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∼馬体から見たその特性∼
∼馬 体 から見たそ の 特 性∼ 日本中央競馬会 競走馬事故防止対策委員会 目 次 C O N T E N T S はじめに 2 世界のオールウェザートラック 3 ニューポリトラックと他の馬場の構造比較 5 馬体から見たニューポリトラック馬場 7 蹄の着地時の動きと加速度波形から分かること 8 ウッドチップ馬場との比較 9 ダート馬場との比較 ニューポリトラックと各馬場の均一性の比較 11 ニューポリトラック馬場の特徴(まとめ) 13 表紙写真協力:村田利之 1 10 はじめに ニューポリトラック馬場は、厳寒期の調教を安全に行いたいという要求から生まれたさま ざまな「オールウェザートラック」のひとつです。 「オールウェザートラック」とは、陸上競技場のトラック(走路)が、天候に左右されやすいア ンツーカーから、いつでも走りやすいウレタンなどの全天候型の人工素材に代わった時に生 まれた言葉です。 さて、ウッドチップ馬場から始まったサラブレッドのための「オールウェザートラック」の 歴史ですが、今までにさまざまな素材が生まれては消えていきました。安全性や安定性に欠け ていたり、メンテナンスの手間やコストがかかりすぎるなどがその理由でした。その中で最初 に誕生したウッドチップとともに、長く使われながら改良を繰り返してきたポリトラック系 の素材の中で、最も安全で走りやすいとされるものがニューポリトラックです。 この素材は、天候の変化や走行頭数などにかかわらず、馬場状態が安定していることから、 世界的に高い評価を得て、調教馬場用から競走馬場用へと用途が拡大しています。今回、美浦 トレーニング・センターに待望の大規模調教馬場として導入されましたが、この導入が日本の 競馬に与えるインパクトは大きいものと考えます。 競走馬総合研究所ではニューポリトラック馬場オープン時に、この馬場の馬体から見た特 性を調べるために実馬走行試験を実施しました。その結果、硬さが均一で走りやすく、グリッ プ力に富む等、他の馬場とは異なる優れた特性があることがわかりました。 このパンフレットを通じて、ニューポリトラック馬場の特性を正確に知っていただき、愛馬 の安全で有効な調教プログラム作りに活用していただければ幸いです。 2 世界のオールウ 様々な素材のオールウェザートラックが世界 イギリス フランス 3 日本 オーストラリア ェザートラック 各地の競馬場・調教施設で用いられています。 アメリカ合衆国 イギリス・リングフィールド競馬場 (ニューポリトラック) 4 ニューポリトラックと ニューポリトラック馬場 13∼ 17㎝ 5㎝ 15∼ 20㎝ ●気象条件の影響を受けにくく、 馬場状態が一定です。 ●坂路などでも流失しにくく、 安定性があります。 ●クッション性はウッドチップ並みで、 グリップ力は芝コース と同等です。 ●凹凸は出来難いが、 素材が固まり易い欠点があります。 ●降雪時には使用できなくなることがあります。 ダートコース 8∼ 8.5㎝ 20∼ 30㎝ ●日本の気象条件に適応する馬場として発展した馬場です。 ●降雨時、 降雪時でも馬場が使用できます。 ●天候により馬場状態が大きく変化する欠点があります。 20㎝ ウッドチップコース 25㎝ ●日本で最も人気のある調教馬場です。 ●クッション性、 排水性に優れ、 天候による変化が少ない馬場 です。 20㎝ ●表面に凹凸が出来易く、 滑り易い欠点があります。 矢印は、排水経路を示しています。 5 他の馬場の構造比較 走行時の跳ね上げ 走行時の蹄跡 跳ね上げは少ない はっきりとした蹄跡が残ります。 跳ね上げは多い 砂は前と後に跳んでいます。 跳ね上げは多い ウッドチップが飛び散って 蹄跡は不鮮明です。 