対して、さなぶりファンドは、どのように文書をまとめるのか、何を訴えるのかといった寄付を集めるときに必要なコミュニケーション・メソッドを
研修で伝える。資金調達の方法を会得することで、運営スキルの底上げを図る目的だ。また、パブリシティも5団体まとめてさなぶりファンドが行なう。寄
付の受付や決済、領収書の発行といった事務作業もサポートする。
「あづめっちゃ」には、さなぶりファンドの「私たちには寄付のチャンネルを開く責任がある」という強い意志がある。「第三者の立場からほんとうにがん
ばっている団体を伝えたい。支援した団体が成長して、被災した方々の役に立つこと。それがコミュニティ財団としての成果なのです」と鈴木さんは語
る。
助成金はパブリックマネーなので、どのように使われているか、どんな効果があるのかを伝えなければいけない。そう考える鈴木さんたちは、緻密な
活動報告書を発表し続けている。報告書作成のためにさまざまなNPOや団体を追っているが、そのたびに1人ひとりの命と暮らしを支えている現実に直
面するという。
「お金があれば一歩も二歩も前に進むのです」と鈴木さんは言う。ただし「寄付して終わり」ではない。むしろ「お金は入り口」だと鈴木さんは考えてい
る。「『私が寄付したあの団体は今どうしているかな?』と思いを馳せることで、情報と気持ちのやり取りが生まれます。寄付は、被災した方々と関わる
きっかけにもなるのです」
助成事業は限りある資金をもっとも効果的なかたちで拠出するものだ。立体パズルのような精密さが求められる。お金を扱っているので常に冷静な
のだろうかと思っていたが、鈴木さんは違った。「被災地で一生懸命活動している人たちのことを思い出す。それだけで涙が流れてしまうのです」と明か
す。
そうした熱い思いと未来を見すえる冷静な視点。相反するものを抱えつつ、被災者に寄り添う活動資金をどう調達するかという難問に、さなぶりファン
ドは日々格闘している。
2013年2月取材
(C)Tohoku-Electric Power Co.,Inc. All Rights Reserved.
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