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TMI 中国最新法令情報
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TMI 中国最新法令情報
―(2011 年 10 月号)―
TMI 総合法律事務所
〒106-6123 東京都港区六本木 6-10-1
六本木ヒルズ森タワー23 階
TEL: +81-(0)3-6438-5511
FAX: +81-(0)3-6438-5522
E-mail: [email protected]
〒200031 上海市淮海中路 1045 号
淮海国際広場 2606 室
TEL: +86-(0)21-5465-2233
FAX: +86-(0)21-5465-5745
E-mail: [email protected]
皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。なお、バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきま
すので、併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/office/china/index.html)
目次 ***************************
一.中国最新法令
1.主な中央法令
(1) 納税者の資産再編における営業税に関する問題についての公告
(2) 中華人民共和国資源税暫定条例
(3) 財政部、商務部、税関総署及び国家税務総局による研究開発機構の設備購入税収政策
の継続実施に関する通知
(4) 商務部によるクロスボーダー人民元建て直接投資の関連問題に関する通知
(5) 外商直接投資人民元建て決済業務の管理弁法
(6) 財政部、国家税務総局によるソフトウェア製品の増値税政策に関する通知
二.特集・中国知財紛争の現状と対策
三.上海法務事情
外国人に対する社会保険の適用問題について
1
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一.中国最新法令(2011 年 9 月中旬~10 月中旬公布分)*****
1.主な中央法令
(1) 納税者の資産再編における営業税関連問題に関する公告 1
国家税務総局 2011 年 9 月 26 日公布
①
同年 10 月 1 日施行
背景
資産再編(資産譲渡による組織再編)に対する流通税(増値税・営業税)の取り扱い
は、以前から争いのある分野であった。「国家税務総局の企業財産権の一括譲渡に対し
て営業税を徴収しない問題への回答」
(国税函[2002]165 号)と「国家税務総局の企業財
産権の一括譲渡に対して増値税を徴収しない問題への回答」
(国税函[2002]420 号)によ
り、企業財産権の譲渡に対して、流通税を徴収しないこととされた。但し、一部の資産
及び関連する債権・債務の譲渡については、依然として、流通税の徴収対象とされてい
た。
今年 2 月の国家税務総局の公告([2011]13 号)により、資産及びその関連する債権・
債務の譲渡(資産の全体又は一部を問わず)について、増値税を徴収しないことが決定
され、その後、営業税についても同じ趣旨の公告が期待されていた。
②
主な内容
資産及びその関連する債権・債務の譲渡(資産の全体又は一部を問わず)は、営業税
の徴収範囲に属さず、取引に係る不動産、土地使用権の譲渡について営業税を徴収しな
い。
(2) 中華人民共和国資源税暫定条例 2
国務院 2011 年 9 月 30 日公布
①
1994 年 1 月 1 日施行
主な内容
今回の改正により、資源税の徴収比率が大幅に改定され、コークスとレアアースが新
たな種類として挙げられ、その税率が定められた。なお、原油及び天然ガスに関して、
従来の採掘量に基づき資源税額を決定する方式から採掘後の売上に基づき税額を決定
する方式に変更された点に、注目が集まっている。
今回の改正後の資源税の徴収率は下表の通りである。
税
2
税
率
一、原油
売上額の 5%-10%
二、天然ガス
売上額の 5%-10%
三、石炭
1
目
コークス
1 トンにつき 8-20 元
《关于纳税人资产重组有关营业税问题的公告》(国家税务总局 2011 年第 51 号)
《中华人民共和国资源税暂行条例》(国务院令第 605 号)
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その他の石炭
通常非金属鉱原鉱
四、その他の非金属鉱原鉱
貴重非金属鉱原鉱
五、黒色金属鉱原鉱
1 トン又は 1 立方メートル
につき 0.5-20 元
