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6-1 古地震・津波等の史資料の収集と解析

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6-1 古地震・津波等の史資料の収集と解析
6-1 古地震・津波等の史資料の収集と解析
6-1 古地震・津波等の史資料の収集と解析
佐竹健治 (東京大学地震研究所)
2.3 史料の校訂作業
電子化した史料データについて、原史料もしくは良
質の刊本に基づき、文字や語句などの誤りを訂正する
校訂作業を行いました。日本史の専門家による校訂作
業によって不備が修正された史料データについては、
系統別に新たに分類を行いました。
1. 研究の目的
本研究業務は、現在の山形県・新潟県・長野県にお
けるひずみ集中帯で、近世(安土桃山時代~江戸時
代)以前に発生した古地震(歴史地震)や津波などに
ついて、歴史学・地質学・地震学に関係する記録の収
集と解析を目的としています。特に、江戸時代に発生し
た地震や津波などに関する史資料を収集して、地質学
や地震学の知見を踏まえて統合的に解析し、ひずみ
集中帯における歴史地震のデータベースの構築を目
指しています。
3. 地震史料データベースの作成(図 1)
本研究業務では、ひずみ集中帯で発生した歴史地
震に関するデータベースの構築を目指しており、それ
には基礎となる地震史料データベースの作成が必要で
す。そこで、電子化した地震史料の文字データや画像
データを用いて、7 つの歴史地震ごとに地震史料デー
タベースを作成しました。
2. 地震関連史料の電子化
2.1 対象とする歴史地震の選定
ひずみ集中帯で近世以前に発生した地震に関する
史料を電子化してデータベース化するために、該当す
る地震関連の史料について調査・検討を行いました。
その結果、ひずみ集中帯に震央を持つと考えられる歴
史地震のうち、信頼性の高い史料が豊富に残っている
地震を選定しました。それは以下に挙げる 7 つの歴史
地震です。
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3.1 史料本文の閲覧方法
地震史料データベースでは、それぞれの歴史地震
について、地震史料の「一覧表示」と「史料検索」がで
きるようになっています。史料本文を直接閲覧する際に
は、系統別に分類した「一覧表示」から任意の史料を
選択して本文を閲覧します。また、史料にある地名や
被 害状 況などの文 字 列 を検 索する際には、「史 料検
索」で任意の文字列を入力すると、その文字列を含む
史料と含まれる文字列の数が表示されます。そして、閲
覧したい史料を選択すると、史料本文に任意の文字列
がマーキングされて表示されます。
1714 年(正徳四年)信濃小谷地震
1751 年(寛延四年)越後高田地震
1762 年(宝暦十二年)佐渡地震
1802 年(享和二年)佐渡小木地震
1828 年(文政十一年)越後三条地震
1833 年(天保四年)庄内沖地震
1858 年(安政五年)信濃大町地震
3.2 絵画史料
このデータベースには、地震時の人々の様子や被害
状況が描かれた絵画史料の画像データも収められて
おり、PDF ファイルで閲覧できます。「懲震毖鑑」などの
絵画史料からは、文字史料だけではわからない地震被
害の具体像を視覚的に捉えることや、被害状況を面的
に把握することができます。
2.2 史料の電子化
歴史地震の史料については、『増訂大日本地震史
料』・『新収日本地震史料』・『日本の歴史地震史料拾
遺』といった既刊の地震史料集に収められています。
最初にこれらの地震史料集の電子化(XML データ化)
を行い、併せて史料の信頼性も検討しました。その過
程で、明治時代以降に発行された市町村史などにお
ける通史的叙述については、原則的に信頼性に欠ける
史資料として取り扱い、電子化の対象から除外しました。
これは、市町村史などの記述が原史料の解説や解釈
であることがほとんどであり、一次史料とは言えないため
です。また、今回はこれらの既存の地震史料だけでは
なく、新たに調査・収集した史料についても翻刻して電
子化しています。
4. 震度データベースの作成(図 2)
地震史料データベースに収められている史料データ
を用いて、1751 年越後高田地震と 1828 年越後三条地
震の被害分布図・震度分布図を作成しました。そして、
震度分布図に史料データを組み合わせて震度データ
ベースを作成しました。
4.1 震度評価に用いた史料
本研究業務では、被害が発生した村・町ごとの家屋
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倒壊率に基づいて地点別の震度を推定しています。こ
こでの家屋倒壊率は、地震発生時の村・町ごとの総家
数と、倒壊家屋数の両方が記されている史料を選び出
して、それらの記述内容から村・町ごとに算出したもの
です。村・町ごとの総家数は時代によって増減するため
に、地震発生と同時期の総家数が記されている史料が
必要です。家屋倒壊率から震度を推定するこのような
方法については、現時点では暫定的なものであり、今
後検討を重ねていく必要があります。
4.2 村・町の位置の設定
震度データベースで表示される当時の村・町の位置
(緯度・経度)については、現在の地図で表記されてい
る集落の中心には設定していません。現在の地図より
も、大正三年(1914)・同四年(1915)に陸地測量部によ
って作成された地図の方が、地震が発生した江戸時代
後期により近い時期にあたるためです。そのためここで
は、大正期の地図に表記されている集落の中心を、地
震発生時の村・町の位置として設定しています。
図 1 「史資料データベース」のページ
※7 つの歴史地震について、地震史料データベースと震度
データベースの閲覧が選択できます。
4.3 情報の表示方法
震度データベースの基本地図には、汎用性の高い
Google Earth を使用しています。震度を推定した村・町
については、震度ごとに丸印の色を変えており、任意の
丸印を選択すると画面上に別の窓が表示されます。そ
の窓には、当時の村・町の名称・現在の地名・推定震
度・家屋倒壊率・典拠となった史料名・史料本文が表
示されます。そのため、地点ごとの推定震度だけではな
く、その震度を導き出す基になった家屋倒壊率や、家
屋倒壊率を算出する際に用いた史料名や史料本文が
閲覧できるようになっています。
また、Google Earth を使用しているために、視点を変
えると立体的に表示できます。視点を斜め上方に変え
ると、村・町ごとの家屋倒壊率については棒グラフの高
さで、地点ごとの推定震度については棒グラフの色で
表示されます。
図 2 1828 年越後三条地震の震度データベースの画面
(棒グラフ表示)
※震度を推定する基になった史料名や史料本文が別の窓で、
家屋倒壊率が棒グラフで表示されます。
5. ひずみ集中帯歴史地震データベースの構築
ひずみ集中帯で発生した 7 つの歴史地震について、
文字データと画像データから成る地震史料データベー
スを作成し、震度データベースと組み合わせて、「ひず
み集中帯歴史地震データベース」を構築しました。
本研究業務で構築した「ひずみ集中帯歴史地震デ
ータベース」は、すでに公開されている「[古代・中世]
地震・噴火史料データベース(β 版)」を継承するものに
位置付けられます。本研究業務の終了と同時にこのデ
ータベースは公開される予定です。今後は、本研究業
務で構築した歴史地震データベースを基にして、他の
地域についても同様なデータベースの構築が進展する
ことを期待しています。
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