6 馬体から見た ニューポリトラック馬場 ニューポリトラック馬場がウッドチップ馬場やダート馬場とどこが違うのか、 前肢の蹄に取り付けた加速度計を使って調べました。 前肢の蹄に装着した加速度センサー(左)および模式図(右) ニューポリトラック上を走行中の供試馬 (スピードはハロン約13秒) 7 蹄の着地時の動きと 加速度波形から分かること この装置を使うことで上のような波形が得られると同時に、図中 の①∼⑥のようなことが詳しく測定できます。これらの数値を解析 することで馬体から見た馬場の硬さばかりでなく、グリップ力、馬場 の安定性、均一性などが分かります。 8 ウッドチップ馬場との比較 1. 前後方向加速度(G) ニューポリトラック馬場 ウッドチップ馬場 2. 垂直方向加速度(G) ニューポリトラック馬場 ウッドチップ馬場 9 ダート馬場との比較 1. 前後方向加速度(G) ニューポリトラック馬場 ダート馬場 2. 垂直方向加速度(G) ニューポリトラック馬場 ダート馬場 10 ニューポリトラックと 馬場の硬さや滑り方が一定でなく、ばらついている そうした馬場は走りにくく、疲れやすい馬場といえます。そこで、ニューポリト ウッドチップおよびニューポリトラック馬場における 10完歩分のばらつき例 (同一馬の比較) ニューポリトラック馬場は、ウッドチップ馬場と比較して着地時間、一完歩 時間のばらつきが少なく、一定していて走りやすい馬場であることが分かりま した。 11 各馬場の均一性の比較 と、一歩ごとに走り方を調節する必要があります。 ラック馬場の均一性、一定性をウッドチップおよびダート馬場と比較しました。 ダートおよびニューポリトラック馬場における 10完歩分のばらつき例 (同一馬の比較) ニューポリトラック馬場は、ダート馬場と比較して着地時間、一完歩時間の ばらつきが少なく、一定していて走りやすい馬場であることが分かりました。 12 ニューポリトラック 滑る ウッドチップやダート馬場では、滑り やすく不安定なため、一完歩ごとに調 整しながら走らないといけない。 ニューポリトラック馬場では、グリッ プ力があり安定しているため、いつも 同じように楽に走れる。 楽に走れるため、 スピードの出し過ぎには注意してください。 13 馬場の特徴(まとめ) ●ニューポリトラック馬場は、 ウッドチップ馬場よりも垂直方向加速 度がすぐに小さくなることから、 安定した馬場とすることができ ます。 ●ニューポリトラック馬場は、 ダート馬場よりも一完歩時間が長い傾 向があり、 ストライド走法で走ることが分かりました。 また、 着地時 間/一完歩時間比率はニューポリトラックが短いことから、 ニュー ポリトラック馬場は走るのに必要な力を短時間で発揮できる軽い 馬場であり、 逆にダート馬場は蹄にかかる力を吸収する重い馬場 といえます。 ●ニューポリトラック馬場は、 ダート馬場よりも垂直および前後方向 加速度がすぐに小さくなることから、 安定していて、 グリップ力も ある馬場とすることができます。 ●垂直方向加速度ピーク (衝撃加速度) は、 ニューポリトラック馬場、 ウッドチップ馬場およびダート馬場でほぼ同じだったことから、 馬 場の硬さはほぼ同等といえます。 ●ニューポリトラック馬場の着地時間および一完歩時間は、 ウッド チップおよびダート馬場と比較して一定でばらつきが少なく、 均 一で走りやすい馬場であることが分かりました。 ●しかし、 ニューポリトラック馬場は、 走りやすい馬場であるために、 思っているよりもスピードが出すぎることがあります。 思いがけな い事故を避けるために、 スピードのコントロールを慎重に行う必要 があります。 森 芸、 高橋 敏之、 ニューポリトラック調査チーム 14 発行 平成20年6月 編集・発行者 日本中央競馬会 競走馬事故防止対策委員会 馬事部獣医課 東京都港区西新橋1 - 1 - 1 9 TEL.03 - 3591- 5251 印刷所 株式会社 松井 ピ・テ・オ・印刷