1 キログラム又は 1 カラッ
トにつき 0.5-20 元
1 トンにつき 2-30 元
レアアース鉱
六、有色金属鉱原鉱
1 トンにつき 0.3-5 元
その他の有色金属
鉱原鉱
1 トンにつき 0.4-60 元
1 トンにつき 0.4-30 元
固体塩
1 トンにつき 10-60 元
液体塩
1 トンにつき 2-10 元
七、塩
(3) 財政部、商務部、税関総署及び国家税務総局による研究開発機構の設備購入税収政
策の継続実施に関する通知 3
財政部、商務部、税関総署及び国家税務総局 2011 年 10 月 10 日公布
同年 1 月 1 日
施行
①
背景
研究開発機構の設備購入に係る税務優遇政策として、財政部、税関総署と国家税務総
局は 2007 年に「研究開発用品の輸入税徴収免除暫定規定」([2007]第 44 号令)、2009
年に「財政部、税関総署、国家税務総局による研究開発機構の設備購入税収政策に関す
る通知」(財税[2009]115 号文)を相次いで公布・施行し、外資の研究開発機関による科
学技術開発設備の輸入に係る輸入税が免除された。これらの政策の期限が 2010 年末に
切れたため、今回の新通知の公布により、当該政策の実施が 2015 年末まで延長される
ことになった。
②
主な内容
上記の外資の研究開発機構による科学技術開発設備の輸入に係る輸入税の免除期間
を 2015 年まで延長する。但し、従来通り、一定規模(投資総額、研究開発人員等)以
上の研究開発機構しか、輸入税免除の優遇措置を受けることができない。
その他、今回の新通知公布によって、商務部が主管部門に追加されたため、通知にお
ける「投資総額」、「研究開発総投資」等の定義も詳細に規定された。
3
《财政部、商务部、海关总署、国家税务总局关于继续执行研发机构采购设备税收政策的通知》
(财税[2011]88
号)
3
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(4) 商務部によるクロスボーダー人民元建て直接投資の関連問題に関する通知4
商務部 2011 年 10 月 12 日公布
①
同日施行
背景
2009 年、中国国務院の批准によって、上海や広東省の広州、深圳、珠海と東莞の 4
都市で貿易取引での人民元建て決済が試行され、これが人民元の国際化の第一歩となっ
た。その後、試行範囲は、2010 年には北京、内蒙古、広西チワン族自治区、海南、チ
ベットなど 18 の省と自治区に、2011 年には全国に拡大すると共に、海外適用範囲も全
ての国と地域にまで拡大した。貿易取引での人民元建て決済は順調に進み、人民元で決
済する企業と銀行が増える傾向にあった。人民元建て決済の貿易取引はまだ中国の貿易
全体のわずか 7%、世界の貿易全体のわずか 2%にすぎないが、中国経済全体の規模か
ら見れば、莫大な規模になった。今年の第 2 四半期には、すでに 6,000 億元相当の国際
貿易の決済に人民元が使われた。
貿易取引において、人民元建てで決済することはできるが、人民元建ての対中直接投
資はこれまでずっと禁止されていた。よって、外国企業にとっては、貿易取引での人民
元建て決済により人民元を入手したとしても、またその資金を中国に戻すことが難しい
ため、人民元の更なる国際化の障害にもなると言われている。
このような背景の下、2011 年 10 月に商務部が「クロスボーダー人民元建て直接投資
の関連問題に関する通知」、中国人民銀行が「外商直接投資人民元建て決済業務の管理
弁法」をそれぞれ発布し、人民元の大陸部への還流を支える制度が打ち立てられたこと
になる。本通知により、海外から中国への人民元建て直接投資が解禁され、人民元の国
際化と資本プロジェクトの開放に向けての重要な一歩となった。
②
主な内容
まず、クロスボーダー人民元の内容について、詳細に定義された。具体的には、クロ
スボーダー人民元として、①外国投資者がクロスボーダー貿易での人民元建て決済によ
り取得する人民元、②中国国内で投資した外資系企業から取得し、海外に送金した人民
元建て利益及び株式譲渡、減資、清算、先行投資回収で取得した人民元、及び③外国投
資家が中国国外で合法的に取得した人民元(中国国外で発行された人民元建て債券又は
株式などで得た人民元を含むが、これに限らない)の三種類が挙げられている。
クロスボーダー人民元建ての対中直接投資の対象については、一定の制限が設けられ、
有価証券、金融デリバティブへの直接・間接投資及び委託貸付は人民元建て直接投資の
対象外となる。
また、クロスボーダー人民元建ての直接投資は商務部により管理される。外国投資者
が人民元建てで直接投資する際、通常の外商投資審査手続における提出書類以外に、人
民元資金の出所証明又は説明書類、資金使途説明、所定書式の「クロスボーダー人民元
直接投資状況表」を提出しなければならない。
資金出所の説明義務が課されるほか、3 億人民元以上の人民元建て直接投資やファイ
ナンスリース、投資性公司などについては、商務部門による審査が義務付けられる。こ
4
《商务部关于跨境人民币直接投资有关问题的通知》(商资函(2011 年)第 889 号)
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れらの規制から見れば、クロスボーダー人民元建ての直接投資については、外貨建て投
資と比べ、若干高いハードルを設けたものと思われる。
(5) 外商直接投資人民元建て決済業務の管理弁法 5
中国人民銀行 2011 年 10 月 13 日公布
①
同日施行
背景
上述のように、人民元の国際化の一環として、外国投資者による人民元建て投資が解
禁されることになったが、その前に、中国人民銀行が今年 6 月に施行した「クロスボー
ダー人民元業務に関する問題の明確化についての通達」(銀発[2011 年]145 号)に従っ
て、個別認可された直接投資案件について、中国人民銀行での個別審査手続が行われる
ようになった。今回の人民元建て直接投資の正式解禁に伴い、中国人民銀行での許認可
手続の簡素化を図って、本弁法が公布された。
但し、商務部・中国人民銀行の通知・管理弁法の施行により、人民元建ての外商直接
投資について、大きな障害がなくなった一方、外貨管理局での手続など、まだ明確にな
っていない点も残っているため、関係当局による更なる説明が期待される。
②
内容
本弁法により、外商直接投資に係る人民元建て決済業務の手続が規定された。
外国投資者が外商直接投資に係る人民元建て決済業務を行う場合、中国の銀行で国外
機関の人民元銀行決済口座の開設を申請することができる。このうち、投資プロジェク
トに関連する人民元建ての前期費用資金は、人民元建て前期費用専用預金口座を開設し
て預け入れなければならず、利益分配、清算、減資、持分譲渡及び投資先行回収等によ
り取得して国内再投資に使用する人民元資金は、人民元建て再投資専用預金口座を開設
して預け入れなければならない。これらの口座において現金での受取、支払業務を取り
扱ってはならない。
また、外国投資者が人民元建てで企業を合併・買収する場合、合併・買収される国内
企業の中国側出資者は、人民元建て合併・買収専用預金口座を開設し、外国投資者は、
当該口座に合併・買収対価を入金しなければならず、入金後、外商投資企業の関係規定
に基づき、会計事務所に委託して、国外投資者が払い込んだ登録資本金又は持分買収対
価に対して、出資払込検査を行わなければならない。
その他、本弁法では、国外投資者が中国での投資で得た人民元利益を自国に送金する
際の手続についても規定された。
(6) 財政部、国家税務総局によるソフトウェア製品の増値税政策に関する通知6
財政部、国家税務総局 2011 年 10 月 13 日公布
①
同年 1 月 1 日施行
背景
従来、ソフトウェア産業は、推進産業として税制面等多数の優遇措置を受けている。
5
6
《外商直接投资人民币结算业务管理办法》(中国人民银行公告[2011]第 23 号)
《财政部、国际税务总局关于软件产品增值税政策的通知》(财税[2011]100 号)
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遡ってみると、2000 年に「財政部、国家税務総局及び税関総署によるソフトウェア産
業及び集積回路産業の発展を奨励する税制政策に関する通知」が公布・施行され、企業
が自ら開発したソフトウェアについて、17%の増値税を徴収した後、その増値税の実際
の税負担が 3%を超える部分を企業に還付するとの政策が続いてきたが、かかる政策の
実施は 2010 年末をもって一旦終了した。その後、今年 2 月に中国国家発展開発委員会
は「ソフトウェア産業及び集積回路産業の発展を更に奨励するための若干の政策」によ
り優遇措置を継続する方針を打ち出し、この中国国家発展開発委員会による新政策の具
体施策として、本通知が公布された。
②
内容
税率については、企業が自ら開発したソフトウェアを販売する際、17%の増値税を徴
収した後、その増値税の実際の税負担が 3%を超える部分を企業に還付する。
また、自主開発行為の定義についても明確にされており、企業が自ら開発したソフト
ウェアは当然適用対象となるが、輸入したソフトウェアをローカライズしたものも適用
対象となる。但し、単純な中国語訳作業はローカライズに含まないと明確に定められた。
適用されるソフトウェア製品の範囲については、①省レベルのソフトウェア産業主管
部門により認可された検査機構が発行する検査証明証、又は②ソフトウェア主管部門が
発行する「ソフトウェア製品登録証書」若しくは著作権行政管理部門が発行する「コン
ピュータソフトウェア著作権登録証書」のいずれかを有する製品に限定された。
さらに、具体的な実施細則として、ソフトウェアの種類ごとに、還付する税額の計算
方法も規定されている。
(彭涛、鍾雪垠・中国弁護士)
二.特集・中国知財紛争の現状と対策**************
1.知財紛争の変質
従来、日本企業に関わる中国の知的財産紛争といえば、模造品を製造・販売する中国企業
に対する知的財産権侵害訴訟が中心であった。ところが、中国企業による研究開発の急速な
活発化に伴って、近時は中国企業が外国企業を知的財産権侵害で訴えるケースが増加してお
り、中には大型訴訟で外国企業が敗訴する事例も珍しくない。本稿では、中国知財紛争をめ
ぐる現状を紹介するとともに、日本企業が巻き込まれた際の対策について検討してみたい。
2.中国企業による特許出願件数の急増
2010 年に中国国内で受理された特許出願件数は 39.1 万件(中国国内発明の出願比率は
74.9%)であり、前年より 24.1%も増加している7。
また、中国企業による国際特許出願も急増しており、国別の 2010 年の国際特許出願(PCT)
の出願数で、中国の出願件数は、前年比 56.2%増の 12,337 件に達し、韓国を抜いて世界第
7
中国产业经济信息网 http://www.cinic.org.cn/site951/tjsj/2011-01-19/448772.shtml
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4 位となった(なお、1 位は米国、2 位は日本、3 位はドイツ)。
企業別に見ても、2010 年の PCT 出願数で、名だたる海外の有名企業に肩を並べて、中国
企業が 2 位と 4 位にランクインしている8。
1
パナソニック(日本)
2154 件
2
ZTE(中興通訊)
1863 件
3
クアルコム(米国)
1677 件
4
Huawei Technologies(華為技術) 1528 件
5
フィリップス(オランダ)
1435 件
3.中国企業 VS 外国企業間の知財紛争
上記のデータから、中国企業による積極的な知的財産権獲得の姿勢が伺えよう。近時は、
外国企業に匹敵する有力な特許を取得した中国企業が、当該知的財産権に基づいて外国企業
に対して権利を行使する事例も少なくない。
たとえば、日本企業が中国企業に訴えられ、敗訴した知財訴訟としては、武漢晶源 (中
国)VS 富士化水(日本)の事案 9が記憶に新しい。本件では、海水を利用した火力発電所
の脱硫装置(曝気法海水煙気脱硫方法及び曝気装置)に関する特許をめぐって権利侵害の有
無が争われ、2009 年 12 月 21 日、最高人民法院は被告である富士化水と中国企業(華陽電
業)に対し、5061.24 万元(約 6 億 6000 万円)を共同で賠償することを命じる判決を下し
た。
また、日本以外の外国企業も特許訴訟のターゲットとなっており、たとえば正泰集団(温
州市及び浙江省の重点企業)が、シュナイダーエレクトリック社(フランス企業)の中国天
津にある合弁会社「施耐徳」
(Schneider の中国語表記)が生産する小型電気ブレーカーにつ
いて、実用新案特許権 10侵害であると訴えた訴訟においては、温州市中級人民法院、浙江省
高級人民法院における訴訟、北京市高級人民法院における無効宣告請求審査決定の審決取消
訴訟における審理・判決を経て、ついには 2009 年 4 月 15 日、シュナイダー側が正泰に 1.575
億人民元(約 23 億円)を支払うことで和解が成立した旨が報道されている11。
4.知財紛争への対策
(1) 訴状の送達に関するポイント
ある日突然、中国企業から訴えられた場合に何に注意すべきであろうか。自社が訴えら
れた事実は、通常、訴状を受け取ることによって知らされるが、訴状の送達に関しては、
以下のポイントに注意すべきである。
①
原告(中国企業)は、日本企業が中国国内に設立した代表機構(駐在員事務所)に対
特許庁(日本)2011 年年報 http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2011/honpen/1-1.pdf
http://www.istis.sh.cn/list/list.aspx?id=6478
10
中国法においては、発明、実用新案(实用新型)及び意匠(外观设计)が全て特許権(专利权)の類型
の一つと扱われ、いずれも特許法(专利法)で規定されている。
11
http://tech.sina.com.cn/it/2009-04-17/15293013686.shtml
8
9
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して、中国国内で訴状を送達することが可能である12。
②
日本国内の日本企業の所在地に直接、郵便で訴状が届く可能性もある(日本は「送達
条約」13に加盟しており、かつ郵便送達を拒否する宣言をしていないため)。このため、
中国語の書面が届いた場合には、直ちに関連部署に届け出るよう、社内体制を予め構
築しておくことが必要である。
③
管轄のない人民法院(たとえば、被告の代表機関の所在地もなく、権利侵害行為地で
もない地方の人民法院等)に対して訴えが提起された場合、被告は答弁書提出期間(原
則 15 日以内14、住所が国内に無い場合は 30 日以内15)に限り、管轄異議の申立てがで
きる16。
④ 重要な裁判書類であることを認識しないまま、答弁書提出期間を徒過してしまうと管
轄異議の申立てができなくなる。また、訴状と同時に人民法院から証拠提出期間等を
指定する挙証通知書 17が送付されてくるため、期間徒過により一切の証拠提出が許され
なくなるおそれがある 18。
(2) 訴訟上の対応方法に関するポイント
不幸にも中国企業から知的財産権を侵害したとして訴えられた場合、日本企業としては、
法廷において十分な主張・立証を行うことによって、原告の棄却(被告勝訴)や、認容さ
れる損害賠償額の減額を目指すことになろう。それ以外に注意すべきポイントとして、以
下のものが挙げられる。
①
被告は、人民法院における特許侵害訴訟においては特許無効の抗弁を主張することが
できず、別途「専利復審委員会」に対する特許の無効宣告請求19を提起しなければなら
ない(この点、日本の制度と異なるため、注意が必要である)。無効宣告請求により、
人民法院が特許権侵害訴訟の審理を中断する可能性があり、この中断によって、証拠
を準備するための時間を稼ぐことが可能である。
②
訴訟上の抗弁としては、
「公知技術の抗弁」
(被告の実施する技術が、原告特許の出願
前からの公知技術である旨の被告からの主張)、
「先使用の抗弁」
(被告は、当該技術を
原告特許の出願前から実施していたから、引き続き実施する権利を有する旨の被告か
らの主張)等を主張することが可能である。
③
特許権者の許可を受けずに製造されかつ販売された特許権侵害製品であることを知
らずに、生産及び営業の目的で使用、販売し、当該製品の合法的な供給源を証明でき
12
中国民事訴訟法 245 条第 5 号
「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」
(昭和 45 年
6 月 5 日・条約第 7 号)
14
中国民事訴訟法 113 条 1 項
15
同 246 条
16
同 38 条
17
最高人民法院による民事訴訟の証拠に関する若干規定《最高人民法院关于民事诉讼证据的若干规定》第
33 条
18
中国民事訴訟法上「答弁書提出期間以内に答弁書を提出しなくても人民法院の審理に影響はない」(113
条 2 項)旨の規定があるが、上記のような各種不利益を被るおそれに注意すべきである。
19
中国特許法 45 条以下
13
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る場合は、賠償責任を負わない 20。
5.終わりに(紛争予防のポイント)
以上、中国の知財紛争を取り巻く現状と、中国企業から訴えられた場合の対応方法につい
て述べてきたが、貴社が重大な知財紛争に巻き込まれないように、普段から、自社の実施す
る技術が他社の知的財産権を侵害していないかどうかを国家知識産権局 21 のデータベース
を利用してチェックしておくべきであろう。
また、中国の知的財産制度、訴訟制度の理解に努めるとともに、中国の知的財産権に詳し
く、現地における迅速な調査・対応が可能な専門家(法律事務所・特許事務所)に、いつで
も依頼できる体制を確立しておくことも不可欠である。
さらに、本稿でも述べたように、中国の制度上、一定期間の経過によって有効な防御手段
が取りえなくなる可能性もあるため、実際に訴えられた場合には、一刻も早く専門家に相談
して適切な対応を採ることが肝要である。
(野中信孝・弁護士)
三.上海法務事情 **********************
外国人に対する社会保険の適用問題について
先月号にて紹介したとおり、7 月 1 日施行の「社会保険法」に基づく「中国国内で就業す
る外国人の社会保険への加入に関する暫定弁法」22が、本年 10 月 15 日に施行された。
実際に各地において外国人が社会保険加入手続を行うために必要な地方法規は、本来であ
れば国の規定である同弁法の施行(10 月 15 日)までに制定されるべきであるが、上海市で
は、10 月 31 日現在、まだ規定が制定・公布されていない。
国の人力資源社会保障部が 10 月 24 日に公表した記者会見では、外国人就業者に社会保険
への加入を求める趣旨は、国際条約と国際慣習に従い、外国人にも社会保障について、就業
国における国民待遇を与えるものであるとの原則論が紹介された。そして、外国人が自国と
中国とで二重に社会保険に加入せざるを得ない問題については、社会保障協定により解決す
るほかないとの見解が示された。同記者会見によれば、中国は 2001 年にドイツと、2003 年
に韓国とそれぞれ社会保険協定を締結し、これに基づき、中国政府は、ドイツ、韓国に赴任
する中国人のためにそれぞれ 7500 通、3200 通の証明書を発行し、他方、中国政府は、ドイ
ツ、韓国から中国に赴任する各国人のための、それぞれ 4500 通、2000 通の証明書を受領し
たとのことである23。
外国人の間では、社会保険の強制加入制は、負担が増えるのみで、実際にメリットが少な
20
中国特許法 70 条
http://www.sipo.gov.cn/
22
《在中国境内就业的外国人参加社会保险暂行办法》(人力资源和社会保障部令第 16 号)
23
人力資源社会保障部のウェブサイト
http://www.mohrss.gov.cn/page.do?pa=402880202405002801240882b84702d7&guid=24facf0f516a46f7846182ab22
882af5&og=4028802023e4c2330123e9a140f60ad7
21
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いので頗る不評(数年すれば本国に戻るので養老保険を払っても受給の機会がない、医療保
険があっても外国人向けの医療機関では使えない等)である。外国人就業証を有する外国人
は 23 万人を超えるとされ24、社会保険料の増収を狙った政策だと勘繰る向きもある。また、
地方の規定が出るまでは、事実上、加入・納付ができないので、現状のまま猶予されればよ
いという淡い期待も持たれている。しかし、国の法令が既に施行されているうえ、外国人の
社会保障について国民待遇を行うこと自体は正論であるため、早晩強制加入制が実施される
のは、不可避であると思われる。
そこで、二重加入等の不都合を根本的に解決するためには、社会保障協定の早期締結しか
ない。日本は、既に 15 か国(欧米諸国のほか、韓国が含まれる)と社会保障協定を締結して
いるが、本年 10 月より、中国と社会保障協定に向けた交渉を開始している25。ただ、協定の
締結・発効までには、2 年くらいはかかるのではないかとも言われている。社会保障協定の
一般的内容としては、まず、二重加入を防ぐため、滞在 5 年以内の見込みの場合には自国の
法令のみを適用し、5 年を超える見込みの場合には、相手国の法令を適用する点が挙げられ
る。また、保険期間の通算が行われ、両国での加入期間を通算して、年金受給に最低必要と
される期間以上となれば、それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金が、それぞれの国
から受けられる。
中国では、内外差別の撤廃を求める WTO への加盟(2001 年 12 月)を機に、外資への規制
が徐々に緩和されてきたが、その一方で、近年、企業所得税の統一的賦課、付加税の徴収開
始等、外資に対する優遇も撤廃されてきた。ここにきて、社会保険への強制加入という問題
が生じたが、建前としては外国人の人権保障を趣旨とするも、効果としては加入免除の撤廃
という結果になっている。これは、中国が「普通の国」になりつつある中で、歴史的な必然
といえるのかもしれない。
(山根基宏・弁護士)
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏・弁護士
編集協力:王嶺・弁護士、葉雋宜・パラリーガル
24
「人民日報」2011 年 10 月 25 日 3 ページ
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2011-10/25/nw.D110000renmrb_20111025_8-03.htm
25
厚生労働省のウェブサイト http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/shakaihoshou.html
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